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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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迷戦の始まり

「うわあああああああああああああああ!!」

「ぬわあああああああああああああああ!!」

「ぎょわああああああああああああああああ!!」


 響いた悲鳴とともに終わりを告げる鐘がどこからか響いた。目の前の敵は武器を収めて勝ち誇った顔をする。三人相手に自分的にはよく粘ったと思うけど……どうやら作戦はうまくいかなかったようだ。湿原地帯を舞台にしたエリアバトルは初めてだったけど,案外やりづらさが多かった。

 もっと色々と詰めないとこれじゃあ当分勝てそうにないぞ。

 

 エリアバトルのステージから戻ると一心が不機嫌そうな顔してた。まあ僕が参戦する前から負け続けてるらしいから無理もないけどね。でも昨日の今日でもうエリアバトルの相手を見つけてくるなんて一心のやつの行動力には脱帽するよ。誰もがやりたいんだろうし、相手自体はいっぱいいるんだろうけどさ、エリアを求めないのは珍しいだろう。

 エリアバトルは自由度高いから条件も互いに了承さえできれば色々とできる。だから今回のバトルでは互いにエリアを求めないでやったと……じゃあ何を差し出したかというとそこは聞いてないんだけど。

 

「じゃあ約束通り一回そいつ借りる権利もらうぞ」

「しょうがない……そういう条件だからな」


 ん? 何言ってんのあの人たち? 何だか僕を見て不穏なやりとりしてなかった? 貸すとか、条件とか……なにやらせる気だよ。

 

「よし、目一杯こき使われてこい!!」

「だからなにがだよ!」

「いや、だからお前を貸すことを交換条件にだな−−」

「そんなこと勝手に決めるなって言ってんだ!」


 てかそれで相手は納得するものなんだな。いいのか? 僕なんか参加しても勝てるなんて限らないぞ。前の時のような力なんて殆ど失ってるのに……あんまり期待しないでほしい。

 

「はっは、でも条件は条件だ。次のバトルの時は招集させてもらうぞ。使えようが使えまいが別にいいんだよこっちとしてはな……」


 そう言って嫌な笑みを向けるなかなかのイケメン。銀色長髪に片目を隠す長身の剣士はさっきの対戦相手のリーダー格のようだ。いかにもモテそうでむかつく顔してるぜ。リアルの顔を見てみたいものだ。きっと全然違うに違いない。そう思うとちょっとは気が晴れるな。対戦相手の奴らは意気揚々と店を後にしていく。

 ここはニューリードのとある酒場。だいたいはエリアバトルする前はこういうところに集まるらしい。あれだよね。こういうところなら他の人も見れたりするスクリーンがあったりするから盛り上がりやすいってのもある。それに相手を探すのもここなら掲示板とかにエリアバトルの募集とかがあったりするらしいし、そこらで声かけるよりもこう言うところで探す方が見つけやすそうではあるよね。

 とかなんとか思ってると一心のやつがなにやら見知らぬ奴らを連れてきた。

 

(嫌な予感がする)

「よっしゃあ!! もう一戦やるぞ!!」


 やっぱり……そんなことだろうと思った。なんとなくそんな気がしたんだよ。だって一心のやつ目を輝かせてるんだもん。そりゃあわかるってものだ。そう思ってると一心が引き連れてきた対戦相手(今回はモブリだけで構成されたチーム)が僕を見て何やらコソコソ話してる。

 

「おいちょっと待て。やるのはいいけど、条件確認させろ」


 僕は学んだよ。契約の重要性を! ちゃんと確認しとかないと後からこんなはずじゃなかったのに−−とかいうハメになる。だから今回はどうか事前に確認するよ。いや,これもなんとなくわかるんだけどね。だってあちら側はさっきからチラチラとこっち見てるし……でもモブリにイラっときたのは初めてかもしれない。

 まあ前にどっかの召喚士にイラつかせられたけど、あれはなんかモブリっぽくなかったからな。だから純粋にあの姿でこうもイラっとするというのは希少だ。だってモブリって癒しを凝縮したような存在だよ。大体見てるとほっこりするものだ。その姿は反則的と言って差し支えない。

