届かぬ声
僕達の前に現れたのはプレイヤー? だけど無機質な瞳はその仲に人が居るとは思えなかった。だけどリルレットがその中で一人の知りあいを見つけた。それは小さくて生意気な顔が特徴的で、僕も良く知る奴……というか、今いるみんなが知っている。
だってあれは『エイル』じゃないか!!
扉が閉じきったと同時に、その奥の光は残滓を残して白の風景に溶けていく。そして鮮明にその姿を現しだしたのは、その扉までを塞ぐ奴らの姿。
でも、やっぱり“奴ら”はモンスターに見えない。その姿はどう見ても僕らと同じ、プレイヤーが始めに選択する五種族のソレとしか思えない……これは一体。
その時、リルレットの声が弱々しくこの場に響く。
「エイル? エイルだよね!?」
「何言ってるんだよリルレット? エイルは柱に……」
声が最後まで出てこない。認めたくない出来事だったから、言葉にするのが辛いんだ。そしてそれはリルレットも同じはず。
この五種族の中には当然モブリも居るから、それをエイルとみたい気持ちが錯覚を起こさせてるのかも……そう考えた。だけどリルレットは指を指してまで僕にその存在を示そうとする。
「違うよスオウ! あれ! ちゃんと見て。絶対にエイルだよ!」
僕もリルレットが指さした方に居たモブリに目を向けた。そしてその姿に目を見開く。
「なっ」
「間違いないよ。だって防具も武器もそのままエイルだもん。それにあのしかめっ面も」
どういう事か分からない。だけど確かに、リルレットがいう様に僕の記憶にいるエイルと向こうでこちらを見据えるモブリはがっちりと一致した。
防具も武器も……なによりあの顔も記憶の中のエイルそのままだ。今にも「死ねよ」って言ってきそうな気さえするけど、そんな事はなくただ無言でこちらを見続けてる。
それが何か変な感じだ。
「確かにエイルっぽい……てかエイルにしか見えない」
「うん、あれはエイルだよ!」
「みんなはどうだ?」
僕は嬉しそうなリルレットと違って何だかおぞましい感じがしてた。だからみんなにも聞いたけど、やっぱり外見上はエイルにしか見えないのは同じ様だ。
その時後ろの誰かが震える声を出した。
「そんな……まさかお前『エゴイチ』か?」
「エゴイチ?」
「何回か同じパーティーで狩をしたことがある奴だ。フレンドって訳でも無かったが……何でこんな」
視線の先に居るのは短髪のエルフ。きっとこの人も装備や防具はそのまま何だろう。って事は待てよ……僕はこの場に現れた五種族の人達を見やった。
全員が誰も彼も統一なんてされてない防具や武器ばかり。これはもしかしたら全員が元はプレイヤー何じゃないか? そしてここに現れた人達は全員が柱に成った人達……そう考える事が出来る。
それは最悪の想像だけど、きっと多分、間違って無い気がする。僕達は全員がエイルが柱に成るのを見てる。それは間違いもない事実だ。そして人形の様なエイルが目の前に現れた。そして見覚えがあったプレイヤーがもう一人だ。
この数はあの柱の数と同じじゃ無いのだろうか。つまりはあの柱全てが元はプレイヤー。一体いつから……それを考えるだけで手に汗が滲む。
「なんて事をしやがるんだアイツ等!」
僕の叫びに一斉に虚無の目をした奴らがこちらを向いた。生気がない……ただ本当に形だけを再現したような感じだ。
そして僕と同じ様な考えにみんな辿り付く。それから上がるは恐怖の言葉だ。
「まさか……これ全員柱に成った奴とかか?」
「そんな嘘だろ!」
「信じられねえ! 何だよこれ!」
後ずさるみんなとは反対にリルレットはエイルをまっすぐに見つめている。そして届いてるとも思えない言葉を投げかける。
「エイル! 私だよリルレットだよ。思い出して、そんな目で見ないでよ! ここには一杯一杯楽しいことが有るって言って誘ったのはエイルでしょ!
