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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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月の無い夜

 後数時間後に僕達はこれまでで最大級の戦闘を行う事になるだろう。それはきっと誰も体験した事がない程のものの筈だ。不安がない訳じゃない。だけど僕の心は不思議と落ち着いていた。

 そして遂にアイツがもう一度この世界に現れる。


 空に月は無く、集う数有る星の全てが見える様な気がする夜。僕達はNPCの街『ノンセルス2』から少し離れたフィールドの一角に集っている。

 広大な大地がどこまでも続く様に感じるフィールド。なだらかに下りに成り、そこには妖精の様なモンスターが小さな粒子を放ちながら所々にある花へ漂っていた。

 風は心地よく肌を撫で、緑の香りが鼻孔を擽る。僕達はこれから決戦に向かう事になる。だけど、不思議と緊張感は無い。なんだか心は至って穏やかというか、この星空を素直に綺麗だな……と思える位に落ち着いていた。

 きっとセツリもこの星空を見てるだろう気がするんだ。こうやって空を見てると、同じようにしてる人と繋がれる様な……勿論知ってる人でしか想像は出来ないけど、セツリも多分こうしてる。

 だからコンペイトウの様な星を握る様に手を伸ばして掴んでみる。何も僕の手には入ってないけど、心の中だけで呟いた。


(もうすぐ行くから、必ずその手を掴んでみせる)

「ちょっとあんた。本当にアギト様くるんでしょうね?」


 唐突に後ろからトゲがある声が刺さってくる。振り返らなくても分かるな。僕をあんたなんて呼ぶのはセラしかいない。

 だから僕は立ち上がることもせずにただ空を見上げて答えてやった。


「来るさ。アイツはもう大丈夫だからな。絶対来る」

「……そっか、なら良いんだけど……上手く行ったんだ」


 セラはそう呟くと僕の横に腰を下ろした。少し顔を向けてみるとセラは嬉そうに微笑んでる様に見える。セラも心配してたからね。僕達はアギトだけだったけど、セラはアイリの事もだったし……同時に何とか出来たのなら良かったんだけど、一応は成功したはずだ。

 終わりの方は退散して見てないんだけど、終わった後にアイリからメール来たからな。『ありがとうございました』ってさ。それなら悪い事には成らなかったんだろう。

「それにしても私たちってすっごく無謀よね。たったこれだけで軍とモンスターの大群をそれぞれ相手にしようとしてるんだから。勝てる見込みなんて殆どないわよ」


「勝てる見込みね。そんなのあんまり気にしないな。まあ、最大限にそれを高める事はするけど、僕達は勝たなきゃいけないんだ。敵がどれだけ大きくても」


 でなきゃいろんな事が終わる。セツリがどうなるか分からない。アイツを救えるのは僕だけだ。そしてアイリを救えるのはアギトだけなんだ。

 それはいろんな事の為になる。僕とセツリはそれだけ、かもしれないけどアイリとかはそうじゃないだろう。アイリのあの細い肩には国というとても大きくて重いものが乗ってるんだ。


「それはそうだけど、あんた時には現実見なさいって言ってるのよ。無茶ばっかりしてると本当に死ぬわよ。そんな事に成ったら……悲しむ人だって……」


 ん? なんだか今日のセラはおかしいな。他人の、特に僕の心配をするなんて熱でもあるんじゃないのだろうか? まあ、女の子に心配されるのは素直に嬉しいけど、セラはいつも通りでないと調子が狂うというか……気持ち悪いというか……でもそれを素直に言うと言葉の暴力だけではすまない様な気がするからな。


