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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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終わりはこない

「くくくくく」


 暗い部屋に響く不気味な笑い声。光る光源は一つのモニターから発せられる光だけ。そんな弱い光に当たって笑ってるのは、額に張り付く髪がわかめみたいにウネッてる一人の研究者。彼の見てるモニターの中の映像にはイルミネーションに彩られた街があって、その中の人々は赤と白の帽子を被ったり、それっぽい衣装を着たりしてる。

 ぱっと見だけで今日が何の日か分かりそうな雰囲気を発してる。画面越しでもわかる楽し気な空気。


「そんなにワクワクしてるのならログインしたら良いんじゃないですか?」

「ふざけた事を。別にこの日が楽しい訳ではないよ。この日を待ち望んでただけだ。貴様こそそうだろう?」

「私はそうでも〜けどまあ、楽しそうな事には乗りましょう。可能性の為だもの」

「そう……我等人類の可能性。それを試そうじゃないか。これは義務なのだ。到達してしまった我々の」

「到達したのは当夜でしたけどね」


 画面の中でふわふわ漂ってる女の子がそんな名前を口にした途端、調子よく動いてた口が止まって、彼はワナワナと震えだす。そして机を思いっきり叩いて辺りにあった書類をぶちまける。


「奴は! 奴は死んだ!! 出来なかった奴だ!! 俺が変えるこの世界を……人類をだ! 歴史に名を刻むのは奴ではない!! この私!! 他の奴等は知らない、俺が手にしてるLROの改変前のデータ。これを使えば……くくはははははははは!!」

「一人で高笑いしちゃって、聖夜だからってテンションおかしいんじゃないかしら?」

「聖夜だからこそだ。研究者の癖に、色恋に走ってる奴等のお陰で、この日は比較的人が少ない。行動を起すには丁度良い。人形の調子はどうだ?」

「中々良好だけど、可能性は感じないよね。スオウみたいな。けど、良い手土産には成るんじゃないかしら? 可能性領域を開きそうなもう一人とも接触できたしね。そっちの選定はやっぱりスオウかな?」

「いや違うな。奴よりも発展してる領域を開いてる者が居る。現実主義の理想主義者共にたたきつける材料には彼女の方がいいだろう」

「まあ、どっちでもいいけど、それじゃあこの人形意味ないじゃないですか〜」


 不満気な顔で頬を膨らませる画面の向こうの彼女。そんな彼女を一瞥して彼は言う。


「意味はある。奴をLROに戻す必要性があるからな。奴は波だ。LROにとってな。何がそうさせてるのかは知らないが、奴は上手く共振する。奴の存在がLROという世界を揺り動かすのは必然。揃って貰おうじゃないか、進化した人類達に」

「ふふ、可能性感じちゃいますね。それじゃあ少しばかりの混沌を世界へ届けるとしましょう。私達から世界へ、聖夜の贈り物を」


 鐘の音が響く。それは重厚で、音の波は心地よく広がっていく。



 張り詰める空気。毛穴の一つ一つまで縮んでるかのような感覚。瞬きさえ許されないプレッシャー。僕は今、最強の哺乳類と対峙してる。間違いない。冬休み中で使わない筈の体操服に身を包み、適当な構えを取ってる。

 そして自分の対面には身長二メートルはあろうかと言うシスターが……まあ今はシスターの格好してないけど。この寒空のした上はタンクトップで、下は下は迷彩柄のズボンと黒のブーツ。もう見た目であれをシスターと判断できる材料はない。

 どう見ても兵士……いや、あれは戦士と言った方が正しいだろう。本当だったら、デカイ銃を構えて肩から薬莢を背負ったりしてるんだろう。それがあの人の戦場での姿だったのかなって思える。

 今は銃は流石にないけど、けどそれでもそのプレッシャーは半端ない。しかもあの傷が刻まれた拳……筋肉が張り詰めてる腕……単純な大きさだけでも、自分の顔くらいありそうな拳してるんですけど。

 あの拳がまともに突き刺さるときっと骨は砕けて内蔵は破裂……顔なら脳みそグチャ……の未来が嫌でも脳裏を過ぎる。そんな考えをしてるとまるで見透かしたようにラオウさんが言葉を発する。