 それなのに……なんてイラつくモブリ共だ。でも取り合いず、このイライラは押し殺して言葉を続ける。

 

「まさか負けた時はまた僕が生贄になる契約してないだろうな?」

「ふっ、何言ってるんだよスオウ」


 その爽やかな一心の笑顔には一縷の望みが見えた−−−−

 

「そんなの当然だろ」


 −−−−気がしただけだった。今野野郎!! 僕は勢いそのままに一心の胸倉を掴む。でも一心のやつは動揺なんて一切見せずにこういうよ。

 

「はっは、お前のこと交換条件にすると面白い程に受けてくれるんだよ。ありがとな」


 なんて純粋な笑顔なんだ。そんな顔で、そんなこと言われたら……僕は、僕は−−−−って騙されないぞ。こいつが、んな純粋なわけないから。むしろいろいろ擦り減ってる部類だ。今更そんな少年みたいな笑顔見せたって人を売るようなことはいけません!!

 

「…………くっ」


 僕も大抵お人好しである。結局何も言えないんだからね。胸ぐらを掴む手を離して,むかつくモブリ集団に向かって聞いてみた。

 

「なんで僕なんかでバトル受けるんだ?」

「それはまあ色々だ。色々。君は……うん、本物に違いないようだし、わかってると思うけど有名人だからね。それも色々な意味で」


 その有名は本当に全く嬉しくない。碌でもなさすぎなんだもん。有名でなんかいいこと一つでもあったか? 可愛い女の子のファンがいるとか……そんな子達に追いかけられるとか……全然ないんですけど。もうこの際ネカマでも別にいいよ。確かに勝手にリセットしたのは悪かったかもしれないけどさ、救った一面もあるんだかさ負の面しか向けられるなんておかしいと思う。

 

「こっちは別にどっちでもいいんだよ? それに勝てばいいことだろう? 違うかな?」


 くっ、いちいちむかつく顔をするモブリだな。サッカーボールのように蹴ってやろうか? モブリって前からよく跳ねそうだと思ってたんだ。試してやろうか? そう思ってると一心の奴が肩を叩いてこう言った。

 

「おいスオウ、お前はいろんなやつらに関心持たれてる。それってすごいことだとは思わないか? 今なんて気にするな。評価なんてテメーの行動で改めさせろ」

「一心……いやそれってお前がいうことか?」

「それもそうだな。おれもお前を便利に使ってるに過ぎないからな」


 そう言って豪快に笑う一心。こいつなんか全然本心隠さないよな。「はあ」と溜息を一つついて僕は決めたよ。

 

「わかったよ。やる。他人からの評価とかどうかなんてよく考えたらどうでもいいし。どこでやるにしても僕にできることないかそう多くない。それでもいいんだろ? あんた達が思ってるほど大層なものなんて何ひとつ持ってないけどな」

「勿論、それじゃあ契約成立だね。何分後にやるかい?」

「そうだなー色々と準備もあるしじゅ−−−−」

「今すぐ! やろうぜ!!」


 うおい!! 一心の奴何言ってんだ? いくら何でも今すぐは無謀だろ。だって僕たちさっきもエリアバトルしたんだぞ? アイテムとか使い切ってるだろ? それを補充だってしないと……

 

(ん? 待てよ)


 あれ? 僕はもしかしたらとんでもないことに気づいちゃったかもしれないぞ。うん……もしかしてこいつら……

 

「なあ一心、もしかしてさっきのエリアバトル……アイテム一個もなかったとか言わないよな?」

「ふっ、聞いて驚け。一個もなかったさ!!」

「お前ら全員アホだろ!!」


 僕は一心だけじゃなくこの場にいる一応チームの全員にそう叫んだ。だって……だってなんだよアイテムないって!! 勝つ気ないだろ。普通エリアバトルって準備万全で挑むものだからな。それは僕だってそんな詳しくないけどさ、その程度のことはわかってる。エリナバトルは通常なら自分のエリアを賭けて戦うもので、最初にもらえる狭い範囲のエリアは自分たちプレイヤーにとってはとても大事なものだ。

