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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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始まりは拳から

 俺は奴へと向かう。その槍に思いを込めて。だけどガイエンの持つカーテナは遥かに強大だった。動きを封じられるも何とか切り抜ける。だけど届いた痛みは拳一つ……そして溢れだしていたカーテナの力の渦に呑み込まれた俺は、在りし日の思い出を浮かびだす。


 俺の槍が異形と化したガイエンへと真っ直ぐに向かう。背中に受ける炎の壁の熱をそのままたぎらせて振るう槍に俺は最大限の力を込めていた。


「何が今更か! 貴様がこうやって私の前に立ちふさがる事も今更だろう!」


 ガイエンの言葉が俺の心に痛みを与える。何故なら確かにガイエンの言うことはその通りだから。俺は一度捨てたんだ。責任とか期待とか色々な物を全部投げ出して、押しつけて、俺はこの国から逃げ出した。

 だからこそガイエンにとってはそんな俺がまさに「今更」だと言っても仕方ないこと。でもそれでも……


「その通りだ! 俺も今更だよ! そんなの分かってる。だけど結局、俺は何一つ捨てきれなかったから戻ってきたんだ! もう一度……そのために!」

「そんな身勝手! 甘えで許されるとでも思ってるのか! なら貴様は相変わらずだ!」

 腕を両側から合わせるように振るうガイエン。パン! と手と手が合わさった音が響いたとき、両側からカーテナの力が迫る。

「ぐっ!!」


 デカい、とても避けれる次元の力じゃない。俺は槍を横に構えて何とか防いだ。でもスキルも不発に終わって、何とか防いでるこの攻撃も勢いが落ちた訳じゃない。今にも受け止めてる槍が弾かれる位にしなっている。

 直ぐそこに……後一足で届く位置にガイエンが居るのに……奴のそのムカつく顔に俺は一歩も届かないのか。

 カーテナの力と拮抗するだけで精一杯の俺へガイエンが今度は正面に片手を向けた。それは攻撃態勢だろう。今の俺に防ぐ術はない。

 槍を放さない様に力を込めて、絶対絶命のピンチの中それでも俺はガイエンを真っ直ぐに見据える。だって結局ピンチは自分だけじゃない事を俺は知っている。

 協力してくれた誰もが厳しい戦いに成ることを分かっていて、それでも協力してくれたんだ。それなのに俺が真っ先にやられるわけには行かない。

 そもそもこの戦いはゲームだからって負けて良い物じゃないんだ!


「身勝手も甘えも重々承知だよ……本当に今更だし、自分の弱さが原因だし、お前のせいだなんて言わない。でもだからってもう一度繰り返す事なんか無いだろう」

「繰り返す? 私はあの頃と何もかもが既に違う。私はお前と違い、常に進んでいるんだよアギト!」

 ガイエンの腕の先へと影が集まっていく。そして放たれるは黒光りする長い槍。それが一直線に俺の頭へと向かって来る。

「――っつ……」


 避ける術も防ぐ術も俺には無い。これが違った道の結末何だろうか。LROは部位によって受ける攻撃のダメージ比が異なってくる。

 そして当然、頭は急所の部位だ。ダメージ比は最も大きくなる場所。この黒い槍がどこまでの攻撃力を持っているかは分からない。

 だが、無事で済むとは思えない。奴が満面の笑みを浮かべて放った攻撃だ。一発でしとめなくても、どんな嫌らしい効果が付加されてるか分かったものじゃない。

 ゆっくりと見えるこの瞬間――この数瞬――この刹那――聞こえたのは思い知った彼女の声。


『待ってるから……向こうで、その言葉を聞かせてね』


 追いつけなかった……リアルでは。それを許されなかった。ずっとずっと、いつの間にか二人は遠くに行っていた。目の前のコイツも、そしてアイリもだ。

 後悔はもうしつくした。それで止まった足は仲間と友達に、もう一度引っ張ってもらった。でもそれは歩き始めだけ……歩き続けるのは俺の意志で、でもそれだけじゃ決して追いつけないから俺は走り出したんだ。

 まだまだ……まだまだ……止まるには早すぎる!!