「駄目ですよ。戦いの時に考えることは一つだけ。どうやって相手を殺すかです」

「……」


 あれ? この人シスターだよね? とてもそうとは思えない発言だ。体つきからそうとは思えないのに……発言までそうなったらもうどこでシスターだと思えばいいのか。まあ訓練を申し入れたのは僕の方からだし、それだけ真剣に付き合ってくれてるんだ。

 それこそ自分がシスターだと言うことを忘れる程にさ。僕は大きく息をして、気を引き締める。


「良い顔です。さあかかってきなさい。一発でも私の急所を突ければ合格ですよ。それか私を地面に跪かせるか」

「今日こそやってやりますよ!!」


 相手は女性だ。けど、ラオウさんの場合、そんな概念は超越してる。自分が知る限り、どう考えても人類最強。だから手加減とかそんなの無理なんだ。そんな姿勢でどうにか出来る相手じゃない。

 地面を蹴ってラオウさんに近づく。真っ直ぐに突き出される拳は空気を叩き潰してるかのような音を出す。そして恐ろしく速い。けど自分の目はそれを見切ることが出来る。LROで開花したこの目はうざったい位に自分に色んな物を見せるんだ。どんな物だって逃しはしない。それは普段もそうだけど、集中して一つに焦点を絞れば尚の事。

 ラオウさんの人間離れしたその一撃だって例外じゃない。彼女の凶器と化す拳を紙一重でかわし、自分はその腹、具体的には鳩尾に肘を差し込む。下手に本気パンチなんか打ったら、こっちの拳が粉砕する恐れがあるからだ。

 なんせ彼女の体は鍛えに鍛えぬかれた究極と言っていい肉体だからね。普通の高校生の攻撃なんて殆ど意にも介さない。だから一点集中で肘だ。複数の関節で構成されてる拳よりも単純だからこそ頑丈で、骨の太さも段違い。それに空いた手は支えに出来て力を逃す事をしない。自分の攻撃でラオウさんに通る可能性があるのはこれと後は渾身部類される足系位だよ。

 まあ後は向こうの力を利用する感じの奴。つまりはなかなか打つ手はない。だからこそ、最初の一撃から決める気でいく!!


 感触はあった。拳を最小の動作でかわしての最短速度での肘打ち。デカイ体のラオウさんに今のは効いたはず。


「安心するのは、相手の息の根を止めてから……と教えた筈ですよ」

「いや、そんなことは教わってませんよ!」


 どこの世紀末都市の常識ですかそれ!? てか、全然余裕の声。人体の弱点突いてるんですが……つまりはそういうことですか。


「そうでしたか? では新たに頭に置いといてください。そしてついでに、戦闘では常に両手に気を配る事も忘れずに––と言う項目も追加でお願いします」


僕肘はラオウさんの左手に阻まれてた。そしてラオウさんは僕の肘を握っ体ごと回転させた後に思いっきり投げられる。


「ちょっ!?」


 ホントめちゃくちゃだなこの人。自分これでも高校生だよ。体重も六十キロくらいはあるんだ。それを片手でホイホイ投げ飛ばすって……しかも左手……本当に人類なのかと疑いたく成る。限りなくゴリラに近い握力と腕力を持ってるよね! 

 でもそんな事は思っても口に出さないけどね。消されたくないし……取り敢えず自分は空中で体を捻って無様な格好で壁にぶつかるのを防ぐ。垂直な壁に足から向かい衝撃を吸収。勢いがなくなると直ぐ様、体は落下しだす。けど眼前には既にラオウさんの姿がある。


(速い!)


 相変わらず図体と比例しない俊敏さだ。よくデカイ銃を背負って戦場を駆けてたからだろうか? 彼女はほんとに速いんだ。でかい奴が鈍くさいなんてのは都市伝説だと確信できる。実際小回りが効くかどうかの違いしかなさそう。

 向かって来るラオウさんは勢いを殺さずに向かってくる。まさか体当たりでもかます気なのかこの人!? 僕を殺す気ないとか言ってたのに、殺る気満々にしか見えない。シスターなのに殺伐とした考えもってるからな。

 死んだらそれまで……とか思ってるのかも。それともこれくらいで死ぬとは思ってないとか? 自分の肉体がどれだけ凶器かもっと自覚した方がいいよこの人。まるでダンプカーでも向かって来てるかの様なプレッシャー。

 後ろは壁で、受け止めるなんて選択肢はない。一回でもまともに受けたら骨が逝っちゃうんだ。ましてや今は壁間近……受け流すなんて不可能。脳裏に浮かぶは、受け止めた瞬間、前と後ろに挟まれてペシャンコに潰される自分の姿。それを防ぐには避けるしかない!

