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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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日差しのスクリーン

 俺がまだまだ初心者だった頃、見るもの全てが輝いて、聞くもの全てに新鮮さがまだまだあった頃、俺は一人のプレイヤーと出会った。モンスターに追いかけられてた彼女を救おうとしたのが初めてのきっかけ。

 だけど結果は散々だったと思う。けど、それでも俺達は友達になった。そして俺達は笑え合えたんだ……あの頃はさ。


 それはまだ、俺がLROと言う世界に足を踏み入れて一ヶ月も経ってないときの事。要するに今のスオウと同じぐらいの時期。けどスオウほど切羽詰まってた訳じゃない。

 てか、始めたばかりであそこまで追い込まれる事なんてまずはないんだ。天候に併せて出てくるエレメンタルって言うモンスターにうっかりアクティブされる位がせいぜいさ。

 アイツ等は物理攻撃が蚊程しか効かないから初心者にはとっても辛い。うっかり目の前の敵に集中し過ぎると背後から強力な魔法が飛んでくるんだ。

 初めて一ヶ月位のちょっとこなれた感じのビギナーは、過信して一度は奴らに挑んでやられる。ただ漂ってるだけのクリスタルの固まりみたいなエレメンタルについつい手を出すのは冒険者の性みたいな物なんだ。

 そしてそんな冒険者を俺はあの日も見た。そのフィールドはアルテミナスからそれほど離れてない場所にある湿地帯で地面には靴を濡らすほどに水が張っている。

 その水には大小異なる緑の葉が浮いていてポツポツと薄紅色の蕾を称えた物もあった。湿地帯には濡れない様に木で出来た一本道もあるけどそれを利用するのは純粋にここを通り抜けるプレイヤーだけだ。


「きゃあああああああああ!!」


 そんな湿地帯に響きわたる声を聞き、俺は今し方手にした戦利品を確認する手を一度止めて前を向いた。すると一人の少女が例のエレメンタルから逃げてるのが見えた。

 その格好はいかにも初期装備ぜんとした物で、つい数週間前までの自分の格好と似通ってる。この世界に降り立ったばかりの格好。もしかして『祝福』もまだなんじゃ無いだろうか? 

 って、そんな考察してる間に彼女のHPはヤバい位に減っていた。エレメンタルの使う魔法は街からそれほど離れて居ないこの辺りでは最上の部類だからあの装備の初心者なら四・五発モロに当たればHPは削りきられるだろう。


「やれるか? ……って、迷ってる場合じゃないか!」


 俺は走り出す。最近ようやく買った槍を力を込めて握りエレメンタルに攻撃を入れる……って、え?


「ノーダメージ?」


 確かに当たった感触もあったし、何よりスキルが通った派手な音がした筈だ。けれどダメージが通ってない事は確か。エレメンタルは俺にターゲットを移さずに彼女を追いかけてるし、これはもしかして……


「おい君! 緊急コールを出せ! そうしなきゃ助けられないんだ!」

「え? え? え? なんですかソレ?」


 彼女は粋なり声を掛けてきた俺に一瞬驚いた顔をしたが直ぐにそんな事は隅に追いやった様だ。てか、本当に初心者なんだな。それもきっと入りたての部類だ。

 だって初心者は緊急コールを自然に覚える。初心者はどうしても追われる事が多いんだ。最初は誰だってモンスターの特徴とか習性とかを理解してないからそれは仕方無い事でしょうがない。

 だから戦闘の一通りの基本の後には必ず緊急コールと成ってくる。けど目の前の彼女はそれさえもまだの様だから戦闘そのものが初なのだろうと推察出来た。それってつまりはド素人だ。


「ウインドウを出して、左端下にあるマークを押すんだ! それでこのフィールドに居る全プレイヤーに緊急コールが通達される! そしたら攻撃が通る様に成るから早く!」

「は、はい! ……ええと」


 彼女はなんとウインドウを出すのにももたついていた。ただ右手の人差し指と中指を伸ばして下に振るだけなのにだ。

 そうこうしてる間に詠唱を終えたエレメンタルの魔法が再び発動しようとしてる。まだ彼女が生き残れてるのは奴が使う魔法が強力なのしか無いことだ。そのおかげでイチイチ詠唱に時間が掛かっている。

