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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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繋いだ時間

「よくやった……人間再生は成せたんだ。まだ死ねないけど……けど、もうどうしようもない。ごめん皆」


 これ以上を望むのは贅沢って物だろう。いっぱいいっぱい無理を通した。精一杯生きたかどうかなら、間違いなく精一杯出来る事をやったよ。後悔が無いなんて言えないけど、良くやったとは自分で言える。だから……まあいいよ。

 体の全てが焼きつくされて、灰の様にボロボロと崩れてくのが分かる。皆と入れ替わりなのは惜しいけど、けどこれで良かったんだよな。僕は光の中で覚悟を決めて、目を閉じる。きっと、この目をもう一度開けることはないと思ってだ。


「何、今度は一人だけで逝こうとしてるんだ貴様は」


 耳に届くそんな声。そして足に加わる暖かな何か。このまま消し炭に成った筈の僕の体は、何かに支えられてる様に感じた。開かないと思ってた瞼が開くと、白く肌触りの良い布があって、更に顔には長い黒髪がくすぐってた。

 横に顔を向けると、こちらを見据えるムカつく顔があった。


「テトラかよ……」

「なんだその不満気な顔は」

「いや、だってこんな長い黒髪が顔を擽ったら、普通は美少女が介抱してくれたんだと思うじゃん。期待するだろ? それが男だったらこんな顔に成るんだよ」


 全く、なんでこんな無駄に長くて綺麗なんだよ。超期待したわ。感動なんてどこ吹く風のやりとりをしてると、足元がさっきからなんか煩わしい事に気付く。下をむくとそこには小さな存在がわんわんと泣いてた。


「スオウ〜スオウ〜うわああああああああん!」

「クリエ……お前のおかげで助かったよ。ほんとありがとう」


 あの時、クリエがその身を犠牲にしなかったら、もっと早くに僕たちは終わってた。こんな小さな子に助けられたんだよな。僕はクリエの頭を撫でてやるよ。するとクリエの服から黒く丸い物体が飛び出てきて僕の頬にズリズリと擦り寄ってくる。

 そしてその黒いのは体全体の目をパチパチしてた。何か言ってるようだ。だけど残念、今の僕にインテグの奴の声は聞こえないのだ。


【聞こえますよ。チャンネルを開けましょう】

「ちょっ、苦十、余計な事するな––」

『いや〜ほんまよかったでぇ。やるやないかやるやないか! こいつめ〜』


 うざ。だから聞こえなくてよかったのに。変態なんだから別に頭に入れる必要ないんだよ。まあこいつの中のデータは役に立ったけどな。取り敢えずグリグリと押し付けてくるのがうざいからデコピンでクリエの方へ飛ばしておく。


 それにしても……だ。なんで僕は無事なんだろうか? 周りには再生された人達が溢れてる。喜びをわかちあったり、驚きあったりとそれは想像してた光景だ。一体どれだけの人が再生されたんだろうか?

 もしも今までブリームスが貯めこんできた指輪全員分が再生されたのだとしたら……ここには数世代違いの人達が混在してるって事になるような……


「なんだか場違いな気がするな……自分がここに居ていいのかどうか……」


 なんとなくそんな声を漏らしてしまった。混乱してる。自分がまだ生きてることに。


「ふざけるな! である」


 響いた声に、周りが驚き静かになる。そんな中、人の波が自然と開けてそこからは猫背で片目にカメラのレンズみたいなのを付けて、ボッサボサの長髪を汚らしく垂らしてる人物が現れた。


「統括……」

「貴様が救ったのだ。やり遂げたのだ。何も恥じることなどありはしないである。心から礼を言おう」


 あの統括が……僕に対して頭を下げてる。プライド高くて、全ての名声を我がもとに––ってなスタンスだったのに……なんか変な気分だな。


「人間再生……流石は我等が後輩、成し遂げたようじゃの」

「ふぇっふぇっふぇ、こうやってまたシャバの空気が吸えるとは感無量じゃて」


 人混みの中から現れた小太りの爺さんと、変な布で顔を隠してる小柄な爺さんがそんな事を言ってる。一体何者なんだ? そう思ってると統括がこういった。


「先代様! それにそちらは先々代様?」

「久しいの〜まさかそんな老けたお主を見ることが出来るとはの〜」

「ふぇっふぇ、やはり優劣が交互に回ってたようじゃな。儂は優秀じゃったが、お主は儂に比べては劣っておった。そしてその次のそこの奴で人間再生が成し遂げられたのじゃから、この考察は正しい」

