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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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ごちゃごちゃでぐちゃぐちゃ

 選べばない……選ばせれない僕達の前に、また一人厄介な奴が現れる。シクラと同じ存在であと数人はいるらしい柊だ。奴は現れて早々辛辣な言葉を僕に浴びせる。

 だけどこんな所で諦めて何か居られない。だから僕も必死に反撃をした。けれど僕達のそんなやり取りで一番ダメージを受けていたのはセツリ本人だった。

 僕達はそれぞれの場所で、セツリの居場所を否定してたんだ。


「ひ……一人に何かさせないさ」


 弱々しい。自分でもそう思う声がこの箱庭に微かに響く。それは言わなければいけないことで、出なきゃセツリは向こうに取られる。

 どこまでが救いや助けなんて分からない……けど、それを目指す事は今の僕にだって出来るはずだ。そう思って、必死に絞り出した言葉の筈だった。

 だけどそんなひ弱な声は、直ぐに新たに現れた声によって否定される事になる。


「何が一人に何てさせないなのかしら? 貴方の今のその言葉にどれだけの重みと信頼が出来るの? 絶対に……が足りてないわよ」


 僕は目を見張った。言葉にもだけど、その現れようにもだ。何で……一体そんな所から? って場所に柊、奴は居た。

 僕の様子を見て取ってキョロキョロと辺りを見回して居たセツリもそれに気付く。そしてそのセツリの視線のやりようで僕の後ろ側に居たリルレット達も気付いた様だ。


「ヒイちゃん……湖を歩いてる」


 まさにその通りだ。呟いたセツリの先には光を水面で反射する湖の上を、さも当然の様に歩いている柊が見える。本当に信じられない事をやる奴らだな。

 当然後ろのリルレット達もざわついてる。微かな波紋を水面に作りながら、奴は湖畔のテラスのこの場所に真っ直ぐ歩いてきてる。


「絶対に……なんて分かるかよ。けれど出来る限りの事はやりたいし、それにさっきからお前達の言う事は飛躍し過ぎなんだよ!」


 一生とかそんなの分かるわけ無いじゃないか。いつか一人になんて、それが本当に悪い事なのかよ。向こうでもセツリがずっと僕と居てくれる保証なんて、僕にだって出来ないじゃないか。


「そんなのだから、リアルは人は……彼女にとって辛い場所なのよ。貴方は考えたことある? 不覚定な未来を選べる人達の愚かさを」

「それの何が愚かなんだよ。未来なんて大抵不覚定だろ。運命が僕らを支配してたとしても、それが見える訳じゃないんだ。

 だれだって一分一秒の未来を手探りで進んでる。それは自分自身で今より先の自分が幸せであれる様に足掻いてるからだ! だからそれをやめる事は、生きることを諦める事と同義だろ」


 諦めて欲しくないから、未来へと進んで欲しいと思う。そう、それはセツリもだ。ここじゃセツリの未来はもう長くない。

 三年という時間は元々弱い体を限界に近づけてる筈だ。魂の無い器……それはプレイヤーモドキ達の時に思った事だけど、リアルで眠り続けるセツリはまさにずっとそんな状態じゃないのか。

 セツリの意識……魂は今目の前に居る。居続けてる。もうここに根を張りだしてる。それは僕のせいかも知れないが、でもだからって器を無くした時、魂だけがLROに残り続ける何て考えられない。

