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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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伝えるって難しい

挿絵(By みてみん)

「ちょっ! もう! なんで急に映らなくなったの? ねえ説明しなさい秋徒!」

「そんな事言われたって俺に分かる訳無いだろ! てかあんまり乱暴に扱うなよ!」


 全く日鞠の奴は余裕を無くし過ぎだ。まあ今のを見てて余裕なんて持てる訳も無いけどな。アイツ相変わらずピンチ過ぎだろ。しかも相手はあのシクラ達って……幾らテトラが居ても分が悪いよな。あの選択は仕方なかったと思うけど……思うけど……どうやって大気圏を生身で突破する気なんだ?

 言いたく無いけどさ……本当はこの画面が真っ暗になったのって……いや、日鞠だってそれを考えてない訳が無いんだ。


「ねえ秋徒……あんたまさかスオウが死んだんじゃないかとか思ってないわよね」


 ギクッとした。まさかそんなアッサリと言って来るとは……こっちは気を使って言わなかったんだぞ。それなのに言うか……どう返せば良いんだよ。


「え~とそれは……」

「言っとくけどスオウは死んでないわよ」

「なんでそう言い切れる? 今の見て無事に地上にたどり着けると思うか? 思えないだろ! どうやって大気圏を越える? どうやって地面に着地するんだよ!?」

「やっぱり死んだと思ってるんだ」

「うぐっ……いや……」


 流石にもうそうじゃないとは言えないな。お茶を濁す事しか出来ない。でも本当にそうなんだよ。今のスオウ達じゃひっくり返ったってシクラ達あの姉妹とあの邪悪な奴に勝てるとは思えなかった。

 邪神もなんか制限受けてる様な事言ってたしな。それが無ければもっと良い勝負出来たのかも知れないけど、そもそもスオウ達は既に満身創痍の筈だしな。全てが終わった時に現れて無双するなんてあいつ等は卑怯臭い。作戦と言えば……それまでだけどな。

 でも本当にアレで無事と思えるか? なんか日鞠は確信めいてるけど、その自信はどこからくるんだよ。いつも根拠の無い自信を振りまいてるけど、今度ばかりは信じれない。いや、信じたいけど、いままで何度、LRO関連でスオウが死にかけてる? それを考えたら安易になんて物を考えられない。

 けど、それでも日鞠は言うよ。


「大丈夫。スオウは生きてる」

「だからどうして……いや、お前は実際知らないんだよ。LROがどれだけ精密な世界なのか。あそこはもう、もう一つの世界みたいな物だ。こっちの常識が通用しない事はいっぱい有るけど、こっちの世界の常識が通用する事もいっぱいある。やっぱりこのリアルをベースにしてるからなんだろう。

 生きる為に必要な要素が有るってことは、こっちで考えれる事は向こうでも同じ様に考えれるって事だ。大気圏で燃え尽きる事も空気抵抗があればおこるんだよ。重力があるから、地面に叩き付けられる。