「はっはっは、ですが結局優秀な貴方でも零には至ってないではないですかの? その点、辿り着いた奴を育てのは先代の儂。これは儂の教育の賜物じゃなかろうか?」

「ふぇっふぇ、それを言うなら貴様を育てたのは儂じゃろが。つまりは奴を育てたお前を育てた儂が最上位じゃ。これが結論じゃろ」

「納得出来んのぅ!」


 火花を散らして睨みあう二人。なんて不毛な争いしてるんだよ。今の統括が自身のプライドを捨てて僕に頭を下げたのに、昔の統括だったらしい二人は、どっちがこの功績の功労者か取り合ってるって……ハッキリ言って別に関係ないからな。

 確かに辿っていけば、この人達の尽力も大きいのかもしれない。けど、それは結局過去なのだ。この人達は自分の手柄を主張するんじゃなく、素直に後人が自分達の夢とかを叶えた事を喜ぶべき。それだけで、なんだかちょっと大物に見える。少なくとも、目の前で手柄取り合うのは小物のやることだもんな。


「あれって……」


 僕が指差して現統括を見ると、なんだか気まずそうな顔をされた。


「二人共普段は立派なのだ……普段は」


 普段は––ね。そもそも現統括も先々代の普段とか知ってるのか? 先代とは面識がある様な言葉があったけど、先々代は面識無さそうだったぞ。あれか、願望なのかも。第一研究所統括はこのブリームスの研究者の頂点に立つ人物だ。

 だからこそそうあって貰いたい……いや、そうだった筈だ––と言う願望。


「過去と今が入り混じってるのか。まさかそんな事が本当に出来るとはな……だが安心するのは早いぞ貴様等」


 そう言ったテトラの奴が空に視線を向ける。そこには静かに燃え盛る蘭の姿がある。この光景に驚いてるのか、まだ動き出す気配はない。けど、このまま引くわけもないよな。


「リルフィンや孫ちゃん達はそれぞれの場所で復活してるんだよな?」

「さあな、だがどこかには居るだろう。問題はこの人の多さだな。有象無象が沸きすぎだ。奴が動き出してパニックでも起こされたら厄介だぞ」


 確かにそれはテトラの奴の言うとおりだな。復活した大半はブリームスに生きた過去の一般人だ。戦闘能力なんて無いだろう。それに今と過去……どれだけ遡って復活してるのかはわからないけど、単純に考えても数倍位人口が増えててもおかしくない。小さくまとまってたブリームスには正直言ってこれら全員を抱えきれるだけのキャパがない。かといってどこに誘導すれば? それを誰がやる? 多分政府のお偉方も何人も復活してるだろうし……色々と混乱は既に起きてるのかもしれない。

 あの先代統括達は現状を把握できるようだけど、それは少数派なんだ。実際、死んだはずの爺さんや婆さん、更に前のご先祖様とか会ったら、混乱するなという方が無理ある。そしてそれが今のブリームスではそこら中で起きえるんだ。


「取り敢えず全員への状況の周知が必要である。理解出来るかどうか……受け入れられるか……それを待ってる時間はない。知って動いて貰うのである」

「そう……だな」


 統括の言うとおり、最低限で最適な説明は必要。けど簡単には信じれないだろうし、受け入れることは難しいだろう。でも、悠長にやってる時間はない。周りの人達全員がそれを受け入れるのを待ってはられない。


「だがどうする? これだけの奴等に同時に説明なんて……放送でもするか?」

「そ、そんな事したら、あのメラメラしてるの刺激しちゃうよ!」


 メラメラって蘭の事か? でもクリエにしてはまともな意見だな。確かに放送とかしたら蘭を刺激しそうだ。それに無駄に情報を与えることにもなるしな。


「おい小僧、貴様のアイテムとあの変な声の奴を使えば思考をつなげる事も出来るであろう」

「それは……まあ。でも僕が喋るのはとうかと思うし、苦十の奴でも同じだろ。いきなり得体の知れない奴が頭の中に語りかけてくるとか不気味だし、こういうのはある程度認知されててそれなりの地位がある奴がやったほうがいい」

「一理あるであるな。それなら儂がやろう。現第一の統括ならば問題なかろう。過去の者達も私の立場なら聞く耳持を持ってくれるはずである。儂の声を再生された全ての者達と繋げてくれ」


