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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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ヒーローの空の下

 俺はデパートの屋上で開かれるヒーローショウへ強引に出演させられて今、その舞台に立っていた。飛び交うちびっ子達の声援……夏の突き刺すような日差し……俺は機能性が抜群に悪いヒーロースーツに身を包んでるから蒸し風呂状態。

 直ぐにでも帰りたい心境だった。けれど既にショウは始まり、つまりは賽は投げられた状態だ。俺は仕方なくこのショウを一刻も早く終わらせる方針で行く事にした。

 サンサンと降り注ぐ太陽光が殺人的に俺を射している。先の喫茶店より太陽が近くて外と言う事もあってかなり暑い。てか格好が格好なだけに、今にも脱水症状に成りそうだ。ムンムンしてる。

 そして俺の前方からは子供のうるさい声やらなんやらが飛んでいる。こんな暑いのにさ。子供は本当に元気だな。俺は結局、日鞠が言ったデパートの屋上のヒーローショウに出張って来てた。

 あの喫茶店からおっさんに強引に連れてこられたも同然なこの状況。俺は実際、スッゲー帰りたい。自分が何でここに居るのかも分からなねぇよ。

 そしてどうして赤いヒーローの格好してるんだ? あのおっさんに騙された! いや、最初から「ヒーローに成れるよ!」とか言ってたな。

 俺は肩を落として大きくため息を付いた。すると後ろからバシっと背中を叩かれた。


「こら、ヒーローが子供達の前でため息しない」


 それは愛だった。愛は服装変わってないんだよな。愛も出るんだけど、愛の役は悪の組織に襲われる一般人だからこのままで良いらしい。一応ヒロイン。

 そして言っちゃうとショウはもう始まってる訳だけどさ……既に俺は疑問を呈したい。


「なんでしょっぱなからヒーローの姿で出なきゃいけないんだよ」

「え? そういうものじゃないの?」


 何も知らない愛は疑問感じないらしいけど、普段からこんな格好してるヒーローはいないだろう。普通派手な演出の後に変身して今の格好に成るはずだ。それが普通。

 なのにこのヒーローと来たら最初から変身後の格好してるんだ。どう考えてもおかしいって。


「う~んでもそういう設定って言ってたよね? それにみんな最初からヒーローが居て喜んでるよ」

「きっと最後に盛り上がりに欠けるだろうな」


 だって最初からヒーローの登場を素っ気なくやってるんだからな。後はせいぜい敵を倒す所ぐらいだ。まあ二十分位のショウだし、そこら辺は適当なのか?

 渡された台本なんて簡潔すぎだったし、思い出すだけで腹が立つ内容だった。


【まあ取り合えず、ヒーローが敵倒せばいいよ。役者はそこに上手くつなげてくれればOKだ!】


 台本を広げて閉じるまで二秒も掛からなかったと思う。そして当然逃げようとしたんだけど、スポーツを余りやってない俺が細マッチョなおっさんから逃げきれる訳も無くて、強引にこの訳の分からないヒーローやらされてる訳だ。

 そして何故か愛はノリノリと来てるからやっかいでもあった。多分途中から仲間だと分かったんだと思う。喫茶店を出るときに日鞠がやけにウインクを愛に送っていたからな。

 あんなに怖がってたおっさんにも何とか歩み寄ってたしで、それは協力者への配慮だと俺は思うわけだ。隣に立つヒロイン役の愛は、どうやら普段からこのヒーローを知ってる設定らしいな。

 それとも友達なのか? 俺なら普段からこんな怪しい格好してる奴に絶対に近づかないけど、このショウの中の愛はそれを気にしないキャラらしい。

 今の俺達の状況は二人で道ばたを歩いてる……みたいなのかな? ――と、その時舞台袖から複数人の出演者が出てき……あれ? 俺はてっきりここで敵の怪物が出てくる物だと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。

 だって俺達の目の前に現れたのは普通のおっさん達だ。いや違うな。正確には俺が通ってる高校の制服に身を包んだおっさん達が現れた。一体どういう事だ?


「うっわ、おいアレ見ろよ。ヒーロー居るぜ」

「おいおい、マジかよ。しかも女連れとはよ~」

「良いご身分じゃねーかよユー!」


 どよめく会場……じゃねーよ。どちらかと言うと俺がどよめきたい。えっと……普通のいじめっ子かなんかだろうかアレ? 

