表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
589/2694

クリエの中

 青々とした草木をかき分けながら、僕達は最短の道なき道を進む。後方の高い壁の内部からは慌ただしい音が耐えず聞こえてた。多分この音が続いてる間は善戦してるって事だろう。やられたらのなら、こんな戦闘音は聞こえてこないだろうしな。

 なるべく頑張ってもらわないと……そう思ってると、開けた場所に出た。そこに鎮座してるバトルシップことグリンフィードと奥の建物は無事だな。けど、第二研究所の奴等はどこに?

 既にここに居るはずだけどその姿が見えない。僕達はトコトコと建物に近づく。なんだかそれなりの人数が居るはずにしては静かすぎるような……


「なんか変ね。まさかもう喰われた?」

「お前な……」


 喰われたってなんだよ。流石の奴等も食ったりまではしないだろ。まあコードは食ってるみたいだけど、その存在までって事はない。そもそもコードって一体。結構前から気になってたけど、ハッキリした事はわかってないよな。

 多分LROというシステムが蓄積してる僕達個人のデータか何かなんだろうとは思うけど……それを奪う事で奴等はなんだか強くなるっぽい。それも何でだよ……と言いたい所だよな。

 他人の経験を奪うことで、手っ取り早く経験を蓄積してるとか? それとも……沢山の人間のコードを得ることで、奴等自身が人間に近づいてる……とか? でもコードって別にプレイヤーだけじゃなくNPCにも有ったような。

 でも特別なNPCにしか無いのかも、それの場合はやっぱりその特別な権限の獲得が目的……全ては憶測だけど。そもそもあいつらが人間になりたいのかって感じだし。テトラのコードを奪って奴等は神の権限を手にした。それはマザーに近づく為に必要な物だから……マザーに変わってその地位を手にすれば、本当の意味でこのLROを支配できるんだよな?

 それはセツリが望む世界を作る上で必要な事らしい。って事は自身の強化もあるんだろうけど、奴等は全てがセツリ第一だから新しい世界を作る上でもしかしたら必要なのか? でもセツリ自体が人間不信というか……付き合い方を忘れてる感じでプレイヤーの存在は必要ないって感じだったよな。

 自分が描く理想郷にここをしたいはず。その為の駒がシクラ達……自分に優しく、甘く、絶対に否定なんかされない世界。その為の下準備をシクラ達はやってるんだよな。コードにこだわるのは何かあるんだろうけど、その何かはまだよく分からない。


「取り敢えず中に入るわよ。テトラは中に居るんだし、それにアンダーソンにどうなってるか聞きたいしね。もしかしたら第二の連中来てないのかも」

「流石にそれはないんじゃ?」


 そう思いつつ、僕達は扉の前へ。確かに不自然に静かだけどさ、第二の連中が迷子にでも成ってない限り、それはない。そして勝手知ったるであろうこの街でそれは絶対に無いだろう。子供じゃないんだしさ。

 もしもまだ来てないんだったら、あの人達どこ行っちゃったの? だよ。そんな事があるとしたら神隠しみたいじゃん。この街でそれとか洒落ですまないぞ。一度そんな事有ったんだからな。

 まあもしかしたら、三種の神器がこの街に戻ってきたせいで、何か変な影響を与えてるって可能性も無くはないのかも知れないけど……けど勝手に発動とかしてないと思うんだけどな。

 もうそんな暴走する状態じゃないはず……だと思いたい。でもよく分からないからなアレ。でもまた神隠しなんか物が起きてるとしたら……流石に手におえない。きっと皆中で談笑してるに違いない。木製の建物だけど、案外遮音性に優れてるんだきっと。そんな願いを僕は込めるよ。

 そう思いつつ、僕はドアを開こうと僧兵の肩に乗ってドアノブに手を延ばす孫ちゃんを見る。ここは人基準で作られてて、しかも他の種族への配慮もないから大変そうだ。外なら、人の国だと言っても、冒険者やら観光客やら交流が国通しであるから、ある程度配慮した作りに成ってるわけだけど、ここはずっと人しか居なかったから、そう言うモブリへの配慮は皆無だよ。

 だからこそ物珍しそうに見られるんだよね。するとなんとか届いた孫ちゃんがドアノブを回してドアを引く。僅かに開いた隙間に僕が手を入れて、閉まらないようにストッパーになる。

