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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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昇天に帰す

挿絵(By みてみん)

(運がよかったっすね……どうかこの運が続いてくれっす)


 城を目指しながら、自分はそんな風に祈るっす。だって自分が弱いのは自分自身が一番良く知ってるっすからね。戦闘はできるだけ避けるっす。勝ち目なんかあり得ない。けど今日は無茶しなきゃいけない日っす。

 ここにこれた大金星……欲を出してるわけじゃないっすけど、大胆な事を言った手前、いつもみたいに逃げるだけじゃダメなんす。

 この戦場にはメインを張れる人達がいっぱいいるっすけど、自分がここにこれたのはこの存在感の無さとかもきっとあるっすよね。


「情けないのか、誇らしいのか……難しいところっすね」


 ポリポリと頭を掻きながら呟いてると城の入り口に来た。妨害とかそんなの一切なかった。後ろを見ても、一緒に上がってきたあの二人が追いかけてくることもなかったっす。これは予想外。もっと必死に止めに掛かってくると思ってたんすけどね。


(自分なんかじゃ何も出来ないと思われてる?)


 その可能性は大いにあるっすね。なんせ自分、そこらのモンスターで手こずる攻撃力しか無いっすからね。あの姉妹にとっては蚊みたいな攻撃力っすよ。刺された事にも気付かないクラスっす。だからこそ……なんすかね?

 自分こんなんっすけど、あんまり舐めないでは欲しいっす。こ、攻撃力だけでその人の価値は決まらないはずっす。そもそもLROは冒険さえも自由であって、生き方は様々だったっすからね。戦闘以外で有名な人なんて幾らでも居たわけっすよ。だから自分も、もう少し期間があれば、鏡のノウイとか格好良い二つ名が手に入ったかもしれないっすよね。

 

「ここで活躍できれば、有名人への一歩になれるっすかね」


 そんな小さな野望を心に芽生えさせつつ、目の前の大きな扉に手を向けるっす。アルテミナス城の扉と並びそうな程大きな扉。自分一人で開けるか不安になりつつ、その扉に手が触れたっす。


「––––っつ!?」


 その瞬間体全体を襲う言い知れない恐怖。これは直感っす。自分の危機察知能力が警報を鳴らしてるっす。しかもいきなり警戒レベルMAX。いや寧ろ振り切れてると言っていいっす。思わずミラージュコロイドを利用して距離を取る。

 数秒程度っすかね。自分は扉を見つめたまま一定の距離を取ってじっとしてたっす。けど何も起こらない。


「どうやら外は見たまんま長閑なんすね。けど中にまで入るようなら……今のがきっと自分を殺しに来る」


 明らかにやばいっす。今のは直感に頼ると「何がなんでも逃げ」っす。自分、かなり無茶しても一人なら生き残る自信が結構ある方っすけど、それは自分の中の明確なラインに忠実からっす。臆病者なんす。

 そしてそのラインを今のは明らかに超えてたっす。自分的にこのラインは普通の人達よりも広くなってるって思ってるっすけど、それでも最終警戒ラインは絶対っす。一歩足を踏み入れただけで自分にさえも確実な死が訪れる––そういうのが最終警戒ラインっす。

 しかも今の死は今までの死とはわけが違うっす。下手すれば自分もニュースになった人達の様に、昏睡状態に……それにここで自分達が負ければ、その人達はもう戻ってこれないかもしれない。そこに自分が入るかもしれないと考えると嫌な汗がいっぱい出てくるっす。


「はは……覚悟……覚悟はして来た筈じゃないっすか。何をビビってるっすかね自分」


 言い聞かせる様にそう呟くっす。確かにある程度覚悟はしてたっす。けど、こんな誰よりも早くその局面が自分に直面するとは正直あまり思ってなかったっす。だって自分はフォロー役っす。戦闘でだって矢面に立たない。

