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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
554/2701

模索する中

 蛇口から溢れ出す水道水。炊事場に溜まった汚れた食器。スポンジに洗剤を付けてそれらを黙々と洗ってるのはラオウさんだ。流石にあれだけ作って、そしてあれだけの人数が食べきった後の片付けとなると量が凄い。

 まああれだけの量を誰もが朝っぱらから食べきったってのも凄いけどな。残すと殺される––と誰もが暗に感じ取ってたんだろう。でないとラオウさんとは初めて会った彼等が、腹を抱えるまで食べる理由はないもんな。

 皆さん既に情報を得るために走り回ってる事だろう。それぞれ独自の情報筋があるようだしな。高校生の俺達にはどうしても限界って物があるけど、大人ならそこら辺の上限がきっともっと幅広い筈だ。

 俺達もここの片付けが終わったら動き出す予定。既に日鞠の奴はどこかにアポ取ってる様だ。こっちの頼りは日鞠だからな……


(それにしても……)

「ふんふんふん♪ あっ」


 ラオウさんの太ましい腕が洗い終わって積み重なってた食器にぶつかる。当然ながらグラっと大きく傾く積み重なった食器。俺はそれに素早く反応して、食器の崩壊を防ぐ。


「ふう……」

「すみません秋徒さん。ん?」


 そう言って礼をしてくれるのはありがたい。だけど今度は付き出した尻が後ろの汚れた食器にぶつかった。


「メカブ!」

「あわっ! あわわ!」


 てんやわんやしながらもなんとか食器達を守ったメカブ。何故かどや顔をこっちに向けてくる。


「ふふん!」

「本当にすみませ–––おっと」


 今度はメカブの方を振り向こうとしてドンッと水面台全体を揺らすラオウさん。両方の食器たちが一斉に踊りだす!

「ぬおおおお!」

「ええええい!」


 俺達は体全体を使って食器を抑えこむ。転がり出すコップは空いた手で救出だ。この時の俺達の反応速度とその対処の素早さはかなりの物だったと思う。何回もラオウさんが食器落としそうになるから、感覚が研ぎ澄まされてたのかもしれない。

 実際LROの感覚をちょっと思い出した気がした。


「秋徒さん……メカブ……」

「「いい! ヘタに動くな!」」


 俺とメカブはバツの悪そうな顔に成ってたラオウさんに同時にそういった。だってまたまた謝られたら、どうせその巨体に何処かが当たるだろ? 同じ事の繰り返しだ。これ以上コントみたいな事をやってるわけには行かない。

 でも言ってちょっと青ざめたな。「ヘタに動くな」って……あのラオウさんに勢いとはいえよく言えた物だ。まあでもこればっかりは俺達にはなんの非もないし、寧ろ救ってやってる側だからな、強くイケる。


「取り敢えずラオウさんは最大限の注意を払って食器洗いを続けてください」

「うんうん、ラオウは取り敢えずその体を小さくして食器洗いを続けてなさい」

「……りょ……了解しました」


 なんだかショボンとしてカチャカチャと食器洗いに勤しむラオウさん。この人が食器を洗うと大皿さえ小皿に見える不思議。漬物添えるサイズに見える物がこっちに渡ると大人数分を纏めて乗せれるサイズに成るんだからビックリだ。

 ハッキリ言って箸なんて爪楊枝? って感じに見えるぞ。油断してるとこっちの脳が認識してる物との違いが有りすぎて、彼女の手を離れた瞬間想像以上に重く感じることがあるんだ。

 マジで皿とか握ってるのに落としそうになるからな。どれだけ規格外な体型してるんだよと……俺なんか殆ど他人を見上げた事なんか無いのに、ラオウさんは常に見上げないと行けないからな……本当に人類か? というか女か? 

 失礼過ぎるけど、ふと思わずには居られない。まあなんというかアレだよな。本当に彼女を見てると思うことは、この人に取ってはこの国は手狭すぎるって事だ。色んな意味でラオウさんの規格に収まるものがない。

 全て蹂躙されるイメージが湧く。


「なんて言うか、こんな所で良くあんなに料理出来たわよね? まあ私はここが手狭だと思ったことなんか無いんだけど」


 しょんぼりしてるラオウさんにメカブの奴がそう云うよ。確かに考えてみればそうだよな。これだけ周りにぶつかりまくる位に彼女にとっては狭いんだ。出来た料理も火に掛けてる鍋とかもひっくり返しても全然おかしくない。

 だけど料理中はそんな惨事は見られなかった。どういう事だ?