 そして三人で開いた。するとその瞬間、僕達の頭上を何かがゴウッ! と言う轟音と共に通り過ぎた。


「え?」


 そう呟いて後方を確認すると、後方の木に何かぶっ刺さってる。なんか十字架っぽいの。すると内側からこんな声が聞こえた。


「きっ、来てみなさい! ここは私が守ってみせる!!」

「「「あわわわわ………」」」


 勇ましい声は間違いなくミセス•アンダーソンだな。てかその周りの彼女の数倍デカイ研究員共の態度はなんだよ。ダメダメ過ぎだろう。全員ミセスアンダーソンの影に一生懸命群がってるぞ。


「アンダーソン、私よ。身構える必要なんて無い」

「何だ。だけどアンタは敵だけどね」

「上等ね。このオバサン」


 胸の十字架から手を離した癖に、何故か二人して睨み合ってる。全く同族なんだし、少しは仲良くしろよな。ホント二人は仲悪い。まあ元老院側と教皇側だし、しょうがないのかもしれないけど。


「おいおい、今はそんないがみ合いしてる場合じゃ––」

「クリエちゃん? 良かった無事だったのね。でもどうしてここに? スオウ達は?」


 そう言って後ろを確認するミセス•アンダーソン。まあそうなるよな。クリエは僕達についてったんだ。クリエが居たら、僕達も帰ってきたと思うのが普通だろう。だけどこれにはややこしい事情がね……そう思ってると孫ちゃんが笑いを押し殺す様にしながらこういった。


「無事ね。果たしてそうかしら?」

「どういう意味? まさか……この娘以外……ぜんめ……」

「まてまて、流石にそれは縁起悪い」

「あれ? なんだかクリエちゃん、口調変わった?」


 そう言ってちょっと疑問を抱いたアンダーソン。だけど流石に気付かないよな。てか発想できないよな。しょうがない。驚かせるのはわかってるけどちゃんと言わないと。そう思ってると面白そうに孫ちゃんが先に言った。


「まだ分からないの? そいつはクリエじゃない。スオウよ」

「はっ、遂に頭までやられたの? 頭の中入れ替えた方がいいんじゃないの?」


 酷い言われよう。アンダーソンも少しはオブラートに包もうよ。いつもはそんな言葉に速攻で噛み付く孫ちゃんだけど、今回は余裕を持って受け流してる。自分だけが知ってる事実が、アンダーソンよりも上位に居ると言う優越感を与えてる様だ。


「ふふ、無様ねアンダーソン。私の言ってることは正真正銘の事実よ。見た目だけでしか他人を判断できないなんて三流じゃない? 中身を見なさいよ。中身をね」


 勝ち誇ったような孫ちゃんの言葉を受けて、アンダーソンがこっちを注視する。そして「本当なの?」と聞いて来たから、僕はコクリと頷くよ。するとその瞬間両方を掴まれて揺さぶられた。


「どういう事なの!? 説明しなさい!!」

「あああうううう……だからええっと––」


 揺さぶられながら僕はカクカクシカジカとこうなった経緯を説明した。


「なるほど、第一研究所でそんな事がね……本物のクリエちゃんは無事なのかしら?」

「さ……さあ、そこまでは。なるべく早くどうにかしたいけど、今はそれどころじゃなくなったってか……」

「そうよ! そう言えばアンタ達!」

「ひっ!?」


 孫ちゃんは視線を鋭くしてアンダーソンの後ろに固まってる白衣の集団を睨みつける。なんかおかしな光景だな。モブリなんて人に踏み潰されたっておかしくないのに、そのモブリが人を脅してるんだもん。


「なんでこんな所でサボってるのよ? バトルシップの方はどうなってるわけ?」


 そう言ってビシっと扉の外のバトルシップを指さす孫ちゃん。そんな孫ちゃんの凄みに一番前に押し出されて来たヒョロッとしたモヤシみたいな人がこういった。


「そそそそそれはずしね、懐石途中に街の方で騒ぎが起きだしたずしから、こうやって取り敢えず避難を最優先に考えたずしであります!」

「……どうでも良いけど、アンタのその’ずし’って口調なに?」


 超気になってた事を孫ちゃんが速攻で突っ込んだ。いやホント、ずしって出てくる度に思考がそこで停止するんだよ。なんだ––ずし––って。キャラ付けかよ。どうやったらそんな阿呆な口癖が吐くのかしりたい。


「ひょ、それはずしね……ううううひゅまれ付きでありまずし!」


 いやわざとだろ––と言ってやりたくなった。なんかイラッと来るな。だからだろう、孫ちゃんが更に鋭くした視線を突き刺してるもん。


(おいおい嬢ちゃん、そんな遊んどってええんか?)

