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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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轟く叫び、別れた空

 俺達もスオウ達に負けぢとモンスター共に応戦していた。こっちは親衛隊まで入ってるからまさに乱戦状態。そんな時、不意に空へ昇る光がこの場の全員の動きを止めた。モンスターまでだ。

 だけどそれがおかしい事だったんだ。悲しみと怒りの叫びが空に轟いた時、モンスター達は今まで以上に尖った牙を向けて来る。


 幾重にも地面に映る影が絡み合い交錯する。その光源は太陽や月なんて物じゃなく、ましてや夜空に輝く幾千の星々でもない。

 俺達の影を映す光はもっと直接的で熱い燃え盛る炎。建物を燃やし、木々や植物にまで移ったその炎がこの場所で蠢く俺達に長い長い影を作り出す。

 タゼホは今まさに燃えて消えようとしている。俺達のこの戦いに巻き込まれて。


「うらぁぁ!!」


 一線した武器が亀みたいな獣人型のモンスターを真っ二つに切り分ける。そして無惨にも消えていくモンスター。だけど一息つく間も無く次から次へとモンスター共は現れる。

 ここに来てまだまだ増えるだなんて、ゴキブリ並の繁殖力かこいつら? これじゃあ倒しても倒してもきりがない。それに乱戦と化したこの場では敵はモンスターだけじゃないんだ。


「もらったぁぁ!!」


 そんな声が後ろから聞こえてくる。視線を向けるとそこには白い騎士服に身を包んだ奴が俺に向かって切りかかって来ていた。

 前はモンスターが後ろには親衛隊、奇しくも挟まれた俺はモンスターの膝を長い槍の特性を生かして一貫きする。するとモンスターはバランスを崩して勢いそのままにこちらに倒れてくる。

 俺はそんなモンスターの防具を掴んで、そのまま後ろの親衛隊に投げ飛ばし親衛隊の剣線をモンスターに受けさせる。


「ちっ」


 モンスターの叫びと共にそんな舌打ちが聞こえたが、親衛隊の奴が俺に再び切りかかる事は無い。何故なら蓄積ダメージが大きな方にモンスターはターゲットを移すからだ。ここら辺は幾らイレギュラーで召還されたモンスターと言っても普通の仕様の様で、ようするに渾身を込めて振るっていた親衛隊側にさっきのモンスターの意識は向いたんだ。

 その証拠に、モンスターは攻撃を受けて直ぐに親衛隊へ反撃を開始した。

 俺達に親衛隊まで相手にする力はない。それならこうやってでも強制的にターゲットを移すしかないって訳。こうして実質的にモンスターを相手取る人数を増やさないと瞬く間に押し切られるだろう。

 それだけ、予想に反して戦力が多い。こんな中、スオウ達は無事に奴を追えているのだろうか? ここには親衛隊も入れればモンスターに対抗する戦力が六十位は居る。

 上手く親衛隊共を巻き込んで戦えば、俺達はそうそうやられないで入れるんだ。だけどスオウ達は十人位で奴を追っていった。

 タゼホには至る所にモンスターが大量に居たからあの人数で進むのはかなり厳しい。自分で行けと言っておきながらかなり心配だ。


(スオウ……死ぬなよ)


 そう炎の先に思いを馳せる。すると今度は三体のモンスターが同時に襲いかかって来た。本当に次から次へと世話しない奴等だ。

 一体が後方で止まり呪文の詠唱を始め、後のニ体が俺に向けて迫り来る。前後衛に分かれての攻撃……こういうチームワークが獣人系の強みで怖さ。はっきり言ってやっかいだ。

 こういう時に真っ先に潰すべきは後衛の奴。ソーサラー系かヒーラー系か分からないが、どちらでもまず潰すは後衛だ。

 迫り来るニ体の攻撃を交わし、後ろに抜ける。けどその時、詠唱は終わっていた。発動する敵の魔法。それは願うなら攻撃系じゃなく補助系魔法だったが、宙を走り体に伝わった衝撃。


「っつ……がはぁ!?」


 削られたHPが俺の願いが外れた事を意味してた。体の中に入り弾ける様に外へ向かう電撃に体が後退する。そしてそれを待ちかまえてた様にニ体のモンスターがそれぞれの武器を振りかぶっていた。

 このままじゃかなりHPを削られる。再び詠唱を開始してる後衛のモンスターを見ると、こいつらは連携でチェーン狙ってるのかも知れない。パーティーを組んだ獣人モンスターは偶にそういう高度な事をやることがある。

 だがそれをこのまま受けるわけには行かない。しかし心とは裏腹に体は痺れた様に言うことを聞かない。


(これはまさか、さっきの魔法効果か!?)


