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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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離されて、離れない世界

「うりゃあああ!」

「やああああああ!」

「や、やられたあああああ……」


 バタンと僕は倒れた。そして倒れた僕の頭を容赦なく踏んで決めポーズを取る子供達。


「やったあ! 魔王を倒したぞ!!」

「どうだ魔王! 勇者の力を思い知ったか!!」


 グリグリ、グリグリとヤケに踵で踏みつけて来るガキ共。我慢……我慢だ僕。こんなガキ相手に怒っても疲れるだけ……


「全く、魔王だからって大したことなかったな」

「ホントホント、唾掛けといてやろうぜ」


 そう言ってペッとされたのがベチャッと頭に掛かった瞬間、僕の中でブチッと何かが切れた。


「お〜ま〜え〜ら〜!!」


 両手でガキ二人の頭を鷲掴みにして持ち上げる。ひき肉にしてやろうか!!


「うあ……倒したのに……復活なんて……卑怯だぞ……」

「そうだ……そうだ……」

「卑怯? 魔王は悪の権化だぞ。卑怯上等。それにな、魔王は本来、段階的に変身していくものなんだよ。つまり僕は後二回の変身を残してる。お前達には倒せんよ」

「「なっ……なにいいいいいい!?」」


 僕の発言に驚愕するガキ共。魔王を甘く見た罰だ。このまま人生の厳しさを教えてやろう。


「降参しろよ。このまま頭を潰すぞ。まあ降参しても潰すけどな」

「んあ!? なんだよ……それ……」

「ふうええええええん……」

「おいおい、勇者が泣くなよ。魔王さまは泣いたって許してくれねーぞ––あてっ!」


 子供達に凄んで泣かせてたら後ろから叩かれた。振り向くとそこにはちっちゃな幼女を抱えたセツリが居た。


「もう、大人気ないよスオウ。二人共大丈夫? 怖かったね〜」

「セツリお姉ちゃん!!」

「こいつが虐める〜〜」


 んな!? このクソガキ共。味方が来たからって調子こきやがってる。


「ほら早く離してスオウ」

「……おう」


 セツリに免じて離してやると、即効で涙を止めたガキがここぞとばかりに反撃してくる。


「どりゃあ! 魔王倒れろ!」

「正義は勝つんだぞ!!」


 周りをチョロチョロしながら蹴ったり殴ったりしてくるからホントうざい。マジで一発叩き込んでやろうか? そう思ってると、セツリが呆れたようにため息を付いて、二人に言うよ。


「ほら二人共遊んでないで、家へ戻って。もう寝なくちゃでしょ?

「ええ〜もっと魔王と遊ぶ」

「べっこべこにするんだ!」

「だ〜め。あんまりわがまま言うと、オウラさんに怒られちゃうよ」


 セツリがその名前を口にすると、ガキ共ははしゃぐのを止めて素直に「はーい」と言った。そして僕に捨て台詞を吐いて家の方に駆け出す。


「今度こそ倒してやるぞ魔王!」

「目洗って待ってろ!!」


 目って……なんでそんな限定的な部分なんだよ。首だろそこは。全く教養のないガキ共だな。まああの年で知ってるわけもないだろうけど。元気いっぱいに駆けてくガキ共の後ろ姿を眺めながらセツリがポツリと呟く。


「子供ってホント元気一杯だよね」

「まるで自分は子供じゃないみたいな言い方だな」

「む〜、子供じゃないよ。私だってもう高校生だもん!」

「高校生ね……」


 セツリの奴は頬を膨らませて講義してるけど、あんまりコイツ自身は高校生って感じがしないんだよね。学力的な事もそうなんだけど……精神的に結構幼いというか……色々とあったし、セツリはもっと達観しててもおかしくないけど、まあ戻ってくる気になった時に、楽しもうとか思ったのかもしれない。それに数年の隔たりがあるからね。リアルもセツリにはそれなりに新鮮なんだろう。

 プチ浦島太郎的な? 数年程度でそこまで変わるか? とも思うけど、技術の進歩は凄いしね。セツリを見てると小さな事に驚いたりするようだ。


「何痴話喧嘩してるんだよ」

「アギト……」

「痴話喧嘩……痴話喧嘩って……」


 闇から戻ってくるのはアギトとシルクちゃんとテッケンさんだ。三人は街の方へ行って色々と情報収集に行ってたのだ。これからこの街で暴れるんだから情報収集は必要だ。まあ暴れると行っても長閑なこの街を滅茶苦茶にしたい訳じゃない。