 僕は壁を蹴って横に逃げる。けど––


「甘いですよスオウ君!!」

「っつ!?」


 回し蹴り!! あの態勢から? どんな肉体構造してるんだよこの人!! って言いたい所だけど、まあ規格外に考えるのがラオウさんと対峙するときに一番必要な事だ。人間という常識に当てはめちゃいけない。人間の形をした何か……だと思って行動するのが一番だ。

 向かってくる脚がゆっくりに見える。さっき壁を蹴ったせいで伸びきった体じゃ地力での回避は不可能。それなら向こうの力を利用するしかない。けどラオウさんの攻撃は暴風だ。下手に触ると持ってかれる場合も多々ある。だから慎重に……けど素早く確実に! 一つ二つ、手でラオウさんの脚に触れて、体を滑りこませる。自分が向けてたその方向への力を彼女の蹴りを利用して変えるんだ。力は要らない。その為の力は彼女がくれる。

 横から正面に向いた力の向き。滑りこませた体はラオウさんの回転を受けて回転しながら鋭く彼女の喉元を目指す。けどラオウさんは無理矢理背を倒してそれを回避する。


(当たらなかった……けど、なんとか不利な位置からは脱出できたし、良しとしよう)


 そもそも当たった所で、今のはそんなダメージに成らなかっただろしね。首だってあの人めっちゃ太いからね。ナイフでエグっても動脈切れるかどうか……寧ろどうやったら死ぬのかわからないと言うか……いや流石に言い過ぎか。


「あれをかわすとは、本当にその目と体のしなやかさは驚愕に値するレベルです。けど、決定力に欠けますね。今のもすれ違いざまに喉に噛み付くつくらいの必死さが欲しい。ナイフが無いのなら歯で噛み切る位の野性味も必要ですよ。

 顎の力は相当強いですからね」

「僕達殺し合いやってたんですっけ?」


 いやほんと、ラオウさんの言葉聞いてるとそんな錯覚を起こしかける。一応ここ協会ですよ。まあ地下だし、協会っぽくはない場所だけど……寧ろ大量の人型の的やら、サンドバッグやら、そこらに放置されてる幾つかのナイフとか……やたらと物騒だけど、一応協会だ。

 この協会……どう考えても協会がカモフラージュで、テロリストの秘密基地だよね。この部屋じゃないけど、別の部屋には大量の武器あったし……ガサ入れでも入った日にはおしまいだよこの協会。


「いいえ訓練ですよ。けど、中途半端な訓練など意味は無いでしょう。私は本気の訓練をしてるんです!!」


 近づいて激しい連撃を繰り出してくるラオウさん。多分手加減はしてくれてるんだろうけど、その気合は本物。気当たりするだけで尻込みしそうなほどだ。けど負けてられない。確かに中途半端は意味は無い。

 それには賛成だ。本気の訓練は、きっと本気を引き出す訓練なんだろう。素早く繰り出される攻撃を自分は受け流しまくる。そして取った腕に関節決めようと試みるけど、圧倒的な腕力さは、決めるまで行けないんだ。力で振り解かれる。かと言ってラオウさん程になると、力を完全に利用させるって事も殆どさせてくれない。

 多分物凄くバランスがいいんだと思う。彼女は見た目は剛だ。けどその実、柔でもある。傾いていない。奇跡的なバランスで成り立ってる天秤……いや、アレは綺麗だからな。どっちかって言うと、すっごく歪なんだけど何故か崩れる事がない不思議な芸術みたいな? 

