おなか減った
「ん……お腹減った」
目を開いて最初に口を突いて出てきたそんな言葉。なんてベタな事を言ってるんだって自分でも思ったけどさ、本能が勝手に言わせたんだよ。それにマジで今にもお腹と背中がくっつきそうな感じ。
「全く、呑気にお昼寝タイムに突入したと思ったら、今度はご飯ってどこまで緊張感無いのよ。こっちはアレからも色々大変だったのよ」
「大変ね……」
僕は小奇麗な孫ちゃんを見つめる。その横にはゼーハーゼーハー息を荒くして汚れてる僧兵の姿が……こいつ絶対に僕の事言えないよね? そりゃあ確かに寝たのはどうかと思うけど、あれはなんかしょうがなかったんだと言い訳してみる。
「多分大きな力を一気に放出したからなんだろう。でも驚いたよあいつを一発で吹き飛ばすんだからね」
「うん、クリエもビックリしたよ」
ハッキリ言ってあそこまでの物が出てくるとは思わなかった。多分マジでスッカラカンに成るまで魔力を放出しちゃったんだろうな。そこら辺の調整とか考えてなかったし……だからこそ直後に回復するためにも寝ちゃったんだと思うしね。
けど神の力部分には触れてないと思うから、表層程度でここまで消耗するものかな? っても思うけどね。もしかしたら僕という心はクリエの中の神の力を阻害でもしてるのか……それともやっぱり本質的にクリエじゃないから回路とかが違うのかも。
クリエなら普通の魔力とも繋がってて、勿論神の力とも繋がってるけど、今の僕は神の力方面とは繋がりがないとか……まあわかんないけどね。クリエの体なのは変わらないんだから、僕にだってやれば神の力を引き出せるのかも知れない。それが出来れば戦力に数えられるかもしれないんだけど……体の主であるクリエでさえそれ程制御出来てなかったからな。
爆発、爆発、また爆発……とやらかしてたし、魔法に全然慣れてない僕じゃあね。やる前から諦めるなんてのは駄目だけど、神の力って物が自分の中にあるって考えたら結構恐ろしい物だよ。
だって使い方間違ったらどうなるか……小規模な爆発で済めばまだいいほうだよ。でもさっきの魔法みたいに無駄に最大量を開放すれば、この街が今度こそ消滅とか……それこそ世界がヤバイ!! になりかねない。
いや、今でも十分世界はヤバイんだけど、それをなんとかしようとしてるのに、そのなんとかしようとしてる側がトドメ刺しちゃったら世話ないよねって事だ。だから無闇に神の力にアクセスしようとは思えないよな。
「アンタは制御って物を覚えたほうがいいわよ。普通はアレだけ一気に力を放出したらぽっくり逝ってもおかしくない。まあアンタは特殊だから大丈夫だったんでしょうけどね。そもそも詠唱も無しに力が応えてくれるんだもの」
んん? なんかちょっと睨まれた様な? 何かしたっけ? 孫ちゃんは感情の浮き沈み激しいからな。気にしてもしょうがないか。
「取り敢えずなんとかやり過ごせてるって事だよね? 良かった良かった」
「そうでもないわね」
何? 折角僕の初魔法で危機を脱出……とまでは流石に言えないのは分かってるけど取り敢えず先延ばしにするくらいは出来たはずだろ? 今度はどんな問題が差し迫ってるんだ? 正直聞きたくないけど、聞かないわけにも行かないからな。
「何々? なんなの?」
「そろそろ見れると思うわ」
見れる? 何が? そう思ってると、ガチガチやらガラゴロといった音が暗闇の向こうから聞こえてくる。ええ? マジでなんなんだ。僕は唾を飲み込んで闇に視線を集める。すると白い光が何個も光ってる様に見えた。
蛍か何か? でも音が可笑しいよな。ホタルこんなガチガチ言わせないし……そう思ってると闇の中からようやくその姿が現れてきた。孫ちゃんの花から放たれる光の中にそいつ等が入ってきたんだ。
そのミニゴーレムみたいな奴等がね。
「あれ?」
なんだろう……この拍子抜けしたみたいな感じ。いや、明らかに拍子抜けしてるけどね。なんかここ最近ずっと見た目も強さも半端ない奴等が続いてたからさ……ちょっとこれはね。第一で襲ってきた恐竜型のロボットも強さ的にそこまででもなかったけど、やっぱりあの大きさや恐竜ってインパクトは中々にデカかった。
だけどこれは……恐ろしいとか強そうとかよりも、まずは可愛いが先行しそうなデザインだぞ。いや、腐ってもゴーレムだしゴツくはあるんだけど……ゴーレムも小さくなると可愛いんだなって思った。
それになんかパターンが色々あるしね。普通の人型に、上だけ人で下はタイヤっぽく成ってる奴とか、体よりもデカイ腕だけで移動してる奴とか様々だ。でもどれもが今の僕……つまりクリエと同じ位の大きさってのがね……ここまで小振りにする必要性があったのかどうか。
防衛にしては頼りなさすぎじゃね? てかこれモンスターなのか?
