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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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学び舎にようこそ

 冬休みも終わり、正月気分が抜け切らない中、学校への道を歩く。結局の所、あれからどこかの組織に襲撃される……なんて事はなかった。誰かがそれを止めてくれてるのか、それとも敵側が慎重に事を運んでくれてるのかはわからないけど、有りがたかったよ。

 でもあれから意識するようになると、どこかで見られてるような気はするんだ。それはきっと気のせいなんかじゃない。自分の目だけじゃない、開花した感覚がそれを教えてくれてる。


(日鞠の存在とは違う気がするんだよね)


 アイツとはずっと一緒にいるし、常にカメラ隠してる様な奴だからな。その御蔭かはわからないけど区別出来てると思う。まあだけど何もしてこない以上、下手な事はできないよ。察知されてると感付かれるのも不味いしね。

 何が刺激になるかわからない。クリスの組織みたいに、強硬手段を取られるのは避けたい。だから今は静かに戦う時だ。避けられない衝突はいつか来るだろうけど、まだその時じゃない。それにこれ見よがしに僕の存在を残した真犯人をどの国も知りたいんじゃないだろうか。

 僕を泳がせとけばその真犯人が現れる可能性高いしね。それに可能性領域や思考間ネットワークの事も、彼の国の方々は知りたいだろうしね。僕の監視意外にも目的はいろいろあるのかもしれない。


 久々に担いだ通学バックの位置を直して、寒空の下を進む。学校に近づくに連れて多くなる制服の男女。皆普通っぽいな〜と勝手に思うよ。命を狙われるとか、訳の分からない組織から狙われるとか、経験したことなさそうな平和な顔ばかりだよ。

 いや、あたり前だけど……なんだかこうして同じ学校の一生徒として歩いてても、なんかだかちょっと実感がなくなってきたかもしれない。自分だけ、外されてる様な……変な感覚。


(いや違うな。戻ってきてる気がする。いつの間にか置いてきた筈の、ずっと昔の感覚に)


 そんな事を思って巻いてるマフラーに顔を深く沈める。嗅ぎ慣れた匂いがする。安心する匂いだ。悔しいけど……特別なんだ。やっぱりどうしても……


「おはようございまーす!」


 ふと耳に届くそんな声。実際は重なる声が幾つもある。でも、僕の耳に真っ先に届いたのはやっぱり一つだけ。視線を上げると、校門の前で元気よく挨拶してる制服の集団が見える。その中でも特に目立つ三つ編みの少女。

 小柄だけど自然と目を引いて、元気を分け与える様……それか心をホッとさせてくれるような、そんな感覚をくれる存在。そいつはこっちに気付くと、古臭いメガネの位置を直して、手を上げて声を張り上げる。


「スオウおっはよ〜!」


 そんな声が、世界に色をつけていく。昨日までの日常をくれる。僕をここに繋ぎ止めてくれる存在。絶対に態度には表したくないけど、足取りは軽くなる。近くまで来て、まあ一応挨拶は返しておこうとちょっと手を上げた。

 でも周りの視線が妙に刺々しい事に気づく。いや、まあ僕にはこの学校デフォルトでこれだけどね。なんかちょっと気恥ずかしくなって、その手を戻して「大声で叫ぶな」とだけ返しておいた。

 すると日鞠は舌をちょこんとだして小さく「ごめん」と言う。そんな仕草にちょっとだけドキッとしたよ。だから足早に校舎入ろうと歩幅を広げる。けどその時、目の前に立ちはだかる奴等が居た。


「ちょおおおと顔貸してもらおうか?」

「君も生徒会メンバーだと言うことを自覚して貰おう」


 生徒会の皆さんが何やら僕に用があるようだ。ちょっとなんかリンチされそうな雰囲気なんですけど……そこら辺の不良よりも迫力あるぞこいつら。い、いつの間にこんな迫力を付けたんだ?

 そういえば日鞠が強引にLROやらせてるんだっけ? そしてそのチームは関東最大規模。生徒会で始めたとするならここの何人かはそこで幹部とか主要メンバーなわけだよな。

 それでか? 


