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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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花の咲く場所

 わいわいがやがやとざわめく教室。それは授業が始まっても変わらない。そわそわとした感じが伝わってくるよ。チラチラと注がれる視線は教室前方、嫌がらせかという位置に陣取られた摂理に向けられてる。

 いや、まあ配慮なんだろうけど……教卓の真ん前って生徒からしたらハズレだからね。けど、車椅子だし、色々と移動とか大変だろうし、先生の目に入る所でフォローを出来る位置となるとそこがベストだとは思う。

 でもあの場所から車椅子で移動するのは中々に大変そうだけどね。後ろの席なら余裕あるし、もっとスムーズに出来るだろうけど、ちゃんと勉学をするってなると、あそこの方がいいのかもね。

 そもそも摂理の学力はどの程度なのか……よくわからない。数年も眠ってたんだし、いきなり高校生の授業についていけるのか? そう思ってると、無駄に元気な現国の先生が摂理を指名する。

 ありがちな「教科書のこの部分をちょっと読んでみて」ってなアレだ。もしかしたらあの先生も気を使ったのかもしれない。この位なら出来るだろうと。まあ文字読むだけだしね。それほど難しい文章でもない。

 古文とかじゃないしね。文章は中学までのが出来れば大体は読める物だよね。けど……摂理の奴は耳まで真っ赤にしてる。ボソボソと何か言ってる気はするけど……どうなんだ?


「どうしたんだ桜矢? ほらもっと大きな声で言ってみるんだ。そんなんじゃ聞こないぞ」


 そう言ってプレッシャーで追い詰める気ですか先生。逆効果でしょどうみても。もともと摂理は他人が苦手なんだよ。いきなり人前で声を張らせるとか無理がある。まあじゃあどれなら出来るんだ? って言われても困るんだけどね。

 今日は登校初日なんだし、見学感覚でいいだろう。全く、僕は実際、こんなキャラじゃないんだけど……


「先生、摂理––じゃなく桜矢さんは転校初日なんだし、緊張してるんですよ。他の人に回しましょうよ」

「それじゃあ君が代わりに読むんだな。だな!」


 なんでこの学校の奴等は教師も生徒も僕に対して辛辣なんだよ。不登校になっちゃうぞマジで。まあ別に良いんだけどね。今更下手にちやほやされるのも気持ち悪いし……それに今の方が、色んな事に罪悪感なくていい気もする。


「すみません、今日はちょっと喉の調子が悪くて、親友の秋徒君に変わってもらいます」

「んな!?」


 そう言って秋徒を指名して上げた。いやー最初から悪者だとこういうのも楽でいいよね。渋々立ち上がり教科書を読み出す秋徒。ふと見ると、摂理の奴がこっちを見てた。泣きそうな顔してるぞ。今日一日持つのだろうか? まあだけど学校ではやってやれる事なんか僕にはないけどね。下手に近づこう物なら、クラス中の奴等の敵意が篭った視線が貫いてくるしね。

 僕は悪い虫かっての。それに学力もそこそこだし……そこはきっと日鞠がやってくれるだろう。この学校での生活のコツと言えば、僕にあんまり関わらない事だしね。取り敢えず縋るような目をしてる摂理を無視して、机に突っ伏す。

 疲れたんだよね。朝からあんな事やったせいで……けどホント……僕はどうなるんだろうか?


(可能性領域……か)


 それが僕の体に起きた変化なのだろうか? 実際誰もその意味は知らないらしい。当夜さんがポツリと言ってたのを聞いたことがあるらしいだけで、詳しいことは誰にも分からない。そんな何かが、自分の身に起きてるとしたら……かなり不安だよね。

 別に不便って訳じゃない。寧ろ色々と役立つ時はある。けど、不安は拭えないよ。何が起きてるのかわからないってのはそれだけで怖い所はある。


(きっと日鞠の奴は朝のアレで僕の異変と言うか……この力みたいなものに気付いただろうな)


 知ってるのはラオウさんだけだったんだけど。やっぱりこういう肉体関係の事は極めてらっしゃる方の方がいいかと思ってね。佐々木さん達に相談することも考えたけど、なんとなく探る感じでとどまってる。

