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夜の森を駆ける。あんまり速過ぎると神官さんがついてこれないからスビードは落としてる。けどそれでももたもたする気はないから最短ルートを進んでる。僕にはどこが最短かなんてわからないからローレの言うとおりに進んでるだけだけどね。こいつは精霊の気配がわかるらしい。本当か? と疑わしいけど、今は信じるしかない。
「ある意味ラッキーだったかもね」
「何がだよ?」
ローレのそんな言葉に投げやりに返す。するとローレはこういった。
「実は今日だけじゃ無理っぽかったから。貫徹予定してたんだけど、良かったわね。三時くらいには帰れるわよ」
「それでも三時なのかよ」
やっぱこいつ徹夜も視野に入れてたのかよ。だろうとは思ってたけどね。だって本来ならここの他にあと二つも村を通らないと行けないんだろう? どう考えても一晩では無理。現実を見たくなくて僕もそこら辺曖昧にしてたけど、三時ならまあ……まあなんとかなるか。まだ若いしね。最悪授業中に寝ればいいだけだ。こっちには最強の家庭教師の日鞠がいるからな。
授業なんて適当でもどうにかなる
走り続けてると、神官さんがドサッと倒れた。ヤバっあの人の事忘れてた。あんまり速く走ってないとはいえ、流石に走りっぱなしと言うのは普通の人には辛かったようだ。当たり前か。こんな森の中をそれなりの速度で走ってたら体力も持っていかれる。あの人にはぼんやりとしか周りが見えてないようだしな……自分の感覚だけで走ってたや。
僕たちは一時休憩の流れになった。神官さんはかなりゼェハァと肩で息をしてた。足もガクガクしてるし、かなりガタが来てそう。僕の想像以上に神官さんは消耗してる。そんな彼にチェルリッズが回復魔法を使って体力を回復してた。まあ体力とスタミナは違うんだけどね。でもローレの魔法なら効きそうな気もするし、余計な事はいわない。
「あんたはやっぱり変ね。スキルも魔法も使ってないのにこの森を余裕で駆ける。やっぱり……開いてるのかしら?」
色々と神官さんに強化系の魔法を掛けたローレがなにやら言ってきた。一応村を出るときにも掛けたんだけどそれだけじゃたりないと判断したんだろう。てか開いてるって何が? 僕は首を傾げる。
「でも、あんたが開いてない訳無いわよね」
「勝手に結論出すなよ。てか大丈夫なのか? 精霊には近づけてるのか?」
「そんなに不安ならそこらの木を登ってみなさいよ。きっと見えるから」
何が? と言おうとしてやめた。百聞は一見にしかずだ。リアルなら一苦労する所だけど、ここならこんな木は苦もなく登れる。足に風を集めて一気に駆ける。そして天辺に到達した所で周りを見渡す。けど、見渡す限り森森森なんだが。山も見えるけど、あそこ越えるとかいわないよな? その時だ。背筋に寒気が走った。そして振り向くとそれはあった。月明かりに照らされて浮かび上がるのは大きな雲の塊。あんなの自然にできるわけない。
そして再びゾクッと背筋に走る寒気……なんだろう? 視線を感じる気がする。あの雲から見られてる? ジッと雲を見つめる。
「ファ!?」
変な声が出た。だっていま雲が瞬きしたような……流石にそんなわけ無いか。うん、あるわけない。あれ自体が精霊なんて事……そう思おうとした時、明らかに雲の塊に目が見えてそして光った。僕は一瞬で空中に飛んだ。それは正解だった。だって眼下を見ると、さっきまで居た木とその周辺が消えてた。まあ上部だけだから地上にいるローレ達は無事だろう。
てかそんな場合じゃない。会話はどうなった? なんでいきなり攻撃なんて……怒ってるとかそういえば言ってたか。これ、まずくないか? 明らかにあの雲は僕を見てる。狙いを定めてもう一度今のを撃とうとしてる。不味い、次はかわしきれない。