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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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真夏の夢

挿絵(By みてみん)

「うおわっ!!」


 そんな珍妙な叫びを上げながら布団から跳ね起きた俺は、リーフィアの目を覆う透明な部分を確かめる。ここは簡単なお知らせや、メールの有無なんかを確認出来る様になってる。まあ普段はあんまり使わないんだけどな。

 LROの一歩前の空間が仮想世界の自室みたいな感じだし、そもそもリーフィアってこれが三世代目とは言っても、ヘルメット型は結構重いからな。まあ五分・十分程度なら別に関係無いんだけど、LROはそんな短時間で止められる物じゃないんだ。腰を据えてじっくりとやるものだからな。

 リーフィアを被ると、あの世界に生きたくなる。メールのチェックだけ……なんか無理無理なんだよ。まあだからこそ布団やベッドでの寝ながらの使用を推奨されてるわけだ。なんかこう聞くと嫌らしいなおい。


「って、一人突っ込みやってる場合じゃないだろ」


 一体何が起こったんだ? 目に映る部分に流れる文字は、【LROとの接続が切断されました。原因不明で、復旧の見通しは立っておりません】だ。まさかまた全てのプレイヤーが一斉に吐き出されたのか? 取りあえず、部屋までは入れるだろうし、そこで他の奴等と連絡を取り合おう。

 そう思って目を閉じて部屋へ--そう思い浮かべる。だけど精神が引っ張られる感覚は一向に無い。目を開けると見窄らしい部屋に、飲みかけのペットボトルとカップラーメンの残骸。そしてちょっとHな雑誌が散乱してるのが見えるだけ。


「まさか部屋にも入れないのかよ……」


 ウンともスンとも言わない所を見ると無理っぽいな。前にも一度LROは落ちたけど、その時は部屋は使えたぞ。でも今度はそれもダメなのか……俺はうざったいからリーフィアを頭から引っこ抜いて、パソコンの前に座る。

 数年前に自作したこのPCはリーフィアを手に入れて以降、めっきり出番が減ったけど、ちょっとした調べもの程度なら、今までのPCの方が手軽ではある。わざわざ被るのも億劫な時は有るんだ。それにまだ時たまはお世話になってるしな。

 それにこのPCには自分のお気に入りがたんまりと詰まってる。使わないからって捨てるなんて出来ない代物だ。


「けど、リーフィアの機能を使ってエロゲが出来ればこいつとも……って、今の俺にはエロゲもエロ画像もそこまでの魅力は無いけどな」


 自分に言い訳する様にそう声に出す俺。まあそう言いながら何も消せてないんだけど……でも俺には愛が居るからな。いつかはこのお気に入り達とも本当にさよならをしなきゃ行けないのかも知れない。

 今の俺に取って一番大切なのは愛なんだ。長年お世話になったけど……彼女がこう言う部分を受け入れてくれるなんて思えないし……知られる前に卒業した方が絶対に良いよな。


「はあ……」


 全く今はエロとの決別の時じゃないのに、思わず復旧した画面に少女のあられも無い姿が映るとおかしな事を考えてしまった。まずはこの画面から代えた方が良さそうだ。良く俺はこの体格だから部活やってそうに思われて、スポーツマンに見られがちなんだが、実際はこんな奴なんだよ。

 高校生でPCを自作する様な奴。まあスオウや日鞠以外にはこんな俺の一面は知られてないだろうがな。普通に遊んでそうな奴と思われてると思う。学校では案外気さくに誰とでも接してるからな。男子からは部活に入らないのは、女遊びをしてるからとか思われてるし……だが実際は部屋に籠って今はLRO、昔はエロゲだった……そんな奴なんだ。


 はてさて、そんな自分の恥にしかならない報告は置いといて、ネットで情報集して分かった事は、どうやら例外は無く誰もがLROからはじき出された様だって事だ。SNSとか見てれば、その報告がアホらしくズラーと流れてってる。

 俺は続いてLROの公式ページに移ろうと思ったけど、どうやらアクセスが集中しすぎてそっちも落ちてるらしい。これはしばらく放置してプレイヤー達の熱が少し冷めた所で報告をして来るな。今無理に公式が言葉を発したら、どんな理由であれ、突撃する奴多そうだし。だって第二の人生歩んでる奴は多いからな。

