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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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愚者と挑戦者

 辿り着いた中央図書館内部。だけど奥の方はやっぱりボロボロの状態だった。ここから力を送って全盛期の姿を取り戻させないと行けない。取り敢えず、凛の奴は上手くまけたようだけど、長くは持たないだろう。結構派手に暴れてるようで、ここまでも時々ズシズシと響く振動が伝わってくる。

 凛の奴のあの武器––確か「天叢雲剣」とか言ったか。なんなんだろうなあれ。なんか引き寄せられた様な……そんな感じがあった。今もどうしてだか鞘に入れた片割れのセラ・シルフィングがカタカタと震えてる。

 これも凛のあの剣に引き寄せられてるってことなんだろうか? 


「あの剣……相当やばいよな」

【天叢雲剣と言えば日本の、それこそ正当な三種の神器ですしね。名前に見合った力があるんでしょう。まさか一太刀でご自慢の武器があっさりとなまくらにされるとは思わなかったですけど】

「……うるさい」


 こっちだってんなの全然思わなかったよ。まさかただの一太刀……それだけでセラ・シルフィングが砕かれるなんて……夢にも思うか。セラ・シルフィングには自信があった。というか、僕の自信の源だったと言っても過言じゃない。

 この武器のお陰で、幾つの危機を乗り越えてこれたか……前にも一度折れたけど、それを経てセラ・シルフィングへと昇華されたんだよな。でもあの時とは状況が違う。あの時には時間があった。手段もあった。だけど今は違う。もしかしたアルテミナスのあの森へ言って泉にもう一度沈めれば、また泉の精が元に戻してくれるのかも知れないけど……どうなんだろうか。


(まあ、どのみちそんな時間はない……よな)


 多分既にLROは根幹であるマザー以外の部分は既にシクラ達に掌握されてる。何に手こずってるのかは分からないけど、悠長にやってたらマザーだってその内突破されるのは確実だろう。だからここから離れる訳にはいかない。


【だけど唯一の武器を壊されちゃって、どうするんですか? 今はまだ戦闘を極力避ける方針ですからどうにかなりますけど、戦う事は避けられませんよ。その時武器がないんじゃ話にならない。他の武器を使うにしても、それ特殊ですから固有スキルは他の武器じゃ使えない。

 役立たずですね。その武器じゃないと】

「……うぐぐ……なんとかするさ」


 むかつくが苦十の奴の言うとおりだな。今更他の武器に持ち替えた所で、それじゃあ絶対にシクラ達に太刀打ちは出来ない。付け焼き刃の武器でどうにか出来る相手じゃない……そもそも使い慣れた武器でさえどうにか出来ないのに、持ち替えたくらいでどうにかなるんなら苦労はしないよな。

 これが普通のゲームのRPGならな……武器の性能だけでゴリ押し出来るんだけどね。そのレベルにあった強い武器に持ち替えていけば、大抵どうにかなるものだろう。だけどLROじゃそうはいかない。武器の基本性能が上がるのは確かに大切だろうけど、ボタン押してアクションをしてる訳じゃないからな。

 僕達はこの体を必死に動かしてるんだ。どうしたらより早く動けるかとか、どうやったら効果的な攻撃が出来るかとか、常に思考しながら動いてる。それは普通のテレビゲームでも、一応は考えたりもするんだろうけど、実際体を動かしながら考えるのはひと味もふた味も違うだろう。


 使い慣れるって事はそれだけで武器だよな。でも一つの武器を使い続けるって事は可能性としては狭いのかも知れない。そもそもLROではスキルを身につけたら武器を交換して行って、スキルを増やしてくってのが強くなる条件みたいな物だしね。

 まあある程度の所まで行けば、僕みたいにお気に入りの武器を決めて、その武器の使い方のバリエーションとかを増やすために、目的のスキルを得るために違う武器を使うって事もあるんだろうけど、それはあくまで既に強い人のやり方だよ。

 そしてそう言う人達なら、きっとこういう状況で別の武器に持ち替えたとしても、今まで得てきたスキルの豊富さでなんとか出来るんだろう。でも僕はそうはいかない。初期からこの武器しか使ってない僕にはスキルのバリエーションなんかない。おかげで誰よりも強い絆を得てるのかも知れないけど、セラ・シルフィング頼みなんだよな。


