繋がる世界
「ピクの成長プログラム開放。コーラリウスドラゴンの破壊されたコードを収集」
「ピクと言う存在をベースに、コーラリウスドラゴンの力を融合するために両コードを解析。コーラリウスドラゴンの存在を分解」
その瞬間、僕達を中心にコーラリウスドラゴンという存在のコードが円周上に広がる。それはとても綺麗な光景。
「不要部分を排除、必須コードをピクベースに書き換え。コード番号初期を結合」
周りを回る白いコードがピクの桜色に変わりつつ、一つ一つピクの体に入ってく。その度にピクは一つ鳴き、そして輝きを増す。
「融合コードのコンフリクト確認。0.3%未満で次、中期コードの融合」
更にピクへと加わるコード。既に輝きが強すぎてその姿を視認する事はできない。ピクと言う存在自体がどうなるのか……どんな副作用があるのか……正直計り知れない。けどもう止める事は出来ない。信じるしか無い。
自分と、そしてピクを。
「終期コードの融合を開始。新生の証明を世界へ。五……十……二十……四十……七十……九十……転生––」
今なお降り注ぐ氷の雨。それに向けて光の中から飛び出した炎と冷気の混ざった攻撃。一気に空の氷を吹き飛ばす。そして徐々に納まる光の中から、その姿は現される。まず飛び出すのはその体を宙へ浮かすための大きな翼。しなやかで居て力強く、見るものに神々しささえ与える二本の翼。尻から伸びる尾は長くたくましくなり、それだけで武器になり得る。体の色はピクの桜色をベースにコーラリウスドラゴンの白銀の線が二本。
その線を辿って行くと、今までの可愛らしい顔とは違う、ドラゴンの威厳と風格を持ち合わせた額の先に逞しい二本の白銀の角が生えている。一羽ばたきの度に放たれる風は春の風の様に優しく、だけどその口から放たれる攻撃はドラゴンを冠する威力を持ち合わせてる。
僕が与えるのはおこがましいんだろうけど……今ここで登録はしとかないとだから紡ごう。新たな名を。
「『ピースクリフトドラゴン』」
その名を気に入ったのかどうかは分からないけど、ピクは一声鳴いた。それは今までの可愛らしい物じゃない。だけどさっきまでのコーラリウスドラゴン程低くもない声。ちゃんと僕の事を認識出来てる……そう思ったけど、直ぐに様子がおかしくなった。具体的には目を瞬かせて頭をグワングワンと振ってる。目の色が通常は綺麗な青い色なんだけど……チカチカと赤く変わりかけてる様な……やっぱり多少強引な部分があったからだろう。
もしかしたらこのまま、ピクはモンスター化してしまうかも。でもそんな事になったら僕はシルクちゃんに合わせる顔が無い。
「おいピク! しっかりしろ!! 自分を保つんだ!!」
僕の声が聞こえてるのかそうじゃないのか分からない。するとピクは大きくを羽を羽ばたかせて闇雲に飛び出した。すると近くの時計塔みたいなのにぶつかってそれを崩壊させる。どうやら前さえ見えてないようだ。
僕は必死にピクの背中にしがみつく。コーラリウスドラゴンよりもよっぽど乗りやすいけど、体を常に動かしてる変な飛び方をしてるから、しがみついてないと振り落とされてしまう。
「呆れた。まさかコーラリウスドラゴンをあのちっさいのに組み込むなんて。だけど上手く行ってないようね。苦しそう……私が楽にしてあげる。二人一緒にね」
そう言って後ろから追いすがってきた柊。だけど、その存在に気付いた瞬間、ピクの奴が吠え出した。そして急に反転して柊に向かってその凶悪になった牙を突き立て始めた。
「ちょっ!? なによ急に!!」
ガキンガキン! と何度も響く牙の絡みあう音。その音にちょっと寒気を感じるけど、確かにいきなりどうしたんだ? まるで柊に恨みでもあるかのよう……いや、あるのか。コード化してピクに組み込まれたコーラリウスドラゴンだけど、その最後の思念みたいなそんなのが今のピクを突き動かしてるのかもしれない。