 前の時も実際は苦情とか一杯あった筈だ。その時の対処で色々と反省もしてるだろう。情報は小出しにするよりも落ち着いた所で一気にだ。納得させる物を用意してからの方が良い。まあこっちはモヤモヤだけど。

 でもまあ、何となく俺には原因は分かる様な……どうせスオウの奴がまたLROに負荷を掛けすぎたんだろ? なんか光が空に昇ってったしな。暗黒大陸のモンスター共も大人しくなってたし、きっと上手く行ったんだろうけど、アイツがやる事はほんといつも派手だ。


「ん?」


 ブルブルと震える携帯。画面には愛の名前が表示されてる。天罰を受けて動けなくなってたけど、大丈夫なのかな? まあリアルには影響する訳は無いだろうけど。俺は電話を取るよ。


『もしもし、えっと……秋君?」


 携帯に掛けてるのに疑問系。可愛らしい。


『勿論、俺は秋徒だよ。えっと……愛』


 だけどこっちもそういいつつぎこちない。なんだかまだまだ緊張するんだよな。逆に普通に会う方がまだ自然と居れるかも。これが恋って奴だよな。しみじみ思う。ポケーと惚けてると、愛が緊張感を漂わせた声でこう言って来た。


『あの……今の状況分かってますか?』

『いきなり閉め出された奴だよな。どうせスオウ達絡みだろ。俺じゃなくてセラに連絡した方が良かったかもだろ。アイツのほうが色々と知ってる筈だろうし』

『それは……そうなんですけど……』

『どうしたの?』


 何だろう、電話の向こうでモジモジしてる感じがして、なんか気になるな。こっちはソワソワするって言うかさ……すると愛は耳に心地良い言葉をくれた。


『だって、やっぱり心配だったんです。いきなり落ちましたから。一番に気になったのはセラの事じゃなくその……秋君の事だったんです』

『ぐはっ!』

『ええ!? どうしました? 大丈夫ですか?』

『だ……大丈夫。気にしないで』


 あまりの可愛らしいさにボディーブローを喰らったかの衝撃が襲ったぜ。本当に愛は俺をノックダウンしまくるから困る。しかも本人は無意識の内にそれをやってしまうからな……まあ俺は幸せなんだけど……あまりに幸せすぎて逆に怖いって言うかな……そんな贅沢な悩みが増える今日この頃だ。

 でも今は電話で良かった。余りにニヤけすぎて愛には見せられ無いよなこんな顔。今も電話から『本当に本当に大丈夫?』って聞こえるのが可愛すぎてもう--がふっごふっ、おばあああああ!! って感じだ。でもこれ以上心配させたく無いからそんな感情は我慢我慢。

 愛は素直に何でも受け取るからな。ほんと良いとこのお嬢様育ちなんだ。しかも良い教育をしっかり受けて、良い家族や友人に恵まれてって感じがヒシヒシと見た目から伝わって来る。まさに唯一の汚点は俺だけみたいな……ホントそこだけは不安なんだよな。

 釣り合ってないのは端から見ても、そして自分でも重々承知してるんだ。でもこればっかりはぽっと出で解決する問題じゃない。いきなりどこかの国が「行方不明だった王子は貴方なんです!」と言って王侯貴族の仲間入り出来る訳も無いからな。

 しかもそれじゃあ釣り合ったのは外面だけだしな。俺は愛と付きあい出した時から決めたんだ。自分自身が本当に釣り合う男に成るって。そうでないと、今眠ってるアイツに申し訳ないしな。


『秋君?』

『ああ! えっと……なんだっけ?』


 しまったしまった。色々と考えにふけってしまった。全く愛の声にはトリップ作用があって困ってしまうぜ。でも『もう~』と膨れる感じの愛の声も聞けたしある意味満足だな。眼福じゃないけど、耳得だ。


『全く秋君は時々私の言葉を聞き流しますよね。ちゃんと聞いてくれないと困ります。私は真剣なんですよ。その場に居たら頭をコツんとしちゃう所です』


 是非にお願いしたい所です。思わずそんな光景が目に浮かぶ。絶対に微笑ましいと思うんだ。でもこれ言ったらもっと怒っちゃいそうだしな。嫌われたくは無いから真剣な方向に俺も意識を傾ける。