 それに、スキルがもっともっと豊富にあれば、同じ武器を使う同士でも戦い方は変わったりするんだろう。それが可能性ってやつだよな。苦十とか当夜さん、それに佐々木さん達は僕に可能性を感じてくれてるようだけど、僕自信がそれを狭めてしまってた所がある。

 セラ・シルフィングはこんな物じゃない筈だ。皆が僕に可能性を感じてくれてる様に、僕はセラ・シルフィングにそれを感じてる。でもそれを発揮できないのは僕が不甲斐ないから……こんな風に二度も折ってしまったのは、僕のせい。


【なんとかすると行ってもですね。具体的な事は何も無いわけですよね?】

「それはそうだけど……でもなんとかするさ」

【つまり可能性を見せてくれると言うわけですね。楽しみにしておきます。お手並み拝見】


 くっ、変な期待をされてしまった。でもこれ以上この事で突っ込まれるのもな……取り敢えず今はさっさと進むに限る。さてと、取り敢えず確か本があったはず……本が……


(どれだっけ?)


 そもそもアレってクリエの奴がたまたま発見したみたいなものだったしな……今この場所には朽ちた本がそこら中に一杯。


(いやいや、まて。落ち着くんだ僕。多分、配置とかは元のまま……それなら……いや、待てよ)


 そもそもあの本だけがキーだったのか? たまたまクリエの奴が手にとってその特殊な力に反応したってだけ、実はここらの本はキーに成り得るんじゃないだろうか? ブリームスの住人がそれに気付かなかったのは、外の力が薄くなってて錬金じゃいくらやっても反応しなかったから。

 だけど僕なら、どの本でももしや……


【だけどそもそもどうやって力を出すのかしら? 源ないですよ】

「そうだったああ!」


 ガックシだよ。まだまだ先だと思ってたセラ・シルフィングの出番は案外早かった。そういやそうだ。力を解放するにもセラ・シルフィングは必要だ。くっそ……なんてこった。取り敢えず僕は無残な姿になったセラ・シルフィングを鞘から取り出す。すると僕の心を察してくれてるかのように、弱々しい風を集めてくれる。

 くっ……なんていい奴だ。やっぱり最高の相棒だよ。こいつ以外を使うなんて僕には考えられない。


【ですがその程度の風では––】

「うっせ! セラ・シルフィングバカにするなよ! 大丈夫、セラ・シルフィングはきっかけだけくれれば良い。後は僕自信が風を開放する」


 エアリーゼのやつに散々風の感じ方は叩きこまれたからな。自身の力を風として外に出すくらい、どうにかなる。後は周囲の風を掴んで、それを混ぜていけば小さな自分の風も大きく出来る。僕は近くの本を手に取る。

 すると手にとった瞬間にボロッと崩れ落ちた。おいおい、ここまで風化してたか? ちょっと安易に選び過ぎたか。もっと頑丈……というか比較的原型を保ってそうなのがいいな。床に落ちてるのよりも、本棚に収まってるののほうが心持ち保存状態良さげだよね。ってな訳で、本棚から形を保ってる本を今度は取り出す。

 指を掛けても崩れない……ちゃんとした奴を。


(よし)


 大丈夫そうだな。僕は開いた本の上にセラ・シルフィングを優しくおいた。そしてその上に更に手を添える。瞳を閉じて、深呼吸を刻む。涼やかにたよたうセラ・シルフィングの風に僕の風を結んで、更に周囲の空気を動かしてそれを風に。

 輝きを増していくセラ・シルフィング……その輝きが本にも移ってく。


【スオウ】


 聞こえた苦十の声に目を開けると、視界に眩しい光が突き刺さってきた。さっきまで風化したボロボロの場所だったのに、床も壁も天井も、全て眩しい光を放ってる。こんな状態でも、反応してくれたようだ。


「良かった……」

【ここが中央図書館零区画ですか。零は魔鏡強啓零項と掛けてあるんですかね?】

「……なるほど、それは考えてなかったな」


 確かに考えてみればそうだな。零区画は零項に繋がる知識を詰め込んでるからこその場所なんだろう。この場所から第一の連中は零項へと……だけどだからこそここからなら追いつける。そう、仮説が正しければ……


「取り敢えず奥へ行くぞ」

【そうですね。そこが重要なんでしょう】




 進んだ奥は相変わらずの不思議な空間。床も天井も白く、床は水が張ってあるってワケじゃないのに、進む度に波紋が広がり、自分がどこを歩いてるのか分からなくなるほどに、そこは本当に地面なのかと思うほどに、透き通ってる。