 つまりはセツリがここを選ぶって事は明日を諦めてるって事じゃないか。


 柊はゆっくりとした歩調でようやくテラスに足を踏み入れた。コツン……と初めの一踏みがやけに大きく際だって聞こえた気がする。

 多分それは僕達が奴に注目してたからそう感じただけかも知れない。でもその存在感は、近くに来て異様に増した気がする。

 結構な割合でニコニコとぼけてるシクラとは違って、柊は周りに張りつめた様な空気を作り出してる感じなんだ。だからそのせいもあるな。


 力強い事を言ったつもりだが、ゴクリと唾を飲み込んでしまう。そしてセツリに近づいた柊は初めて見せる優しい笑顔で、その涙を掬った。

 外見的に柊の方が幼く見えるが、頼りない姉を慕う妹の様な暖かさがそこにはあった。


「泣きたくもなりますね。スオウは何も分かってないんだから。愚かな人間の一人ですよ。もうあの人と関わるのはやめてください。私たちが居ますから」


 優しく心温まりそうな光景でも聞こえて来る言葉は辛辣だった。あいつは僕の言葉を聞いて無かったのか? ちゃんとしたこと言っただろうが。

 柊の言葉を受けてこちらに寂しげな目を向けるセツリ。そんなセツリを取り戻す為にも言葉を繋げないといけない。

 結局はセツリが本気で戻りたいと思わせられなきゃ、僕達はこいつらに勝なんて出来ないと思うんだ。


「ふざけるなよお前等! 何が分かってないだよ。セツリも、そいつ等の言うことは全部正しいのか!?」

「わた……しはね」


 言葉を探すようにセツリは視線を巡らせる。僕、シクラ、柊へと。けれど言葉はなかなか出てこない。その時先に柊が僕を睨み付けて口を開く。


「だから、そんな事を言ってる時点でアンタは何もセツリの事を分かってない。愚かな人間。この子の前で気安く未来を選ぶなんて言わないでよ。

 初めから終わりまで、決まった場所で選択なんてない人生だってあるの。アンタ達が愚かでも愚鈍でも、不覚定な未来を選べるのは光を知ってるから……だからアンタ達は分からない未来を選んでいける。幾ら愚かでも」


 なんだコイツ? 愚か愚か言ってるけど、そんな僕達を疎ましく思ってるって事なんだろうか? 何だかそんな気がする言葉だったような。

 そしてそれは暗にこう言っていたんじゃないか。


「セツリにはそれが出来ないとでも言う気かよ」


 その言葉を聞いてセツリの肩は少し揺れたかも知れない。そしてシクラに抱かれるセツリを一瞬見て、柊が言い放つ。


「出来ないわ。だってセツリは光を知らないもの。言ったじゃない、リアルの事で思い出すのは辛いことばかり。そんなリアルに、愚かな選択に希望を信じて戻るなんて事は出来ないわ」


 柊の言葉が痛く胸に突き刺さる。それはそうなのかも知れない。セツリの境遇は決して恵まれてるなんて言えない。ずっと病院で過ごして、肉親はただ一人。友達も居ずに、ていうか学校にさえ行ったこと無いんじゃないか。

 そんなセツリだからこそ、リアルで思い出すことは辛い日々だけ……確かにそれじゃあ未来に希望を見る事なんて出来ないかも知れない。

 どこかでセツリは、もうずっと諦めてるのかも。


「けど……それじゃあお前等は確実にセツリを幸せに出来るとでも言うのかよ」

「出来るわ。だってここはこの子の世界。そして私達が居れば出来ない事なんて無いもの。ここにはセツリが欲しがった物全部が詰め込まれてる。

 つまりここに居ることがセツリの幸せ。そう思ったからこそ、三年前にあれをやったんだもの……ね」


 そう言って柊はセツリに目を向ける。同意を求めるように。その視線に、言葉に、セツリは何を言う気だろう。少しづつ開いていくピンク色した唇。

 けれどあまり良い想像は出来ない。あんな辛そうな顔をされたらさ。だから僕はセツリが声を発する前に言葉を紡ぐ。

 このまま素直に認めさせちゃいけないんだ。


「だけどそれは間違いだったんだ。確かにLROはセツリの望んだ世界そのものかも知れない。ここなら体も動くし、冒険だって出来る。

 仲間だって長くいれば出来るだろう。けど、ここは誰もが願う仮想なんだ結局。それはセツリにとってもそうなんじゃないか? ここで育んだ友情や絆が幻だなんて言わないけど、本当にそれを実感できるのはリアルがあるからだ。

 だからここは全部を確かにくれるかも知れないけど、セツリは小さな不安をずっと抱える事になる。本当の光を、友情とかを知らないセツリが仮想をどこまで信じれる? きっとそうなる。それでもここにいれば幸せか? いや、居続ければか」


 僕の言葉に今度は柊が初めてちょっと苦い顔をした。コイツの言葉を使ったのが効いたのかも知れないな。それに仮想だからこその不安ってのはぬぐい去れない物なのは本当だろう。