『聞き流してる訳じゃないんだけどね。幸せ過ぎるってだけ……まあそれはいいじゃん。今度からは一言も聞き逃しませんのでご勘弁を』

『うう~それじゃあ良しとして上げましょう。ってなんですかこのノリは?』


 そう言いつつ愛も結構ノリノリだった様な……


『本題ですね。原点回帰しましょう! つまり私が言いたいのは取りあえず皆さんに連絡をしてみようと言う事です。私はセラにしますんで、秋君はスオウ君にお願いします。どちらも原因を知ってる可能性は高いでしょう』

『そうだな。じゃあそう言う事で……』

『ええ、そう言う事で……』

『『…………………………………………………えっと』』


 二人の声が受話器の向こうで重なる。なんだろう……電話を切るのが難しいこの感覚。スパッと切れれば良いんだけど……なんだかそれが出来ないんだよね。通話を切るという行為がなんだかちょっと罪深く感じるというか……そんな訳無いんだけど、今はどんな小さな繫がりでも、二人が繋がってる--そんな事が大切なんだ。

 だから電話を切る行為一つで--『じゃあ同時に切ろうか?』『そうですね。それが良いと思います』……『切った?』『無いですね』……『そ、それじゃあ私が先に切ります。お姉さんですから』『まあお姉さんなら仕方ないよな』……『切りました』『切れてねーよ!』「だってだって……』--と言う風に間延びする。

 マジでこう言うやり取りを俺達はきっと五分は続けてた。自分でもなにをやってるのかと思うけど、こればっかりはもうそう言う物としか言いようが無い。きっと恋人が居ない奴には分からない感覚だろう。

 かくいう俺もちょっと前までは、こんな事有る分けねーよ--と思ってた。そんな奴実際に居たら、後ろから飛び蹴りを喰らわせてやるわ!! くらいに思ってた訳だけど……如何せん飛び蹴りを喰らうのは自分だよな。マジで何をやってるんだか。

 最後にはお互いが『『せーの』』で通話を切ってなんとか前に進む事が出来た。実際これが初めてじゃないからな。電話するといつもこんな感じ。ホント困るよな……そう言いつつ、顔はにやけっぱなしなんだけど。


「ぷはぁ!」


 取りあえず落ち着くために近くにあったジュースをかっこむ。だけど如何せん……ぬるいな。喉が潤った気がしない。心は十分潤ってるから良しとするか。さて……スオウの奴に連絡を居れるかな。

 でも待てよ……アイツって今確か病院じゃなかったっけ? 前に戻った時かなりヤバい状態だったろ。外傷はそうでも無かった様だけど……流石に何回も短い期間で運ばれててるからなアイツ。もう病院全体に危ない奴とか認識されててもおかしく無い。


「ついでだし、冷房の効いた場所に行くのも良いかもな」


 この部屋暑すぎなんだよ。扇風機が送る風も温いしな。病院のキンキンに冷えた空間が途端に羨ましく思えて来た。いや、不謹慎だけどさ、まあ手土産の一つでも持参すれば文句は言わないだろう。


「よし、ガリガリ君でも買って行くか」


 安上がりなお見舞いも決定したし、財布と携帯をズボンに突っ込んで外に出る。外は日差しが殺人的に降りそそいでる。コンクリートジャングルが熱気をプンプンと沸き立たせてるぜ。


(やっぱ止めようかな?)


 そう思ったけど、冷房を求めて俺は駅を目指す事にした。ついでに愛にメールで【スオウの所に行って来る】と送っとく。電話じゃないからちょっと時間掛かるからな。報告はしとかないとだろ。すると直ぐに返信は来た。


【わかりました。私も近いうちにお見舞いに行きますね。スオウ君にそう伝えておいてください。それとセラに聞いた話では原因は分からないそうです。でもちゃんと目的は果たしたって。それのせいかどうかは、その場に居た人達にも分からないみたいですね。本当に私達と同じ様に突然だったようなので。

 とりあえずお見舞いは任せます。こっちは色々と情報収集してみます】


 相変わらずきっちりとした文章だ。品の良さが文章からも滲み出てるよ。俺はそのメールに【伝えとくよ。情報収集は任せる】って送っとく。案外愛は一介の高校生や、一介の大学生が得れない人脈とか持ってそうだし、期待は出来るかも。

 てかそもそもこっちは開発側に知り合いが居るんだからそこに聞けば良いんだろうけど、番号教えて貰ったのはスオウと日鞠だけなんだよな。いや、スオウは良いよ。だって当事者だ。それに向こうもスオウを頼りにしてるしな。