 僕達が狙うのはあくまでこの街の領主。どうやらそいつがこの孤児院を潰そうとしてるらしいから、そいつを倒してこの孤児院を守るのが目的だ。でもただ倒すと行っても、敵は街を治める権利を貸し与えられた領主だからね。

 闇雲にぶつかるわけには行かない。中央に反乱……なんて印象を持たれても困る。だから色々と策を講じないと行けない訳だ。その為にも情報収集は必要だ。


「それで、どうなんだ? 街の人々の様子はさ?」

「そうだな……大体オウラさんが言った通りだな。領主は相当嫌われてる。まあ当然っちゃ当然だけどな」

「今の領主に変わった途端に税収なりなんなりを増やされてるからね……街の方へ行ってもあんまり活気がなかったよ」

「火種は既に燻ってる感じでした。怪しい動きしてる人達もいたし、街の誰かが下手な行動を取る前に動いた方がいいかもですね。普通の人達が相手にするには荷が重いでしょうし、私達がやらないと」


 いつになくシルクちゃんがやる気である。優しいはずのシルクちゃんだけど、優しいからこその怒りが見える気がする。


「でも悪徳領主とか居るもんなんだな。ちょっと意外?」

「元のLROの舞台はこっちなんだし、色んな奴が居るさ。敵はモンスターだけじゃなかったろ?」

「……それもそうか」


 そう言って僕はセツリを見る。前のLROで一番の敵––だったからな。まあ敵っていう表現はおかしいけどね。するとそんな僕の視線に気付いたセツリが不満を露わにするよ。


「も、もう! 昔の事は言わないでよ! これからいっぱいいっぱい恩返しするから良いでしょ!」

「まあそうしてくれるなら助かるけどね」


 過去の事は過去の事だ。僕たちは特にウダウダ言ったりはしない。けど、僕に向けられる視線もそうだけど、それが全て僕だけに向いてるわけじゃない。セツリの事に気付く奴はその内現れるだろう。

 その時、セツリはきっともう一度過去の事と向き合わなきゃいけない時が来ると思う。あの事件はなかった事になんて成らないんだから。その時までに強く成っててくれれば良いんだけど……


「偵察ご苦労。じゃあそろそろ行くわよ」


 孤児院の方からメカブにオウラさん、それにアイリにセラが出てくる。古ぼけた協会みたいな孤児院の明りは消えてる。どうやら子供達は眠りに付いたようだ。


「まだ攻める訳じゃないんだよな?」

「まあこっちでも私のインフィニティアートが使えればそうするんだけど、人に落ちてるから。もうちょっと慎重にやってやるわ。人を楽しむのもこれをやってる理由だし、煩わしさって新鮮じゃん?」

「知らねえよ」


 そもそもリアルにインフィニティなんとかいう力なんてな……思考が止まる。


(自分のこの変化……それを考えたらそういう力がない––なんて言えるだろうか? と思った。科学で証明できない事はあるとは思うんだ。それが何かは僕にはわからないし、実際メカブにそんな力はないだろうけど……リアルには僕以外にも不思議な力を持ってる人は居るのかも……)


 と考える事が出来る。それは自分に変な力が備わってるから。まあ目が良くなっただけ……とも言えるような気もするけどね。未来予知が出来たりとか、壁をすり抜けたりとか、透明になれたりとか、そんな人外な力じゃないからね。

 人の中に眠る可能性の拡張……そんな事を日鞠の奴は僕の変化を言ってたな。だからまあインフィニティアートなんて大層な名前じゃなければ……あり得なくもないのかな?