つまりは柊に恨みを晴らしたい……みたいなそんな感情が、ピクの奴にもどこから湧き上がってるのか分からないんだろうけど確かにあって、ソレに体が反応してるのかも。
「くっ……うざったのは嫌いよ!!」
そう言って柊の奴は二本の天扇を広げて、こちらに向かって振るった。すると二つの天扇が起こした冷風がぶつかり合って大きなトルネードと化す。それはピクにぶつかってきてその体を激しく切り刻んでいく。背中にしがみついてる僕も大惨事だよ。
だけどピクの目の怒りは消えては居ない。寧ろ輝きを増してピクは空に向かって吠えた。すると暗雲立ち込める空から喉を鳴らすような不気味な音と共にカッと輝く光が光ったと思ったら、体中に走る熱く痛く痺れる感覚。
何がどうなってるんだ? とか思ってるとピクの奴がトルネードをかき消して、落ちた雷の力を全体で輝かせてるようだった。そして一際強く光る二本の角。大きく口を空けたピクの口内で同じように輝きが集い、そして開放された瞬間、凄まじい音と衝撃に自分の存在が消えたのかと本気で思った。
「うっ……」
大丈夫……なんとかまだ生きてる。ピクのさっきまでの輝きは無くなってる。どうやら今の雷のエネルギー全部を使って攻撃してるみたいだな。前方に目を向けると凄まじい攻撃は続いてた。空の暗雲を一部追い払う程の高密度の超砲撃。きっと地面に向けてたらここら一体吹き飛んでたかもと思える程の物だ。
だけどそんな中で氷塊が見える。不自然なそれは多分、柊の奴が咄嗟に出した防御壁なんだろう。これだけの攻撃を耐え切るつもりか……いや、あいつらならソレも可能なんだろう。けど、そうは問屋が卸さないぞ!!
僕はピクにアビスのペンを突き立ててこう叫ぶ。
「受け取れピク! これでアイツを吹きとばせ!!」
流し込んだのは僕達が作り上げた陣だ。ピクの奴には渡してなかったからな。だからこれで! ピクの攻撃に組み込まれる僕達の陣。その瞬間、氷に亀裂が入る。行ける! 奴等を攻略する為の陣だ。その有効性は証明されてる。
「行けええええええ!!」
そんな叫びと呼吸を合わせるかのように更にもう一踏ん張りして攻撃を増したピク。次の瞬間、氷は砕け、柊の奴が完全にピクの攻撃に飲まれていった。
「勝った……のか?」
空に柊の姿は見えない。消滅……したのか? だけどそれはちょっと考えられない様な……油断してると実はピンピンしてた––なんて事はよくあるからな。特にあの姉妹に油断は禁物。チートをある程度防いで攻撃を通るようにしたけど、彼奴等HPだっておかしいからな。
けど今の攻撃ならもしかしたら……そんな思いが沸き立つ。するといきなりガクっと高度が下がっていく。どうやらさっきの一撃にかなりの力を使ったようだ。
「ピク!」
そんな声に反応してくれたのか、なんとか羽を動かすピク。目の色が青に戻ってる? 強力な攻撃を放って発散させたのが良かったのかな? すると突如下から叫ぶ声が聞こえてきた。
「よくもよくもよくもおおおおおおおおおおおおおおおお!! ヒイちゃんの仇!!」
飛び上がってきたのは泣き顔の柊。その両手はかなり武装が進んでる。こいつの力は自分が壊したどんな物でも取り込んで武装に出来る。そしてそれを身に纏う度に攻撃力も防御力も増していく、調子づかせると一番手に負えないタイプ。
あの拳なら今のピクさえも殴り殺す事が出来るのかも……不味いぞ。だけどその時下から白いトゲ付きの武器がヒマワリ目掛けて向かってきた。けどそれを片手間で弾くヒマワリ。あれはリルフィンの武器……それは弾かれて壊れたと思いきや、細い糸に分解されて行き、ヒマワリの体を縛った。
「取り込めないって何これ!!」