「そうだな」


 目玉に指摘されて僕は前に出るよ。


「皆さん、この目玉の中に第一研究所のデータがあります。それを解析してください。そして真っ先に僕とクリエの精神を入れ替えた錬金アイテムを作ってください」


 するとその言葉を聞いた第二研究所の皆さんのテンションが一気に変わった。さっきまでアンダーソンの後ろでガタガタ震えてたのに、第一研究所のデータって所で皆さん唾を飲み込む様な動作をしたよ。


「こ、この中に第一研究所のデータがずしか?」

「まさか……本当に手に入れるなんて……」

「これがあれば我々も……」


 皆さんなんか怪しい感じにテンション上がってるな。普通ならはしゃいだりってのが普通なんだろうけど、研究者だからか、心の内でみんなテンションを上げてるみたいだ。みんな微妙に笑ってる感じ。

 だからかなんか気持ち悪い。


「アンタ達、ちゃんと解析出来るのよね? これで出来ませんでしたとか言わせないわよ? 

バトルシップもまともに調べてないみたいだし……」

「そそそ外は今危ないずしし……けど中で出来る分、こっちは大丈夫すしよ」

「じゃあ僕達を元に戻すアイテムも再現出来るよね?」

「それは……内容を見てみないとずし。膨大な量あるずしなら、見つけるだけでも大変ずしし」

「確かにそうかもだけど、検索くらいこいつがやってくれるよ。だろ?」

(まあの)


 僕の言葉に目玉が頷く。それを見てた第二の皆さんは「おお!」となってた。


「言葉を理解してくれる訳ずしね。それなら中のデータも調べやすいずし」


 ずしずしさんがそう言ってくれたから、僕は目玉を彼等に任せるよ。バトルシップの方ではどうやら期待外れだったようだけど、こっちは出来ませんでした––じゃ済まないからな。だけどアンダーソンが不安そうにこういった。


「人格を入れ替えるなんて……そんな物が簡単に作れる物かしらね?」

「だけど、誰でも扱える様に––ってのが錬金術だろ?」

「それは完成品でしょう。完成品を扱えば誰でも簡単にその現象を起こせる。それが錬金術じゃない? 完成品を作るのは誰にでも出来る事じゃない」

「なるほど」


 確かにそうっすね。でもここに居る第二の人達は第一には及ばなくても優秀なはずだ。ずし––とか言ってる奴もいるけど、一般人じゃない。天才と秀才の違いは何か……それはゼロから何かを生み出せるかどうかじゃないだろうか。

 天才には他人の及ばない発想で今までなかった物を生み出す事が出来る。秀才だって、沢山の数が集まれば、生み出せるのかも知れないけど、天才ってどこかやっぱり違うものだ。それよりも秀才はエリートなんだし、模倣するって事に間違いが起きない感じ。天才が生み出した物を一般に落としこむ事とか、そういうことが出来るはずだよ。だからきっと彼等はやってくれると思う。

 既に第二の人達は目玉が表示してる資料に目を通しながら意見を言い合ってる。そこには僕達の居場所はなさそうだ。こっちはこっちで出来る事をやらないとね。


「アンダーソン、テトラはまだ目覚めてない?」

「そうね。邪神にここまでダメージを負わせるとはね」

「多分それだけじゃないわ。この空間が多分原因じゃないかしら」


 やっぱりそうかな? 地下で孫ちゃんの話しを聞いてもしかしたら……って思ったんだ。テトラの奴が目を覚まさないのって回復出来ないからじゃないのか? 世界樹の力が極端に薄いこの空間の影響を実はテトラが一番受けてたのかも。

 まあだけど、そもそも世界樹の力の別タイプがテトラの力の源だったような気もするんだけどな。今世界に満ちてるのは確か女神の方の世界樹で、暗黒大陸にある方がテトラの力の世界樹だったような……それなら結局外でもここと変わらない気もするけど、何かが違うのかも知れないな。

 そもそも外の世界の方はテトラとシスカの二人の神が作ったとされてるわけで、結局テトラの力は世界に満ちてるのかも。でもここじゃそれを得ることが出来ない。だから、目覚める事が出来ない。