「皆、スオウは補助というか、手伝いみたいなものだよ?」

「それでも一応は生徒会の所属ですよ会長。継続的なサボリが許される道理はありません。会長も彼が特別だからといって、甘い顔し過ぎです」


 僕を目の敵にしてる副会長が細長いインテリジェンスなメガネをクイッとさせながらそう言ってる。普段は忠犬の様に日鞠に尻尾振ってる癖に、僕の事になると正論ばっかり言いやがる。いけ好かない奴だ。


「とにかくこれまでのサボったツケは返上して貰いましょう。君が居ても居なくても、大変さは変わらないが、君だけが楽して会長と過ごしてると思うと、我慢ならん」

「おい、後半本音が漏れてるぞ」


 まあ態度からダダ漏れなんだけどこの人……けど不味いな。皆の目が野獣の様……ここで逃げないと、過労死するまで働かされそうだ。日鞠がなんでもかんでも請け負って、更に学校外のイベントやらなにやらまで手広くやるから、生徒会の仕事はもう何でも屋状態。

 日鞠に心酔してるこいつらはそれでいいんだろうけど、こっちはそこまで出来ないっての。別に日鞠がどうしてもやりたいことを手伝うのは良いんだ。でもなんでも出来るからってなんでも背負うのは違うだろう。

 日鞠は一度自分の限界を知ったほうが良い。そのほうが周りも目が覚めるだろうし。でもまあ、本当にどうしようもない時は手伝っちゃうんだけどね。そうやって乗り越えてきちゃったから今の日鞠があるとも言える。

 だからこれは日鞠のためでもあるんだ。うんうん、僕が楽したいってだけじゃない。でもそんな事はこいつらには通じないからな……取り敢えず……


「ああ! そういえば僕今日日直だったー」


 完全な棒読みだったけど、関係ない。最近鍛えてるからね。一瞬の瞬発力で隙間を縫って突破するよ。けどやっぱり今までの生徒会とは一味違う様だ。生徒会権限を使って、登校中の生徒達をその笛の音で足を止めさせる。

 するとどうだろう……ただでさえ冬休みの終わりで、正月気分が抜け切らない生徒が多いんだ。気だるげな生徒達は下駄箱付近でごった返してる。そこで更に注意を強制的に引く笛を鳴らす事でゆっくりでも流れてた流れが完全に止まった。

 これじゃああそこを抜けるのは不可能。ルート変更だ。渡り廊下の方に回ればそっちから校内に入れる。靴は後から下駄箱に戻せばいいよ。ちょうど休みだったから上履きはバックにあるしね。墓穴を掘ったな!


「なに!?」

「はは、貴様の選択肢などわかりきってる事だ。逃しはしない。我等の連携は貴様の居ない間に洗練されたんだ。輪を乱す奴が居ないと、雰囲気が良くてよかったよ」

「なら……僕にこだわる必要ないと思うんだけど? お前達だけで仲良くやってろよ」


 わざわざ空気悪くする奴を追わなくてもいいだろ。こっちは開放されたいってのに……


「貴様は危ないからな。危険対象を監視するのは生徒会の役目だ」

「何が危険なんだよ? 僕は別に不良でもないぞ」

「危険だろう。会長にとって、貴様は危険だ。会長は貴様なんぞと肩を並べて進むべき方ではない。もっともっと高い次元に羽ばたける方なんだ」


 震える声でそう言う副会長。まあ確かに日鞠の奴はどこにだって行けるだろう。それだけの物を持ってるやつだ。けど、それを選択するかはどうかは僕達じゃない。その筈だ。


「日鞠は、そんな事望んでない。相応しいかどうかを決めるのは他人じゃない。本人だろ」

「そうだな。会長がここに居るのも、その御蔭だ。だから会長が幸せなら、別にいい。だがな、貴様と言う存在は許せん。個人的に」

「だからそれはただの嫉妬だろ!!」


 個人的に––とか言っちゃってるし! 日鞠の奴も自分の部下なんだから、苦笑いしてないで止めろよ。僕の視線に気付いたのか、日鞠は何やら考えてる。そしてポン––と手をたたく。すると一人にメガホンを持ってきて貰って大きく息をすう。