 魔法の中には一定確率で特定の効果を敵に付与する物がある。炎系なら火傷とか氷系なら凍結、そして雷系の魔法は麻痺を付加したりする。

 けどそれが今来るだなんて俺も運が悪いとしか言いようがない。これじゃあ今のこのピンチを切り抜けられない。チェーンともなればその攻撃にはボーナスが付く。それは決して安い物じゃない。

 だけどその時救いの声が届く。


「ピク! ブレストファイア!!」

「アギト様はやらせない!」


 上空から放たれた炎の玉が後衛のモンスターを包み込み詠唱が止まる。そして俺に武器を振り卸していたモンスターニ体には、その体を何かが斬り裂いた音だけが俺の耳に届く。

 一瞬ニ体の動きが止まるがそれでも俺への攻撃意志は尽きてない。動けない俺へ向かいモンスターの武器が伸びてくる。

 だがその時、俺は頭上に何かが見えてるのに気付いた。自身の直ぐ上。髪の毛に触れそうな位置にピアノ線みたいな糸が炎の光を受けて、斜め右上からそのまま回るように俺の斜め上へ動くのが見えた。


「やらせないって言ったでしょ!」


 キュルルゥゥゥと何かが火花を散らして糸の先から俺の頭を掠ってモンスターニ体を同時に斬り裂く。上半身と下半身に分かれたモンスターは、今度こそ体を分解され天へと昇って逝った。


「よし、シルク様!」

「はい! ピクはそのまま攻撃してて、アギト君大丈夫!?」


 地面に立てもしない俺にシルクちゃんが膝を折って回復魔法を届けてくれる。すると白く暖かな光が全身を包み込み、体の痺れが引いていく。

 このLROはゲームだから、誰が使おうと変わらない技や魔法の筈。だが、シルクちゃんの使う回復魔法は他にはない心地良さが有る気がする。

 彼女の優しさとかがダイレクトに伝わると言うか、そんな感じなんだ。


「大丈夫。ありがとう二人とも。助かった」

「無事で何よりですよアギト様」

「うん!」


 お礼を言った俺に暖かな笑みをくれる二人。俺を助けてくれたもう一人はやっぱりセラだったか。声で分かったが、アイツのあんな武器は見たこと無い。

 だって暗器にしてはデカすぎだ。セラは今、自身の半身と同じくらいの大きな手裏剣をその手に戻したところだった。先の方に視線を向けるとこちらに向かってきてたモンスターが数体倒れるのが見える。

 シルクちゃんが回復魔法を俺に掛けてくれている間、セラが守っていてくれたんだろう。


「セラ、その手裏剣暗器か?」


 俺は貯まらずそう聞いてみる。するとセラは「はい、勿論です」と肯定した。そしてこっちにその手裏剣を向ける。


「この『烈刀七華』は組立式の武器なんです。パターンを覚えるのが大変ですけど、凄く使い勝手の良い暗器ですよ」


 すると瞬間、セラは手裏剣の形からその武器を弓状に組み替えた。そして狙いを定めて、ピクが燃やし続けていたモンスターを射抜き止めをさした。

 流石にこれは驚くな。まさかこんな武器が有るなんて、LROはまだまだ広い。だけど組み替えた事も衝撃だったが、さっき放った矢の動きも実は衝撃だった。

 細い糸で繋がれた矢は直線に走らなかったんだ。乱戦中だから不意に現れる障害物……それを有ろう事か矢が避けてた。そんな機能、かなり弓を使い込んだプレイヤーだけが持ってると言われる『ホーミング』というスキル位だ。

 それは絶対に狙った獲物は逃さないと言われてる。けど、セラがそんなスキル持ってるなんて信じられない。セラが弓を使う所なんか初めてみたからな。


「なんださっきの動き?」

「驚きました? どうやらこの繋がった糸のおかげで自由に動いてくれる様なんです。矢が一本しかないからせめてもの副産物じゃないかなと思います」


 そう言ったセラの手には役目を終えた矢が戻ってきていた。どうやら糸を巻き取る装置でも付いてる様だ。さっき手裏剣の形状の時に聞いたあの音の正体はきっとその巻き取り音だろう。

