あの世界にさようなら
雪が溶けて桜咲く季節に成った。新しい学年に上がり、新しいクラスに成る時期……本当ならだけど。そしてそこではきっと新しい出会いがあって、期待に胸を膨らませるのが毎年の事で……そしてそれは誰もが当たり前だと思ってた筈の事。
「留年しちゃったね」
ベッドの上でそう呟いたサナ。留年って……周りが微妙な空気に成ってるぞ。するとお父さんが頭に手を置いてこう言ってくれる。
「小学生に留年はないよ」
「ホント? じゃあ私も今日から五年生?」
「ああ、おめでとう」
「うん!」
外の桜に負けない位の笑顔を咲かせるサナを見て、鼻がジーンとなって目の奥から何かがこみ上げそうになる。どうせ誰も僕には気付いてない訳だし、泣いても良いよな。だけどやっぱり我慢しよう。
僕なんかじゃない筈なんだよ。泣きたいのはさ。サナもサナの両親も、泣きたい筈だ。だけどあの日から、誰も泣かなくなった。どうしてなのかは僕には分からないけど、それぞれきっと心に決めた事があるんだと……そう思う。
「実はお祝いにケーキも買ってあるの」
「ほんと!?」
ケーキと聞いて目を輝かせる所はやっぱり女の子だな。まあこの年の子供なら男女問わずケーキには目がないだろうけど。けどやっぱりケーキは偉大だね。和菓子じゃこうはならないもん。
「ほ~ら、饅頭かってきたわよ~」
「ひゃっほおおおおおおおおおおおおおおお!!」
とは行かないんだなこれが。僕達日本人なのにね。何故かケーキという響きにはテンションをあげる何かがあるよね。ケーキの美味しさの秘密は高まったテンションも関係してると僕は思ってるよ。
まあケーキの考察はどうでも良いんだけど、サナが嬉しそうで何よりだよってことだね。サナはケーキの箱を覗き込んでどれを食べようか迷ってる。てか……なんだか箱がデカいんですけど。普通ケーキをバラで入れる箱って、それ自体可愛らしいサイズの筈でチョコンって感じの物だけど、あれは明らかにズガン! 位のインパクトがある。
ホールなの? まさかのホールなんですか? でも「どれにしようかな~」って言ってうきうきしてるサナの様子を見る限り、ホールじゃないよな。それにホールなら四角い箱だろうけど、目の前のは縦長だ。
「う~ん」
「どうしたのサナちゃん? どれを選んでも良いんだよ」
「えっとね……思ったんだけど食べても良いのかな? ほら今なんだかお腹が変だから、お医者さんがお粥とかしか食べさせてくれないし」
まさか目の前のケーキを前に自分から言い出すとは意外だな。普通の子供なら、大人が薦めたんだから自分の責任じゃないもん--で食うよな。日鞠の奴ならそこまで頭を回して食うよ絶対に。それなのに大好きなケーキを前に理性を保つなんて……子供ながらに凄い!
まあ……だけどなんかちょっと寂しいけどね。それはきっと二人も感じてる。そんな言葉、言って欲しくなんか無い筈だからな。
「だ、大丈夫よ。ここのお店のケーキはすっごくお腹に優しいフワフワ使用なのよ。幾ら口に入れても、雲を食べてるみたいに消えちゃうの」
「ホント? じゃあ幾らでも食べられるね!」
「おいおい、幾ら軽いからって食べ過ぎるのは良く無いぞ。二個までにしときなさい」
「……………んん」
お父さんのそんな言葉に無言の抗議をしてるサナ。ジーと見つめて頬を膨らませてる。
『何あの生き物。可愛いなオイ』
と、きっと旦那さんは思ってる筈だ。その証拠に咳払いと共に日和ったもん。
「こ……コホン、三個……いや四個くらいなら……」
娘の事大好きですね。まあ世のお父さんは娘は溺愛する物だしね。しかも一人娘なら尚更だろう。僕ももしかして性別違ってたら……なんて無いな。無駄な思考は停止しよう。性別の違いくらいで『子供』に興味を持つ人達じゃない。それは自分が一番良く知ってる。
お父さんから許しが出て、上機嫌で四つのケーキを選ぶサナ。本当に四つも食う気なのか? でも女の子は甘い物は別腹っていうな。この年でもそうなのか? 後で後悔しなければ良いけど。実際お粥しか出さないのには理由があるしね。