 でもそれはどっちも生きる上で必要だ。だからあり得るんだ」

「私が言ってるのはそう言う事じゃないわ。LROが精密なのは分かり切ってる事でしょ」

「じゃあなんで!?」

「これ--」


 そう言って日鞠が指し示すのは一つの機械。それは心電図? ピコピコ波打ってるな。


「これが波打ってるって事はスオウは死んでないって事よ。だから安心しなさい」

「………………」


 なんてこった。これ以上ない根拠が出て来た。確かに死んでないよな……これが横一線になるまでは。ってことは生きてる……のか? 本当に。


「でもどうやって? じゃあなんで映像が途切れてるんだよ?」

「わかんないわよ。だから私がキレてるんでしょ」

「……それもそうだな」


 なるほど辻褄があったな。だからかあ……確かに生きてるなら映像途切れんなよって思うよな。けどよく考えたら今まさに燃え尽きてる最中かも……


「あんたはそんなに親友を殺したいの?」

「そうじゃねえよ。でも考えれるだろ」

「そんなの考えない。スオウを私を置いて逝ったりしないもの。私もスオウを残して逝ったりしない」

「なんだそれ?」


 少し怖いぞ。どれだけの深い繫がりがあったらそんな事が言えるんだ? 俺にはわからねーよ。幼なじみってのは大抵そんな物……じゃないよな。


「まあまだ生きてるのならそれでいいけどな。心電図も弱くなってたりする訳でもないってのは別に今この瞬間命が削られてるって訳でもないだろうしな」

「そう言う事よ。だからさっさと状況を映しない」

 

 そう言いながらリーフィアをバシバシ叩く日鞠。止めろよな。壊れるとは思わないけど、変な影響が出たらどうするんだ。取りあえずしばらく待ってみるしかないだろ。俺は枕元に繋がったままのスマホを置くよ。そして窓の方に近づく。


「どうすれば良いんだろうな? 俺達、見事に何も出来ないぞ」

「何も出来ないかどうかを決めるのは自分自身でしょ。私はスオウを絶対にもう一度引っ張り上げてみせる。スオウだってそれを諦めてなんか居なかったでしょ」

「……確かにな」


 アイツは生きると言ってた。そしてセツリにも生きて欲しいって言ってた。つまりはまだ何も諦めてなんか無いんだよな。あの状況で……良くそう思える。けど、LROは近くて遠い世界だよ。手を伸ばしたって行ける場所じゃない。

 アイテムとそして提供が俺達には必要だ。それに不穏な事をシクラの奴が言ってたよな……なんか「戻って来れなくした」とか。そんな事を実際出来るのか? まだシステムの根幹には辿り着いてない様な事も言ってた筈だろ? 俺は外を流し見る。暑い空の下で歩く人や、走る車。空には鳥が見えて、真っ白な雲がもくもくと聳えてる。


「こっちでは何が出来るんだろうな。一介の高校生の俺達に……LROでなら助けになってやれるのに、リアルじゃ戦いがそもそも違うよな」

「そりゃね、こっちはただドンパチをやれば良いって訳じゃない。分かり易い決着もあんまり無いかもね」


 こっちじゃ何と戦えば良いのかさえわかんねーよ。医療の知識があるわけでもないし、PCの知識だって人並みよりは少しある程度、でそれで何が出来る訳も無い。コネも金もない……こっちで俺みたいな普通の高校生が出来る事って、ホント何かあるか?

 俺には残念だけど思い浮かばないんだよな。日鞠の奴は何をやる気なんだ?


「私は取りあえず佐々木さん達の所へ行ってみる。迷惑かも知れないけど、行く口実はあるのよね。それにこれだって無下には出来ない問題だろうし……気付いてないのなら、知らせないとでしょ?」

「まあな……」

「それに運営側からの方が出来る事は大きい筈よ。私達は知り合ってるんだし、それを使わない手は無いわ」

「それもそうだな。ここで手を拱いてるよりは良いかもな」


 そう言えばこれもコネ……なのかもな。てかあの人達がスオウに厄介事を背負わせてた節もあるんだし、もっと思う存分頼っても良いのかも知れないよな。俺達は子供で、向こうは大人だ。出来ない事が出来たりするかも知れない。俺達が知り得ない事は確かに知ってそうだし、運営側に一縷の望みを賭ける事は出来る……か?

