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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
515/2711

見上げる場所

 白塗りの長い車……なんだっけリムジンって奴に俺達は乗ってる。ほら、よくハリウッドスターとかが乗ってる--って言う先入観がある車だ。胴体が長い、日本の道じゃやり辛そうな外観した奴。

 車なんてどんな高級車でも結局ただの移動手段だと思ってたけど、これはなんか一味違う。一一般市民の俺の持ってる車と言う常識を覆しそうだ。え? なんで車の中にカウンターが? グラスをキュッキュと拭いてる人は誰だ? ボトルも何本もある。てか行った事無いけど、キャバクラみたいな……流石にそこまで派手でも下品でもないけど「これが高級か」とは思える。まず座席が普通の車みたいに配置されてないし!

 車体の壁に沿ってグルッと成ってる。座席はふかふか、照明もなんか違う。窓に掛かってるカーテンは精細な刺繍がされてる。成金なら金ぴかにでもしそうな内装をここまで落ち着かせてるのは、代々金持ちだからだろうな。


「はは……」


 思わず乾いた声が漏れる。だって……住む世界が違う。こっちは床屋の息子だぞ。こんな車、必死になって働いたって買える気しない。俺は愛にとって当たり前の事を与える事がきっと出来ない。そう思える。

 知れば知る程、生きて来た世界が違うと思い知らされるってのは結構辛い物がある。頑張ろうって決めたけどさ……俺は普通の奴なんだ。スオウの奴の様に世界を救う英雄に選ばれたりしないし、日鞠の様に世界に愛されてる訳でもない。

 そんな俺が今から頑張って、こっちの世界に足を踏み入れる事が出来るのか……諦める気なんかないけど、果てしなく遠く思える。そんな鬱に入ってると、差し出されるグラス入りの液体。それはなんだかとっても赤い。


「どうぞ秋君。喉乾いたでしょうし」


 くっ……優しいな愛は。お嬢様然とした今日の服装も素敵だな。眩し過ぎて、見てられない程だ。ワンピースに肩には透けてる布みたいなの掛けてる。それは微妙にキラキラしてるな。髪も今日はアップで髪留めがダイヤモンドとかの集合体に見える。

 どこのパーティーに行って来たの? って感じだ。くそう……きっと今身につけてる全ての総額はうん百万はくだらないんだろうな。俺は差し出されたグラスをガバッと取って、口に流し込む。


「----うまい!! なんだこれ!?」

「野菜ジュースですよ。プレミアムな奴ですけど」


 プレミアム……それはきっと本当にプレミアムなんだろう。庶民の為に、ちょっと贅沢にしてみました! 的なアレじゃなく、最高級な材料を惜しげも無く使ってます--セレブ御用達! 庶民お断り! の本物なんだろう。

 野菜ジュースって苦手だったんだけど、何故かこれはゴクゴク飲める。流石安物とは違う。だけどどうしてだろう……上手いのに、悔しい味が混じってる気がする。俺は何杯も何杯もヤケになって飲む。


「飲み過ぎじゃないですか秋君?」

「いいんだ! --いや、良いんだ。体に良さそうだし」

「そうですか? だけど何事もホドホドにしないと。お花だって水をやりすぎるのは逆にダメなんですよ」


 くっ、愛の優しさが染みる。どうしようか……抱きしめたい。だけどここには日鞠も居るしな。それにしてもさっきから日鞠がおとなし……くもないか。俺以上に飲み物飲みまくってやがった。てか冷蔵庫もあるのか。そこからデザートを要求してはカウンターに居る人に作ってもらってるぞ。

 てかシェフみたいなのが居る車ってなんだよ……本当に世界が違うな。LROとかじゃここは無いのに……同じ世界だった筈だけど、同じじゃない。それの方が結構残酷じゃね? コレだけの差があるんだからな。


(どうして金持ちに生まれなかったんだろう……)


 ついつい下を見てしまう。意味ないけどさ、コレだけの物を見せつけられると思わざる得ないだろう。街の床屋の息子には場違いなんだからさ! 


