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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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この先は?

 人質交換から既に一時間が経過しようとしてる。もう一度動いてくると思われた。けど目立った動きはないままもうすぐ小一時間だ。実は戦闘してた時間よりも何もやってない時間が長く成ってる。

 まあ攻められてないからと言って何もやってない訳じゃないんだけどね。一応色々とやったよ。作戦会議とか、もう一度くまなく城中の探索とか。デザイアが座ってた玉座はこの城の中枢的コントロールの要だったからそれを得た会長は色々と試したりもしてた。

 スキルを使っての仕組みの理解とかもね……そこら辺は会長の中だけで完結してるけど、一応向こうが動かない理由は一つ推察出来ると会長は言ってたんだ。そしてその言葉通り、その時間になると地面から振動が伝わってきた。

 城壁の上で一応の見張り役をやってた自分は立ち上がってその光景を見ながらシェアリングを使って会長に報告する。まあ会長はこの城の全てを握ってるし、わかってるだろうけどね。


「会長、壁が引っ込んで行きます。時間通りですね」

『そうだね。向こうは勿論この時間を知ってた筈だし、そろそろ来るかもね。皆警戒を厳に』

「「「はい!!」」」


 会長の側に居るであろう人達の声も重なって結構うるさかった。まあ彼等がここに来たら交代だね。自分にはそれほどの戦闘力ないし……見張りはホント見張ってただけなのです。しかも敵じゃなく壁をね。

 もしかしたらこの壁の消滅よりも早く鯨とミジンコが動く可能性もあったかもしれない。けどその見立ては低かったんだ。だから自分なんかが見張りという重要な役割を出来たと言える。壁が消滅した今、これからが本当の意味で見張りとかが重要になるから、もっと出来る奴に交代。自分はあんまり役に立たないからね。これはしょうがないことなのだ。


「はあ……自分役に立ってるかな?」


 ちょっとそう思う。けどまあ、既にそれを考えるのも意味ないと諦めてる。既にバトルは始まって時間も経ってる。そんなんで悶々としてたらそれこそ役立たずだからね。会長はこんな自分でも狩り出してくれるし、その役目を全うするのが大事だ。

 それが勝利に繋がってるはずなんだからね。会長はこの城の防衛システムを全て掌握してるから、別に見張りなんて……って考えも勿論あった。実際謁見の間で全て見れる訳だしね。自分達の目よりもそれは余程頼りに成るものだ。

 けど多分会長は敵も知り尽くしてる機能だけに頼りたくないってのがあるんだろう。まあ鯨とミジンコのメンバーが自分達の裏をかくとしたら、知り尽くしてる機能の裏を付いたりするのがいいだろからね。

 便利な物には頼りたく成るのが人の性。だから当然自分達もそれに頼るだろうということは向こうも見越してるはずで、でもだからこそ会長はそこに人の目を加えて隙を潰そうとしてるわけだ。


「風が……なんだか強くなった気がするな」


 城壁は大きい。当然風の当たりも強いのが普通だ。けど、さっきまでは壁があったからね。城よりも大きく聳えてた壁が風の巡回を妨げてたんだ。その壁がなくなったことで今まで届いてなかった風を直に感じれるようになった。

 今まではそんな余裕なかったけどさ、今はまだ比較的余裕があるから、風に乗る匂いなんかを感じれる。やっぱり自分達のエリアとは違う。まだまだどっちも完成なんかしてないエリアだけどさ、吹く風に乗る匂いは結構違う。自分達のエリアはもっと無機質的と言うか、まだまだ作りかけ感の満載の感じなんだ。

 どう言えばいいかわからないけど、組み立て掛けのプラモデル的な……人工的な匂いとでも言うか……まだエリアが世界として回ってない感じ。けどここは曲がりなりにも城があって城下があって……また新し気だけど、新築の匂いが乗ってる気がするよ。


 もう少し成長すると活気って奴が乗ってきて、それが雑多になって、生きてるような匂いが乗ってくるのかもしれない。まあそこまでのエリアに行ったことないから想像だけど……多分エリアってその内そう言う風になっていくんじゃないかな? って思うんだ。どれだけ広くなって、メンバーも増えたとしても、プレイヤーだけじゃ、大きくなるエリアを埋める事は出来ないし、プレイヤーの数だけじゃ、街とかを形成するのも限界あるから、そうなるにはNPCという存在が必要不可欠に成るわけだけど……どうなるんだろう?

 やっぱり普通にLROの方に存在してる街とか国に近くと言うか、NPCとプレイヤーが入り乱れる風に成るのかなと。もしもそうなった時は、こういう所から見る風景はきっと格別な物があるんだろう。デザイアの奴はそういうのを夢見てそうだ。多分だけど、絶対にそうだろう。本当の一国一城の主……分からなくはないよね。憧れるの。

 今までのゲームでも国を築いてそう言う者に成って天下統一を果たすゲームは一杯あったけど、真に支配者としての目線を感じれる物は無かっただろう。どっちかって言うと国育成みたいなゲームが大半で、神の視点から広い土地を眺める感じの物ばかりだった。


 けどここは違う。本当に……自分達の国を……街を……作り上げる事が出来る。そしてそこを歩けて、肌で感じれる。支配者のポジションじゃなくても、自分達で築いた街に活気が溢れるときっと感慨深いんだろうなって思う。

 なんだかやっぱり自分達は結構凄い事をしてるんだなって思えるね。まだゲーム感覚で済んでるけどさ、もしもここに街としての活気や生活感が加わったら、今まで通りにエリアバトルって出来るんだろうか?