「よううし! 三学期最初のイベントを開始します! 時間は今から朝のホームルームまで! スオウの捕縛に成功した人には単位と、所属する部には部費の増額を約束しましょう!」

「………………」


「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」


 職権乱用だああああああ!! そもそも単位とか部費とか、そんな生徒の一存でどうにか……どうにか……どうにか……日鞠なら出来る!! 僕は鋭い視線を日鞠に向ける。するとグッっと親指を立てて来た日鞠。

 そうじゃねえよ! どこをどうとったらこんな事願ってると思える? 以心伝心出来るだろ。止めろよ。煽ってんじゃねえよ! けど今更だな。既に気怠そうにしてた生徒の姿はない。みんな目がギラギラしてる。


 (部費部費部費部費部費部費)(単位単位単位単位単位単位)


 瞳の奥にそんな単語が見えるのはきっと気のせいじゃないよね? 


「会長にも見捨てられたか?」

「アイツは僕の秘密を知りたいのかもな」

「なんでも知ってると思ってたがな?」

「なんでも知ってるよ。今までの事なら。けど、これからの事はお互い知らないから」

「なら会長がお前を見捨てる日も来るかもしれないな」

「そうかもね」


 そんな事を言ってると、屈強な体格の男共が人混みを掻き分けて来る。どうやらそれは肉体系の部活の部長や副部長の面々の様だ。ソイツらは周りの生徒も威嚇してる。総取りしたいのかね? 


「会長のお気に入り。貴様を捻り潰せばいいなんて、良い格好を見せるチャンスだな」

「出来るものならやってみろよ」


 こうなったら開き直るしかない。日鞠はただ面白がってるように見えるけど、多分気付いてるんだろうと思うんだ。こっちは必至に隠しても、アイツは直ぐに見破る。そういうやつだ。けど、今回は中々に信じれないことでもあるし、日鞠的にも確証が欲しいのかもしれない。それか……

もしかしたら日鞠の中でも何か変化が……あいつも今はLROやってるしな。コレを使わずにとか思ってたけど、流石にこの人数相手にはキツイ。


「先輩を敬えや一年坊!!」


 上下関係にうるさそうな体育会系のいかにもなセリフだな。向かってくる男共の腕をヒラリヒラリと交わして、ソイツらの背中を足蹴にして人混みの中に突っ込ませる。


「この!! ––がはっ!!」


 突っ込んだガタイの良い奴がキレ気味に振り返った所で、その顔面を借りて人混みを飛び越える。上手く最初の人混みは超えた。けど、生徒はまだまだ次々と集まってる。威嚇されて固まってた生徒たちも、奴等の不甲斐なさを見て、体が動き出した様だ。前、後ろ、横……伸ばされる手は様々な方向から迫る。

 血流が勢いを増し、アドレナリンが過剰に出てる気がする。自分の見てる視界が、低速へと姿を変えていく。視界の全て……いや、死角さえも見える感覚。まるで世界と繋がってるような……不思議な感じ。

 今までのどの感じよりもそれは深い気がする。伸ばされる手を紙一重でかわし、どこをどう動けば抜けれるかがわかる。人の行動を操作して、雪崩れ込む人々をぶつけたり、何やらすれば、別段体力を使わずとも抜けられる。周囲が勝手に道を作ってく感覚だ。

 僕は人混みを抜けて校舎内に。外に出てたから校舎内は閑散としてる。けど、直ぐに人に溢れるだろう。どこかに隠れてやり過ごさないとな。この目があると言っても、いつまでも逃げ続けられるとも限らない。校舎内は狭いしね。

 けどまあ自分でも、どこまで出来るかに興味ある。あれ以来、本気で使ったことなかったしね。ちょっとやってみるか。


 キーンコーンカーンコーン––と校内に響き渡る鐘の音。机に突っ伏す生徒たちは精魂尽き果てたかの様になってた。日鞠の奴が指示してたのか、こっちが隠れてた所を尽く看破して来やがったから、僕もかなり疲れたよ。てか頭痛い。

