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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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箱の中の宇宙

「じゃじゃ〜〜ん!」


 バックから取り出した弁当箱はお節でも入ってそうな高級そうな箱。それが三つも。どんだけ気合入れて作ってきてるんだよ。


「ふっふ〜そろそろ私のお弁当が恋しくなって来たかな〜って思って」


 日鞠はそう言いつつ、皆に紙のお皿と割り箸を配る。秋徒や鈴鹿さんは弁当持参してるようだけど、一応二人にも皿を渡すよ。教室からはそれなりに離れてるから中々に静かな場所。まあだけど外ではしゃぐ奴等の喧騒は遠くで聞こえたりする。

 ああいう弁当を速攻で食って外に行く奴等って、昼休みをなによりも楽しみにしてるよね。


「おお、今日はガッツリと食えるな。てか日鞠、お前昼から登校して来たのか?」

「そうだよ」

「流石は生徒会長、特権階級だな」


 秋徒の奴が羨ましそうにそう言うよ。まあけど特権階級ってのは案外間違ってないかもね。日鞠は授業とか免除されてる節があるし……それでもテストだけはちゃんと受けてて学年一位何だけどね。

 先生たちも日鞠に授業とか憚れるのか、こいつがいる時はなんか妙に緊張してるし、やっぱり今ぐらいがちょうどいいのかもしれない。いたりいなかったりして、居る時は特別講義をしてくれるっていうね……

 生徒には日鞠の気まぐれの講義の方が評判良いからね。先生達は涙目だろうけど……


「普段はちゃんと皆と同じ様に登校してるよ。今日は特別」

「特別って何かあったのかよ?」


 そんな秋徒の何気ない言葉にピクッと反応するよ。今朝のあれが頭を過ぎる。けどそんな僕のモヤモヤとは裏腹に日鞠の奴は軽く言った。


「帰ってきたのが朝だったから、それから寝て今来たの」

「朝? それって朝帰りって奴か? 生徒会長にスキャンダル発覚か……」


 カコン・カンカン––と小さな端が机を転がり床に落ちた。その落とした主に皆の視線が集中する。


「あっ……ごめんなさい」


 そう言って箸を拾って鈴鹿さんは洗うためか部屋を出てく。なんだ今の……なんか一瞬固まってた様な? 秋徒がスキャンダルとか言うから? 


「えっと……日鞠ちゃんにはスオウの他にそう言う相手がいる……の?」

「そうじゃないよ。ただのお仕事だよ。色々とやってるからね」

「色々……」


 摂理の奴が何かその言葉を噛み締めてる。なんか変な想像とかしてそうだな。摂理は世間とかよく分かってなさそうだし。


「まあお前が色んな事をやってるのは知ってるが、そんな朝帰りとかやり過ぎだろ。前はちゃんと夜には帰るように何だってしてたのに……最近はやけに無理してるように見えるぞ。お前らしくない」


 秋徒の奴は厳しい目をしてそう言った。グッジョブ! 秋徒にしてはまともな事を言うじゃないか。確かに最近は前にもまして忙しそうと言うか……なんか避けられてる? って、今こうやって弁当突いてるしな。そうじゃないか。

「私は私のしたい事をやってるだけだよ。別に無理はしてない。私には出来る事がいっぱいあるからね」

「自慢かよ……」

「自慢って言うか義務というか。ほら、大きな力には大きな責任が伴うみたいな?」

「お前そんなキャラだったっけ? 確かに誰の為にも動く奴だったけど、それを義務みたいに言う事なかっただろ?」

「……なかなか鋭いね秋徒の癖に」


 確かに秋徒の癖になかなか鋭い。日鞠の奴は何かに追われて、責任を果たす様な奴じゃない。僕の視線に気付いた日鞠は掛けてたメガネを外して弁当を広げてる長机に置くよ。


「まあ、ほら……私も流れには早々逆らえないし、そしたらその流れをどうにか自分で制御できる位置に居たいじゃない? つまりはそういうことかな?」

「意味分かんない……」

「摂理の言うとおりだな。意味分かんないぞ」

「つまりはね、色々と変化が起こってるって事だよ。スオウの体の事もそうだし、LRO関連の事もそう……大きな潮流の時期に差し掛かってると思うんだ。そこで私が大切な物をどうするか、どうしたいか……その為の行動を取ってるだけ。