「簡単ですよ。料理も戦いですから」


 キリッと無駄に格好良く宣言するラオウさん。でもその一言で全て納得できるのが彼女という人を表してるな。つまりは緊迫感を持って料理を行ってたってことなのだろうか? 戦闘中並の集中力を発揮して料理に向かってたから、危なっかしい事なんか一つも無かった。彼女にとって戦いでの敗北は’死’っぽいからな。

 死ぬわけには行かない集中力は凄まじいだろう。でも片付けは彼女の中でそこまで集中するべき事じゃない。ただの後片付けだから? 


「料理は食材と戦って戦って完成された物が腹を満たせば終了なんです。片付けも勿論しますが、そこに戦いは存在しない。遺憾です」


 何が? 遺憾の使い所間違ってると思う。


「てかそれなら、後片付けまでが料理って思えば良いんじゃないか? 片付けまでが戦いだ」


 我ながらいい事言ったな。まあ遠足は家に変えるまでが遠足の流用だけどな。するとラオウさんは恐ろしいことを言った。


「私は死体から金品を奪うような事はしません。それと一緒です」


 ごめん……何を言ってるのか理解不能だ。綺麗に積み重なってる食器類に視線を泳がせてると、自分の微妙そうな表情が見えた。取り敢えずここはそうだな……


「ああ、そうなんだ」


 これが正解だろ。これ以上話しを広げても俺達が生きてきた世界では理解出来ないと悟ったよ。そう思ってるとガチャって音と共にこんな声が聞こえてきた。


「まだ終わってないの? 早く出発するわよ。オジサン待たせてるんだからね」


 日鞠の奴は大層なご身分だな。なんかこうやってると、ほんと自分がただの部下に成ってるようで癪に触る感じ。でもよくよく考えなくても、既に部下みたいな自覚はあったかも知れない。悔しいが。

 俺は別に生徒会でもなんでも無かったんだがな。まあこいつと一緒に居ると、自然とこいつが上に行くからどうしてもそうなるんだよな。いつの間にか社畜根性というか、命令される側なのに疑問も抱かなく成ってただけかも。

 最近変わり始めたから、これじゃ駄目だと思うわけかも知れないな。


「そういうのならアナタも手伝ってください日鞠。食器は山の様にあるんです。運んでくれると助かります」


 確かに。ラオウさんの言うとおりだな。楽してないで働け。そっちの方がお前の言う効率的って奴に成るだろ。すると日鞠の奴は一旦俺達を眺めてこういった。


「それは別に良いけど、どうしてその配置なの? 取り敢えずラオウさんはそこ邪魔だから、洗って拭いた食器を棚に運ぶ係りをしてください。それと秋徒とメカブも配置交代。私が洗うから、今度はその態勢で三倍の速さで終わらせるわよ」


 そう言いながら日鞠は水面台の中央に立つ。取り敢えず無駄に流しっぱなしに成ってた蛇口の口を閉めて、洗剤は適度にスポンジに付加。よくよく見たらラオウさんの使ってた時は泡が水面台全体に広がってた様だ。気付かなかった。そもそも水面台見えなかったしな。


「じゃあ行くから、秋徒」

「お、おう」


 俺は取り敢えず汚れた皿を渡す。するとキュッキュッキュッと小気味いい音と共に、直ぐ様次の催促が。もう一枚やると再び同じ小気味良い音が鳴り、何故か泡一つ付いてない綺麗な手がこちらに差し出される。

 あれ? なんかさっきまでとは雲泥の差が生じてるぞ。効率が三倍なんて比じゃないかも知れん。俺が汚い皿を日鞠に送って、日鞠の奴がなんか分からん速さで汚れを落として、メカブの奴が適当に水気を切ってタオルで拭いて、それをラオウさんが食器棚に次々と戻してく。

 適材適所ってのはこの事だな。さっきまで明らかに配置がおかしかったと言うことか。ラオウさんに呼ばれてそれこそ適当についた位置だったからな。メカブの奴とか明らかに汚れた皿を掴むの躊躇ってたしな。掴んでも指先でチョビっとだったし、ラオウさんは言わずもがな。俺は棚に運ぶ所までやってなかった。

 だから向こうには沢山食器が積み重なってた筈だが……ラオウさんの怪力なら食器なんて幾ら重なっててもどうやらトランプの束と一緒みたいだ。いつの間にか殆ど食器棚に収まってる。