 下手に聞いて実験動物にされるのも嫌だしね。信用してない訳じゃないけど、今彼等のバックは政府だから。そっちは一筋縄で信用なんて出来ないよ。既にLROを再稼働させてるのもその一因だ。

 流石に早すぎるよ。何かに焦ってるよね。そりゃあ各国技術の発展を目指して切磋琢磨してる中、とんでもない物を手にしちゃった訳だからわかる事もある。どこよりも先にこの技術を確立したくて躍起になってるんだろう。

 そんな中……だよ。LROに深く関係した僕にこんな変化が起きてると分かったら……研究所送りになる可能性大だよ。一応LROの事に関しては僕達それぞれ深く知っちゃった分、協力してる事はある。

 でもそれは仲間とか……そういうのじゃ絶対にない。けど打ち明けて精密に検査するのも一つの手ではあるんだよね。でも一言で言ったらソレも怖いよ。分からなくても、分かったとしても、両方怖い。

 確かに……クリスの奴が言ったように、僕の日常はとっくに壊れてるのかもしれない。


(僕だけ……なんだろうか?)


 こんな事になってるの? 摂理の奴はどうなんだ? 一番深く、長くLROに浸ってたのは摂理だ。同じような現象が起きててもおかしくはないと思うんだけど……再び摂理に視線を向けると、何か悲しそうな背中をしてた。そんなに授業がわからないのか? けどまあ流石に学校でそんな話は出来ないな。

 かと言って病院に行くのも……ん?


(あれ? 摂理ってまだ病院に居るんだっけ? でもそれじゃあ通学がかなり大変じゃ……)


 そこら辺どうしてるんだろう? あれかな? ハイヤーでも出してもらってるとか? 車椅子だから一人で電車とかにだって乗るの大変だろうしな。そもそも改札の通り方とかしってるのかどうか……世間知らずだからな摂理は。



 チャイムが鳴り響くと同時に、席を立ちだす生徒たちはあっという間に摂理の周りに集まる。しかもこのクラスの奴等だけじゃなく、別のクラスの奴等も摂理を拝みに来てるほどだ。日鞠がいないのにここまでごった返すなんて初めてだな。

 確かに摂理は容姿良いし、容姿良いし、容姿良いし……それだけで十分か。高校生の興味なんて大抵そこだな。取り敢えずうるさいから、教室をでようかな。僕が力に成れることはないからね。これはある意味、転校生の宿命なんだ。

 即効で興味を失われる転校生だって全国には居るんだ。その分、摂理の転校はイージーモードだ。この学校で一番影響力が大きい日鞠という味方もいるしね。それだけで不安なんて持つ必要ない。


「スオウ声掛けないのかよ?」

「は? 僕が声かけたって摂理の為に成らないだろ。寧ろお前があの暴走してる奴等止めろよ。得意だろ? 心にもない事言ってバランス取るの」

「お前な、それじゃあ俺が口八丁みたいな奴じゃないか」


 実際そうだと思ってたけど。秋徒の奴はデカイ図体してるくせに平和主義だからな。周囲のバランスを上手く整えてイザコザを回避するのが旨いんだ。だからこいつは僕といても、誰からも嫌われない。そして年上の可愛い彼女も居る……なんか美味しいところだけとられてないか?


「まあ僕よりは秋徒が適任なんだよ。僕が出て言ったって『何しゃしゃり出てんだよ』って成るだろ?」

「それもそうだな。それに友達作るにしても、お前の存在は匂わせない方がいい」

「そうそう……」


 くっ、自分で言ってて泣きたく成る。いいよ別に。この学校が僕の世界の全てじゃないし。もっと色んな場所に目を向ければ、友達いるもんね。わざわざ狭い世界にこだわる気なんて僕はない。


 僕は負け惜しみでもなんでもなく、本気そう思いつつ教室の後方のドアから廊下に出る。するとその時、視界に入る二つの膨らみ。避けようとしたらその横には日鞠の姿が。しかも他にも生徒が集まってるから、どこに避けても態勢を崩して誰かにぶつかりそう。こうなりゃ!


