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雷光が収まるとそこには平べったく広がった兵士達の姿が……これはもう無理だろう。ドロッドロだし。そう思ってるとその黒い池の様になった所に無数の目玉と口のように空いた場所から奇妙な声を出してる。まるで泣いてるかの様なその声はとても聞いてられるものじゃない。なんだか呪われそうな気がする。けどこれで兵士共は無力化したも同然。
チラッとフラングランを見ると黄色い宝石はくすんでる。どのくらいで戻るのか……分からないがとりあえずは後は領主だけなんだ。なんとかなる。そう自分に言い聞かせる。
「まさかアレを倒すか……」
「次はお前の番だ」
流石に逃げるか? とか思ったが、領主はニヤリと嫌な笑みを見せる。
「それはどうかな? ここに居たのが私の兵力の全てだと思ったかね?」
そういった瞬間、孤児院の方から紫色の光が立ち上る。それは遠くに見えるのと同じ……多分アレは他のキーとなる場所から昇ってる光と同質。って事は……
「みんな!!」
「やめろメカブ!!」
勢い込んで駆け出すメカブの襟首をひっつかんで止める。本気で睨まれたが仕方ない。だってあの光に近づくのはやめたほうが良いような気がしたんだ。
「賢い選択だよ。まあどの道無駄だがね」
領主はなにやら紫色の禍々しい液体が入った瓶を取り出す。今でこそ顔色悪いのにあんなの飲んだらまじで死ぬんじゃないか? いや……まさか!?
「これ以上、思い通りにさせるか!!」
僕は風を足の裏に集めて駆け出した。この状況……周りにはアンデットばかり……もしかしたら死ぬ事が領主の目的かと思った。死は普通終わりだ。けどここではそうじゃなくなってる。人々はアンデッドとなって徘徊してるんだ。こいつがあの中に加わるとは思えないが、死を招いてるのは確か。それを望むのなら妨害するのが正解なはずだ。
思った通り、奴はビンの縁に口をつける。そしてそれを一気に仰ぐのと同時にフラングランがビンを割った。まにあったか? わからない。
「ふふふ……ははははガハッ!」
不気味に笑いだしたと思ったら領主の奴が口から血を吹き出した。けどそれで苦しい表情をしたのは一瞬。直ぐに恍惚な表情になった。
「ああ、見える。貴方の言った通りです」
そんな事を言った領主の身体が黒ずんでいく。そして血管が浮き出るように赤い線が走る。そしてそれは足から地面に垂れて魔法陣を描く。これは多分間に合わなかったってことだろう。
「何アイツ……イッちゃったの?」
「寧ろイッてる最中じゃね?」
そんな事を言ってると五ヶ所から立ち上る光が大きく広がりだす。その光は大地を干からびさせて草木を枯らし、建物は風化させ動くものは地に返してる。
「不味いぞ!!」
流石に僕の力じゃこれはどうにも出来ない。逃げ場なんてどこにもない。いくら速く動けても意味のない現象だ。するとメカブが言い放つ。
「私の側から離れるんじゃないわよ!」
メカブはその輪っかの武器を両の手に持ってくるくる回しだす。すると次第に光りだすその武器。そして更にメカブ自身が踊るように回り出した。すると武器の光は更に輝いて紫色の光を狭い範囲だけかき消してくれる。既にこの街全体が紫色の光に包まれてる。頼りはメカブだけ……
「頑張れメカブ。今だけはめっちゃ輝いてるぞ」
いつまで続くかわからないこの光。踊ってるメカブは既に汗だくだ。メカブのスタミナ切れが僕達の終わり。けど、その前に状況は更に動く。何かを呟いてた領主の前にはいつの間にか黒い扉がある。そしてそれが開き、その身体はボロボロと砕け白い光だけが残った。その光に黒い扉から何かが流れ込み、黒くなった光はこの街に蔓延してた光と死を一気に取り込んでいく。
ドクン――
大地の鼓動のような音が聞こえた。そしてそれは断続的に続いてそして……黒い衝撃波と共にそれは顕現した。城並みに大きな姿は白い骨がむき出しで、大きな四本の翼は動いても骨格しか無いから風を切れない。微妙に残ってる肉は腐ってて酷い匂いを辺りに広げるが、その目だけは漆黒に煌々と輝いてる。スカルドラゴンと表記されたそれは死を体現する最強の種。
この街全てを犠牲に領主はとんでもない物になったようだ。無意識に手が震える。これは……
「メカブ、やれるか?」
「馬鹿言わないでよ。インフィニットアートが全快してないから無理」
流石のメカブでもこいつ相手には意地張れないようだ。いや……まじでどうしよう。途方に暮れるしか無い僕等をスカルドラゴンがその目に捉える。