 まあここなら俺は汚れた食器を日鞠に渡すだけで良いから楽でいいけどな。メカブの奴は綺麗な更を拭けば良いだけだからしっかり持てるし、ラオウさんは狭い場所でせせこましく動かなくて良い。

 ほんと皆能力––って程大袈裟な物でもないけど、地力を発揮できる配置だよ。流石日鞠


「これで最後ね」


 最後の食器を洗い終えた日鞠がそう言って、メカブに渡す。なんだか拭くのが楽しくなって来てたのか、達成感でも味あう様な顔しつつメカブがそれを拭く。そしてラオウさんに渡るとそれが途端に陳腐な玩具に見える。

 まあそんな高級な皿でもない真っ白奴だし、最初から陳腐っちゃ陳腐だったけどさ、ラオウさんの手に渡るとそれを更に上回ってママゴトの様な感じになるんだよ。そんなふうに見える皿をラオウさんは食器棚に押し込んで片付けは終わった。

 凄い速さ。十分も掛からなかったかも知れない。


「凄いですね。流石日鞠。アナタは優秀な指揮官に成れます!」

「まあ、それほどでもあるのは事実かな?」

「そこまで凄くないけど、ただの人間にしてはやるわね」


 女性陣がワイワイとしだしたな。一段落したから、口が動き出したって感じだ。女子ってお喋りが好きだからな。でも談笑に花を咲かせてる暇はないはずだろう。ここは男の俺がビシッと言って次の行動に移らせるべきだな。


「おい三人とも––」

「さて、じゃあリーダーである私が命令するわ。私達も行動を開始するから、準備を五分で済ませない」

「アイマム!」

「リーダーは別に良いけど、五分はインフィニット•アート所持者には厳しいです!」

「じゃあ留守番で」

「しょうがない、限界を突破するかな」


 二人はそそくさと部屋から出てく。俺は開けた口が塞がらないというか、塞ぎどころを見失った状態だ。え? なにそれ? なんでそんな統率されてんの? 学校の女子達はいつまでもいつまでも延々と無駄な話しを繰り返してるのに、なんでこいつ等そんな目的に忠実にいけるんだよ。

 いや、日鞠は良いとして、残り二人! でも思ったけどラオウさんもお喋りって感じじゃないな。寧ろ逆にあの見た目なら寡黙な人だ。無駄に五月蝿いのはメカブ位だが、どうやら日鞠は上位の立場を獲得してるようだな。

 メカブの奴は甘んじてる––とか、人間に対抗しても––とか思ってるんだろうけど、絶対に上手く日鞠に誘導されたと思う。そういうの大得意だぞこいつ。そう思ってると変な感じで立ってた俺と日鞠の奴の目があった。


「何やってるの秋徒? アンタも歯くらい磨いた方がいいわよ。口臭がキツイと周りが迷惑するからね」

「おい、俺の口臭がキツイみたいなイメージを植え付けるのヤメろよ」

「嘘……まさか気付いてない?」


 なんだその衝撃の事実を教えてしまった! みたいなニュアンス。まさか……本当に? 俺は自分の口に手を添えてハーハーしてみる。でもあんまり分かんないな。


「ちょっと……欲情してるの? 止めてよね」

「違うわ! 誰が今更お前に欲情するかよ。ただ息を確認してただけだ」

「なんだ。やっぱり不安なんじゃない」

「お前がそうさせたんだろ」

「まあそうだけど、そんな事したって自分の口臭は分からないんじゃない?」


 確かに日鞠の言うとおりだな。別段臭いとは思わない。てか何かで見たけど、人は自分の体臭とかには疎いとかどうとか……毎日実は自然に嗅いでるから、違和感を感じないとか見た気がする。


「だけど歯ブラシなんて持ってきてないぞ」


 歯磨きとかそもそもあんまりやんないんだよな。歯が痛くなったら歯医者に行く。それが普通だろ。


「歯は大切にしといた方が良いと思うけどね。だからこそ、家の高校では歯磨き習慣を徹底させてるんじゃない。もしかして秋徒、してないの?」


 ジトーと睨んでくる日鞠。そうなんだよな……家の高校では五時間目が始まる前に五分間の歯磨き時間がある。小学校でもそうそう聞かない事をやってるんだよな。あれは実際煩わし……