 もう、蚊帳の外は嫌だからね」


 僕は思わず日鞠の視線から目を逸らす。結局は僕のため……なのかもしれない。きっと日鞠は僕なんかよりも、ずっと積極的にLROに関わってる。てかそう行動してる。だから僕達が知らない色んな事を知ってるのかもしれない。それなら僕が言える事はコレしか無いな。


「一人で突っ走り過ぎるなよ。何かあったら絶対言え」

「うん、そのつもりだよ。スオウは無関係では居られないしね」

「お前が言えた義理じゃないと思うけどな。所で体の事ってなんだ?」

「もしかしてまだLROでの影響が? 傷痛い? 体辛いの?」


 摂理や秋徒の奴が、日鞠が言った体の部分に反応してきた。隠してたのに……まあ隠してたというか、説明してもどうなんだろうってのが大きい訳なんだけど。僕は閉じたドアをチラッと見て二人に向き直る。


(まだ鈴鹿さんはもどって来ないようだし、言うなら今の内か……)

「体が辛いとかそういうのじゃない。寧ろ絶好調のその先にまで行ってると言うか……」

「なんだよそれ? ハッキリ言えよ。要領得ないぞ」

「うんうん」


 二人共ちょっと食い入り気味。けど、言葉で言ってもそう簡単に納得して貰える物でもないと思うんだよね。でもここまで言ったら、変に誤魔化すのもどうかと思うし、言うしか無いか。証拠は、後でどうにでもなるしね。


「ようは良く見えるんだ。普通じゃない程に、視力? いや、動体視力が上がってるって感じ」

「それって……どんな感じなんだ? 全てがスローモーションで見えたりしてるのか?」

「そこまでじゃない。でも集中すれば、そんな感じにはなる」

「本当かよそれ? てかそれってLRO関係有るのか?」


 そう言って秋徒は日鞠を見る。すると日鞠は口に含んでた物を飲み込んで話す。


「関係あると私は思ってるよ。スオウもそうでしょ? スオウの変化は多分、可能性領域って奴に関係有るよ」

「可能性領域か……なんか聞いた事あるような……」

「お兄ちゃんがそういう言葉使ってた気がするよ。それって何か副作用とかあるの?」


 心配するように摂理は僕を見てる。自分の兄のせいで僕に変な事が起こってるとしたら、それは妹としては心苦しいのかも知れない。


「別に副作用って程の事は何も感じないよ。まあちょっと煩わしくはあるけどね。変に見え過ぎる時あるし。でも、便利でもあるしね。戦闘とかには役立ちそうだし」


 再び始めたLROでは役に立つことの方が多い。デフォルトでスキル持ってる様なものだしね。特別な物なんて全て無くした僕にはありがたかったりする。リアルではそんな使い所ないのは確かだけど、リアルもきな臭くなってきたし、いざと言うその時が来れば(こないに越した事はないけど)役に立ってくれるだろう。


「スオウにそんな変化起こってたなんて……日鞠ちゃんは気付いてたの?」

「スオウの事ならどんな小さな変化でも見逃さないよ。ずっと一緒に居るもん」

「少しは見逃せよ……」


 結構うんざりしてるんだけど。けどそんな僕の言葉に日鞠の奴は悪戯な笑みを浮かべてこう返す。


「そんな事言ってスオウは私がちょっと構わなくなったら直ぐに拗ねるよね? 今朝だってそうだったし」

「はぁ? なんの事かわかんねーな?」


 別に日鞠を気にしてた訳じゃないし。あの透かした野郎が気に入らなかっただけだし、変な勘違いはやめていただきたい。なんでも出来るからって自信過剰なんだよ日鞠は。


「またまた〜さっきも私の事なによりも大切だって言ってたよ?」

「どういう脳内変換してんだよ。そんな言葉発してねえ」


 ほんと脳内お花畑なんだから……幸せそうでほんと羨ましい。全く、日鞠はリアルも充実してて、LROでも成功を収めつつあるとか、誰か一回叩き潰してくれないかな? まあそんなの見たくないとか心のなかで思ってるけど、順風満帆過ぎるのもどうかと思うわけだよ。

 ちょっとこう足を挫く感じでいいから、軽い壁とかにぶち当たって見て欲しい。こっちが心配することないようなちっこいのでいいから、そんなの無いだろうか?