「うおおおおおおおお!」


 黒い槍が俺の頭に刺さる瞬間。俺は槍から手を離し前へ出た。頭を傾けて黒い槍をかわし、同時にウインドウを開く。

 離す直前に再度発動させたスキルが主を失っても一瞬だけカーテナの力を防いでくれた。けれどその一瞬で充分だ。

 俺は思ってた。これだけの力、自身に当たることは無いのかと。これだけ近くで何の躊躇いもなく放つんだからやっぱりそれは無いとも思える。

 けれど逆にこれがその限界なのかも知れない。奴自身を中心に置いてそこから放射状に放つタイプは別として、こうやって力を自由に操って向かわせるタイプはもしかしたら自身に当たる事だってあるかも知れない。


 でもガイエンは力を躊躇わなかった。それも凪払う形のをこれだけ近くで、この巨大さでだ。考えられる事は幾つかそれでもある。だけど俺はその中の一つに賭ける!

 ガイエンの……コイツの僅かな周囲。そこだけはカーテナの力の影響は受けない絶対領域だと!

 その瞬間、後ろで爆発の様なカーテナの力同士がぶつかる音が周囲を埋め尽くした。だけど俺はまだ生きている。どうやら俺の推測は正しかった様だ。

 潰されずに自身に迫った俺にガイエンは驚いている。けれど俺も余裕なんて無かった。考えてたよりも絶対領域は狭い。体全部がそこに収まって無かった。

 片足が一瞬で異様にブレた。きっと直撃こそしなかったが、あの巨大すぎる力の余波だろう。後ろではぶつかり合った力が渦を巻いていて、俺もこのまま巻き込まれそうだ。ブレた片足が宙をさまよい、そして体がそれにつられる。


「つぁ!? くっそおおおおおお!!」


 開いたウインドウから新たな武器を出す余裕はない。俺は拳を握りしめて今届くガイエンの体の一部へと向けた。そこは丁度、奴が止めの黒い槍を出した拳しかない。

 LROでは武器を持たなくったって我が身一つで攻撃出来る。決して大した威力には成り得ないが、今は諦めずに向かうことが大切だと思える。例え、今の奴の体には効かないとしてもだ。

 力と思いを込めた拳を俺はガイエンの左拳にたたき込む。


「ぐああ!!」

「――っつ!?」


 ガイエンは思わず悲鳴を上げた。俺もその拳の痛さに奥歯を噛みしめる。だがこれは予想外だった。だって奴の今の体は俺の槍でも無力だったんだ。ただ貫通しただけ……だけどそれが何で、こんな何の変哲もない拳が効いた?

 分からない……けど、その時あることに気づく。


(悲鳴だ)


 大量の子供の悲鳴が聞こえる。さっきまで愉快というか不気味だけど笑い声に聞こえていた声が、悲鳴の様な叫びに変わってる。

 体がカーテナの力の渦に引っ張られてガイエンから離されて行く。するとその時にある物を俺は見た。それはガイエンの指に輝く指輪だ。

 そしてあれは王の選定石と言われる『リア・ファル』あれを手にした事で……あれがガイエンを王と認めた叫びをあげる事で、カーテナはガイエンに力を与えている。

 そのリア・ファルが痛みを訴えるかのように悲鳴を上げて、その拳には攻撃が通った。いや……もしかしたら、さっきの俺の拳はガイエンに届いたんじゃ無いのかも知れない。

 まさか、この戦いの鍵はカーテナじゃない?


「うああああああああああああ」


 けれど空しく響く声と共に俺はその竜巻の様に成っている渦へ飲み込まれていく。最後に見たガイエンは恨めしそうにこっちを睨んでいた。その大切な腕を抱えて……いや、その大切な物を抱えて……か。

 俺はそんなガイエンを見るとふと昔と同じ事を思ってしまう。それはいつ思ったか思い出せないが確かに俺はこう思った。


(いつもいつでも、そんな目してないで笑えよガイエン。楽しんだ奴が勝ちだろ……ここはゲームなんだから)