「悲しむ人って、その中にセラは居るわけ?」


 俺のこの言葉を聞いた瞬間にもの凄い勢いでセラはこちらに振り向いてそしてすぐさま俯いた。それから地面に生えてる草をもの凄い勢いでブチブチ引き抜いている。


「そ、それはまあ他の人達の十分の一位は悲しんでやっても良いわよ。でも、まだまだその位の評価なんだから思い上がらないでよ」


 ブチブチブチブチ……いつの間にかセラの足下には草の山が築かれつつある。俯いてた顔を僅かにあげて目だけを見せて僕を睨んでる。

 なんだかこういう行動するとセラが異常に可愛く見えるな。でも加減が分からないよな。どれだけからかったらセラは怒るんだろうとか。


「はいはい、自覚してるって。それに現実って、ここはLROだぞ。リアルでは出来ない事をやる場所だろ?」

「それはそうだけど、好き勝手やれるのは何度だってやり直しが出来るからよ。それが出来ないあんたが無茶してるのは、リアルで自殺願望持った危ない奴と一緒よ」


 なんとまあ、セラは可愛い格好できつい事を言ってくれる。やっぱりセラはセラだな。しょうがないから俺も周りの草をプチプチ抜いてセラの山に足しながら言葉を紡ぐ。


「う~ん、それって結構酷いこと言ってるぞセラ。まあでも、実際否定は出来ないよな。確かにどっかのマンガの主人公みたいに『死に場所を探してる』って感じかも知れないみたいだし。今の僕はさ。

 でも実際、リアルではこんな事出来ないよ。向こうじゃ武器も無いし……あったとしてもその力が僕には無いだろう。格闘家な訳じゃないしね。

 でもさ、ここではその力があるんだ。そしてそれで救えるかも知れない人が居る。それだけで今の僕には無茶を通す理由に成るよ」


 ブチ……とセラの手が毟った草を握ったまま止まった。だけど直ぐに深いため息が漏れて解放した手からこぼれ落ちた草が風に流される。優しい風は数枚の草を夜の闇に運んでいく。


「なら……好きなだけ無茶すればいいわ。別に止める義理なんて無いし、あんたならやり通せるんじゃない? 死んでも知らないけどね」

「うわヒッデ~なお前」

「バァ~カ」


 なんだかやけに晴れやかな笑顔でバカと言われてしまった。う~ん、よく分からないな。誉めた後にけなしやがって、それじゃどっちをくみ取ればいいのか分からないじゃないか。


「なんだ? セラもスオウもいつのまに仲良く成ったんだよ?」

「うん?」

「あっ」


 不意に聞こえた声に二人して同時に振り返った。そこにはここ数日姿を見せなかった奴がいた。具体的には三日前くらいに情けなく逃げ出した奴な。

 赤い髪に背には槍を挿し、全身をやはり赤で固めた鎧を纏った戦士がそこに立っていた。僕は座ったままだけど、セラは立ち上がってお辞儀をペコリとする。


「アギト様、お帰りなさい」

「うん……まあ、ただいま」


 セラとぎこちなく挨拶を交わしたアギトは僕の方を向いた。


「おせ~よアギト。その図体で悩むなんて馴れないことしてんなよ」


 僕は気さくに親友として親しみ溢れた挨拶を提案してやった。だけどアギトは無表情に歩み寄ってきて、その堅そうな鎧で守られた拳で俺を殴った。


「ブベ! ――って何すんだ!」

「昼間の礼だスオウ。あの時は本当に良くやってくれよな」


 アギトは爽やかに笑顔を見せておかしな事を言っている。良くやったのなら殴られる心当たりがないんだけどな。その笑顔がムカつくから殴り返してやろうか?