 凄いことだよ。けどあんまり羨ましいとは思えない。それは彼女の境遇を簡単にだけど聞いてるから。僕には考えられない世界。それがリアルにあって、そこで生きてきたからこそ、ラオウさんは強い。彼女の殺伐とした考えも、異常なまでに鍛え上げられた肉体も、生き抜くために必要だったからだ。

 それを考えるとね……


「どうしました? 防戦一方になってきましたよ」

「まっ……まだまだ!!」


 かわした腕を引っ張ってラオウさんの態勢を僅かに崩す。そして更に踏み込んで、その足で彼女の足の甲を踏んづける。更に揺らめくラオウさん。僕は手の平の付け根の部分で彼女の顎を狙う。

 だけどその時、またもや反対の腕が襲ってくる。ガッチリと腰に手を回せれてホールドされる。そして一気に締め付けられた。


「っつ……がっあっ」


 ミシミシと骨が悲鳴を上げてるのがわかる。これが片腕とか嘘だろ……伸ばしてた手を戻して、その肘で親指を打つ。ピンポイントの攻撃でゆるくなった隙に自分はなんとか抜けだすよ。けど息が乱れた。

 ラオウさんはそれを見逃さない。


「懐に入るのはそれだけリスクも追うんですよ。決定力が不足してるスオウくんには寧ろリスクの方が高いかも知れません。ですからもっと工夫が必要ですよ。例えばこんなふうな」


 そう言ってラオウさんは向かってた拳を済んでの所で止めて、その拳から何かをひょこっと見せる。そしてシュポッと音がすると炎が揺れて熱が伝わってくる。


「あっつ!?」

「隙あり!!」


 熱で思わず目をつむった所で肩を掴まれて引き寄せられた。ガッチリとその鋼鉄のような唐揚にホールドされる。腕は決められ、足は宙に浮き、逃れる術はない。蹴りまくるしか出来ないけど、踏ん張りがない蹴りなんか効きもしない。


(あっ、意識が……)


 ふらっと視界が暗くなる。だけどその瞬間開放された。


「ここまでにしときましょうか。落ちられても困りますしね。それとも今年最後に落ちときますか?」

「え……遠慮しときます」


 くらくらする頭を振りながらそう応える。今年最後に落ちるとかなんかヤだ。自分はその場にへたり込んで天井を仰ぐ。なんとも素っ気無い天井である。するとラオウさんが「どうぞ」と言って、ペットボトルを放ってくれた。

 自分の視線はそのペットボトルへと注がれる。回転するその向きから、中の液体の動きまで、自分には見える。そして唐突に目が刺激が走る。


「つっ……」


 自分の横を過ぎ去っていくペットボトルが音を立てて転がっていく。驚いたらしいラオウさんが駆け寄ってくれる。


「大丈夫ですか? キツ目に締めすぎてしまったでしょうか?」

「いえ……そっちじゃないんで」


 開いた目から見た世界は白黒だった。色がない。けど、しばらくしたら元に戻るから、心配させないように普通にするよ。取り敢えず拾って来てくれたペットボトルを今度こそ受け取って、それを口にふくむ。


「はあ〜、やっぱり全然勝てませんね」

「そんな事ないですよ。寧ろここまでやれることに驚きです。スオウくんはセンスいいですよ。どうせなら向こうでやりあいたいですね」

「向こうって……」


 確かラオウさんはリーフィアを手に入れる前に回収されたんじゃなかったっけ? だから結局LROへは行けなかった筈では?


「最近再稼働したんですよ。そしてコネで手に入れました」

「コネって……」

「天道嬢に口利きを少し」

「ああ……」

「こないのですか? スオウくんなら一番にでも渡された筈でしょう?」


 そう言われて、ちょっと考える。まあ確かにその話はあった。それに実際、リーフィアは受け取ってはいる。でもまだ入ってはないんだよね。色々と懸念事項とか聞かされたし、僕自身の意思を尊重するとか言ってくれたからね。

 それに自分自身でも迷ってる……って言うのが本音だよね。怖くなった訳じゃないけど……大丈夫なのかと……そもそも自分はあんまり歓迎されないんじゃないかと……世界の改変は全ての人に知らせてやった訳じゃない。

 僕が勝手に決めて、やったことだ。それによって今までの時間をなくした人は大量に居るわけで、仕方なかったとはいえ、それで納得出来ない人だって居るだろう。それにそもそもこんな早くにまた稼働させるって……色々と関わった今の自分じゃ、純粋にLROを楽しめない様な気がして気がひけるんだよね。