私を不安にさせないで!」
「リルレット……」
リルレットがいつも元気に笑ってられるのは実はエイルのおかげだったのか。だけどそんな叫びを聞いても目の前に見えるエイルは眉一つ動かさない。
僕の知ってるエイルならリルレットにこんな事を言われたら顔から蒸気でも出そうな物だ。やっぱりあれは形だけ。
リルレットだって分かってる筈だ……だけど、諦めきれない様で何度も何度もその名前を呼び続ける。
「エイル! エイル!」
そしてその度に少しづつ前へ。すると何だ周りの奴らがリルレットへ視線を向けてる様な……
「エイル! 私だよリルレットだよ! 思い出して!」
ザンッ――とリルレットは更に一歩を踏み出す。その瞬間だ。目の前のエイルモドキが武器を掲げて詠唱し始めた。
「ダメだ! それ以上行くなリルレット!」
「きゃあ!?」
僕はとっさに腕を伸ばしてリルレットを後ろへ投げた。そして直後、さっきまでリルレットの居た場所から鋭い土が飛び出して来ていた。
後一歩前に出てたら僕に刺さってた所だ。だけど安心も束の間、どうやら動いてたのはエイルモドキだけじゃなかった様だ。左右から迫る二人のプレイヤーモドキが見える。
一人は斧、もう一人は槍を携えてた。リーチが違う両方の武器。まずは槍の方が迫ってくる。機械仕掛けの槍は回転をしながら一段と破壊力を増した様な音を響かせている。
速い! その初速はアギトと余り変わらないかも知れない。けれど狙いが何故か脚の方だ。これなら飛んでかわせる。そう踏んで僕は槍を飛び越える様に後ろへ飛んだ。
でも直ぐにその判断は間違いだと気付いた。何故ならもう一人が飛んだ方から一直線にその巨大な斧を振って居たからだ。これってまさか――誘われた?
「――っづ! ぐああ!!」
とっさにセラ・シルフィングでガードしたけど、完全にハマった連携はスキルまで発動していた。そして元々斧やその風貌が巨大な物はガードの上からでも叩き潰す様な完全攻撃特価型だ。
地面に足が着いてない状態だと、軽々と吹き飛ばされる。いや、下手に耐えるよりも武器にも自分にも有る意味ダメージは少なかったのかも知れないから良かったのかも――
「とは思えない!!」
吹き飛ばされた先には既に他の奴が武器を構えて待っている。それは弓……それもかなり華美で豪奢な作り。けどもっと問題なのはその後ろにスキルだろうか? 何だか、同じように弓を構える戦乙女みたいなのが見える。
なんだあれ? 『ヴァルキリー』か? そんな事を考えてる間にその戦乙女から光輝く矢が放たれた。だけど僕は真っ直ぐに向かってきたそれを武器で弾く。
「あれ?」
あれだけ過度な演出があったからどれだけ強力なスキルかと思ったけど、何だか随分とあっさり弾けた事に拍子抜け――と思ったら弾いた先で光の矢は数十本に分裂して別々の軌道を描いて向かってきた。
「なっ!? げげっ嘘だろおい!」
全包囲から降り注ぐ矢をそれでもシルフィングで何とか落としていく。二回目の分裂は無いようで安心だ。だけど今度はどこかからか歌が聞こえて来る。そして突如体が上手く動かなくなる感じがした。
いや、もっと正確に言えば方向感覚が滅茶苦茶に成ってると言うか……さっきまで平気だった視界までグルグル回ってる?
