表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
701/2705

追いつめる側

スローライフ 第九号 今回はマンガ形式3pあります。

 全部読んでくださる方はみてみんかニコニコ静画へとどうぞ。

挿絵(By みてみん)

 ドン! ドカン!! と次々とそんな音が聞こえてくる。城は継続的に振動を湛えいつ崩壊してもおかしくないと思える程だった。だけど……これは全て作戦の内。


「ルミルミさん!」

「わかってる。奴等は一階西側に向かってる。その先はない。つまり奴等が逃げ込むそこが––」

「––この状況の突破口!」


 一つの部屋に入って身を潜めてるのもここまでだね。行動を開始しよう。


「よし、他のチームはそれぞれ合流しつつ一階西側に向かうように伝えてください。自分達も行動を開始しましょう」

「だけどどうやって……ここから下は蔦が侵食してる。この人数じゃキツイぞ」


 確かにそれはキースさんの言うとおり。元々一階部分にソレがあると踏んで二階部分から徐々に蔦を故意に侵入させて障壁や何やらで無理やり裏切り者共の方へ誘導したんだ。けど今はその障壁も破られて二階部分はほぼ侵食が進んでしまってる。ここから一階部分を目指すのは至難の業だ。

 けど……やりようはある。


「外を使います。自分達は窓を突き破って外へ出て一階西側に周ります。丁度背後も取れていい具合に成りますよ」


 裏切り者共は今、そいつ等だけで固まってる。多分仲間の一人が蔦に絡め取られて不安に成ったんだろう。それにリーダー格の奴はそいつを助けようとせずに簡単に見捨てたからね。多分仲間は離れてたら自分達もそうなるんじゃないかと思ったんだろう。

 だから奴等はチームを再編した。それぞれが生徒会メンバーを監視するようにしてたのに、それをやめて仲間内だけで集まった。それは結果的にはこっちにとって都合が良かったよ。監視の目がなくなった生徒会メンバーは自由に動けたし、その御蔭で他のメンバーを取り込む事も出来た。

 あの時……さっきの戦闘での奴の判断は間違っては無かったかもしれない……けど、不信感を抱かせるには充分だった。特に前衛組は不満タラタラだろうしね。芽生えた不信感は簡単には拭えない。そこで自分達は密かに向こう側に潜入してる生徒会メンバーを通して、真実を告げたわけだ。

 そしてもう一つあの戦闘でわかったことがあった。それは奴等自身もあの蔦に襲われると言うこと。もしもそうじゃないのなら、あんな必死にはならないし、既に一人……飲み込まれる事も無かったはず。

 蔦が無差別にプレイヤーを襲うのなら、その恐怖を利用できないかなって考えた。勿論、階下の皆の危険は跳ね上がる。けどそこは上手く連携を取ってカバーできると踏んだんだ。こちらでワザと蔦を招くルートを指示して、蔦共が裏切り者達へと向かうように誘導をした。向こうのプレイヤー全てがこちらに協力してくれるのなら、奴等の動きを詳細に知ることは難しくないからね。

 奴等は保身の為に墓穴を掘ったんだ。まあだけどリスクはやっぱりデカイけどね。扉を開けるとウネウネとした蔦が獲物を求めてさまよってるのが見える。人数が多い階下に行きやすいと言っても、こっちにだってやっぱり来る。そもそも蔦の数に制限があるのかわからないし、あの蔦が無限に増えるのだとしたらその内この城を内部から完全に侵食するのも時間の問題。

 あの蔦が何を感じてるのか……それはわからないけど、何かを感じ取ったのか、扉を僅かに開けて様子を伺ってたこっちに向かってそれが伸びてきた。急いで閉めたけど、その扉を貫通して何本かの蔦が入ってきた。


「うおおおおおおおらあ!!」


 キースさんがその剣で入ってきた蔦を切り裂いた。そしてドアを蹴破り言い放つ。


「走れ皆!!」


 一瞬硬直してた自分達はその言葉で一気に廊下に出て西側目指して走りだす。階段側からまとまった蔦の塊が顔を出してる。そしてそれが花開くみたいに一斉にこちらに向かって伸びてくる。まさに生きてるみたい……用意してた障壁で通路を塞ぐ。その隙に更に距離を離す。大丈夫、この階の下見は済んでる。迷うことはない。