 だってここじゃ大多数の人が分厚い仮面を被ってる様な物だ。姿形は勿論、リアルでは出来得ない自分を演じてる人達だって沢山居るって聞く。

 まあある意味さらけ出しでもあるんだろうけど、近くなるに連れてどうしても思う事がある。どんな人なんだろうってさ。

 けれどここに居続けるなら越えられない壁がある。仮想と現実の壁。その世界で別々の人とでも認識すれば良いんだろうが、そんな風に割り切れるかが問題だ。

 僕は柊を飛び越えてセツリに視線を向ける。柊を封じてもセツリがそれを納得しないと意味ないからな。そして僕の視線にセツリは迷ってる。そして絞り出した言葉は予想外な物だった。



「そんな事言われたら……私はどこにも居ちゃいけないって事なのかな?」



「お前……なんでそうなる!?」


 自虐にも程あるぞ。でもグチャグチャグチャグチャしていたであろうセツリの前でどっちがどっちだとか言い過ぎてたのかも知れない。

 僕達は互いの為にリアルへ、仮想へと言っていたけど、その度にそれじゃダメ、何がいけないとか……追いつめてたのはセツリ自身だったんだ。


「だって! だって! リアルに戻るのはやっぱり怖いよ! それはどうしても消えない。最初会ったときに言ったよね、私は自分が嫌いだって。桜矢摂理が嫌いだって。

 でも今はそれだけじゃなくて……シクラやヒイちゃんが言ったように私が……ううん『桜矢摂理』って言う役立たずでダメな子が……スオウに捨てられるのがとっても怖いの!」


 セツリの瞳から再び大粒の涙が流れ出る。そして震える肩はその恐怖の大きさを物語っている様だ。そういえばそうだった気がする。

 最初にセツリに会ったあの日。僕がLROを始めた日。アギトからの情報で僕はまだ名前も分からなかったセツリにこう聞いた。


【桜矢摂理さんですか?】


 するとセツリは確かに言ったんだ。


【違うよ。桜矢摂理はリアルの私だもん。ベットから動けない生きてない私……】


 自分の事を「生きてない」なんて表現するなんてよっぽどだって思った記憶がある。けど今は嫌いな自分が、更に僕に嫌われる事が怖い……それもまた、セツリは友達とかを知らないからそう思うんだろう。

 「愚かな選択なんて出来ない」か……確かにその通りなのかも。セツリは誰よりもリアルの自分を知っているから、それを思わずには居られないんじゃないか。

 当夜さんは肉親・兄弟っていう切っても切れない関係だけど、僕達は違うんだ。他人との関係なんてとても曖昧。

 それは友達だってそうだろう。てかどこから他人で、ただのクラスメイトとかから友達に上がるのか僕でも定かじゃない。


 今までの人生で『友達になりたい』とか『友達だよね?』なんて事言ったことないし。そう考えると僕達はもの凄く不安定な繋がりの上に立っている気がする。

 そして立てても、立てたことも無いセツリは僕以上にきっと不安なんだ。もの凄く細い糸で僕らは繋がってるだけかも知れない。

 本当に心許なく見えるその一本の糸は知ってれば案外頑丈だって分かるけど、セツリにその経験はなくて大切に大切に扱うしか出来ない物。切れたら再び繋がる事なんて無い……そう考えてるかも。

 だから余計に慎重になる。最悪の事なんて出来ない。迷惑な自分を見せたくない。だからいっそずっとここに? じゃあ僕がそれを完全に否定できれば、セツリはこっち側に来れるのか?


「役立たずなんて――」

「でも……スオウはここに居ることも否定する」


 けれど紡ごうとした言葉は弱気に弱気を重ねるセツリの言葉に飲まれてしまう。そして僕が言おうとしてたことさえも、セツリにとっては苦しみにしか成らないみたいだ。

 目の前ですがりつく様に涙を流すセツリ……その涙を流させてるのは僕なんだ。


「それじゃあ、私の居場所は無いよ! スオウは知らないから……世界から置いてけぼりにされる気持ちなんて分からないから!

 イヤなのもう……そんなのは。イヤだよ……独りぼっちは」


 セツリの涙が地面にあった紙を濡らしてる。インクで書かれてたのか、その紙には黒い染みがうっすらと所々に浮き出てきた

 それが何だかセツリの今の気持ちを表すように見えてしまう。僕達の言葉に浮き上がってきた幾つもの不安みたいにさ。

 置いてけぼりにされる気持ち。ずっとベットの上でしか過ごせなかったセツリ。窓の外だけが移り変わる世界だったのだろうか?