 だけどエレメンタルの特徴として詠唱中断は有り得ない。奴は普通攻撃を受けて止まる筈の詠唱が止まらないんだ。だからこそ逃げるのもやっかい。奴の餌食に成るのは初心者の最初の災難と言ってもいい。

 俺は彼女とエレメンタルの間に割り込んで武器を盾代わりに構えた。そして直後に放たれる水の固まりに吹き飛ばされる。


「ぐああああ!」

「だ、大丈夫ですか!?」


 彼女を追い越して水しぶきを立てる俺。驚愕した彼女は慌てて駆け寄って来た。流石に初期装備から一・二段上がった位の装備ではエレメンタルの攻撃はきつい。

 けど予想通り攻撃を代わりに受ける事は出来る様だ。一回分は彼女を守れた事になる。でもこのままじゃ守れても助ける事は出来ない。


「大丈夫だから、早く緊急コールを! 人差し指と中指を立てて下に振るんだ!」

「あっ……はい!」


 そしてようやく彼女はウインドウを出して緊急コールを宣言する。それは俺にも直ぐに届いた。


(よし、これで)


 再び詠唱に入ったエレメンタルからはその姿に合った光が周りから出ている。今回のエレメンタルに限っては青い水の色。エレメンタルは固有の属性の魔法しか使えない。赤色なら火で青なら水、緑なら風で黄色は雷とかそんな感じだ。

 だから次も水系の魔法がくるだろう。しかしまだ詠唱には時間が掛かる。緊急コールも入った。今しかない! 俺は勢いよく立ち上がり駆け出す。そしてエレメンタルに一太刀を浴びせた。


「ちぃ……新調したのにこんなもんかよ!」


 エレメンタルのHPはごくごく僅かばかりの減少でとどまっている。悪態を付くが元よりそれは分かってた事。エレメンタルに物理攻撃だけで勝とうと思うのが無茶な話なんだ。だからさ――


「あんまり減って無いですね」

「それ、言わないで欲しいんだけど!」


 なんだか戦闘に緊張感が生まれない。いや、一撃入れた時はいつものピリピリする感じが確かにあった。だけど彼女の言葉が入るとそれが流される。

 今度はスキルを乗せた攻撃を叩き込む。小さな爆発が起こりエレメンタルは後退した。


「うああ、惜しい!」

「何が? ちゃんと当たったぞ!」


 律儀に彼女の声に反応する事は無いんだろうけど、思わず声を出さずには居られない。本当に何を見て惜しいと思ったのか謎なんだ。

 けれど答えを聞く前にエレメンタルの魔法が俺を襲う。地面を満たす水面から水流の渦が突き出して俺の体を貫いた。


「――っつ!?」


 HPがかなり持って行かれた。さっきよりも強力な魔法。思うんだけど、これって……勝てなく無いか? 二回の攻撃で俺のHPは目に見える位に減っている。それに対してエレメンタルはそうじゃなくまだまだ微細だ。

 どう見積もってもこちらのHPが尽きるのが早いだろうと思える。だけど今更引けない。再び詠唱に入ったエレメンタルへ通常攻撃とスキルを組み合わせた連続攻撃を叩き込む。

 今の自分の全力全開……前よりは確かに俺の攻撃は効いている。と、言うかここら辺なら俺は既に一人でも倒されないと自負している。エレメンタルを除いては。

 それか偶に出現する通常モンスターの巨大バージョンではなければだ。けれど本当にエレメンタルとは相性が悪い。それを言い訳にする気は無いが……俺って格好悪いな。


「いけいけーやっちゃえー!」


 押しているらしく見える彼女は俺に精一杯の声援を届けてくれる。けれどそれはここLROをまだまだ知らないからそう見えるだけ。実際は今の俺に勝算は無い。

 俺は脳天気に声を上げている彼女に声を飛ばす。


「おい君! 今の内に逃げるんだ! 俺がタゲとっておくから」

「ふぇ? タゲ? どうしてですか?」


 疑問符が三つも続いて彼女は首を傾げる。どうやら彼女はネットゲームも初体験みたいだ。


「タゲはターゲットだよ。どうしては・・言いたくないけど、俺だけじゃ勝てないからだ! だから君だけでも逃げた方が良い」

「え……そんな? だって勝てるんじゃ無いんですか?」


 う~んそれは当然の疑問であるのかも知れない。助けに来てくれる人は誰もが頼れる様に見えて、自分より前からここに居る人達は等しく屈強に見えるんだ。

 だからその人が負けるなんて初心では思えない。俺もそうだった。そして憧れたんだ。いつか自分も誰かを救える立場に成りたいって。


「そう思ってたんだけどさ……すまん。俺もまだ一ヶ月くらいしかLROやってないんだ。少しは強く成ったし、君を助ける位出来ると思ったんだけど……守ることで精一杯みたいなんだ。だから君は逃げた方が良い」