【何かありますね】

「なに?」


 苦十の奴が膝を曲げて床を覗きこんでる。僕も自身の足元に目を落とす。そして集中すると視界が狭くなると同時に、離れた物が近くに来たように感じる。最近はリアルでもだけど、異様に目が良い。これも可能性領域とやらが関係してるのだろうか? そして僕の目にも確かに見えた。

 海の底からニョキニョキと突き出して来てるような幾本もの棒? ……その棒もなにやらキラキラ光ってるような……


(いや、違うな)


 あれは棒が光ってるんじゃない。何か……棒に引っ掛かってる何かが……


「アレは……指輪!」


 間違いない。あれはここの住人が……僕達が……付けられてたあの指輪だ。しかもなんて大量に……まさか全部、ここに集められてるのか? それならあの中にクリエ達の付けてた指輪も……てか一回消えた筈のこの街は、実際どういう風に再生してるんだ? 一回というか、二回くらい消えてるけど、この街はあの時間の延長線上でいいのか? それならこの何処かにみんなの指輪があるはず。

 でも再構築があの大事前の状態で起こってるとしたら……いや、それはきっと大丈夫。起こったことは無かった事になんか成らない。選ばなかった事が起こりえない様に、起こったことが無かったことにも成らないんだ。

 もしも白紙に戻されてたとしても、どこかに絶対残ってる。この場所は、簡単にやり直せるデータだけの世界じゃない。


【なにか、見られてる様に感じますね】

「それは誰にだよ?」

【誰に? そうですねぇ……全てに、じゃないでしょうか】


 黒い瞳が深く輝く。全てとか意味深に言いやがって。そう思ってると近くで響く大きな音。それに合わせて微かな振動が伝わって来た。凛の奴が僕を探すために暴れてるんだろう。ここに居たのが凛で良かった。姉妹の中でも直情的な奴だ。もっと慎重で懸命な奴なら、その力を駆使すればきっともっと早く見つけることは出来るだろう。

 まあ、奴等に何もかもが出来て、何のかもが出来ないのかは分からないけど、探すにしてももっとやりかたはあるはず。これがシクラや柊、それにあのレシアとかなら違ってた筈だ。百合って奴はよく知らないから除外するとして、ヒマワリの奴は凛と同じ方向性だろう。てかアイツはバカだからどっちかというとヒマワリの方が良かったとは思う。

 でもそこまでの運は僕には無いよな。だから少しでもよかったと思って、立ち止まらずに進め。


「指輪は今はいい。それよりも準備してろよ苦十」

【はいはい、あの趣味の悪い金ピカの像ですね。そっちも三種の神器の用意をしててくださいね。愚者に与えられるチャンスは一度だけですよ】

「愚者いうな」

【後悔をやり直したいと思う者は総じて愚者なんですよ。それを掛ける時間は前へ進むことに向けるべき。愚者は出来ないことを願いつづけるから愚者なのです。 まあそんな者達への救済が祭典なのでしょうけどね】


 愚かな僕達にチャンスを……それを苦十の奴は「愚者の祭典」だと言う。確かに愚者なのかも知れない。いつだって後悔して、簡単に立ち止まって、振り返れば「もっと出来たんじゃないか」と思ってしまう。

 リアルではどうしようも出来ない愚者たちの後悔を、ここならどうにかしてやれれるかも

知れない。そんな当夜さんの優しさなのか? 


「だけど……後悔を一度もしない人間なんていない。もしかしたら愚者は人、全てなのかも」

【当夜はそんな良い人……じゃないと思いますけどね。多分当夜は人類よりも、妹を取る。そんな人間】


 それはなんか分かる気がするな。確かに当夜さんはそういう人だろう。妹の為に世界を作る様な人だしな。


【それに後悔すること自体が愚者の条件ではないと言ったはずです。因われ過ぎるから愚者に落ちるのですよ】

「なんかわかったように言うけど、後悔とかお前したことないだろ?」

【ええ、それは勿論。私はそんな感覚知りません。いつだって最良の道を選びますし、そうでなくても楽しい方を選択します。後悔なんて、知ってるのは文字と意味だけですよ】


 だと思った。苦十の奴はわかってる様に語るけど、実は全然わかってない。そんな言葉で済ませれる程、簡単な物じゃないんだよ。後悔っていう字は、字には表せない重さがそれぞれにあるんだよ。

 だからこそ誰もが愚者であることを知ってる。後悔は消えたりしない。本当にやり直したいと思う事は、どんなに時間が経ったってふと時々思い出す筈だ。囚われるよ……どこまでだって。それが後悔だ。

 人生は選択の連続……正しかったと思える方を選択することの方が稀だろ。僕は自分の指に残った指輪を見つめる。この指輪は誰かの後悔とか、そういう全てを記録してるんだろうか? 