 だから半端なんて許されない。……筈なんだけど、こいつら僕自身を代償にしてるからかそこらへんの危機感が足りないのかもしれない。これはある意味由々しき事態なのかも……もしもこれから先、自身のエリアを賭けるときが来てもこんな感じだったら確実に後悔することになるぞ。

 それにそれだけじゃない。このままじゃ変な負け癖がつくことになりそうな気がする。僕は一応気になってたことを聞いてみる。

 

「お前等さ、勝ったことあるのか?」

「いやまだないな。だがまだ始めたばかりだしな」

「うんうん、それに相手は皆こっちよりも経験豊富だったし」


 そんな言葉に皆頷いてる。確かに経験が違うとか始めたばかりとか誰もがする言い訳だ。悪いなんて言わないさ。でも……そんな言い訳いつまでやる気だ−−とは思う。まだいいけど、これが一週間後にまで続くようだとダメだ。でもそうは思っても僕はこのチームの正式なメンバーなわけでもないしな。

 下手なこと言って雰囲気悪くするのもどうかと思う。まあぶっちゃけどうでもいいことでもあるしな。でも一応これだけは言っとくか。

 

「会長ってやつは初めて一ヶ月もしないうちで天下とったらしいぞ?」

「会長? ああ,確かランキング一位のチームの代表か。だけどあんなのは例外だろ?」

「そうそう特例にもほどがあるっての」

「俺たちはもっとゆっくりでいい。それぞれに合ったスピードってのがあるわけだしさ」


 こいつ等なんだかんだ言い訳してるだけじゃないのか? でもこれ以上今言っても効果も意味もないだろう。そもそも明確な目的もないだろうしな。多分なんとなく盛り上がってるからエリアバトルってるだけだろう。けどそれも悪いわけじゃない。これはただのゲームなんだ。いろんな考えの人がいていろんな思いで行動をしていい。そこに制限も強制もあるわけじゃない。

 正しいとか正しくないとかないんだ。だからここで僕が「もっと真剣にやれよ」なんて言ったところでそれは大きなお世話なんだ。LROは自由を謳うゲームだ。だからこれでいいってこいつらが思ってるのならそれでいいんだ。もしも何かをきっかけにしてその意識が変わることがあるのなら、その時にまた話し合うことになるだろう。

 

「で、どうなのかな? 時間はいらないのかい? こっちは準備万端だけど?」


 お待たせしてしまってたモブリがそう言ってきた。くっ、本当は時間欲しいさ、でもそれは僕だけのようで他のメンバーは早くやりたくてたまらないって顔ばっかり。そこまでやりたいなら勝ちたいとは思わないのだろうか? まだそこまで意識が回ってないのかな? さすがに連戦連敗続けてたら勝ちたいと思うようになる……と思うけど、それまで生贄になるのは僕なんだよな。

 あんまり悠長なことは言ってられない。僕一人でもなんとかやってみてここでこいつらに勝利の喜びを味わわせて意識を引き上げる!! それしかない。

 

「やるからには勝つ」

「当然だ。負ける気でやる気はない」


 一心は極めて冷静にそういうけど、それなら勝つ努力をしろと思う。誰だってそれをやってるんだ。だからはっきり言えば一心たちはまだ彼らと同じ舞台にさえ立っていないことになる。まあグダグダ言うのはやめたんだし、示すのは行動で−−だ。ガミガミ言われるよりもその方が浸透するってものだろう。

 

「じゃあ早速,条件を指定してエリアバトルの扉を開こう」


 モブリは手際よく条件を入力していってその場に光の扉を開く。ここをくぐれはバトルエリアだ。連戦はきついけど仕方ない。でもこのくらいは前に比べれば全然だ。そう思ってみんなの最後に僕もその光の向こう側に進む。