「そんな……」


 彼女の失墜するような顔が一瞬見えて視界がブレる。奴の魔法が再三に渡って炸裂したんだ。後方に吹き飛ばされるが、何とか彼女の手前で踏みとどまった。

 俺ももう逆の立場になれると思ったんだけどな。あんな顔をさせたくなんか無かった。初めてLROに来た新しいプレイヤーに夢を伝えるのが先駆者の勤めの気がしてた。

 俺はあの時、助けられた時に確かにここに夢を見た。希望と言ってもいいのかも知れない感激。リアルでそれを実感する事は少ないからさ、曖昧だけどきっとそんな感覚を味わった。

 もしもあの時、助けられずに死んでいたらただのゲームで終わってたかも知れない。そして今俺はそんな事に彼女をしようとしてる。

 情けない……俺もまだまだビギナーの域から全然出てなんか居なかったんだ。それなのに逆の立場なんて笑わせる。


「でも……それなら……二人で逃げましょうよ! 私を守る為に貴方が犠牲に成ることなんて……良く知らないけどこういうゲームには死亡時にリスクがあるって聞いてます」

「まあ、確かにリスクはある。数時間分が無駄に成る位のリスクがさ」

「それなら、わざわざ数時間分を無駄にする事なんてありません。貴方は善意で助けに来てくれた訳じゃ無いですか」


 彼女の言葉に俺は自信満々に首を縦に振れるだろうか?俺は本当に善意だったのか……ただ、そうしたかっただけじゃないのか? そういう思いが頭に浮かんでくる。

 結局は良い格好を見せたいのと自己満足……そうなんじゃなかっただろうか? 初心者が陥りやすい過信。敵と自分との力の差を見極められない俺が誰かを助けようなんてまだまだ甘すぎた。

 でもさ……この際もう費やした時間なんて関係ない。初対面でも何でも、倒せなくてもどうしても、俺は彼女にそういう世界とは思わせたくない。

 自分のせいで始めたばかりの彼女にLROを見切られるなんて事はイヤなんだ。


「ダメだ! それだけじゃあ! 善意でも何でもやれなきゃ意味なんて無い! 俺は君を助けたい……でも無理なら……せめて逃げる時間を稼ぐ位はさせてくれ!」


 もうこれは勝手な言い分だ。親切の押し売りも良いところだ。でもさ……この程度と思って欲しくない。ここはリアルに無い、いろんな希望が有るところだと思わせたい。

 自分がそう感じた物を彼女にも見せて好きに成って貰いたかった。けど……それは淡く崩壊仕掛けてる。だからって一番やっちゃいけないのはここで彼女を見捨てる事なんだ! そんな事したら彼女はもうLROに入らないかも知れない。

 俺の周りでは居ないけど、最初にモンスターにやられるのがトラウマになる人だって居ると聞く。そんな事にさせてたまるかよ。


「うおおおおおおおおおおお!!」


 長い槍がうねりを上げてエレメンタルに襲いかかる。けどエレメンタルの詠唱が止まる訳じゃない。そして俺の胸の位置でそれは光った。

 エレメンタルの次成る魔法。俺は防御なんてする気はない。ただ少しでもこの場に釘付けに! けどそう思ったとき、魔法が炸裂する寸前・・俺の体は横から衝撃を受けた。


「ダメ! ……だっだめぇ~~~~!」

「うあっ、ちょ!?」


 魔法が俺達の頭上を越えていく。それを横目に見たとき、俺は水の中に横倒れした。そしてその傍らには彼女の姿。つまりは彼女が俺に体当たりしてきたって事だ。

 不発に終わった魔法が遠くではぜる音が聞こえて、エレメンタルは次弾の準備に取りかかる。少しの時間の猶予。その間に俺は彼女に詰め寄る。


「な、何で逃げないんだよ!?」

「だって……私だけ逃げるなんてそんなの出来ません! 私だって戦う位……出来ます!」


 そう言って彼女は腰から剣を抜く。それは一番始めに支給される片手剣だ。どう考えても心許ない。てか殆ど無意味だ。エレメンタルには一桁位のダメージしか与えられないだろう。