「どうしたのよ?」

「いや、お前のアホな発言に嫌気がさしてただけだ」

「あんだと〜〜!」

「こらメカブ、子供達が起きてしまいますよ。まだ皆眠りは浅いでしょうからね」

「わ、わかってるわよ」


 オウラさんに言われて頭を掻くメカブはちょっと不服そう。う〜んやっぱりオウラさんがリーダーっぽいよね。色々と経験豊富だろうし、力だって強いだろう。冷静沈着に支持とか的確にしてくれそうなイメージ。

 逆にメカブはこっちでもメカブでしかない。無駄にビビットな色の装備で固めて、リアルでは出来ない奇抜な髪の色……レインボーになってるからね。流石にLROでもレインボーは珍しい。まあ肌の色が青いのもいるし、そこまで違和感があるかと言えばそうでもない気はするんだけど、でも全身見るとやっぱ違和感バリバリだな。

 レインボー髪だけなら、LROだしそこまで変でもなかったかもしれないけど、メカブの場合は全身破綻してるからな。もう違和感ばりばり。これなら成金が金や銀の装飾品でゴタゴタしてる方がマシかもしれない。


「こんな所でわいわい無駄話してる場合じゃないわ。領主の奴は市民から、金を絞りとって何かをしようとしてる。その為にもここは邪魔らしい。だからその野望を食い止めて奴を失墜させるのよ!」

「で、どうするんだ? 市民の不満も高まって来て、そろそろ爆発しそうらしいぞ」

「そうね……私の見立てではそれも領主の狙いの様な気がするわ」

「不満を煽る事が––か?」


 それって何かメリットあるだろうか? あんまり無いような? いや……まてよ。


「なあメカブ。ここってそれなりに人の出入りはあるんだよな?」

「そうね。中規模の街だし、周りは村とかばかりだからね。それに地方だから、スキル上げとかが一応拠点とかになるしね。NPCもプレイヤーもそれなりにいるわ」


 まあこの場合はプレイヤーはどうでもいい。前と違って、そんなにNPCと交流を深めてるプレイヤーはそう居ないだろうしね。一年とかの時間が経ってる訳でもない。運営がエリアバトルを推奨してるから、そっちメインで、前の様にLROの陣地争いとかでプレイヤーとNPCが協力しあってるって事がない。

 だからまあ今はプレイヤーは考えなくてもいい……とは思う。


「何か気になることがあるならハッキリいいなさい」


 セラの奴は相変わらずのメイド服。そして相変わらず厳しい目を僕に向ける。前の時とは微妙にデザインが違ってる気がするけど……基本的にはクラシカルなメイド服だ。前からやってた人はキャラを引き継げるのか知らないけど、顔とかは前と同じに見える。それはアギトもアイリもテッケンさんもシルクちゃんも同じだ。

 みんなやっぱりそれなりにその姿に愛着があるのかもね。それなのにエイルの奴と来たら……


「ちょっと聞いてるの?」

「ん、ああ……いや、シルクちゃん達が集めた情報じゃ、町民の方にも動きがあるらしいじゃん。もしも領主が不満を煽ってるのなら……その動きだって怪しくないか?」

「つまりは、その動きさえも領主の差金って事?」

「先導してる奴等のリーダーとか素性はハッキリしてるのか? 中央からは離れて、ここらでは一番の街……NPCの行き来が多いのなら、良くわからない奴等だって入り込めるだろ?」

「……あり得なくはないかもね。でもそれならそこまでさせるだけの目的が気になるわね」


 僕の考えを一考するセラ。そしてセラの発言を僕も考える。確かに不満を煽り、暴動まで起こすとなると、かなり思い切った決断だ。ようはそれだけのリスクを犯してまで叶えたい何かがあるって事だろう。

 何を狙ってる? プレイヤーは皆エリアバトルに夢中になってるけど、再構成されたこの世界はあの時とは違うけど、確かに息づいてる様だ。だからきっとここにお邪魔してる僕たちはこの世界とは切り離れられない。

 運営は必至に目を逸らさせてる状態でも、やっぱり僕たちは完全に関わらないなんて出来ない––と思う。


「領主の事もそうだけど、それも調べる必要あるかもね。いつ奴の部下が襲ってくるかわからないから、私達は動けない。アンタ達でどうにかしなさい」

(なんでそんな偉そうなんだよ……)


 メカブの奴、態度間違ってるだろ。お前はお願いしてる立場のはずなのに、なんで上から目線なんだよ。お願いしますいえよ。まあそれはそれでちょっと気持ち悪いけど。


「メカブちゃんとオウラさんはここから動けないんだ。じゃあ、どう分けよっか? やっぱり隠密行動が得意なセラやノウイ君に領主の邸宅に潜入してもらった方がいいかな?」

「そうですねアイリ様。私やノウイが妥当でしょう。でもそれじゃバランス悪いですから、スオウもこちらで」

「なんで僕だよ?」


 そもそもセラが僕を指名するなんて……意外過ぎる。囮か? 万が一の時に囮にする気だろう? そうとしか考えらない。


「別に深い意味は無いわよ。でも……なんだか役に立ちそうな気がするわ」


 そう言って鋭く笑うこいつを墨は信用出来ない。後ろから刺されたりしないよね? セラの印象は聖典が強いけど、本業は暗殺だからね。アイリを守る最強のメイド部隊。その隊長がセラだったんだ。聖典なんて殆ど知られて無くて、セラの普段の武器は暗器だったもんな。そしてそれは多分変わってないと思う。

