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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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闇夜の者

 降り立った街は昨日とかわりなく、見た目的には栄えてる。けどこれでも領主の圧政は増してきてるらしい。見た目的にはそこまで酷いようには見えないけどね。夜の街はいい感じに淡い光に満ちていて、夜の雰囲気ってのを醸し出してると思う。

 リアルのガンガン目に訴えてくるような強い光とは違う、優しい不思議な光。ドギツクなくていい感である。男を誘おうとする派手目なお姉さん達も、少しはマイルドに見えるような気がするよ。


「それにしても……やっぱり時間……」

「気付いたようね。どれだけ鈍いのかヒヤヒヤしてたわ」


 ぶっきらぼうにそう言うのは色々とこだわりのありそうなメイド服に身を包んだセラ。何故か今日も僕はこいつとくまされてる。僕とセラが相性悪いって皆知ってるはずだろうに……何故にこうするかね。僕達は基本顔合わせたら言い合いがデフォなんですけど。それか無言ね。

 口を開いたと思ったらほらこの通り……嫌味が口をついて出てるんだからな。


「いや薄々は感じてたっての。けどこれじゃあ結構不便もあるよな?」

「まあね。誰もが昼間っからアクセス出来る訳じゃないからね。こっちの世界の太陽を見ないって事は多いわね」


 僕達が何を言ってるのかというと、それは時間の事である。今、リアルでも夜で、そしてLROでも夜なんだ。そして時間帯も同じ。多分そこに一秒の誤差も無いだろう。今までは……と言うか、これまで……つまりは僕が摂理をLROから連れ出すまではLROの内の時間はリアルよりも速かった。

 具体的にはリアルでの一日はLROでの2日分位あった。だからこそ、夜中にしかログインできない人達でも、昼間の風景を楽しめたり、イベントやれたり、それこそLROは偶発性の高いクエストやらが多いから、メリットがいっぱいあったんだ。

 世界を見渡すためにもそれは都合よかったことだったと思う。

 でも今は違う。今、二つの世界の流れは完全に一致してる。僕達はゲームの中でも時間という概念に縛られてしまったんだ。


「どこのどいつがこんな使用に改悪しやがったんだ……」

「アンタだけどね」


 僕がいかにもな感じで悔しそうに言い表したのに、セラの奴がバッサリと行きやがったよ。もうちょっと乗ってこいよな。恥ずかしくなっちゃうだろ。いや、まあその通りなんだけど……


「分かってたけどさ……こう何度も何度も夜しか無いってのもな。体に違和感は少なそうだけどちょっと物足りないな」


 前は同じ時間くらいに入っても太陽サンサンなんて事が普通だった。それは体的にはどうなの? とも思わなくもなかったけどさ、今考えるとありがたい事だったんだなって思う。固定された時間にしか入れない人とか居るだろうし、そんな人達はこの世界の同じ側面しか見れないじゃないか。

 夜だからって言って毎日同じ夜が来てるわけじゃないけどさ……空気が澄んでる日もあれば、雨の時もあるし、霧の日だってある。でも昼間も体験出来れば更にバリエーションが増えるわけだからね。


 どうしてこうなってしまったのか……


 それは考えれば仕方ない事で、この状況はある意味で、やっぱりLROとして地続きなんだな––と思える所でもあったりするんだよね。僕達が前の戦いで選んだ……選択したその影響が消えずにあるって事はそれは僕達が頑張った証でもあるからね。


「これって結局、運営側もどうにも出来なかったらしいわね」

「うん……ってあれ? セラって日鞠とあったことあったっけ?」

「まあツテはあるし、接触しといて損な人物じゃないわ。だからアイリ様を使ってね」

「なるほど」


 確かにアイリを使えば会うのは簡単だな。二人はリアルでも友達同士だしね。けどちょっと意外な事が……それはセラの奴がアイリを「使う」とか言ったことだ。セラの奴はアイリの事をそういう風にいうことはまずなかったと思うんだけど……ただの言葉の綾かな?

