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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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湖畔の事

 LRO内に入った僕は三日ぶりの空気に浸っていた。そして待ち合わせの場所に現れたのは鍛冶屋だ。僕は正式にシルフェングを手に入れ次にアギト達と例のクエストの場所に向かった。

 だけどそこで僕達が受注するのは別口のクエスト。それは袴姿の巫女さんを護衛する「護衛クエスト」だった。しかしこのクエストを受ける時から色々とおかしな事が起こりクエストを達成したと思った時、僕達が見たのは壊れたNPCの姿。

 何をどうすればいいのかも分からない僕達は絶体絶命のピンチを迎える。


 僕がLROに三日振りに入ってまず行った所は鍛冶屋の所だ。鍛冶屋というのはNPCじゃなくて僕達がそう呼んでいる鍛冶職人のあだ名である。

 あの悪魔との決戦の時に『シルフィング』を貸してくれて、あの後かなり疲労したその武器は研ぐ必要が有るともっていかれた。

 元々あの一回の約束だったし、それは当然で諦めてたんだけど少し前に連絡が来ていた。だから僕はトマートの街のこっちは本当の鍛冶屋もとい鍛冶工房の前で鍛冶屋を待っていた。ああもう、ややこしいな。

 目の前を数多くのプレイヤーが慌ただしく通り過ぎていく。クエストが大量発生したらしいからみんな大変なんだろう。

 日差しの香り、緑を乗せる風、金属を叩く鎚の音、大きな荷台を押している人達……久しぶりのLROの空気を全身で感じている。

 その時視界に入ったのは黒ずくめの人物の姿。浮きまくりだよあの人……周りの人達の武器を物色してるのか首が異様に動いてる。

 だけどそこまで興味をそそる武器は無かったのか直ぐに僕の所まで来た。

「三日振りだな。仲間は慌ただしく動いてるのに重役だな貴様」

「う……」

 それは言われるときつい。アギトは何て言ってみんなを説得したのだろう? 

「まあそれも仕方ない事か……ママは大事にしないとな」

「何言ったんだアイツ!」

 何かスゴい誤解が生まれてる気がする。だけどマイペースな鍛冶屋は僕の質問に答えることなく本題へ。

「それよりも、また戦場に行くのだろう?」

「戦場に成るかはまだ解らないけどな」

「まあ、どちらにせよ武器はこの世界では必須だ。いざという時はいつくるか解らないからな」

 そう言ってウインドウを操作して取り出したのは見慣れた青い刀身の二対の剣『シルフィング』だ。

「これ……いいのかよ。僕、金無いぞ」

「出世払いだ。貴様は大物に成る気がする。それに乱舞を持つ貴様が使うのが一番だ。武器にとってもな」

 そう言って押し出されたシルフィングを受け取り、僕は頭を下げた。

「ありがとう」

 すると模様が刻まれた顔を大きく崩して笑う鍛冶屋。

「気にするな。貴様がアンフェリティクエストを達成すれば良い宣伝になる」

「僕は宣伝カーかよ!」

 まあだからと言って押し返す事もしないけどね。利害の一致って奴だ。シルフィングは心強い武器で僕のもう一人の相棒。あの時の乱舞の感じは最高だった。

 僕はシルフィングを武器に指定して腰に差した。戻ってきた重さを噛みしめて今日の目的を見据える。今度こそセツリを助け出す!


 僕は鍛冶屋と別れた後、アギト達と合流して別の街に飛んだ。その街は大きな山の下降に作られた水と緑が豊かな場所だった。

 『センラルト』と名付けられた街が例のクエストの発生場所。この街の上の山の火口に水が溜まり大きな湖なっている。その場所に城があってそこがクエストの場所らしい。

 アギトの話では例のクエストでたまたまその湖に落ちたプレイヤーが撮った写真がアレだそうだ。そして話題に上りそのクエストに挑戦する人達が最近増えてるらしい。

 だけどこのクエストの目的は別にあって達成はそんな難しくないらしい。それじゃあどうやって彼女を助ければいいんだろう?