 この矢もこの武器の一部だからたった一本なのか。だからこその機能。確実に敵を射抜く為の一本だけの必殺技って所か。

 それにやっぱり『ホーミング』とは話を聞く限り違うようだ。ホーミングはシステムが勝手に矢を制御して障害物を避けながら敵を目指すものだ。だけどセラの方はあくまで一本の矢を自分で操作してる感じみたいでここら辺が違う。

 それにホーミングは複数同時に放てるらしいからな。


「自由に動かせるって言ったって、そう簡単じゃ無いだろ?」


 俺はセラが簡単そうに言い切った事に苦言を呈してみる。だって考えてもみれば、高速で突き進む矢を目的の場所まで制御するなんてかなり難しい筈だ。大抵は制御する前に彼方に消えそうだ。

 だけどセラはそんな俺の言葉に笑みを浮かべて言い切った。


「何言ってるんですかアギト様。私はそういう制御得意ですよ。忘れちゃいましたか? 私は二十まで同時に同じ様なのを操れます」

「あ……」


 その言葉で思い出した。そう言えばそうだったんだ。セラは自身から離れた物を動かすのに慣れてる――と言うか、その系統の扱いならセラ以上のプレイヤーなんてここLROには居ないだろう。

 何てたって今のLROでも最難度クエストの一つと言われる『聖典機種』を初めて攻略したのがセラだからだ。まあその説明はおいおい話す機会が有るかもとして、それはセラが太股に忍ばせてる小さなクナイの様な鏃の様な武器に関係してるとだけ言っておこう。


「思い出してくれましたか。では油断無く、敵を倒して行きましょ……」

「どうしたセラ?」


 言葉の途中で不自然に言葉が途切れた。セラはある一点を見つめて止まり、そしてシルクちゃんが続いた。


「わあ、綺麗」


 その言葉は余りにもこの場に不釣り合いだ。今のタゼホはどうみても戦々恐々としてる。だけどセラやシルクちゃんと同じようにソレに気付いた奴等が少しずつ動きを止めていく。ソレに見とれるかのようにモンスターまでも動きを止めている。

 そして俺もセラ達の魅せられた方へ振り返った。


「なっ!?」


 思わず飛び出した声だが、それ以上は続かない。言葉なんて今のこの光景には無粋何だろう。俺たちが見つめる先には満点の星空に上る無数の光がある。

 今まさにそれ等の光が星に成るかのような光景だ。


(あの方向はスオウ達が奴を追って行った方向……)


 それを思ってこの光の正体と原因に検討が付く。黒く聳える崖の方向、このタゼホの中心より奥の方から無数に上がるあの光を僕らは全員見たことが有るはずだ。


「あれってモンスターの消滅時の光?」

「はい……多分。けどあんな大量になんて一体誰が……」


 シルクちゃんとセラは二人同時に顔を見合わせた。誰が、の部分が分かったのかも知れない。そしてそれは多分、俺が考えてる奴とも同じ筈だ。

 さっきまでの怒号の飛び交いが嘘のように静まり返った場で、周りを照らす炎が音を立ててはぜている。そしてシルクちゃんは「よっと」と呟き立ち上がり、再び上り逝く光を見つめた。

