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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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腹の虫、ときどき仮病

 僕はリアルを目指す! と、した所で知らない目が点みたいな奴の声、だけど無視した。すると今度はテッケンさん。こちらは無視できない。だけど別に彼は止めはしなかった。僕にアギトを託して背中を押してくれた。

 そしてみんなの願いを胸に僕はリアルへ帰還する。

 戻ったら夜中。電話をしても出ない秋徒。今から家を訪ねるのは諦めて明日に持ち越し。次の日に登場したのは日鞠。意味が分からない言動多数。そして何故か最後には……


「ちょちょっと待つっす! せめて事情を聞いて事態を把握してからでもいいっしょ?」


 そんな名前も知らない奴の言葉が耳に届くけど僕は意に介さない。腕を振って現れたウインドウの右端を僕の人差し指は目指してる。そこにある文字は『ログアウト』この世界から飛び出す魔法の文字。

 だけど僕がその文字を押す前に今度はテッケンさんの真っ直ぐな声が届いた。


「スオウ君!」


 ピタっと間一髪に止まる指先。知らない奴の言うことは無視できる。けれど見知った人の言葉はただの情報を伝えるだけのツールじゃない。いろんな感情をその一言から察せれる。

 それが人という生き物の心の機能だ。だから僕も何かを察したと思う。彼の真っ直ぐな何かをさ。


「何ですかテッケンさん? 事情は向こうでアイツに聞きますよ。それが一番良さそうなんで」


 僕はセラから離れて地面にその小さな体でも存在感を放っているテッケンさんに急いだ感をだして言葉を紡ぐ。やっぱりさ、気になるんだよ。安直に言えば心配だ。

 だけどそういうことは余り本人の前では言わないけどね。お年頃だから周囲にだって隠したい……てのは昔の僕かな? 淡泊でクールなキャラを着飾りたいって時期は誰にでもあるものだよ。

 いまさら、と言うかここLROで隠す事も自分的にはないわけで……リアルにまで干渉するのはアギトだけだからね。だからみんなはそれなりに僕の事を知ってるはずだ。姿がそのままなら、どうしても地が出ちゃうんだ。自分をグローバルにアピールしまくりだよ。まあでもそのおかがでここまで来れた感はある。

 そして僕を知ってる彼は言う。僕を知らない彼とは違う言葉をだ。


「ふふ、分かっているさスオウ君。僕は止めはしない! アギトを頼む。もう一度ここまで引っ張ってきてくれ! それが出来るのは君しかいないんだ!」

「……テッケンさん」


 響いた声に頷かないのはアギトを背負っていた奴だけだった。他のみんなは、セラだってそれを認めてくれた。なんだか仲間外れ感が否めない感じの彼は口ごもる事しか出来ないでいる。

 僕はみんなを見回してから約束する。


「必ずアイツを連れ戻してきます」

「ああ、こっちの事は情報を整理してメールするよ」

「大丈夫、軍はそんなにずっと維持できないから今日はもう侵攻しないと思う。だから次までに……アギト様をお願い!」


 テッケンさんの後にセラが僕の背中に額を押し当てて怪訝だった不足情報を補ってくれた。だけどこれはこれで結構鼓動が速まる行為だ。

 女の子に密着されるって慣れないよね。イケメンでもない限り。ついでに言うと僕は自分なりには普通。色気も味家もない顔してるよ。今まで彼女が出来た試しが無いことがそれを物語ってる筈だ。

 まあ、一部の原因には他に心当たりあるけど。それはここでは言及しない。なんでアイツがああも僕に構うのかは実はよく分からないんだ。ここでいうアイツってのはリアルにいる変態の事だよ。