「それも検証済みだぜスオウ」

 なんとアギト達は何かを掴んでいるらしい。さすが熟練プレイヤー達が集まってるだけある。

「それで、どうするんだ?」

 僕の言葉に得意気に答えたアギトの話はこんな感じだ。

 どうやら護衛クエストと言うのが発生しているらしくて、それは特定のNPCを目的の場所まで守ると言うクエストだ。そしてこの街での護衛対象は獣を操る事の出来る巫女らしく、目的の場所が頂上の湖。

 そしてアギト達の聞き込みに寄って巫女を連れて行くと湖の精霊を呼び起こしそこで別のイベントが起こる……らしい。事実は分からないけどこれは無視できない情報だ。

「なんでやらなかったんだ?」

 いつものアギトなら僕を呼ぶ前にその事実を確かめる為にクエストをこなしていそうな物だけど。するとアギトは苦い顔をして言った。

「ああ~やったぞ。うん……三回ぐらいな。だけど全滅だ」

「はっ?」

 信じられん。アギトが三回もやって全滅って……。

「いや俺じゃない。このクエスト一人に付き一回しか出来ない。それ自体が護衛クエストじゃ珍しいんだけど……だからみんなにやってもらったんだ。だけどモンスターがおかしいみたいなんだ」

 ん? アギトの言葉がおかしいぞ。なんだよおかしいって?

「みんなの話を総合するとつまりこのクエストの間の敵は見えない……らしい」

「はっ? 見えないってそのままの意味か?」

「そのままの意味だよ。見えないんだ。大量の足音と荒い息遣いがそこら中から聞こえるけど全く見えない。後このクエストを難しくしてるのが人数制限だ。定員は四人でワンパーテー以下だ」

 普通の護衛クエストならそれでも行けるらしいけどこれは難易度の設定が明らかにおかしいとアギトは愚痴った。

 四人は確かに厳しい。ヒーラーは一人は必要だし、前衛なら二人……後は攻撃力重視でソーサラーかもう一人前衛を入れてもいい。それか策適能力が高い人に入って貰うとか。

 でもそんなのアギト達がやってるだろう。策適スキルに引っかからない適応外のモンスター。

「やっかいだな」

 僕は考え込む。これはある意味あの悪魔より手強い。幾ら居るか解らない敵に護衛キャラの通る道は決まっているんだ。つまりはその通り道に大量に敵が配置されてるって事じゃないか。悪意を感じる。

「でもやるしかない。これだけ情報が揃ってるんだからなんとかなるだろ」

 楽観的にアギトが言った。おいおいさっきまで愚痴ってた奴がそう言うと開き直ってる様にしか見えないぞ。

「実際開き直らなきゃこんなクエストやってられるかよ。どうせやるんだ。ゲームを楽しもうぜ」

 アギトはいつもの笑顔を作り笑った。まあ確かに今までの行き当たりバッタリじゃないだけいいのかもしれない。楽しむというのは今の自分にはなかなか難しいけど、あんまり難しく考えても仕方ない。

 僕達は決心を決めて動き出した。

 

 パーテーは元から一緒に来てた二人だった。まあそうだよね。なんの為だって感じだし。一人はヒーラーの女の子。もう一人は策適系のスキルが豊富らしい短剣プレイヤーだ。女の子は「シルク」という名前で肩に掛からない位に揃えられた髪にローブの様な体を包む服が綺麗な子だ。

 もう一人はエイルと同じモブリという種族で緑のタマネギみたいな頭した奴だ。男だと多分思う。名前は「テッケン」二人はアギトとは何度もパーテー組んでいるらしく結構強いらしい。

 僕は二人に挨拶してパーテーを組んだ。するとなんだか二人ともチラチラ僕を観ている事に気付いた。何なんだろう一体?

