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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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静寂が立つ

 お気楽な声と共に闇を切り裂く––とは違うか、なんていうか、闇さえも大きく抱き込む様にして現れた日鞠。ここでは会長だっけ? そう言う肩書じゃなく、名前が会長なんだからアイツのセンスはよく分からない。黒いけど、紫に寄ったその髪をいつもの様に三つ編みにして、なんの危機感も無くアイツはその場に佇む。

 前会った時は三つ編みじゃなかった筈だけど、結局アレに落ち着くんだな。日鞠らしいっちゃらしいけど、一応別人になってるわけだし、もっと違う自分を楽しもうという気はないんだろうか? 顔を出した僕にゆるい顔で手を振って……余裕綽々な奴だ。助かったけどね。

 宿屋までの道の両側をプレイヤー達が頭を下げて道を作ってる。ホントどこのお殿様なのか……ドアを開けるのも日鞠では無く、お付の人がやってくれる徹底ぶりだ。僕がなんともしがたい顔をしてたからか、日鞠の奴が「あはは」とちょっと気恥ずかしそうに笑う。


「日鞠ちゃん……どうして?」

「結構話題になってますから。ログアウトしたプレイヤー方々がこの街の状況を拡散してるんですよ。それでどうせスオウ絡みかなって思って」

「お前は僕を何だと思ってるんだよ。疫病神かなんかか?」


 失礼な奴め。別に僕がこうした訳じゃないっての。多分僕が関わらなくてもいずれはこんな状態になってたと思う。うん、多分……きっと……そうだと……信じたい。


「アンタは大体そんなもんでしょ。それで、何しに来たのかしら? 今や最大勢力を誇るチームのリーダーさん」


 セラの奴がやけにキツイ目をしてるな––と思ったけど、大体こいつはこんな目つきだった。でもそれは僕に対してが殆どで、他の人にはそれなりに愛想良く振る舞ってるはずだけど……日鞠が僕の幼馴染と知ってるからそんな態度なのだろうか?

 けど当の日鞠は別段気にした風ではない。日鞠はそう言う奴だな。脅しとか暴力とか、そんなのに屈しない奴だ。


「別に大きな目的があった訳じゃないですよ。でもほら、スオウの事はやっぱり心配だし……ね」

「お前は僕のオカンか!」


 だから別に本当に死ぬわけでもないってのに、皆心配し過ぎだっての。ちゃんとそれは証明されたじゃないか。それでも不安に成るって気持ちはは分かるし、ありがたいんだけどね。でも日鞠にそう言われると、素直には成れない自分が居る。


「ふふ、幼馴染です!」

「自慢気に言うことかそれ? んっ?」


 なんか日鞠の奴が胸を張ってる横でお付の人が僕に対して厳しい視線を向けてくる。もうなんなの? 毎回こうだよ。日鞠の信奉者は僕に厳しい。てかなんで生徒会メンバーじゃないだ? 彼奴等なら、今更幼馴染言った所で反応もないだろうに。


「会長」

「うん、取り敢えず敵は一掃しとこっか。皆に指示をお願いね」

「かしこまりました」


 そう言ってお付の人は外へ行く。なんだか常に空気をピンと張ってる出来る女って感じの人だった。でも何故か獣耳が生えてて、それがアンバランスでギャップ萌えな感じ–––と思ったらドアを出た階段の所で足を踏み外して盛大にこけてた。

 見た目に反してドジっ子か? そしてそんな彼女を見て、外に居たプレイヤー達(主に男共が)うおおおお! と沸き立った。どうやら向こうからは彼女の細脚の奥が晒されてる様だ。反射的に開いてた足を閉じて急いで立ち上がる。そして何故か僕の方を見て睨んでくる。


(別に何もやってないんだけど……)


 どういう思考回路なら、今ので僕を睨めるの? ちょっと理解できない。でも理不尽な感情をぶつけられる事は今までもよくあったから、別段気にする事でもないかな。まあリアルでもこっちでもそうなのはちょっと嫌だけど。