 そしたら本当にそう感じてしまうのかな。世界に自分だけが取り残されてる様に。脳裏に浮かぶは、ベットの上で憂鬱そうに窓の外を眺めているセツリの姿。

 桜の花が散り、長い雨が続いて、入道雲の空が見え、色づいた葉が木枯らしに舞い、最後に世界は純白に覆われる。けれど外を見続けるセツリの姿は変わらない。


「ここなら……セツリは置いてかれないのか?」

「……ここなら、私も同じように歩けるよ」


 誰かの幸せを、他の誰かが決める事なんて出来ない……と思う。そう傾きかけた。リアルがセツリにとって辛い場所なのは知っていたんだ。

 だけどずっとその気持ちは取り合えず置いといた。だってそれよりも命は重要な筈だったからだ。けどセツリはリアルで生きてなんか無かった。そう言った意味がようやく分かった。

 でもLROには僕が想像できなかった姿が見える。ていうか知ってる。それは共に歩いてきた時間だ。


 セツリは確かにここで生きてる。それを再認識して、僕は拳を握りしめるのを止めた。てかなんか……僕も分からない。

 僕の頭もゴチャゴチャだ。それで良いようにも思えてきたし、やっぱりそうじゃない気もする。その時、ずっと口を噤んで僕達の会話を聞いていたシクラが唐突に口を割った。


「これ以上は何回言葉を重ねた所で同じだね☆」


 この場にそぐわないと思える変に明るい声だった。いつものコイツの声と言えばそうだけど、今だと余計おかしく感じる。

 だから僕は睨みつけてこう返してやった。震える鼓動を必死に隠すようにして。


「何が……どう言うことだよ」

「だって君は今、諦めた。答えがない。芯の無い言葉なんて全部が嘘っぽいよホント……それでせっちゃんの不安や痛みを取れる分けないよね☆ だからおしまい」

「――っつ!?」


 見透かされた気分だった。傾いた自分の気持ちは本当だから何も言い返せない。そしてこの僕の行為や気持ちが何を意味するのか……それを次のシクラの言葉で思い知らされる。

 シクラは僕と向かい合っていたセツリに後ろから抱きついてその耳元で、その色香漂う唇をはっきりと動かす。まるで聞き逃す事がない様に。


「何だかつまんないね。そして残念、気づいてる? 君は今この瞬間、諦めたんだよ」


 その言葉は一瞬、自分のどこよりも深い場所に突き刺さった気がした。そして耳元で囁かれたセツリの眼球は、瞬きという行為を忘れて見開かれてる。

 そしてそんな中、シクラは追い打ちを掛けるかの様に聞きたくもない言葉を紡ぐ。


「君はこの子を、せっちゃんのこの手を離した。助ける事・救う事を諦めた。理由は何かな? 面倒くさく成っちゃった☆」


 コイツはどっちを攻めてるんだ? 僕なのか……それともセツリか? 両方なのかも知れないな。そしてやっぱり何かが突き刺さったのは気のせいじゃない様だ。

 痛い、どこかが。そしてシクラが遊びの様にセツリの手をこっちに向けるその行為が苦しい。


(僕は……僕は僕は僕は……諦めたのか?)


 そんな事実を心と体が否応無く拒否でもしてるかの様で、自分が今どこに立ってるのか分からなく成りそうだ。だってセツリは……セツリを……助けることがずっと目的だった筈なのに。あれはそういう事なのか?

 面倒くさく感じたか? すると頭はイヤな答えを弾き出す。


(そうだったかも知れない)


 そんな答えを出してしまう。いろんな事がグチャグチャになって……何が正しくて、何がセツリの為なのか分からなくなって……自分がどうしたかったのか……それをセツリは望んでないかも知れなくて……そして僕は、諦めたのか。

 あの一瞬。拳から力を抜いたあの瞬間・・僕は全てを投げ出した。頭を空っぽにした。それは諦めたって事だったんだ。

 それはシクラの言うとおりじゃないか。こちらに向けられている手が震えてる。白くて華奢な女の子の手だ。守ってあげなきゃと思わせるそんな手を僕は放してしまった。


(まだ……間に合うのかな?)