「あの! お話は常々アギトさんから伺ってました。お会いできて光栄です」

 そんな事を言ったのはシルクさん……いや、ちゃんだ。僕は照れながらも「どうも」と言った。僕はそんな有名じゃ無いと思うけど。

「そんなこと無いですよ。あの悪魔を倒したのは語りぐさですし、二刀流に乱舞を使うアンフェリティクエストに挑むスオウさんは結構有名ですよ」

 なんてこった。そんな話初めて聞いた。それに悪魔を倒せたのはみんなのおかげだし、乱舞だってなんであるのか分からない。アンフェリティクエストにいたっては謎だよ。

「でも君は今も進んでいる。感服するよ」

 そういったのは小さな後ろ姿のテッケンさんだった。うう、なんだかムズガユい。僕一人じゃ実際何も出来ていないんだけどね。特にアギトがいなかったら僕はここまでこれなかったらだろう。

「ふふ、不遜するより謙遜する奴の方が僕は好きだよ」

 なんだか僕が知ってるもう一人のモブリと全然違う。カッコイイ。

 そうこうしてる内に目的の場所に着いた。護衛クエストの発生場所の街の南端に位置する神社の様な場所にそのNPCはいた。

 赤い袴姿の若い巫女さんだ。額に模様が入った布を巻いていて黒く長い髪が映えている。彼女の周りには白いフクロウが楽しそうに舞っている。彼女はフクロウと楽しく遊んでいる感じだった。

 そして僕が境内に足を踏み入れるといきなりフクロウが突撃してきた。

「むが!」

 顔面に頭突きを食らって後ろに倒れる僕。何するんだあのフクロウ。するとサッサッサと言う音と共に風鈴の様な声が響いた。

「大丈夫ですか? すみません、この子ったらいつもはこんな事しないんですけど……」

 僕は一瞬目の前の巫女さんがプレイヤーじゃないかと思った。だってこんな対応を取れるか? NPCが。取れるとしたら境内に入る人たち全員に今のをやってる事になるけど……。

「えっと……アギト?」

 アギトは首を振る。どうやらこんな事は初めてらしい。どういう事だ? 一体何がきっかけでこんな事を?

 目の前のNPCの巫女さんはひたすらに頭を下げている。流石に気が悪くなる。

「大丈夫ですから。気にしないでください」

「本当にすみません」

 そういって彼女は再びフクロウと遊び出す。ここら辺はNPCらしいけど……取りあえずアギトが歩み寄りクエストの発動に必要なアイテムを見せる。だけど何も始まらない。と言うかクエストへ続く言葉が出ない。

 NPCらしく何度話しかけても同じ言葉が返ってくるだけだ。アギトがお手上げのポーズをして戻ってくる。

「ダメだな。今まではこれで良かったんだ。なのに今日はおかしい。さっきのアレも報告は無かったし……他の条件があるのか? それとも何かが発動してる?」

 アギトは僕を見てそのアイテムを渡してきた。

「お前におかしな事が起きたんだからお前が責任とれよな」

 そんな事言われても知らん。僕のせいじゃないのに。だけど後ろの二人は何かを期待しているようだ。

「がんばってください」

「君なら出来るよ」

 僕はそれを無責任と呼びたい。何をどう頑張れば出来るの? だけど取りあえずやるしかない。

 僕は巫女さんに近づいて受け取ったアイテムを見せてみる。すると飛び回っていたフクロウがそれを取って飛び去ってしまう。

「ああ!」

 なんて事してくれんだあのフクロウ! 僕はアギトを振り返る。もしかしたらこれがクエスト発生したって事かもしれない。だけどアギトは飛んでいくフクロウをただ呆然と見ていた。想定外らしい。