 実際どれだけ頼りになるかは分かんないけどな。あの人達実際、見守ってる程度の事しかやってないとか言ってた。だからちょっと不安だけど、一介の高校生よりは有能である筈。


「なあ日鞠、一緒に行っていいか?」

「別に、好きにすれば良いでしょ。親友のためなんだし、誰に遠慮する必要が有るのよ」

「はは、それもそうだな」


 確かに日鞠の言う通りだ。普段こいつのスオウへの執心っぷりは引く所が有るけどさ、それはやぱり大切だからなんだよな。そしてそれは俺だって同じだ。きっと質は違うだろうけど、俺にとってもやっぱりスオウは大切な親友。

 親友の為にわがままを言うのはある意味当たり前の事で、それが必要な時にそいつの為にがむしゃらに成れなかったら、それは本当に親友なのかってことだろう。

 俺はベッドで静かに眠るスオウに視線を戻す。それはガイエンの奴と同じ姿……でもガイエンの場合はLROとリアルで姿形がかなり変わって最初は「誰だこれ?」状態だった。正直言って。今も眠った姿だけみてもLROで関わってたガイエンとなかなか重ならなかったりするんだけど、スオウの場合はその見た目もずっとこのままだからな……それに過ごした時間もそれなりにはあるし、俺にだって責任の一端は有るんだよな。


 ずっと俺だって怖かったんだ。こんな日が本当にいつか来るんじゃないかってさ。だって俺が誘ったんだよ。そして始まったアイツにとっては命がけの冒険。そんな事させる気は更々無かったけど……あの頃の俺は逃げてた部分も有ったからな。

 逃げてたけど、逃げ切る事も出来なかったから、向こうでの自分の姿を知らない奴ともう一度始めようとか……そんな思いで巻き込んだら初日にアレだよ。スオウの厄介事を引きつけるあの体質はスキルなんじゃないかと思う。リアルスキル。

 俺はほんと気が気じゃなかった。だけどチャンスとも少しは思ったりもしたんだ。これで逃げずにちゃんと最後まで付き合えて、そしてスオウもセツリも救えるのなら……何かを取り戻せるかも知れない……そんな思いがあった。


 けどそれって考えてみれば独りよがりな考えなんだよな。それに実際そう思えたのはきっと自分が当事者じゃ無かったから何だと思う。目の前のスオウの姿……それはもしかしたら自分だったかも知れない。だってそうだろ、あの時俺は同じ場所に居たんだ。あり得ない……なんて事は無い。

 もしも何かの手違いでそう成ってたら……そう思うと実際背筋が凍る様な思いだ。けど同時にこうも思う。もしも……もしも俺がスオウの立場に成ってたら……きっと逃げてただろうなってさ。だってあの時の俺は逃げ続けた俺だ。本物の死--って奴が迫り来る怖さに耐えられるなんて思えない。

 偉そうな事を言えたのも、なんだかんだ言って付き合ってたのも……それは結局、俺は自分が安全だったからなんだ。こいつの立場に成ってたら、きっとその時が俺にとってLROとの決別だっただろう。

 怖くて仕方なくて、「死ぬかも知れないかもゲームに付き合ってられるか!」って理由も付けれて、全部を投げ出せた。都合良く……仕方ないって言えてた。そう成ってたら今はきっと無かったよな。

 こんな状況にも成らなかったのかも知れないけど……俺はスオウのおかげで救われた。逃げずに良くなったんだからな。今の俺はこいつに足向けて寝れない程だよ。これも都合がいいのかも知れないけど、俺はちゃんと救いたいと思ってる。親友で恩人……それはもうかけがえのない物だろ。


「まあでも、秋徒が行ったら迷惑がられるかもね」

「な……何でだよ?」


 ちょっとそれはショックだぞ。やっぱり迷惑なのか? でも何故に俺だけ?」


「だって無駄にデカいじゃない」

「そこかよ!」


 そんなの自分でもどうにも出来ないじゃねーか。スクスク育った事を喜んで貰いたいくらいだ。


「だって結構散らかってたし、今もきっと慌ただしくしてるだろうから、秋徒の大きさは迷惑以外のなにものでもないわよ」


 なにものでもないって……そこまで言うか。会社なんだからオフィスだろ? 結構広い物じゃないのかそう言う所って? てかさ……


「お前は結局俺に来て欲しく無いのか?」

「別にそう言う訳じゃないわよ。でもちょっと縮こまれないかなって?」

「出来るかそんな事! 別に良いだろこれで。圧力をかけるには大きい方が良い。スオウに関する事は洗いざらい話してもらわないとだろ」

「脅し掛ける気?」

「その必要があったらだよ」


 まあ彼等が俺達に何かを隠す必要ないんだけど……言い難い事ってのは何にでもあると思うんだ。だから……な。そういう時の為にはこの背もハッタリには役立つ。こっちが必死だって事を伝えるんだ。


