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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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籠城作戦1

「そんな馬鹿な!!」


 会長の言葉を聞いて思わず立ち上がるデザイア。それはそうだろう。信じられないのも無理は無い。自慢の城だ。その城がたった数秒で乗っ取られたとか、考えれる筈がない。実際自分達もどういう事かよくわからないしね。

 一体会長は何を……そんな感じに成ってる。


「ふざけるなよ。幾ら貴様でもこの城をそんな簡単に乗っ取れる訳が……」


 落ち着きを取り戻す為か一度大きく息を吐いて、再び玉座に腰掛けるデザイア。本当にそこが好きなんだな〜とか思ってたら、いきなり、この謁見の間にある窓にカーテンがかかり光を遮った。

 そして暗くなったら照明の光が雰囲気を出すように淡く光りだす。しかもその光は普通の色じゃなく、色々と試すように色を変えている。イルミネーションみたいだ。色々な機能があるものだ。

 随分あの玉座がお気に入り……と思ってたけど、そういう訳じゃなくもしかしてあの玉座がこの城のコントロール装置か何か……なのかもしれない。そう考えると色々と納得できることもある。

 デザイアがあれにこだわる理由。危険を犯してまでここに居る理由。そういうことなのかも知れない。


「ふっ、ははははは! 何が貰っただ。乗っ取られてなど居ないじゃないか! 残念だったな。さあ、ここは貴様が上がっていい場所じゃない。落ちろ!!」


 デザイアの奴が勝ち誇った様な顔をして唾吐きながらそう言った。でもそれは多分間違いなく、安心しきって、そして勝利を確信してたからこその顔だったんだろう。凶暴で凶悪なそれは誰の心にも巣食う物。

 会長に勝てたというその心の表れ。でも……デザイアの言葉を城は実行しない。何も起きないんだ。


「何……どういうことだ? 早くこいつを壇上から落とせ!!」


 再びの宣言。けど、何かが起きる事はない。そんな中、会長は一枚の紙を示す。


「ありがとう。今この瞬間、本当の意味でこの城は貰いました」

「な……んだと?」


 まさか、さっきの発言は嘘で、真にこの城を手に入れるためのブラフだったのかな? いや、そうとしか考えられない。


「ふざけるな。貴様なんかにこの城が落ちるわけがない!」

「そうだね。私だけじゃ無理だったかな。でも貴方のお陰で、私は必要な物を得られた。やっぱりその玉座が王の意思を城に伝える装置なんだね」

「それが……分かった所で何が……」

「良く見てください」


 そう言って会長は玉座の脚を指さす。するとそこには紙が張られてた。結構同化してて見づらいけど、間違いない。アレは会長の紙。仕込んでたのか。でもいつの間に。


「こんな物でどうやって……」

「真っ白な紙は伝えてくれます。そのシステムを。けどソレには駆動してもらう必要が有りますからね。私がソレを仕込んだのはここに上がった直後。その後にもう一度城への命令を出してもらう必要があったんですよ。

 だから敢えて煽ったんです。駆動し続けるシステムを見るのは簡単です。だから私に解除出来たのは王の揺り籠だけでした。けど、それは貴方の中で焦りに成りましたよね?」

「くっ!?」


 流石会長。最初に得たのは王の揺り籠という保護魔法の解除だけだったのに、それを解除する様を見せつける事で城全体の掌握に成功したかのように見せかけ、本当に城全体を掌握する為の布石にしたと……全く油断も隙もない人である。

 けどこれで、城の掌握が出来たと成れば、万々歳。状況ももしかしたら一気に変わるかも。


「くっ……くくく……くくくくく」


 玉座の肘掛けを強く握りしめるデザイア。その手の甲には青い血管が浮き出てる。不気味な……気味悪い笑い声。垂れた頭は小刻みに震えて息も不規則。この状況がきっと奴は信じれないんだろう。

 噛み付いて来る––自分はそう思った。追い詰められたら誰だって足掻くんだ。だから奴も––


「ふん、勝った気に成るなよ。ここは譲らん」


 ––あれ? 予想と違った? デザイアは頭を上げるとより深く玉座へともたれかかった。こいつは噛み付いてくる奴じゃない様だ。そんな気概がないのか……それとも、そこだけは譲れないプライドなのか……