 すると巫女さんがフクロウを追いかけて境内の外へ。僕達はハッとして取りあえず彼女を追いかける事にした。

「どうなってんだ?」

 そんなアギトの呟きが聞こえていた。


 たどり着いたのは街の東出口だ。このクエストの通常は神社の近くの南出口だとアギトは言った。だけどそこで待っていた巫女さんに話しかけるとクエストが発生した。

「すみません。あの子は山の上の方に行ってしまいました。私の責任ですけど一人ではどうにも出来ません。不出来な私を助けてください」

 そういって彼女もパーテーに加わった。これも話に聞いていない。もしかしてこの為にプレイヤー制限が四人なんじゃなかったのだろうか。普通のパーテーは五人が定番だ。

「どういう事なんでしょう?」

「良いじゃないか。これが達成条件なのかもしれない」

 確かに二人の言うとおりだ。巫女さんをワンパーテーの中に入れるのが条件だったのかもしれない。

 僕達は腑に落ちない事を飲み込んでフィールドに繰り出した。久々の太陽が昇ったフィールドだった。


 フィールドは山なだけに森だった。大きな木が適度に空白をあけて光を満たせてくれている。人工的に人の手が入った森という印象だ。でもだからこそちゃんと回っている。

 足下には小さな小川が何本もある。きっと頂上の湖から漏れているのだろう。そんな小川に導かれる様に巫女さんを先行に僕達は森を駆ける。

 モンスターがどこにいるか分からないからあまり広がりすぎない様に木をつけながら進む。

 その時前にいたテッケンさんが吠える。

「来るぞみんな!」

 彼は姿を確認してるんじゃなく音で位置を確認してるようだ。音は消せないと事前の情報で分かっていたからそうしたのだろう。

 無防備な巫女さんが斬られる前に僕は二刀を振るった。姿は見えないけど確かな感触が伝わる。だけどその時横から攻撃が入った。僕はよろける。カバーにアギトが入ってくれる。

 そしてすぐさまシルクちゃんが回復。僕は気を取り直してテッケンさんの指示通りに動く事を徹底する。

「スオウ君、三時の方向から三体だ。アギトはそのまま右斜め前に突進をかましてくれ!」

 彼の指示は的確だった。僕達は苦しみながらもなんとか上手く回しながら山の中腹ぐらいまで来た。

 途中から何となく奴らの攻撃パターンを掴んできた僕とアギトは見えなくても一・二回は攻撃を避けれる様になっていた。それに集中すると風を切るような音が聞こえる気もする。

 途中で木の隙間からフクロウの姿を確認するのか巫女さんは何度も止まる。そのたびにフクロウは真上をクルクル飛んでいてまるで僕達を導いているようだった。

「なんとかいけそうだね」

 僕達は顔を見合わせて頷きあった。全員息が上がっている。そしてようやく頂上が見えて来たときテッケンさんが叫ぶ。

「来るぞ! 今までのモンスターじゃない。かなり多い!」

 その言葉に一気に緊張感が広がった。地響きが近づいて来る感覚。これはスキルが無くったって分かる。だって森に煙が立っている。あれはきっとモンスターが立てている。

「アギト!」

「分かってる! 行くぞテツ!」

 そう言って僕達は巫女さんの前に走り出て一列になる。僕達は一点突破を狙っていた。まずはアギトが大威力のスキルを連続して発動する。貫通力がある槍のスキルは突破力が抜群だ。その次にテッケンさんが細い剣を見えないほどの早さで繰り出して更にダメージを募る。

 最後に僕が乱舞を使って道を造った。風の膜が通り道を開く。

 そして一気に通り抜け僕達はついに頂上にたどり着いた。そこには対岸が見えないほどの大きな湖畔が広がっていた。その中央に向かうように石造りの橋が架けられていて橋の先には水の上に立つ古城があった。

「やりましたね」

 シルクは感動してるようだ。何となく瞳が潤っている。確かに苦労した甲斐がある光景だ。傾きかけた陽光が湖畔を反射してキラキラしている。ほとんど揺れていない水面は鏡の様に空を映している。

「ああ、やったんだ」

 僕達は巫女さんの後に続き橋を渡る。かなり大きな橋で五人が居ても全然狭く感じない。そして巫女さんは城の手前の少し丸まった部分で立ち止まり手を伸ばす。するとそこへフクロウが降りた。