そのせいで着地も出来ずに僕は固くヒヤリとする大理石の床を滑る羽目に成った。
「何……だ、これ?」
くそ、立ち上がる事さえまま成らない。地面に付いてる筈なのに上下が区別出来ないってどういう事だよ。視界の端か上か下に流れる虹色の音符をその声で発しているプレイヤーモドキが見えるけど、ぜんぜん正確な位置が分からない。
これじゃ攻撃のしようもましてや守る事だってまま成らないじゃないか。視界が回るせいでプレイヤーモドキの数がとんでもなく多く見える。それに確実に近づいてる。
どうにかしないと、だけど対策が分からない。『歌』なんて攻撃方法は僕は初めて何だ。絶対に攻略方法は有るんだろうけど……こんな事ならアギトの言う通りマニュアルは一通り読んどくんだった。
そこになら『歌』の存在だって有っただろうに。
「くっそ……そんなに遠くないと思うんだけどな」
既に動けないと判断してるのか、プレイヤーモドキ共は僕を囲んで各々の武器を掲げている。今にもいくつもの武器がこの体に突き刺されそうだ。
「あ……あ……ダメ……エイル、やめさせて!」
その声はリルレット。そうだ僕にはまだ頼れる人がたった一人だけ居たんだ。
「リルレット! 歌を歌ってる奴はどこに居る!?」
リルレットは多分、歌の影響を受けてない。僕が知らない対処方をとってるか、それとも届かない位置にいるかは知らないけど、僕はもうリルレットに頼るしかない。
「真っ直ぐ! スオウの位置から真っ直ぐ十五メートル位行った所!」
「良し!」
僕は目を閉じて前方にシルフィングを一払いして駆けだした。実際囲んでた奴らが避けたのさえ見てなかったし、駆けだした瞬間にはもう地面に倒れ込みそうな程だった。だけど直後に背後から聞こえた無数の武器が地面に弾ける甲高い音に背筋が凍るのと同時に気も引き締まってそこを何とか踏ん張る。
そして目指すは歌い手の場所だ。取り合えず真っ直ぐなのは助かった。正確な位置までは分からないが、方向感覚が狂っても使える部分は残ってる。それはこの歌が聞こえる耳だ。
そこだけは潰すわけにはいかないからな。この歌を聴かせ続ける為にも。だけどそれなら……この耳に届く歌が一番近い場所が歌い手の居る所だ!
そして確実に近づいてると分かる。気を緩めれば直ぐにでも転倒しそうな程の頼りない足……だけど後少し、もう少し――ここだ!
「うおおおおおおおおおおおお!!」
僕は絶対音感なんて持ち合わせちゃ無いし、特別に耳が良いって訳でもない。だけど音の大きさ位、誰だって区別出来るだろう。
それにこいつらはその歌を歌ってる奴以外、声を出さないのもありがたかった。雑音が混じる事が無かったから。だから確信を持ってシルフィングを振れる!
確かに感じた感触……その瞬間歌声がピタリと止まった。そしてようやく戻る地面の感触、自身の体の位置情報。急に夢から叩き起こされた様な感じだけど、あの異様な気持ち悪さよりもやっぱりこっちが断然いい。
地面のありがたさを感じれる。そして僕は敵を見定めて連続でシルフィングを振りまくる。歌使いは基本後衛何だろう。ろくに反撃も来ない。
(丁度良い。やっかいだからこのまま一気に――)
そう思って更に加速を付けようとしたらその時、腕に暖かな感触が絡み付いてきた。
「だめ! 待ってスオウ! 倒しちゃったら、この人はどうなるの? みんな柱になったプレイヤー何でしょ!?」
その瞬間僕が生み出してた勢いがピタッと止まった。そうだったんだ。この人達はみんな柱にされたプレイヤー。今はただの人形の様だけど、確かに生きてた筈の人達だ。
プレイヤーがどうなってるのか分からない……もしも僕やセツリみたいにLROに囚われてるのだとしたら、この目の前の奴らを倒したら最悪それは僕達と同じように『死』へと繋がるかも知れない。
勿論そんな確証はない……けど、そうじゃない確証も無いんだ。もしかしたらプレイヤーはキャラが柱に成ったと同時にリアルに戻されてるのかも知れない。それからずっとログイン出来ない状態にされてるとか……けれどそれだって僕達に確認する方法は無いんだ。
どっちも考えれる。そして最悪な結果が有る限り、僕達はこいつらを倒す事は出来ない。倒せる訳がない!
「じゃあ……どうすれば……」
僕は無理矢理止めたシルフィングを震わせながらそう呟いた。だけどそれに返す答えをリルレットも持ち合わせてなんかいない。それも重々分かってる。
でも言わずにはいられ無いじゃないか! だって直ぐそこなんだ。あの扉の向こうにセツリが居る。それなのに!