「まあその必要が有るとは思えないけどね。あっ! でも……」

「どうした?」


 日鞠の奴が何かに気付いた様だ。やっぱり脅しが必要な場面が出て来るのか?


「そうね、もしかしたらその必要が有るかも」

「なるほど、こっちに隠し事はないと思ってたけど、やっぱり向こうは大人だもんな。全て包み隠さず……なんてないよな。よし、任せとけ。親友の為にも、俺がドガーンと言ってやるよ!」

「流石秋徒、期待してるからね」

「ど~んと来いだ!」


 俺は胸を叩いて自信を表す。まあきっと大丈夫、何回か会った事あるけど、皆さん疲れてやつれ気味な方達ばっかりだったからな。少し脅せば口を割るだろう。簡単な仕事だな。




「え~とですね。アポの無い方をお通しする訳には行きません。お引き取りください」

「ほら、今よ秋徒。ど~んと言って」

「…………」


 あれ~、なんかイメージと違うんですけど。目の前には受付のお姉様方がちょっと困った感じでこっちを見てる。そして横腹を突き突きして来る日鞠。おいおい脅すってこの人達を? どうやってだよ! 俺は取りあえず日鞠を逆に引っ張って耳に顔を近づけて囁く。


「おまっ--え? あの人達を脅すっておかしいだろ?」

「でも、入れてくれないし」

「アポとっとけよ!」


 会社にたどり着くまで時間あったろ? てか電話ずっと掛けてた様な……あれはなんだったんだ?


「だからアポ取ろうと思ってたわよ。でも誰も出なかったんだから仕方ないでしょ。だから言ったじゃない、必要があるかもって。その必要はここよ」

「俺の想定してたイメージと違うから不履行で!」

「却下」


 あっさりと俺の訴えは棄却された。なんてこった……まさか冴えないオッサン達じゃなく、お姉様方を脅せと言われるとは……俺はどっちかって言うと年上好きなんだよ。無茶振りだろ。しかもこんな大衆の面前で……いや、一会社のエントランスだし、そこまで人が居るって訳でもないけど、チラホラと人は行き来してる。

 そんな場所でいきなり受付のお姉さん方を脅し出すとか……それはヤクザの所行だろ。警備の人に連行されると思う。そうなったら親に連絡が行って、学校にも伝わって……二学期開始そうそう怒られるんでは無いだろうか? 

 いや、最悪自分のイメージはどうでも良いけど、警察沙汰はちょっと……自分だけの問題で済まなく無いか?


「大丈夫、少年法があるわ」

「どこまでさせる気だ!?」


 怖いよ。こいつ超怖い。少年法を持ち出す女子高生とかなんかやだ。


「大丈夫よ。流石にそこまでは成らないでしょ。それにアンタがドーンと任せろって言ったんじゃない」

「それはそうだけど、受付嬢とは思ってなかったんだ! てか、あの人達正論しか言ってないし、これで脅しとかただの脅迫だろ? 無理無理無理」

「あんた親友がどうなっても良いの?」

「それは卑怯だろ」


 確かにスオウの事は助けたい。それは本心だ。ガムシャラにやろうとも思ってた。でも強気で行けるのは、互いが関係者的な立ち位置だからだろ。ハッキリ言ってあの受付のお嬢様方は無関係じゃん。


「そうでも無いでしょ。この会社の受け付けなんだし。一概に無関係とは言えないわ」

「確かに社員だろうけど、あの人達は受付嬢以外の何者でもないだろ」

「まあビックリ、秋徒がそんな物わかりいい子だったなんてね。そんな図体してるくせに」

「図体関係無いだろ」


 デカかったらなんなんだよ。なんでも一緒くたにして大雑把に考える新人種とでも思ってるのか? なんか前々から思ってたけど、大柄な奴に妙な偏見持ってないかこいつ? 