「え〜と、まだ考え中なんです」


 僕は曖昧にそう返しといた。ラオウさんは別段しつこく誘ってくる訳でもなく「そうですか」とだけ言ってくれた。


「そういえば、日鞠ちゃんのチームが関東最大勢力に踊り出そうですよ。テア・レス・テレスでしたっけ? 凄いですね彼女。只者ではないと分かってましたけど、影響力が私なんかとは違うようです」

「純粋な強さだけなら、きっとラオウさんが上ですよ。向こうでも、ラオウさんよりも強いのって中々いないでしょう?」

「そんな事はありません。私はまだまだ初心者ですからね。ですが同じ位に始めた筈なのにこの差です。私はやはり一兵卒でしかないと痛感します。彼女はきっと将なんでしょうね。その差でしょう」


 まあ確かに、ラオウさんは最強の個人で、日鞠は最強に成れる集団を作れる存在という意味で違うのかもね。どっちかって言うと自分もラオウさんよりかも。日鞠の様に、沢山の人達を率いるとかガラじゃない。かと言って自分が最強とも自惚れないけど。


「一緒にやっていけばよかったんじゃないですか? 日鞠だってそれなら心強かったと想いますけど」

「それじゃあ楽しみが減るじゃないですか」

「楽しみ?」

「ええ、強敵を倒す楽しみです。強い人とはなるべく別れて敵側に回る方が本気でぶつかれます」


 はは、すっごく目が輝いてる。ラオウさんはマジ戦闘狂だな。


「スオウくんも入るときはこちらに来ませんか? 日鞠ちゃんの敵として立ちはだかるんです」

「まあそれも面白そうですけど……」

「こっちのリーダーはメカブですよ」

「やめときます」


 敗北の未来しか見えない!! なんでメカブなんだよ。まあ別にメカブ自体が悪い訳じゃないとは思うけど……なんかこうイメージがね。アイツが率いてると、派手派手しい格好を強要しそうでちょっと……


「そうですか。ですが明日はそんなハッキリ言わないでください。あの娘落ち込みますからね」

「分かってますよ。それよりも何で家なんですか? ここでいいじゃないですか。広いし」

「一応協会ですから。それに広いと言っても何もないですからね。スオウくんの家と日鞠ちゃんの家は隣り合ってるんでしょう? 色々と便利そうじゃないですか。それに指定したのは摂理さん聞いてますよ。だからオーケーしたんでしょう?」

「まあ……けど、そんな立派な所でもないですけどね」

「そんなの誰も期待してないですよ」


 多分ラオウさんは気にしないで––って事で言ったんだろうけど、その言い方じゃバカにされてる様に聞こえる。まあ伝わってるしいいんだけどね。


「楽しそうですね」

「ニューイヤーはワクワクするものです。しかも今年は賑やかな中来年を迎えれそうですからね。嬉しいんです。皆が揃うのも久しぶりですしね」

「そうですね」


 自分はそう言って立ち上がる。そして自分のバックの方へと歩くよ。取り敢えずジャージを来てバックを抱える。


「それじゃあ、そろそろ行きますね」

「ええ、良いお年を」

「それって年明けまで会わない人に言うセリフじゃないですか? 明日はまだ大晦日ですよ」

「そうでしたか? ではまた明日」

「はい」


 自分は頭を下げて部屋を出てく。階段を上がり、協会のこぢんまりとした敷地にある、小さな物置から外へ出る。これもきっとカモフラージュなんだろう。

 外へ出ると吐く息が白く濁る。吹きすさぶ風が汗で濡れた体にしみる。次第に色が戻ってくる世界。大丈夫、自分も世界もまだ繋がってる。

 そう思いつつ、自分は帰路を歩き出す。見え過ぎる目と付き合いながら。


「あっ、前髪焦げてるじゃん……」


 第七百二十話です。

 これからはちょくちょくと短編をやっていきたいです。なんか長くなっちゃうんで。コンパクトに纏める力量が欲しいです。


 てな訳で次回は火曜日に上げますね。ではでは。

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