 最短を駆け抜ければ蔦にも追いつかれる事はない。だけどどうやら蔦共も相当腹が減ってるのか、なかなかワイルドに成って来てるようだった。ボコスカと壁や床を突き破って現れる。


「全員迎撃しながら進むんだ!!」


 足を止める事はしちゃいけない。脚が止まったらそれこそ終わり。この数に囲まれたらどうしようもない。そうこうしながら進んでる内に目的の窓が見えてきた。彼処から飛び出して、一階へ一気に出る。外がどうなってるか正直わからないのが不安だけど、地上に落ちる気はないよ。


 自分は鉱石を取り出してそれをスキルで変換する。鎖状にしてその先端を壁や天井に複数差し込む。そして皆の体にそれを巻いた。


「このまま突っ込めえええええええええええ!!」


 槍状にした鉱石をぶっぱなして窓に張り付いてる蔦共々ガラスをぶち破る。そして腕をクロスして一気に外へ飛び出した。そして直ぐに鎖がその勢いを殺して自分達は落ちだした。上を見ると蔦がニョキニョキとウネッてた。そして地面も全部蔦でまるで並の様に見える。


「ちょっとこれ大丈夫––なの」


 自分の首根っこに捕まってるルミルミさんが青ざめながらそんな声をだす。確かにこのままじゃ地面に落ちるか壁に激突かわからない。上手く行けば狙い通り視界に映ってる窓へ入れるはずなんだけど……計算は一応したよ。

 でもやっぱり……怖いものは怖い。三階に繋がれた鎖によって振り子の様に半円を描いて進む自分達。長ければ地面に落ちるし、短かったら窓じゃなく壁に激突する羽目になる。それに鎖を切り離すタイミングも重要。他の皆が恐怖に目を閉じたとしても、自分だけはこの目を見開いて居なければいけない。

 風が目を乾かす……でも瞬き一つのそのその刹那が命取りになる。迫る地面と壁。自分は「ここだ!」と思った瞬間に、鎖を切り離した。そしてその勢いのまま窓から一階部分に転がり込む。


「前方と後方、それぞれに障壁を!!」


 直ぐ様起き上がり自分はそう告げる。ルミルミさんが自分達が突き破った窓に障壁を貼り、合流した一階部分に居たプレイヤーと共に通路にも用意してた障壁を三重に張る。どうやらタイミングはバッチリだったようだ。


「そっちの犠牲は?」

「数人って所かな? 流石にあの数だったからな」

「そっか……」


 流石に無傷って事はやっぱり無理だったようだ。一階は自分達の比じゃない激戦だった筈だしね。寧ろ良くここまできてくれたって感じかもしれない。自分が沈痛な面持ちしてると、軽く胸をこづかれた。


「気にするな。お陰で奴等を追い詰められた。この状況を打破すれば犠牲になった奴等も戻ってくるだろ」

「そうですね」


  ザバンさんの言葉に自分は頷くよ。悲しんでる暇なんて無いんだ。この障壁もいつまでもは保たない。残った部屋は一つだけ……ここに重要な何かがある筈だ!

 自分はドアノブに手を掛けてそして一気に前衛の人達と共に、その中へ入った。部屋の中は暗く、他の部屋と変わらない、古ぼけた匂いがする。そしてそんなどことも代わり映えしない部屋を見て……少し嫌な予感を感じた。



「彼奴等はどこ!?」


 そう言ってルミルミさんが杖を構えて入ってくる。自分達はキョロキョロと視線を部屋中に巡らせる。すると部屋の隅……一段と暗く見える部分から怯えた様な声が聞こえた。


「ああ……早く……はやく終わってくれ……」

「俺達は役割は……は、果たした筈だよ……な?」

「あ、ああ……だから早く……」


 ヒソヒソとした声の応酬。そこに自分達は近づいて光をかざした。


「貴様等……言え! この状況を打破する術を!!」


 キースさんに胸ぐらを掴まれて持ち上げられる裏切り者のリーダー。ついさっきまで、威風堂々とリーダーっぽく振る舞ってた奴とは思えない程の怯えぶりだ。だけど怯えはいるけど、奴は不敵に笑う。


