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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
708/2706

籠城作戦2

 壁の外側に浮かぶ魔法陣。そこから発射される幾つもの炎の砲弾が敵を襲う。砕け散る建物の数々。弾け飛ぶ地面。だけどそんなの気にする必要はない。なぜならそう、ここは敵のエリアだからだ。

 後ろのデザイアが「ぬおー!!」と断末魔の叫びを上げてるけど、誰も気にしない。当然だけど。


「きっさまああああ! 少しは遠慮しろ!!」

「遠慮なんてしてたら彼等は止まらない。ごめんね」


 そう言って更に……いや、今度は氷の槍を降らせる。どうやら炎だけを吐き出すことしか出来ない訳じゃない様だ。けど宙に映る映像で見る限り、やられてる奴は居ないよう。傭兵の人達が前に出て鯨とミジンコのメンバーを引っ張ってる。

 やっぱり傭兵の力は頭一つ……いや、二つ三つは飛び出てると分かる。遠くから見てるだけじゃ何をやってるのかはわかりづらいけど、余裕があることは分かるんだ。慌てた様子はない。冷静に動いてる。

 それにここは向こうのエリアで、向こうのテリトリー。使ってる力の事だって向こうだって色々と詳しく知ってるはず。だからこそ、ここまで順調に攻めて来れてるんだろう。あれだけの壁を幾ら傭兵の力が別格だからと言ってこの早さで突破できるのは異常だろ。

 今だって迷わずに何かを目指して移動してる。多分、比較的薄い部分って奴をわかってる。城を囲むように現れた壁は会長の説明によると中の壁ほど厚くなってるそうだ。けどそれでも均一ってワケじゃないんだろう。

 一番薄い所を知ってる……だからこそ迷いがない。


「取り敢えず傭兵は邪魔だよね。けどだからって彼等を倒すのは難しい。準備は出来てる皆?」


 会長のその言葉に床の魔法陣に立つ人達が頷いて応える。床の魔法陣は十二個。そこにソーサラーや、弓が得意な人達が立ってる。自分は何も出来ないんで入ってない。情けないけど、まだ自分の出番がないだけだ。

 きっとお呼びが掛かる時が来るだろう。それに何が起きるかわからないしね。いきなりこの城の内部に敵が……とか成ったら残ってる人員で対応しなきゃいけない。まあそんな事が出来るのならとっくにやってそうではあるけどね。


「じゃあちょっとやってみようか。ヒット・アンド・アウェイだよ皆」

「「「了解」」」


 その言葉と共に、輝きだした魔法陣の中で消えいく仲間たち。そして次の瞬間、映像の中で敵に攻撃を加えてる姿が映る。そうこれは自分達も食らった敵側の戦法と同じ事をやってるわけだ。この城と城下の街には仕込まれた仕掛けが幾つもあるみたいでこれもその一つ。

 転送魔法の応用の様なそんな感じ。この城の魔方陣を起点に建物に仕込まれてる陣へと転送できる。それによって縦横無尽の攻撃を可能にしてるって訳みたい。かなりこれは効果的と言うか、えげつないというか……そんな感じの戦法だよ。

 ハッキリ言って、まともにぶつかって攻略は出来ないだろう。この場所で敵の動きは手に取る様に分かって、捉える前に攻撃の位置は変わってく。まさに袋の鼠状態。その気だったら自分達は城になんかたどり着けなかっただろう。まあそうなったら一時退却して仕切り直し……とかに成ってただろうから、向こうも向こうの作戦遂行の為にワザと門を開けて誘ったり、攻撃の手を緩めたりしてたんだ。

 まあ何が正解だったかなんてわからないよね。あの時、攻撃の手を緩めずに撤退まで追い込めば自分達に城を明け渡す事にはならなかった。けど、正直城という囮は盛大に成功しても居たわけで、彼等は何も間違っては居なかった。

 ただちょっと、運が自分達に味方をしてくれたんだろう。そして今後もそうなるとは言えない。勝利の女神様は気まぐれなんだ。どちらに微笑むか……いや、微笑ませるかはこれから次第。


 映像の向こうは戦場だ。だけどヒット・アンド・アウェイのお陰でこっちの被害は最小限。皆も乗って来て、次々と帰ってきては送り出されていく。まあ送り出してるのは会長何だけどね。会長がどこに送るかを決めてるようだ。幾つもある映像を見て最適な場所を選んでる。その早さたるや……どれだけの早さであの頭は回ってるのだろうか?