 でもなんでもう一人が日鞠なんだよ? あいつLROやってないから。スオウの保護者的な観点から選ばれたのだろうか? 俺の方が適任だと思ったんだけどな……でも考えてみれば、今はスオウと別行動取ってるし、しょうがないと言えばしょうがないのかもな。

 結局アイツの一番傍に居るのはいつだって日鞠だ。スオウの奴が幾ら否定したって、周囲から見たらあいつ等夫婦みたいな物だよ。


 ガタンゴトンと揺れる列車。何駅かを通過して見えて来る高層ビル群。よく考えたら、都心の方に行くのに、見舞いだけってのも味気ないよな。だけど持ち合わせもそうないし……結局は病院で涼むしかないのか。

 そう思いつつ、駅に降りて病院を目指す。むせ返る様な人の多さ。駅構内を歩いてると、壁に埋め込まれてる様な映像機器に目が止まる。まあやってるのは企業のCMを延々と流したり、天気予報とかニュースとかをテロップで表示したりなんだけど……そこにLROの事が出てるじゃないか。


【またしても接続障害か? LROからプレイヤーの強制排出。依然詳細な説明無し。原因究明中】


 そんな風に出てる。流石にデカい駅は設置してある物も違うな。流石にこれだけデカデカとしたモニターで表示されると気になるぞ。俺は近づいて画面に触れてみた。するとその記事がピックアップされて表示される。

 どうやらタッチパネル方式のモニターみたいだな。表示された記事にはより詳しく詳細が書いてある訳だけど……でもこれって最初に流れてた奴が全てっぽい。余りにも上手く一行で言い切ってたから、残りの文章の全てが……てか原文が助長というか……目新しい情報が無いぞ。

 前に一度あった強制排出の記事を引っ張り込んでるだけじゃないか。まあそれだけ情報がないって事なんだろうけどな。やっぱり公式で発表されるのを待つしか無いのかも知れない。いや、スオウの奴ならまだ何か……


「ん? これって……」


 記事の最後の方に気になる記述が有る。


【立て続けに起きる世界初のフルダイブゲームの問題。これは最近発足された審査委員会から見れば看過出来ない事かも知れない。それは当然LROを一番厳しく審査するだろうからだ。様々な問題は稼働時から言われて来たが、それを上回る声が今までは大きかった。

 だが、その問題が顕著化してきたのなら、LROの稼働停止と言った最悪の事態も起きうるかもしれない】


 だそうだ。そう言えばそんな委員会が発足してたな。てか確か既にLROの審査は行われてた様な……その発表が近々有るともあるな。マジでLROのサービス停止……とか成ったりしないよな? でも今の状態じゃヤバいのは確かだよな。問題が本当にここ最近は起きすぎてる。しかも結構大きな問題が--だ。

 始まった当初も確かに問題は指摘されてたし、稼働してからこれまでずっと、【フルダイブの影響が~】と喚く人は後を絶たなかった訳だけど、そう言うのは結局原因をフルダイブシステムにしたいだけで、根拠とかは無かった訳だ。

 根拠が出て来るにしても数年かもっと長い単位で稼働して、実験してその確証を得なきゃ行けない物ばっかりのイチャモンだった訳だけど……今起こってるのは明らかにLRO側の問題だからな。


「言い逃れできない事ばっかりかもな」


 それに更に意識混濁者を出してる……と知られれば、稼働停止はどうあっても避けられない。てか、これ以上の被害を出さない為にもそれはやむを得ない処置……だよな。俺達の望みは、止まってしまうのなら、その前にセツリをこっちに連れ戻す事。

 だけどそれが一番難しいんだよな。まあスオウの奴はやるんだろうけど……本当に時間が無くなってるみたいだぞってのはそれとなく伝えてやるか。今回のこの強制排出で更にサービス停止の危機は高まった訳だし、悠長になんかやってられない。

 俺はモニターから離れて歩き出す。目指すは病院。だけどそうだ。まずはコンビニにでもよってガリガリ君を調達しないとな。



 透明な自動ドアが緩やかに文化的な速度と優雅さで開くと、ヒンヤリとした冷気が肌に掛かる。これこれ、これを求めてたんだって空気。病院は俺を裏切っちゃくれないな。二重に成ってたから更に内側のドアも開くとこれで完全に外気をシャットダウンして冷気に満たされた場所へと到着だ。