「まあいいですよ。既にこの紙が玉座の代わりに成りますしね。逆にそこの閉じこもって貰います。ハリボテの玉座にしがみついてればいい」


 そう言った会長の言葉とともに、玉座を囲む様に三角錐が展開した。結界か何かだろう。これで実質デザイアは無力。まあ既に城の力がなくなった時点で無力みたいな物だったけどね。


「会長、やりましたね」

「凄いよ。流石だ!!」


 壇上に上がって皆さんが会長に駆け寄る。まあいつもの光景だ。けど会長はまだ安心してるわけじゃない様だ。皆にも見えるように城の機能なのか、外の映像を宙に映し出す。


「皆、まだまだ安心できないよ。ここからは第二ステージだからね」


 会長のその言葉を受けて皆気を引き締める。映しだされた映像にはエリアを超えて戻ってきた『鯨とミジンコ』の面々が……面々……あれ? 異様に多くない? なんだか凄い装備の人達が混ざってるように見えるのは気のせいでしょうか? 


「あれは……傭兵連中ですか? まさかあんなのも駆り出して来るなんて……卑怯とは思わないのか!」


 キースさんがデザイアを睨みつける。けどデザイアは玉座にふんぞり返って言うよ。


「卑怯? これは戦争だ。自分達の領土を掛けたな。それに卑怯も何もあるまい。全てを賭けるんだ。敗者の声など誰が聞くか!」


 デザイアの言葉は正しいっちゃ正しい。負けたら意味なんかない。負けた時の言い訳に向こうが傭兵を使ったから……なんて言ったってそれは結局敗者の言葉だ。負けた理由を探しただけ。全てを掛けた戦いなら何が何でも勝つためにやれる事を全部やるべきで、やらなかったから負けたなんて結局の所言い訳でしかない。

 敗者は敗者となった時点で意味ない。勝てば官軍……そう言う事なんだろう。


「てか良くあの戦力相手にぎりぎりまで抵抗しましたね」

「大変だったよ〜ホント」


 そう言っておちゃらけて見せる会長。いやいや、大変感が伝わって来ないんですけど。普通なら絶対にやられるよ。デザイア達のチームだけなら、それほど強さ的には変わらないと思うんだ。けど傭兵達は自分達よりも一歩・二歩・三歩とか進んでる奴等の筈で、向かい合ったらまず正攻法じゃ勝てない差がある相手だろう。

 傭兵なんかやってるのはそれこそ、腕自慢ばっかりだろうしね。自分達が知らないスキルとかきっと沢山あるんだろう。うう、自分は絶対に相対したくない。一瞬でやられそうだ。


「それで会長、どうするんですか?」


 ルミルミさんは会長にだけは敬語なんだよね。一瞬誰だよって思うよホント。まあそれは置いといて、確かにどうするんだろうか。流石にあの戦力相手に正攻法で戦いを挑むわけには行かないよね。


「なんの為にこの城を手に入れたと? ご自慢の城なんだし、きっと役立ってくれるよ。取り敢えず籠城かな。ふふ、自分達を守ってきた城を攻めなくちゃいけない。皮肉だね」


 会長のその言葉にちょっとゾッとした。やっぱり怖い所もあるよね。でもこの城を使わない手はない。防御力は折り紙付きだろうしね。真正面からぶつかる訳には行かないんだから消耗戦ってわけか。


「取り敢えず挨拶の一つでもしときましょうか」


 会長のそんな言葉と共に、城に微細な振動が伝わる。そして映像に映る彼等が拡散したと思ったらそこに炎の玉が直撃した。なるほど、あの攻撃か。


「やっぱり当たらないな〜。欠陥品じゃないのかなこれ?」

「ふざけるな。威嚇用としては充分だ」


 会長の言葉にデザイアがそう返す。まあ当たらなくても脅威ではあるしね。ただ真っ直ぐに走る抜ける事もできなくなるし、時間稼ぎとかにはなる。そう思ってると、一人のプレイヤーが、その炎の玉を打ち返してきた。


「「「なっ!?」」」


 驚愕する自分達。そして直後大きな振動が城に伝わってきた。まさか打ち返されるとは。城は動けないから確実に直撃だ。こんな事が出来る奴が居ると成れば、無闇に撃てなくなく。


