表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
699/2705

最凶の牢獄

 スローライフは間に合いませんでした。

挿絵(By みてみん)

「くそ!! 放出系のスキルと魔法で一斉に攻撃だ!」


 そんな言葉に頷くそれ系のスキル持ちの皆さん。彼等はさっそく準備を初めて一斉に門に向かってスキルを放つ。激しい閃光と共に爆発音が響く。誰もが祈る様に煙の向こうを見つめる。けど……やっぱりだけど、門はビクともしてない。

 吹き飛んだ蔦が周囲に散らばってるけど、それだけだ。蔦は直ぐに伸びてしまってる。


「駄目か……もっと大きな威力じゃないと」

「いや、そもそもトイ・ボックスと言うアイテムに置き換わってるのが問題かもしれないです。城じゃなく、一種のアイテム」

「それじゃあこれも使えないって事か?」


 そう言って彼が出すのは一枚の紙。それはこの城の壁をすり抜ける為に会長が用意した物だ。元々門が開いてる状況は想定してた訳じゃないからね。自分達で内部に入るにはどうしたらいいか……勿論城壁を越えるスキルとか色々と方法はあるわけだけど、それらの対策をしてないわけはないからね。

 一番意表を付けるスキルはやっぱり会長の物だ。会長のスキルは他に使用してる人達はそうそう居ないだろうからね。エリア間移動までも可能に出来るスキルだ。壁の一つをすり抜ける程度は訳ない……筈だけど、今のこの状況で通じるかはある意味不明だ。

 今あの壁は壁であって元の壁じゃない。会長が記した文字通りの役目をこの紙が果たすのだとしたら……通じないかもしれない。


「試してみましょう。皆さんは下がってください」

「おいおい、お前は一応司令塔の一人だぞ。危険な事を率先してやるべき役目じゃない。ここは俺が」


 そう言って自分の代わりに成ってくれようとする彼。全くどこまでもイケメンで有能な人だ。けど彼の事も制止して別の人が声を上げる。


「あの! 俺がやるっしょ。へへ、武器も無くなっちったし、このくらいしか貢献出来ないんで、やらせてくださいっしょ」

「「…………」」


 確かに武器を失ったのは痛いよね。それでも自分に出来ることを……語尾は取り敢えずだけどその気持は嬉しい。自分達は視線を交わし合って頷くよ。


「それじゃあ頼む」

「反応が無かったら直ぐに壁から離れるんだ。一応他のメンバーでサポートはするけど、気をつけて」

「しょっ!」


 そう言ってその人は紙を手に包んで走りだす。自分達は側面に回って蔦の動きに注視する。彼を捉えようとするのなら、蔦が動くはずだからね。


「しゃあ! 発動っしょ!!」


 壁に手をつけてそう言った彼。だけど反応は無い。そして直ぐ様蔦共が彼に向かって動き出す。


「援護だあああああ!!」


 そう叫んだ自分よりも指令っぽいその人の声で一斉に蔦の迎撃は始まる。その間に試した彼は壁を離れる。けど直後甲高い悲鳴が聞こえた。


「きゃあああああああああああああ!!」


 蔦が足を絡めとって仲間の女性一人を吊るし上げる。スカートを押さえてジタバタしてる彼女。それを助けたのは意外にもB班の司令塔……つまりは裏切ってる筈の奴。いや、他の皆は知らないんだし、仲間っぽい行動を取るのは別におかしくはないか。


「ここに居るのは危険だ。取り敢えず城の内部に行くぞ!」


 有無を言わさない力強さで皆を引っ張りだす奴。けどこの状況でそれに異論を唱える事は出来ない。蔦は不気味に自分達を狙ってる。多分あの蔦に捕まると昨日の自分の様に成るんだろう。そうなったら自力での脱出はほぼ不可能。

 それは駄目だ。ここは奴の言うとおり城の中に行くべきか。迷ってる間にも他の皆は既に走りだしてる。上手く誘導されてる気がしないでもないけど……このまま蔦の餌食にはなりたくない。自分もその後に付いて走りだす。