あの咳が止まらなかった日から、確実にサナの体の機能は低下してる様に見える。特に食べる物に気をつけないと直ぐにお腹を痛くする様になった様な気がするよ。消化が上手く行われてないらしい。
って事は、当然栄養も上手く吸収されない訳で、サナの手首からは栄養を補給する為のチューブが伸びてる状態だ。だから実際、ケーキ四個は幾らなんでも……と思う訳だけど、美味しそうに食べるサナを見てると「やっぱり四個は多くない?」とか言えないよな。
そもそも毎日味気のない食事ばっかりだからこそ、ケーキを買って来たんだろうしね。
「おいひー!」
そう良いながらケーキにパクつくサナ。そんな様子を微笑ましく見てる二人。ケーキにフォークをブッ刺して食べる様はお世辞にも上品とは言えないけど、そこら辺は仕方ないよな。
「もう口がベタベタよ。慌てなくてもケーキは逃げません」
「お母さんの言う通りだぞ。ゆっくり食べなさい」
「うん。お母さん達も食べていいよ。一緒に食べた方が美味しいよ」
そう言われて互いを見合う二人。そして笑顔になって二人もケーキを取るよ。
「それじゃあサナちゃんの五年生進級を祝って。おめでとう」
「おめでとう」
「えへへ、ありがとう!」
優しい空間がそこにはあった。傷が癒えた訳じゃないし、絶望を追い払った訳でもない。だけど三人の周りには優しい空気が広がってる。一人じゃ押しつぶされそうな事でも、家族が互いを支えるからこそ、笑ってられる。そんな事なんだろうな。
それにきっと、誰も諦めてなんか無いからでもあると思う。悲しい宣告を受けても、娘の為に出来うる限りの事をやろうとする両親に、辛い事が降り掛かっても笑顔を見せ続ける娘。なんだか僕には遠い物を見てる様に思える。
実際学校の方はどうなってるのか僕にはこの時、知り様も無いけど取りあえずこの病室でサナは晴れて五年生に成った訳だ。満開の桜もきっと祝福してくれてる事だろう。微笑ましい光景……だった訳だけど、翌日案の定サナは腹痛に苦しまされてた。やっぱりどう考えてもケーキ四つは食べ過ぎでした。
両親は二人とも医者に怒られてたよ。
桜が散って夏がやって来る前に梅雨が来た。連日の雨はどうやらサナの体にあまり良い影響を与えないみたいだ。やっぱりいつも空が曇ってると心が下向きに成って行くのだろうか。サナはまた最近よく咳をしてる。
そして一緒に血を吐くんだ。まあだけどそれはそんな重大な量じゃ実は無い。どうやらサナの体はかなり傷つき易くなってるらしい。それは咳でもそうなんだと先生が両親に説明してた。何度も何度も咳をしてると、それだけで喉や器官が傷つくらしい。今のサナの体はその程度にまで弱くなってるって事なんだろう。
喉や器官が咳で傷つくって……何故か健康優良児だった僕には想像出来ない。これまで愛を受けなかった割には比較的順調に育って来たからな。血が出始めたら今度はその血を吐く為に咳をしなくちゃ行けなくなるという悪循環。
前の時は、咳をしても血を吐き出せないまでに弱ってたせいで内部に溜まって行ってしまってたんだろう。それが一気に出て来たからあんな量になったんだ。今は胆がちょっとだけ赤くなってる程度。この程度ならまだ心配は無いけど、既に白い蒸気が出る奴をサナはつけられてる。
これって喉を潤してるって解釈で良いのかな? それともこの白い蒸気には特殊な効果があるのか? 喘息の人とかにも使ってるよね。僕みたいな素人からしたら、逆に息苦しく無いのかな? と思うんだけど効果があるんだから使われ続けてるんだよね。
それに実際、あの最初の大事以来。あそこまで酷くなる事も今は無い。でも最近はますます動きが鈍くなってると言うか……もうちょっと動いてた筈の上半身でさえ、ちょっと動かすのに息切れを起こす程になってるからな。
僕は夏が近づくに連れて不安になるよ。もしかしたらこの夏で……明確にサナが何年にこの世を去ったのか……そこを知らないから、怖いんだ。そのシーンはきっとくるんだろう。だけど、まだだよな……って思ってる自分が居るもん。
だってまだ登場人物が全部揃ってないし。だからまだ大丈夫。そう思いつつ僕は苦しげなサナを見てる。必死にサナを支えるお母さんなんてほぼ毎日病院通いしてる。旦那の方も出来る限り来る様にしてるし、愛を感じるよ。
