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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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合わさりの場所

校門を潜ると直ぐに校舎がある。高校はもうちょっと余裕がある作りだけど、なんだか小学校は余裕が無い感じに感じるな。でもそれは僕が大きくなったからなのかもしれない。昔はそんな事思わなかった気がするもん。


「スオウ、私は職員室に寄ってくから、二人をお願いね」

「ん、ああ」


 そう言って日鞠の奴は校舎の中に入ってく。残ったのは僕と老夫婦だけ。警察沙汰で時間食ったせいか、既に休み時間になってて校舎内からは物珍しげな視線が一杯降り注いでいる。アレだよね。小学生はパトカーとか好きだしね。

 多分赤いランプが見えてた時から気になってたんだろう。好奇心旺盛な視線。夢や希望に満ちた瞳と言うか……なんか眩しい感じ。それも見て僕にもあんな時代が……とか思い出して見たけど、そんな事はなかった。

 僕はあんな夢や希望に満ち溢れてた子供時代送ってない。自分があんな顔をしたことがあったのか、正直わかんないよ。


「全く人を物珍しげにジロジロと……うおら! 早く教室に戻らんかい!」


 そう言うお爺さんの一喝に、小学生達はビクッと震えた。そして輝いてた目を曇らせる。そんな表情の変化を見たお婆さんがお爺さんに言うよ。


「アナタ、そんな言い方いけませんよ。子供を怯えさせてどうするんですか。大丈夫だからね皆」


 お婆さんは子供達に向かって優しい微笑みを投げかける。その笑顔に安心したのか、引っ込めてた顔をまた出して手を振りつつ教室に戻ってく。どうやらもうすぐチャイムが鳴るようだ。


「僕達も行きましょうか? 肩貸しますよ」

「要らんことはするな。儂一人で十分じゃ!」


 偏屈爺は僕を押しのけて、お婆さんの前に腰を下ろす。


「さあ乗れ。抱えて行ってやる」

「良いですよ。そんな大した痛みもないですし。それに無理したら腰に来ますよ」


 お婆さんにやんわりと断られるお爺さん。だけどその程度では諦めないご様子。


「何言っとるんじゃ。悪化したら大変だぞ。儂はお前ほどやわじゃない。黙って乗れ!」

「まったく、しょうがないですね」


 そう言って仕方なくお爺さんの背中に体重を預けるお婆さん。けどそれは見てるこっちがハラハラしてきちゃうくらいに危なっかしい。そもそも爺さん杖使ってたじゃん。そんな人が人一人を抱えられる物だろうか?

 いや、そこは夫婦愛とかでなんとかなるのかも? あの爺さん口は悪いけど、お婆さんに対する愛情は本物っぽいからな。精神が肉体を超えて限界以上の力を––


 ––ゴキ!!


 なんだか嫌な音が聞こえた。お爺さんは中腰に入ったままピクピクと震えてる。これは……何か不味い気がするぞ。僕は脂汗を流し出したお爺さんに声を掛けるよ。


「あの、今変な音がしませんでしたか?」

「う……うるさい。この程度……なんとも……ない!」

 

 お爺さんは強引に腰を上げようとしてさらにゴキュ!? と腰を鳴らした。それはきっと致命傷の一撃だったのだろう。お爺さんはその後、白目を向いて前方に倒れ伏す。


「あ、アナタ!! アナタああああ!」

「うわあ……」


 お婆さんの叫びを受けても、お爺さんは「大丈夫じゃ……大丈夫」とうわ言の様に呟いたまま動かない。ちょっとこの人意地っ張り過ぎだろ。こんなに成ってまでお婆さんの事は自分でと思ってるのか。