「うわあああああああああああああああああ!!」


 迫る蔦共をスキルで迎撃しつつ扉を目指す。どこかの王宮庭園みたいな庭を駆けてる間にも、蔦共は地面を抉り、まるで巨大で無数のミミズが迫るみたいに、襲ってくる。


「急げ急げええええええええ!!」


 先に城にたどり着いた人達がそう叫んでる。いつの間にか後ろから迫るのは蔦ではなく、巨大な土の津波に成ってた。扉に飛び込んで閉めた瞬間、激しく城全体が揺れる。けど……助かった。頑丈な扉で良かった。良く突き破られなかったな。だけどそう思ったのも束の間、部屋の中に差し込む光が徐々になくなっていく。

 窓の外を見ると、蔦がニュルニュルと窓を覆って光を遮っていく。そしてあっという間に城の内部は光が全く届かない暗闇と化した。


「何もみえな……」


 すると何人かはランプを取り出した。そして光を出す魔法を使える人達はそれを使って光源を確保する。ちょっと焦った自分が恥ずかしい。用意周到っすね。スキルじゃなく、ランプの方。昼間の対戦だからそんなの用意してなかったよ。


「さて、これで私達、二重に閉じ込められたわね。城を囲む城壁とこの城の内部……ますます脱出が難しくなったんじゃない?」

「ルミルミさん……」


 確かにそのとおりだ。これでいよいよ脱出が厳しくなった。やっぱりこれは上手く罠に嵌められ続けてるんじゃ……


「まあまあ皆さん、ここは落ち着きましょう。焦ったらそこれこそ敵の思う壺じゃないですか。状況は悪いですが、突破出来る何かがきっと何処かにあるはずです」

「ああ、そのとおりだな!」

「流石、こっちの司令塔な役に立つぜ!」


 くっそ彼奴等……暗に自分を下げてるよね。しかも向こうの司令塔の元チーム同士でそう言う流れをつくろうとしてる。けど自分が本当に頼りないから、そっち方向に流れていってる! このままじゃ二人司令役として居るのに、実質一人状態になって不味いのでは?


「もう別れても居ませんし、統率する意味も含めてここでの上を決めた方がいいんじゃないですかね?」

「なるほど〜それはそうかもだな」

「確かに二人の意見がぶつかると場が混乱しそうではあるよね〜」


 ヤバイ……早速自分がお払い箱に成るピンチ到来!? でもここで自分が今の役目を降ろされたらストッパーがいなくなる。テア・レス・テレスがほぼ敵の手に落ちた様な状況に……それは駄目だ。


「いやいやいやいやいや! 流石にこの人数を一人で回すのは厳しいんじゃないかな? 会長じゃないんだし」

「確かに俺はあの人には及ばないけど、全力を持って事に当たる覚悟は出来てるよ。それが今の俺の役割だからね」

(どの口が言うか!?)


 心の声が危うく漏れそうになった。けどなんとか我慢しました。でも今ので奴の評価はうなぎ登ってる。不味い……このままじゃ本当に自分は役目を降ろされて一兵卒に格下げだ。いや、まあそれがお似合いと言えばお似合いなんだけどさ……そうなったらチーム全体を奴のコントロール化に置かれてしまうって事に……それじゃあきっと脱出は出来なくなる。

 そうさせようとしてるはずだ。どうして裏切り者の奴等までここに居るのか……それってつまりはそういうことだろう。このままチーム全体を牛耳らせるわけには……


「そ、そんなの自分にだってあ、ああああああるって言うか……」

「君は上に立てるような人間ではないと思うけどな? 無理しなくてもいいんだよ。大抜擢にどうにか答えようとする気持ちはわかるけど、背負い込む物じゃない。俺達は仲間何だからな。任せろ」


 肩に置かれる手……向けられる微笑み。それらの向こうで蛇が舌なめずりしてるように見える。てかギリギリと指が肩に食い込んでるんだけど。自分にはバレてるんだからな。引きずり降ろそうと脅してる訳か。

 そしてそんな奴の取り巻き共もそんな論調に賛成して、そういう空気に促していく。


「そうそう仲間なんだから」

「取り敢えず一時的にさ」


 仲間とも思ってない様な奴等からそんな言葉を聞くと吐き気がする。だけど自分にはこの空気を覆す手段がない。バラすか––それもいいかもしれない。こいつらが敵と通じてるとバラせば誰もその言葉に耳を貸しはしないだろう。