 だってそれってつまり……そのエリアに住み着いてる人達の生活を壊す様な事に成って……自分達がゲームで味わってきた悲劇を、自分達で起すことと同義のような……今はどこも閑散としてるエリアというか、プレイヤーだけで完結してるから純粋にプレイヤー同士だけの対決みたいになってるけど、これからどんどんと吸収が進んで、大きなチームが生まれてくると本当に戦争みたいに成るんじゃないかと。こういう相互間エリアバトルはある意味侵略だ。そう思うと怖く感じる部分がある。


「自分達はこの風景も全部、壊そうとしてる」


 そうポツリと呟くと、すこし胸が痛い。画面の向こうの世界なら……きっとなんとも思わずに侵略できた。だってゲームだってわかってるし、結局は画面の向こうにしか存在してなかったから。

 けどここは……自分はその存在をこの肌で、頭で、全身で感じてるんだ。何も思えないわけがない。まあだからってエリアバトルを否定なんて出来ないけどね。自分が何を思っても止まる事でもない。

 それにきっとそれぞれに目的があるだろう。そしてやっぱりゲームって性質上、エリアバトルを促す政策はされる。これから、まだまだ激しさを増してくはずだ。大手が決まったとしても、そこをひっくり返せるような、システムだって出るだろうしね。強国が決まったままなんてゲームとしての面白さに欠けるからね。

 どうしたらでかい所を倒して下克上出来るかってのも醍醐味だろうし……まあLROの場合なかなか難しそうではあるけど……自分を磨けば周りが付いてくる訳でもないからね。仲間を集めるのも、自分次第。そして誰しもに思考がある。何も考えないNPCじゃないんだから。

 いや寧ろ、この世界はNPCにすらも思考があるようだし……決められた筋書きなんてエリアバトルには皆無だ。


「テア・レス・テレスはどこまで行くんだろう」


 ふと思うそんな事。会長の事だからどこまでだって突っ走れそうだけど、その時自分はまだこの世界に居るのかな? このバトルが終われば、実質目的を果たす自分はLROにとどまる必要なんてないんだよね。

 まあ勿論条件として『勝利』が必要だけどね。LROにハマってないのかと言えばそんな訳ない。第二の世界だ。ここで過ごす時間はリアルでは決して得れない興奮がある。それを一度でも体験したら、そうやすやすと手放せなくなるのは誰もが同じだと思う。

 リアルに不満とかある人達なら尚更で……それこそ戻りたくない––とまで思うのも分かるんだ。そりゃあいい事ばかりでもない。個人の力って奴が大きい分、弱者としては肩身が狭かったりもする。力を顕示したい輩もリアルよりは多いだろう。

 実際正々堂々とエリアバトルをしてる所ばかりでもないとも聞く。類は友を呼ぶのはリアルでもここでも一緒だろう。それに同じ穴のムジナなら、チームを組んでもやりやすそうではある。そして大体そういう奴等は徒党を組むと、大胆不敵になると言うか、行動がエスカレートするんだよね。

 まあリアルでは色々と問題になるからLROでは徹底的に悪に徹する……とのも遊び方の一つなのかもしれないけどね。それを否定は出来ないのもLROだ。自由を謳ってるわけだしね。どんなやり方で楽しむかは自由だ。だからこそ彼等とどういう風に付き合うかも自由。良心を持ってLROを楽しんでる人達も大勢いるわけだしね。まだ前に参加してた人とかの方が圧倒的に多いから、早めに力的な物を求める動きが強いようだけど、もっとプレイヤーが増えれば、純粋な気持ちの人達も増えると思う。

 そうなった時に、その人達はきっとカモにされたりするだろうから、それをどうやって防ぐのかも早めにやってる人達の努めになるよね。悪と善は切り離せない物だし、どっちかにかたよることもきっとない……と思いたいよ。


「もしかたら、これからのLROがどっちに傾かもこれからのエリアバトルに掛かってるのかも?」


 まだ今のLROは勢力が固まってない。無法地帯だけど、大半がそこまでスキル高い訳でもないから大きな問題も起こらない時期だ。けどこれからドンドンと盛り上がってくと大きなチームはそれだけデカイ顔を出来るようになってくる。

 もしもそれが無法者の集まりの様なチームばかりになると、必然的にLROの治安は悪くなってしまうよね。そう云うのはやっぱりなんか嫌だ。そう考えるとどうしても会長をトップに……と思えるな。