この家族の愛はどんどん深まってる様に確かに見える。だけど現実は……この世界は本当に不幸しかないんだ。テトラの奴が言ったのはLROの事なんだろうけど……何も変わりはしないよ。本物の神が居るかどうか位だ。
しかも神様さえ見捨てたのがリアルだし……LROよりも救いが無いかも知れない。だってリアルの神話はテトラ達の話の様に綺麗なんかじゃない。合体のオンパレードだよねアレ。それに大量虐殺とか聖書の名が聞いて呆れる。
まあたかが大昔の人の妄想だと思って読めば面白いけどね。あれを本気でありがたがってる人が居ると思うと怖い世界だよ。この世界には救いをもたらす神なんて居ない……慈悲や奇跡を与えるのは神じゃなく、もっと曖昧な『何か』なんだよ。
その何かが人が考えた神じゃない本物の神様なのかも知れないけど、やっぱり出来る事は何も変わらない。出来る事を出来る限りやって、後は願うしか無い。結果が伴うか、奇跡に見放されるかは誰にも分からない。
出来る限りの事をきっと二人共やってる。パソコンや図書館を使って夜も寝ずに必死に情報収集してるのを僕は知ってるよ。二人ともサナ程じゃないにしても、最近は少しやつれ気味だ。でもそれ以上にやっぱりサナの消耗が激しい。
雨粒が落ちて地面を濡らす尽くす様に、一つの症状が弱ってる体へ負担をかけて、連鎖的に他の症状を引き起こして行ってた。咳はここ数週間止まらないせいで喉を傷つけすぎて血を吐きまくりだし、声もダミ声しか出せなくなってた。てか声を出すのにも痛みが伴う程に成ってるし、咳を続けるせいで肺の動きがおかしくなってもいるらしいし、肺炎の危険も指摘されてる。
喉の痛みのせいで全然口から物を食べれなくなって、栄養の全てをチューブから得る事になったのも外見に影響してるよな。見るからに病人というか……それは当たり前だけど、色が病的になって来てる様な気がする。
最近は元気づける為に、両親は二人ともヌイグルミを必ず一体買って来る様になってるよ。そのせいでベッド周りはヌイグルミだらけ。そしてサナはそんなヌイグルミ達に一体一体名前を付けてる。てか今はもう……ヌイグルミが友達って感じだ。
入院したてはよく来てた学校の友達も、今や殆どお見舞いには来てくれない。だからサナの友達はヌイグルミに成ってるんだ。毎朝ヌイグルミに「おはよう」を言って、そして最後は「おやすみなさい」を言って寝てる。
友達が悪いなんて言う気はない。相手も子供で同じ小学生だしな。そう気軽に病院に来れる訳も無い。でもだからって忘れられたなんて……思わせたく無い。子供は楽しい事しか見ないのかも知れないけど……サナが良く外に目を向けるのは両親の事を思ってるのも当然だろうけど、学校の事とかもきっと考えてるんだと思うんだ。
だから高望みなんかしないから、そろそろもう一回位来てくれないかなって……でもクラスも変わったらそんな提案をする子も居なくなるかな。雨はいつまでも降り続く。サナの願いを流す様に。
ピーピーと嫌な音が響いてる。ここ最近ずっとだ。梅雨が明けても余談を許さない状況は続いてた。一回収まっても再び直ぐに鳴り響くその音は、まるで死神の足音のようだった。少しずつ……少しずつ確実にサナに迫って来てる様な……そんな感じだよ。
奴は去ったりしない……サナをあの世に連れて行くまで……
「もしかして、この夏で?」
実際ここ最近のサナの様子を見てると、この夏を乗り切れるなんて思えないんだ。だって本当に毎日が戦いと言える日々だよ。いつ死神がその手を取ってくか気が気じゃない状態。これで次の夏まで持つなんてとても思えない。
「サナ!」
「サナちゃん!」
もう両親は何日もずっと付きっきりだ。どうしていきなりこんなに衰退が早まってしまったのか……先生方にもそれは分からないらしい。まあ元々どうして体の機能が低下していってるのさえ分からない感じだったからな。脳にもダメージを受けてたのか……脊髄損傷の副作用かどうかとか言ってたけど、覚悟のときはもうその時まで迫ってると、きっと誰もが感じてる。