 彼女はざわめく周囲を一喝して元の張り詰めた空気を取り戻す。そして何やら指示を出してた。


「ちょっとドジだけど大丈夫。彼女に任せてて心配ないよ。こっちは取り敢えずアギトを助けよっか」


 そう言って日鞠の奴は取り出した人型の紙を取り出した。そしてそれを床に置いて何やら唱えると、その紙自体が立ち上がりうっすらとアギトの姿が幽霊みたいに浮かび上がった。


「アギト! 日鞠ちゃん、これは?」

「一種の封印術の様な物です。アギトは今正気じゃないみたいなので」


 アイリの焦りを余所に、日鞠は落ち着いた物だ。てかいつの間にこんな事やってたんだ? あの激戦の中、日鞠はアギトだけを狙い絞って動いてたのだろうか? こいつなら、出来そうではあるけどな。浮かび上がったアギトは虚ろな目をしてどこを見てるのかもわからない。

 やっぱりこういう状態を見てると、リアルのアイツは無事なのか不安になるな。


「これってアギトの精神はどこに行ってるんだろうな? 向こうで覚醒はしてないんだろ?」

「アギトはまだここに居るよ。でも意思を伝える手段を乗っ取られてるって感じかな?」

「それってある意味恐ろしくないか? もしもこの状態から救い出せなかったら、どうやってリアルに戻るんだよ?」


 だってこのアギトとしての体を使えなかったら『ログアウト』も出来ないじゃないか。それって実質このLROに囚われてるって事じゃ……大問題だろそれ。何も改善なんてされてないって事になってまた回収騒ぎだよ。流石に今度そうなったらVRゲームは終わりかもしれない。


「大丈夫だよ。これはあくまでシステムに則った範疇。長くは維持できない。一日、二日拘束なんて出来ない代物だよ。長くて一時間って所かな?」

「よくそんな事がわかるな」


 日鞠の奴は何が起きたかはわかってるかもしれないけど、なんでこんな事になってるかとかわかんないだろ? なんで僕達の誰よりも詳しそうなんだよ。


「わかるよ。私はシステムが見えるからね。だからアギトを開放するのだって簡単」

「そ、それじゃあ早く!」


 急かすようにアイリがそう言う。いつもは落ち着いてるけど、流石に今はそんな余裕はないようだ。けど日鞠は落ち着かせるように言うよ。


「アギトを開放すること自体は簡単だけど、折角だから向こうの狙いを探ります。新たに始まったLROでこれだけの大規模な出来事は初めてだし、情報は一つでも多いほうが良いです」

「確かに……それはそうだけど……’

「心配しないでください。アギトには別段ダメージはないですから。さっきの傷も痛みとかは通ってないはずです」


 僕はさっき行われた拷問というか、おぞましい光景にちょっと胃の中の物が迫り上がる感覚に襲われる。確かにあんな事されたらもっと叫び声とか上げてもおかしくはなかったけど、でも見てるこっちの精神は削られたよ。

 LROだから死ぬほどの痛みが通る事は無いんだけど、あれはね……取り敢えずアギト自身にその痛みが与えられる事が無かったのなら幸いだろう。でもちょっと気になることもある。


「なあ日鞠、今アギトはこの会話とか聞けてるのか? てか見えてるのかこの状況?」

「う〜ん、それはどうかな? 精神だけ浮かんでる状態みたいな? 多分認識できてないと思うけど。曖昧には聞こえたり見えたりしてるかもしれないけどね」

「そっか……」


 それは良かったかな。確かに痛みとかは無くても、あの残虐な行為が自身の体に行われたとか、それだけでトラウマになりかねない恐怖だろう。認識できてないのなら不幸中の幸いって奴だな。


「で、どうやって探るんだ?」

「この術は街自体を使った大規模な魔法の様な物だよ。だからその流れは大元に繋がってる。その大元を私のスキルで読み取るの」

「便利なスキルだな」

「地味で面倒なスキルだよ。私自身の戦闘力が上がるわけでも無いしね」


 日鞠の奴はそう言うけど、実質凄いスキルだろう。相手の術やスキルを解析して、それに介入だって出来るわけだろ? まあどこまで何が出来るかとかは知らないんだけど、応用範囲はかなり広いだろう。そもそもそのスキルを駆使してここまで一気にチームをでかくしたんじゃないのか? 