 危なそうな人達を助けて、様々な場面でフォローに徹する事しか自分には出来ないっす。一番の危険と向き合ってる人達が居て、その一歩後ろに自分はいる感じ。そんな筈だったのに、勢いに任せて逃げるからコレっす。

 実際シクラに取り憑かれた時だってそんな色々と考えてた訳じゃないんすよね。無我夢中だったから……上の方に孤立して寝てる奴が居たから、そいつと上手く接触できれば、邪魔も入らずに引き剥がせるかもしれないって安易に思ったんすよ。

 そしたら鐘なるし……花の城にたどり着いてるし……これは自分がやらないと! ってちょっと意気込んだっすけど、臆病な自分は直感を信じて今まで生き残ってきたんでここまで––が、今までの自分の限界の様な気がするっす。


(そうっすよ。自分にコレ以上は無理っす。自分弱いっすし……)


 自分のその言い訳に俯いた。自分は確かに弱さを自覚してるっす。けど今の弱いはただの言い訳。そもそも腕力だけじゃなくても渡り合えるって、そういう強さを自分は示したかったはずなんす。スオウくんなら、自分がここで立ち止まってても何とかするかもしれないっす。

 だけどそれじゃあ、やっぱり自分は弱いってことっす。それは腕力の問題じゃない。置いてかれたくはないっす。セラ様はこんな自分が必要だって言ってくれたんす! 


「行くっすよ……行ってやるっす」


 扉の前に再び立つっす。この段階では何もプレッシャーはないっす。けど……手を扉に付いた瞬間それは襲ってくるっす。体を縛り付けるほどに凶悪なプレッシャー。でも自分はヤケクソっす。目を閉じて一気に扉を押すっす。


「うわっす!?」


 すると不思議な事に自分、扉すり抜けたっす。まさかこの局面で新たなスキルが!? とか思ったっすけど、んな訳ないっすね。中は真っ暗。それは異常な程の闇っす。普通に窓とかから光が入ってくるものっすよね。


(よく考えたらこれってめっちゃヤバイっすね)


 扉を開けなかったって事は……自由な出入りが出来るのか不明っす。もしも出来たとしても、この闇じゃ、一度この場所から離れたら二度と同じ場所に戻ってこれないかもしれないっす。


「はは……なんてことっすか」


 声が震えてるのが分かるっす。自分の様な情報集める役割の奴は、捕まらずに帰るのも任務の内。情報は鮮度が命っすからね。敵の手の内に入ると、それはそれは不味いっす。けどもうこれは後悔してもおそいっすね。

 こうなったらどうすることが皆の為か……そして生きて帰るにはどうすべきか考えるしかないっす。生きて帰る事が難しいのなら、もう本当にこの命全部使って……


「追い詰められるとこんな自分でもかっこつけようってちょっとは思えるっすね」


 そんな事を思って心を折れないよう保ってると、何かが引きづられる様な音が聞こえてくる。それは明確に自分の中の恐怖を掻き立てるっす。頭の中に嫌な妄想が……鎌を引きずった死神の図が思い浮かぶっす。


(そんなわけないっす! そんな訳……よく聞くっす)


 恐怖を押しのけて音に集中。距離を伺って、反響音でどれだけの広さなのかも推測するっす。するといきなり音が消えた? 自分は直感でその場から離れるっす。何が起きたかわからない。けど次の瞬間、より大きくエグイ音が聞こえたっす。

 やっぱり死神かもしれないっすね。常に扉に添えてた手が所在なさげに漂うっす。もうあの扉の位置は分からない。自分は覚悟を決める様にその手に拳を作る。


(行くっす。こうなったら行くっすよ!!)