 するとおっさん達は抱えていた紙を丸めた物を俺に、いや、ヒーローに向かって投げつけて来る。攻撃力が全くないその攻撃だけど、俺にはどう反応したらいいのかが皆目検討も付かない。

 そもそも台本があんないい加減な物でどうやったらこうなるんだ? せめて普通にしよう、と言いたい。どうやらヒーローなる自分は虐められてるらしいな。

 いらない設定だ。惨めすぎじゃないか? ヒーローが虐められてるってさ? てか何……ヒーローは高校生なのか? 頭が混乱しそうだ。そもそもアホばっかりで考えた様なこのショウに常識を求めるのが間違いなのかも。


「うらうらー世界救って見ろよヒーロー」


 とか良いながら三馬鹿みたいなトリオは紙を投げ続ける。すると次第に周りの子供達から声援が届く。


「ヒーローを虐めるなぁ!」「ヒーローはお前達なんかに負けないぞお」「ヒーローさん、がんばってぇー」


 何ともみじかなヒーローが居たものだ、と思った。声援というよりも守ってくれそうな勢いだ。子供達はみんな目の前のおかしなヒーローを純粋に受け取ってくれている。すると今度はもっと近くでヒーローを庇う声が届いた。


「やめて! ヒーローにそんな事しないでよ!」


 それは愛だった。愛がヒーローである俺の前に両手を広げて立ち塞がってくれる。


「邪魔するなよ。シーはユーの何なんだよ?」

「わ、私は友達ですよ!」

「そんな役立たずのヒーローの友達だって? あんた物好きだなぁ」

「「「はははははっははは」」」


 愛の回答に三馬鹿はその場で笑いまくる。アレは演技だと分かってるけどなんだかムカつくな。それは別に愛が馬鹿にされたからじゃない。俺が馬鹿にされてるからだ。

 まあ、向こうにとってはヒーローを馬鹿にしてるんだろうけどさ……自身が今それをやってる気持ちとしては嬉しくない。

 てかやっちゃって良いんだよな? 俺にはヒーローとしてその権利があるはずだ。多分目の前のおっさんは敵と言える物だと思うから、それを排除してこのショウは終了。よし、それで行こう。

 そう決めて俺は一歩を踏み出した。けどその時、おっさん達が投げる紙が一つ、愛の額に当る。すると途端にその場に崩れた。


「う……うう……」


 大したダメージがある訳でも無いだろうに、大袈裟に痛がる愛。俺は一応「大丈夫か?」と言って愛の側に膝を折った。


「だ、大丈夫だよ。えへへ、やっぱりヒーローは凄いね。あいつ等の投げる石が沢山当たってるのに、全然平気そうだもん。

 私は邪魔しちゃっただけかな?」

「いや……て、言うか――」

(――石だったのか!?)


 後半部分は心の声です。どうやら設定としてはさっきからおっさん達が投げてる紙屑は石らしい。それが頭に当たって倒れたと言うのが今の状況という事だ。


「ははは、そんなヒーローを庇うからそうなるんだ! ヒーローなんて今のご時世じゃおかしな奴だよシー」


 お前に言われたくない。特に三馬鹿の中でもアンタにだけはだ。でもこれはもう、ヒーローとしての力を見せつける場面に違い無いだろう。

 友達と言ってくれた人が言われ無き暴力を受けたのをヒーローは見逃しては成らない筈だ。俺は頭を押さえる愛にそっと声を掛けて立ち上がる。


「そんな事はない。君のおかげで俺は本物のヒーローに成れる気がする」

「……ヒーロー」


 結構自分でも何言ってるのか分からないけど、一応今の状況とこれまでを鑑みて発した言葉だ。合ってたかは分からないが、どっちみち確かめ用はないから余り気にしない事にしよう。

 これで奴らをぶっ飛ばしてハッピーエンドで終了だ。どうやら俺はヒーローとして体が強い設定の様だし、向かえば勝手におっさん達はやられてくれるだろう。

 俺はそう思い、ヒーローショウっぽくするために前へ進み出ようとする。間違い様のない展開。そう感じて、これこそヒーローショウだと思える理不尽さで正義は俺にあるはずだった。


「待って……ダメだよヒーロー」


 細い腕が俺の赤い服を引っ張る。俺の歩みは自然と阻まれてしまった。それも、助けようとした相手からの妨害。俺はヒーローとしてその声を無視してまで、無理矢理歩を進める事が出来ない。

 なんてったって、今の俺はヒーローだから。横を少し見れば、イタイケな子供達の視線がそこにはある。


(く……だがどうすれば? てか何故だ?)