 確かに日鞠の求心力やカリスマ性は圧倒的だ。でもそれだけで順調に勝ち進める程、エリアバトルは簡単じゃないだろう。戦力が掛け離れた奴等だって相手にしてきた筈だ。

 戦略や戦術は確かに大切だけど、ゲームであるLROには戦局をひっくる返せる力を持った奴ってのが居たりする。今はどうか知らないけど、日鞠は生徒会メンバーとLROを始めた。どう考えても戦力で勝れる筈がない状態だったはずだ。

 それなのに、一月とちょっとでLROのチーム全体で最大勢力にまで拡大してる。それはただ人数を増やして来たからじゃない。今や『テア・レス・テレス』はそのエリアの開拓度合いも群を抜いてる。そこには絶対に何か秘密があって、僕的にはそれは日鞠の奴のスキルだと睨んでる。

 大体エリアバトルはその名称上、バトルが重要視されてるから、他の名だたるチームのリーダーは殆どそのチーム内で最強である場合が多いと聞く。でも日鞠の場合は多分違う。いや、こいつ元から強いんだけど……流石にLROでは肉体一つでは無理がある。強力なスキルにはそれに並ぶスキルが必要だ。

 けど日鞠の場合は一つに絞ってるんじゃないだろうか? そうじゃないと名だたるチームのリーダーに一月足らずで対抗できるはずもないし、そもそも一月程度ではな……と思える。でもたとえ一つでもそれが恐ろしく応用性が高いのなら、日鞠ならなんだってやれる。たとえソレが戦闘向きのスキルじゃなかったとしても––だ。僕はそう思える。


「それじゃあやるね。皆が戦ってくれてるし、邪魔は入らないと思うけど、一応気をつけててね」


 そう言って日鞠はわざわざ胸ポケに刺してたダサいメガネを掛ける。ここでも結局そのスタイルかよ。もう完全にリアルと同じだよ。まあ顔は違うんだけど……髪色も。でも雰囲気とか、その他全てはリアルのままだから、もう僕にはいつもの日鞠にしか見えない。

 日鞠は手に持ったペンをクルクルと器用に回し、そしてそのペンを構えて膝を付く。緩かった空気が静かに整えられ、日鞠の気合というか、意気込みが見えるかの様だ。てかなんかペン自体が淡く光ってる? それはスキルを発動した武器に宿る光に似てる様な……けど似てないような。

 スキルを発動したら大体その武器や体を覆う様に光が発せられるけど、日鞠のペンは違う。ペン先一点に集中してる光は外に発するというよりも内側に凝縮というか、吸い込まれてるというか……小さな球体状に黒が見えて、その中心だけ光を発するように見えてる。でもそれはとても小さい。ペン先数ミリで展開してるブラックホールみたいな感じ。

 日鞠はそれを浮かんでる人型の紙に触れさせる。すると紙にインクがしみるように黒い線が這って行く。何が起きてるのか、僕には……僕達には分からない。日鞠のメガネが光を反射してその表情を伺うことも出来ない。数秒すると、日鞠はペンを紙から離す。すると紙からペンと繋がるように、黒い文字の様な物が連なって現れる。それらは日鞠を囲むように展開される。

 これを日鞠は読めてるの? 前、シクラ達が集めてたコードと似てる気がする。まあアレもシステムの文字だった訳だし、多分同じ物なんだろう。日鞠は文字が展開するとそれからしばらく動かなくなった。読んでるのかな? よく分からないが、僕達には口出し出来るわけもない。集中してるようだし、ここは待つしか無い。


「ん?」


 僕はふと後ろを振り返る。視線を感じた気がしたんだ。けどそこには誰も居ない。まあその筈だ。この建物には僕達しか……いや、避難てたプレイヤーが居たのかな? 安全そうになったから出てきたと考えれる。それなら別にそこまで不思議でもないか? 結局姿形、影さえもみえなかったけど。

 そう思って意識を日鞠に戻そうとした時、今度は寒気の様な物も同時に感じて、首だけじゃなく体全体で振り返った。

 けどやっぱり誰もいない。


(今の感じ……気のせいとは思えないんだけどな……)


 ハッキリと感じた。アレは敵意。避難してたプレイヤーがそんな感情を向けるとは思えない。たまたま私怨がある奴を見たとかならあるだろうけど……どうだろうか? 日鞠はこっちでも有名だし、あり得るか? それとも自分? あり得なくはないかも。でも既にその気配は消えてる。けどそれがまた不穏だ。ハッキリと感じた敵意。