「苦十、お前に教えといてやるよ」

【何をですか?】


 僕は手に持ってたセラ・シルフィングを鞘に納める。ボロボロだった本はいつの間にか消えてた。多分、この場所とあの風化した空間とを繋ぐ為の鍵となって向こう側に残ったんだろう。空いた手に握るのは三つの鍵。

 近寄っていく金色のゴーレム。延長線上の時間でならこの金色のゴーレムと背中合わせに二体のゴーレムがあるはずだったような……いや、アレはゴーレム自体を転送してた訳じゃないか。繋げてたんだよな。この台座と別の二体のゴーレムを収めた台座とを。

 ここには一体だけ……だけど、繋がった筈のまま。


【ちょっとぉ、何は何なのですか? 興味有りますよ】


 僕が続きの言葉を言わないから、不満気に頬を膨らませる苦十の奴。だけど何故か全然可愛くない。こいつには愛嬌が圧倒的に足りないな。どんな顔しても、なんか不気味というか……多分雰囲気が変なベールを覆い被せてるんだろう。

 苦十の奴の不気味な頬をふくらませた顔はスルーして、僕は鍵を金色のゴーレムに向ける。それは法の書の鍵だ。鍵から放たれた光はゴーレムに届くと同時にその内部に浸透するように消えてく。頭に広がる白紙のページ。法の書、それに苦十の力があれば、知れる。この仕組が。僕は苦十に視線を向けて、その膨れっ面に向かって手を伸ばす。


「後悔はさ、いつまでも自分を苦しめる。そういうものだ。許される日が来るんじゃない。許す日が来るだけだ」

【それがなんですか?】

「だからきっと【愚者の祭典】は許されたい奴が、やり直したい奴が、無かったことにするために使える物じゃない。愚者が祀るのはいつだって憧れだろ。なかった事になんかしない。愚者の祭典は憧れに届く力だ。

 愚者なんて言うなよ。僕達はいつだって挑戦者だ」


 響く声は、静かに広がって消えていく。するとクスッと、苦十の奴はわかりやすく笑った。そして僕の手に……いや、指にわざわざ自身の指を絡めてくる。なんでそんな恋人繋ぎみたいな事を……ちょっとドキドキしちゃうだろうが。


【面白い。やっぱりスオウは面白い。挑戦者……いいですね。可能性を感じます。やりましょう、仲間を街を取り戻す挑戦を】


 そう言った苦十の手から何かが流れこんでくる。苦十の奴が法の書に介入し始めたんだろう。その証拠に僕の頭には開かれてるページに文字が浮かんだり消えたりしてる。何かをやってるのは確か。それに心なしか、こいつの虹色してる髪の色の変化強く成ってる様に見える。


【さあ、愚者の祭典をその手に】


 僕は頷いて、愚者の祭典を鍵から出す。てか初めて反応してくれた。その姿は案外小振りな置物? すごいテカテカ光ってる艶やかな動物の置物だ。翼を四つ広げて大空に今にも羽ばたきそうな、鳥? に近い動物が出てきた。

 やっぱりそうだ……これはやっぱり第二研究所の建物の姿に似てる。それぞれの研究所は三種の神器にリンクしてた。これで確実に確定だろう。


【情報の共有は完了しました。バンドロームを通しての、時間結合も反則アイテムが揃ってると楽勝ですね。範囲はこのブリームス。時間は消滅の少し前へ。条件は満たしました。バックアップを発動しましょう】

「ああ、そうだな。リアルでは絶対に不可能だけど、ここなら行ける。もう一度、あの時へ!! 愚者の祭典––発動だ!!」


 手の中の愚者の祭典がその羽根を羽ばたき出す。そして大きく……大きくなっていくと同時に僕達を包み込み飛び出した。周囲がいつの間にか流れて行ってた。僕達は今、時を戻ってる。

 第六百三十六話です。

 いや〜やばかったですね。ギリギリ月曜セーフです。危ない危ない。もうあんな一ヶ月四話位しか投稿できないとかゴメンですからね。どんどん進めますよ!


 てな訳で次回は水曜日に上げます。ではでは。

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