「皆……こいつは––––」


 その時、自分の肩に置かれた手を誰かが叩き払った。その背は小さく、だけどその瞳は鋭くて力強い。ルミルミさん……


「フン! そいつは確かにこの中じゃ一番役に立ちそうもないのは翻し用の無い事実だけど––」


 あれ〜フォローしてくれるんじゃないの? ああ、そう言えば嫌われてたっけ。ルミルミさんの言葉に鋭く心が抉られたよ。


「––けどそれでも私達の会長が選んだ奴だ。勝手に空気にするな」


 抉られた心がキュンっとした気がする。やだ、何この人カッコイイ。普段の扱いが雑いからか、偶に優しくされると簡単にときめいちゃうよ。


「会長は臨機応変に対応をしろと言ってた筈だけど? こんな近くに居るんだ。二人も司令塔が居ても意味は無い。だから俺がまとめての指揮をだな」

「はん! 臨機応変……お前に言われるまでもなく私らは誰よりもそれを理解してる。何せこの中では私達が一番付き合い長いんだ。私達はあの人の背中を見てきてるからこそアンタだけに指揮系統を任せるなんて出来ない」


 随分噛み付くルミルミさん。まさかこの人も奴等が敵と通じてる裏切り者だと知って?


「確かにあの人に勝るなんて思い上がっては居ないが、だからと言って彼が相応しいとは思えない」

「ふん、私もこいつが上に居るなんて虫唾が走る。けど、上の立場だからって後ろでふんぞり返ってる奴は信用出来ない。会長はな、常に前を走ってるから私達は必死に追いかけてんだよ」

「……ふっ」


 今一瞬口の端がヒクッと不自然に動いたぞ。うざったい……とか思ってそうだ。だけどルミルミさん……ほんと自分の事上げないっすね。そりゃあ自分を持ち上げてこいつを引きずり下ろすのは難しいのは分かる。わかるけど……二人して自分を更に落すこと無くない!? イジメか!

 入ってない様な状況の自分が一番被害被ってるよ。まあそれも情けないからだけど。


「俺は何もふんぞり返ってた訳じゃないけどな。そう見えたなら残念だ。立場の違いだよ。そのくらい君でも分かると思うがな? それに現にこうしてここまで辿りつけたのは俺の指揮もあっての事だろ?」

「その俺様を褒め称えろみたいな思考が気に入らないのよ。とにかく臨機応変でいいのなら、チームを分けようじゃない。この城のどこかに外に通じる道があるかも知れないし、この牢獄の鍵もあるかも知れない。

 それを探すためにもチームを分けてやれば司令塔が二人でも意味はあるでしょ」

「まあ別に俺は彼を蹴落としたいわけでもないんだけどな。皆の為に成ればと思ったんだが……新参者だしな。そういうことならもっと役に立つことを示して見せるさ」



 くっ……爽やかイケメン風に言いやがって。まるで爽やかな風が吹いたかの様な気がしたじゃないか。しかもそんなセリフでアイツは他のチームの支持を獲得してるように見える。ルミルミさんはまさにヒール役だよ。まああの態度じゃね。元々色んなチームが寄せ集まってるんだ。まだまだ強固な一枚岩って訳じゃない。それでも今まではそんなぶつかる事は無かった。だって基本元チームに会長とかが入ってエリアバトルをやってた訳で、こんな切羽詰まった状況に一緒に晒されたのは初めてなんだ。

 元々ルミルミさんは口悪いし、態度悪いしガラも悪い……良い印象を外側からは保たれにくい人だしね。こちら側の支持者そうは一気に居なくなったかもしれない。いや、まあ自分のせいでもあるのは認めるよ。

 もっと口が上手くて、もっと堂々とできれば印象も変わるんだろうけど、駆け引きとかはそんなに得意じゃない。


「って事は君はそちらの彼の方へ行くと、チームの編成を臨機応変にここに来て対応しようということかな?」

「そうだな、どっちに指示出されたいかでいいんじゃね」

「ええ!? そ、それって……」


 自分は思わず声を出した。だってそれは……なんというか……案の定、向こうの方が大所帯になりました。ですよね!! しかも生徒会の面々の何人かも向こう側に居るんですけど!? 裏切り者!! 生徒会の繋がりは何よりも強い物だと思ってたのに!

 例えそれほど関係性無くたって、生徒会って括りで仲間だと思ってた! 


「そっちはどうやら二チームにも満たない人数だが? バランス悪く無いか? こっちから貸し出そうか?」


 うぐ……すっげー見下されてる気がする。「これがテメーと俺の人望の差だよ! はっ、馬鹿ばっかだな。調子いいことを言えば簡単に尻尾振ってきやがって」––って聞こえるのは案外自分の心が汚いせいかな?