 そう思ってるとオモムロニ耳打ちをし出すアギト。こいつの息が耳に当たって気持ち悪い。これなら恐怖もあるが、セラの方がずっとマシだな。


「お前、昼間の二刀流……どういう事だよ? 分かってたのか出来るって?」

「へ? 何の事だよ? 僕はずっとこっちに入ってたぞ」


 たく、何言ってるんだかアギトの奴は。落ち込みすぎて僕の幻覚でも見たんじゃないのか? そこまで親友に頼るなよ。


「ふざけた事抜かすなよ。こっちは気付いてるんだ。お前が色々電話で指示してた事も、あのダークヒーローの中身がお前だって事もな」

「まあまあ、アギト君はこの大変な時にヒーローゴッコにお盛んですか。良いご身分だ事で」


 ブチッ――そんな音が聞こえた気がした。そして顔面数ミリを何かが通り過ぎて後ろで地面が弾ける様な衝撃が背中と耳に直撃した。

 おいおい、あんなの喰らったら僕の装備じゃ大ダメージになってる所だぞ。なんて事を親友にしやがるんだこいつは。一体僕がどれだけ頑張ったと思ってるんだ。


「お~いスオウ。これ以上シラを通すと今のより危ない事するぞ」


 ガシッと頭をしっかりと掴んできたアギト。なんだかミシミシ聞こえるけど、これもダメージに成るのかな。て、言うか今の俺にはそれでも痛いんだけど。

 かなり感覚がリアルのソレと近く成っている……と、言うかほぼ変わらないのかも知れない。それだとこの状況も本当にやばいな。

 でも、久々に調子が戻ってるアギトに素直に屈するのは性にあわない僕である。


「ふん、今のより危険な事だって? そんなの直撃しか無いけどそれは無理だろ。僕が普通のプレイヤーならお前は躊躇無く当てそうだけど、そうじゃないからな。

 幾ら性格が悪くて口だけで頭も悪いからってお前一般的だもんな」

「ブスッとやっちゃいますかアギト様」


 不意に会話に割り込んできたセラが何やら物騒な事を提案してる。その手にはセラの同じみ暗器が握られていた。いつも太股に巻いてるであろうクナイのちっちゃい版みたい奴だ。

 アギトは何か趣向する様に勿体ぶる。でも、首を振ってその案を否定してくれた。まあ当然だな。それは洒落に成らないぞ僕の場合。

 だけど安心した僕の耳に聞き捨て成らない声が聞こえた。


「そんなことより効果的な武器を俺は持ってる」


 そう言って再び俺に近づくアギト。なんだ効果的な武器って? まさかLROにはHPを削らずに痛みだけを与える様な拷問器具が? ……って、んな訳ないか。

 元々、痛みを具体的に表現してる訳じゃないLROで死がない拷問なんて余り意味がない。それこそ効果があるのは僕かセツリ位だろう。

 では一体何だろう? 想像も出来ない。


「言っとくが、これはLROは関係無いぞ」

「何?」


 アギトの発言に更に困惑する。LROに関係無いって、それはどう言うことだよ? リアル方面の事なのか? それだと色々僕の弱みを知ってるだろうけど、今言う意味あるか? てかそれは、ここの中じゃ禁句だろうに。

 まあ、その配慮かアギトは小声で言葉を発する。


「スオウ覚えてるか? 中学の修学旅行の時の事。あの晩語り合った女子の事をさ。お前が日鞠との事をその他大勢に詰め寄られた時に言った言葉をだ」

「は? そんな昔のこ……と」


 んん、待てよ? 中学の修学旅行に確かにそんな事あったな。あの頃もずっと日鞠は僕の世話を焼いてたから、いろんな噂があったんだよな。そしてそれを妬む男子が多数で友達らしい友達が出来なかったんだ。

 でもあの時はヤキモキした男子達が僕達の関係を確かめようと詰め寄って来て……何て言ったんだっけ? 確か


【日鞠とはお前等が思ってる様な関係じゃねーよ。僕達は幼なじみだから……まあそれは、僕にとっては…………】

「うあああああああああああ! それをどうする気だ!」


 思い出した。信じられない恥ずかしい事を僕は言っていた。そうだ、それから何故かそいつ等が僕の背中を叩くという変な現象に繋がって、普通に喋るくらいにまでなっていたんだ。


「思い出したみたいだな」

「ぐっ……どうする気だよそんな昔の事」


 何て爆弾をアギトに握られてたんだ。殴ったんだからそんな記憶無くしとけよと言いたい。僕よりでかいくせに細々とした昔の事を良く覚えてる奴だ。

 僕の目には既にこいつが邪悪な笑みを浮かべてる様に見える。てか浮かべてるな。ニヤニヤとどっかの嫌みなエルフと同じ顔してるぞ。

 そして紡がれた言葉はまあ、ある意味想像通り。


「勿論、日鞠に教えてやる」


 それしかないよな。でも敢えて言おう!


「ふざけんな! その件はお前があの時見つけたレトロゲームで片が付いてるはずだろうが!」

「まあ、あの時はあの時だよな。今のままの態度じゃうっかり日鞠の前で口を滑らせてもおかしくない。はぁ~済まないスオウ。だけどうっかりはしょうがないんだ」


 なんてムカつくうっかりを振りかざすんだコイツ。中学の時だって苦渋の決断だったんだぞ。アギトの口止め料にしてはあれは高かったんだ。

 けど、あの言葉を聞かれるよりはと思って大枚はたいたんのに……おかげで修学旅行を楽しむための小遣いがほぼ消えたんだ。ソレをまた繰り返させようと言うのか!? 