 僕はコクリと頷く。そして頭で苦十を呼ぼうとする……けどその前に、一つやっぱりどうしても聞きたいことがあったんだ。これからまた事態は動いてくだろう。その前に確かめたいことなんだ。


「……なあ統括。どうして僕は生きてるんだと思う? あの時……確かに僕はもう……」


 僕のそんな言葉に、統括は視線を外した。だけどその目についてるレンズがキュルキュルと伸びたり縮んだりしてる。


「確定は出来んが……仮説は出来るである。貴様のその指にはまってる物はなんだ?」

「これは……あっ、でもまさか?」


 自分の人差し指には綺羅びやかなアイテムがついてる。だけどこれは後から追加されたもので、コレとどうかしたアイテムは、皆の再生に使った指輪と同じ物だ。だからつまりは……


「随分と変な改造してあるようであるが、元の機能が失われてないのなら、考えうる可能性はそれだけであろう。貴様は確かに一度死んだのかも知れん。だが、貴様はあの時あの瞬間、自分をも人間再生出来たのであるよ。それしか考えられん」


 僕は現統括の言葉を噛みしめる。確かにそれしか考えられない。あの時、確かに僕の体は消滅しかかってた筈だ。蘭の炎に中から燃えつくされて、消し炭同然だった。だけど気付いたらここにまだ居た。自分という存在は消えてなかった。

 あの時、光の中で僕の体も再生されたのかもしれない。だからこうやって、まだ僕はここに居ることが出来てるんだろう。そう考えるのが一番納得できるな。


【可能性としてはそれが一番ですね。運が良いですねスオウ】

「運? 何言ってるんだよ苦十。言ったろ? 可能性は掴みとるものだってな」

【––––ふふ、そう言う事にしときましょう。では思考を繋げますか】

「頼む」


 僕は統括に声を掛ける。そして喋り出す統括。それは今まで聞いたこと無い位に穏やかな声だった。まさかんな声も出せるとは……やっぱり統括に上り詰めるだけあって幅広くなんでもこなせるようだ。

 見た目はアレだけど、穏やかでゆっくりとした丁寧な言葉は、混乱の最中にあるブリームスの人達でもその耳を傾けるはず。実際は傾けなくても強制的に頭に響いてる筈だけど、そこに不快感を持たせないように統括は喋ってる。

 まあなんか聞いてると、手柄が第一に行ってる気がするけど、でもそこにこだわりはないからいいか。ちゃっかりしてると言うか……貪欲なのはやっぱり統括だよ。そんな事を思ってると、空の方で派手な音と閃光が弾けた。それに周囲がビクッと反応した。視線を上に向けるとそこには蘭の奴がその炎を自分を中心に広げてる。動き出す気だ。

 その力に反して、とても女性的な腕を前に出す。そしてしなやかに横に振るうと同時に、周囲に広がってた炎が一斉にブリームスへと降り注いで来た。


「んな!?」


 なんてえげつない攻撃をしてきやがるんだ。湧き上がる悲鳴や混沌の叫び。アレが落ちたら収集がつかなくなることは必死だ。落としちゃいけない。なんとしても! 僕は腰に手を伸ばす。だけどそんな手は宙を掻いて行く。幾らニギニギしてもそこには何もない。


(そうだった!! もうセラ・シルフィングは無いんだ……)


 腰に残ってるのは鞘だけだ。空っぽの鞘だけ。するとテトラの奴が空に向かって飛び上がった。そしてそれと同時にもう一箇所から空に昇る姿が見える。あれは……リルフィンか? 二人は示し合わせたかの様に同時に動く。テトラが一斉に黒い弾を放ち、リルフィンはその咆哮を響かせる。一斉に空に広がる黒い煙。二人の活躍でなんとか成ったようだな。

 だけど安心は出来ない……蘭の奴が次に何を仕掛けてくるかわからないからな。


「取り敢えずどこか避難できるところは無いのか? これだけ人で溢れてたら動きづらい」

「そうであるな。だがしかし、これだけの人数を納める場所は流石に……」

「出来ぬことも無いぞ」

 僕と現統括が思案してると、聞こえてきた野太い声。視線を向けるといつの間にか喧嘩をやめた過去の統括達が居た。


「それは本当ですか?」

「簡単な事だ。人間再生が成ったとなればそれは魔鏡強啓零の開放。零は大抵の事は出来るはずじゃ。まあしかし、どこか別の場所へなど、する必要はないがの」

「どういうことだ?」


 現統括の奴が敬語を使ってるよ。そんなの多分こいつらにだけなんだろうな。だけどその先代達はこの大量の人達を移動させる必要はないという。それは一体……


「簡単じゃよ。彼等は皆錬金術士じゃて。それすなわち戦力じゃ」

「戦力って……まさか戦わせる気か? 言っとくけど、さっき攻撃した奴はそこらを徘徊してるモンスターの比じゃないんだぞ。あれは規格外の存在なんだ。その気になれば一気にここを消滅させることだって出来る」