「そろそろかな?」


 ぼそっとそう呟く会長。すると映像の向こうの敵が攻撃に転じて来た。まあそりゃあね。このままやられる訳にも行かないから、攻撃をしては来るだろう。けどこっちはヒット・アンド・アウェイ。そう簡単に捉えることは出来ない––と思うじゃん。

 けど向こうは案外正確に次に現れる位置を把握してるようだ。動き出しが早く、そして一撃に重いものを持ってきてる。外してもその建物をぶっ壊す位のスキルだ。いや、寧ろそれが狙い?


「会長向こうは……」

「向こうは把握してるからね。餌はお陰で撒けたわ。次の段階に移ろう」


 そう言って会長は皆の武器をしまわせる。これからやることは攻撃じゃない。自分達の壁からの攻撃と、敵側の攻撃で建物は結構潰されてる。転送できる場所には制限があって、それをどっちも把握してる。絞られた候補を敵は突いてくる。それは絶対確実。

 だけどこっちだって無闇に転送箇所を減らしてた訳じゃない。全ては作戦。自分達が勝つには邪魔な存在が居る。


転送された人達に襲いかかるのはやっぱり傭兵。人数足りない分はチームのメンバーがやってるようだけど、半数以上は傭兵が出てる。けどそれは当然。強い奴が一撃で敵を倒すか、大ダメージを負わせる方がいいに決まってるからね。だけどそいつらが来ると分かってれば、対策は出来るんだ。自分達は半歩先くらいには今ならいれる。武器をしまい、魔法で身体能力を上げて、防御の為の術も詰め込んだ。

 だから転送されたキースさん達は真正面からその攻撃を受け止めるのが役割。そしていくつのかの魔法陣が反応して傭兵共々城へと戻ってくる。そしてよく分かってない傭兵を更に会長が転送させる。それは城の地下の牢獄。そこではスキルを封じ込める仕掛けがしてあると会長が言ってた。

 スキルが使えなければ、傭兵だって怖くない。けど……やっぱり全部で上手く行く……なんて事はないようだ。映像の中では予想以上に強力な傭兵の一撃に受け止めきれなかった者達がいる。そんな者達は敵に囲まれ、生存は絶望的。


「会長! 救援に行かせてください!!」


 そう真っ先にキースさんはいい、その姿に他の上手く行った人達も何人か続いた。けどその時会長は壁から氷の槍を発射して、幾つかの建物を壊す。そしてこういった。


「それは駄目。もう転送先は壊しちゃったしね」

「会長、まさか今の攻撃は……」


 まさか自ら、転送先を壊したんじゃ……いや、そうとしか考えられないだろう。それはつまり、会長は城の外に取り残されたメンバーを助ける気がない……見捨てたって事に……けど会長がそんな判断をするなんて……


「会長、君は彼等を見捨てると言うのか!?」

「見捨てる気はないよ。けど今行くのは良くない。それにまだ皆無事だしね」

「何?」


 キースさんは興奮を押さえて映像を見る。確かにまだ皆やられては居ない。何故か一箇所に集められてるようだ。敵を殺さずに生かす……その使い道はつまり……人質。向こうの主要メンバーとこっちの生徒会はリアルで交流がある。

 つまりは会長の人柄をわかってるから、多分彼等は生かされてるんだ。


『聞いてるんでしょう? 姿を見せなさい!』


 そう言って前へ出るのは末広さんのキャラ。 薄いピンク色の髪が肩に届かない位置で揺れて、開いたおデコには宝石が光ってる。耳が尖ってるから、彼女もエルフなのだろう。リアルでは比較的大人しめな印象が強いけど、こっちでは人を率いるだけの威厳があるように感じれる。