 その肩には桜色の小竜が優雅に羽を広げて降り立つ。


「きっとスオウ君ですよ。みんな無事に抜けられたんだ」


 そのシルクちゃんの言葉にピクが甲高く鳴いて、まるでその言葉に賛成を示してるかの様だ。そしてセラがこちらを向いて言葉を掛けてきた。


「アギト様はどう思いますか? 私もアイツの様な気がしますけど、親友の意見を聞きたいですね」

「俺も……」


 まあ実際そう思う。あの中でこんな事をやりそうなのはアイツ位。けどなんか二人がその……スオウに対する信頼とかを見せつけてくれると親友として反抗したくなるよな。


「スオウと思えるけど、あれだけの光だ。アイツにそれだけを同時に倒せるスキルなんてあったか? 乱舞じゃどうしても同時になんて成らないだろう」

「大丈夫です!」


 俺の言葉には直ぐにシルクちゃんの訂正が入った。何が大丈夫かはさっぱりだけど。けどそこは後ろに控えているセラが補完してくれる。


「私も大丈夫だと思います。アギト様は見てないですよね? アイツの新しい武器の力を」

「セラ・シルフィングの事か?」


 僕のその言葉にセラは頷く。とても嬉しそうに。だけど表すのは顔にだけ、態度も言葉のトーンも変わりはしない。


「はい。私達も一つのスキルしか見てないですけど、それだけで、あの武器が企画外なのは分かります。それは多分アイツが持って……何でしょうけど。

 だからセラ・シルフィングがあれば心配なんて不要ですよ」

「ん……」


 なんかセラには見透かされて様だな。こいつって前から妙に感が良いから怖いところがある。苦手って訳じゃないが(頼りになるし)けど、妙に恐ろしいんだよ。


「別に心配なんかしてねーよ」


 まあ実際、セラ・シルフィングは相当なんだとは思うけどな。


「そうですか? すみません」


 ふふ、と意味深に微笑むセラは本当に楽しそうだ。。そんなに意固地になった俺はガキっぽかったかな? 悔しいから視線を外すことしか出来ない。でもそれじゃあなんか益々――って、その時同じように止まっていたモンスター共から呻きの様な声が漏れだしていた。


「「うううううううううううううううううううううう」」

 そんな呻きがそこら中から聞こえる。静まり帰っていたこの場がそんな声で再びざわめきを取り戻していく。「なんだ、なんだ?」と周りの親衛隊達も不気味がってモンスターから離れる様に後ずさる。


「泣いてる……」

「え?」


 そう呟いたのはシルクちゃんだった。けどそれは余りにも、考えられない事。モンスターが泣くだ何て……そんな事聞いた事もない。そもそも深い感情なんて奴らには与えられてないだろう。

 だけどシルクちゃんは奴らを見渡してもう一度口を開く。


「そう見えませんか? 私には仲間が昇っていく悲しみに打ち震えている様に見えます」


 モンスターが仲間の死を悲しむ……そんな事……だけど確かにそう見える。震える肩も……喉に絡む呻きも……それらは俺達も悔しさや痛みを耐えるときに取る事。

 けど経験上、こういう後には感情の爆発って物がある気がする。だってもしもこいつ等が本当に仲間の死を悲しんでいるのなら、やられた仲間の為に出来る事は一つだけ。

 こいつ等はただ、どこまで行ってもモンスター何だからな。


「「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」


 呻きは突如として一斉に天を突く様な叫びへと変わった。大量のモンスターの合わさった叫びに、俺達は思わず耳を押さえて地面に膝を付いた。

 大気を震えさせる音の奔流が、俺達の平衡感覚を狂わせる。肌に突き刺さる音は、これだけで攻撃に成ってるんじゃないかと思うほどだ。


「――ぐっ、これは……」

「……怒ってる?」

「そう……感じますね」


 俺の声に、シルクちゃんとセラが的確な言葉をくれる。確かにそう感じる。奴らの叫びはまさに怒り。大量の仲間が殺された事への紛れもない憤怒の叫びだろう。

 そして奴らはゆっくりと再びこちらを向いた。その目は今まで以上に赤くぎらついている。それにモンスター共の体から赤い湯気の様な物が上がってる。


(あれは一体……)


 明らかに今までよりも闘争的になっているのが一目でわかる。そして再び奴らは俺達へと向かってきた。


「――っつ!?」


 俺の槍がモンスターの武器を受け止める。だが・・これはさっきまでより断然速い! そして重い。実際後ろからは対応出来なかったのか、轟音と共に複数の叫びが上がっている。

 横では何とか受け止めたシルクちゃんにピクが上空から加勢していて、少し後方ではセラが形状を変えた二枚刃の様な連結した武器でモンスターの攻撃を凌いでいた。


(こいつら……まさかコレは……)


