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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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燃えたぎるは炎の壁

 カーテナの加護を受けた親衛隊との戦いが始まろうとしてる。だがその姿を俺達は加護なんて物に思えない。それを知ってる俺達には特にだ。そしてセラやシルクちゃんは俺を退け者にしようとするし……挙句の果てには俺とセラ達を分ける炎の壁が夜空を突いた。

 だがそれはみんなの優しさ。そして思い。俺の前にはガイエンだけが佇んでいる。


 『カーテナの加護』それは過去に一度、アイリがこの国を取り戻す為に解放したカーテナの力。あの時は個を主張するエルフがようやく団結した時で、加護は俺達に勝利をもたらした要因と言っても過言じゃない。

 アルテミナスの国土に居るエルフ全てに距離を関係なく、攻撃力・防御力・身体強化あと他色々をブーストしてくれる加護はまさに最高峰の補助スキルだ。

 それが今や敵である親衛隊に施された。同じエルフで、アルテミナスの地を踏んでる俺達には何故にカーテナの加護が掛からないのか……それはあくまでその対象者を使い手が選べるから。

 前の時は全員で一致団結してたから、この地に居るエルフ全てにアイリは加護を施した。そこに迷いなんてなかっただろう。

 だけど今の加護は条件付き。きっとガイエンがカーテナに下した指示は『親衛隊にだけ加護を』みたいな事だろう。多分、同じようにガイエンの指示で首都を守るために戦っているアルテミナス軍に加護は施してない。そういう気がする。


「カーテナの加護ですって……これが?」


 そう呟いたのはセラだ。見据える先は浅黒い肌に一様になった親衛隊。セラも加護がどういう物か知っている。これがアイリが使った加護とはどうしても思えない様な疑問の声。

 それは俺も全く同じだ。だってあれはかつてその身で受けた物とは随分違う。あんな浅黒く肌がなったりしなかった。ただ優しい光が仄かに体を包み、すると感じる……このアルテミナスと言う大地全てが守ってくれる様な包容感。そんな暖かな物だった筈なんだ。


「そうだ、それは紛れもなくカーテナの加護を受けてる状態。疑うのなら確かめて見ればいい。だが覚悟する事だな。そして後悔も同時にしておけ。

 王に逆らう事がどれだけの罪で、貴様が認めなかった私が真の王だったとな」


 ガイエンの言葉に鋭い眼光を飛ばすセラ。だがその時、セラの前に白い影が舞うのが見えた。


「我らの王を何故認めない?」


 それは一人の親衛隊。肌は黒くなっても服までは変わってない……というか、肌が黒くなった分騎士服の白さが逆に栄えている。

 闇に浮かぶような騎士がセラに接近して長剣を振りかぶる態勢。


「――っつ! アンタ達」


 セラは何とかその攻撃を袖から出した暗記で受け流しす。だが普段なら続けざまに反撃をしそうなセラの体は、予想よりも大分崩れてる。

 どうやらカーテナの加護でパワーアップしてる状態だから思ったよりも威力が高かったんだろう。それに速かった。親衛隊が幾らガイエンが集めた精鋭だからってセラだって引けを取らない筈だ。普段なら。

 やっぱりアレは紛れもなく加護の状態と言うことか。セラは崩れた態勢でもそのまま言葉を続ける。


「なんでそんなに成ってまであんな奴に付くのよ! どうかしてるのよアイツ。ちゃんと目開いてるんでしょうねアンタ達?」

「たかが色が変わっただけだろう。それにアイツなど無礼千万だな。あの方がどれだけ国を……我々を思ってるのかも知らぬ分際が!!

 貴様等の方こそ、その目を開いてあの方の姿を焼き付けろ! 自身を犠牲にしてまでこの国を想うあの高尚な姿をな!!」


 激しい言葉がこの場に木霊した。親衛隊の奴らにはあのガイエンの姿が立派だと映ってる様だ。それに自分達の変化も気にして無い様子。

 確かに肌の色が変わるだけなんてカーテナの加護っていう前提を取り払えばそんな驚く変化じゃないのかも知れない。肌の違いなんてリアルでもある訳だし、ガイエンの様に化け物じみてる訳じゃないんだからな。

