不確かなレールの上に
「よし、乗れ!!」
「乗る!?」
所長のその言葉に僕は思わず裏返った様な声をだす。だって乗れって……まさかその恐竜型のロボットにか? それ乗り物にしていいものなのか? てか出来るの? だけどそんな風に僕が迷ってる間に地面に下ろされたロボット達は横に並んで背中を向けてる。
奪うってそういうことか。この恐竜達のコントロールを掌握したってことなんだろうな。
「所長もやる時にはやるんだな」
「当然だ。俺を誰だと思ってる。泣く子も黙るマッドサイエンティストとは俺の事だ。その才能に恐れを無したのはここの連中なんだよ」
凄いこと言ってるな。ホント直ぐ調子に乗るんだから。プライドだけは第一研究所の奴等にも負けないくらいには高いのはよく分かる。
『まったく誰のお陰やと思っとるんやろな。自分がおったから出来たようなもんやのに。ホント人間は強欲やで』
「お前のお陰ね……」
『なんやその目? ホントやで! ホントに自分がこいつらの内部に侵入してチャンネルを開いたからそこの二人は内部をいじれたんや。それに自分の中にはこいつらのデータも勿論あったさかいな。
その情報が大切やったんやで』
「まあそれは分かるけど、けど所長でもお前でもどっちも威張られるのはなんかな……」
とにかくどっちもイラッと来るよな。まあ所長の場合はため息一つでいつもの事と受け入れるけど、この目玉の場合は叩きたく成る不思議。
『嬢ちゃんはホント、自分の重要性がわかってないで。それが分かればきっと今すぐにでも抱いてほしいとそっちから言うはずやもん』
「誰が言うか」
てか抱けるのかその体で。体と言うか目玉で? そんなやり取りを目玉とやってたらヒョイッと体が持ち上げられた。まるで人を物みたいに扱う奴は誰だ?
「もう、スオウも早くだよ。周り小人さん達でいっぱいなんだからね。大丈夫、この子達スッゴク大人しく成ってるから怖くないよ」
「クリエ……」
別に怖いから躊躇ってた訳じゃないけどな。てかいつの間にイクシード解いたんだ? せのせいで風がやんだから小人達がワラワラとこっちに向かってきてる。だけどそんな折、先に恐竜の背にまたがった所長とフランさんが一歩を踏み出す。
その重低音な響きに小人達が震え上がってその歩みを止める。どうやらこの小人達には戦闘力は内容だな。まあやれることを決めて作り出すのが錬金術だと言ってたし、戦闘力はあってもそれはおまけ程度のものなんだろう。
こいつらの役割は監視や追跡、後は回復修繕と行った方向に力が向けられてるよな。今までみた感じで推測するとさ。ようはこの小人達は自分達じゃこの恐竜型のロボットには勝てないとわかってるから歩みを止めて震え上がってる訳だ。
今がまさにチャンスだな。今なら楽に突破できる。
「全員乗ったわね? それじゃあしっかり捕まってなさい!」
そう言ってフランさんが指輪から出てる画面を操作する。すると僅かに屈んでた恐竜達がガクンと背を伸ばす。関節部の駆動系がキュルキュルと音を出し始めて、その体に熱が帯び始めた様な気がした。
動き出す……その感覚が確かに伝わってくるよ。そして一瞬重心が前に落ちたと思ったら、心臓がきゅっと掴まれる感覚と共に、床を爆ぜる程の音が成って空気を切り裂き前に進み出した。
「うにゃああああああああああ」
「あわわわわ〜〜」
そんな小人達の声を飛び越えて、断続的に爆ぜる音は響く。これは自分達で走るより断然速い。でも難点が有ることも理解した。これは……なかなか……揺れが酷い。ガクンガクン揺れる。ハッキリ言って振り落とされそうだ。
そもそも搭乗する事なんか考えてられないだろうしな。せめて馬の背とかに乗せるアレがあれば……鞍だっけ? そんな感じのアイテムがあればまだいいんだろうけど、流石にそんな物は無いからな。まあ僕がしがみついているのはどちらかと言うとクリエに––というか自分の体にしがみついてる感じなんだけどね。
そのクリエがあわあわしながら恐竜にしがみついてる。首の所に手を回してね。でも乗り心地が最悪なだけに、スピードは凄い。てかこれどこに向かってるんだ?