 なんというか……ちょっと呆れるな。


「スオウどうした––ってええええ!? 何があったの?」

「状況見ればわかるだろ。老人が意地を張った結果がコレだよ」

「なるほど、スオウに任せないでお爺さんがお婆さんをおんぶしようとしたんだね。それで腰に来たと」


 ちゃんと説明しなかったのに、マジで状況だけで何が起きたのか読み解きやがったよ。流石は日鞠。説明する手間が省けてよかった。


「白目まで向いちゃって……流石にこれじゃあ保健室って訳には行かないよね。手の空いてる先生に病院まで運んでもらいましょう」

「そんな、流石にそこまで迷惑掛ける訳には……」

「それなら、体育館に人が居るだろうから、その中から手伝ってもらいましょう。イベントの参加者の方達だから、車もあるでしょうし、教員の人でも無いですしね」

「救急車でも良いんですよ」

「そんな大事にしたらまたお爺さんの機嫌が悪くなっちゃいますよ。大丈夫、皆手伝ってくれますよ」


 そう言って今度は体育館へと走って行く日鞠。忙しい奴である。アイツが暇そうな時って逆に滅多に見ないんだけどね。とりあえず、上からお婆さんを助け起こして、お爺さんの負担を軽くしてあげる。お婆さんも少し擦り傷とかあったから、ハンカチを濡らして傷を拭いてあげた。


(消毒液でももらってきた方がいいかな?)


 擦り傷程度で大事に陥った事は無いから、心配はあんまりしてないんだけど、自分の体と他人の体は違うものだからね。それにお婆さんはお婆さんだし、僕と違って抵抗力とか弱いだろう。念には念を入れても良い筈だ。それにこの調子なら、お爺さんも怪我してるだろうしね。

 あれだけ派手に倒れたんだ、体の節々に傷とか出来てるだろう。


「ちょっと保健室で消毒液貰ってきますね」

「そんな、そこまでしてもらわなくても……」

「お婆さんの為だけじゃないですよ。お爺さんもきっと怪我してるでしょうしね。直ぐ戻ります」


 そう言って僕は玄関に入る。日鞠の奴は手慣れた様に来客用のスリッパを履いてたけど、僕はそんなの取らずに靴下のまま廊下を走る。


「確かこっちだったような」


 久しぶりに入った校舎。外側から見ることはあっても、中に入るって事は卒業しちゃったら早々ないからね。僕は記憶を掘り起こしながら保健室を探す。


「お、あったあった」


 大体保健室は一階にあるから直ぐに見つかった。それに流石に四年ぶりというか、そのくらいでも六年間通った場所なら、記憶はどこかからか湧いてくる物だ。中に入れば、鮮明……とまでは行かなくてもそれなりには思い出が湧き出てくる。


「失礼します」


 ノックをして扉をスライドさせる。薬品の独特な匂いは小学校でも中学校でも高校でも変わりはしない。保健の先生は良く白衣着てるし、それも一緒。


「あら、あらら〜懐かしい子が来たものね」


 けど向けられる目は違う。高校の保険医はなんか適当そうだからな。けど、小学校の保険医は僕を穏やかな顔で迎えてくれた。顔に刻まれた皺を優しく波打たせて微笑んでる。初老に差し掛かろうとしてる先生は僕達が通ってた時から保険医としてこの学校に居た。

 保険医は転勤とかしないのだろうか? 普通の先生達は、いろんな学校を転々とする物の筈だけど、やっぱり保険医は特殊なのかな?


「お久しぶりです。すみませんけど、救急箱貸していただけませんか?」

「折角近況でもと思ったのに……相変わらずね。けが人かしら?」

「そんな所です」

「そう、じゃあ私も行きましょう」


 そう言って近くにあった救急箱を手に持ってついてきてくれた。出来ればついてきて欲しかったけど、そんな言葉は要らなかった様だ。相変わらず……と言われたけど、こっちもそう思うよ。ちょっと年取ったようだけど、あの時のままって感じだな。


 現場に戻ると既に日鞠と屈強なお兄さんたちが何人か集まってた。だけど流石にどうすればいいか迷ってる感じ。一応、うつ伏せになってたのを仰向けにしたみたいだけど、下手に動かして大丈夫なのかどうかってところだよね。