 今の渦に吸い込まれる俺を見てガイエンが何を思ってるかは分からない。だけどそれは……きっと昔と変わらない気がする。

 そして俺は巨大すぎる力が生み出した渦の中へ消えていく。




「諦めるな貴様等!! まだまだ我らはやれる! エルフの誇りをこの醜いモンスターに見せつけてやるんだ!」

「ちょっ――ここは撤退でしょ!? ヒーラー全滅しちゃってるのよ! 誇りとか暑苦しい事言ってないでさっさと逃げる!」

「「そうだ! そうだ!」」


 フィールドに響くそんな声がどこかから聞こえてくる。何だか危ない様な状況が声から伝わってきて、僕達はその方へ駆けだした。

 今居るフィールドは活火山内部。マグマ溜まりがそこかしこに顔を覗かせて、時々そこからマグマの柱が吹き出していたりする過酷なフィールドだ。

 時期に寄ってはここは侵入できない位のマグマが吹き出してるけど、今はそれの解禁時期。マグマも穏やかに成ってるけどそれでもとても熱い場所だ。

 そこらの岩も溶けると思える程に熱いけど、活火山でしか採れない鉱石アイテムもあるから職人らしき人達もチラホラ見える。職人集団のスレイプル族はテントとか表に張ってたし……随分と最近は境界が緩く成ったもんだ。

 そんな事を考えながら奥に進み続けると、再び言い争う様な声が聞こえてくる。


「逃げるだと!? お前達に恥は無いのか! ここはゲームなんだぞ。そんな場所でも逃げるのか貴様等は!!」

「ちょっと何よそれ! ゲームだから無理はしなくてもいいんでしょ? 無理なんてリアルでし飽きてるのよ。私はスカッと敵を倒したいのよ! 憂さ晴らし! 分かった?」

「ふん。貴様の様な奴がエルフとは反吐が出るな」

「はぁ!? もういいわ、最初からムカつく奴とは思ったけど、アンタなんか誘わなきゃ良かった。みんな行きましょう!」


 ドタドタドタと響く足音に俺達は顔を見合わせる。「あちゃ~」って感じに。だってそうだろ? 顔も姿も見てないけど、女の方が怒るのも無理無い。俺だって頭に来るさ。てか、あんな事を堂々と言う奴なんて居るんだなと少し関心したと言うか、呆れたと言うか、きっとフレンド登録者数はゼロだな。

 そう確信出来る。会ってもいないけど。そんな事を考えてると前の方から数人のエルフのパーティーが降りてきた。きっとさっきの声の主も居るはずのパーティーだな。

 そしてそれは一番前を走る、体に不釣り合いな程の巨大な剣を背負った彼女だろうと推測できた。だって異様にプンスカしてる。そんな効果音は出てないが、LROの感情表現は大げさだから良く分かるんだ。


「ちょっとアナタ達待ちなさい」

「うん?」


 何だろうか。いきなりすれ違いざまに呼び止められた。彼女らと俺達は坂道の中腹辺りで向かい合う。


「アナタ達、ここから先には行かない方が良いわよ。EXモンスターと戦闘中だから……スッゴいヤな奴が」

「えっと……」


 流石に「聞いてたから知ってます」とは言えない。本当にもの凄い嫌悪感を混ぜた口調だったからな。てかさ


「それはどっちに対する注意を促してるのか良く分からないんだけど? モンスター? それともそのヤな奴?」


 俺がそう言うと巨剣を背負う彼女は腰に手を当てて、ズイッと顔を近づけてきた。


「そんなの当然……あのヤな奴よ!! 思い出しただけでも腹が立つわ! 何が誇りよ! 私達はそんなもん背負ってないつーの! 気楽に楽しくやっちゃダメなわけ!?」


 何かその鬼気迫る表情がこえーよ。と言うかそこはモンスターだろ普通。当然の使い所が違う。まああんな事を言われた彼女にとっては当然かも知れないけどさ。

 どうせならその周りの仲間に当たって――って、何か助けを求めた俺の視線を悉くその連中が避けるんだけど。どうやら既に被害には遭ってるらしい。でもこんな見ず知らずの俺にまで絡む事無いだろう。完璧とばっちりじゃんか。

 ああ~さっきから同じ事を織り交ぜながら不満や怒りを吐き出してるから通常の二倍は長いしウザい。


「いやーそれで良いと思いますよホント」


 取り合えず収拾のためにもそう言うしかない。まあ俺にとってもここはゲームだしな。それ以上でも以下でも……隣を見るとそこには知り合ってからいつも行動を共にするパートナーが居る。まあだから以上はちょっと越えるかも知れないが、基本やっぱりLROはゲームだ。