 デザイアの奴が実質あんな感じだからね……彼女が頼りにされてるのかもしれない。


「何かな? 降伏なら嬉しいんだけど?」


 会長はそんな事ないとわかっていながらそんな事を言ってる。余裕を見せて、ちょっと嫌味に……これも駆け引きなんだろう。こちら的には捕まってる仲間を何としてでも助けたい……と思われると不味いと言うかあんまり良くない。

 会長の性格は分かられてるだろうけど、こっちから欲しそうな素振りを見せちゃ駄目なんだ。今はこっちが城と向こうの王様を手にして、傭兵も半数を無力化出来た。状況的には有利にある。ここで向こうに付け入られるような隙は出しちゃいけない。

 あくまでも交渉は有利に進めなくちゃ駄目なんだ。


『降伏? そんな事はしません。それよりもコレ、返して欲しいんじゃないの? アンタの予想が甘かったせいで、哀れに震えてる子羊たちよ』

「う〜ん、でも勝てば皆万々歳だしな〜。別にこの世界では死ぬ訳じゃない。殺されても、勝てばいい。後で一緒に勝利の美酒を飲めるんだよ。だからその人質にはあんまり価値がないと私は思うな。私達は今、実質有利な立場だしね」

『本当にそうかしら?』


 末広さんは余裕を持った表情でそう言った。自分は近くに来たキースさんと顔を見合わせる。


「ハッタリだ。強がってるだけだろう」

「自分もそう思いますけど……」


 でも、確証があるわけじゃないからね。かと言って日和るわけにも行かないんだけど。


「何か大逆転の手でも?」

『別にそうじゃないけど、もっと足元の心配した方がいいんじゃないかって事。今貴方達が立ってる場所は全て、私達のエリアって事よ。いつまでも我が物顔でいられると思わない方がいい』

「ふ〜ん、ご忠告はありがたく受け取っておきましょう。だけどそれだけじゃ交渉の材料には弱いかな? だって貴方達が何かをする前に、こっちは全てを終わらせれると思うの」


 確かに会長の言うとおり。向こうは傭兵の数も減った。こっちも便利な転送は使えないけど、壁から彼等に向かって一斉砲撃とか仕掛けれる。そうなれば、傭兵が減った向こうには対処が難しいはず。押しきれる可能性はある。


『ふふ、いつまでも強がるのはやめなさいよ。そんな事が出来るのなら、そもそもこんな応酬してない。貴女の事はよく知ってる。どれだけ甘いのかもね』


 やっぱりリアルを知られてるのは不味い。向こうは会長が乗ってくると確信してる。確かに会長は誰も見捨てない。全ての人に手を伸ばそうとする人だ。だけど、ここはリアルとは違う。そう違うんだ。


「会長、ここはLROです」

「綴君……」


 自分は暗に彼等を切り捨ててでも勝利を取るべきだと……そう提案した。会長がさっき言った通り、彼等の死は無駄にはならない。それで勝てるんだ。捕まってる彼等だってここで勝利を逃すよりも、自分達を犠牲にしてでも勝ってほしい筈。

 事実そんな目をしてるように見える。希望だけどね。


「私はね、もっともっとわかりあえて一つに成るべきだと思うんだよね。味方も敵も」

「無茶が過ぎますよ会長。それにここを逃したら勝てる保証なんて……」

「大切な事があるよ。勝つことも勿論だけど、勝つために必要な事を捨てちゃいけない。大抵の人は勝つためには––っていうけど、それはきっと目の前のことしか見えてないから言えること」


 目の前の事……けどそれも大事だよね。チャンスはそう何度もやってきてくれる訳じゃない。逃したら次はないと思うべき。けど会長がいうことに自分なんかがね……会長は元々無茶しか言わないし……それで上手く行ってきた実績もある。

 けど今度は自分も他人事って訳じゃないのも問題なんだよね。今までは学校の事とか、地域の事とか、まあ多少自分にも影響する程度だったけど、今回は自分からガッツリと脚を突っ込んでる。