 白目向いてるからね。


「ちょっと良いですか?」

「先生、お願いします」


 ペコリと頭を下げる日鞠。先生はゆっくりとお爺さんの傍らに膝を付くと、全身を見て、腰辺りをさすったりしてみる。するとビクッと白目の爺さんが反応する。こんな反応が怖いから、お兄さんたちは下手に担いで車に押し込めなかったのかも。


「どうですか? 動かして大丈夫ですか?」

「とりあえず傷の消毒をして、その間に担架を用意しましょう。手伝って貰えますか日鞠ちゃん」

「勿論ですよ先生」


 二人は周りに指示を出して、お爺さんの怪我を手当してく。そしてある程度終わった所で持ってきた担架に慎重に乗せて車へ。


「それじゃあちょっくら行ってきますんで!」


 元気にそういった若いあんちゃんが車を発進させて道路の向こうに消えていく。全く、イベントまでに色々とあり過ぎだろ。大丈夫なのか不安になってきたな。


「大事に至らないと良いですけど……」

「大丈夫でしょう。基本はぎっくり腰のようでしたからね。まあしばらくはベッドで安静にすることになると思いますけど」

「本当にありがとうございます」


 保険医の先生にお婆さんは深々と頭を下げるよ。そんな行為に優しく微笑み返す先生。彼女にとってはこういう事が仕事だしね。別に気にしたりなんかしてないだろう。


「いえいえ、それよりもイベント楽しみにしてますから、頑張ってください。日鞠ちゃんも、スオウくんもね」


 僕まで言われるとは……ただ単に手伝うだけですけどね。それにどんなイベントなのかよく知らないし。基本日鞠の支持に従って裏方みたいな事をやってればいいんだろうと思う。なんの責任もない気楽な仕事だ。

 これで授業をサボれるのなら安いもの。肉体労働くらい積極的に来なそうじゃないか。僕達は先生に元気に御礼を行って体育館の方へ向かった。


「お疲れ様でーす!」


 そう大きく声を張った日鞠に対して沢山の声が帰ってくる。中には数十人位の人々が色々とやってた。皆さん若い人ばかり。青年団とか? そんなんあったかどうか知らないけど……何か調理台っぽいのとかもあるな。それに壇上には芝居に使いそうな道具とかも……一体何をやる気なんだ?


「なんのイベントだよコレ?」


 僕は小声で日鞠にそう問いかける。


「う〜んもっと子供達に地域の事を知ってもらおうって言う交流会的なイベントかな。色々と楽しい事をやってる人達って居るものだよスオウ。でも中々そういうのって知られないじゃない。それに知ってるようで知らないのが地元って事でもあるでしょ?

 だからしって貰う機会をつくろうと思ったんだよ。子供達は色んな側面を見せたいし、細々とやってた人達には公開の場になる。一石二鳥でしょ?」

「一石二鳥ね……なんか変なオブジェみたいなのが立てられてるんだが……」

「あれってなんとペットボトルのキャップで作られてるんだよ。凄くない? ああいう無駄な才能をお披露目しようってね」

「無駄ってお前」


 案外酷い事を言ってるぞ。まあ確かにああいうのって誰にも褒められたりなかなかしないし、お目にかかる事もないよね。地元の事は知ってるようで知らないことも多々あるのは事実。今の世の中、インターネットのお陰で大抵の事は知ることが出来る。

 けど日鞠はもっとローカル的な物を伝えたのかもしれないな。インターネットの向こうには広大な世界があるけど、地元にも知らないことは沢山あるって知ってほしいのかもしれない。


「ステージも何かに使うのか?」

「そうだよ。伝統芸能の披露とか、俳句の朗読とか」

「ローカル過ぎるだろ。子供達は退屈するんじゃないのか?」


 伝統芸能や俳句とか子供は多分興味ないぞ。


「てかあの劇用っぽい小道具は何なんだよ? やらないのか?」

「あれは創作ダンス&ミュージカルようだね」

「もうよくわかんないな」


 そもそもミュージカルってそのダンスとか歌とかが融合した劇だろ? 創作ミュージカルでいいじゃん。


「ほら、そこにはこだわりがあるみたいだから。こういうローカルな事をやってる人ってそこら辺頑固なんだよね」

「ああ……」


 なんかそう言われるとわかる気がするな。そもそもこだわりがないとやり続けるとか出来ないわけで、本気ならそれだけ思いいれだって強い。そういうことだよね。


「ん? じゃああのお婆さんも何かやるのか? それとも出展するものがあるとか?