 そういえばもう夜も遅いし、イタズラされてないか心配だ(僕が)。

 背中から伝わる鼓動や緩やかな息づかいが僕の思考をほんのちょっと奪った。もうちょっとだけこうしてるのも悪くない。でもふと気づく。

 セラが求めてるのは僕じゃないんだ、と。セラが求めてるのはアギトだ。アイリを救えて、アルテミナスで認められてるアギト。僕はその中継役でしか今回はないんだなってさ。

 けど、アルテミナスが救われた後はその限りじゃないけどね。目的にはきっと僕を待ってくれてるセツリの救出も延長線上にあるんだから。

 そしてこっちには保証はない。結局時間の猶予を確かめる術はなくて、僕はもたもたしてられないって事だ。

 セラが言った軍を動かす制約は納得出来るけどね。軍程のプレイヤーの集まりはそう気軽に編成出来る物じゃないだろう。みんなプレイヤーでリアルには生活があるんだからね。

 なら今日はもう無理なのも道理だ。いろんな事で時間を食った。朝はもう迫ってる。少しだけの先延ばし。それでセツリが大丈夫かは分からない。

 けど今は戻るしかない。アギトがあのままでいい訳がないから。僕はセラの額から離れる。それはほんの数センチの距離で済むこと。そしてこの指先の文字を押せば途方もない距離が開くことだ。

 交わる筈の無い異世界が実はここだと言うほどの距離。ひょんな事から僕ら人類は遂にその扉を知ったんだ。僕達は招かれたのか犯したのか……想像したと言うには僕らは余りにもこの世界に振り回されてる気がする。

 僕達が空を見て馳せる神様はそんなに間抜けじゃないだろう。僕はそんな事を思いつつ、ログアウトを押した。だってそれこそ想像主位しか知らぬ事だよ。

 ちっぽけな僕達は天上の意志にあらがうように、走り続けるしかない。例えそれが手のひらの上の出来事だとしても。

 僕は消え去る間際、セラに言った。


「任せとけ」


 ってさ。視界から星が次第に消え去り、流れる風も肌を撫でない。そして閉じられた世界の扉の先にはもう一つの扉がある。それは地球という世界の扉。



 目が覚めると部屋は真っ暗だった。光るのは電子時計の緑の光だけ。時刻は午前二時を回ってる。日付まで変わってるじゃん。

 朝からぶっ続けてここまでやってたのかと、思わずLROの恐ろしさに気づいた。向こうがリアルでもやっぱりおかしくない気がする。


「腹減った」


 最初に呟いたのはそんなこと。親友の事よりも食を求める本能の方が強かったらしい。何せ朝から何か食べたっけ? だ。いや、朝は食ったな。日鞠と一緒に朝食したはずだ。思い出した思い出した。

 LROの中での出来事が満過ぎて忘れる程だよ。よくよく考えたらみんな長い時間入ってるけど、大丈夫なのだろうか? まあ、そんな事を僕が気にしてもしょうがない事だろうけどね。

 それぞれみんな自分の予定を分かった上でやってるだろう。入るも出るも基本自由だよ。引き留める事なんか出来ないし。今頃、実はみんな解散してるかも知れない。

 いや、それもまだ無いかな? せめて事情の説明をする時間はいるだろう。ならまだここに居るだろう。僕はコンコンと頭を覆うゲーム機を小突いた。そして脱皮の如く頭から剥いでベットに置く。

 触ると暖かくなっている本体を休ませる為にも電源オフ。本当に長い時間お世話になってたから休ませないと可哀想だ。どんなアスリートだって全力疾走は続かない。

 そんなことやってたら壊れちゃうんだ。それだけは困るからね。フルダイブを支えるこのゲーム機は決して安く無い。数万円はする。高校生が気軽に買える値段じゃないよ。だから出来るだけ大事に大事にしないとね。

 僕は暗闇の中立ち上がり、垂れ下がる紐を引いて電気を付ける。部屋に満ちる白色灯の明かりに目がシバシバする。もうLROでも暗いのに慣れてたからだ。なんだか腰に無い重さとか、向こうの風の匂いとかがここと違う懐かしさを思わせるのはどう言うことなんだろう。

 僕はとことんLROに捕らわれてるって事かな? 低い天井を見上げて翳した手を握りは放す。さっきからなんだかジンジン疼くんだよね。左腕がさ。そこは丁度、麒麟にチギられた部分なんだ。

 もしかして……と、思ってしまう。もしもあのまま腕が元に戻らなかったら、リアルのこの左腕はどうなっていたんだろう。先端が無くなってる……なんて事は無かっただろうけど、この疼きは『動かない』位はあったかも知れないと思わせる。