 流石に使いすぎた様だ。全てを把握するってそれだけの処理能力が必要な訳で、頭を使うってそれだけ、色々と消耗をするものだ。しかも相手は全校生徒。良く逃げ切ったよ僕。


「朝からアホな事してたなスオウ」

「僕じゃねえよ。日鞠の奴が余計なことを……」

「まあこの惨状は酷いな」


 教室を見回してそう言う秋徒。日鞠の奴は相変わらず居ないけど、こいつと日鞠位だろうな元気なのは。ああ、後は教師陣は生徒よりはましなよう。


「おら貴様等! 私が壇上に居るのにその態度とはいい度胸してるじゃないの。全員単位落すぞ」


 今どきPTAなんかなんのそのの態度で人気がある教師が学級名簿で肩を叩きながらそう言ってる。まったく相変わらず雰囲気の悪い教師だ。休み明けだからか、尚更……この人結婚に焦ったりしないのかな? いい年だろうに。

 そんな事を思ってると、飛んでくるチョーク。なんとはなしに僕はそれを掴みとる。すると教室中から驚きが漂った。


「なっ、あの殺人チョークを止めた!?」

「そんな馬鹿な!? 先生のチョークでさえあの野郎を制裁出来ないってのか?」

「なんで止めるのよ。当たっときなさいよ!」


 凄い非難轟々だ。こいつら……マジで僕の事クラスメイトとも思ってないだろ。別に無視されるとかじゃないんだけどね。普段はまだまとも。一応返事はしてくれるしね。けど、やっかまれてるのは常にあるからね。

 まあそれは学校中でだけど。


「貴様……私のチョークを止めるとは決闘の宣告か?」

「どこの騎士だよアンタは。たまたまですよ。一番僕が食らってますしね」

「そうか。私の波長にあってきたということか」

「それは違います」


 なんでチョークをとっただけでそうなるの? やっぱり行き遅れてることは気にしてるようだ。男っ気ばかり身につけてる癖に……スタイルも顔も平均以上に良いとは思うけど、男らしすぎるんだよねあの人。


「それはそうとして、貴様等シャキッとしろ! あの位でへこたれるとは情けない。学生なら無駄に元気でいろ」


 そんな言葉に不平不満がそこかしこから漏れる。この人は他の教師とは違って、言葉は悪いけど、本音の言葉って気はするんだよね。そこも人気の理由だよね。そしてそんな不平不満の中、嫌な笑顔を見せる。

 うわ、ありゃあ結婚出来ないや……って思える笑顔だ。なんかイラッとする。


「ふん、貴様等がへこたれていられるのも今だけだ。直ぐにシャキッとするぞ。特に男子。そして女子は戦々恐々としろ。バトルとは良いものだぞ諸君。私は陰険でないバトルは推奨しよう」


 おい、それでいいのか教師? こいつら十分僕に陰険な事やってるよ。僕に対して冷たいよ。そりゃあイジメって程でもないけど……そんな事をグチグチ思ってると、先生が誰かを呼んだ。すると扉が開いて、そこから車椅子を押して日鞠が登場した。

 そしてその車椅子に座ってる少女に、クラス中の視線が釘付けになる。亜麻色のフワッとした髪を肩辺りで束ねてそれを前におろして、制服に身を包んだ美少女。うん、なんかすっごく見たことある。

 顔を下に向けてるけど……多分間違いない。すると日鞠が黒板にその名前を書いていく。そして下をむく彼女に何か囁いた。するとちょっと顔を上げた視線が僕とぶつかる。そして何かを決したように真っ赤な顔を上げた。


「あっ……の……えっと……わ、私は……桜矢……桜矢……摂理……です。よろしく……お願いしまちゅ……」


 噛んだ。けど一気に教室に春がきたような暖かさが蔓延したよ。わかりやすい。特に男子。


 第七百二十九話です。

 次回は水曜日に上げますね。ではでは。

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