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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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好きの長さ

 見つけたジェスチャーコードかも知れない情報。実は出会った時からそれはあった。だけど俺達はその意味を見出して無かっただけ。けど……今ここにその意味は出来た。秘密のおまじないはLROへアプローチするための俺達にとっての最後の手段に成るはずだ。


「行こう秋徒」

「おう」


 日鞠のその言葉に釣れられて自分も席を立つ。結局一口も飲み物に口を付けてないな。


「もう行っちゃうの? 少しゆっくりしてけばいいのに」

「そんな余裕ないです。天道さんだってわかってる筈じゃないですか?」

「そうね……でも私はわかってるって言うよりも、ちょっと達観してるかも。どっちでも良いのよね。当夜を連れ戻してくれるのなら、貴方達でも彼等でも」


 そう言って彼女はコーヒーを啜る。なんかその姿はやさぐれてる様にも見えた。ホント疲れてるんだな。まあそれはこっちも同じだけどな。最近は色々とありまくりで、休んでる筈なのにそんな気しない。

 まあまだ高校生だし、体力は有り余ってるから余裕ではあるけど。


「天道さん……」

「ごめんなさい。頑張ってくれてるのにおかしな事言って。でも……最近考えるのよね。どうして当夜は向こうに行ったのかなって……」

「どうして、ですか?」


 どうしても何もそれは摂理の為にだろ? それ以外に何が有るっていうんだ?


「だけどスオウ君の今までの話では、当夜は向こうで摂理ちゃんに接触してないんじゃない?」

「「あっ」」


 俺と日鞠の声が重なった。言われてみれば確かにそうだよな。摂理は向こうで当夜さんに会ったことは多分無い。それってよくよく考えたらおかしい事じゃないか? 何の為に……まさしく何のために当夜さんはLROに意識を溶かしてるんだ?

 見守るだけなら、こっちに居たって出来たはずじゃないのか? それなのにわざわざ自分もリアルを捨ててLROへと……その意図は一体。


「より近くで見守りたかったとかかな?」

「だけど連れ戻そうともしないってのはどうなんだ? 接触位計ってもいいだろ? それにセツリを思うなら外に居たほうが……もしも外に出ても今のままじゃアイツは天涯孤独の身だ。

 実際それが嫌で出たがってない所もあったしな」


 セツリにとって、リアルには大切な人達がもう居ない場所なんだ。だからこそアイツは、現実を捨てることが出来る。そう考えるとやっぱり当夜さんがリアルを捨てたのは間違いの様に思えるな。

 あの人が待ってるのなら、もう少しセツリの奴もリアルに希望を見いだせたかも知れない。


「そうよね……殆ど表側に出てこないから後回し後回しに成ってたけど……当夜さんの事も考えたことが良いのかも。そもそも、LRO•桜矢摂理•桜矢当夜ってトライアングルはどうあっても切っても切れない関係だもん。

 個別にしようとしてたことが間違いだったのかも」


 トライアングルか……三角関係みたいだな。間違ってはないだろうけど……LROという箱庭はセツリの為に当夜さんが用意した遊び場なんだよな。実際本当にあの人はセツリを彼処に閉じ込めておきたいのか?

 スオウは言ってた。命改変プログラムという脱出プログラムはセツリ自身に依存してるって。当夜さんは選ばせようとしてるんだろうけど、彼自身は何を思ってるのか全く見えない。

 

「よく考えたら、当夜さんこそ一番謎だよな……」


 スオウ以外は一年前……LROが発売される少し前に意識不明に成ってから、誰も接触したことなんか無かったんだからな。それにスオウに度々接触してるって言っても、曖昧な場所が殆ど。

 LROというただでさえ曖昧な場所で、それ以上に曖昧な状況での接触……思うんだけど、当夜さんって生きてるのか?