 だからちょっとゾッとした。だけど動くことに安心も出来る。


「よし」


 そう呟いてテーブルの上で充電中だった携帯を取り上げて画面タッチタッチ。短縮設定でツータッチでお目当ての番号へプッシュする。

 プルルルールルルールルルー、耳元でお馴染みの音が鳴り響く。プルルールルルールルルー、今も尚鳴っている。プルルールルルールルルー、これは無視としか思えない。あの野郎。確かにこんな時間に電話するなんて非常識かも知れないけど、確実にまだ起きてるだろ。

 ついさっき戻ったばっかりなんだからさ。それなのに出ないって事は無視しか考えられない。今から自宅まで押し掛けよう……かと思ったけどそれは流石に非常識だろう。

 家にはアイツしか居ない訳じゃないんだから。僕の家の様な風が珍しいんだ。他人の家の常識は異文化とか言うよね。アイツん家って放任主義な訳じゃ無かったと思う。

 しょうがないからコールを止めてメールに切り替える。これは返事が返ってこなくても、一方的に伝えたいことだけを伝えるにはもってこいのツールなんだ。

 確認は誰でもするものだからね。それが目的。取り合えず意志は伝えておこうと思った。画面を見つめてしばし思考する。

 僕は電話で何を言おうとしてたのだろうか? よくよく考えたら電話ならどうにかなることもあると気づいた。それは勢いと言う誰しも持ってる物だ。

 それは曖昧な作業を続けて道を見つける事が出来るって事。電話なら当人同士のキャッチボールだから、最初は他愛もない話題から話を持っていくと言う事が出来るし、直球勝負でも熱くらいは伝わるだろう。

 だけどその勢いを文章にするとどうだろう? 寄り道なんて出来ないし、頭を整理して紡がれる文章にどこまで気持ちを込められるんだろう。そもそも、マジで僕は何言おうとしてた?

 幾ら打ってもなんだか違う。説教臭く成ると言うか……問いつめる風に成るというか……それでもいいや、と送信しても良いんだけど、アギトのあの姿を思い出すとこれじゃキツいなと思って止めるんだ。

 電話は出ない、メールはなんか薄っぺらい。最近はメールで声を届ける事も出来るけど、僕の携帯はそこまで進化してない。なら後出来る選択は直接会うしかない。

 元々電話位でどうにか出来る状態でもなさそうだったし、今日は何もしない方がいいのかも知れない。気持ちの整理とか自分を見つめるとか、一人の時間が今は必要……って事もある。

 僕は結局、ただ一言を打ち込んで送信した。


【明日行く】


 今日有った事に何も触れないこれが良いと思う。追い込まないで寝て貰って、明日起きれたら少しは何かが違うかも知れないから。ついでに僕も眠いんだ。流石にあれだけ走り回ったら仮想でも疲れる。

 まあ、眠いってのは向こうじゃ余り感じないけど、こっちの空気と言うか、この部屋の留まった空気感がそんな現時味有ることを僕の脳に届けてくる。

 だからさっきから腹の虫がこれでもか、って位のたまってる訳なんだけどね。


「食うもんなんか有るかな? 日鞠の事だから晩飯位作って……」


 ドアノブ回して部屋の明かりが廊下にまき散らされる状況で僕の言葉は止まった。足下からは冷ややかなフローリングの冷たさが染み込んでくる。

 慣れているものの、こういうのって暗闇の向こうから何か出てくる気がするね。誰も居ない筈なんだけど……まあ、居るとしたらそれこそ日鞠だ。

 う~ん、僕って何だかんだ言ってやっぱり日鞠に依存してる。だから言葉が詰まったわけだよ。それを再認識してさ。自分から自立を提案しておいて、結局当てにしてる訳だし。


「はぁ~」


 僕は溜息付いて部屋から廊下へ、そして一階へ。

 外からはうるさい季節の声が届いてる。扉の曇りガラスの向こうには時々影が入るんだ。まあ、それも不規則な動きと大きさからして蛾とか何だろうと察せれるけどね。

 一階の廊下を降りて突き当たりが家のリビングダイニング。その奥にキッチンも有るからいわゆるLDKって奴かな。一人で済むには物悲しすぎる家だ。一人じゃ手に余るって意味ね。

 キッチンの方に進むと案の定、テーブルに食事があった。だけどそこに食べ物が有るとだけ分かって中身は判別できない。何故ならラップとかじゃなくそこだけ昔ながらの虫避け網みたいな物で包まれてるからだ。