「ははっ、どうして俺がそんな事を知ってると思った? 勘違いも甚だしい……俺達は別にやられたっていいんだよ。奴等がこのバトルで勝てば、それでエリアは戻ってくる」

「それってつまり……」

「アンタ達はこの状況の打開策を持っては居ない……」


 自分に続いてルミルミさんがそう続いた。そして奴はバカにするように大きく笑う。確かにこの人達は既に役割を終えたのかもしれない。それならソレ以上の情報なんて与えられてない……というのも当然なのかも。

 向こう側だから……それは酷い思い込みだったって事か。別に向こうの仲間って訳でもない……そこまでの信用をこの人達は得ては居ない。自分達をこの城に閉じ込めて、後はここで自分達も巻き添えでやられようがなんだろうが、この人達の役割は自分達をここに閉じ込めた時点で満了してるわけだ。

 けどやっぱりどうせなら無事なまま、取り返したかったから、さっきの場面では必死に……それは素だったからこそ、自分達は見誤ったんだ。彼等には重要な情報があると––


「そんな……」

「やっぱり俺達はこのまま……」


 皆の気持ちが落ち込んでいくのが分かる。下を向いて、覇気がなくなっていく。これでどうにかなる……と思ってただけに、そこに何も無かった時の絶望は大きい。もう自分達がここに閉じ込められて十分が経とうとしてる。

 どれだけの人数を投入してるのかはわからないけど、ここでのプレイヤーはリアルの身体能力じゃない。それなりの広さでも総力を上げてるのなら、既にエリアを隈なく調べあげててもおかしくない。

 今……この時、この瞬間……自分達の負けが通知されたって全然おかしくなんか無い。そう思って目を瞑った時……耳に雑音の様な物が聞こえた気がした。自分はシェアリングに手を伸ばす。


『……り君……綴君? 聞こえてる?』

「会長!?」


 自分のその声に周りの視線が集まってくる。いや、当然か。だって誰もがもうダメだ––と思った時だからね。縋りたく成る……この人に。


「会長、なんで……どうして今まで連絡の一つも無かったんですか?」

『だってほら、無闇に連絡するのも不味いかなってね。こっちには向こうの内通者もいるし』

「やっぱりこの会話は向こうにも……それに妨害とかも……」


 自分は鋭い視線を胸倉掴まれてる奴に向ける。


『こっちには何回も綴くんや彼からの連絡あったんだよ。私の居場所を探ってたみたいだね』


 なるほど、自分のシェアリングからの通信は妨害して、そして向こうに都合の良い情報とかを流したり引き出したりとかを考えてたわけか。会長、分かってたのに、なんでこいつを司令の一人にしたんですか? 


「無事……何ですよね?」

『だから連絡してるんだよ。何人かは捕らえて通信手段を回復したんだよ』


 簡単そうに言ってるけど、それってどうやったのだろうか? だって向こうは総力を上げて会長に向かってる訳で……普通なら逃げるとかが精一杯な筈では。まあ会長に自分達の常識とかを当てはめようとしても無駄なのは知ってるけど……案外余裕そうでビックリだ。


「あいつら……なにやって……」


 どうやら向こうのシェアリングにもこの会話は聞こえてるらしい。胸ぐら掴まれた奴が恨めしそうに声を出してる。まあこいつらにしたら、自分達をここに閉じ込めた時点でもう勝利したと思っただろうからね。

 実際、普通ならそうだ。たった一人でどうにか出来る戦力差じゃないだろう。普通ならとっくに蹂躙されてる。

 だけど少しだけでも、わずかでも仲間だったのに見誤ったな。自分達の会長は常識にも規格にも収まるような人じゃない。もう少し一緒に居ればそれがわかったかも知れないのに。まあだけど実際、状況が好転してる訳じゃない。

 このままじゃ遅かれ早かれ負けるのはこっちだ。


「会長このままじゃ……」

『そうだね。でもまだ終わってないよ』

「けど……こっちはもう、万策尽きた感じで……会長の救援に行けそうにありません」


 やれることは全部やったんだ。けど……宛は外れた。これ以上何が出来るのか……分からない。ここから出られないと、敗北の未来は変わらない。


『トイ・ボックスの侵食機能の拡張を無理矢理やってるようだね。でも無茶にはどこかに綻びがあるものだよ。こっちもそうだし……問題はそれを見つけられるかどうか』

「見つけれたとしても、それを突ける程の戦力が問題って事も……今のトイ・ボックスは昨日の段階とは全然違います」


 この城全体を覆う蔦はさながらもうモンスターだ。無理矢理とか言ってるから、もしかして今の状態は暴走とかしてるのかも知れないけど、それがこっちにはとんでもなく不利に働いてる。ほころび……そんな物が本当にあったとしても、この部屋をもう一度飛び出す事が出来るかどうか……皆に既にそのモチベーションは……