 だから棒読みだったが、心は込めて言ったつもりだ。そしてその言葉は棒読み、だったが伝わったらしい。


「だよね! だよね! 私間違ってないよね! あーもう、あのバカに一発ぶち込んどくんだった、スキル! アナタ達も関わらない方が良いわよ」

「ははは、俺たちはただEXモンスターを見ときたいだけですよ。そんなムカつきそうな奴とは馬が合いそうに無いんで心配無いです」


 てか、合う奴なんてそれこそ特定の集団くらいしか無いんじゃないだろうか? 言葉を聞いてる限りアレっぽいんだよな。

 俺に迫ってた彼女は、その言葉で納得したみたいで(と言うか、不満をぶちまけて落ち着いたみたい)パーティーの先頭に戻る。


「あははは、まあそうだよね。アイツもしかしたら『レイアード』かも知れないし、二人なら見つからない方がいいよ。じゃねー」

「ええ、気を付けます」


 そして彼女達は去っていった。俺が思い至っていたキーワードを心の隅に引っかけて。てか、結構長い文句に付き合ったせいで時間を食った。もしかしたら上の奴はもうやられてるかも知れない。

 急いだ方が良い。でももしかして本当にそれなら関わりあいたく無い気持ちが生まれてる。


「ねえ、『レイアード』って何アギト?」


 ようやく声を発したアイリが例の言葉を発した。さっきまで頑なに何も言わなかったのに、ようやく言ったのがソレか……こっちとしては知らせる気も無かったんだけど、こうなったら仕方ないな。


「『レイアード』ってのは種族至上主義の連中の事だよ」

「種族至上主義?」


 首を傾げるアイリのストロベリーブロンドが炎の明かりが余り届かない坂道に揺れる。


「そう、俺達は『エルフ』だろ。後このLROには『ヒト』『モブリ』『スレイプル』『ウォンク』『シースルー』の五種族がそれぞれの国を持って居るじゃん。その種族間それぞれで自分達が一番だ! って思ってる奴らの事だよ。

 まあ多少はさ、誰しもが自分の種をそう思うのは有ることだけど、それが行き過ぎた奴等やその集団を総括して『レイアード』って言うんだよ」

「なるほど。要は危ない人達だね」

「まあそうなんだけど……何だかその解釈じゃ、俺の熱のこもった説明が空しく感じるな」

「ほへ?」


 何だか良くわからないって感じの間抜けな声を出すアイリ。たく、かなり装備も整って来てもう脱初心者位に成ってるのに何だか妙な所が抜けてるんだよなアイリって。

 結構奇行も多いし、これじゃいつまで経っても一人立ちは出来ない感じだな。本当に俺が付いてなきゃ一人で狩りにも行かせられないって言うか何と言うか……何かこれじゃ理由を付けて逆に子供から離れたくない親みたいな感じに成ってないか俺?

 何……実は俺のせい? とか思ってると服の端をチョンチョン引っ張る感覚が有った。誰だ? 何て思わなくてもここには今アイリしかない。


「うん?」

「で、良いのアギト。 行かなくて?」


 そう言って上の方を指さすアイリ。俺はそこを見つめてため息一つ付く。


「はぁ~、実際何かやる気が削がれたな。レイアードの奴等って過激派だから関わりたくないし」

「てぃ!」


 コツンと頭を気合いの入った声で小突かれた。

「何すんだよ」


「フンだ! アギトが情けない事言うから。だってまだ上で戦ってる人がそのレイ何とかって決まっても無いのに避けるのは良くないよ。

 どんな人にもまずは歩み寄り。それさえ出来ればみんな仲良し何だから」

「またそれかよ。ついでにレイアードな」


 アイリの言葉に投げやりな言葉を返す。だってアイリはそう言って直ぐに分不相応な救出に向かうんだ。まあそれが余裕がある時なら良いけど、こっちも消耗してる時とかマジでやめて欲しい。

 アイリのこの言葉のせいで一体何時間分のスキル上昇が不意に成ったことか。幾らゲームだから時間は戻って来ないんだ。

 だけどこれには最初に俺に助けられた印象が強く残ってるのが原因っぽいから強く言えないんだ。原因の一端と言うか発端だから。


「またそれかよって今回先に走り出したのはアギトでしょ。助けようと思ったのなら途中で投げ出さない! これもアギトに教わったよ」

「うぐ……」


 そんな事を満面の笑みで言われたら返しようも無いじゃないか! 最近思うように成ってきたけど、もしかして俺の方が押され気味? って感じる場面が多々ある。

 おかしい……俺の方がここでの全てにおいてアイリより勝ってる筈なのに一体どうして?