 後ろから迫るワイバーン三体。聖典に乗ってる僕に向かって首を伸ばしてくるけど、それを聖典の奴は上手く交わしてくれる。


「一体どこから見えてるんだ?」


 そう思わずには居られない回避精度。僕は乗ってるだけで何も操縦的な事はやってないからな。こうやってその場で操作してるのなら分かるんだけど、離れた場所からよくやれる。流石は真のマルチタスク使い。

 アイツの頭の構造はおかしい。そう胸を張って言える。だって二十機もの聖典、その全てを操ってるんだ。なんでこんな正確にかわせるんだよ。一体セラの頭にはどう見えてるのか……自分では二つの事を同時に考えるので精一杯だった。三つ・四つになると、ごちゃごちゃだ。それを二十……ちょっと想像できない。


「それにしてもしつこいな」


 ワイバーンの奴はその口からヨダレを飛ばしながら細長い首を何度も何度も……いい加減当たらないと悟れよ。まあそんな頭ないだろうけどさ。雑魚はほぼ無限大なのが問題だな。ちりも積もれば山となる––雑魚の相手に気を取られてばかりじゃ、規格外の奴等に対応できなくなる。けど、雑魚だからって放っておくことも出来ないんだ。

 そんな事を思ってると、どこからかブンブンと荒っぽい音が聞こえてくる。前を見ると、何かが向かってきてるよう––––な!? 僕は咄嗟に勢い良く聖典を蹴って上に跳ぶ。かなり乱暴に蹴ったから聖典もそれなりに下に落ちた。けどそれでいい。

 僕と聖典が居た場所を思いっきり通ってその何かはワイバーンを細切れにしやがった。おい、一歩間違えば僕がああ成ってたよな? 一回転して再び聖典に乗る。ワイバーンを細切れにした武器の軌道を追うと、それは僕を追い抜いて持ち主の手に戻っていく。


「がっははははは、良く避けた! まああのくらい当然だがな」


 そう言うアイツはあれか? 確か人の国のバランス崩し保持者のおっさんか。相変わらず暑苦しいな。まあ一番トップって感じである気がするけど。アイリはまあ、まだ上品さを感じるから上に立つ者って気がするけど、ローレは見た目アレだからな。

 けどそれを言うならモブリは全員不的確になるか。元からちっちゃくてマスコットみたいなんだしな。威厳と言うものは中々ね。その点、この人は見た目的には一番相応しいよ。僕は聖典に乗ったまま、その人の近くによった。


「これから皆さんに陣を渡します。それがあれば戦いやすくは成るはずです」

「そうか、ありがたい。すまんのう、たった三十人ぽっちしか連れてこれんで」

「充分多いと思いますけどね。命を賭けてるんです。それでこんなに付いてきてくれる人が居るって事は凄いですよ」

「ははっ! 世辞など入らんわ。俺はホントはもっと誰もがこの世界に賭けてるものだと思ってたんだがな」

「え?」


 どういう事なんだろうか? よくわからないな。賭けてるって一体何をだ? 前々から皆がこの世界に何かを掛けてたと? そういう思いがあった筈って事だろうか。確かにこのLROはかけがえの無い物だとは思う。

 唯一無二のもう一つの世界。それはきっと無くしては成らないものだろう。だけど絶対に無くなってはならないものではない。大多数の人は無くしたくはないとは思ってても、命をとしてまでは自分からは動けないそんな感じだろう。


「まあそこは人それぞれだ。俺はそこまで強制は出来ない。確かにこれだけ付いてきてくれただけでありがたいな」

「うんうん、助かるよホント」

「貴様の為じゃないがな」


 何お前等、誰もが口裏でも合わせてるのか? 揃いも揃って「貴様の為じゃない」とか……ちょっとは素直に成ってくれてもいいんだよ。いや、恩を売られるよりはいいけどさ。それともあれかな? これ以上余計なプレッシャー掛けない様にとか? いや––


「あのローレがアレだけの力を隠し持ってた。それに奴のバランス崩しは土地に依存しない事も判明した。奴だけに活躍させることはバランス的に良くないからな。我等もこの世界に有りと思わせなければ」