 けど荷物はなかったような。


「ああ、西泉のお婆ちゃんは人形劇を演る予定だよ。オリジナル脚本なんだよ。それに人形も手作りだしね」

「へぇ〜」


 人形劇ね……子供に興味持ってもらえるだろうか? ちょっと心配。今の子供はハイテクを目の当たりにしてるし、大丈夫なの? 僕のそんな心情を見抜いたのか、日鞠が軽く笑いながら言うよ。


「大丈夫だよ。スオウは覚えてない? 私達一度あのお婆ちゃんの人形劇見たことあるよ」

「え? そうなのか?」

「うん、小学生の時にこれよりもずっと小さいけど、公民館で似たような事やってたじゃない。その時に、お婆ちゃんもいたんだよ。スオウは珍しく魅入ってたと思うけど?」

「そういえば……そんな事があった気がするようなしないような」


 思い出そうとすればうっすらとそんな光景が浮かぶ気もする。でもどうなんだろうかこれ? 実は僕の脳が勝手に補正してるって気も……


「その袋に人形入ってるよ。見てみたら思い出すかもだよ」


 そう言われて学校から持ってきた紙袋の一つの中身を確かめる。


「あっ」


 それを見た瞬間、確かに覚えがある。そう記憶が言った気がした。毛糸で作られた人形たちはナイトや姫や王様に、魔女やドラゴンやゴーレムっぽいのもあった。昔見たものと今回のは違うのかもしれない。

 けど、その暖かさにはきっと変わりはないだろう。


「思い出した?」

「いや、よくは思い出せない。けど、これは知ってると思う」

「スオウは昔からどこか遠くに行きたそうだったからね。きっとこの人形たちの世界に惹かれたんだと思うよ」

「なんだよそれ……僕は家出少年か何かか?」

「わかってるくせに、素直じゃないよねスオウは」


 そう言って日鞠は少し前に進み出る。そしてクルッと振り返ってこういった。


「楽しいスオウ?」

「ああ、十分にな」

「よかった」


 それはきっと他人が聞いたら何がなんだか分からない言葉だろう。推察出来ても、この場のこういう雰囲気の事ときっと思う。けど言葉が足りなくても、僕には分かるし、僕達だから足らない言葉を心で補える。沢山の言葉を使って確かめる事は簡単だ。時にはそれも良い。けど見えない物を確かめたい時、僕達はきっと暗号の様に足りない言葉を使ってるんだと思う。


「よーし、じゃあ頑張ろう! 成功させないとね。皆も踏ん張っていこー!」


 日鞠の声が体育館に響いてそれに続くように体育館に集まってる人達が声を揃える。日鞠の言葉に行動に周りが巻き込まれて動いてく。こいつが居ると、どこかに行きたいなんて思えなくなる。

 いや違うか。こいつが居るから、行きたくもなるし、戻ってくることにもなるって言う方が正しい気がする。


「ほら、スオウもボーとしてないで会場の設営に手を貸してね。昼休みから生徒会の皆も来るから、それまでに設営は終わらせて、昼からはリハーサルとかやらないとなんだから。後近所や駅前での周知もしないとだからね」

「へいへい」


 ようはまだまだやることいっぱいと言うことか。案外大変そうだな。とか思いながらも、僕は気合をいれるよ。もう真冬だけど、この体育館の中は熱い熱気に包まれてる。皆の思いが関係ない僕にも伝わって、成功させようと思えてきた。


 第七百四十四話です。

 少しずつモチベーション上がったてきたかもしれないです。無理矢理にやるんじゃなく、他の事をやってると「やりたい」って思えるようになりますよね。でもまだ完全じゃないので、ゆっくりとやっていきます。


 次回も一週間以内にはあげますね。ではでは。

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