 何故に愛は俺の完璧なヒーロー的行動を止める? 今の状況で俺の行動が間違いだったとは思えない。いや、もしかしてこいつ等、打ち合わせしてる? 

 俺はそんな疑いに囚われる。けどいつだ? そんな時間はなかった筈だ。


「えっと……何がダメなの?」


 一応俺はそれを聞いてみる。愛は一体ここからどうしたいんだ。


「だってヒーローはヒーローだから。安易な暴力じゃダメなの。それに今しようとしたことは私の為ですか?」

「は?」


 愛の為って……それは……俺は口を噤んで目を反らす様に三馬鹿を見やる。確かに今の動機は愛の為じゃなく、自分が早くこのショウを終わらせたいから……と言うのが強かっただろうけど、そこをショウの最中に突っ込むのか。

 というか、それじゃあ一体どうやってこのショウを進めて終わらせる気だ? ヒーローが戦わないヒーローショウなんてそれこそ本当にあり得ないだろう。

 今までは譲りまくって何とか許して来たけど、こればかりはどうなんだよ。ダメだろ実際。ここに来てるチビッコ達は悪が正義に倒される様を見に来てる筈なんだから――って、ん?


「まあ、ヒーローが怪物でもない普通の学生をいたぶるのはね」

「うんうん、ちょっとヒーローそれはどうよ、って思っちゃう所だよね」

「いやいや、ヒーローも人から派生した物で、彼はまだまだ未熟と言う部分を表した、いわばあれはですね……」


 会場に居るチビッコ達の会話が節々から聞こえてくる。て、いうか何なんだこれ? 最近の子供はショウの最中に冷静にストーリー分析やってるのか?

 なんだか深い所を語り合ってる奴いたぞ。


「おいおい、どうしたんだよヒーローよ」

「ヒーローの癖に女傷つけられて手も足も出せないのか?」

「ユーはヒーローやめちゃいなよ」


 三馬鹿の調子付く声が会場に響く。俺は有る意味、ここでこいつ等を懲らしめない事が教育上良くない気がしてきたぞ。てか単純にムカつく。こんな事、やりたくてやってる訳じゃねーよ。

 暑いしムレるし痒いし、あー早く帰りてぇ。けど、俺は愛のせいで次の行動が分からない。せめてどうするかヒントが欲しい。

 子供の支持も向こうにある以上、俺の独断と偏見で勝手な行動は出来ないんだ。


「ヒーローの力はみんなを幸せにする物じゃないといけないんです。それは全ての人が対象でしょう? 貴方はみんなの幸せをその肩に背負ってるの」

「そんな……それって――」

(――デカすぎだろ!)


 再び心の中で突っ込んだ。ヒーローとはさも大変な物らしい。要するに、愛はあの三馬鹿も救ってこそヒーローだと言いたい訳か? 

 でもさ、俺的には言って分からない様な奴には暴力もやむなしって考えなんだ。


「言葉だけじゃ伝わらない事があるって事をヒーローは知っている」


 遠回しに愛に俺の考えを伝えてみた。結構格好良く言えたんじゃないか? 自分的にはヒーローぽかった。


「それは、私も分かります。拳を交える事も時には致し方無い。でも、大事なのはその時心がどうあるべきかって事です」

「心の……あり方?」


 なんだか深い話に成ってきたぞ。これって子供向けのヒーローショウだよな? 歴史ある舞台で上演される様な演技じゃない筈なのになんで心の話だよ。

 こういうショウは深く考えずに、ヒーローが格好良く敵をバッタッバッタ薙ぎ倒していく爽快感だけで十分じゃないのか? 無駄に深い事は必要ないだろう。

 けどこのショウがオカシナ事は最初からで、乗り出した船な訳で、途中下車は俺にも既に不可能に成っている。ここは凄く不安だが、もう愛やおっさん達を信じてやりきるしか無いのかも知れない。

 結構チビッコ達は何故か食いついてるし……自分の世間の常識がまた崩れ掛けてるけど、どうにでもなれだ。


「ヒーローはいついかなる時でも暴力に心を支配されてはいけないんです! 例えその力を使うときでも、心は真っ赤に輝く太陽の様に誇らしげであらなきゃヒーロー失格です!」


 愛は俺の脚を強く握りしめる。まさに迫真の演技。良く、こんなスラスラと舞台用の様な台詞が出てくる物だ。愛はもしかして演劇部とかなんだろうか? 