 ––やっぱそういうことかよ。そういえば前はバランス崩しは土地依存が常識的だったからな。ローレの奴が前にこの人達を集めた中立の街だってバランス崩しを使えないようにする配慮だったような……あの時点で嘘ついてた訳だよな。流石ローレしたたかな奴だ。まあけどあの時も召喚自体は使ってたような。

 でもアレも制限付きを装ってた。あの野郎……けどあの時出されてたら大変だったな。


「今後この世界がどうなるかはわからんがな」

「救うさ。必ず。来てくれた人達の思いは無駄にしない」


 その形がどうなるかは実際分からないけど、ギリギリを繋いで行っても最後に笑えれば大正義だろ。皆が……誰かが……切れかける糸を繋いでくれる。それはきっと、今までLROが育んできたものなんだと思う。


「取り敢えず受け取ってくれ」


 僕はそう言って指をパチンと弾く。すると現れた陣が人々に宿ってくよ。これでもう少しやれるはず。


「何か変わったか? 何も感じないがな!!」


 そう言ってモンスター共をぶっ飛ばしてくおっさん。いやいや、あんた元から豪快すぎんだよ。繊細な違いなんて絶対にわからなそうだもん。あれ? そういえば……


「王子様居なくね?」


 確かスッゲエ格好良い側近がいたよな? 一番繋がりが強いんじゃ……でもそっか、LROでの関係はリアルには持ち越さないものだよな。それこそリアルの知り合いでも無くちゃ……


「アイツには外せない用があるんだ。言っただろ、強制は出来ない。居ないのは痛いが、その分他の者が頑張ってくれて––」

「「「うわあああああああああ!!」」」


 吹き飛ぶ黒甲冑に包まれた軍の面々。その中心にはソレをなしたであろう奴が君臨してた。炎を纏った様なその姿と、刀身が消え去った刀の持ち主。


「蘭か!」

「この状況で死にに来るとはな! 人の行動と言うものは理解し難い物がある。だがそんなに死にたいのであれば殺してやろう」


 怯んだ軍に睨みを効かせる蘭。だけどそこでその場の意識を全部かっさらうかのような一歩を踏み出した者が居た。


「はっはああああ! ようやく来たな!!」

(なんで嬉しそうなんだよ)


 おっさんはその手の武器を嬉々として振り上げてる。そしてその筋骨隆々した腕に力を込めて思いっきり振りかぶった。


「ふん」

「んな!?」


 けどその勢いは一瞬で止められた。蘭の奴の四本分位ありそうな腕してるくせにオッサンのその馬鹿でかい剣は片手で止められた。


「これが王の器とは笑わせる」

「ぐっつぁ!?」


 オッサンの片腕が吹っ飛ぶ。そして更に上から落ちる影。上を仰ぐとそこには悪魔の姿が……この状況で更に来るのかよ。


「取り敢えず貴様のバランス崩しは破壊する。勿論貴様事だがな!」


 メイスが落ちてきて更に蘭の炎がたぎる。軍は一斉にオッサンを庇うために蘭に向かうけど、その選択はどうだろうか? こいつら悪魔の事見えてなくないか? 聖典は距離を取り出してしまう。確かに僕じゃこの攻撃をどうしようもないし、聖典一機でも何も出来ないけど、僕だけ回避するのはどうなんだ?

 セラ・シルフィングさえあれば、自分一人でもこの悪魔の相手を出来るのに……そう思ってると魔法陣の輝きが見えた。


「ええ〜〜いグラントロン!!」


 声と共に放たれた魔法は悪魔の足場の地面を柔くしたのか、片足がズブズブと沈んでいってる。そこに更にもう一人が飛び出す。


「てえええええええええいスレードダンス!!」


 怒涛の七連撃を叩き込むその姿には見覚えがある。あれは……リルレットか? 最初はこの悪魔にビビりまくってたのに、たった一人でも突っ込める程になったんだ。流石に倒す––なんて無謀過ぎる事は思ってないだろうけど、リルレットが居るって事はさっきの魔法は多分エイルの奴で、二人合わせた力であのデカイ悪魔をよろめかせてる。