 責任とか役目とか色々と伸し掛かってる。だから自分は怖い。今ここで、勝利のチャンスを逃すことをだ。


「会長……会長の事信じたいですけど……」

「私の事もそうだけど、もっと自分を信じてあげていいんじゃないかな? それに綴りくんだってこのまま彼女とわだかまりあったままじゃ嫌でしょ? ここは本気でぶつかれる場所だよ。拳を合わせれば––って言う気はないけど、つまりは本気をぶつけ合えばって事だよね。

 そのチャンスは未だあるよ」

「会長……」


 ごめんなさい会長。実は自分、そういう場面が来ることをちょっと怖いと思っても居る。多分自分はぶつかることを嫌だと……そう思ってるんだ。結果が先に欲しいと……そうなれば末広さんが何を言おうと後の祭り。

 ここでの勝利という結果があれば、彼女が何を言おうと後の祭り。そっちの方が、自分は楽だ。そう楽したいとちょっと思ってる。そりゃあわだかまりも何もなく成って、綺麗さっぱりの後に勝利という結果がついてくれば文句ないとは思う。あろうはずもない。けど、そんなに甘くないよ。ギリギリなんだ。それは会長だってわかってる筈。けどそれでも……会長は難しい道を選ぶ。決して楽だから––って理由で妥協したりしない。

 そういう所に憧れてる筈なのに……自分が深く脚を突っ込んでると言うだけで、安全圏を探してしまう自分は、やっぱりこの人みたいにはなれないんだと、そう思う。


「会長は……自分が彼女に勝てると?」

「勝ちたいの? 助けたいんじゃなかったのかな? 綴君、君は負けてもいいんだよ。最初の自分の気持ちに素直に成ろうよ。君は負けても良い……私達が勝てばいいんだからね。君が背負う物は君自身が背負える分だけでいいよ。

 後は皆に分担せればね。それが仲間だよ」


 会長の言葉の後にキースさんが自分の肩に手を置いた。そして頷く。実際皆なんの事だか分かってないだろう。けど、暖かな眼差しをくれるよ。自分が背負える分だけど……それって会長に言われてもね。

 会長の細い肩には自分とは比べ物にならないものが伸し掛かってる筈だ。けどそれを会長は言ったりしない。でも、もしかしたら会長のそんな負担も実は皆に分けてあったり? まあそれを望んでたってのもあるけどね。自分もやっていいのか? けど、会長みたいに自信満々には成れない。自分チキンだから。


 そんな事を考えてる間に会長は壁に展開してた威嚇の為の魔法陣を引っ込める。これはつまり交渉に応じるということ。


『やっぱり甘ちゃんね。人生イージーモードっぽいもんね。全てに恵まれた会長さん』

「甘くて結構。私甘党だし。それよりも何をそちらは要求するのかな?」


 やっぱり城の返還? いやいや、流石にそれは釣り合ってない。でも会長が仲間を見捨てないと確信が出来たことだし、どんな無茶な要求だって出来る……か。会長は優しい。優しすぎるくらいに優しい。

 でもそれは末広さんの言うとおり甘いってことでもある。まあ現実には甘さと優しさは別だと思うし、会長だってそんなのわかってるだろう。でもそれでも会長は見捨てない選択をした。もしもここで城を要求されたらそれを飲むのだろうか?

 そうなるとまたややこしく……と言うか厄介になる。振り出しに戻る感じ。そうなったら一時自分達のエリアに撤退位になるしね。でもあんまり刺激するのも……と思ってくれてる可能性も無きにしもあらずかも。

 流石にこの城を簡単に手放すのはね……どんな要求をしてくるか、自分達は固唾を飲んで見守る。そして末広さんは口を開く。


「私達は、デザイアの解放を要求するわ。人質交換と行きましょう」


 自分達は驚いて玉座で欠伸してたデザイアを一斉に見た。え? マジこいつでいいの? 


 第七百八話です。

 遅くなりました。

 次回は木曜日に上げますね。ではでは。

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