「そんな初期装備の剣じゃ何の意味も無い! 君は逃げるんだ!」

「イヤです! 意味なんて無くてもいい! 私は私を助けようとしてくれた人を見捨てるなんて出来ません! 例えこれが木刀だって私は戦います! てやぁぁぁ!!」


 カンカンと彼女の剣がエレメンタルを打ちつける音が虚しく響く。HPの減少は数字一つ分位でほぼ視認する事も出来ない微々たる物。

 それでも彼女は真剣で……精一杯なのが見て分かる。そんな彼女にこれ以上俺に何が言える? 全ては俺がふがいないせいじゃないか。だから彼女は一緒に戦うと言ってるんだ。


「ほら早く! 今の内にいっぱい攻撃しましょう!」

「ああ……もう仕方ない奴だな! 絶対やられるぞ!」

「それでも、一人で死ぬよりも、一人で助かるよりも全然良いですよきっと!」


 彼女は笑う。二コッと気持ちいい位の笑顔を見せてくれた。それを見たらなんだか心が軽く成った気になった。これまで背負い込んでた物が持ち上がった感覚。

 だってそんな選択肢は俺の中には無かったから。意味の無いこと……何だろうけどな、二人ともやられたらさ。だから俺は自分の言ったことに抵抗しようと思った。俺達はどっちも諦める様な発言をしながら全然行動はそうじゃないんだ。

 結果にはそっちの方面も念頭には入れとくけど、彼女は逃げる気無いみたいだし……ならまだまだ俺が頑張るしかないじゃないか! それにスッゴくどうでも良い位の攻撃でも手数が増えたことに変わらないしな。


「おいアンタ、これ飲んどけ! そのままじゃ後一回魔法喰らえばやられるぞ」

「え……あっはい!」


 彼女は俺から受け取った瓶を口に当てて傾ける。それはHP回復薬で中に入ってる薄いピンクの液が彼女のHPを少量だけど回復してくれる。

 そして俺は今持ってる全部の回復薬を彼女に渡す。彼女は目を丸くしてたけど「戦うんだろ」そう言ったら頷いて受け取ってくれた。やられるにしてもさ……絶対俺より先には逝かせない。


「やるんなら覚悟決めろよ!」

「勿論! やれるだけやりましょう!」


 俺達は頷き合い、そして二つの武器でエレメンタルに襲いかかる。



 俺達は二人で一つの敵と庇い合いながら戦った。炸裂する魔法の光は一定間隔でその場を照らす。

 いつ終わるかも分からない戦闘で、いつしか俺はエレメンタルのHPも自分のHPも見てはいなかった。そして幾度の魔法を受けきり、幾重の太刀を振ったかももう分からない。


「うおおおおおおおお!」

「うああああああああ!」


 俺のスキルがエレメンタルに通る。切り口が黄色く光りそこから電撃が吹き荒れた。そして彼女の剣がカン! と鈍い音を立てて弾かれる。てか彼女の扱いのせいか、武器のせいか、彼女の剣は一度も切れない。

 弾かれた勢いでその場に尻餅を付いて水面に波紋が広がった。魔法の詠唱も終わり、エレメンタルは倒れた彼女に向けて魔法を発動しようとしている。

 もう回復薬も底を付いてお互いに後一撃魔法を喰らえばお陀仏状態。彼女は態勢が崩れてるから避ける事も出来ない。俺は振り返りとっさに飛んだ。

 そして空中で槍を両手で握りしめ頭の後ろまで振った腕から勢い良く振り下ろす。目指すはさっきの攻撃と寸分違わぬ場所。そこはまだスキルの影響でヒビが残っている。 砕けた音と青いエレメンタルの破片がその場に散った。槍は彼女の目の前まで突き出している。けれどそれでも魔法は止まらない!