「うわっ、スオウ大胆過ぎるよ」


 結局日鞠の奴にぶつかったよ。足がもつれた格好で、抱きしめてた。


「教師の前で不純異性交遊とは大胆だな。まあだが、想い合う二人なら別に咎めたりはしないさ。ただ時と場所は弁えろ」


 そう言って僕たちは揃って持ってたファイルで叩かれた。


「何で嬉しそうなんだよ?」

「そりゃあスオウの素直な気持ちのせいかな?」


 叩かれたってのに日鞠の奴はご機嫌である。けど周りの視線は嫉妬に燃えて僕に突き刺さってる。やっぱり日鞠はやめとくべきだったか。あのまま先生でも良かったな。日鞠よりも胸あるし。ぶつかった衝撃も吸収してくれそうだ。


「でもちょっと煙草臭いし、ぶつかるには躊躇いますよね先生って」

「な、何の話しだ!? 男心を弄ぶ香水を買ったんだぞ!」

「そんなの学校につけてこないでください」


 日鞠に注意されてちょっと落ち込む先生。すると八つ当たり気味にもう一度小突かれた。理不尽だ。


「そもそもぶつかるには––とはなんだ? 故意か? そこまでして日鞠にぶつかりたかったと?」

「もうスオウは大胆だなぁ。別にいつでも抱きしめてくれていいのに。勿論正面からね」


 カモンカモンと受け入れ態勢万全な日鞠。もう一度やれと? いやいや、やらないし。それに故意な訳無いでしょ。確かに日鞠を選んだのは故意だけど、ぶつかりそうになったのはあくまで事故だから。


「いや、先生よりはマシかなってだけですよ。悪いでしょ? 先生の初めて奪っちゃ。運命と勘違いされても困るし。ほら定番じゃないですか、出合い頭の出会いって」

「ほほーそんなに補修を受講したいと? 二人だけの補修室で運命感じさせようか?」


 ヤバイ……ちょっと煽り過ぎたか。先生のいけない琴線に触れたらしい。目がマジっぽい。すると横からこんな事を真面目に言ってくる。


「先生! 先生の運命の人はスオウじゃないですよ。無駄だから他をあたってください!」

「無駄……無駄……ムダ……」


 先生は無駄って言葉に反応して、力が抜けていくようだった。努力とか無駄だから––って誰かに言われたのかな? やっぱ三十路を過ぎるとキツイのだろうか? いや、自分にまだイケるって言い聞かせてたのか知れないな。それは可哀想な事を言ったな日鞠の奴。


「しっかりしてください先生。思ってたよりも中が大変な事になってますよ。先生は教師。先生は教師!」

「私は教師……教師! そうだ、私は教師!」


 おい、なんか暗示みたいなので復活したぞ。大丈夫なのかこの人? ちょっと精神を病んでるみたいだな。なるべく関わらないようにしておこう。


「おい、どこに行く? 貴様もここにいろ」

「そうだよスオウ。スオウには居てもらわないと困るよ」

「何させる気だよ?」


 嫌な予感しかしない。どうにかして逃げたいけど、日鞠にはかなわないしな。それにこの教師、反抗すると色々とめんどい。今のご時世に珍しくすぐ手出すし、内申点とか持ちだして生徒脅すしね。

 まあそれでもそこまで嫌われてないのは、この先生の人柄なのかもしれない。僕もよく叩かれるけど、別に嫌いって訳じゃない。嫌な先生ではないからかな? まあ苦手ではあるけどね。


「ほら貴様等少し散れ。転校生に興味が有るのはいいが、気を使ってやれ。彼女が怖がってるぞ」

「みんなごめんね。摂理はまだ大勢に注目されるのは慣れてないんだよ」


 二人が教室に入ると一気に盛り上がりが静まる。どっちも一目置かれてるから、皆従順に従ってる。僕は扉の前でそれを見てただけだけど、視線だけで一緒に来いとされたからしょうがなくその二人の後についていく。