「おい、目的地はあるのか?」
「勿論脱出だ! 構造変化後の内部データも有ったからな。壁をすり抜けられないのなら、背に腹は変えられん。正面玄関から抜ける!」
「いや、不味いだろそれ!? それに僕はあの研究員を追ったほうがいいって––」
「それは却下した。重要ではないからな」
この野郎、リーダー気取りやがって。お前がリーダーであれるのはフランさんのお陰だから。全面的には認めてないぞ。
「お前な……」
「データはある。それ以上の何が必要だ? 手に入れる物は手に入れたんだ。後は早々と退散するのが得策だ。それともお前はあの研究員を追えばこれ以上の何かが得れると言い切れるだけの自信があるのか? 無いだろそんな物は! お前たちの入れ替わりは、その目玉こっちに有る限り、必ず解決できる問題だ。
だがな、ここで欲をかいたうえに失敗すれば、全てが台無しになるんだぞ。わかってるだろ。これはリスクを天秤に掛けた結果だ。飲み込め!」
「うぐ……」
所長の癖に……本当に所長の癖にぐう正論言いやがって……反論のしようがない。しかもこの恐竜達の足音がそれなりに五月蝿いから、声を張る感じに出してるせいでめっちゃ高圧的に来られてるみたいに感じる。
今僕は体が小さいんだ。なんだか凄く怯えてしまうよ。体が小さいからこの体に見合った度胸に成ってるとか……んな訳ないか。ただ、いつもよりも世界が大きく見えるせいで、自分がどこか恐れてるというか……
(いや違うな。恐れてるってのもあるだろうけど、焦ってるのかも)
今の僕には力がない。まあクリエの中にはテトラとシスカの力が内包されてるけど、クリエ自身が上手く使えてない以上、僕が一朝一夕に使えるとも思えない。多分僕にだけ目玉の声が聞こえるのってクリエの能力のお陰なんだろうけど、それは常時発動型の力だから僕に入れ替わってもって事なんだろう。
僕はクリエの体の小さな手を見る。剣さえ握れなさそうな小さな手だ。この手がこの体が、自分を無力だと痛感させる。
「結局どうするの?」
「脱出だ! それでいいな?」
「まあ俺は構わんが……」
「クックリエはスオウがそれでいいならいいよ! てかクリエ的にはそれ所じゃないんだよね!」
クリエの奴はどうやら恐竜にしがみつくのに一杯一杯のようだ。だけどクリエが僕の側に付いたとしても三対二で勝敗は決してるんだよな。それに確かにちゃんと今の状況を見つめれば、この目玉に全てのデータがある以上、長いは無用だろう。もう侵入者が居ることはバレてるんだ。
第一の奴等が僕達の手に全データがあるなんて事実を知ったら……
「うん?」
おかしい。色々と納得出来ない事は羅列して来たけど、この目玉にある物は絶対に漏洩させたら行けないことだろ。それなのにこの戦力での捕獲を試みるのはどうなんだ? もっともっと大量にこれと同じタイプのロボを送り込めば、僕達を追い詰める事くらい出来るはずだ。
でもそれをしないのはその事実を知らないから……なんで? それはきっとこれを捨てた奴が秘密裏に情報をこの目玉に蓄積させてたからなんだろう。じゃあなんでそんな重要な物を捨てたのか……それに捨てたことに気付いてあの場所に戻ってきた時、既に目玉が居ずに侵入者を知らせるサイレンが鳴り響いてた。
まともな頭してたら「もしかしたら」の可能性には直ぐに気づくはずだ。それにここは第一研究所だぞ。この錬金都市ブリームスの中で最高峰の研究機関。ようは選りすぐられた特別な人材だけがいるんだ。まともなんて言葉はここの連中にはある意味悪口に成り得そうだよな。
天才の集まりなんてまともとか超えてるだろうからな。
「スオウ?」
「おいリルフィン、これだけ聞かせろ。匂いであの捨てた奴との大体の距離が分かるんだよな? それなら今奴は近いか、遠いかどっちだ?」
「なんだいきなり?」
「いいからどっちなんだ?」
「そうだな……」
そう言って鼻をクンカクンカ動かすリルフィン。実際これだけ走ってても分かるものなんだろうか? まあだけどリルフィンの奴は特殊な嗅覚持ってるからな。てか売りの一つだし、やってくれるだろう。
「離れてる……というか、動いてないかもな」
「そこまで分かるのか」
匂いで動いてないとかどうやって判断してるんだよ。よくよく考えたら匂いを察するってなんなんだろう? 残り香? 人には分からないけど、空気が匂いを運んだりしてるのだろうか?