「今アンタこれ雑魚っぽいとか思ったでしょ?」
「べべべべ別にそんな……小さくても強いって事は大いに有り得るよね」
「まあ雑魚だけど」
やっぱり雑魚なのかよ! その前の煽りはなんだよ! 無駄に緊張させるなよな。そう思ってるとミニゴーレム達はその小さな体で襲い掛かってくる。
「やりなさいアンタ達!」
「はぁはぁ––づあ!!」
「確かに雑魚ではあるんだけどね!」
孫ちゃんの言葉で僧兵と彼が武器を手にミニゴーレム達をなぎ払う。それはもう簡単に。一回攻撃が当たるだけでバラバラになって吹っ飛んでったよ。マジで紛れもない雑魚じゃないか。
だけどバラバラになって吹き飛ばされた筈のミニゴーレム達がおかしな動きをしだす。ガタガタとパーツが震えてそれらが勝手に集まりだしてる。そして元の姿に……ってあれ?
「なんか付ける所間違ってない? てか間違ってるよね?」
「あいつらはそんな事気にしてないのよ」
なるほど、だからこそ色んな形に成ってるわけか。自分のパーツを引き寄せてるんじゃなく、引き寄せれるパーツを闇雲に引っ張ってきてなんとか動ける形に体を形作ってるだけ……なんの執念だよ。怖いな。
てかなんか増えてないか?
「奴等はどんどん増える。もう何回叩いたか分からないほどだよ」
「そんな。完全に壊すことは出来ないの?」
「それが出来ればやってるわ。あれは多分この街の錬金エネルギーを供給されてるのよ。だからそれが途切れない限りは幾ら叩いても同じでしょうね。それに今のこの街に溢れる力なら……きっと無限に増えてくわ」
マジか……じゃあ下手に手出ししない方が良いんじゃないか? 増やしたって特には成らないだろうし、そこまで足も早くなさそうだしやり過ごすのが賢い選択のような気がするぞ。
「叩かないとどっちみち増えるのよ。叩いた方が少しは遅らせれる」
「だけど、第二から第一へ行く通路にはこんなの居なかったよ。どういう事なの?」
侵入を防ぐ策でもこうじてたって事だろうか? ありえなくは無さそうだけど……どうなんだろう。第二の人達が言ってた危険ってこいつらの事? やっぱり詳しく聞いとくべきだったか? でもあの時は気持ちが第一の方へ向いてたからな……てか第一の中に居る所長達は無事なのかも問題だよな。
ほんと問題がどんどん積み重なって消化不良だ。頭痛くなってくる。目の前の事を頑張ってれば……そう思ってたけど、それだけじゃ既にキツイ状況なのか……どうにかしてテトリスやぷよぷよみたいに一気に問題を消す手段は無いものか……五連鎖程度でいいからしてくれないかな。ホント切実に願うんだけど……
そんな事を思ってると彼が僕に向かってこう言ってきた。
「研究所はこの通路を使ってるのかい? いや、有り得なくはなかったか……」
なんだか勝手に解決してる? でも一応言っておこう。
「使ってたよ。綺麗––って程でもないけど整備されてて、ここよりもずっと広かったな。秘密のやり取りをするには良いんだって」
「確かに研究所どうしで行き来しあうのには便利だね。研究データは何よりも価値あるものですから……手に入れたい輩は沢山居ます。そいつ等に見つからず、研究所間を移動できる手段とするなら、ここは最適です。
まず地元の人間は近づきませんし……そもそも入り口も限られてる。その全ては閉鎖状態になってるので」
確かにそれなら一般人は手出しは出来ないかもね。けどこの地下って結構満遍なく広まってるんだよね? それならさ……実は結構知られてない入り口があったとしてもおかしくないよね?