 気にしすぎ? 


「アレがアンタの幼馴染とはね。確かに捻くれたくもなるかもね」

「なんだそれ? 同情してくれんの?」


 僕の苦悩を分かってくれるとはセラの癖にやるじゃん。評価改めてやってもいいな。そんな風に思ってると冷めた目でセラは言い放つ。


「同情? はっ、小馬鹿にしてるだけよ。自分の矮小さって奴をとっくに分かってたんじゃない。いちいちデカイ態度とらない様にしなさいよ」


 ちっ、この女ホントムカつくな。ちょっとでも心が傾きかけた僕が馬鹿だったよ。こいつ、こういう奴だよね。同情なんて言葉、こいつの中にない。少なくとも僕には適用されるワケがない。


「お前ってつくづくメイドっぽくないよな」

「アンタに対してだけね」


 くっ、ホント僕に対してそこだけは完璧だよな。一貫しすぎてるよ。時にはギャップを見せてくれてもいいと思う。そういう所に惹かれたりするものなんだよ。いつまでもツンしか見せなかったら、もう相手にするのも嫌になるっての。


「それよりも反省しなさいよ。こうやって夜しか拝めないのはアンタのせいだって事。周りのプレイヤー全てに謝れとは言わないわ。せめて私にだけでも謝りなさい」

「死んでも嫌だ」


 どういう理屈だよ。なんで周りに謝れないからってお前にだけ頭下げなくちゃいけないんだ。ハッキリ言ってセラだって共犯みたいな物だからな。何故か古参プレイヤーの不満が僕だけに集まってるけど、あの時一緒にいた皆は納得した上だったろ。

 だからセラだって共犯である。


「これだからお子様はプライドだけはお高くてムカつくわ」

「こっちのセリフだよ! まあセラをお子様とは思わないけど……お前何歳なんだ––ってのわ!?」


 何気ない感じで年齢聞いたら、何気ない感じで足を引っ掛けられた。小学生かこいつ。けどあまりにもさり気なくて足を引っ掛けられるまで気づけなかった……恐ろしいやつだ。手癖足癖口癖の悪さは伊達じゃない。僕の眼なら大抵の攻撃は捉えられそうな物なんだけど、それを掻い潜るとは……


「女性に年齢を尋ねるなんて、死ねばいいのに」

「死ねばいいのに––なんて軽々しく使う奴を女扱いしたくないな」


 取り敢えず僕の愚痴を振り返って聞こうともしない奴を追いかけて再び隣に並ぶ。まったく、後ろから刺さなかっただけありがたいと思えよな––と内心呟いた。


「それにしてもあの娘。アンタの幼馴染、とんでもないわね」

「どういう意味のとんでもないだよそれ」


 主語を言えよ。曖昧なんだよ。まあ言わんとしてることはわかるけどね。だって大体、日鞠への評価は決まってる。殆ど今のセラと同じような事を言うんだよね。微妙にニュアンスは違うけど、根っこは同じだ。感嘆や賞賛、畏怖とも言えるかもしれない。そんなのが殆どだ。

 僕は実際日鞠がそう言われるのは耳にタコが出来るくらい聞いてるから、取り敢えず興味ない振りをする。だってめんどいからな。それにコレ移行の展開で良い経験がないのもある。僕自身を最初らへんは日鞠への取っ掛かりで使うやつ多すぎなんだよ。

 そして何故か、いつのまにか疎まれるというね……もう飽きましたその展開。


「とってもムカつくのとんでもないよ。ホントあんたの幼馴染って感じ」

「え?」


 それは予想してなかった言葉だ。とんでもないってそっち? それは中々に新しいパターンだな。いや、一人や二人は経験上居たけど……これで三人目? でも圧倒的に『凄い!』的なニュアンスが多かったからな。僕のそんな反応なんてどうでもいいかの様にセラの奴はつらつらと続けるよ。