その時、僕とリルレットの頭上からとてつもなく重い何かが振ってきた感じがした。
「ぐあっ!?」
「きゃああ!?」
二人して同時に地面に張り付くように倒れ込む。何かがのし掛かってる感覚は有るのに、目を開いてもそこには何もない。これって――その時リルレットがポツリと呟くのが聞こえた。
「エイル……止めて」
その瞬間に理解した。そうだよ、これはエイルが自慢気に見せびらかしてた魔法だ。確か重力魔法とか言っていた。つまりさっき何かが降ってきたと思ったのは魔法で通常よりも何倍にも増幅された重力だったんだ。
どうりで何も見えない訳だ。食らって分かるけど、結構屈辱的な魔法。エイルにピッタリだな。
視線を巡らせると確かにアイツの杖が光ってる。無機質な瞳でこちらを見ながら何も言うことなくだ。そしてこの魔法は直接攻撃系なのか微妙。初めの一回だけ攻撃対象だけど重力がのし掛かってる間にHPが減ることはないからだ。
だからこれはほぼ足止めみたいな感じだ。エイルもそういう風に使ってたしこのままじゃ再びプレイヤーモドキに周りを囲まれてしまうだろう。
くそ……リルレットもいるのにエイルの野郎。その時僕の頭には別れ際のエイルの言葉が浮かんだ。
【リルレットを守れ! でないとぶっ殺す!】
声には出てなかったけどきっとこんな感じの事を目で言っていた。そしてなら……僕はやらないといけないと思う。例えお前を倒しても……そうだろエイル。
「イクシード!!」
風が刀身にその刃を纏わせる。そして僅かだがシルフィングを動かす。それに併せて出来た風の唸りが素早くエイルの杖を斬り裂いた。
その瞬間のし掛かってた重力が消え去る。体の重さが無くなり僕は素早く体を回転させて三百六十度に刃を振るう。
「伏せてろリルレット!」
「だめ! スオウダメだよ!」
迫っていたプレイヤーモドキがイクシードの風に弾き飛ばされる。だけどそれでも次にはスキルを発動させて様々な手段で迫ってくる。それに魔法も飛んできて、イクシードで圧倒的に押せないのは初めてかもしれない。
リルレットが必死に叫んで僕を止めようとする。だけどそれは出来ない事だ。何故ならそれは……
「言いたいことは分かる。だけど僕は君をやらせる訳には行かない! 例えあのエイルを倒しても、それでも守れと言われてる!」
「……そんな、そんなのエイルが言うわけ」
「言うよ。リルレットの為なら、アイツは迷わずにそう言う。僕が知ってるアイツはそんな奴だ!」
スキルの爆連鎖が絶え間無く紙一重の位置で続く。きっとこのプレイヤーモドキ共は自身のスキルを使ってるんだろう。研鑽を積んだスキルに研究を重ねたスキルの組み合わせ。この戦い方だって多分知ってる人が見たらその人のまま何だろう。
だから……だからこそ、もの凄くやっかいだ。後ろから迫る機会仕掛けの槍を防ぐと、既に左右から剣と斧が迫ってた。どちらにもスキルの光が見える。
剣がその幅を翼の様に広げてクチバシみたいのをも大きく開けてる。ただでさえ避ける範囲が少ないのにこれは……
「くっそ!」
それでも風の唸りを利用して奴の真横からそれをぶつけて吹き飛ばす。そしてもう一本で迫っていた斧を防ぐ。あの斧を一本で防げるとは思えないがしょうがない。
だけどそれさえ甘かった。斧の方のスキルは思ってた攻撃系じゃない! イクシードを発動させたシルフィングを斧は影の様にすり抜ける。
「なっ!?」
その瞬間、今まで見えてた奴の姿も消えて半歩後ろに同じ姿が現れる。陽炎の様なスキルか!? 完全に外されたタイミングで巨大な斧が僕の体に食い込んだ。
「ぐっああ!!」
赤い鮮血が飛び散るのが見えた。体が大きくブレて膝が崩れ落ちる。
「スオウ!」
そう叫ぶリルレットに迫る魔の手が見える。血反吐を吐いても立たなきゃいけない。こんな所で崩れ落ちたまま終わるなんて出来ない。
だけどその時機会仕掛けの槍を支柱にした蹴りが顔面を捕らえた。防いだ後に奴は次の行動に移ってたって事か。脳が揺れる……血が流れ出る感覚だけがやけに鮮明に感じれる。
ぶっ倒れる――なんて出来るか! 床に腕を突き立てて踏ん張った。前を見据えて駆けだした。イクシードはまだ終わっちゃなんかない!