 会長なら、きっと他の大手のチームだって上手く纏めれる。この世界に秩序って奴を作ってくれるだろう。


「会長……頑張ってください」

『え? 何が?』


 ふと通信をして呟いた言葉に会長は混乱してた。普段は頑張ってくださいなんて言わないからね。普段からそうとう頑張ってるし、自分達がそれを言うのはなんか違うかなって感じだから口に出せないんだ。

 でも何故かついさっきは口に出た。人事だから? って訳でもないけど、多分自分はこの先を思い描けないからだと思う。自分はここまでだと思ってるから、先の事を考えても、そこに自分が居るとは思ってない。だから……今、口を突いて出てしまったのかもしれない。

 でもちょうど良いのかもしれない。


「会長……会長はどこまでこの世界の事見据えてるんですよね?」

『突然何かな? もう勝った気になるのは早いと思うよ』

「分かってます。けど、ふとこれから先の事を考えて……会長じゃないと出来ないことが多いなと」

『皆、私の事過大評価し過ぎだけどね。私はただの女子高生だよ?』

「誰もそんな風に思ってませんよ」


 ただの女子高生にしては会長は凄すぎです。仮に会長をただの女子高生としたら、ただの=普通という概念が跳ね上がっちゃうじゃないですか。普通以下の女子高生が巷に溢れる事に成りますよ。まあただの謙遜なのはわかるし、デザイアみたいなのは嫌だけど、もっと誇っていいとは思う。


「会長はこれからもっと混沌としてくLROに必要なんですよ。会長はこの世界も取る気なんでしょ?」

『その言い方じゃまるで私がリアルまで手中に納めてるように聞こえるんだけど……私世界制覇なんてしてないよ?』

「知ってます。けど、自分の世界は会長によって変えられましたから」


 充分な世界制覇を会長はしてるよ。世界にしては小さいかもしれない……けど、際限なんてない、心って奴を会長は大量に制覇してる。普通の人達にとって大切なのは世界情勢なんかじゃなく、自分達の周囲の世界。そっちの方が大切だ。

 政治家が大層なマニフェストを掲げたって実感なんてない。別に感謝もしない。彼等は自分達の方を向いちゃいないから。

 会長は色んな心を掬い取ってくれる。面倒でも大変でも、それが会長の枷にはならない。そして一緒に連れて行ってくれるんだ。見たことのない場所へ。


「自分はきっとここまでかなって。この戦闘で目的を達したら、それで……」

『止めちゃう気? もっともっとこれから楽しくなると思うけどな』

「自分は元々無理言って入ってきたから……先輩に返しますよ」

『水先輩も別に返してほしいとは思ってないんじゃないかな?』


 まあそれはそうだろう。そこまで固執した様な感じもあの人ないしね。けど目的を達せれたのなら、一度返すかどうかは検討するべきだろう。ただずっとこのままズルズルと自分の物に……ってのは嫌だ。

 先輩には色々とお世話に成ってるしね。微妙に巻き込んでもいるし、そんな先輩が望むなら、この権利は返すべきだと思う。それに見せてあげたい気もする。この世界……リアルとは違う、もう一つの世界をね。


「自分よりも雨乃森先輩の方が役に立ちますよ」

『だからそういう風に言うのは––』

「分かってます。冗談ですよ。ただ、先輩に譲ってもらった立場ですから、ずっとなんとなく自分の物にしておくことも出来ないじゃないですか。目的を達したら……そういう検討も必要かなと」

『綴君は律儀だね。そして色々と不器用だよ。貧乏くじを引くタイプだね』

「余計なお世話です」


 そんな事分かってますよ。今までの人生で脚光なんて浴びたことない万年日陰があたり前ですから。けどだからって目立ちたい訳でもないんです。だからこれでいい……とはいえないかもしれないけど(取り敢えず貧乏くじを引くのは辞めたいよね)自分は自分の出来る範囲で裏切らない様にしたいだけ。


『そっかぁ、うん、じゃあ負けちゃおう––とは出来ないし、ここは全力の先を見守るしか出来ないね。けどこれだけは言っておくよ綴君』

「はい」

『私は負けるつもりないし、辞めたくない人を手放すつもりもない』


 会長は相変わらずだ。自信満々で迷いもない。それでこそ会長。自分達の会長だ。その時ふと、風に乗って甘い匂いが漂ってきた気がした。カツンと聞こえた足音。そろそろ皆が来る頃かな? ちょっと遅かった気もするし、複数のはずなのに、聞こえた音は一回ってのも気になったけど、それほど関心は無かった。

 その姿を見定めるまでは。


 風に靡く薄いピンク色の髪。色白の肌に尖った耳。鎧とドレスが混在してる服は微かに光を纏ってるように見える。そして手にある細長い剣がこちらを向く。


「油断したわね」


 その瞬間、大きな音と共に響く振動。そして全ての門と窓が開き、聞こえてくるのは聞き慣れないメロディー。なんだ? 一体何が起きてる? 混乱する頭の中で、視界の先の彼女は動き出す。

 その剣にスキルの光を纏わせて。


「返してもらいに来たわ!!」


 第七百十話です。

 遅くなりました。漫画の方はまだまだ掛かりそうです。

 次回は金曜日にあげます。ではでは。

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