 鬼だコイツは。親友なんて返上しちゃる!


「おいおい、良く考えろ。あの時と違うぞ、俺が要求してるのは」

「は? ああ、二刀流がどうとかだっけ?」


 う~ん実際、あれは秘密としときたい所だけど……こうなったらしょうがない。てか、吐くしかねぇーよ。折角日鞠とも少し関係が変わりつつあるのにあんな言葉は聞かせられない。

 あんな……まるで僕が日鞠を……たた大切に思って……って言えるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 間違いなくこっちの方が優先度が高い。

 それにもう殆ど気づいてるみたいだし、隠す意味も無いのかもだしな。この場合はやっぱり愛の正体……って言うのも変だけど、気付いてるって事だよな?

 愛は直接は言わないって言ってたけど、意図は分かっただろうしその推測には至ると思うんだ。まあ、どっちでも僕には良いこと何だけど。実際愛が何で言いたくなかったのかわからない。

 最初は警戒されるとかいきなり当人同士ってのもどうかがあったと思うけど、最後の方はもう十分だったと思うんだよな。ヒーローショウまでしか知らないけど、最後の方は何か晴れやかな空気が伝わって来てた。

 最後の拳には迷いは無かったしな。ここLROにアギトが来た時点で僕たちの目的は達成された訳だ。そう思おう。


「まあ、実際あんなに動けるとは思わなかったよ」

「じゃあなんであんな事したんだよ。自信があったから挑めたんだろ? お前俺に喧嘩で勝ったことないんだからさ」


 はっきりとイヤな事実を言う奴だ。けどその事実は今日限り使用不可なんだよ。何てったって僕は勝ったからな。せいぜい僕を怒らせないようにすることだなアギト。

 こっちじゃ、ああも簡単には行かないだろうけど、その内こっちでもちゃんとあしらってやるさ。


「別にあの時のお前になら負ける気がしなかった。それだけだ。ヘタレてたからな」

「本当にそれだけか?」

「……ああ、それだけだ。何だよ一体」


 やけに気にするな二刀流の所。自分がヘタレてたのを認めたくないとか、二刀流は卑怯だったとでも言いたいのか? まあそんな表情じゃ無いのは見ればわかるけど・・アギトは真剣に僕の顔を見て居て、そしてため息を付いた。


「はぁ、お前少しはおかしいと思えよな。ゲームが出来たからって造れない様に、LROで出来ることがリアルで出来る何て事も希なんだ」

「ふ~ん、でも結構普通に出来たけどな」


 あのヒーローショウの舞台でやったときは、こっちで戦闘を行う様な感覚にきっと似てた。と、言うか特に違和感がなかった。

 僕は一体何でリアルとLROを隔ててるんだろう。それを考えると少し怖いな。


「それが普通じゃないんだ。お前、やっぱり確実に浸透率ってのはあがってるぞ」


 アギトは僕の肩をつかんで真剣な眼差しでそう言った。これをあそこまでして聞き出したかったのか? それはつまり僕の為……浸透率を実感させたかったって事か。はは、コイツ笑わせる事をしてくれる。


「そんなのお前に言われる間でもなく日々実感してる。それにその程度の事じゃ、後どれくらい持つのか分からないから結局意味ないし」

「それは……そうかもだがな」

「まあ、でも随分余裕じゃんアギト。凹んでた時にそんな考察する何てさ。自分の事だけで今は手一杯だろ? なら自分の範囲だけみとけよ。

 お前の悪い癖はなんでも手広くやろうとする事だ。図体デカくて手足も長いからか知らないけどな、人間大抵一つの事で一杯一杯だろ。

 だから他の事は一番大事なことをやってそれからにしとけよ」


 僕は暑苦しいアギトから離れて立ち上がる。解放されて背筋と腕を夜空に向けて伸ばすと、ポキポキと音がした。う~んこれは他のプレイヤーも鳴る音だよな……と少し不安になる。