「でも秋徒が頑張ってくれないと道が開けないんだけど……何の為に付いて来たのよ」


 キっと強い眼差しで睨みつけて来る日鞠。何の為って言われてもな……


「はあ」


 俺はため息を付いて受付の方を見る。ニコッと微笑んでくれるお三方。こっちも思わずニヤけて笑みを返すよ。すると腹に重い衝撃が……


「ぐふっ……お前……」

「何ニヤ付いてるのよ? 愛さんに言いつけるわよ」


 くっそ……こいつと愛が知り合いになったのは間違いだったな。何かにつけて愛を出汁に使いやがって、卑怯だろ。


「あんな可愛くて出来た彼女が居るのに、直ぐに周りの女性に顔が緩むのが行けないのよ。スオウなんて私にしかにやつかないわよ」


 そんな場面見た事無い。一体いつの妄想だ? 夢と現実を混同してるんじゃないのか? 夢は都合が良いからな。都合の良い夢を見て、それをリアルで起こった事と勘違いしてるのかもしれない。末期だな……早くなんとかしないと。いや、手遅れか? 


「失礼な考えしてないで、アンタのその詐欺まがいの面で落としなさいよ。女子にはそれなりに人気なんでしょ? 遊び人イメージが付いてるくらいだし」

「それすっごい不服なんだけどな」


 まあそれなりだよ。俺の面はそれなりだ。どこから遊び人イメージが出て来たのかも知らんけど、女子にも好感触ならやってみるか。基本その要因は俺の普段のナチュラルさ的な物が要員だと思ってるんだけど……実はやはりイケメンだったか? 

 俺は少し調子に乗ってみる事にした。


「ふう、済みませんお待たせしてしまって」


 クーラーが効いてるのに暑いそぶりを見せて、首元をパタパタしてチラチラと肌を露出。この体格の利点を生かすんだ。部活とかはやってないけど、ガッチリしてるからな。肉体派アピールって奴だ。

 今俺は自分が考えるイケメンを演じてる。バックには煌めく星が舞ってると思ってくれ。言葉の後に(キラキラ)って描写を読み取ってくれよベイビー。


「お三方共お仕事中なのに手間を取らせてしまって……ホントソーリーソーリユアソーリーって感じ?」

「げほっごほ!」


 全く後ろうるさいぞ。何咽せてんだ? 良い所なのに。ほら、受付嬢のお嬢様方も困った顔で「はあ」と言ってるじゃないか。でもまだここからだ。俺は彼女達三人に視線を流して、テーブルに寄りかかる。目線を合わせるって大事だよな。

 そして無駄に微笑む。


「あの……アポが無いのでしたら--」

「アポなんてそんなの必要かな?」


 俺は目の前の彼女の言葉を制して自分の言葉を紡ぐ。少し眉を潜める彼女。だけどまだこれで終わりじゃない。俺はジッとその瞳を見つめて更に続けて一言。


「俺達の間にアポなんて……必要じゃない、と思うんだ」


 はい、ここで歯を見せて更に笑顔。後ろから何故か床を叩く音がドンドン聞こえてた。うるさい奴だな。静かに出来ないのか日鞠の奴は? だけど攻略対象は目の前の受付嬢だ。視線を外しちゃいけない。

 すると少し頬を染めた受付嬢の人が「コホン」と前置きして言って来る。


「お客様、そう言う事は仕事中ですので控えて頂きますでしょう」

「そんな事言わずに。今じゃないとダメなんだ!」


 両サイドの二人が「うわぁ」とかヒュウーとか口を鳴らしてる。感銘を受けてる証拠だな。後少しで行ける! もうネタ切れしてるけど、後は勢いだろ! 俺は腕を伸ばしてその手を両手で包み込んでこう言うよ。