 寧ろこいつ等はこの変化をガイエンに近づけたと喜んでいそうでもある。高尚……なんてあの姿を見て思えるんだからな。

 言葉と共に地面に膝を付くセラに突きつけられる長剣。あのセラがたった一撃で追いつめられるなんて……やはりカーテナの加護の力は厄介だ。ただでさえ親衛隊はこちらより数が多い。

 まさに圧倒的に不利な状況。


「何が目に焼き付けろよ……あんなの一分一秒たりとも見たくもないわ」


 だけどどんなときでもセラの毒舌は変わらない。本当に頼もしい奴だ。前よりしつこく無くなったしな。だけどその言葉は親衛隊に剣を振らせるには十分な言葉だった。

 突きつけられてた剣を親衛隊の奴は一度掲げる。


「よろしいですかガイエン様?」

「ああ、その身にわからせてやれ」

「はい」


 そんな僅かなやりとりの間に俺は駆け出す。セラをやらせる訳には行かない。だけど後振り下ろすだけで良い時間と駆け寄る時間には差がある。間に合わない……だけどその時、何かが親衛隊の腕へかぶりついた。


「クピー!」

「ナイスピク!」


 言葉と共に動き出すセラ。ピクに腕を噛まれて攻撃出来ない親衛隊へあの変形型の武器を振りかぶる。それはダメージとして通り親衛隊は後ろへと下がった。


「セラ! 大丈夫か?」

「ええ、ピクのおかげで助かりました」


 セラの元にたどり着いた俺は親衛隊共を睨んで武器を構える。そして良い働きをしたピクは主の元へ戻っていた。

そしてそんなセラを肩に下ろしてシルクちゃんがおもむろに俺の槍に手を添える。


「アギトはこっちは良いですよ」

「は?」


 訳が分からない。親衛隊は加護の力でかなりパワーアップしてるのに、ただでさえ少ないこっちは一人でも多い方が良いはずだ。

 それなのに……


「そうですね。アギト様はこっちは気にしないでください」

「おい? セラまで何言ってるんだ?」


 何で二人してそういう事を言うんだよ。周りのみんなも戸惑い気味じゃないか。今言い争ってる場合でも無いだろうにさ。


「くくははははははは!! 女二人に用済み扱いとは、よかったなアギト」


 少し離れた場所からガイエンのそんなふざけた言葉が聞こえて腹立たしい。だけどそれには直ぐにセラが言い返してくれる。


「うるさい、黙ってなさいよ。アギト様をアンタと同じ価値まで下げないでくれる」

「くっ……親衛隊! 全員で掛かれ。一匹たりとも逃がさずにねじ伏せろ!」


 セラの言葉に堪忍袋の緒が切れたガイエンが一斉に親衛隊を動かした。黒と白したパンダみたいな色の集団が一気に俺達へと詰め寄って来る。この状況じゃ、さっきの様な言葉はもう言えないだろう。

 だがシルクちゃんは俺の槍から手を離そうとはしない。自分の直ぐ後ろにまで既に親衛隊が迫ってるのにも関わらずだ。


「シルク!!」

「アギトはここに何しに来たの? 私達は何の為に集められたの? それを思い出して!」


 その瞬間、後ろからの光線が迫っていた親衛隊の足を止めた。そしてその強い光に誘われるように、ここに居る誰もがそれを放った人物へと目を向ける。

 そこには腕を突き出したセラとその周りに八つの聖典が円を成して回っていた。


「聖典収束砲解放終了。アギト様・・私達は貴方が決着を付けられる様に居るんですよ」

「セラ……」


 八機の聖典からは白い煙が上がっている。あれは大技だからな。収束砲は最低でも四つの聖典を同時に操れないと出来ない技。そして四の倍数毎にその威力は跳ね上がると聞いた。

 だから八機の今回も威力は上がってる筈だ。その証拠にカーテナの加護を受けている親衛隊でも、直撃した奴は半分以上のHPを減らしている。

 確かにこれなら……とも思う。


「いや、ダメだ。危険すぎる。数が違うんだぞ。きっと次は無い」


 元々収束砲は連射出来るものじゃないんだ。それに真っ直ぐにしか進まないし、気を付けてればそうそう直撃なんかしない。切り札には成り得るけど、それは止めの一撃としてだ。