 巫女さんはフクロウを愛おしそうに撫でている。それはプログラムなんだろうけど目の前で人の形をしているそれをただのプログラムとも思えなくなってくる。

「ありがとうございます。これで私は役目を果たせます」

 そう言って巫女さんはそのアイテムを胸に抱き祈り出す。するとアイテムは輝きをましてその光に呼応するように湖畔も光出す。

 だけどその時アギトが言った。

「おかしいな。このクエストの難易度はこんな物じゃないはずだ」

 確かに最初のアギトの話とは色々と食い違う所があった。それは確かに気になるけど何かのきっかけでクリア条件が満たされただけかも知れない。

「お前楽観的だな。お前にとって今までLROはそんな優しかったか?」

 そう言われると自信がない。今まで何度も僕はこのゲームには絶望を見せられてきた。

 その時目の前に何かが飛んできた。だけど寸前で僕はそれを交わす。何かは上空に舞い戻って巫女さんの上へ。

 湖畔の光に照らされて大きく見えるそれは……実際にさっきの倍は大きい。

 フクロウはもうフクロウじゃない。湖の水をその身に纏った様に水色の翼が輝いている。それは鳳凰とでも言うべき姿だ。

 さすがの異常事態に全員が身構える。

「なんの真似だよ。どういうことだ?」

 僕の質問に巫女さんは雰囲気を変えて答えた。

「良く避けました。最初あまりにも間抜けに当たるから駄目かと思ったら……やっぱり駄目です貴方じゃ。簡単な事です。これはクエストなんだから・・・あの子を救える人物か試すクエスト……だけどあの子は――あああ!」

 僕達はギョットした。なんだ一体? 明らかにおかしい。巫女さんは清廉な顔を見るも無惨な形相に変えている。そしてブツブツと

「駄目なのよ……救わなきゃ……違う……あの子は……約束」

 意味不明な事を呟いている。どう転んでも優しそうな展開は望めない。僕は剣を抜く。あの子を救えるか試す……確かにそう言った。それならこれは確実に当たりな筈だ。

 だけどそんな僕を見て狂った巫女さんは言い放つ。

「私を斬る……救えるかな? あの子を切り刻んだその剣で」

 一気に僕の背筋に悪寒が走る。だけど歯を食いしばって言い放つ。

「試して見ろよ。そのために居るんだろ」

 その一言が開戦の合図だった。湖畔に走る波紋は僕達の衝突が生み出した振動。


「勝手な事しながって!」 

 隣に立つアギトがそんな文句を垂れる。

「だけどあれはこうなる展開だった。彼を責めるべきではないよアギト」

 そう言ってフォローしてくれるテッケンさん。

「ええと、あのNPCの人大丈夫かな? バグってるよね」

 なんだか変なことを気にするシルクちゃん。確かに変な事は確かだ。アギトが持ってきた情報にはこんなバトルなかったし。あの巫女さんはどこかオカシい。

 だけどそんな事を気にしてる暇なんてない状態だ。向かってきた元フクロウは反則的だ。飛んでるから剣なんて届きにくくて仕方ない。これならソーサラーが必要だった。

 だけど詠唱の暇さえ与えられない。高速で四方から突撃する元フクロウに僕達は固まって対処せざるえない。それに周りの光と同化するから近づくまで視認できない。

 これじゃまるであの山の続きだ。いや……あれがあったから今凌げてる様な気もする。

 だけど運良く切れてもフクロウのHPは減らない。水だから直ぐに再生するんだ。どうやら攻撃判定は二撃目からの様だ。傷が塞がる前に入れれば奴のHPを削れる。だけどそれは途方もなく無理なことだった。

 そして前方の巫女さんは何かを呟いている。あれは詠唱? 不味い! こんな固まった状態で強力な魔法を入れられたら一気に崩れる。

 僕は輪から飛び出し駆け出した。だけどその時真横からフクロウが僕に突撃した。

「がっ! はっ……」

 凄まじい衝撃と共に僕は宙を舞って湖に向かっていく。

「スオウ!」

 そんな声が聞こえて落ちていた勢いが止まったのでアギトが腕を掴んでくれたのかと思った。だけど僕が顔を上げるとそれはNPCの巫女さんだった。

「何で……」

 その言葉しか出てこない。殺そうとしたり助けたり、これじゃ何がしたいのか全然わからない。

 そしてそれは彼女も同じ様で葛藤を繰り返す表情が目まぐるしく移り変わる。そして一言……「わからない……」

 そして頬に落ちてきた物に僕は驚いた。それは涙。NPCが涙を流すなんて聞いたことがない。そしてこぼれた嗚咽はこう聞こえた。

「助けて」

 その瞬間、絡まった腕は放されて僕は輝く湖の中に落ちていった。気泡が水面に昇るのを眺めながら僕はそれを見た。それは僕の掌に落ちて来る。巾着に入ったそれは真珠。

『思い出の結晶』


 読んでくださってくれてる方々、ありがとうございます。これからも更新出来るように頑張ります。

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