 それか人前に立つのに慣れてるとかか? 舞台に上がったときも緊張した素振りは見えなかったしな。

 けど、ここで俺は思った。さっきの愛の台詞なら、誇りを持って拳を使うことは許されてるって事だ。なるほど、これが活路だな。つまりはこう言えばいいんだ!

 かなり恥ずかしいが……どうせ俺の顔は誰にもバレない! やれ、言うんだ秋徒! このショウを一刻も早く終わらせる為にも!


「分かったよ。俺はこの胸に誇りを灯してこの拳を振るう! 太陽の様な輝きをヒーローとして心に宿す!」


 会場が一気にバトルの雰囲気に包まれた様な感覚が走った。俺の中の脳内でアップテンポのBGMが流れる。これはLROで戦闘を開始する前の緊張感にこの場がなったって事か? 良い感じだ。


「なんだよ! やっとでやる気になったかヒーローよぉ?」

「「おおうおうおう!」」


 どちらも完全にやる気になった。衝突はもう止められない。なんだか、床に黒い霧の様な物が発生してるのは誰かの演出なのだろうか? 

 そしてその時、愛の声が再び響いた。


「あの黒い霧は……ヒーロー! 貴方が倒すべきは彼らじゃない! 彼らの心に巣くってる闇の部分です!」

「闇の部分!?」


 それってどうするんだよ。また変な設定を持ち込まないで欲しい。てか、愛は普通の一般人じゃ無いのか? なんだかパートナー的存在に成ってる気がする。


「ヒーロー! これを使って彼らを写すんです!」

「鏡?」


 まさしくそれは何の変哲もない手鏡だ。だけどこのショウではどうやら重要なアイテムらしい。


「その鏡で黒い霧が出てる人物を写すと、闇の部分をさらけ出せるんです! その闇こそ、ヒーローが倒すべき敵!」

「な、なるほど」


 俺は困惑しながらもその言葉に従って鏡を三馬鹿に向ける。すると突然彼らは苦しみだして、霧の中に倒れてしまった。そしてどんどんと霧は増していき、用意されてた扇風機で霧を晴らすとそこには暑苦しそうな三匹の怪人が居たんだ。

 それぞれカニみたいな奴と、クワガタみたいな奴と、サソリみたいな奴だった。


「あれが彼らの心の闇です!」


 そう叫んだ愛の言葉に会場がどよめく。どうやらここまで納得のストーリーらしい。俺には疑問が多すぎるが、だがこれで確実に戦闘に入れる。奴らはもう人間ではないんだ。子供たちのからの非難の声も出ないだろう。


「アレを倒せば良いんだな!」

「ええ、あの醜悪な姿から彼らを解放出来れば心の闇は晴れます。そして彼らは善良で心優しい人に成るはずです!」

「よし! なら行くぞ! ヒィィィロォォォォブレードォォォ!!」


 もう迷う事なんて無かった。俺は腰に挿してあった剣を構えて、それらしく叫んで突っ込んだ。それと同時に、今度は頭じゃなく本物のBGMが流れ出す。打ち合わせもしてないのに、剣を振るとちゃんと効果音まで……なかなか優秀なスタッフが居るようだ。

 会場の熱は最高潮に達してそこかしこから「いっけー!」やら「そこだー! 頑張れヒーロー!」とかの声援が届く。それはなかなか良いものだった。そしてそれに合わせて舞台袖に控えていた、マイクを持った体操のお姉さん的な司会役の人が会場を更に盛り上げるために子供達を煽る煽る。


「ほらー、みんなの声がヒーローの力に成ってるよー!」


 的な事を言うんだ。恥ずかしいが、自分のテンションも子供達の熱狂振りに当てられて上昇な感じ。そして派手な花火がドバッと上がるのと同時に、三体の怪物は地に伏せた。

 何も知らされて無かったから俺まで飛び上がりそうな程の演出だったが、そこはグッと堪えてフィニッシュ態勢を維持した。ヒーローがビビる訳にはいかないからな。

 会場からはヒーローに向かっての暖かい声が届いている。


(やっとで終わった)