「やってる。ちゃんとその時はやってるよ。でも好評かあれ?」

「成果は出てるわ。まさかただ歯磨きして歯を大切にしましょうって事だとでも思った?」


 他に何があると言うんだ? 歯磨きって歯を守る為にやることだろ。でも今の時代にカシャカシャと手動で手を動かすのはな……せめて電動歯ブラシを支給してくれたら楽なんだけどな。けどわざわざ歯の磨き方って張り紙をしてまで手磨きを薦めてるからな。それはないか。


「いい秋徒? 私が生徒会長になってこの習慣を初めてから、教師達から生徒の午後の授業態度の変化が報告されてるわ。それに校内学力の平均も十五%向上してる」

「それって歯磨きと何か関係あるのか?」


 因果関係皆無だろ。関連性説明出来るのかよ? すると日鞠の奴は椅子じゃなく、テーブルに腰掛けて三つ編みをクルクルしながらこういった。


「あるわよ。歯磨きって実は頭を切り替える作用があるのよ。歯磨きをいつやるか考えてみなさい」

「え〜と、朝昼晩だろ? 基本は食後か?」

「そうね。もっと綿密に言えば朝は出掛ける前にやるし、夜は寝る前には必ずやるでしょう。これは重要なファクターなのよ」


 昼入ってないけどな。でも確かに一日の節目ではあるかもな。


「朝は歯磨きで頭を起こして出掛ける。夜は一日の終りにサッパリと。昼は中々難しいけど、学校でなら出来るわ。それを実践したのよ。午後の授業はお腹も満たされて満腹感も相まって身にはいらない生徒が多数。

 そこでそんな頭を切り替える為に歯磨きよ。スッキリするでしょ?」

「確かにスッキリはするけど、あれは歯磨きと言うよりも、歯磨き粉では?」


 歯磨き粉ってシトラス系多いからな。スースーしまくる。それでいいのなら別に歯を磨く必要なんてなくて、いうなればミンティアとかでもいいよな?


「スースーするだけが重要じゃないの秋徒。歯磨きは口の中を刺激するし、歯を磨くために指も使う。そう言う所が大切なの。まあ科学的な証拠とかは無いけどね。私が勝手に思ってるだけ」

「おい!」


 勝手に思ってることをやらされてるのかよ俺達は。いや、大体そうだけどさ。


「いいじゃない。成果は出てるわ。それに歯磨きで確実に効果を上げることが出来るじゃない」

「何がだよ?」


 すると日鞠の奴は自身の真っ白な歯に指を当ててこういった。


「虫歯予防」


 原点回帰じゃねーか。そんな事をどや顔で言われてもな……


「良いから歯磨きと顔洗う位はしなさいよ。歯ブラシがないのなら、指に塩塗って洗えばいいわ」

「それ、効果あるのか?」

「失礼ね。昔はそうやって洗ってたのよ」


 そう言って日鞠の奴も部屋の外に。一人ぽつんと残された俺は、仕方なく塩を指に塗って歯を洗ったよ。


「しょっぱい……」




 下に降りると日鞠とラオウさんは既に準備終えて待ってた。運転手さんはもうレンタカーはやめたようで、高級そうな黒塗りの車に戻ってた。ベンツだなベンツ。でも最初に乗ったリムジンでは無いようだ。

 流石にあれは目立ちすぎるからだろうな。


「おはよう御座います秋徒様」

「はは、そんな様なんて……」


 なんか超恥ずかしい。そんな風に呼ばれる事なんか皆無だからな。でもなんで突然名前? 昨日まで彼とかだったのに。


「それは勿論、将来の旦那様に成られるかもしれないお人ですからね」

「ええ〜まあ、確かにこのまま愛と結ばれればそうなりますけど……」


 ヤバイな。ニヤけた顔が元に戻らないぞ。するとドサッとデッカイ荷物を置いてラオウさんがこう言って来た。


「どうかその時は私をボディーガードに雇ってください。幸せな家庭に銃弾一つ届かない事を約束しましょう」

「ど……どうも」


 銃弾ね。この国でそれは頻繁には飛んでないけどな。でももしも愛と結ばれたら、もしかしたらそんな物を扱う奴等に狙われる立場に成るのだろうか? そうだとしたらラオウさんを雇うのはアリだな。寧ろ必須かも知れない。考えておこう。


「あの、大体幾らぐらいで?」

「そうですね。私は自分から価格を提示した事はありません。ですが安い身売りもしません。私は私の能力に自信と確信を持ってます。そして過去の私を調べて、今現在を鑑みて判断をしてください。

 あっ、ちなみにこの身一つで稼ぐお金は大好きです」


 最後の宣言はなんだ? でもこの人実際人類最強だろうしな……時給数千円……いや、数万円位いってもおかしくないかも知れない。傭兵の相場とか知らないからなんとも言えないけどな。色々と考えてるとラオウさんの荷物が目に入った。

 それはどう考えても登山とかに行きそうなリュックの大きさしてる。何が入ってるんだ一体?