 傍目にはセラが武器を装備してるようには見えないもん。隠してるんだろう……


「はいはい! スオウがそっちに行くなら私も––」

「貴女は結構です。おっちょこちょいそうなので」

「––酷い!! どうして貴女にそんな事がわかるの!?」


 セラに噛み付くセツリ。さっきまでセラにはビクビクしてたのに、流石に馬鹿にされたら黙ってられないか。セラはいつもキツイ目してるからな。だからセツリ的にはセラがちょっと怖いよう。


「見てればわかる。それに余計な感情なんて持ち込まないで。貴女は自分がどれだけ出来るか分かってるの?」

「で……出来るもん! ここでは私の体は自由自在なんだから!」


 両手をぎゅっと握りしめてそう講義するセツリ。セツリはこっちでは五体満足に動くことが出来る。だからなんでも出来るような気がするのはわかる。リアルではいっぱいもどかしい事があるからそれは尚更だろう。

 こっちでも何も出来ない……なんて思われたくないのかもしれない。だから僕はセラに言うよ。


「いいじゃん別に。ちょっと潜入するだけだ。僕がちゃんとフォローするし」

「アンタもそこまで出来るとは思えないんだけど……」

「はは……」


 確かにご尤もな意見だな。僕だって潜入とかそんな得意じゃない。暗殺に長けたセラとか、逃げるの得意のノウイじゃないからね。


「まあ足手まといが一人二人増えたってセラならどうにか成るだろ?」

「自分もいるっすよ!」

「あんたね……私だけに負担をかける気?」

「自分も居るっす!」

「そこをなんとか……」

「いや」

「だから自分も居るっす!」

「まぁまぁセラちゃん。私もそっちに加わって良いですか? 二人は私がフォローします」

「シルク様……そういう事でしたら……」

「ですって。良かったねセツリちゃん」

「ありがとうシルクちゃん!!」

「自分も……自分も……いるのに……グス」


 歓喜するセツリはシルクちゃんに抱きついて喜びを表現してて、セラは大きなため息をついてる。そしてさっきから何か主張してたノウイは背中を向けて小さくなってた。なんかノウイって気がしないんだよね。

 いや、この後姿はとってもノウイっぽいんだけど、正面向くと駄目なんだ。


「それじゃあ俺とアイリとテツで民衆を煽ってる奴を調べるよ」

「お願いしますアギト様。それとアイリ様もお気をつけて」


 そう言って歩き出す、アギト達を礼儀正しく頭を下げて見送るセラ。こういう所はメイドだよね。この半分でもいいから、僕への態度を改めてくれないかな? 


「何やってるのよノウイ。いつまでもメソメソしてないで立ちなさい。これは重要な任務よ」

「はっ……ハイっす!!」


 涙で潤んだ瞳から水滴を飛ばしてノウイが満面の笑みになる。ホント、セラの事大好きな奴だ。セラに声を掛けられただけで立ち直りやがった。まあでもノウイの奴の力は必要だ。ミラージュコロイドとかを持ってるとは思えないけど、それ無くても異様に避けたり逃げたり、潜入したりは上手い奴なのである。


「それじゃあ行くわよ。気合を入れなさい」


 僕達もその言葉で気持を引き締める。僕にとってこれは再びLROに来ての大きな戦いになるかもしれない。それに守らないと行けない奴もいる。セツリは小さく手を握って、つぶやいてる。


「ふぉいお、私はやれる。ふぁいお」


 そしてそんなセツリに声を掛けずに僕とシルクちゃんは視線を混じらせる。二人して頷く僕達は互いに同じことを思ってた筈だ。


 第七百三十七話です。

 遅くなってごめんなさい。そろそろスローライフも再開しないとですね。次回は金曜日にあげます。ではでは。

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