 取り敢えずこれで軍は蘭に集中出来––


「雪? にしてはキラキラしてるような」


 空から降ってくるそれは雪というよりも氷の破片の様な……悪魔の奴が大きく映ってたけど、その向こうに目を向けると空に氷がパイプの様に広がってる。けどあれは元は氷じゃなく……もっとよく見るとその氷の中にはウンディーネの人達の姿が見える。

 やっぱりあれはウンディーネの人達が進行する為に利用してた水の道。それを凍らされたんだ。そしてそれをやったのは多分柊。蘭の奴の熱気がこっちまで……やっぱりこうやって見るとどこもかしこも劣勢だ。


「無闇に突っ込むな! 俺は無事だ。冷静に対処するんだ!」


 オッサンのそんな怒号が飛ぶ。だけどここから立て直すにはヒーラーが足りないぞ。今ので大半の連中のHPがヤバイ水準に落ちてる。皆回復薬とかはどうなんだろうか? この戦闘の為にわざわざ買い揃えるなんて事は出来ないはずだから、多分最後に入ってた時のままだろう。

 そうなると誰もが豊富に持ってるって事は無さそうだ。だからこそヒーラーが重要になる。けど明らかに軍のヒーラーは一人・二人位、キャパオーバーしてるのは一目で分かる。そしてそれは他も一緒だろう。

 ヒーラーは戦闘員に比べて数が少ないんだから、自然とここに揃う数だって少ないのは当たり前。だけどそんな数少ないヒーラーこそがこんな大規模戦闘には必要不可欠。しかも復活があり得ない戦闘なら尚更だ。彼等の存在は鍵に成るとも言える。それほど重要だ。


「こうなったら僕の回復薬を……どうせ自分には使えないんだしな」

『それはどうでしょうね。でも結局上手く行きそうもないしそうするしか無いですかね。問題なんてないとおもうんですけど』

「僕だってこのコードで問題無いと思うけど、LROは騙されてくれない。こうなったらいつまでも使えない奴が持ってるよりも今必要としてる奴に使うほうがいいだろ」


 苦十の奴の言葉に反論して僕はアイテム覧から回復薬を出来るだけ取り出す。苦十と僕に存在を分けて自分自身を回復できるようにする企みは目が出ない以上仕方ない。後生大事に持ってたって周りの人達が消えたら結局危なくなるのは自分も一緒だ。

 自分に使えないのなら皆の為に使ったほうが良いに決まってる。僕はセラに頼んで聖典を近づけてもらう。


「おい、皆コレを––」

「馬鹿か貴様! 近づくな!!」


 響く激昂と共に凄まじい熱気が襲ってくる。蘭の奴の武器が激ってやがる。


「良い位置に居るな。二人まとめて砕ける位置だ!!」


 オッサンは片手のままで武器にスキルの光を宿す。迎え撃つ気か!? でも確かに蘭の天叢雲剣には逃げるなんて事は通用しない。それなら迎え撃つしか無いけど、通常の武器やスキルで対抗できる代物じゃない。

 だけどその時地面が盛り上がりそこからでっかいアルマジロっぽい奴が蘭を空へ吹き飛ばした。


「ノームか!」

『逃しはせぬぞ!!』

「逃げたなんて心外だな。ただ貴様程度では物足りなく成っただけだ。それに貴様の様な精霊は術者を倒さぬ限り意味もなし。つまらんからな」

『それを逃げと言うのじゃよ!!』

「なら存在が消滅するまで切り刻んでやろうか!!」


 そう叫ぶ蘭の周囲が揺らめいて見える。それはまるで夏の熱せられた地面の表面に出来る周囲の歪んで見える空間。陽炎ってやつだろう。それだけアイツの周りが熱くなってるんだ。けどそんな蘭に一撃を与える存在が空から飛来した。

 黒い闇を背負うこの世界の神。テトラの奴が蘭の奴を吹き飛ばした。


『ふはは、流石はテトラ––ぬおおおおおおお!?』

「あははっは! 蘭姉だけと遊んでないで僕も混ぜてよね!!」


 ヒマワリの奴がノームを担ぎあげてそのまま後ろに投げ落とす。プロレスでもしてるのかこいつは!! 