「お願いします! これは俺にとって……いいえ俺達にとってとても大事で大切な事なんです!!」

「そ……そうは言っても……私も流石に高校生は対象外て言うか……でも流石にこんな風に迫られると悪い気はしないと言うかちょっとかっこいいし……」


 おお好感触! これは勝て----ちょっと待て。


「えっと? 対象外?」

「あれ? 俺達ってどういう事?」


 手を繋いだまま俺達は互いに質問した。なんだろう……今初めて何かが噛み合ってない気がする。


「あんた何口説いてるのよ?」

「日鞠--ってはぁ? 口説いてるって誰が?」

「アンタがよ秋徒」

「誰を?」

「ん?」


 指差されたのは手を繋いだ受付嬢のお姉様だ。僕達は互いに見つめ合う。


「口説きましたか僕?」

「私は……そう感じましたけど……」


 なるほど、どうやら俺はこの人を口説いてたらしい……俺は固まったまま日鞠に尋ねる。


「おい、俺はどこで間違ったんだ?」

「最初から? てか口説いてなかったの? そっちの方が驚きでしょ?」

「いやいや、俺が目的忘れて口説く訳ないだろ! どれだけ女好きだよ!」


 流石にこれは心外でも足りないぞ。遺憾だ遺憾! すると日鞠に変わって目の前のお姉様がおそるおそるな感じで尋ねて来る。


「えっと……じゃあさっきのアポなんて必要じゃない--って言うのは?」

「アレは俺達が既に目的の人達と知り合いだから連絡さえ取ってもらえればアポなんて必要ないって意味で……」

「で……では、さっきの俺達ってのは……貴方とそこの彼女の事ですか? 大事な事は……私と貴方じゃなく、貴方と彼女?」


 俺はコクコクと頷く。するとお姉様は顔を真っ赤にしたと思ったらポロポロ泣き出した。


「わあああああああん、汚されたあああああ! 弄ばれちゃったよ~!」

「えええええ!? ちょっ……ええええええ!?」


 その発言は色々と不味くないか? するとバシッと他の二人に繋いでた手を叩き弾かれて、宿敵を見る様な目で睨まれる。そんな……さっきまであんなに優しい瞳で包み込んでくれてたのに。どうしてこんな……


「あの、俺はただLROの運営に繋いで貰いたいだけで……」

「私達の繫がり程度でそんな事して貰えると思わないで!!」


 鳴き声混じりでそんな事を言われた。どういう事それ? 今の自分達の繫がりではそんな義理もないって事か? でも俺達は引けないよ。親友の命が掛かってるんだ。


「それじゃあ困るんだ!!」


 するとその瞬間パン!--っと頬を叩かれた。一瞬思考が停止する。


「これ以上彼女を追い詰めないで!!」


 お姉様の一人に厳しい眼差しでそう言われる……なんて反論していいのか分からない。取りあえず心の中では(ええええええ~)って感じで唸ってた。こんなにも納得出来ない頬パンは初めてだ。


「出て行って……でていきなさああああい!!」


 大声でそう叫ぶ受付のお姉様。ザワザワと周りが反応し出して、入り口付近の警備の人も動き出す。これは流石に不味いと思って俺達はスタコラサッサと退散する羽目に……会社の外で灼熱の太陽を見上げて俺はこう紡ぐ。


「何がいけなかったんだ?」

「全てが……じゃない?」


 笑えねえよ。日鞠の言葉は全然笑えない。何だろうこの空しさ。この灼熱の日射しが俺の心を涸らしてるのかもしれない。

 第四百九十五話です。

 今回の絵はアイリです。色々と試行錯誤して描いてます。


 てな訳で次回は火曜日に上げます。ではでは。

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