852
「スオウ――」
僕の名を呟いて厳しい目をしてるローレ。何を言うのか……僕はその言葉を待つよ。なんといってもこいつは召喚獣に詳しい。てかただ唯一の召喚士だしね。
「あんまり契約を舐めるなよこの包茎野郎」
「え?」
「なーんちゃって」
いやいや、確実に聞こえたが? ローレの奴、今確実に暴言は吐いたよね? しかもかなり下品な……なにか勘に触ることでもあったのか? こいつのこと、まだよくわかってないからね。だいたいローレの事、そこまで知らないし。
「おい。何か言いたいことあるんだろ?」
「別に……ただ、力だけを求める契約は安易だって事よ」
「お前はそうじゃないと……」
こいつこそ力だけを求めてるんじゃないのか? だってそういうふうに見えるし……
「私はあんたよりも賢いから」
「どういう意味だよ」
「へいへーい、俺っちはどっちでもいいっすよ。力だけを求める。そんなの普通っすよ。寧ろ自分は好感持てるっすけどね。単純で」
オルガトはそんなふうに言って奇怪な仮面の奥の光を僕へ向ける。まるで捕食者から見られてるような感覚。全身の毛穴から汗が噴き出すような感じ。こいつ軽い感じに見えるけど……その実、とてつもない感情をその奥に隠してるみたい。契約をするという事は……こいつにもきっとメリットがあるから、こいつは契約してるんだよね。なんか……まずい気がしてくる。確かに軽い気持ち……ただ単に力だけを求めての契約は……なんだかオルガトの求める事の様な気がする。
オルガトも求めるものがあるから、契約なんてものを結んでるんだとしたら……そして力だけを求める契約が一番都合がいいからそうなのだとしたら……
「精霊ってのはね……ただ与えるだけじゃない。互いに益があるから契約ってのは成立するってわかる?」
ローレの奴はそういってオルガトを見る。そして僕を見てさらに言うよ。
「まあやりたければやればいいわよ。別に止める義理ないし」
ようは覚悟があるなら契約すればって事なんだろう。どうしたら……この目の前の精霊は危険だ。お気楽に見えるが……それは皮だけでしかない。そもそもがここに来た時から、ここの主がヤバイ奴なんてのはわかる。周囲から聞こえるうめき声。拷問の様に地面から顔だけ出してる人々……こんなことをする奴がまともな訳ないよね。もしかしたら僕自身もこの中に加わることになるのかもしれない。
「ローレ……お前は勿論、覚悟してるんだよな?」
「覚悟? まあ私にはそんなの必要ないから」
ローレの奴は軽くそういうよ。こいつを見てると別に大丈夫なんじゃないかと思える。だってこいつに出来るんだよ? まあローレは凄い奴だ。けどその凄さってなかなかに精霊の力の部分が大きいと思う。僕もエアリーロと契約してる……らしいけど、なかなかにそれだけじゃまだ厳しい。今はイクシードもないし……あのスカルドラゴンを倒すためにも力は必要。それにその先を見据えても……だ。
「やめた方が……ローレ様がいるのなら別の精霊と契約することだって……」
そういうのはシルクちゃんだ。確かにそっちの方が安全だよね。けど多分他の精霊にだってリスクはあると思う。契約とは多分そういうことだ。僕がエアリーロと契約して、何かリスクがあるかと言われればわかんないけどね。確かにオルガトは精霊の中でもヤバそうな部類だ。けど……リスクだけのリターンもあるんじゃ?
「お前の力は強いんだよな?」
「へいへーい、俺っちを誰だと思ってるんすか? オルガトっすよオルガト」
そんな名前連呼されてもね……そんなしらないし。けど多分何か有名な逸話とかあるのかもしれない。よし……きめた。
「やろう契約。僕はお前の力を欲するよ」
「了解っすよ」
オルガトの目が静かに怪しく光った。