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命改変プログラム  作者: 上松
第二章 世界に愛された娘
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迫る時

 スローライフ第六号

挿絵(By みてみん)

 一体どうやって? 会長のプライベートルームに招かれて、まず聞かなきゃと思ってた事を聞く。勿論自分の失態に付いても謝ったよ。けどそれはそれらしいので、だされた香りの良いお茶を口にしながら体を温める。


「私のスキルは契約と割り込みと一時の改変。それを上手く利用しただけだよ」

「それもそもそもよく分かってないですけど……ずっと納得行ってない事が……会長だって同じ時期に始めた筈なのに……出来ることの幅が違いすぎるような?」


 会長のスキル故なのはわかるけど、自分達はまだまだ初心者の域を出てないはず。もしかして会長だけこっそり自宅とかでもやってたり? けどだからってそんなポンポンスキル値を稼げる訳でもないんだよね。

 LROにレベルって概念はない。基本ステータスは変わらず、多種多様なスキルを会得してく事で、プレイヤーは差別化される。そしてそのスキルを得るには装備が定番でクエストやミッション、モンスターとのバトルでも一部得れる。今はそれにエリアバトルも入ってるかな。スキル値を上げてそのスキルをマスターすれば、スキル自体が進化したり、装備を外しても使い続けられるように会得したことになるんだ。

 でもスキル値を上げる方法は上記の様に色々とあるけど、得られるスキル値は微々たるものだ。エリアバトルだけはかなり特典豊富だけど、それは自分達も得てるからね。会長だけが突出するってのは考えられない。それとももしかしてリーダーには副産物的な何かがあるのだろうか?


「う〜ん特殊なスキルだからね〜。ハッキリ言えばスキルの上げ方も特殊なんだよ。だからかな?」

「上げ方ですか?」


 そう聞いて自分は会長の胸元に視線を向ける。会長は着替えてワイシャツにピッチリとした膝下までのパンツを履いてる。そのワイシャツの胸元には会長愛用のペンがある。ペンだよペン。別に胸を凝視してる訳じゃない。


「それで書いた分だけあがるとかですか?」

「そうだね。意味ない言葉とかはダメだけど、私には幸い色々と処理しなきゃいけない書面がいっぱいだったから上げやすかったよ」

「それってリアルの仕事とかもここでやることでスキル値に反映させてたと?」

「皆を巻き込んだのは私だし、やれることはやらないとね」

「そのペン……記憶してる限り、最初から持ってましたよね?」

「ああ、これ? これは最初から装備されてた物だよ。まあ色々と組み込んだりはしてるけどね。私にとっては皆の様に剣や槍じゃなかったってだけ」


 そんな事ありえるの? と思ったけど、LROだしね。そもそも武器持ってるのとか、取り敢えずでしかない……と思ってたけど実はそうじゃない? 剣や槍、弓や銃––実は色々と初期装備は違ってたりもすると聞く。

 自分は普通に片手剣で何の変哲もない奴だったから、こんな物だろうと思ってた。でも……LROは何かを判断して初期装備を決めてるのだとしたら……それを与えられた意味って一体……自分も装備してる片手剣を見つめる。

 まあ流石に最初の武器では無いんだけどね。最初から装備してる武器にスキルは何もなかったし……それともそれもランダムなのだろうか? もしかしたら最初から特殊な武器を与えられる条件とかが? 

 ずるい……様な気がするけど、自分自身がペンしか与えられなかったらハッキリ言ってどうしようもないし、やっぱりこれはこれで仕方ないのかもしれない。


(ペンってなんだよ)


 ––って絶対に思うよね。けど普通はペンだけで通さないか。でも最初はお金も無いしね……やっぱり普通は途方にくれるよね。バカにされそうだし……自分の様な普段目立たない奴が普通と違うと攻撃の対象になるからな。

 自分には普通が一番。会長だと、ああやっぱり会長だなって思う。


「会長のその力で敵エリアから脱出出来たって事ですよね? アイテムからの救助もそうですけど……」

「まあね。普通は接してる部分からしか行き来出来ないからね。これは裏ワザみたいな物だよ」

「でもそれは結構大きいアドバンテージですよね? 行き来に制限がないのなら出たり戻ったり自由に出来ます」

「自由って程でもないよ。それにペンはともかく、インクや紙は有限だしね。それなりに高価な物じゃないとそこまでの効力は発揮できないの」

「り、リサイクルとか?」

「使ったら消えちゃうんだよね」


 あっ、そういえばそうだった。有効に使うためには案外コスパが悪いものなのかもしれない。いや、だからこそ裏ワザ的な事が出来るって事だろう。武器はそうそう壊れたりしないし、一度買えばスキルを修得するまではその投資文だけで事足りるけど、会長のスキルはそうじゃないって事か。