 


 エリアは標準の峡谷。天候は強雨。アイテムの制限はなし。そしてなぜか全てのプレイヤーはエリアの四方にばらけて配置されてた。固まってのスタートじゃないってことか。これはまずは仲間と合流するのが最初の目的とする場合が多いやつだな。大抵はそう考えるのが普通だし、集団戦なんだから合流して体制を整えるのは至極真っ当なことだ。

 けど今の僕はそうは思ってない。むしろ丁度いいとさえ思ったよ。誰しもがバラバラなら個別撃破がやりやすいじゃないか。しかも相手はモブリだ。一人の時に相手した方が絶対にやりやすい。モブリは基本魔法を主体にするはず。魔法は数が揃えば揃うほどに厄介になる。まあ一人でも極大魔法を使える規格外の奴らがいたりたまにするけど、それは前のLROでのことだ。

 彼らがそうとはお世辞にも思えなかったし、ここはチャレンジしてみていいと思う。

 

「よし!」


 僕は一心から送られてきてた通信をうっかり切って走り出す。かなり視界が悪い。強雨だし峡谷は雨が溜まりやすいのかかなりぬかるんでて走りづらい。これはかなり体力持って行かれるな。長期戦は不利だ。オマケに高低差激しいし高い位置を取られたら魔法で集中砲火食らう羽目になりそう。

 

(……って事は向こうはなるべく高い所を取ろうとするはず)


 それならこっちも高い場所から探すべきだろう。

 

「風を少し操れば強引に行けるか?」


 そう思って壁側に走ってジャンプする。凹凸を利用して上まで行ければ……と思ったけどすぐに地面に落ちることになった。

 

「ダメか……この雨のせいで風を感じれない」


 雨が体を打ち付ける感覚が邪魔してる感じだ。たまたまなのかそれともこれを狙って雨に? あのモブリたち案外侮れないのかもしれない。てかこの雨じゃ僕の自慢の視力も生かしきれない。これはさすがに偶々だろうけど、悪い方向に運が向いてるのかも。でもだからって安易に負けてやるわけにはいかない。

 

 しばらく走ってると所々から爆発音みたいなのが聞こえてくる。既にどこかではバトルが始まってるようだ。音のする方に向かうのが得策か……

 

「ん? −−−−とっ!」


 雨を取り込んで大きくなった水弾が向かってきた。避けるのは苦でもなかったけどこれは……

 

「さて,まずは最大戦力を潰すとしよう」


 そう言って目の前に小さな影が見える。でもそれだけじゃない。両壁の上の方にも互いに一人ずついる。完全に囲まれてるぞこれ。お互いに人数は六人ずつ。て事は僕を潰すために半数を投入してきたわけか。それはある意味誇らしいけど、間違いなくピンチだな。一心たちが救援にってそれじゃあ目的が……いや本質を見つめればそれでも別に構わないけど、でもあまり期待はできないだろうな。

 多分向こうに回されてる三人は時間稼ぎが目的だ。仲間が救援に来たりしないようにうまくやってるんだろう。それにこっちのメンバーは全員単純だからな。絶対引っかかるよあいつら。

 

「はーー」


 僕は息を深く吐いて意識を深く落とす。視界が雨の一粒一粒を映し出す。

 

「ため息をつくくらいなら降参してもおおおおおおお!!?」


 僕は一足いや二足で前方のモブリの眼前に迫った。虚はついた。斬れる!! だけどその時締め間から水の壁が出てきて視界を塞いだ。けど関係ない! 僕は水の壁ごと剣を横に振り凪いだ。でもそこに水以外の感触はない。

 

「はは、流石だよ。でももう油断はしない」

「そうか、じゃあもう瞬きするなよ!!」


 僕は強気にそういった。でも三対一。勝てる保証なんてどこにもない。だけど引く選択肢もない!! 

 第七百六十七話です。遅くなりました。いやーいつあげたか忘れてて。ごめんなさい。まあでもゆっくりやってきます。

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