「そこらの犬の嗅覚探知と一緒にするなよ。俺は匂いだけで精神状態から体の体調まで察することが出来る」
いや、そんな事は良いんだけど場所をどうやってしってるんだよ。てか、そこまでわかるのに、今まで指摘したこと一度もなくないか?
「まあそこまで深く分かる訳でもないからな。気休め程度の言葉などお前達はあまり必要としてないだろ」
「まあ確かに」
もしかしたらリルフィンは自分だけで色々と使ってたのかも知れないけど、僕達には教えなかったってことか。
「それよりも教えてやったぞ。奴の位置がどうした?」
「いや、動いてないって変だろ? 間違えて捨てて、慌ててあの場所に戻っても目玉はなく侵入者の存在で研究所内大慌て。もしかしたら僕達が持ってるかも知れないと考えたけど、自分だけでの回収は現状難しい。危険だって伴うかもしれないと考える。
だから手を出せないのは分かるんだよ。間違って捨てたとしたら、当然そうなってるだろう。だけど僕達を追いもしないってのはどうなんだ?」
「別に足を使うことだけが動向を探る手段でも無いだろう。そもそも研究者とは体力無さそうだしな。自分達にあったやり方をしてるのかも知れない」
それはそれでわかる。そう言われるのも想定済みだ。すると色々と喋ってる僕達に向かって所長の奴がこう言うよ。
「何を言おうが脱出だぞ。それは変わらん」
「最後まで聞けよな。実際このまま僕達が万が一にでも外に脱出出来るってなったら、この目玉を捨てた奴はなりふり構わないで妨害を試みるのが普通だろ?」
「そうだな」
「そうね。外にデータ持ちだされたなんて知れたら大問題だしね」
僕の言葉にリルフィンとフランさんが同意してくれる。僕はそんな二人に視線を送って、そして前と後ろを見る。どっちにもまだ追ってはない……かなり小人達を置いてけぼりに出来てるようだ。
だけどこれがおかしい。
「じゃあなんで追加の追手が来ない? おかしいだろ」
「それはアレだな。あの捨てた奴が自分のしてた事を後ろめたく思っててひた隠しにしながら絶望中なんだろう。そいつにとっては俺達が捕まっても困るし、捕まらなくても困る。詰んでるんだよ状況的に」
確かに所長の言う通りそいつは詰んでる状態だ。どっちにも動けないって可能性は一番高いかも知れない。
「けど、本当に間違って捨てて回収をしたいのなら、もっと足掻くものじゃないか? それこそ自分の首とかが掛かってるわけだろ。しかもこの目玉を捨てたアイツは僕達なんか及びも出来ない頭を持ってるんだろ?