「肉体は生きてるでしょ。三年前に寝たきりで最近ようやく目覚めた摂理ちゃんが無事なんだから、どこかできっと精神も生きてるはずよ」


 確かに日鞠の言う通りセツリの奴は無事だったけど、アイツの場合はマジで三年間寝てただけだからな……もしも起きたままで三年間ずっと一人、本当の意味で一人ぼっちの世界なら、それは耐えられる物じゃない様な気がする。

 そう思ってるとポツリと呟く天道さん。その言葉は彼女が口にするとは思えない物だった。


「そうかな? 今思えば本当はもうずっと前から、あのバカは死んでたのかも」

「それって……どういう事ですか?」


 ずっと前から死んでた……本当にそれはどういう事だ? 全然分からん。ずっと待ってた筈で、ずっと想ってた筈だろう。それなのに……


「彼は……摂理ちゃんが向こうに落ちた時から変わったわ。本当にずっと一心不乱に研究だけ続けて……彼に取っては摂理ちゃんが、妹が、あの女が全てだったのよ。リアルを見てなんか無かった。私を見てなんかなかった……」


 俯いた天道さんの声がどんどん萎んでいった。その姿はなんだか見てるだけで痛々しい物がある。


「分かる? この虚しさ。当夜はずっと前からリアルに生きてなかったのかも知れないわ」


 ただずっと……妹の為に。その言葉に俺はどう返せばいいのか分からない。だけどこういう時も迷いなく進むのが俺の知ってる日鞠だ。目の前の壁は乗り越える。他人の心の地雷は踏み抜くもの––それが日鞠。

 中途半端なんかこいつはしない。


「分かりませんね。私には二人の心の詳細な所は分かりません。けど、これだけは言えます。心は、伝わってると信じるものです。自分の時間、掛けた行動、それらを無駄にするのは他人じゃない……自分自身です。

 無駄になんかしたくないから、私達は頑張る。苦しくても、怖くても、辛くても、欲しいのなら、負けたくないのなら、大切なら……歩き続けないといけないんだと思います」


 日鞠を見上げる天道さんの眉が寄って瞳が濡れる。鼻もちょっと赤くなって耐えてるみたいだ。実際、日鞠の言ったこと……やってきたんじゃないだろうか。でもそれでも大切ならまだまだそこに終わりはないと、そういうことだ。納得して身を引くことが出来るのも、自分自身だけ。けどこの様子だと、彼女にそれが出来るとは思えない。


「だけど……もう疲れたし、私はどこかで諦めたいとも思ってるのかもしれない。当夜がこのまま目を覚まさなかったら、自分もずっと夢を見てただけとか思えると考えてるのかも知れない。

 私は本当はもう、自分の気持ち分かんないのかも。だって当夜は一度だって私を見てくれなかった。一杯尽くしてきた筈なのに……それでも自分自身のせいなの? そんなのって理不尽じゃない?」


 ぽつりぽつりとか細い声でそう言う天道さん。なんか今までに見たこと無い様な姿だ。そんなに何回も会ったこと有るわけじゃないけどさ、もっと……そうなんか大人だと、俺は勝手に想ってた。

 そりゃあ年齢的には彼女は大人だろう。けど、どんな大人だって迷ったり悩んだりは当たり前なんだよな。子供の前では極力見せないようにしてるだけでさ。それに天道さんは大人って言ってもまだ二十代だろうし、大人に成り立てと言っても過言じゃない。

 それに二十代なんて、一番人生を左右しそうな時期だしな。悩み多きはずだよ。頭抱えたくなる気持ち……今はまだ漠然とだけど、数年後には俺達だって分かるようになるだろう。俺はきっと愛との結婚とかで悩んでる予定だな。

 

 なんか自分の事を考えてちょっと脱線した。ついつい幸せな未来に思いを馳せてしまったな。天道さんがこんなに悩んでるのに、ちょっと不謹慎だったな。けど、喉に胆が溜まりまくってる俺には、何も言えないからやっぱここは日鞠大明神に任せるけどな。

 

「天道さんは当夜さんに振り向いて欲しいんですよね?」

「そ……んな事……あるけど……」


 今更何を恥ずかし気に隠そうとしてるのだろうかこの人は。バレバレと言うか、ついさっき色々と自分からバラしまくりだったんだから意味ないだろうに。どんどん天道さんが乙女になってく感じだ。