「おい! その剣を!」

「……はい!」


 俺の声に反応した彼女は水に浸っていた剣を真っ直ぐに突き立てる。それは槍のすぐ横を貫いて俺のわき腹までも掠めた。初めて彼女の剣がその鋭さを見せつけた瞬間。

 だけどその時、魔法が発動か暴発した。エレメンタルを中心に水が半円系に渦巻いて俺達もそれに巻き込まれる。グルグルグルグル小さな空間で回り続け弾けたときにはエレメンタルは崩れさって消えていった。

 どうやら俺達は勝ったようだ。メッチャ気持ち悪いけど、それでも勝ちは勝ちだろう。地面に二人して仰向けに倒れ込んでいる。すると頭頂部の方から笑い声が聞こえてくた。


「うふふ……あははははは! 私たち勝ったんですね」

「ああ、そうだな」


 俺は力無くその質問に答えた。


「やった! やった! やりましたね。私達は勝利を掴んだんだ! これって凄い事ですか?」

「ああ、超スッゲーよ。もう最高~って感じ」


 実際なんで勝てたか分からない。殆ど偶然か……奇跡みたいな物だ。でも、今は素直に嬉かった。発した言葉も嘘じゃない。それだけの元気があれば体で表現したい所なんだ。

 でも体は脱力中……全ての力は使いきった。


「私達……なんだか良い感じでした」

「うん? 確かに途中からは良かったかもな」

「ですよね!」


 バシャバシャアアと音を立てて彼女が俺の顔をのぞき込んできた。なんだかとても顔の位置が微妙というか絶妙な具合だ。目線はバッチリ合うし、彼女の濡れたストロベリーブロンドが頬に優しく落ちている。

 彼女もその絶妙な具合は予想外みたいで、顔を遠ざけられない俺の変わりに肘を最大限に伸ばして自身を遠ざけた。顔は真っ赤で口はパクパク……それはきっと俺も同じ様な状態だと思う。

 少し離れた彼女の隙間からLROの太陽が見えていた。その光は濡れた彼女を照らして、彼女の全身から光の粒子が出ているような錯覚に捕らわれる。

 それはきっと彼女から流れ落ちる水何だろうけど、俺にはそう見えた。彼女が煩わしい髪を耳にかける動作とかの時に粒子は飛び散り揺らめいて色を変えている。

 そんな彼女に見とれていると、いろんな場所をさまよった視線が再び俺に合わせられた。そして彼女の口が開く。


「あの……私とフレンド登録しませんか? 時間が合うときでいいので一緒に冒険出来たら嬉しい……なあって。私全然初心者だけど頑張りますから!」


 彼女は言葉が募るほどに興奮してズンズン近づいていた。最後の所では息が混じり合う距離だ。それに言い終わって気づいた彼女は再び距離を取る。そして互いに息を整えてから俺は口を開いた。


「そう……だな。まあ全然いいよ。俺なんかで良いならさ」


 そう言うと彼女の笑顔が花開く。そして真横にバシャーンと倒れた。波打つ水が俺の顔を汚染する。ゲホゴホ蒸せた。するといつの間にか俺の手に添えられた温もりが有ることに気づく。横を向くと彼女がこっちを向いていた。


「こちらこそ、私なんかでごめんなさい。私『アイリ』って言います。ネットゲームというかこういうゲーム自体初めてのド素人です」

「やっぱり、それ思ってた。俺は『アギト』こっちは一ヶ月位やってるけど、どうやらまだ初心者らしいからよろしく」


 そんな事を言い合った俺達は数秒見つめ合って吹き出した。そして俺達の笑い声はこのフィールドに長く響いたんだ。



 カランコロン…喫茶店特有のそんな入店時の音が響き俺の意識は過去から現在へと引き戻された。目の前にはハンカチで汗をトントン拭う愛が居る。

 そんな俺達のテーブルに一人のウエイトレスがやってきた。


「ご注文はお決まりかな? あれれ~なんだかお似合いのお二人だね。そんな二人には当店自慢の大福かき氷でもサービスしちゃおう」

「ブッ!?」


 聞き慣れた声……異常なテンション……横に居るウエイトレスは何故か日鞠だった。

 第六十二話です。

 いきなり話が飛んですみません。でもそろそろいいかなぁ~って事で書いてみました二人の出会い。長くなったけど……てへ! 次は最後の部分の続きからですね。

 でもここで悪いお知らせです。もしかしたら諸事情でしばらく更新出来なくなるかもです。まだ分からないけど……ちょっと実家の方で色々とです。まあ、でもその時は活動報告の部分にでもお知らせしときます。

 実家はネット環境整ってないんですみません。帰らなくてよくなれば良いんですけどね。本当に色んな意味で。

 てな訳でこれは予定として次の話は木曜日に更新出来たらいいな。

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