 これだけの数相手だと次を打つことだって難しい。だけどそんな俺の真剣な言葉をセラは笑顔で吹き飛ばす。


「なら尚の事でしょう。今更こちらに一人増えたって余り意味はないですよ。それよりも頭を潰した方が確実じゃないですか?」


 セラは横を向いてガイエンを指さす。そして指を刺されたガイエンはまた笑っていた。


「はーはっははっはははははは! 私を倒す? 世迷い言だな。全てを無くしたそいつに、全てを手にした私を倒す事など不可能な事だ!」


 今度はガイエンが俺を指さしている。嘲りと、中傷の入った顔でいやらしく微笑みながら。あの余裕あの自信。全てはカーテナがその身にあるから何だろう。

 確かにガイエンは周到な計画で全てを手に入れた様だ。そして俺は全てを確かに無くした。力も無くした……想いだって……そして挙げ句の果てには仲間や友を自分から捨てようとまでした。

 だけど俺はまた戻ってきた。捨てた物を拾い集めて、無くした物を取り戻す為に。けれど確かに、それが果てしなく難しいと感じてる。

 俺の手に残ったたった一つの槍と、奴が一体化したカーテナという剣は武器の格がそもそも違いすぎる。それにあんな姿に成ってまで……ズレてると思うし、確実に間違ってると思う。

 だが、あれだけの覚悟は本物だと親衛隊や今までのガイエンの行動で確信していた。だからだろう……俺の槍は無意識の内に僅かに震えている。そして言い返せない。

 だけどその時、強い何かが槍を伝って伝わった気がした。震える槍を彼女は力強く握ってる。


「そんなこと無い!! アギトならきっと……ううん絶対に貴方を倒す事が出来ます! この場に集った私達は、誰もがそう信じてるんですから!」


 放たれた言葉は力強く攻撃的。彼女にとってはとても珍しい事だ。だが、俺に伝わって来た物はもっと優しい感じの物。

 彼女が……シルクちゃんがそう叫んだ時、槍から伝わった物を悟ったよ。きっとあれは『勇気』だったんだ。シルクちゃんは俺に勇気を分け与えてくれた。


「ふん、人間風情では力の差も分からんようだな!」


 その瞬間再び、ガイエンの影が炎の様に揺らめきだした。そして俺も槍を握る腕に力がこもる。


「分かりますよ。私はエルフ……だから分かります。アギト様はアンタ何かに絶対に負けはしないと!」


 セラの言葉の終わりに爆発したように伸びた黒い影が二人へと襲いかかる。今度は初めから飛び出た二つの影が二手に分かれてセラとシルクちゃんを狙っている。

 だけど二人は動かない……何故……その時俺は気付いた。槍に添えられてたシルクちゃんの手が離されてる事に。後はもう考える事なんかしない。ただ想いのままに俺は飛び出し、分かれた二つの影をスキルを発動させた槍で叩き斬る。


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」


 本体から切り離された影は砂のように消えていく。


「アギト、貴様!!」

「勘違いするなよガイエン。お前の相手はこの俺だ!!」


 吠えるガイエンに俺は槍を突きつけて言い放った。そしてピクが甲高く鳴いて、その羽を世闇に舞わせる。だけどにらみ合う俺達にそれを綺麗だと思える余裕はない。

 やっちゃった感は有るがこうなったら……元々そのつもりで来たのも事実。シルクちゃんから貰った勇気のおかげでもう腕は震えてない。

 瞬きすら出来ないような緊迫感の中、いきなり俺の背中に衝撃が走った。


「ぬあ!?」


 まさか親衛隊の攻撃? そう思って振り向くと背中に思いっきりぶつかってるのはピクだった。なんでピクが? とか思ったけど、ピクが自分からこんな事するわけ無い。 俺は少し離れたシルクちゃんを見やった。


「よっし! ナイスだよピク。これで準備万端。アギトはもう大丈夫だよね?」

「シルク……」


 その顔は何だか決意に満ちたような顔だった。だからだろう、文句を言おうと思った口が名前を呟くだけに止まったのはさ。


「くっ、ガイエン様を守れ!」


 今までセラの収束砲で止まっていた親衛隊がその声で再び動き出そうとする。だがそれはどうやら一足遅かったみたいだ。さっきのシルクちゃんの準備万端――その意味がここで分かった。