「秋君? お腹痛くなっちゃいましたか?」

(くっ、なんて可愛いんだ)


 絶対に離したく無いな。愛はいつだって本気で俺の事思ってくれてる。ちょっと心配性が過ぎるけど、そこはお姉さんだからしょうがないらしい。全く外見から中身まで可愛過ぎると思う。俺は伸びて来た手を取る。


「秋君?」


 そして無言で強く握るよ。まあ勿論愛が痛がらない程度にだけどな。それにしてもなんてスベスベで滑らかな肌をしてるんだろうか。繋ぐ度にドキドキする。まだそんなに繋いだ事ないからかもだけど……けどきっとずっとドキドキするんだろうなって思う。


(離したく無い)


 俺は相応しい男になると決めたんだ。お金はないし、将来稼げるかなんか分からない。だけど、人として相応しい奴に成りたい。立派な奴になれば愛の傍に居たっていいと思える。


「愛……俺は頑張るよ」

「はい、頑張ってスオウ君や皆さんを助けましょう」


 俺の頑張るは愛に対してだったんだけど、確かにそこも忘れちゃいけない問題だ。スオウがこうなったのも俺のせいではあるし、少なくともアイツには置いてかれるのは癪だからな。俺は、俺の大切な奴等を守れる男になるんだ。

 恥ずかしいから口にはしないけど、その決意は本物だぜ。


「そういえば……愛はどうしてあそこが分かったんだ?」


 まだ聞いてなかったけどさ、それってかなり重要事項だよな。きっと日鞠の奴が何かやってたんだろうけど……でもだからって何を? 思い当たるのは、ここに連れてこられる前の行動だよな。俺の言葉に愛は日鞠を見ながらこう言うよ。


「日鞠ちゃんから連絡があったんです。あの病院に来て欲しい旨と、ベッドの下に携帯があると。だから私は急いで病院に行ったんです」

「でも病院は封鎖されてただろ?」


 通院してる人しか入れなかった筈……


「それは大丈夫でしたよ。私が行った時には封鎖は解かれてましたから。普通に営業してました」

「なっ……」


 つまりは用が済んだから封鎖は解除されたと。行政とは思えない手際の良さだ。でもそれでもあの現場に堂々と入れる物かな? 国家機密だろ? 立ち入り禁止くらいにはしてそうじゃ無いか?


「そこはほら、家はお金持ちなので」

「愛の口からそんな言葉を聞くなんて思わなかった!」


 今のは愛でもちょっと汚く見えたぞ。初めてだこんなの。すると愛は慌てたように両手をフルフル振るってこう言うよ。


「ち、違います。ジョークですよジョーク。お金はあるけど、チラつかせてなんか居ません。お願いしたまでです」

「お願いで通れるんだな」


 きっと院長とかと繫がりがあるんだろう。あってもおかしく無い。それともあの病院に多額の寄付をしてるとかね。あり得そうだ。それなら、愛の頼みを無下には出来ないだろう。流石金持ち。


「まあでもそこら辺いいよ。愛が金持ちなのはしょうがないもんな。子供は親を選べない訳だし」

「そうですけど……なんだかその言い方は納得出来ない気がします。でも今はそれで良いです。それで私はスオウ君の病室に辿り着いた訳です。そこでベッドの下から日鞠ちゃんの携帯を見つけました」

「フムフム」

「携帯はボイスレコーダー状態になってました。だから再生させてみたんです。すると物凄い不穏な会話が録音されてたんです。こんな感じです」


 そう言って愛は喉の調子を確かめてから、声を落として話し出した。


『ふふ、全く無茶な子供達ですね。ですが自ら来てくれるとは都合が良い。彼女達も運びますよ。この世界には深く入り込まない方が良い事もあると……大人は教えて差し上げないと』

「−−と、どうですか?」


 何故か迫って来る愛。いや、十分に伝わったよ。あの糸目野郎だろそれ。何となく分かった。でもボイスレコーダーとはね。このご時世なら映像まで残しておきたいと思う所だけど、撮る術が無かったんだな。