「大丈夫! きっと上の人も助けを待ってる筈だよ。だって一人は怖くて寂しいから」


 シュン――っと少しだけアイリの瞳が暗く成った気がした。流石にLROでもそこまでの微妙な表現が有るかは分かりかねるが、そう見えた物は仕方ないんだ。

 こうなったら自然と足が動き出す。自分が死地に向かってると分かってても、幾ら無謀だと言い聞かせても、アイリのあの目を感じると立たずには居られない。


「ああもう! 分かったから行くぞアイリ。てか本当に助けなんて求めてるのか? 緊急コールも出して無いぞ」

「きっと一人で戦ってるかそんな暇無いんだと思う。だって何だっけ……EXPモンスターと戦ってるんだよ!」

「Pが多い。EX、エクストラモンスターな。てか、そうだった。二人追加したくらいじゃ勝てないと思う……から、やっぱやめようぜ。

 今ならまだ間に合う。背中は任せろ!」


 俺は何とかアイリの心変わりを願ってそう言った。だってEXモンスターって特定のアイテムを揃えて出現させるハイクラスな奴だ。簡単に言うならボスか中ボスレベル。

 その出現させる為のアイテムにもよるけど、下手すればアライアンス程の人数で挑む奴だって居るんだ。そしてさっき降りてきた人達は少なくとも2パーティー。

 それで勝てなかったのに、どうやって三人で勝てと? アイリは器用で魔法剣士みたいな事が出来るけど、それでも本職のヒーラーに並ぶべくもないし。

 だけど、横を走るアイリは既に変な使命感に取り付かれてる感じだった。


「何、格好良い台詞で情けない事言ってるの! 勝てる勝てないじゃ無いよアギト。私達が彼の為にやるか、やらないかだよ! 

 そして今やめたらきっと私達の心はモヤモヤーってして、彼は無惨な死を遂げるの。そして折角の夢の場所でも誰も信じれなくなって……そんなのダメだよ!」

(ああ、そうっすか……分かってたけど、今の状況はその彼が自分で撒いた結果だと思う。それに途中から、妄想入りすぎだ)


 もう色々と面倒だから、いつもの様に何も考えない事にしよう。俺はただアイリを守れればそれで良いし、コイツが楽しそうにしてれば良し。きっと今日稼いだスキルポイントは不意に成るだろうけど、それも考えない(涙)



 そして俺達はその場へと顔を出す。見えるのは四足歩行で溶岩を背負ったような大きな獣と、一人のエルフ。


「おい! 協力するから緊急コール出せ!」

「ふん。緊急コールだと? そんな侮辱を晒す気は無い!」


 そう言ってこっちを見ようともしない奴に既にイラっとくる。


「何で侮辱なの? 私達は一緒に戦いたいだけだよ!」

「貴様等に信念は有るのか!?」


 そう問いかける奴にアイリはまっすぐまともに返す。ある意味凄い奴だ、両方な。


「有ります! アナタと戦うっていう信念が!」


 すると初めてこちらを向いて、奴は俺達を一瞥して言い放つ。


「エルフか……喜べ! 貴様達は合格だ!」


 あぁ? と内心言ってた。喜んで武器を抜いてるアイリには悪いけど、まず俺にはやるべき事が有る。俺は拳を握りしめて駆けだした。

 自分とは対象の蒼い髪をなびかせるそのエルフに一発入れる為に。そして響く、鈍く乾いた音。これが俺達三人の初めての邂逅だった。

 第七十九話です。

 今回遂にやっとでアギト達三人の過去編へ。なんだかどこで出すか悩んでたけど、書いていったらここしか無いだろ! って思いました。てか、これ以上延ばして二人のバトルを続けるのは無理。色々と昔の事を引き合いに出してたから、そろそろ分からなくちゃ話が進まない様です。

 そんな訳でアギト視点は過去編が続きます。では次回は水曜日更新という事でさようなら。

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