「まあ傭兵なら、この位出来る奴が居てもおかしくはない。残念だったな。お前達など、直ぐに奴等が駆逐するさ」

「あら、この城はそんなに貧弱なんですか? 残念です」

「ふざけるな! そんな訳あるか!! 傭兵にだってそうやすやすと破れる作りなわけない!」


 どっちだよ。自分達がやられるって事はこの城が落ちる事を意味してるよ。まあ既に一度落ちてるから自分達の手に渡ってるわけだけどね。二度もあったら、やっぱりその程度って思われるよね。

 デザイアは実際、早く助けて欲しいんだろう。けどやすやすと助けに来られたら自分達の城が脆弱だったと証明するような物で、それはそれで嫌だと。面倒な事だ。

 まあこっちとしてはこの城の防御力には期待してるんだけどね。安々と敗れてもらっちゃ困る。でもこのままじゃあっという間に城まで来られてしまう。


「どうするんですか会長?」

「そうだね。もうちょっと時間掛けたいし、コレを使おうかな」


 そう言って何か紙に綴る会長。そしてこう告げる。


「バブリビオの五重壁展開!」


 すると更に大きな振動が城に伝わってくる。天井から吊り下がったシャンデリアが大きく揺れてる。一体何がどうなって……って思ってたら更に多くの映像が映し出された。そこには城下の始まりからここまでの間に五重の岩の壁が出現してた。

 かなり狭い感覚で、しかも城よりも高い壁。なるほど……これは鉄壁と言う表現がしっくり来る。まだ城下に入ってなかったから、これでかなりの時間を稼げそうだ。実際こんなのやられてたら、自分達は城まで辿りつけなかっただろう。

 まあ守るだけが目的ならコレは凄い盾なんだろうけど、戦略的に今回は自分達相手には使えなかったんだろうね。それを逆に使われるとはこれまた皮肉。


「これなら何もしなくても守れそうな……」


 誰かがそんな事を呟いたけど、どうやらそんな甘くはないらしい。向こうには傭兵が居る。自分達よりも数倍は強いであろう奴等。そいつらのスキルがあれば、強行突破も出来るようだ。映像には最初の壁を突破した姿が映ってる。


「マジかよ……」


 マジだね。そもそも守り通す事が目的でもないような気がしないでもない。会長は勝つ気だ。このバトルには制限時間なんてものはない。どちらかがが倒れるまで続く。守り通せれれば勝ちとかない。

 攻めて崩して制圧しないと勝利はない。裏をかくことも大事。最初は盛大に裏をかかれたわけだけど、こうなることは向こうも予想してなかった筈。


「会長指示をお願いします。これからどうしたら勝てるんですか?」

「そうだね。取り敢えず彼が鍵を持っててくれたら簡単なんだけど、多分そうじゃないよね。でも、鍵自体はここにある気がする」

「その鍵って自分見たことないんですけど……本当に鍵の形してるんですか?」


 思ったことを自分は聞いたよ。そもそもグレートマスターキーと言ってもそれが鍵の形してるなんて保証はないんじゃないだろうか。ここは仮想世界だ。鍵がそのままの鍵である必要なんてない。


「鋭いね綴君。確かに鍵かどうかはわからない。最初は鍵何だけどね。それは持ち主の権限で変えることが出来る」

「それじゃあ今その鍵が何かはわからない……けど知ってる奴は居ますよね」


 自分はデザイアに目を向ける。こいつはそれを知ってるはずだ。拷問とか出来ればいいんだけど、安全面から痛みは制限されてるからね。まあそれでも痛いっちゃ痛いんだけど……


「確かに貴方は知ってるはずだよね?」

「ふん、拷問など意味ないぞ。俺は何も喋らない」

「別に半殺しにするだけが拷問じゃないですよ。てや!」


 何かを投げ入れる会長。するとそれは床に落ちて割れて、リアルに居るやつよりも数十倍デカイ蚊が数匹球体中から出てきた。


「なんですかあれ!?」

「迷いの森の深い所に居るモンスターだよ。なんと一匹で三リットルも血を吸う恐ろしい奴なんだよ」


 三リットルとか……死ぬんじゃないかあいつ? てか何故にそんなモンスターを会長は捕獲してたのか。


「あれが吸った血が必要でね。なかなか上質なんだよ。インクの赤は蚊から取ってます!」

「聞きたくなかった事実ですねそれ」


 血じゃん。もうそれインクじゃなくて血じゃん! いや、まあ半分冗談みたいなものなんだろうけどさ。流石に生のまま使ったりしないだろうし、調合品とかとしてあの蚊が吸った血が必要とかなんだろう。