 変な所で日鞠は古風な奴だ。この近代化した現代のどこであんな物手に入れて来たんだろうか? てか、この時期に出しっぱってどうよ。

 もしも僕がこれを見つけるのが翌朝だったら、酸っぱくなってるかも知れないじゃないか。まあ、一日も経ってないんじゃ腐りはしないだろうけど。

 取り合えず晩ご飯を守ってる物を取り去って中身を拝見。そこには恐ろしく近代的な物が鎮座していた。


「カ……カップ麺……」


 手抜きにも程がある。てか、この防御壁は何だったんだ。意味ねー。僕は某元祖カップ麺を仕方なく調理(?)するために持ち上げる。するとその下に有ったであろう紙が少し張り付いて来て、それを維持できずにヒラリと落ちた。

 僕はカップ麺を置いて代わりにその紙を拾い上げる。きっと日鞠からのメッセージが書いてある筈だ。ふむ、何々。


【もう許さない! 晩ご飯は一緒にって言ったのに! スオウなんてカップ麺で充分だよ。汗が鶏ガラに成るまで食い続けちゃいな! 

 許して欲しかったら明日私に付き合う事。そしたら濃厚豚骨にランクアップしてあげてもいいかも!】


 ふむ……取り合えず手の中でグチャッて潰した。結局食べられるのはカップ麺に変わりなさそうだしね。まあ、関係の改善を計って初日で潰すしたのは悪かったと思うけど、こっちはこっちで色々有ったんだ。

 ちゃんと言われてた掃除とかはしたんだからもう少し寛大に成って欲しい物だ。それに俺だって別に何も作れない訳じゃない。野菜炒め位出来るぞ。お前の計画は既に潰れている。

 今日はもう疲れてるし結局このカップ麺食うけど、取り合えず日鞠にもメールしとくかな。この時間なら寝てるだろうし。アイツは睡眠時間だけは多分な子供だからね。

 それを前に指摘したら


「女の子だから! どんな化粧品や、エステやトリートメントより重要なのは睡眠なの! 人は寝てるときに体が成長=生まれ変わるのよ。

 明日にはボンキュボン! に成ってるかも。きゃぁー!」


 とかのたまってた。結局今日まで平坦だけど。世の中って理不尽だよね。いや、日鞠は別にあれでいいのか。

 さて、どうやって波風立てずに日鞠が諦める文面が出来るだろうか思考する。


「う~ん」


 思いつかない。明日は日鞠と遊んでる場合じゃないんだけど。僕が何言ったってアイツが諦めるとは思えないし、どうしよう? カップ麺にお湯を注ぎ三分間で考える。

 キッチンだけに灯った明かり。カップ麺の縁から伸びる白い湯気。イスに腰掛け、背中を預けて考えること一分弱、もう今日は頭働かないと判断した。

 だから再び簡潔な文章を作成した。いいや、もう直球で。


【メモ読んだ。ごめん明日無理! 味噌で妥協する】


 ポチッと送信――完了! 勢いついでに「頂きます」して上蓋とって麺を啜る。


「う~ん、堅い」


 一分弱じゃ流石に早すぎた。それでも求める腹の虫の為に思い切って食べきる。それでも依然として腹の虫は収まらない。外で騒々しく叫び有ってる奴らとともに、僕の中で自作の歌を歌ってた。



 爽やかな朝の到来……は縁遠い。寝ても覚めても腹減っただ。無理して寝て、目覚まし時計代わりに成ってたのは腹の音だった。

 お腹に何も無いと返って痛く成ったりする物だと改めて知った。。「くれーくれー何か入れろー」と叫んでる。おかげで四時間位しか寝てないよ。

 朝の昇りかけの日差しが目を刺激する。時刻は七時になりかけ……遅かったかな。実を言うと日鞠が朝飯を作りに来る前に家から脱出する気だったんだ。

 それで腹の虫にはコンビニ弁当で妥協して貰おうと思っていた。それで今日は一日自由だ、フリーダム! を謳おうとしてたけど七時じゃ遅い。

 日鞠の奴は休みでも平日と変わらない時間に来るからね。昨日のメールを見て自重してくれてれば良いんだけど、その期待は薄い。だからこそ、早々に逃亡を計ろうと思ってたんだけど自分の怠惰な生活の付けがここで来た訳だ。