「理不尽……それって色々してあげたから、お返しに付き合いなさいって事ですか?」

「それは……」


 えげつない。俺は日鞠の言葉を横で聞いてそう思った。いやだってそれはちょっと厳しいだろ。完全無償な愛なんて早々ない。それこそ親子とか家族とかの枠に入ってないととてもじゃないけど、邪心がないなんて言えない。他人同士なら、腹を探りあうのは当然だ。幾ら好きだからって……いや、好きだからこそ振り向いて欲しいからこそアプローチするんだろ。

 それは汚いとか言えないものだ。


「日鞠ちゃんは……日鞠ちゃんだってスオウ君に色々と尽くしてるんでしょう? そこに欲がないなんて言えるの?」

「言えません!」


 おい! ガクッと横で何故か躓いたわ! お前いまさっき自分で言ったこと覚えてるか?一瞬も迷わずに言い切りやがった。その言葉に流石の天堂さんもポカーンだよ。呆けてる。


「言えるわけ無いです。だって私はどうあってもスオウを諦める事なんか出来ないから。だから私はスオウの為になんだってやります。胃袋を掴むのは女子と基本ですよね。既に私の味が、スオウのお袋の味ですよ」


 得意気にそう言う日鞠。なんか結構恥ずかしい事を宣言してる筈なのに、こいつの場合、そんな気が全くしないな。まあ俺は散々聞かされてるし知ってるから、今更だろ––って思うだけなんだろうけどさ。


「スオウ君はもう日鞠ちゃんに依存してるからズルい。立場が違うじゃない」

「一緒ですよ。私達は同じちょっと厄介な男に惚れちゃった似たもの同士です。ただ違いがあるとすれば想い強さの違いですね」

「んな!?」


 年下の女子高生にそんな事を得意気に言われて、絶句する天道さん。可愛がってた筈の後輩が先に結婚して寿退社するのを知ってショックを受けたバリバリのキャリアウーマンみたいな顔してるぞ。


「別にいいんですよ。邪心があってもなくても………後悔をしたくないなら頑張る。納得できるなら引けばいい。だけど私から言わせれば、引くことが出来る恋はそれくらいの恋だったって事ですね」

「そんな安い物じゃない! 私は本当に当夜の事が––––す……す……」


 最後の言葉が紡げない天道さん。本当にこの人大人かって位に純情な乙女だな。中学生かって位。てかホントずっと当夜さんの事を思ってたんだろう。それこそ周りが眼中に入らない位に。

 そう思うとこの二人は似てるのかも知れない。日鞠の奴もスオウ以外の男とか男と認識してないだろって感じだからな。


「好きで好きで諦めるなんて出来ないなら、引っ叩いてでもこっちを向かせれば良いじゃないですか。いつまで大人しく待ってる気なんですか? 当夜さんが無関心なのは、天道さんが影から支えすぎたからかもしれないですよ。

 時には分からせて上げることも大切です。わかってるのかも知れないけど、いつの間にか出来上がってた定位置を変えるには大胆な行動が大事だと思います。現代のお姫様はただ待ってるだけじゃきっとダメなんです」

「待ってるだけじゃダメ……」


 日鞠の言葉を噛み締めるようにそう呟く天道さん。流石にそろそろそこら辺も考えてたと思うけどな。そもそもどうして彼女自身がLROに入ってないかとか疑問だし。これだけ好きなら、LROに探しに行くとかしそうな物だろうに。


「何かLROに行けなかった理由でも有るんですか?」

「それは……当夜に言われたから。君は来ちゃいけないよ––って、あの時その言葉の意味に気付いてたら、もしかしたら止めれたのかも……」

「当夜さんが?」


 今この場で聞いてる俺達はそれは「LROには––」って事がわかるけど、当時は突拍子もなく言ったのだろうか? だから意味深で天道さんも当時はなんの事か分からなかった。だけどその直ぐ後に、当夜さんはLROへと沈んでいった。そしてあの言葉そういう意味だったんだと気付いたって事だろう。


「なんだか気になりますねそれ。わざわざ天道さんをこさせないようにした……そんなにウザかったとか?」

「はう……そうなのかな……」


 ポタポタとテーブルに涙が落ちる。おい、死体に鞭打つような事言うのヤメろよな。可哀想過ぎだろ。流石にそれは無いと思うけど……なんだか結構イメージ崩れて来てるから、もしかしたら当夜さんに構ってた天道さんがウザい感じだったって可能性も無くはないかもな。