 なんだか強い視線を感じてちょっと視線を下げると、ルミルミさんがすっげー睨んでた。ここで日和ったらこの人に刺されそうなんですけど。


「だ、大丈夫ですよ。どうせこの城を探索するのは同じですし。こっちの担当分の範囲を狭めてくれれば問題はないでしょう」

「それもそうだね。それじゃあ君達には上層階を頼めるかな? 自分達は三階から下を担当しよう」

「じゃあそれで」

「時間はない。みんな急ごう。取り敢えず中央のエントランス側に回らないと」


 そう言って彼は彼の下に集ったプレイヤーを引き連れて走りだす。自分達はその後ろから付いてくよ。階段はきっとそのエントランス部分にあるだろうしね。上に行くにはまず階段必須。あれ? でももしかしたらエレベーターとかあるかな?


「はぁ、ホントあんたって頼りないわね」

「なんすかルミルミさん……気が滅入る様な事言わないでくださいよ。それにかなり向こうに取られたのは貴女のせいでもあると思うんですけど?」


 貴女の態度の悪さに反感を持った人も相当数いるよきっと。けどそんなの意に返さずに彼女は言う。


「ホントみみっちいやつだな。それでも会長なら皆が付いてきたんじゃないか?」

「自分は会長じゃないんで。あの人と比べられたらたまったものじゃない」

「アンタは会長が直々にその役に任命したんだからな。その意味をちょっとは考えろ」


 意味? それってまさか会長は自分に後継者になってほしいと思って––––って自分も会長も同じ一年だよ!! 会長がいる限り自分が会長になることないから!! じゃあどういう事だ? ちょっとは期待されてるとか?


「ふふ、君達は本当にあの人を信用してるんだね」

「あっ、え〜と……」


 イケメンさんだ。自分よりもかなり司令塔っぽい人。今までは状況が状況だっただけに別段名前を呼ぶ必要もなかったけど、今のタイミングは自然と名前を呼んだりする場面かもしれない。けど変な間が……自分は取り敢えず集中して彼の頭上に目を向ける。

 普段は見えないけど、意識を集中すればちゃんと名前とかHPとか見えるからね。フムフム……


「キースさん、勿論! 会長は凄いですからね」


 よし、なんとか自然に行けたかな? 折角い色々とお世話になってたのに名前も呼べないんじゃ失礼だしね。彼はエルフでけどその割には結構筋肉が付いたゴツイ体付き。まあムキムキというよりは細マッチョ的な感じだけど、エルフの保つ神秘的な造形美はちょっと薄まってる代わりに、スポーツマン的な健康的なイケメンだ。

 肌の色もちょっと黒よりだしね。


「それよりも良かったんですか? こっちで……」


 自分で言うのもなんだけど、頼りないっすよ。


「はは、俺にも色々と思う所はあるんだ。アイツはなにかを隠してる。そんな匂いがする。だからこそお嬢さんも噛み付いたんじゃないのか?」


 お嬢さんとはまさかルミルミさんのことっすか? 狂犬の間違いでは?


「匂いとかそんな野生の獣みたいに言うな。ただ、まあ女の勘よ」

「なるほど、それはあてになるね。まあこちらも匂いは冗談だよ。だけど、人を言いくるめるときに笑う奴は腹の底が知れないものだ。それに奴の発言も気になる。まるで、この城の内部を既に知ってるような……それに俺は割と君を気に入ってる。

 彼女がそのポジションに君を据えたのは面白いと思うよ」

「その発言は喜んでいいんですか?」


 ちょっとバカにしてないっすか? けど、そうか………キースさんも奴を警戒して……まさか、ルミルミさんは信用できる奴だけを自分の周りに? 今、自分の班に居る人達は信用できる……そう伝えたくて……考え過ぎかな?

 でもちょっと嬉しいよ。自分は前の集団からちょっと距離を取らせて、口を開く。


「あの……これはずっと言うべきか迷ってた事ですけど––」


 信用ってどっちかがまずはしないと行けないこと。腹の底なんて誰にも分からない。だから、まずはこちらから動こう。力ない自分だから、皆に頼ることが出来る。


 第六百九十九話です。

 どうやって脱出するのか、何が鍵に成るのか……色々と頭痛いです。スローライフも四コマって大変ですよね。


 次回は日曜日にあげたいです。ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