「アンタ達ってあれなの? 漫画とかの幼馴染みたいに、小さな頃からずっと一緒で、必要以上に関わりあって来て同じように育ってきたわけ?」

「必要以上がどれほどなのかはわかんないけど、基本ずっと一緒に育って来たな」


 出会ってからはずっと一緒だった。そもそも一番身近で、そして僕を釣れ出すのは日鞠しか居なかったから。いつも日鞠の後ろを歩いてた。それがいつしか隣になるようになって、そして……今はどうなんだろうか? 別の道なのかそうじゃないのかは良く分からないな。

 取り敢えず漫画とかの幼馴染の関係と言われれば否定は出来ないよね。


「どうりで同じ感じでムカつくわけね」

「それはつまり、僕もとんでもない奴って事だな」


 ドヤ顔でそう言ってやった。だって、そういうことに成るだろ? 同じ感じにムカつくということはそう言う事になるよね。どうやら僕はとんでもない奴だった様だ。


「ちっ」


 凄く不機嫌そうに舌打ちしやがったよこいつ。普通に黙ってれば知的美人な感じなのに、僕と居るといつも不機嫌そうな顔してるせいで印象悪いぞ。そんな事を思ってると、頭にピピピなる音が流れてウインドウが開いた。


『どうですかそちらは?』

「オウラさん。そうですね〜うん、なんか視線は感じますね」


 通信の相手はオウラさんだ。リアルでは筋骨隆々のシスターだけど、こっちではボン・キュッ・ボンのウンディーネになってる。僕はなるべく周りに意識を向けない様にしながらそう報告したよ。明らかに昨日とは注目度が変わってる。

 それは多分間違いない。隠しようの無い視線というのかね……それを感じるよ。昨日はこんな事なかった。ただ一人の冒険者程度で注目なんか特になかったはず。けど、今日は……今夜は違う。どうやらオウラさん達が言ってた事は当たりの様。


『そうですか……ではそろそろ戻ってきてください。確認は出来たので、これ以上少人数で徘徊するのも危険でしょう』

「って、事は他の組も?」

『ええ、やはり領主が何やらやったようですね』


 僕達の他にもアギト・アイリ組に、テッケンさん・シルクちゃん組もこの街を徘徊してる。LROの街はTVゲーム時代のそれと違って数分、数十分で徘徊できる規模じゃないからね。街は街としての広さを保ってる。だから複数人でそれぞれ別方向を回った方が効率が良い。

 なのでこの三組。アギト組やテッケンさん組はもう納得の組み合わせだよね。それしかない的な? それに比べてここはどうだよ。いかにも余り物を合わせました的な感じだよ。雰囲気最悪だしね。

 ちなみにセツリの奴はオウラさん達と共に子供達とお留守番だ。こっち側に来たかったようだけど、何が起こるか分からないからね。取り敢えず一番安全そうなとこにおいてきたと言うわけだ。実際孤児院が安全とは限らない訳だけど、実力行使には至ってないからね。それを考えると、何か出来ない理由でもあるのかもしれない。

 領主が何かをやろうとしてることは間違いないんだ。孤児院の場所も多分その為に必要なんだろう。それなら、何故に実力行使をやらないのかが不気味ではある。強引な事をやってる領主なんだし、誰も気に留めてない様な孤児院の一つを潰すくらい容易そうなのにね。

 それなのにその権力を行使しないのには、何かしらの理由があると考えるべき。流石に僕達に恐れをなしてる……とは思えないしね。


 きゅ––


 服が後ろに引かれる感覚。横を見るとそこにセラの姿はなく引かれた感覚を頼りに後ろを振り返る。するといつの間にか歩みを止めたセラが僅かに俯いてるのがわかった。いきなりデレた? とか一瞬思いかけたけど、どうやらそんな雰囲気じゃない。