 

「いいなぁ……」


 ポツリとそんな言葉が聞こえた気がした。僕たちはそんな言葉を発した本人に視線を向ける?


「摂理ちゃん?」

「何か言ったか?」

「えっ、えっと……それってスオウだけなのかな? 私は……別になんとも無いんだけど……」

「確かに、言われて見れば僕よりも摂理の方が可能性領域を開いてそうな気がするけど。長い時間向こうに居たんだし」


 僕がそう言うと、日鞠はそんな考えを否定するよ。


「そうかな? 時間は確かに関係あると思うけど、それだけじゃないんじゃないかなって思う。時間の長さだけなら、廃人の人達も相当やってただろうしね」

「それはそうだな。アイツ等、リアルとLROが完全に逆転した様な感じだぞ。それこそ何百、何千って言う時間を自慢するからな。まあそれでもずっと中に居た摂理に勝れる訳はないか。でも時間の他に要素があるとすればLROに落ちた具合とかか? 

 でもそれも摂理とスオウとでそこまで差もなかったろ? 最後ら辺はこいつだって完全にLROに落ちてた訳だし」


 確かに秋徒の言うとおりだな。最後は僕も完全に摂理と同じ所まで落ちてた。ログアウトはなくなり、リアルに反映されてた傷も肉体と精神の繋がりが切れたのか、なくなってたしな。まあそのおかげで今こうして生きてられるとも考えれる。

 向こうでの傷がこっちの肉体に反映される度に何度死にかけた事か……最後の戦いでもそうなってたら、多分僕のこの体は持ってなかったと思うんだ。魂……と言うか精神か? いや、やっぱり精神というか魂が、LROに落ちきってしまったからあの状態に成ったはず。

 それはつまり、あの時の摂理と同じ状況だったということ。僕と摂理は同じような体験を通した筈なんだ。それなら確かに摂理にも同じような変化が起こってもおかしくはない……と思うんだけど。


「摂理は本当に変化ないのか? もしかして自分で気付いてないだけなんじゃ? ようやくその体に戻ってきた様な物だし」

「それはあり得るかもね。何かおかしいなって感じたら直ぐに言ってね」

「う……うん」


 そんな話してると、ガチャっとドアが開かれて箸を洗い終わった鈴鹿さんが戻ってきた。こうなるとLROの話題は話しづらい。それに伴ってちょっと訪れる沈黙。こういうのって気不味いよね。

 自分が入って来たら一気に場が静まり返るのって嫌な想像をしてしまう。僕も良く教室で経験するもん。そうなると「ああ、また悪口でも言われてたかな?」って思う。つまりは鈴鹿さんも今、そんな事を心で思ってる可能性が大って事だ。

 表情は全然崩れないけど……てか元々無表情っぽいけど、それが僕には痛々しく見える。だって僕自身も何でもない様に振る舞うからね。てかそうするしか無いし……面と向かって来る奴の方が相手にはし易い。

 貯まってた物だって開放できるしね。溜めてくだけじゃ、気持ち悪くなってく物だ。実際、彼女の事なんかこれっぽっちも話してないから、気にしないで欲しいんだけど……なんと言えば?


(いや待てよ……話題に全く上がらなかった––ってのも傷付くような……)


 一体どうすれば? そんな風に僕達が混乱してるなか、鈴鹿さんはお話を親指の付け根で挟んで両手を合し、頂きますをして、自分の小さな弁当をつまむ。すると日鞠が動いた。


「私のお弁当も食べて見てほしいな」


 屈託の無い笑顔。声に緊張も何も感じれなかった。どうやら気まずそうに感じてたのは僕と秋徒と摂理だけだったらしい。日鞠の奴は特にどうとは思ってなかったようだ。


「そ、それじゃあ、卵焼きを……」

「遠慮すること無いよ。もっと言っい食べて。そうしないとスオウや秋徒に全部取られちゃうよ。鈴鹿ちゃんはいつもお弁当だよね? 自分で作ってるの?」

「私……お料理とか好きだし。それに小食だからパンとかでも残しちゃうから……」

「そっかぁ、やっぱり自分で食べる様には自分で作るのが一番だよね。栄養バランスも気をつけられるし、凝ったものを出来る。それに料理は女子力をググーーンと上げるしね。スオウもそう思うでしょ?」