 けど姿が見えない。そこまで広くもないのに……階段を下りたり上がったりした音も聞こえなかった。でも気配自体がないのなら、どこかに消えたって事になる。ログアウト? でもそれだって一瞬で出来るわけじゃない。数秒の猶予はある。それにわざわざその場でログアウトするだろうか? 危険だからって部屋に篭ってたのに、その部屋を出て、次に来た時安全かもわからない店内でログアウトはないと思う。

 それなら安全を確保出来る部屋の中でログアウトするだろう。つまりはプレイヤーってわけでもなかった? じゃあ一体何があの気配をだしたって言うんだ?


(セラ?)


 横を見るとセラも何かを感じたのか、周囲に視線を配らせてる。でもどうやら僕達以外は今の気配に気付いてないようだ。アイリはアギトに意識を集中してるから仕方ないけど、テッケンさんもシルクちゃんも反応してない。

 けど、後一人はちゃんと分かってた様だ。


「出てきたらどうかな苦十?」

「あれれ? バレてた? やっぱり可能性領域のセカンドステージに足を踏み入れた人達は違うようね」


 空間に響くような声。どこから発してるのかは分からない。けど……よく見ると、風景の中に不自然に歪んでる部分がある。それはどうやら僕達の周りを回ってるようだ。


「え?」

「一体誰だい!?」


 シルクちゃんとテッケンさんは戸惑ってる。それに対してアイリはアギトの側に駆け寄って、武器に手を掛けてる。


「苦十さん、その節はお世話になりました。出来れば貴女とは戦いたくありません」

「その割にはやる気満々にみえますよ。あはっ、けど安心してください。戦う気はありません」

「それじゃあ何故にこんな場所に?」

「どこに居たっていいじゃないですか? 私は何にも縛られない孤独な身なんですから」


 確かにこいつは自由だろう。けど……だからって何の理由も無しにこんな所に居るとも思えない。それにさっきの敵意……それはきっと苦十だったんだろうからな。僕達が警戒してると、日鞠が作業を終えたのか、その光を収めて立ち上がる。

 メガネを外して胸ポケに戻し、一仕事終えた様に頭を振るう。それと同時になびく三つ編み。


「苦十は楽しいことをしようとしてるのかな? 教えてほしいな?」

「日鞠には無理です。貴女は危険ですから」


 そう言った苦十はいつの間にか日鞠の目の前に居た。そしてその手を何かへと伸ばす。けど、日鞠は露でも払うかの様に最小限の動きだけで、苦十を投げた。でも床に落ちる前に態勢を整えて優雅に着地する苦十。七色に彩られた髪が揺れ、漆黒の瞳がその間から覗く。


「全く、ほんとに日鞠は物騒ですね。隙も全くないし。可能性大好きの私でも、貴女の可能性だけは恐怖ですよ。けど……これは返して貰いますね」


 苦十は指を一本突き出すとそこにある光を見せる。僕達にはアレが何か分からない。けど、日鞠は何かを察したようだ。


「やっぱり不味いんだそれ?」

「別に不味くはないですよ。どうせ捨てます。あと少ししたら。これの可能性はもう見えちゃったので。でも、他の可能性を育てる事は出来るかもしれない」


 そう言って妖しく笑う苦十の姿が薄らいでいく。可能性可能性ってこいつはそんな不確かな物をどうしたいんだ? 僕や日鞠、そしてセラを順に見て消えかかる奴に僕は声を掛ける。


「苦十、僕や日鞠、それにセラはまだタフだからいいとして、セツリの奴はリアルに戻ったばかりだ。そっとしておけ」

「セツリ? ああ、安心していいですよスオウ。私、あの子には興味ないですから。あの子の可能性は輝いてないんですよ」


 そう言い残して苦十の奴は消えた。その後直ぐ様セラの奴が「何で私はいいのよ」とか言ってきたけど、それよりも苦十の最後の言葉が気になった。どういう意味だ? セツリの可能性が輝いてないって……

 第七百五十二話です。

 次回も一週間後にあげます。そろそろスローライフも再開しますね。

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