「くっ、デカイからってただの蚊だろうが! 叩き潰してやる!」


 デザイアの奴は蚊を迎え撃とうと手を構える。でも流石に数十センチある蚊を手で潰すって結構ばっちい感じがして自分には無理だな。けどデザイアはやるしかない。このまま数匹から数リットルもの血を吸われたらたまったものじゃないからね。


 バチン!!


 と響く音。息を荒く吐きながらデザイアの手のひらが合わさってる。


「ふはあははははは!」


 そんな興奮した笑い声と共に更にバチンバチンと響く音。ヤバイ、なんか変なスイッチ入っちゃってるよ。


「ちょ、会長これじゃあ聞き出すどころじゃないですよ。一回水でもぶっかけた方がいいんじゃ……」

「大丈夫だよ。直ぐにこんな事出来なくなるからね」


 ? すると激しく動いてたデザイアの動きがピタリと止まって全身の毛が逆立つみたいに震えた。そしていきなり背中を玉座にこすり付ける。いや違う。全身を回転させながら何か言ってる。


「かっ、痒い〜〜〜〜! 何をしたああああ!」

「ふふ、その蚊は戦闘力なんかほぼ無いけど、倒せない事で有名なのよ。最初は大きいけど、攻撃をするとやられた様に見せかけて分裂するの。ほら耳を澄ませばあの嫌な音が聞こえるでしょ? しかもこの蚊の痒みは通常の蚊の八倍。それを無数の箇所刺されれば気が狂い掛けるほどの物になる。

 どう? 白状したく成ったでしょ?」


 うああ……と思ってちょっと腕をかく。別に痒くないけど、そんな話し聞かされると刺されて無くてもても痒くなってしまう。デザイアのいる空間はまさに地獄じゃないか。会長えげつない。HPも減らず痛みも無い……けど、精神を削るには有効だ。

 あまりにかきすぎると自分で自分の皮膚を削るって全身真っ赤に……なんて事もありえそうで結構えげつない方法だ。まあ血の表現はLROではないから、そこまでグロくはならないだろうけど、ちょっとデザイアに同情しちゃうな。


「ほらほら早く白状しないと全身痒くて痒くて発狂しちゃよ?」

「……殺す……殺してやる貴様……」


 目に涙を溜めてそう宣言するデザイア。今までで一番力がこもってる様に聞こえたな。それだけ苦しいって事だろう。白状するのも時間の問題か。


「さて、皆は取り敢えず戦闘の準備を。ここは拠点だし、色々とアイテムもあるだろうし、迎撃システもまだまだあるから、それらを駆使して鯨とミジンコメンバー+傭兵の排除にあたってください。

 まあ近づいてくるまでは下手に手出ししなくてもいいですから、取り敢えずこの城を把握してくださいね。後は回復に努めることです」


 そんな会長の指示に従って各自城の探索に向かう。まあ構造的には把握してるけどね。でもアレはトイ・ボックスの影響を受けてた状態だったから、今とは少し違う。今のこの城は真に奴等の拠点。

 だからこそ、色んな設備もアイテムも豊満に用意されてるはず。自分達が勝つために用意したはずの全てを敵に使われる。それは悔しいだろうね。こっちは心置きなく使えるよ。そんな事を考えながら一部屋ずつ回ってると、とても女の子っぽい部屋を見つけた。


「うわ〜なんか甘い匂いがするな〜」


 ちょっとドキドキする。これは敵を知るために必要なことなんだ……うんそうなんだ––そう言い訳して中に入る。


 第七百六話です。

 遅くなりました。スローライフはまだちょっとかけてないです。別のがですね……まだまだかかりそうで。

 相互間エリアバトルも第二ステージに突入してまだちょっとかかります。

 てな訳で次回は木曜日にあげますね。ではでは。

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