 さっき紙に書くだけでスキル上がるとか楽でいいなって思ったけど、紙やインク代は掛かってるって事なんだね。まあ特殊な用途でもないのなら紙もインクも安物でいいんだろうけど。


「会長……自分達は彼等に勝てるんでしょうか?」


 自分は不安気な声でそうつぶやく。ハッキリ言って言葉に出したくはなかったし、他の誰かが居たらきっと言わなかっただろう。けど、今は二人きりだし、向こうのエリアを見たらその不安を抑える事は出来なかった。


「絶対に勝てる––っては言えないかな。もう私達のエリアは繋がったし、それもバレた。明日にでもきっと開戦だね。丁度休みだし」

「明日!?」


 ビックリだ。そこまで早く!? 近々とは思ってたけど、直近だよそれは!


「だってエリアが繋がったって事はそう言う事だよ。友好関係ならまだしも、どっちも攻めこむ気満々なんだもん。塞ぐことも出来ないのなら、なるべく早くに始めた方がいいって思う。放置してたっていい事無いしね」

「確かに……いつ攻められるかわかったものじゃないですからね……」

「そういう事。繋がった以上、もう私達は始めるしか無いんだよ」

「自分のせい……ですね」


 本当ならもう少し先だったはずだ。けど自分が捕まって、それを助けるためにエリアを繋げてしまったからこんな事に……


「別に綴君のせいじゃないけどね。向こうに通じてる人達が居る時点で長引かせる気はなかったよ」

「気付いてたんですか?」

「私を誰だと思ってるのかな?」


 そう言われると根拠なんか無くても納得できる。会長は会長だから不思議なんてない。


「でも……考えてみたら一気にエリアを繋げるって一体どうやったんですか?」


 エリアの空白部分はまだまだ多い。ここは関東圏だから比較的埋まってる方だとしても、いきなり繋がるって……無理があるような。だってまだ後数回のエリアバトルは必要って判断だった筈。


「もしかしてエリアバトルの前倒し?」

「あはは、エリアバトルはこっちの都合だけで出来るほど簡単じゃないよ。誰にだって自分のエリアは大切だからね」

「そうですよね……」


 自分はあんまりエリアに執着なんかしてないけど、普通はエリアは大切だよね。完全に無くしたらLROから追放されるらしいし……まあそこまで行く人は多分居ないと思うけど。負けてもそのチームに入れば追放とかはされないわけだし、どっちを選ぶかとなったら嫌でも組み込まれる方を選ぶだろうと思う。でもそうなるともう自分だけのエリアでは無くなる。

 自分がエリアに執着してないのは最初からそれだったからだよね。最初から皆のエリアだった。だから自分の〜とかは思えない。それに実際、自分の目的は別にあるからね。

 自分と話しながらも会長はスラスラと手を器用に動かして書類を捌いてる。器用だな〜とか思いながら話しを続けるよ。


「でも……じゃあどうやって繋げたんですか?」

「ふふ、綴君。この世界にはまだまだチームに所属してないプレイヤーも居るんだよ」

「つまりはその人達をスカウトしたって事ですか?」

「まあね。大体二十人くらいかな?」

「そんなに!?」


 ビックリの数字だよ。せめて四・五人くらいかと……いや、それは少ないか。エリアバトルをする時の人数に上限は無いけど、大体五・六人程度でやってる。それで勝てば相手のエリアが丸ごと入ってくる訳で、個人をスカウトするとなると、如実な変化を得るにはそのくらいは必要だね。


「まあ考えるとそのくらいは必要何でしょうけど……よくそんなに捕まえられましたね?」


 だって中々併合しないからエリアバトルという勝負事を持ちかける訳だよ。それで渋々にも納得いただいてエリアを得てるんだ。それなのに簡単に二十人も得れるのなら、エリアバトルなんか必要ないような……