リルレットに振り卸される幾重もの刃の間に割ってはいる。
「きゃあああああ!!」
ドスドスドス……そんなイヤな感じが肉体を貫く感触がした。そしていつまでも何も起きない事に疑問を持ったリルレットはゆっくりとこちらに視線を向ける。
「あ……ぁあぁぁあああ……スオウ」
リルレットの眼球が大きくなったり小さくなったりしてるのが分かる。それだけ衝撃的な映像が映ってるんだろう。そして確かにそうかも――とも自分で思う。
背中から胸に突き抜けた武器は、リアルなら即死物の光景だ。それなのになまじ動けるから余計に気味悪く見える。武器の刀身には僕の血が流れて落ちているし……実際少しこうやって達観してないとパニックに陥りそうな感じだ。
「うん? ああこれか? 良かったよリルレットが無事で」
僕はそう言ってシルフィングを再び振る。だけどあれ……何だか上手く力が入らない。足下がおぼつかないって言うか妙に体が重い感じがする。
みるとHPがレッドゾーンに突入してるじゃないか。これはかなり危ない感じだ。それでも僕はリルレットも守りながら奴らの攻撃を弾き続ける。
「ダメ、逃げて! このままじゃスオウが死んじゃうよ!」
「逃げるなんて……ここまで来て出来るわけ……」
口も重い。息を吐く度に力も抜けていく気さえする。けれど守らなきゃ、進まなきゃ……そんな気持ちでシルフィングを振り続けた。
「さっきスオウはエイルを倒してでもって言ったけど……実際は倒すまで攻撃なんかしてないじゃない! 誰一人、倒せてなんかない。
スオウはこのままじゃ誰も倒せないよ。それなのにこんな所で死ぬ気なの!? お願い……せめてみんなの所まで退いて」
その言葉で不意にみんなの方を向くと、それはおかしな光景だった。
(何で……)
何で、みんなは普通に無事なんだ? 少し離れたみんなの場所にはプレイヤーモドキが一体も攻撃しに行かない。そう言えば最初、僕達もあそこ等辺に居るときは攻撃されなかった。いや……と言うか、現れてもリルレットが近づくまではこいつらは何もしなかったんだ。
それってつまり、こいつらは守ってるだけなんじゃ無いのか? あの扉に近づく者だけを対象に攻撃を開始してるだけかも知れない。
その時上から炎の塊が降り注ぐ。高圧な炎が白い床に一面に広がった。
「ぐああああああ!!」
不味い……本当にもう雀の涙ぐらいしかHPが残ってない。でも唯一の救いはこの攻撃に併せて前衛部隊が間を空けたこと。
続いて第二波の炎が見えるがこの期が離脱する絶好の時だろう。確かにこのまま進むのは勇気じゃなくて無謀だ。あの場所まで下がれば奴らが攻撃しない事に賭けて行くしかない。
「リルレット! 走れ! みんなの場所まで行くぞ!」
「え? あ……はい!」
僕達は同時に走り出す。目指すはみんなの居る場所だ。だけど間に合うか……第二波の炎は直ぐ上だ。僕のHPに次はない。
その時更に後方から矢が迫る音がする。どう考えても追いつかれる。だけどその時リルレットが横に飛んだ。
「おい!」
「ごめんね……私のせいで一杯怪我させちゃった。だからこれ位大丈夫だから……だから走ってスオウ! 君はやられちゃダメなの!」
リルレットは体で矢を受け止めながらも走り続ける。なら僕も止まるわけには行かない。体を張ってくれたリルレットの為にも、待ち続けてるセツリの為にも、まだ死ねない。
「間に合えええええ!!」
その瞬間炎の塊が再び降り注ぐ。白の空間に赤の渦が立ち昇った。
第八十四話です。
はてさて、アギトの方は過去へダイブしてるけど、こっちはリアルな時間が進んでます。倒せないプレイヤーの影をどう突破すれば良いんでしょうか? てか、スオウは生きてるのか?
あれだけ攻撃受けたらリアルの身体もやばそうだ。だけど今は気にせずに進むしかない! ここを抜ければセツリの居る場所なんだから!
と、いう訳で次回は火曜日に上げます。お楽しみに!