『昨日と違う。それがわかってるだけでも良い情報だよ。綴君が捕まったのも無駄じゃなかったね』

「それだけですよ。寧ろ様変わりし過ぎてて訳わかりません」


 ほんと、もっとおとなしいアイテムだと思ってた。ただ敵を捕らえてスキルを抜き取る程度の物だと……それだけでも充分に恐ろしいけどさ、今の状態はもうアイテムが意思を持って襲ってきてるみたいだよ。


(意思……か)


 ちょっとまてよ。アイテム自体にそんなものが合ったのなら、昨日の段階……逃げ出した時に反応とかしてもいいよね。でもそんなのは無かった。じゃあ今感じるその意思は……


「会長、そっちに向こうのリーダーは居ますか?」

『見ないかな? 彼は玉座が好きだからね』

「そうですよね……」


 まさか本当に? にわかには自分でも信じれない。けど、蔦から感じる暴力的な意志が外部から与えられた物なら……やっぱりこの城の中には誰かが居る。でも実際、それをリーダーに任せるか……とか色々と不安はある。

 普通はありえない。けど……自分達はまだあの謁見の間には行ってない。考えてみれば、人数が上層階は少なかったと言っても、蔦の侵食が遅すぎたんではないか? 本当に無差別なら、無限に見える蔦の数だ……あっという間に全ての通路を覆うことなんか訳ない筈だ。

 そうじゃなく、わずかでも制御してるのなら……


『こっちは後五分くらいかな? もう随分仕込みも潰されたし、それが限界と思っててね』

「会長は……まだ勝てると思ってるんですよね?」

『当然。こんな所で負けられないよ』

「ですね……」


 自分はここだけでいい。このバトルだけは負けられない。だからもう一度みんなには火をつけてもらわないとだね。


「皆……まだやれることはある。玉座に行こう。彼処が一番怪しい」

「行くって言ったって……どうやって。既に周りは蔦だられなんだぞ!」

「ははっ、その通りだよ。会長も後五分が限界と言ってた。もうお終い。諦めて大人しくしとこうぜ」


 悪魔の囁きの様な事を言ってくる裏切り者。後五分……その言葉に皆は反応して下を見る。後五分……確かにそれだけしか無い。もしも玉座に辿りつけても、そこに居る誰かが邪魔をするだろう……絶望的な時間かもしれない。

 けど……何もしなかったらそもそも終わりだ。


「皆……自分にはこんな事を言う資格はないのもわかってる。上に立つ人間なんかじゃない。そんな自分だけど色んな事を諦めて達観してきたからこそ分かるんだ。

 今の自分には何にもない。それはきっとそう言う生き方しかしてこなかったから……いつだっていち早く自分の限界を決めて諦めて来たから、何も残ってなんかない。蓄積されたものもない。

 諦めるのも逃げるのも、会長は良いって言ってくれる。けど、それは全てをやった後だ。自分は今まで、早く諦めすぎてたんだと思う。後五分じゃない。まだ五分だ! だから力を……貸してください!!」


 不器用な言葉を紡いで、そして頭を下げる。それしか自分には出来ない。だって自分には会長の様なカリスマはない。信用だってあんまりない。関係を築くのだって苦手だ。ついでに言うと人前で話すのも苦手……ホントだめだめな自分。

 だからこそこれしか無い。不器用でも、不格好でも、自分には人として人で出来る誠意の見せ方しか出来ないんだ。

 淡い魔法の明りの中、幾つかの足音が聞こえる。それは自分の周りに集ってそして一緒に頭を下げてくれる。


「「「我々からもお願いする。どうかまだテア・レス・テレスを諦めないでくれ!!」」」


 それはリアルでも共にしてる生徒会の面々。そんなに仲良いって訳じゃないと思ってた……けどそんな皆が自分と共に頭を下げてくれてる。


 第七百一話です。

 遅くなりました。やっぱり漫画は大変ですね。死にました。


 取り敢えず次回はh月曜日にあげたいです。ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