 スマホは平べったいし、カメラは自由に向きを変えられない。でもボイスレコーダーって事はだ。日鞠の奴はこの後の展開を色々と予想してた訳か。音だけでもきっと自分達の危ない状況を伝えれる……そう判断したんだよな。

 まあ催眠ガスまで投げ込まれたらある程度は予想出来るとは思うけど……


「でも、ここまではどうやって?」


 追跡とかには遅過ぎるよな? 愛がここに着いた時には、俺達はもうあの施設にいたかも知れない。てか結局あの施設は例の植物園かどうか分かんなかったんだよな。愛が入って来た場所は、雑居ビルの一角みたいな所だったからな。どういう事だろう? 宛が外れたって事か?


「そこはほら秋君の携帯を追跡したんです。ボイスレコーダーを閉じると、メッセージが出て来たんです。『秋徒・GPS』って」

「なるほど、だからこいつは自分の携帯を投げ捨てて、俺のだけを持った訳か」

「日鞠ちゃんには私達が互いの位置情報を公開し合う設定をしてるのを言ってましたからね」


 照れくさそうに言ってるけどさ、位置情報の公開って結構怖い事でもあるよな。まあ俺は全然問題ないけど。自分の行動が常に監視されてる訳だからな。信頼関係がないと出来ない事だ。今流行ってるらしいけどね。

 でも本来はこれって小さな子にするサービスが拡充して来たんだよな。でも今や妻が旦那の浮気を調べる為とかにも使ってる……みたいな事もあると聞く。まあ好き合ってるんだからこのくらいって感じでやるんだろうけど、ラブラブ度が減衰してくと同時に恐怖の縛りアイテムに……まっ、俺は愛一筋だから。

 それを証明する為にもこれは望む所だった訳だ。言い出したのは俺だけどな。だって愛は良くパーティーとかに出るって言うし……やっぱり金持ち大学生で美少女とか、お呼ばれが色々と凄いらしい。

 あんまり行ってないらしいが、それでもな……年下で頼りがいも無く、経済面でもなんにも出来ない俺は不安で溜まらないじゃないか。俺を口説く女なんかたかが知れてるけど、愛を口説く男共は、少なくとも金持ちだと思うし、顔もきっと良い奴が多いと思う。

 それに自信に満ちてそうな奴がわらわらと……それを考えると怖過ぎるだろ。だからこその位置情報の共有……まあ心配するのは結局一緒なんだけどな。でもどこに行くかは言っといてくれるから、それと同じだけでも安心出来る物だ。ある程度は。


「それにしてもあの状況でそこまで出来るなんて……」


 俺は日鞠をジトーと見つめる。さっきからケーキにジュースに食いつきまくってるこんな奴が、あの意識が朦朧とする中で、ここまでやってたのに驚きだ。ホント、今の姿からは想像も出来ないな。


「あの状況?」


 首をひねる愛。そうか、愛は音だけでしかしらないもんな。しかも俺達が眠った後の事だけ。その前が大変だったよ。俺は話してやるよ。


「実はかくかくしかじかでさ」

「ええ!? 部屋に催眠ガスが充満してる中でやったんですか? しかも秋君は早々に動けなくなったのに?」

「あの……最後の所は強調して欲しく無いんだけど……」


 恥ずかしいじゃないか。まるで俺が役立たずだったかの様なその言い方。


「役立たずだったでしょ? どう考えても」

「うるさい。お前はそっちで菓子でも食ってろ」


 なんでこのタイミングでこっちの会話に入って来るんだよ。都合が悪いだろうが。絶対に俺を陥れる為に入ってこようとしただろ。日鞠の奴はそう言う所ある。他の誰になんと思われようと良いけどな。マジで愛だけにはそう言うのは止めて欲しい。