「行かせません! ピク!」


 シルクちゃんの声で背中から離れたピクが俺の後ろに炎を吐く。そして続いてシルクちゃんが片手で杖を掲げて詠唱してたらしい魔法を発動する。

 するとなんと、地面に吐いたピクの炎が俺とシルクちゃん達を隔てる壁の様にせりたった。


(ピクとシルクちゃんの複合技? こんな物いつのまに……)


 というか、まだ正式実装されて無いのにピクは随分技が豊富な感じがする。炎の壁に阻まれてこちらに向かおうとしてた親衛隊は立ち往生。その間にも炎の壁は広がり続けて迂回するルートをも阻んで、完全に俺達は寸断された。

 炎の壁は空へと真っ直ぐに伸びて、この夜の一番の光源と化している。そしてそんな炎の向こうから声が聞こえる。


「アギト様……早くそこのバカを倒してください。まあ私達は誰一人、やられる気は無いですけどね。だから心おきなく戦ってください」

「貴様等ぁぁぁぁぁ!!」


 言葉と共に聞こえだしたのは武器のぶつかる音やスキル・魔法の炸裂音。道を阻まれた親衛隊がみんなに攻撃を始めたようだ。

 なんでここまで……そう唇を噛みしめる。なんでここまでさせてしまったんだ。それは俺が一瞬でも怖じ気付きそうになったから。みんなが出来る後ろ盾はこれだけだから。

 みんなは譲ってくれたんだ。そして託してくれたんだ。確かに全員が無事にここを切り抜けるにはセラの言ったとおり、ガイエンを潰すのが一番有効。

 そうすればカーテナの加護も無くなるし、ガイエンを倒せばまたアルテミナスは一つになれる。なら、俺のやるべき事は一つ何だろう。

 けど、炎の壁の向こうで響く声が気になる。加護を受け取っている親衛隊は強敵だ。だけどその時、そんな不安を吹き飛ばす様な声が向こう側から届いてる事に気付いた。悲鳴も呻きも有るけど……それ以上に叫ぶ声がある。


「行けええええええええアギトオオオ!!」

「しょうがないから、こっちは引き受けてやる!」

「セラやシルクちゃんの言うとおりだ!! 俺達は全員お前を信じて賭けてんだよおおおお!!」

「「「だからさっさと行きやがれえええええ!!」」」


 その力強い声に頬を叩かれた様な衝撃が走った気がした。セラやシルクちゃんの言ったことにみんなが本当に賛同してくれてる。仕方なくらしいけど、それでもそのエールは次々と『勇気』という形に変わって俺の心に貯まる気がする。

 俺は炎の壁に背を向けて言い放つ。真っ直ぐに俺も自分が倒すべき相手を見つめて。


「任せろ! 必ず倒す!! だから誰もやられるな!」

「「「おう!!」」」


 迷いなんて吹き飛んだ、不安なんてこの炎に焦がしてしまえ。そして燃えたぎらせるは消えない闘志。みんなから受け取った勇気がその燃料だ。

 構えた槍にスキルを纏わせて、俺は駆け出す。因縁の相手へと。


「倒せる物か! お前に私がな!!」

「倒す! 何が何でもだ! お前はやりすぎたんだよ、ガイエン!!」


 振るわれるカーテナの攻撃。それらは地面を砕き、激しい衝撃が空気を伝って肌に伝わってくる。だが、当たりはしない。

 攻撃が来るタイミングはガイエンの腕を見てれば分かるんだ。後はそれから逃れるだけのスピードが重要。流石にテツやスオウ程じゃないが、それを成すスキルだってある。一瞬の加速程度訳はない。

 それにガイエンの奴は化け物じみてから動きがどうも緩慢だ。余裕の現れ……アイツはいつだって自分が一番と思いたいタイプ。それがカーテナと一体化した事で、まさしく誰よりも優れていると実感でもしてるんだろう。

 ようは他人を下に見る癖に拍車が掛かった感じ。ならその下の奴の攻撃で目を覚まさせてやる!


「うおおおおおおおお!! 食らえガイエン!」


 ガイエンまで後一足。振るった槍は確実にガイエンの頭へと直撃して爆散した。槍の先端で上がる煙の中にもう奴の頭は無いはず……だけどおかしい。

 ガイエンのHPバーは一ミリも減ってはいない。そう思った時、奴の影が揺らめくのが見えた。


(ヤバい!)