『どうかしましたか?』


 通信向こうのオウラさんもセラの雰囲気を感じ取ったのか、険しい表情でそう言う。


「……るわ」

「は?」


 あまりにも小さな声だったから聞き逃した。セラの奴から変な威圧感を感じる気がする。聞き逃したの怒ったのかな? そんなまさかそのくらいで? でもセラだからな……考えられない事じゃない。取り敢えず謝っとこうかどうか考えてると、僕の服を掴んでる腕が震えだす。

 おいおい、内からこみ上げてくる何かがあるほどに怒ってるの? どうしよう。


「あ〜え〜とセラ、一旦おちつこ––」


 ヒュっ––と風を切る音が耳に届いた。そして前方の方からドサっと何かが落ちる様な音が聞こえる。その音の方を向くと、何か黒尽くめのいかにも闇に生きてそうな奴が地面に倒れてた。ざわざわと異変に気づきだす周囲。けどまだ状況がわからないからか、叫びだす様な状況ではないようだ。

 いや、ただ単にまだ生きてるから……かな? その黒尽くめの奴は体に力を込めてゆっくりと起き上がりだしてる。そして上がった顔がこちらを向いた時、すごい目を向けられた。それはまさに敵意の塊……の様な。獲物を見る狩人の様な瞳。

 周囲になんて目をくれてない、真っ直ぐにこっちを見つめてる。けどそいつは敵意だけ向けて僕達の方へは向かって来ずに路地へと走る。その方向を見つめてると、後ろに妙な気配を感じた。


––キン!!


 と金属同士がぶつかる音が響く。反応が遅れた僕を守ってくれたのはどうやらセラの様だ。セラの奴の前にはさっきの黒ずくめ……いや、違う奴なのか? 分からない。するとセラの奴がようやくさっき聞き取れなかった言葉を大きくして言ってくれた。


「囲まれてるって言ってんのよ!!」


 死角に感じる気配。僕は鞘から剣を引き抜きつつ背後に振るう。すると案の定黒尽くめの奴のクナイとぶつかり合った。敵の手からはじけ飛ぶ武器。一瞬の安堵。けどそれは間違いだった。敵は直ぐに片側の手にクナイを出してそれを一気に三本も投げてくる。

 これって僕が避けたらセラに当たるんじゃ? 僕はセラの服を掴んで強引に横に飛んだ。


「きゃあ!? ちょっと今の高く付くわよ」

「へいへい––って上!!」


 僕が下になって地面を滑った所で、行き着かせぬ間に真上から闇に溶け込んでた黒尽くめがクナイを構えて落ちてきた。おいおい今の僕には応戦できないぞ。セラの軽い武器でこの全体重を乗せた様な攻撃を防ぐのは……そう思ってると、セラは何をやったか分からないけど、腕を横に振るっただけで、上から降ってきてた黒尽くめを民家の壁に叩きつけた。

 そして更にどっかから取り出した煙幕を使って周囲の視界を奪う。それと同時に僕の手を取って走りだす。


『大丈夫ですか? どうやら動いて来たようですね。どうにか無事にこちらまで辿り着いてください』

「分かりました。そっちも気を付けて」


 オウラさんとの通信を切って前を向いた瞬間眼前に鈍く光るクナイがあった。


(よけ––)


 無理だと判断するよりも早くセラの奴がそのクナイを弾き飛ばす。おいおい、今夜のセラはなんか凄く頼もしい。僕を守ってくれるなんて……やっぱツンデレだなこいつ。


「もっとシャキッとしなさい。気づかない間に死ぬわよ。敵は闇の使い方をよく知ってる」


 そう言うセラの奴の横顔は凄く真剣で、そして少し苛立たしげだった。

 第七百四十八話です。

 今回からまたLROです。登校ペース落ちてるのにギリギリです。自分を甘やかしちゃいます。もっと他の話も書きたいんですけどね。

 取り敢えず次回も一週間後にあげますね。ではでは。

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