「ラオウさん、その荷物は?」

「私が皆さんを守るのですからね。装備は万全でないと行けません」

「それはありがたいですけど……でも、どう考えてもその荷物はあの車には入りませんよ」


 そんなリュックの大きさ、実際漫画でしか見たこと無いよ。ラオウさんが百九十あるだろう、そんなラオウさんの体半分ほど隠す荷物って普通の人なら完全に隠れるだろ。どこにそんな馬鹿でかいリュック売ってるんだよ。


「そうですね。確かにちょっと多すぎたかも知れません。銃を何丁か置いて行きましょう」

「うおおおおおおおおおい! それはヤバイだろ!」

「ダメダメダメ! こんな往来でそんな物出しちゃ駄目!」


 ラオウさんの行動に日鞠も慌てて飛んできた。部屋の中ならまだしも、こんな外で銃なんて出しちゃ不味い。ここは戦場じゃない! 日本なんだ! そう思いながら開け放たれたリュックの中身を見ると、なにやらマフィアとかが持ってそうな物騒な物が一杯。

 これ……どうやったら日本で買えるんだ? それとも持ち込んだ? どうやって? いや、あんまり考えちゃいけない問題だな。


「取り敢えずこの荷物は全部置いてきてください。ラオウさんなら肉体だけで、この国では渡り合えます」

「そうですか? 日鞠がそういうのならそうしましょう。キャプテンですしね」


 そう言ってラオウさんは荷物を片手で担いで階段を上がってく。まったく、あの人良く逮捕されないよな。てか、協会を隠れ蓑にしてるよな絶対。するとラオウさんと入れ替わるようにメカブの奴が出てきた。

 変な星形のサングラスを首から下げて、頭にはサンバイザー、肩からずれ落ちそうなTシャツは絵の具を零してグッチャグッチャみたいな感じで、ズボンも同じように感じの色彩で、片足だけ何故か生地が無くなってる。後足元は紫のスニーカーだった。

 目が痛くなるな。大阪のおばちゃんよりも派手だぞこいつ。服装は比較的地味な日鞠が埋もれてしまう程に差があるな。日鞠は素で勝負してるが、メカブはインパクトで勝負してるって感じだ。


「お待たせ。まあ時間を止めてたから貴方達にはピッタシ五分だったでしょうけどね」

「既に七分位経ってるわね」

「ふふ、時間って案外お茶目よね♪」


 どんなごまかし方だそれ。ラオウさんの騒動が無かったらこいつ置いていけたのにな。これならトマトの方がまだマシだったかもと思える。実際こんな格好の奴と歩きたくない。スオウの奴は秋葉で良くこいつとずっと一緒に居たよ。


「さあ、早く行きましょう!」

「お待ちくださああああああああああい!」


 ドスンと三階位から落ちてきたラオウさん。一瞬地震かって位に地面が揺れ……いや、コンクリ砕けてるんすけど……恐ろしい。


「さあ、行きましょう」


 唖然とする中、平然とそういったラオウさん。三階だぞ? その体どうなってんの? だけどこの人の場合はもうそう言う物だろうと誰もが諦めてるから、淡々と車に乗り込む。社内はクーラーが効いててヒンヤリとしてた。

 実は言うのも億劫だったが、やっぱりそれなりには暑かったんだよな。助かる。


「それで日鞠。これからどこに行くんだ?」


 まずは目的地を聞かないとな。すると助手席に座った日鞠は前を見据えながらこういった。


「天道 夜々さんの所かな」


 今日も強い日差しを射す太陽が昇る。建物の隙間から差し込む日差しが高くなるに連れて、長かった影が建物と同化するように消えていく。


 第五百五十四話です。

 話し進まなかったのは、バランス調整です。色々と兼ねあってるのです。勘弁して下さい。でも次はもちょっと進むかな? 


 てな訳で次回は金曜日に上げます。ではでは。

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