 そう感じた俺は槍を引き抜いて後ろに後退する。その瞬間、影が無数の刺が飛び出す。危なかった。判断が一瞬でも遅れていたら今頃は串刺し状態だ。

 でもどういう訳だ? なんでガイエンのHPは減らない? そういえば変身後最初にアイツの胸に槍を刺した時もHPは減らなかったし、変な感触で動じてもいなかった。

 そして今度は爆散までさせたのにそれでも無傷……って訳じゃ見た目は決して無いのに、HPはソレを表している。

 煙が晴れたガイエンの頭は確かに無い。体もダランと力無く垂れ下がっている。なのにさっき攻撃された。倒してなんか無い……畳みかけた方がいいのかどうか迷う所だ。

 こうやって見ると、本当に俺達は遠く成ったと感じる。だけど実はそう感じてるのは俺だけなのかも知れない。こいつは元から同じ空なんて見てなかったのかも知れない。そんな事を思ってしまう。

 力を込めて槍を握り。俺は再びスキルを発動させる。そして顔の無いガイエンへと突っ込んだ。そして防御するように立ち塞がった黒い刺を凪ぎ払い、再びガイエンへ直接攻撃を試みる。


「お前は! 出会った頃から野心に溢れてたけど! それでもエルフという仲間に対する思いは本物だった! 少なくとも俺やアイリはそう思ってた!

 仲間だと思ってた! なあガイエン……いつから狂ったんだよ俺達は!」


 休まぬ攻撃を続けながらそんな事を俺は叫んだ。頭がない奴に叫び続けるのもおかしな事だと思ってたが、こいつには聞こえてるはずだ。何故ならガイエンはやられて何かいないのだから。

 実際、幾ら切り刻んでも奴のHPは毛ほども減りはしない。そして遂に俺の槍は何かに防がれた。見えない壁の様な物……俺はこれを知っている。

 これはカーテナの作り出す障壁だ。そして阻まれた攻撃の向こうからくぐもった声が聞こえ出す。


「いつからだと? 教えてやろうかアギト。それは……」


 耳障りな声と共に目の前の頭の無い首部分へと黒い影が集まりだしている。そして形成されていくのは間違いなくガイエンの顔だ。

 アンパンマンかお前は! と突っ込む余裕は俺には無かった。目の前で頭が粘土の様に練り上げられていく様を見ればきっと誰だってそうだろうと思う。

 そして完成された顔で真っ黒な口を開けてガイエンは言い放つ。


「初めからだよぉぉアギト!!」

「――っつ、ぐあ!」


 奴の言葉に弾かれる様に後方に飛ばされた。カーテナと一体化してるって事は実は腕じゃなくてもいいのかも知れない。それは即ち、ガイエンの全身がカーテナ。

 うまく着地したが、衝撃分の微弱なHPは持って行かれた。割に合わない事だ。こっちはアイツの体を引き裂いてるのにダメージは無いのに、俺はあれだけで持って行かれるんだから。

 そして当のガイエンは面白そうに高笑いを続けている。だけどこれはアイツの笑いだけじゃない。再び無数の子供の笑いが混じっている。

 ガイエンの口から、それは聞こえているのかも知れない。


「くははははははははは! お前達は本当におめでたかったな。利用されてるとも知らずに、仲間だの友達だのと好き勝手に信用してくれて、実に扱い易い奴等だった!

 おかげで私は今、ここに居る!」

「お前……本気で、そんな事!!」

「偽りの世界で、私は友など求めていない! ただ上に! もっと上へ! それだけだ!」


 言葉の終わりと共に、降ってきた重たい力。だけど俺はそれを跳ね退けて駆けだした。


「ここが偽りの世界でも! 俺達が共有した時間は一生の内の掛け替えのない本物だ! あの時の笑いも涙も喧嘩も、今更偽りだなんて言わせるか!」


 炎の壁が夜空を焦がす。その時、星が一つ流れて行く。

 第七十七話です。

 ようやくアギトとガイエンの一騎打ちの場が整った感じです。てか、カーテナなんて反則的な物と融合したガイエンにアギトは勝てるのか? まあ穴は色々と空けてるけど、それも余りある位にカーテナは強いのです。

 でも想いだけで勝つってのもご都合主義的で嫌なので、アギトには頑張ってもらいましょう。

 てな訳で次回は土曜日に更新します。お楽しみに。

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