「ふん、威勢のいいように見えて根性のないガキよのう。ふぇっふぇ、我等が手にした魔鏡強啓零をあまり見くびるでないわ。あの存在が神をも超えた存在なら、我等とてその高みに登るまで!」

「全員に魔鏡強啓零を配ったりする気かよ?」

「そんな必要はない。一般人共に扱える物ではないからのう。だが行き渡らせる事は出来るのよ。ふぇっふぇ」

「そういうことじゃ。わかっておるな、現統括様よ」


 なんだ? どういうことなんだよ。こっちはさっぱりわからないぞ。だけど現統括はそれで何かを察したのか、頷いて動き出した。


「第一研究所に向かうである! 第一研究員は全員集合。過去も今も全員じゃ。統括命令である!」

「おい……」

「済まぬな小僧。だがこれからは我等が守る。何、ここは我等が街であるぞ。それが当然だ。貴様もまだやることがあるのであろう? それならその拾った命、自分の目的の為に使うである」


 はは……なんか格好良い事言いやがって……でも確かにまだ僕にはやることがある。魔鏡強啓零は僕の身にもある。そしてこれと法の書……それにラプラスがあれば扉が開ける筈だ。いや、扉はジェスチャーコード事態で開いてはいる。

 でもここに僕以外がこれないのは浸透率の問題だ。僕がやるべきことは持ち上げる事。この世界……LROをプレイヤーが訪れれる浸透まで挙げなきゃいけない。それはかなり大掛かりな事に成るだろう。それこそこの街にあった積層魔法陣みたいなのを世界中で展開する必要があるかも知れない。

 それにもう一つの法の書とぶつかる事は必死だ。それはつまり……シクラの奴とぶつかる事だろう。アイツがこの世界を組み替えてるのかどうかはわからないけど、アイツの様な気がする。ぶつかるとしたら、多分シクラ。それかセツリの奴。でもあいつ自身が何かをやってるってのはあんまり想像できない。

 けど実際、ホントにここの人達で蘭を止められるのか……僕は離れてく統括達に声を掛ける。


「おい! ……第一研究所そっちじゃないぞ」

「…………そうであったであるな。組変わっていたんである」


 やっぱり老人だな。でもまあ通い慣れた方向へ自然と足が進むのは仕方ない。正しい方向に歩き出した三人。するとその周りに続々と人が集まっている。近くに居た第一の研究員だろうか? 実際普通の人達を戦闘に参加させるのはどうかと思うけど……まあこの世界に既に逃げ場所なんか無いからな。このブリームス以外はもう……なら死守するしか無いんだよな。

 するとその時、この街全体が一気に明るくなった。そして同時に一気に気温が上がる。空を見上げるとそこには爆煙を押しのけて巨大な炎の塊が突如出現してた。粛々とあんなのを準備してたのか。さっきよりは多分小さいけど、それでもブリームスを焼きつくすには十分だろう。

 流石にテトラとリルフィンだけじゃあれを防ぐのは無理だ。かといって統括達の準備はまだ出来てない。もう一度……もう一度天の羽衣を作るしか無い!! けど法の書に意識を集中すると、頭に激痛が……思わず僕はよろめいた。


「スオウ!?」

「つっ……流石にさっきの影響がまだ残ってるか……」


 かなり頭に無理させたからな。法の書が使えないならラプラスで……そう思ってる暇にそこまで迫ってきてる太陽。ジリジリと伝わる熱気は落ちなくても僕達を殺せそうだ。だけど次の瞬間その熱気が一瞬で消え去った。

 何が起こったか……誰もわからない。誰もわからないけど、僕の目にその姿がしっかりと見えてた。白衣を翻し、拳を突き上げるそのマッドサイエンティストの姿がだ。


 第六百四十四話です。


 取り敢えず今回も間に合ってよかったです。まだまだ戦いは終わらないですけどね。てかセラ・シルフィングが……主人公の武器喪失……このタイミングで。一体どうしましょうか? 


 取り敢えず次回は月曜日にあげますね。ではでは。

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