 すると当の愛にこう言われた。


「ダメですよ秋君。日鞠ちゃんのおかげで無事にこうやって家に帰れるんです。ちゃんとお礼言わないと。それとも秋君は自分が何をしたか言えるんですか?」

「愛……なんか最近俺に厳しい」


 自分が何をしたか言えるか? ってそれってグサッと胸に刺さるぞ。確かに声を大にして言える様な役には立ってないだろうけど、小さな事は色々とやってるぞ。病院に入れたのだって俺のおかげだしな。

 そもそも俺が日鞠の家まで行かなかったら、日鞠の奴がこの状況を知るのにはもっと時間が掛かったんだ。ほら、色々と役に立ってる。すると意外な所がフォローが入る。


「愛さん、秋徒もそれなりに役に立ってくれましたよ。色々と支えられた部分はあります」


 おお? なんで日鞠の奴が俺を立ててるんだ? おかしな行動だ。もしかしてこの後にズガーンと落とす気なんじゃ? そう言う疑いがわいて来るな。


「おい、なんの意図がある?」

「なによその言い方。人が折角良い印象を与えてあげてるのに不満な訳?」

「不満ではないが……」


 不満じゃないけど、不気味なんだよ。普段はんな事しないだろ? 裏があると疑いたくなるのも道理だ。


「失礼ね。私は結構他人を立ててる所あるよ。自分だけが目立っちゃ周りは着いてこないんだから」

「なんだその人心掌握術」


 確かに回りにも花を持たせる事は必要なんだろうけど……気を使ってそんな事してたか? 少なくとも俺はされた覚えないぞ。


「秋徒はそんな事しなくても私の下僕でしょ?」

「誰がだ! 俺は愛のナイトに成るんだよ!」

「うわ〜」


 なんだか恥ずかしい奴を見る様な目でこっちを見てる。でもそうだな、恥ずかしい事を言った。愛は「あ……秋君ったら……」って言ってモジモジしてるし。日鞠が下僕なんて言うから、思わず否定しただけなんだが……でも取り消す気はないな。実際そのつもりだ。


「迎えに来られた側の癖に〜」

「うるさい。今度は俺が迎えに行くから良いんだよ」

「ラブラブって事ね。まあ私とスオウ程じゃないけどね」


 なんだその自信は? まあずっと一緒らしいし、確かに時間じゃ勝てないけどな。でもあからさまにラブラブって感じじゃないだろお前達は。既に倦怠期来てるんじゃね? って感じ。ラブラブって言うよりも夫婦だしな。


「スオウ君と日鞠ちゃんの関係は良いですよね。かけがえの無い存在だろ分かります。ずっと一緒に入れてるのも素敵です」

「まあ私達はお互いを深く知ってますから」

「おお〜なんだか大人な発言ですね」


 目をキラキラさせてる愛は可愛いけど、年齢的には愛が一番大人な筈だろ。


「だってだって、まだ私達はお互いを深く知ってる……とは言えません。離れてても通じ合ってる二人は私の理想です」

「まあ、それほどでも。流石愛さん分かってる」


 日鞠に変な恋愛観を植え付けられないと良いけど。それだけは心配だな。こいつの思考回路は一般から逸脱してるから。それに愛は素直だ。育ちの良さが現れてるから、相性がいいのか悪いのか……その時ふと、俺は窓の外に目を向ける。

 どこから辺なのか気になったからな。手触りの良いカーテンを分けて外を見る。その時丁度道路標識が見えた。


「あれ?」

「どうしました秋君?」

「いや、この車どこに向かってるんだ? 帰ってない……よな?」


 さっき見えた道路標識の〜まで後kmって奴……明らかに俺達の街の方じゃなかった。どういう事だ?


「ええ、実は会って欲しい人が居るんです」

「「会って欲しい人?」」


 俺と日鞠が声を揃えてそう言った。小気味良い振動と、耳に入っては出て行く気にならない程の音楽。外の光を入れないで中の灯りだけで車内を照らす光。その中で愛はニッコリと、俺の心を鷲掴みにする笑顔で笑う。


「はい」


 −−と。

 第五百十五話です。


 会わせたい人とは誰なのか? それは次回で!

 てな訳で次回は日曜日に上げます。ではでは。

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