「確かに今でも時々入り口は見つかる。だけどそれでも入ろうとする者は早々居ないよ。それだけこの地下はこの街の住人に怖がられてるからね」
「そうなの?」
「そうなんだよ。だが今は取り敢えずもう一度移動しよう。大丈夫かい僧兵君?」
「そっちこそ」
そう言いつつ二人で道を切り開いてくれる。そこから僕たちは更に奥を目指す。てか一体どこに向かってるんだろう? 僕的には早く郊外の研究所に戻りたい所なんだけど……孫ちゃんには何か狙いがあるっぽいからな。
それに何か発見した事もあるみたいだし、それらは知っておきたい。でもなんでもかんでも手を付けてる訳にも行かないんだよね。問題が山積みで何から消化したら良いのかも迷う所だけど、今は第一に残してきたクリエ達助けたいし、あの蛇の錬金アイテム復元して元にも戻らないと……でもそれには目玉の解析が必要で、けどそこまで行くにはあの黒い奴が邪魔……でも今の僕達に奴を退ける程の力はなく、仕方なくこの迷宮チックな地下に逃げ込みやり過ごすついでにブリームスの秘密と言うか謎と言うか部分に迫ろうと……行き当たりばったり過ぎだな。
全部ちゃんと消化出来るのか? しかもそれらを終えてようやく本来の目的だった錬金への理解を深めて今の世界の状況の打開策を見出さないと……少なくとも、三種の神器の情報を得なくちゃなんだ。
多分三種の神器を含めたあの鍵が今の状況を打破するために必要な物の筈だからな。今までの冒険で得てきた重要なアイテム達……それらが繋がって何かを起こしてくれると僕は信じてる。
「そう言えば」
「うん?」
「君は珍しい物を飼ってるんだね」
「珍しい?」
「それだよ」
すると目玉の奴が普通に浮遊してるのに僕はようやく気付いた。彼の肩に乗ってる僕の周りをフワフワしてる。
「ちょっ!? これはそのっ!?」
何当たり前みたいな顔してるんだよこいつ。
(しょうがないやろ。だって嬢ちゃんが気を失った時に支えたんやから見つかったんやで)
「あっ、ああ……」
そう言えばそうだったな。自分でもその覚悟そう言えばしてたや。確かにあれはしょうがないか。
「本当に君にはその目玉の声が聞こえるんだね。半信半疑だったけど凄いじゃないか。色んな物の声が君には聞こえるらしいね」
「まあ……それよりもこれには突っ込まないの?」
「変なペットはここには良くいるからね。そこまで驚くことでもない」
そうなんだ。それはそれでよかった……のかな? 追求されないのなら良かったんだろう。そう思っとこう。調べられることがないのなら、こいつの中に超重要データが大量に入ってるってわからな……あれ? ちょっと待てよ。
僕は小声で目玉に声を掛ける。
「おいインテグ、お前の中にはもしかしたらこの地下のデータとかも有ったりするのか?」
「そうやな……限定的やけどあるにはあるで」
やっぱりかよ。第一のデータぶっ込まれてるらしいからもしかして––と思ったけど、まじかよ。だけどここでこいつの中のデータがどうとか話しを持ち出すと、どう考えても厄介な事になるよな。
特にこの人はクソ真面目っぽいし、見逃してくれそうにないような……データの流出を知られるって事は再びこの人が敵に回るかも……今は緊急事態だし、ないかもだけど……一悶着位は起きるよな。
だけどこいつのデータを公開すれば何かが変わったりするかも? てかさ……
「ねえ、クリエ達は今どこに向かってるの?」
それを僕は寝てたから知らない。そもそも孫ちゃんには何か宛があるからここに降りる事を提案したんだもんな。その宛は今でも有効なのか……その確認をしなくちゃね。インテグの情報はその有無で決めたほうがいいだろう。
「確か彼女は錬金の力の中心点に向かってると……」
「中心点? どういう事なの孫ちゃん?」
僕のそんな言葉に僧兵にの背に乗ってる孫ちゃんはこう言うよ。
「言ったでしょ、昨日根を張ったって」
「張れて無いって言ってなかったっけ?」
そんな記憶があるんだが……確か思うように成長しないとか言ってたろ?
「それはまあそうだけど、成長した分だけでも推察位出来るわ。アンタ達が出かけてる間にこっちは事前に街を巡ってたのよ」
「それで?」
「言ったとおりこの街は外と隔絶されてるせいで世界の力が薄い。その代わりに発展した錬金の力が大きく成ってる……てか大きくなり過ぎてる。夜にあんな派手に街を彩ってるのはその対策でもあるってあの変なマッドサイエンティストが言ってたでしょ」
「そう言えば……でもそれって本当なの?」
実際所長かフランさんかどっちが言ったか忘れたけど、真実味を増させる為にもこの人にも聞いとくよ。
「ああ、それは本当だね。数代……正確には三代前の統治者が増え続ける錬金のエネルギーを消費する為に色々と派手な政策をやったんだ。そう言えばその時に、地下の再利用とかが検討されたりもしたようだが……結果は今でもこの有様を見ればわかるだろう」
「失敗したって事だね。でもどうしてそんなに錬金のエネルギーが増えてるの? そもそも錬金のエネルギーってなんなのかな? 魔法とは違うんだよね?」
そこら辺よく分からない。魔法は世界に溢れる力……正確には世界樹から世界に送られてる力を利用してるらしいけど、錬金だってその筈じゃないのか? 魔法と違うといっても、それは利用方法とかの問題じゃなかったのか?