 だけど流石に泣かれたから慌ててフォローに入る日鞠。


「じょ、冗談ですよ。冗談。意地悪言ってみただけです」

「意地悪ってそんな……鬼、悪魔」


 なんだろう……どんどん天道さんが可愛く見えて仕方ない。もともと美人だしな。まさかここまでヘタれると、なんかギャップに萌えるよな。愛ももうちょっとヘタってくれたら俺が格好良く助けるんだけど……出来たらな。

 なんだかんだ言って、愛は地に足ついてる感じで、やっぱり何かとしっかりしてるんだよな。何かとお姉さん面するし……やっぱり年上だからって気張ってる所があるんだろう。

 でも実は一人では天道さんみたいに悶々としてるとか考えると、ある意味いい妄想になるかも。ベースは今の天道さんにして、頭の中で愛に置き換えれば完璧。そんな考えを一人でしてると、いきなり足の甲に激痛が!


「–––––ッ!?」


 視線を下に向けると、日鞠の奴の足が俺の足を踏んづけてた。まさか読まれたのか? エスパーかこいつ。しかもこっちに視線も寄越さないとは……実はただ踏んでしまっただけ? だけどそれにしては勢いが違ったような……

 別段なんのフォローもなく、日鞠の奴は結局天道さんに向けて再び言葉を紡ぐ。


「ごめんなさい。だけどやっぱり気になりますよね。何か不味いことでも有るのかな? あっ、この場合の不味いことは天道さん自身の問題じゃないですよ」

「わ、わかってるから。でも何? 日鞠ちゃんは当夜が私をLROから遠ざけたのには理由が有ると思ってるの?」

「あるかもしれないと思ってます。でも現状じゃなんとも言えないですね」


 そう言って肩を竦める日鞠。そんな折、カランカランと響く鈴の音。そっちに目を向けると、いかにもお金持ちっぽい奥様方のグループが入ってきた。小奇麗でおしゃれな感じ。なんだかその人達は辺にコソコソ話してて、席を案内しようとやってきたウエイトレスの子に何か言ってる。

 すると何故かそのウエイトレス人が申し訳なさそうにこっちに来る。なんだ?


「あの……その……お連れの御人が外で…えっと……」


 物凄くタジタジしてる。俺は外に視線を移すと何を言いたいのか理解した。なるほど、営業妨害か。外ではラオウさんが仁王立ちしてる。あれじゃあ売上激減だ。今の奥様方もきっとラオウさんの事をヒソヒソ言ってたに違いない。


「おい日鞠。ラオウさんが営業妨害してるぞ」

「立ってるだけで営業妨害って……まあ仕方ないね。どうしますか天道さん?」

「何を?」


 天道さんはいきなり話題が戻ってきてびっくりしてる。てかこっちも何を? だよ。すると日鞠の奴が優しく微笑んでこう言うよ。


「何って引っ叩く為に一緒に行かないですかって事です。実際天道さんが居てくれると助かりますし、それに私は思うんです。摂理ちゃんにとって、当夜さんが帰る理由になるのなら、当夜さんにとっての帰る理由は天道さんじゃないかなって」

「私が……当夜の帰る場所って事?」

「はい」


 その言葉にしばらく呆ける。だけど突然一気に自分のコーヒーを一気に飲み干す天道さん。そしてカチャンと音を立ててカップを置くと颯爽と立ち上がる。カード取り出しつつ、ヒールの音を立ててこういった。


「私はこれからじゃじゃ馬になるわ。当夜が思わず飛び起きて来るくらいのね」

「きっとそれでいいんだと思います」


 二人は笑みを交わす。それを見てた俺はちょっと寒気が……別に自分の事じゃないけどさ……これから当夜さん大変な事になるな。それこそ引き篭もってなんか居られないほどに。

 こうやって男の平和は侵食されていくんだ。やれやれだ。やれやれ全く、心強い味方が増えた。

 第五百五十九話です。


 今回天道さんが加わって、LRO攻略の布陣が整った感じですね。さてさてどうしよっか……


 てな訳で次回は月曜日に上げます。ではでは。

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