「うおおおおおおおおおおおら!!」
巻きつかれたヒマワリの体にぶつかって行く黒い光球。これはテトラの攻撃の筈。視線を光球が来た方に向けると、そこには中々に激戦を繰り広げた様なテトラの姿があった。普段は澄ましてる奴だけど、流石にあの姉妹相手にはそれは無理だよな。
てか、圧倒的な実力差がある相手は汚れなんか付けずに澄ましてるのがトレンドなのか……テトラの奴もだけど、蘭も柊もシクラの奴もそんな感じだからな。ヒマワリはバカだからそんな感じはない。煙の中からジタバタ元気に落ちていくヒマワリ。
するとそのヒマワリを優しく抱きとめる百合。今、アイツどこから現れやがった? 時間操作された? けど、時間操作は僕には効かない筈。だけど待てよ。時間操作だけがアイツの力とは限らない……か。奴等に何が出来ようと今更だからな。
「妹の仇は私が取る!」
そんな声が聞こえると同時に眩しい光が天を突く。空中に仁王立ちする蘭の奴が天叢雲剣を掲げてる。やる気満々……そんな感じで今にも振り下ろそうとした時、その背後から迫る物が僕には見えてた。
それは煙を噴いて、右に左によれてるけど、なんとか進路を保って蘭の奴に突っ込んだ。
「んな!?」
そんな声が聞こえたけど、その時には蘭を巻き込んでグリンフィードは地面を目指す。するとようやく御札から声が聞こえてきた。
『やりなさい。こいつらの邪魔が入らない内に』
『そうよ。早く扉を開けて。流れはこっちにあるわ! その内に!』
そしてテトラとリルフィンの奴も––
「行けスオウ!!」
「こっちが引き受けてやるんだ。さっさと仲間を呼び込め!!」
すると、周囲の人々も対抗出来てる自信と、敵の一人を倒せた光景のおかげか、様々な声が上がってくる。端的に言うと、今まで一番盛り上がってる。
「ピク……やるぞ。お前の大好きな御主人様も呼んでやるから、機嫌直せよ」
理解してるかどうか分からないけど、僕はそんな事を言ってみる。すると案外素直にピクは羽を広げて優しく高度をあげる。暴走が収まった? あれかな? 今の一撃で発散できてのかも知れない。
でも安定してるのかはわからないからな。ハッキリ言えば、まだ完璧にピクの強制進化は完了してないのも原因だ。シルクちゃん……主人である彼女が受け入れられる事が大切。
皆の声援を背にし、僕は手を掲げた。
「掴むは風、そして共鳴せしは神の力」
両手からそれぞれ黒い陣と白い陣が現れて、その更に向こうに僕が作り上げた魔境強啓零が組み込まれた陣が現れる。空に流れる風には沢山の情報が含まれてて、流れいずる風立ちに神の力を–––意思を伝えて世界へ流す。
トントンと……そう叩いて駄目だったから、礼儀作法なんて無視して開く。LRO内装への扉。そして外側の開いてる筈の扉の条件を書き換えるんだ。シクラの奴が設定した無駄に高い浸透率。それが弊害となって僕以外の皆はLROに入れなかった。だからそれを通常値に戻す。それが僕が内側からやるべきこと。
法の書に、ラプラス。それにアビスのペンに苦十にインテグの情報。辿り着いた魔境強啓零に、人間再生を果たしたテトラとクリエの神の力。条件は全て揃ってる。いや、最初に必要だと思った物以上の物が集まってると言っていい。
失敗なんてあるわけない。
【苦十!】
【ようやくですね。陣の展開式を伝えます。あの姉妹が握ってるシステム中枢をウイルスで一時こっちに引っこ抜くことが出来るはずです。書き換えたら後は例の方法で奴等でも干渉出来ない奴に押し付けてくださいな】
【押し付けるって……まあそうするしかないんだけど––な!】
左手を横に振ると、僕の数倍、いや、数十倍の陣を作る。そして右も同様だ。更にそこに小さな陣を汲んでそれらで僕は周囲をうめつくす。大きな陣も小さな陣も、歯車の様に噛み合って淀みなく回る。