 俺はそう思ってマスクの下でそっと息を吐く。するとそのままモワッとした息が戻ってきた。一刻も速くこれを脱ぎたい。

 けど、そう言えばエンディングをどうやるのか、どのタイミングで裏に引っ込むのか俺は知らない。ここは司会のお姉さんに任せるしかないか。

 早くこの場をナレーション的な物で締めて欲しい――ってあれ? 居ないぞ。俺は周りをキョロキョロ見回すがやはりさっきまで会場を煽りまくってたお姉さんはいなくなってる。

 仕事放棄? とも思ったがそっと背中に触れられて、振り返るとそこには愛が居て、まだ終わってないと認識した。


「やったね。流石ヒーローです」

「あ……ああ、これで良いんだよな」

「はい」


 愛は笑顔を俺に向けた。けどなんだかまだ含みがあるようなその笑顔に俺は引き込まれない。防衛本能か、学習機能が俺に「安心するな」と告げてる感じがする。

 そしてその予感は的中する。倒した筈の怪人の一体、カニの様な奴がいきなり立ち上がり愛を人質に取りやがった。


「きゃきゃきゃにににに! 油断したなユー! いや、ヒーロー! アイの甲殻もとい、心の壁はそんな安い剣では切れないのよ!」

「ヒーロー! 私の事は気にしないで、戦って!」


 これはとても良く見る展開だが、会場の子供達は意表を突かれたのか押し黙る。けどなんだか俺は面倒だと言うことが先行するな。

 これはやりつくしてないか? それにカニはアンタだったのかとも言いたい。「きゃきゃきゃにににに」ってなんだよ。変に姿に合わせた笑い声まで作ってたのか。

 痛み居る行動だ。だからどうか倒れていて欲しかった。


「きゃににに、ヒーロー。アイは感じたぞ。ユーは逃げ出したヒーローだとな」

「何だと?」


 突然何言い出すんだこのおっさん。またまた変な設定を増やすのは勘弁し貰いたいんだけど、俺が不意に返した言葉のせいでカニ怪人は言葉を繋ぐ。愉快そうに楽しそうに。


「きゃーにきゃにきゃに。ユーの心の剣は既に折れてる。ユーはもう一つの世界から逃げ出してきたヒーロー! そんな心無き剣じゃアイは斬れない。

 でも代わりに乗せることが出来る物は幾らでもあるって教えてやろう。ユーのその心にある、ふがいなさややるせなさや悔しさ……そして憎しみ! 

 それを乗せればアイを斬ってこのシーを助けられるぞ!」


 カニ怪人の言葉に俺の手が僅かに震えていた。これはショウでの設定であって俺に対しての言葉じゃないんだよな? でも……何故かそれだけとは思えない物がある。


「ヒーロー」


 弱々しく呟くアイ。その姿がマスクの黒いフィルターを通して次第に姿を変えていく。それはとても見知っていて、そして俺が向こうで守れなかった人。


(アイリ……)


 向けられるカニ怪人の爪。その時、俺は考える間もなく飛び出して剣を抜いていた。人質から手が放れ、後ろ倒れになったカニ怪人はやられたにも関わらずに笑っている。


「きゃににに……ユーの闇が見えてるよ……」


 その言葉に自身を見ると俺のスーツから黒い物が噴出してた。そして倒れたカニ怪人は何かを持っている。それは鏡。俺が使ったあの鏡だ!

 俺がそれを認識した途端に一気に会場全体に煙が撒かれた。これは俺も怪人に成るって事か? だけど次第に晴れゆく煙の向こうから現れたのはもう一人のヒーロー? 

 それも色違いの真っ黒なダークヒーローが俺の前に立っていた。

 第六十五話です。

 ごめんなさい。最初に謝ったのは、これがもう一話続きそうだからです。次こそは終われると思います。ダークヒーローも最後で出せたしね。さあ、二人のヒーローがどうなるのか!? こうご期待! かな? 

 それと秋徒の心の内は!? てな感じで行きたいと思います。

 それでは次回は水曜日に上げます! ではまたです。

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