「アンダーソンだって気付いてるでしょ? ここでの魔法には限りがあるって」

「……そうね。確かに力の回復が望めないし、いつもよりキツイわ」

「それは歳じゃない?」

「うるさい」


 くくっと笑いながら言った孫ちゃんに恨みがましい視線を向けるアンダーソン。ホント、嫌味が好きな奴だ。


「まあようはアンタが気付いてる通り、ここには世界樹の力が届いてない。それは錬金の力が原因なのよ。錬金の力が増幅してこの空間に飽和してるから外の力は薄まってる。邪神が目覚めないのはそのせいでしょう。

 だけどこのままじゃ困るわ」


 そう言って孫ちゃんは外を覗く。ここまで来ると音も大分小さいけど、それでもザワザワとした何かは感じる。取り敢えず今までは少し休んで貰おうと思ってたわけだが、状況は変わった。奴等に対抗するには、テトラの力が必要だ。

 だからこのまま安穏と寝かしておく訳にはいかない。


「どうするのよ? 目覚めさせる手段なんかないわよ」

「それは……」


 孫ちゃんは今度は僕を見る。僕も実際何が出来るか……どうすればいいのかなんかわかってない。だけど、この体にはその可能性があると思うんだ。だから僕は頷くよ。


「やってみたい事がある」

「クリ……じゃなくてスオウ」


 僕達は部屋を後にして、テトラを入れたカプセル目指す。所長の話だと、この中で回復が出来ると言ってたけど、錬金の回復って魔法の回復と違うって事が分かったからな。多分じゃなく、やっぱりこれも意味なかったようだ。


「何やる気?」

「クリエのこの体には神の力が宿ってる。だから、それを渡す事が出来れば、テトラは目覚めるんじゃないか?」

「なるほど……確かに、それは考えられるわね。でも問題もない?」

「問題?」


 確かにそれを制御とか出来るのかはわからないし、アクセスする方法もわからない。けどさっき通常の力は殆ど使い切ったからな、ある意味今は神の力を引き出しやすい状態とも考えれるじゃん。それに賭けようかと思ってるんだけど……


「それは良いけど、その体って殆ど神の力で形作ってるんじゃない? やり過ぎると消滅とかあり得るような……この場所では供給も無いわけだし」

「う……」


 そう言われると確かに……全部持ってかれると、この体自体がどうなるかわからないな。けど、テトラが居ないと根本的に戦力が足りないんだよ。危険は百も承知だ。だけどやるしか無い。


「アンダーソン、孫ちゃん手伝ってくれる? 僕は魔法の力の制御とか殆どやったこと無いから……」

「私達だって神の力とか管轄外よ」

「そうね……何かが出来るとは思えないわ」


 それはそうなんだけど……でも一人じゃ不安なんだよね。だってさっきも意図せずというか……まあ全力を出すつもりでマジで全部出たし……ストッパーくらいは出来るだろ? 流れを見ててくれるだけでいいんだよね。


「お願い!」

「まあ神の力に興味はあるから……でも余計な事はしないわよ。爆発とかしたくないし」


 確かに良くクリエは爆発してたな。下手したらそれが起こるかもって事か……僕はアンダーソンの方も見るよ。


「しょうがないわ。魔法を使う時は心を静ませるのが鉄則よ」


 僕はその言葉に頷いた。そして最後に僧兵にこういうよ。


「ヤバそうになったら僧兵頼むな!」

「何をだよ!?」


 そんな突っ込みは無視して僕達は椅子を引っ張ってきて登ってそこからカプセルに移る。そしてボタン押して上半身部分のフィルターが開く。そこから内部に降りた。顔の側辺から頭に手を伸ばして目をとじる。

 その時両肩に二つの温もりを感じた。孫ちゃんとミセス•アンダーソンの手だろう。


「アンタじゃよく分からないだろうから私達も探ってやるわ」

「ええ、深層への道を辿りなさい」


 するとただ瞳を閉じてううう〜と唸ってただけの僕の意識がストンと何処かに落ちた気がした。深層心理に入ったのか? そのおかげか、元の姿になってる。そして暗闇の中に二つの光が弱々しく現れて奥へ進む。

 多分これが二人の導き。僕はそれを追ってクリエの内部を目指す。クリエという存在を形作る神の力……それを確かめるんだ。

 第五百八十九話です。


 そろそろテトラ復活ですかね。外の方も進展したし、こっちも進めないとです。


 てなわけで次回は土曜日に上げます。ではでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