 だけど僕はそう思い、セツリの手へと自分の手を伸ばす。もう一回……もう一度とそう唱えながら。後少し、後少しでまた繋がれる。まだ間に合う筈だ。

 必死だった。何も考えてなんか無かった。一度放してしまった罪や、罪悪感……そしてその大きさに追い立てられてただけだ。

 触れそうな位置……けれどその時、僕の手を扇子が遮った。ウグイス色をしてて紫陽花が描かれた扇子。

 持ち主を見るとそれは柊だった。彼女は僕を強く睨んで高圧的に言い放つ。


「アンタ、何する気!? ううん、何が出来る気でいるの? その手を取って、どうしたいのよ!」


 その言葉に僕は止まった。何が出来る? どうしたい? 何一つ僕は解決何かしちゃいない。こんな状態でセツリの手を取って、本当にどうしようって言うんだ。


「僕は……」


 霞消えていく様な声しか出ない自分が情けない。声に張りも増してや精気も感じれない。今まで感じなかった重さが、この手にのし掛かってる気がする。


「ヒイちゃん」


 そう言って首を横に振るシクラ。すると柊は扇子を退けた。そんな邪魔も、隔たりも今の僕達には必要ないって事か? 

 はは……でも何だろうな。扇子は無くなったのに、僕の手は進もうとしない。それどころか下ろしたがってる様にさえ感じる。

 何かが絡み付いて下に引っ張られる様な……でも、それに従ったら今度こそ次はない気がする。それに僕しか居ないと言われたんだ。

 僕しか……セツリを救えない! だからここで下ろすなんて――


「私は……諦められちゃったんだね」


 ――そんな絞り出す声は目の前から聞こえた。視線を上げると、そこには「てへへ」なんて言いながら笑うセツリが居た。

 そしてその笑顔を僕は見間違いだと願う。だって信じられないじゃないか。何でセツリが笑ってるんだ。そして僕は言わなきゃ成らない。「そんなこと無い!」って。

 だけど声が……そんな簡単な言葉にさえ自信が持てない。


「当然だよね。だって……動けないし歩けないもん。何にも出来ない、迷惑しか掛けれないお荷物。生きてるだけでごめんなさいの存在。

 そのくせ、欲張りで欲しがりで夢見がちで……お兄ちゃんには一杯迷惑かけたな。もう……自由にしてあげたい。私に出来る事ってそれだけだから……良いよね……スオウ」


 向けられた笑顔に一筋の滴が伝ったのを僕は見た。それはきっと僕が流させた涙だ。そしてその時、関を切らした様に後ろから声が流れ出てきた。


「ダメエエエ!! そんなこと無いからダメだよ絶対! 私は知ってるよ! スオウが言ってた事を聞いてるよ! 何でそれを言わないの! 

 単純じゃない! 思い出してよスオウ!」


 リルレットの声に続いてみんなの声が背中に押し寄せる。僕が言ってた事って何だっけ? 単純って何がだっけ?

 頭を巡るこれまでの記憶・軌跡・足跡。そこで僕は何を言っていた?


(僕は……僕は僕は僕は僕は僕は!)


 出会った人達に問われた事が幾度も有る。『何でそこまでするんだ?』って。そして僕は確かこう答えた。



「ただ助けたい! それじゃあダメか?」



 単純すぎて忘れてた事を口にした。けどこれが真実。あの頃と今、何が変わってる? 同じものを追いかけて、同じ場所を目指してるじゃんか。

 なら間違ってなんか無いはずだ。僕は再び腕を進める。その手をもう一度取るために。


「忘れようスオウ……私達の出会いを」


 聞こえた声と同時に、僕の手は宙を掻く。一度拒絶した手に、掴める物なんて何も無かった。

 第九十四話です。

 これはサブタイトル通り、書いてて実際訳が分からなくなりました。助けるってどういう事で、救うって何だろうって考え過ぎて頭が痛くなりましたよ。本当に絶対に「お前を一人に何かさせない!」て言えれば良いんだけど、今のスオウにそれは無くて。

 誰かを幸せにする事を約束出来る程、スオウは大人何かじゃないのです。さあて、スオウとセツリはどうなるのかで次回へ続く!

 次は月曜日に上げます! カーテナがきっと光り輝くはずの回です。ではまた。

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