「大変だったんだよ。まあでも私達もそれなりに知名度あるからね。きっとこのエリアバトルに勝てば一気にトップ争いに食い込める位のエリアになる。それを餌にしたりね」

「なるほど……けどそれだけで二十人も行きますか?」


 甚だ疑問だ。そもそもソロである程度まで行ってる人とかは、一匹狼的な感じが好きな人達じゃないのかなって思う。それを口説くにはそれだけじゃ足りないよね。エリアを広げるには最初からの既存のエリアの他に、広げた範囲がないと意味ないからね。

 エリアバトルならボーナスでエリアが与えられるけど、スカウトでもあるのだろうか? それがないと初心者を狙うのは意味が無いから、必然的に集めた二十人は経験者になる。けどそれならやっぱり今の誘いじゃ弱いんだ。

 一匹狼にとっては慣れ合いなんて一番必要ないものだろうしね。まあ慣れ合いたくても馴れ合え無かった人達も居るんだろうけど、そんな人達ばかり二十人……じゃないだろうしね。


「確かにエリアバトルとかに興味ない人達もいるし、それだけじゃ難しいね。でもそこはほら、私達人間同士だからね。友達には誰だってなれるんだよ」

「友達二十人を一気に作ったって事ですか……」

「うん、もう何回も入ってるんだし、ちょくちょく見かけた人達とか、声かけて置いたんだよ」


 いつの間にそんな事……そもそも自分はほぼ他人と関わらない様にしてたのに。LRO内で……いやリアルでもだけど、出来ないよ。会長はエリアバトルだけじゃなくて、他の事でもちゃんと味方を増やそうとしてたんだな。

 よくよく考えたら、そっちの方が余程健全かもしれない。だってエリアバトルは相容れないからやるものだもんね。そして併合したってその溝が無くなるわけじゃない。そこを埋めるためにはそれなりの時間が必要だ。

 だからこそ、今回の様に裏切る人達が出てきてもおかしくない。寧ろ自分達が楽観視しすぎてたのかもしれない。もう決着は付いたんだから……と。けどそれは勝った側の理論なんだよね。負けたからって、後ろを刺せないわけじゃない。

 この世界は戦いが溢れてるんだ……下克上なんて幾らでもあり得るんだ。自分ホント何もやれてない。しかも明日に決戦が前倒しされたって事はもうスキルを上げる暇もないって事で……ど、どうすれば?


「自分、このままじゃ完璧に役立たずですね」

「それはわからないよ?」

「慰めはいいですよ。たまに『この役立たず!』って罵倒してくれたほうが楽です」

「そう言う趣味があるのならしても良いけど」

「いや、ないですけどね!」


 そういうことじゃないんですよ。そういうことじゃ……まあ会長の怒った顔なんて見たことないし、ちょっと興奮するかも––と思わなくもないけど、でもやっぱり怒られたら心折れちゃうかな? 自分、メンタル弱い方なんで。


「実際、役に立つか立たないかは分からないよ。戦場では何が起こるかわからないし……明日の戦闘はこれまでの規模じゃない。分かるよね?」


 その脅すような言葉に自分は頷く。会長の言うとおり、明日の戦闘は経験した事のない規模になりそうだ。今までは互いに顔を合わせて条件を決めて––ってやってたんだ。それなのに、今回は条件もクソもない。ルールなんて物が存在しない。

 しかもこれまでは五・六人程度でやってたのに、多分明日は総力戦に成るだろうことも分かる。今回入ったという二十人とこれまでのエリアバトルで組み込んできた人数を合わせれば既に五十人程度はテア・レス・テレスにはメンバーが居る。

 多分向こうも同じくらいかそれ以上は居るだろう。ってことは、合わせれば百人規模の大規模戦闘に成るわけで……ヤバイ、胃が痛くなってきた。完治した訳じゃないからね。でもここはLROなのに……


「百人規模の大規模戦闘なんてこれまでのエリアバトルであったんですかね?」

「まあ急なことだし、こっちも向こうも全員を揃えられるかはわからないけどね。それに予想外の伏兵がいるかもだし……百人で収まるか……それ以下に成るかはわからないね。でも新生したLROでは初の大規模戦闘に成るかもしれないのは確かかな?」

「始まったら注目度も凄いことに成るかもですね……」

「既に注目度は凄いけどね」


 そう言って会長は表示してたウインドウをこっちに向けてくれる。そこにはLRO内の掲示板が表示されてて、確かに既に盛り上がってた。既にどっちに賭けるかの賭博まで始まってる始末。


「どこからこんなに早く情報を掴むんでしょうね?」


 エリアバトルなら通知されるけど、エリアの接触はそうじゃないだろう。じゃなかったら接触した時点で敵側の人達は気付いてたはずだ。自分にだって通知来ただろうしね。それなのにどうやってこんなに早く盛り上がってるんだ?