 どうして僕に振るんだよ。二人で楽し気に会話してろ。すると秋徒の奴が僕の肩を勝手に使って覗きこむようにして反対側の鈴鹿さんの弁当を覗きこむ。


「確かに料理出来るって聞くと印象アップするよな。冷凍食品は無いみたいだな。何か交換しませんか? まあ俺のは冷凍食品ばっかりなんですけどね」


 秋徒の奴は普通にそういうことをする。こいつ彼女居るのに……いや、まあそれが秋徒なんだけど。女子にも男子にもいい顔するからね。


「そんな大層な弁当じゃない。けどまあ今日はいっぱいあるし、別にいいけど……」

「サンキュー」


 秋徒は軽いノリで彼女の弁当を摘む。そいて「おおうめえ!」とか簡単に言ってる。こういう所が女子にも人気の理由だろうか? そして頼んでも居ないのに、僕にも薦めて来る。こんな風に不幸そうな男子にも女子との触れ合いをくれるから男子にも慕われてる。

 僕は余計なお世話と思うけどな。けどまあ、変に注目されてるし食うけどね。小さなハンバーグみたいなのをヒョイッと口にふくむ。そして咀嚼してごっくん。


「うん、ちょっと舌触りが悪いな」

「お前な……」

「それ豆腐だから。でも舌触りが悪いって事はない筈。肉と思って食べたから感触が違っただけじゃない?」

「……そうかも」


 なんか随分と論理的に攻められた。そう言われたら、確かにそうかも……と思えるじゃないか。


「あ、あの〜私も良いですか? 鈴鹿ちゃんのお弁当食べたいな?」

「別に、良いですよ。こっちの方が美味しいですし」


 そう言って彼女は日鞠のお弁当ばかりつまみ出して、どうやって作ったとかの話で盛り上がってる。それを見てちょっと寂しそうな摂理。話しに入りたいんだろうなってのが丸わかりだ。でも摂理は料理とか出来ないから取っ掛かりがなさそう。


「摂理もやってみたいのか? でもお金あるのなら別に無理してやる必要もないと思うけどな。面倒だし。向き不向きがあると思うぞ」

「わ、私だってお弁当とか作ってあげたり……してみたいよ」


 チラチラとこっちを見ながらそう言う摂理。お弁当ね……そりゃああったら助かる。別に自分で作れないわけでもないけどね。最近は冷凍食品を詰めるだけでいいからね。でも自分で作るくらいならパンでいいかなって思うんだ。


「摂理ちゃんもやってみたいんだ? いいかもね。お料理できて困ること無いし。私も時間がある時は教えれるけど、鈴鹿ちゃんにもお願いしたいな」

「私? ……けど、私なんてまだまだで……」

「お弁当作れるなんて凄いよ! 私なんてお米の研ぎ方から知らないもん! レタスとキャベツの区別もつかないし、りんごだって剥けないよ!」

「わ、分かったから。そうだね……まずは一般常識から勉強した方がいいかもね」

「ありがとう鈴鹿ちゃん!」


 摂理の奴は喜んでるようだけど、鈴鹿の方は呆れてるぞ。まあけど、摂理の場合はしょうがない……のか? これから友達と一緒に色んな事を吸収していければ……それはきっと摂理に為になるよな。

 二人の距離も縮まるだろうし……もしかして日鞠の狙いはそれか? 僕と目が合うと、おかずを摘んで「はい、あ〜ん」とかしてくる。それを見て摂理が「そんなの駄目〜」とか言っていつの間にか和気あいあいな雰囲気に成ってた。

 気不味かったのは解消されてしまってる。良かった事だけど、それをこの日鞠の手のひらの上で転がされた結果だと思うと……ホント食えない奴だと思う。大きなメガネの奥の瞳は屈託なく見えるのに、こいつは色んな事を自分の望む方向に動かす何かを持ってるよ。


 第七百三十四話です。

 遅くなってごめんなさい。次回は火曜日にあげます。ではでは。

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