「はは、お前も言うように成ったなスオウ。まだまだ初心者の癖してさ」

「うるせーよ。僕が言いたいのはつまりだな。そうそうやられたりしないから気にするなって事だ。それに今はこれがある」


 僕はそう言うと腰に挿してある剣を引き抜き、掲げてクロスさせた。その剣は夜を飾る満点の星空の輝きを集めるかの様にして薄い光を放っている。

 それを見たアギトが静かに息を飲む動作が見て取れる。そして呟いた。


「それが復活したシルフィングか……なんだか凄みがあるな」


 そう言えばアギトはこれが初めてだな、この剣を見るのはさ。あの時はボロボロで何も目に入ってなかった感じだったから、事実上初対面。

 確かにそれには激しく共感する。確かに凄みというか、そういう重圧を感じる剣なんだ。


「ああ、凄い剣だぞ。『セラ・シルフィング』僕の新しい相棒だ」

「セラ・シルフィング……」


 アギトは何気に続けただけかもしれないけど、それだけでこの剣に魅了されてるのを感じる。僕は軽くアギトの前で剣を振るった。二刀だからどうしても体まで続いて、振るうと言うより舞うみたいに成っていただろう。

 剣の薄い青い光が尾を引いていくのが僕には見えていた。少し回転を加えての六連撃。決まった瞬間に風がそこから巻き起こった気がしたけど、多分後ろから吹いただけだろう。


「なんだか随分二刀流も様に成ってきたな。最初は止めといた方が良いって言ってたけど、こうやって見てるとお前の選択は正しかったんだな」


 アギトは軽く拍手をしながらそんな事を言った。そう言えば最初は二刀は無理だって言ってたな。まあ、あの時はただ格好良さそうで余り数が居ないってだけで選んだでただけなんだけどな。

 別に何が何でもって訳じゃ無かった。だけど直ぐにそうも言ってられなくなって……気付いたら僕にはこれしか無かっただけだ。セツリを助けるにはさ。


「ま、様に成っただけだけどな。そういえばお前は良いのかよその槍で? でっかい剣と盾の奴が切り札だろ?」


 そう僕が発するとアギトは「良いんだよ」と言って投げた自身の槍を拾いに下に降りて行く。そして地面に突き刺さったそれを握り引き抜いた。


「こっちが俺の本職だ。あれは借り物の力だからな。お姫様を助けるのそれじゃあ示しが付かないだろ」

「確かにな」


 僕達はフィールドの上と下で視線を交差させてる。それぞれ自分の武器を信じてる目だ。あの時の弱いアギトじゃもうない。

 その時、後ろから複数の足音が更に駆けて来る音が聞こえる。


「揃ったようよ」


 いち早く視線をそちらに向けていたセラが呟いた。そして僕はみんなをアギトから見える位置に横に並んで貰った。その数ざっと二十人。勿論見知った面々ばかりだけどそのコネの人達も何とか集めた。

 まあ僕は人集めには駆り出されなかったけどね。だけど丁度二人は僕の力で確保した。アホにもこの事態のアルテミナスに入ろうとしてた二人「エイル」と「リルレット」だ。

 そして勿論シルクちゃんにテッケンさんに鍛冶屋は定番。


「これが僕らの戦力だ。不満があるなら言ってみろアギト」


 僕の言葉にアギトは目尻に涙を溜ながらも笑みを見せて言葉を紡いだ。それは精一杯の感謝と勇気のお裾分け。


「ない……ある分けない。ありがとうみんな」


 僕らはそれぞれにそんなアギトに声を掛ける。気分は既に最高潮。その時、僕らとアギトの間に何かが落ちてきた。それは一人のプレイヤー、緑の髪に切れ長の耳、そして目が点なエルフ。その名も「ノウイ」

 彼はガバッと顔を上げて叫ぶ。


「動いたっす! やっぱり『ジャハラ平原』の大規模な展開は敵の目を引きつける為の物っす。ガイエン様は親衛隊を連れて『タゼホ』に向かってるっす!」


 全員に緊張が走る。決戦の地は決まった。後はただ駆けつけるだけ。ヒーローの様に颯爽と。

 第六十八話です。

 遂にアルテミナス編クライマックスに入ります。皆さんにハラハラドキドキワクワクを届けられる様に頑張ります! スオウは? アギトは? 望むものを取り戻せられるのか? そしてアルテミナスの存亡は如何に!? って感じで。

 次回は火曜日に更新します。それではまた~。

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