「エリアを測量してるチームがあるみたいだね。そこでしょう」

「測量って……どうやって?」

「さあ、そこまでは分からないけど、特殊なスキル持ちでも居るんじゃない?」

「会長はあんまり気にしてないんですね」

「? 測量チームの事? それともこの盛り上がり?」

「盛り上がりですよ。全くゲームみたいに……」

「ゲームだけどね」

「そうですけど!?」


 そうですけど……自分達にとっては大問題な訳で……蚊帳の外から盛り上がってるのを見せられるのは不愉快と言うか。


「それは私達の都合だよ。逆に自分に関係無かったら、私達だって盛り上がるでしょ? お祭りなんだよ。私達はその当事者。一番美味しいところに居ると思えばいいよ」

「そう思えれば楽ですけど……」


 一般人にはキツイんです。ウインドウを見ると中々に接戦してるようだけど……この期待を裏切っちゃったり自分がしちゃうんじゃないかとか考えてしまう。この賭けが圧倒的に向こうに傾いてたら開き直ったりひっくり返してやろうぜって思うかも知れないけど、案外テア・レス・テレスも期待されてるんだなってわかるとプレッシャーがね。


「負けられないんだっけ綴君は?」

「まあこっちの都合で……ですけど」

「思いっきりやるしかないよ。力が足りないと嘆くなら、どうやったら力に成れるか考えようよ。まだ一晩あるしね」

「思ったんですけど、夜に攻め込まれるって事はないんですか?」


 確率あるよね? 寧ろ狙い目の様な……


「向こうも中心チームは私達と同じ高校生だよ。それに既にさっきそのメンバーは居なかった。多分もうログアウトしてる。確かになるべく早く攻めたいだろうけど、流石に無策ではこないし、メンバーを集める必要もあるし、準備はそれなりにあるよ。こっちもね」

「でもこういうネットゲームが盛り上がる時間は夜の様な……」


 仕事終わりの人とか学校終わりの人とかが揃うのは夜だしね。大丈夫かドキドキだよ。けど会長はやけに確信めいてる。


「大丈夫、決戦は午前十時くらいかな?」

「やけに具体的ですね」


 何をやったんだこの人? でもこの感じ、多分会長が何か手を回してるんだろう。それなら多分大丈夫。


「ふふ、もう綴君も落ちて休んだほうがいいよ。色々と疲れたでしょ?」

「そう……ですね。これからじゃスキルも対して上げれないですしね。そういえば、裏切り者はどうするんですか?」


 気になる所である。リンチかな? あんまり意味ないけど。


「綴君に顔を見られてるんなら、もう現れないかもね。でも最後の仕事してもらったから、おあいこかな?」


 クスっと微笑む会長の笑みは妖しい感じ。何かペナルティを付けるとかはしないようだ。最後の仕事って奴で充分って事なんだろう。それが明日の午前十時の決戦開始と関係してる? そんな気がしないでもない。


 取り敢えず明日だね。明日……自分の運命が決まる……様な気がする。だからかな。落ちる間際に余計な事を聞いたよ。


「会長、明日の決戦、勝率はどの位ですか?」

「このままだと三十パーセントかな?」


 このままの意味は聞かなかった。多分自分が知っても意味ない事だと思ったからだ。「ありがとうございました。また明日」と言って自分は落ちる。三十パーセント……それが今の勝てる確率。自分はどれだけ貢献できるんだろう。

 どうやったら貢献できる? 自分で出来る限り考えよう。もう今の自分に出来ることは、この普通の頭を最大限使うことだけ。それが通用するのかは分からないけど……やらないままで負けるなんてもう出来ない。


 第六百九十六話です。

 遅くなってしまいました。逆に休みの方がダメなんですよね。なんだか書く時間がずれちゃうというか。そうなると書かなく成っちゃうというか。

 とりあえずごめんなさい。


 次回は金曜日に上げますね。ではでは。

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