「世界への干渉を開始する」
僕のその言葉にアビスのペンが反応して「コンタクト・オン」の文字を刻む。
「奴等の作った綻びから内装へ侵入。法の番、三十から百番代を停止。続けて––」
紡いで行く言葉に合わせてアビスのペンが自動書記していく。そしてそれは紡いだ側から消えていき、陣が大きな音を立てて、回転を変えていく。
「崇拝の瞳を再稼働……淀った流れを清浄に。干渉壁を突破、更に奥へ進行」
額に汗が滲むのが分かる。いや、これは汗なのかどうか……もしかした頭から血を流しててもあんまり驚かないな。いつだって頭を駆使し過ぎると鼻血とか血の涙とか流して来たし、穴という穴から血が流れるのなら、毛根とかとからだって……ね。
流石にあり得ないと思うけど、多分鼻血や血涙はしてるかも知れない。不思議な感覚だ。今までのはその情報量の多さに、頭が常にパンクしそうに成ってたんだけど、今はそうでもない。必要な物とそうでないもの……それが瞬時にわかる気がする。
大量の情報の中でも、歩むべき道筋が僕には見える。だから迷いなど無く、言葉は続く。
「システム深度レベル5へ到達。第一項三節、法廷執行。見つけた。ウイルスを拡散。錬金の枷を植えこむ。姿を現せ、向こうへの扉よ」
目を開くと、いつの間にか晴れた空に、いつか見た大きな大きな鍵穴が口を大きく開けていた。そう開いてるんだ。
【スオウ、奴等の支配がなくなりますよ】
苦十のその言葉の通り、色褪せて、錆びついてた様に見えるそれの色が徐々に光沢を帯びて、錆がなくなっていく。それはシクラ達の支配が消え去る演出だろう。綺麗になった錠の内部……いや、向こう側から様々な声が聴こえる気がする。
それは秋徒達のようでもあるし、ソレ以外の人達の声かも知れない。それはそうだろう。この錠の向こうは、何百というリーフィアに繋がってるんだ。
「最後の仕上げだ!」
「行けええええええええええスオウウウウウウウウウウ!」
クリエの奴の精一杯の声が聞こえた。僕は口元を綻ばせながら、両手でジェスチャーコードを紡ぐ。【約束】のジェスチャーコード。既に開いてるけど、ジェスチャーコードは多分、マザーへの直通切符だ。だからそれを組み込んで僕は展開してた陣を右腕に集めて、錠の中に向かって伸ばす。
「浸透率八十に再設定!!」
手から離れた陣が全て、錠の中に組み込まれてく。すると開いた錠の向こうから声が聞こえてきた。声と言うか、悲鳴と言うか……
「うわあああああああああああああああ!」
「きゃああああああああああああああ!!」
ってな声が重なって聞こえる。そしてそれは錠の向こうから現れるのは赤い髪に立派な鎧を纏、槍を担ぐエルフのアギト。それに続いてアイリ、後の三人はよくわからん。多分メカブやラオウさんや天道さんなんだろう。なんか三人共––
「うお!?」
いきなり激しく動き出すピクの奴。なんだ? 落ちてきてるアギト達を餌と勘違いしちゃったとかか? だけどよく見ると、ピクの奴はアギト達に視線を向けてない様子。ただ真っ直ぐに錠を見て進んでく。
するともう二人、現れた。それはちっこいモブリと、もう一人は、白い肩までの髪に、ゆったりとしたローブと透明な羽衣を纏う、シルクちゃんだ。そう、どうやらピクはその存在に感づいていたらしい。
小さい頃と同じようにピクーと鳴くその声は今では迫力満点。けど、シルクちゃんは物怖じ一つせず、笑みを見せ大きく腕を広げて、変わり果てたピクを受け止める。
「ただいま。一人にしてごめんねピク」
その瞬間、ピクの体は輝きを増して、もう一段階、その姿を変える。
第六百五十五話です。
今回は間に合いましたね。うんうん、いい感じです。ようやくアギト達も戦闘に参加できるし、これからですね。
てな訳で次回は日曜日にあげますね。ではでは。