少なくとも所長なんかよりもよっぽど大層な脳みそ持ってるはずだ」
「おい、どういう意味だそれは?」
「そんな第一研究所の天才がただ指を咥えて見るに徹するには早すぎると思うんだよ!」
「無視か、ようし決闘だ! かかってこいやああああああぁぁぁぁ……」
所長の声が萎んで行くと、自然と会話が止まった。響くのはこのロボット達の床を蹴る音だけだ。所長は恥ずかしさの余り耳を真っ赤に顔を伏せてる。そして小さな声で、「脱出を目指す。それが正解に決まってる」とか言ってた。
「別に脱出が間違いなんて言ってない。ただ……腑に落ちない事が多いだけだ。それに一番おかしいと思うのは……こいつだ」
僕はそう言って自分の髪の中に潜り込んでる変態目玉を見る。まあ見えないけど、そこに居るから視線だけは向ける。
「だからその目玉にデータが入ってる事が気になってるんでしょ? でもそれはそれの元の所有者の思惑でたまたま捨てちゃったことに成ってるじゃない」
「それはあくまで僕達が状況から勝手に推察した一つの可能性にすぎないよ。しかも大分あやふやで、そうだろうって無理矢理思い込んだ事だ。でもここまでの情報でその無理矢理が本当に無理っぽいって出てきてる。
なあそうだろインテグ?」
『なんや嬢ちゃん? 自分何も分からんのう』
まだ白を切るか。だけど最初から一貫して貫いてるお前の態度……それが一番おかしいんだよ。てか、それが僕達の推察を完璧に壊してると言っていい。いや、自分も今までなんで気付かなかったんだろうって思うけどさ、きっとこの体になって状況に追い詰められたりしてたんだろう。
まあ最初は捨てた奴の所に行く気だったしな。でもその時からその手の話になってこいつが主の所に「戻りたい」なんて言わなかったんだ。そう……言わなかった。けど気づいたからには指摘させてもらおう。お前のそのおかしな態度……
「おいインテグ……お前どうして主の所に戻ろうとしないんだ? なんで僕達に付いてくる? もしもあの研究者が頭を抱えてるとしても、お前が僕達に協力せずに勝手に戻ればお前を作った人を助ける事は出来たんだよ。
でもお前はそれをしなかった。それどころか、僕達と共に外にいきたいみたいな……そんな感じがするぞ」
「ああ! ホントだね。なんかおかしいかも!」
「言われて見ればそうだな……」
「ほんと僕にしか声が聞こえないから見落としてたわね。確かに考えて見ればその目玉が私達に協力する義理はない」
皆が僕の指摘で気付いてくれた様だ。だけど所長はそれでもこう言うよ。
「それがどうした? その目玉が協力的なら良いことだろう。実際そいつの協力無しには俺達は逃げ切れない。余計な事などしてる場合じゃないんだ!」
『そうやで嬢ちゃん、そのマッドなんちゃらの言うことが正しい。自分の事なんて考えんでええんや。一刻も早くここから脱出することを考えんと大変なことになるで』
「大変な事? もう十分なって––うわっ!?」
突っ走ってたロボット達がいきなり歩みを止める。それはどうやらフランさんの指示ではないよう。どうしたのかと思ったら、少し先が全く見えなくなってる。それも前も後ろもだ。そして壁に走る幾つもの光……内部に居る僕達には全然実感がないけどこれはまさか……
『どうやら構造変化されたようやな。内部データが更新されるまで動けへんでこりゃ』
そうか、ロボット達が足を止めたのは内部が変わったからその更新分を受け取るために停止してるのか。くそ、面倒なことに……そう思ってるとドスンドスンと地響きの様な音が聞こえてきた。
まるで建物全体を揺らすようなその揺れは確実に僕達の方へと向かってきてる。
「な……何かな?」
「くっ、早く動け!」
クリエの不安そうな声と所長の奴が恐竜型のロボットをバシバシと叩く音が響く。そしてそんな事をやってると顔の部分に光が走ってその体に力が戻ったことが分かった。
「良し! 構造変化を確認して出発するぞ!」
「「「……………」」」
「おい、どうした?」
こっちを振り向いてる所長は気付いてない。だけど僕達全員、その姿に目を奪われてる。なんだあれ? 通路の向こうからなんか大きな姿が迫ってきてる様な………薄暗いから気付かなかったけど、なんか通路の幅や高さ事態も変わってる。
これはまさか……あの今まさに迫ってる奴を自由に走らせる為に構造を変化させたのかもしれない。ドスン! とより大きく近くで音が響いた事でようやく所長の奴もその何かに対して振り返った。そしてその瞬間その僕達が乗ってるこの恐竜型のロボットを数倍デカくしたみたいな敵は大きく口を開いてその咆哮で僕達を威嚇した。
通路全体に響く叫びの衝撃。僕達は硬直してた思考をその咆哮で刺激されて判断した。
「「「逃げろおおおおおおおおおおおおお!!」」」
ってね。
第五百七十二話です。
またまた多大に遅れてしまって申し訳ないです。もう自分どうしちゃったんだろうって感じですね。スケジュールに支障をきたしますよホント。どうにかしないとって思うんですけど……
取り敢えず次回は明日? 日曜日に上げれればいいなって感じです。多分行ける筈です!