「そのまま抑えておいてねヒマ。これ、叩き込むから」


 そう呟く柊の奴は凍らせたウンディーネ達の入った氷を掲げてた。なんて無慈悲な事を……HPは辛うじて残ってるのに、ここに叩きこまれたら、その存在は粉々に砕け散るだろう。それは不味い。それにテトラの奴もいつの間にか氷に縛られてる。

 周囲の空間を柊の奴は支配してるようだ。


「どんとこーーーーーいヒイちゃん!!」

『やらせわせんわ!!』


 荒々しい炎の柱が天を突いた。その熱気で氷が溶け出す。あれはイフリート。氷にはやっぱり炎って事なんだろう。氷から開放されたウンディーネ達の為にリヴァイアサンがその存在で受け止めてる。リヴァイアサン自体が水っぽいからその水に入れてるようだ。

 そしてヒマワリに向かってきたのはリルフィン。いや、今はフィンリルと呼んだほうがいいのかも知れない。立ち上がり掛けてた悪魔を咆哮で縛り、その軽やかな四肢でヒマワリに駆け寄ったフィンリルはヒマワリを牙で挟んで投げ捨てる。

 すると空中で待ってたイフリートが更にヒマワリを蹴飛ばして柊の元へ飛ばす。そこへリヴァイアサンが為にためてた高密度の水をレーザーの如く放つ。イフリートの炎にさらされても周囲の水飛沫を凍らせるのは流石だ。けどそこまで、中心部分までは至らない。だけどそこで誰の耳にも届く澄んだ一つの音がカン! と鳴った。その瞬間、水が一瞬で水蒸気へと変わり果てる。


「もう〜幾ら私がドン臭いからって一番上のお姉ちゃんを置いてっちゃ駄目なんだよ〜」


 百合……今のはやっぱり時間操作でリヴァイアサンの攻撃自体を無効化したのか? 大局を操るほどの時魔法は封じたけど、限定的な部分はまだまだアイツなら使えるんだろう。


「まあだけど〜出来たお姉さんの私は、最後はちゃんと妹に譲ってあげるんだけどね〜。ね〜シクラちゃん」

「ふふ、全ての前座ご苦労様☆ 残りは私が一掃してあげよう」


 上空に君臨してるシクラの背には描かれた様な翼が広がってる。アイツもコードリリースを既にやってる。しかもいつの間にか戦局がこの場に集中してる。アイツ……大規模な攻撃で僕達を丸ごと消す気じゃないのか!?


「我が侵略をここに完遂せし終焉の力の創造をはかる。統合一に括りし創造万生のシステム権限にアクセス––」

「不味い……いや、あれは不味いってレベルじゃな––」

「天の恵みに地の創造、協奏の宴はただ一つの光郷によって静まり返る。世界を司る我が下僕達よ、その身その心に培いし柱を捧げよ––」


 シクラが空を暗くする中、ローレの奴が大地に輝きをもたらす。二人共一歩も引く気配はない。世界を破壊しかねない程の大規模攻撃の真っ向勝負。


「––発動アブリス・ゼノ・グラウデス!!」

「––煌天サザーランド・エン・ルリシア!!」


 第六百六十七話です。

 今回はちょっと絵が間に合わなかったです。レシアを予定してたんですけどね。残念。まあ後から居れる事も出来ますけど、どうしようかと……次に載せるか、コレに載せるか……取り敢えず、完成してから考えます。


 次回は水曜日にあげますね。ではでは。

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