「会長」「会長」


 と呟かれる声。そのキラキラした視線が僕に移った途端に黒くにごりやがる。(またお前か)と聞こえるようだ。


「どうだね桜矢? まあまだなんとも言えないか。取り敢えず友達を頼ると良い」

「日鞠ちゃん……スオウ……」


 別に頼られるのは良いんだけど、僕じゃなくても良いと思うんだよね。秋徒とかの方が絶対に良いと思うんだ。


「えっと、僕じゃないと駄目なのかそれ?」

「ふあっ!? 嫌われたの私?」


 涙目になる摂理。あわてて僕は取り繕うよ。


「ちち、違うんだ。どっちかって言うと嫌われてるのは僕の方だから……その……な」


 僕は助けを求めるように日鞠を見る。すると日鞠はニヤニヤしながらこう言うよ。


「そうだけど、皆別にスオウを本気で嫌いな訳じゃないよ。自信持って」

「その顔で言われるとムカつくな」


 今の状況はほぼこいつのせいってのもあるのに……日鞠は羨望とかしか浴びないからわかんないだよ。結構酷い目をしてるよ皆。


「日鞠ちゃんとは普通にしてるのに……」

「いや、原因こいつだし……」


 プクーと頬を膨らませる摂理。摂理の為なんだけどな。実際日鞠よりもよっぽど気にしてるはずなのに……なかなかそういうのって伝わらないよね。


「まぁまぁ摂理ちゃん、スオウはそんな事言ってるけど、実際には頼っていいからね。それを皆に言いに来たんだよ」

「え?」

「そうだぞ桜矢。発表しよう、彼女のお世話係にこいつと、『鈴鹿』を任命しよう!」


 ざわつく教室。そして僕に向けられる男子の憎悪の目。けど僕は他の事で頭が一杯。鈴鹿って誰だっけ? そんな奴居たかな? いや、既に三学期だというのに、まだ全員把握してないだけなんだけど。

 そう思ってると先生が窓際の一番前の席で本を読んで、この騒ぎに我関せずを貫き通してる女子の元へ。


「鈴鹿、君を桜矢のお世話係に任命する」

「…………お断りします」


 チラッと一瞥しただけで興味なさそうにそう言った。そういえばいつも教室の隅っこで本読んでたなあの人。鈴鹿って言ったんだ。苗字? 名前? どっちとも取れるよね。まあ僕が呼ぶことはないからどうでもいいか。


「はっは、相変わらずだな。だが、君に拒否権はない。大丈夫、大体は彼に任せれば良い。君は彼ではフォローできない場所で、桜矢を手伝ってくれれば良い。女子トイレとか更衣室とかでな」

「…………会長でいいでしょ。なんで私が……しかもあんな奴と……」


 あんな奴呼ばわり……まともに話したこともないのに。いや、いいけどね。


「日鞠は学校に居ないことも多いからな。常に一緒に要られる奴が良いんだ」

「だから私じゃなくても……」

「言ったろ拒否権はない。命令だ」

「お願い鈴鹿ちゃん!」


 両手を合わせて頼み込む日鞠。そんな日鞠を直視せずに、鈴鹿は頷いた。照れてる? みんな日鞠には甘いよね。この扱いの差はなんなのか……


「えっと……色々と迷惑かけるかもしれないけど……よろしくお願いします!」


 摂理がそう言うと、日鞠が何故か拍手をした。そしてそれに皆が続く。あれ? 僕の意思は? まだいいよなんて言ってない。けど誰も僕の意見なんて聞かないし、一緒か。そう思って落胆してると、そっと手を握ってきて摂理が言う。


「スオウも……よろしくね」

「ああ」


 まあ良いけど。でも既に嫉妬の視線が……朝から大変だったけど、学校終わりまでも大変そうだ。



「はあ……疲れた」


 僕の予想は見事に当たって心身ともに削られた。学校ってこんなに疲れたっけ? 久々だからかな? 取り敢えず家に戻って今日はもう休みたい気分。LROは……今日はいいか。そう思いつつ家の前まで来ると大きなトラックが幾つか止まってた。

 何? 引っ越し? でもなんだか荷物を家に運んでるような? まさか両親が……とか思ったけどそんなわけはない。じゃあ一体誰が? そう思って覗きこむと見覚えのある女性の姿が……


「天道さん? 何やってるんですか?」

「ようやく帰ってきたわね。スオウくん、今日から私達二人君の家で暮らすから、よろしくね」

「二人?」


 カラカラと聞こえる音。奥の方から出てくるのはさっき校門前で別れた筈の少女。


「えへへ、スオウ、お世話になります」

「そこまで世話するなんてきいてない!?」


 摂理の奴が控えめに手を振ってる。けど僕はそんな話知らない。納得してない。どういう事なのおおおおお? 


 第七百三十話です。

 次回は金曜日に上げますね。ではでは。

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