「さてと、スオウの病室は確か……」


 確かこんな一般が沢山居る外来じゃないんだよ。もっと静やかな病棟なんだよな。何度も来た事あるし、既に道は把握してる。さっさと俺は病室を目指す。別の棟に廊下で渡って、更にエレベーターをつかって上階へ。

 だけどここで「あれ?」っと俺は思った。なんだか看護師さんとかが普通にいるぞ。いや「病院だろ?」って突っ込みが来そうだけど、ここは前に怖い位に人気が無かったんだ。こんなエレベーターから降りて直ぐに看護師さんと鉢合わせするなんて……そんなの今まで一度も無かった。


「貴方、ここにはどういう御用でしょうか? 恐れ入りますが、病室違いでしたら速やかにお戻りください」

 

 な、なんだかちょっと高圧的なナースだな。まあこの病棟の患者は秘密なんだろうから、出てってもらうのは良いとして、前とは警備が違うな。前は普通にフリーだったよな? なんでこんなぴりぴりしてらっしゃるんだろうか?


「えっと、病室はあってると思うんですよ。自分はスオウの見舞いに来たんで」

「スオウ? ああ、日鞠様が甲斐甲斐しく世話してる人ですね。という事はご学友で?」

「ええ、そうなんです。友達なんですよ俺達は」

「そうですか。それは失礼しました」


 そう言って頭を下げてくれる看護師さん。まあ分かってもらえたのは良いんだけど……さっき『日鞠様』って言わなかったか? あいつまた信者増やしてるのかよ。何やったんだ? まあ今更過ぎて知ろうとも思わないけどな。


「あの~所でなんだか前に来た時よりも生活感って言うか……なんだかちょっとザワザワしてる気がするんですけど? 何かあったんですか?」


 そう聞くと看護師さんは少し考えてたから教えてくれる。


「口外はしないでくださいね。前というのがいつか私は知りませんが、ざわざわしてるというのは当たりです。最近この病棟に運ばれて来る患者が増えたんですよ。ですから人手を増やして対応してるんです」


 なるほど、だからこの病棟にも喧噪が少しばかり有る訳か。俺はお礼を言ってスオウの病室を目指して歩き出す。


「確かに、なんだか表札が増えてるな」


 病室を見ればいろんな名前が書き込まれてる。前は表札はほぼ真っ白だったのに……これはかなり一気に増えてないか? 人手を確保する訳だ。そう思いつつ辿り着いたスオウの病室。もっと奥に行けばガイエンの奴の病室もあるけど、そっちは大体二人揃って行くからな。今回はここだけでいいだろう。

 さて優雅に冷房の効いた部屋で快適生活送ってる奴でもからかうか--そう思いつつ、俺は病室のドアをスライドさせる。


「お~す、スオウ。調子はどうだ?」

「秋徒?」


 うん? その声は日鞠だな。スオウじゃない。てかやっぱり居たかって感じだな。そう思ってると日鞠の奴がズガズガ迫って来た。なんか怖い顔してるんですけど!?



「ちょっと常識で考えなさいよ。そんな大声だして入ってこないで」

「す……済みません」


 相変わらずスオウ以外には厳しい奴だ。確かに病院で大声は不味かったけどさ、この病室はまだこいつだけだろ。別に少し位なら……って思うんだけどな。


「何よその反抗的な目は?」

「何でもありません。それよりもスオウの奴はどうしてる? 土産のガリガリ君買って来たんだけど……」


 どうにか見舞いの品でご機嫌取りをしないと。でもガリガリ君じゃやっぱり弱いかな? と少し後悔だ。せめてリッチにするべきだったか。すると日鞠の奴がこう言うよ。


「はぁ? 何言ってるのよ。スオウはまだ戻ってきないわよ」

「え?」


 俺はその言葉に耳を疑った。そして日鞠もそんな俺の態度に疑問を感じてる。俺は日鞠から視線を外して、その背後に移す。真夏の日差しが眩しい。一瞬くらっとする意識の向こうに見えるのは……

 第四百九十一話です。

 さて、ここから第一章最終項に入ります。間は空けません。でもまだ第一章って……長過ぎでしたね。この話もどの位掛かるか……でも頑張ります!!


 次回は月曜日に上げます。ではでは

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