 このまま窓から映画さながら逃げることも思い立ったけど、流石に食事を作ってくれる奴をそこまで足蹴に出来ない。僕はそこまで恩知らずな奴じゃないんだ。

 まあ、まだあのメールを受け入れて来てないことを心の片隅で祈ってるけどね。僕は自室の扉を開く。するとそこには頭一つ分低い位置に見知った姿があった。


「あ……日鞠? おはよう」

「はぁふぃーはぁふぃー」


 ん? 変な息づかいが聞こえる。遂に暑さにやられたのだろうか? なんだか微妙な空気が流れるな。いつもはうるさいくらいに日鞠が喋るから変な息づかいだけじゃ間が持たない。

 ノースリーブのシャツに太股を大胆に晒した短パンで、体の所々には日焼けの境目がわかる。健康的な体が眩しいくらいだ。

 一体何してるか知らないけど、日鞠は僕なんかよりよっぽど社交的だからこの休みの間にも色々やってるみたいなんだよね。あの性格で驚くべき社交性なんだ。有る意味あの性格だから……とも言えるかもしれないけど。

 う~んなんだろう、一向に日鞠が顔を上げる気配がない。何がそんなに息苦しいのか僕には謎だ。日鞠の行動原理なんて僕に分かるわけ無いけど、この家で息苦しい訳はないだろう。

 するとようやく日鞠に動きがあった。変な息づかいを飲み込むように喉をコクンと鳴らす。そして決意した様な顔を勢い良く上げて声を出してきた。


「スオウ! 遊園地行こう!」

「話の前後をつけろよ。訳分からないぞ!」


 右手を突き出した格好で躍動的な感じを出して楽しさ一杯な感じだな。少しだけ何かあったのかと心配しかけた自分を恥じたい気持ちが芽生えるよ。


「実はもうお弁当も作ってあるんだ」

「無視か? お前の言葉の流れを説明しろよ。どうしていきなり遊園地なんだよ」

「んもぅ~最近コミュニケーションが足りないと思ってだよ。それと昨日メモ置いてたでしょ? メール見たから言い逃れは出来ないわよ」


 それなら僕のメールの内容まで読んだはずだけど……そこは頭から排除した様だな。都合の良いことだけを記憶するのは日鞠の得意技。

 だけど本当にそれどころじゃないんだ。ここは引き下がる訳には行かない。


「メール見たなら今日はダメなんだよ。秋徒に用があるんだ。だから無理。一人で行ってろ」

「女子高生に一人で遊園地に行けと? どんな拷問じゃ~いそれは! 理不尽よ!」


 どっちがだ! と言いたい。けど、ここで僕が日鞠のペースにはまったら時間が無駄になるからグッと我慢。ここは日鞠の顔を真剣に見つめて諭すことを試みよう。


「アイツに今は会わなきゃ行けないんだよ。僕しか居ないんだ。こっちではさ」

「それって……またゲーム?」


 僕は頷く。


「却下です」

「何でだよ!?」


 直ぐ様の判断に意を唱える僕。日鞠は僕をピッと指さしてその理由を教えてくれた。


「スオウの場合はしょうがない所を分かってる。だけど秋徒はそういう物を背負ってる訳じゃないじゃない! ゲームと現実を混同しちゃダメなのよ!」


 それはとても最もな意見だろう。正論だろうと思う。ゲームはゲームと隔てるべきだ。リアルとゲームを混同させたらただの危ない人か、痛い人だ。

 けれどそれは何も知らないから……あの姿を見てないから言えることだ。僕は日鞠の突き出された腕を掴んだ。


「今のアイツを放ってく事なんか出来ない! 友達として、親友としてだ!」


 日鞠の腕を力強く握りしめる。本当にきっと痛いくらいだったろう。だけど日鞠顔色変えずに僕の予想の斜め上をいつも飛ぶ。


「じゃあ、三人で行けばいいんじゃない!」

「意味分からん!」


 こうして僕達は秋徒を誘って遊園地に行く羽目に成ったとさ。次回に続く。

 第五十六話です。

 ここから少しリアルでの話です。今まで掘り下げなかったリアルを開拓するのもいいかも知れません。まあ、だけどあんまり長くならないようにします。せめて二・三話かな。

 ではでは次回に続く。次回は土曜日更新します。

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