「多分だけど……この街の空間その物がもう変質してるんじゃないかしら? 確かに大元を辿れば魔法も錬金も使う力は同じ筈なのよ。だけどそれなら世界の力の供給を受けれないこの街は次第に錬金も衰退して行ってもおかしくない。
だけどそうじゃないでしょ? 逆に外とは違う進化をしてるわ。それはもう異質な物に成ってるからって事じゃないの。つまりは今、この街で使われてる錬金術は外とは別質な物……」
「別質って……全く違う物が出来ちゃってるって事?」
「全くとは言いがたいわね。そうでないとバトルシップも直せないだろうし……多分汎用性の高いリサイクルエネルギーみたいなのが錬金の生成過程で生まれてると推察できるわ。元からそうなのか……それとも誰かがそのエネルギーに気付いて増幅する様に仕向けたのかは分からないけど、
既にこの街では外のエネルギーは微弱に成ってその錬金で生まれたエネルギーが主体に成ってしまってるのよ。そしてそれをどうにかする事は今の誰にも出来ない」
「皮肉にもそのエネルギーってのが、クリエ達が元にする外の力も妨げてるんだね」
錬金同士での互換性はまだあるようだけど、魔法との相性は限りなく悪くなったエネルギーか……でもそれって増えすぎると困るものなのかね?
(嬢ちゃん、どんな世界、物質にも内包限界ってのがあるんやで。今のこの空間はもうそれが飽和してる状態や。それが続けばいつかは……ドカーーーンやで)
確かに最悪の場合はそうなり得るだろう。––で、話しを戻すとどうするんだ?
「この街に飛ばした種の内、もっとも成長が遅い部分……それが最も錬金のエネルギーが強く発揮されてる部分よ」
「その理屈は分かるけど、でもそれならその数代前の人も考えてついてると思うんだけど? クリエ達とは逆で、一番錬金の力が強い部分を探せばいい訳だし」
「確かにクリエちゃんの言うことは最もだね。調べられてない訳はないよ」
「そうね……確かにその通り。けど、彼等には辿りつけなかったんでしょう」
「なんでそう言えるの?」
きっと物凄い人数とか動員して色々と調べた筈だよな? 僕達数人規模じゃないと思うんだけど。数百人は使っただろきっと。全ての発見されてる入り口からそれぞれ部隊を投入して詳細な地図くらい作っただろうし、辿りつけなかったなんて思えない。
ここの人の方が錬金のスペシャリストだぞ。素人の僕達とはわけが違う。でも孫ちゃんはこう言うよ。
「だって彼等はこの力をもう持ってない」
そう言って彼女は自身の手に淡い光を作ってみせる。それは魔法の光か? だけどそれは……
「この地では重要じゃない? いいえ違うわ。これを無くしてしまったからこそ、どうすることも出来なくなってるのよ。魔鏡強啓って代物は古き錬金術師が考えた物なのよ。その段階では錬金はこの力が主に使われてた筈じゃない?
そして古くに築かれたここも……隠された部分にはこの力が宿っててもおかしくない。それかその力が既に足りなくなって動いてないとかね」
「なるほど、確かにそうだとしたら私達ではどうにも出来ないかも知れない。そもそも増え続けるエネルギーを問題視しても、エネルギーの違いはそこまでも問題視もされてなかったですから」
「つまりはクリエ達に宿ってる力で、この街の秘密を暴けるかも知れないってことだね」
「そういうことよ。でそろそろ力の中心部よ」
そんな言葉の後に道を曲がると、広い空間に出た。するとそこには大量のゴーレムが。しかもミニじゃないよ。全部二メートルはあろうかと言うくらいの巨漢達がズラーと並んでる。だけどなんだか動く気配はない。
ちっちゃいのはワラワラ湧いてるのにね。襲ってこないのは良いけど、どうするんだ? 僕も孫ちゃんも地面に降り立つ。そして孫ちゃんは一つの花を咲かせた。
「どこかにある僅かな力の後を探すわ」
ここは孫ちゃんだけが頼りだな。そう思ってると、ゴーレムの肩の方から声がする。
「や〜と来たね〜でもまぁ分かってたよ」
僕達は思わず距離を取って上を見る。そこには黒い奴と来たあの女が気だるそうにゴーレムの頭にもたれかかってる。一体いつからそこに……てかどうやって……
「アンタ、なんでここに私達が来るって分かったの?」
「なんで?」
孫ちゃんのそんな言葉に、ボサボサの髪に寝間着みたいな格好の彼女は欠伸を一つした後でこういった。
「必然」
第五百八十四話です。
色々と会話すると中々進まないですね。それに口を開く度に孫ちゃんが優秀に……まあ元からそこまでバカって訳でもないんですけどね。そもそも恵まれてる環境に居たわけですし、性格や思想に問題があるだけですよ。
てな訳で次回は月曜日に上げます。ではでは。