 俺の頭にある一つの可能性が生まれる。だけどその時、上空に幾つのも光が上がるのが見えた。平行して飛んでくるそれは炎の塊。次の瞬間俺達の視界が一瞬で弾けた。


「ぐあああああああ!!」

「「きゃあああああああああ!!」」


 モンスターが放った大量の魔法に俺達は為す術無く吹き飛ばされる。直撃さえしなかったが地面を抉る程の衝撃が体を貫いたんだ。


「くそ!」


 急いで体勢を立て直して周りを見ると親衛隊も俺達の仲間もこの数瞬でやられた奴まで出ている。早く蘇生魔法を掛けなきゃ五分経つと彼らは強制的に設定してるゲートクリスタルの位置まで戻ってしまう。

 そうなったら戦力がた落ちだ。今の状況では一人でも欠けると押し切られるかも知れない。どうやら奴らは俺達を一カ所に集めて一斉に掃討する気らしい。

 吹き飛ばされたのは俺達だけじゃなく、それぞれ別々に戦っていた人も、そして親衛隊の奴らまで同じ場所に集められた。

 完全に三百六十度取り囲まれてる。この状況では流石に親衛隊の奴らも俺達に武器を向けるなんてバカな事はしないようだ。俺達は敵味方関係なく、背中を向けて目の前のモンスター共とにらみ合う。

 後衛のシルクちゃん達とかはその円の中で回復魔法や防御・支援魔法の準備。


「何がおきたってんだ!? こいつらいきなり強く成りやがって……」


 それは親衛隊の一人から漏れた言葉だ。どうやらこいつ等も相当焦ってる。まあそれはこっちも同じだな。突然のモンスターの豹変ぶりに戸惑いが見える分には。

 これは推測でしかない。俺だってこの現象は初めてだ。けど聞いたことくらいなら、ここに居るプレイヤーは有るはずだ。これは多分――


「「『覚醒』」」


 ――その言葉を俺とセラが同時に言った。そして同時に全員の緊張の糸がざわついたのを感じた。目の前の光景……戦闘力が突如上がった事実……これはどう考えても『覚醒』しかない。


「覚醒だと?」

「ああ、それしかない。『覚醒』は同種のモンスターを倒し続ける事で希に発生すると言われてる現象だ。それはつまり奴らの仲間意識を刺激してるって事だろう。

 今この場にはあの亀型の獣人モンスターしか居ないんだ。覚醒が起こったっておかしくない」


 ただ目の前のモンスターを倒してきた。けどそれが仇に成るなんて……ここまであの陽気そうな奴は想定したのだろうか。そうだとしたら本当に恐ろしい奴だ。

 冷や汗が額から流れる感覚があった。


「だが……こうなったのはお前達のせいじゃないのか!?

 あの大量の光が覚醒のきっかけだろう!」

「それは否定しないがな。けど、いずれはこの場の誰かのせいでこうなってたさ」


 俺の言葉に親衛隊の奴は口を閉ざす。それは十分に考えられる事だからだろう。スオウ達が悪い訳じゃない。誰もこんな事予想出来る筈がない。

 言い争ってる場合じゃないんだ。奴らは遂に動き出す。大地を揺るがす音を響かせて全方向から迫りくる。俺達は力を合わせてそれを向かえ打つ為に覚悟を決めた。

 だがその時だった。有る一カ所から突如黒い何かが走ったように見えた。その瞬間、モンスターの動きは唐突に止まり、その場で消えていく。

 するとそこには無数の黒い刺が有った。そしてそれは黒い球体へと続いている。


(アレは……)


 皮膚が何かを感じ取り鳥肌が立つ。唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。そして球体の上部がバキっと音を立てて割れる。その瞬間、大量の子供の笑い声が辺りを包んだ。そしてその中から黒い影に覆われた腕が飛び出し、球体から剥いでてくる。

 上半身だけ表に出した黒い化け物。


「くくくくく、我はカーテナと一つに成ることで真の王と成り得た!!」

「ガイ……エン!」


 両手を広げて天を仰ぎ笑い続ける奴は間違いなく俺の昔の友だ。だが随分と違う空を、今は見ている様な気がする。

 第七十三話です。

 そろそろアギト・アイリ・ガイエンの関係が分かっても良い所まで来たかなって感じです。だけど小出しにするか、一気に出すかで現在検討中。う~ん、迷ってる場合でもないんですけどね。

 取りあえず次回は金曜日に更新します。感想・評価随時受付中。お気に入り登録三桁目指して足りない、物を知りたいです。分かる人教えてください。

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