「ごめんね……」
ベッドの上からそう紡ぐサナ。なんでお前がそんな事を言うんだよ。お前は何も悪い事なんかして無いじゃないか!! どうして……どうしてこいつがこんな目に遭わなきゃいけないんだ! 本当に強くそれを感じてしまう。
これは一体なんの罰なんだよ。なんでこんな……こんな愛された良い子じゃなきゃいけない? 死んだ方がマシな屑なんで選り好みしなくて良い位には居るだろ。そいつ等を片っ端から喰らい尽くせよ。こっち見るんじゃない! と良いたい。
毎日報道される犯罪のニュースは絶えないんだぞ。それなのになんで、何もやってない、未来が一杯の筈のサナじゃなきゃダメなのか……誰に対して思う事も出来ない事を考える。世界の理不尽を殴り飛ばしたいけど、今の僕は壁を叩く事さえ出来ないんだ。
「ごめんね。ごめんなさい……私もう……元気で居られないんだよね」
そんな言葉を紡いだサナ。その瞬間二人は無言のまま顔を下に背ける。ポタポタと床に落ちる雫が見える。否定したいのに、もうそれに意味が無い事をサナが言ってしまった。やっぱり気付いてたんだろう。
てか、自分の体の事だ。嫌でも分かって来る筈だよな。
「ごめんな……お父さん達じゃ助けてあげられなくて……」
旦那さんの言葉も痛々しい。やれる事は全部やって来たのに……それでも結局大切な娘を助けられない無念。それが籠ってて……胸が苦しくなる。奥さんなんてもう涙ボロボロで口を開けると鳴き声が止まらなそうだ。だからこそ必死に口を閉じて我慢してる。サナの前で、サナが泣いてないのに自分が泣くなんて出来ないんだろう。
まあ涙は全然我慢出来てないけどね。
「ううん……一杯助けてもらった。元気貰ったよ。お父さんとお母さんが居たから……私は寂しくなんか……なかったもん」
寂しく無かった……そんな筈は無いだろうけど、二人が支えに成った事は事実だろう。それだけの愛を、二人はサナに捧げてた。それが元気にきっと繋がってた筈だ。だけどそこで「でも……」とサナは紡ぐよ。
「でも……私はいつまでも空を見上げられないよ。お父さんとお母さんには一杯感謝してる。だけどね、私は自分の何を胸が張れるか分かんないよ。自分の凄い所なんかもうないんだよ。そう思うと……生きるのが怖くなっちゃうよ……」
その目に涙を溜めてそう紡ぐサナ。ここ最近、体調がずっと悪かったのもそう言うことなんだろうか? サナは自分の「これから」に不安を抱いてる。それは「将来」であったり、「未来」であったりそう言うものが今の自分からじゃ見いだせないんだ。
実際、僕だって同じ様な状況に成ったら、自分の将来に希望を見いだすなんて出来るかわかんない。これからずっとベッドの上で、誰かの世話にならないと行けない生活……それで「大丈夫」なんて言葉は気休めにも成らないよな。だからなのかな?
だからサナはもう良いと……そう思ってるのか? だからこそここ最近、ずっと調子が下がりっぱなしなのかも。病は気から--それは決して迷信じゃない。強い心は病気を吹き飛ばす事だって出来るんだ。そして気が滅入ってたら、そこをつけ込まれる。治る物も治らなくなる。そう言う事は本当にある。
サナは生きるのが怖いと言った。自分のこの先に未来が無いと思ってる。実際それにはどう言えば良いのか分かんないから、サナを元気づける事も出来ない。だけどサナの両親はそれでも生きて欲しいと願うだろう。それが普通の親って物の筈だよ。
でも実際、二人は何も言えないよ。わがままを押し付けていいのかどうかとか考えてるのかも知れない。でもだからって「死んで良い」なんて言える訳も無い。
二人の思いは「生きて欲しい……だけど希望も夢も与える事が出来ない自分達にはそれを言えない」って感じなのかも。だから二人はこう言うしか無い。サナの手を重ねて握って……
「凄い所なんか無くてもいい。お父さん達はこれからもずっとサナの事を愛してるから」
「うん、お父さんの言う通り。私達はずっとずっとずうううと、サナちゃんの事を愛し続けるからね」
そんな二人の言葉を受けて、サナは涙を溜めてた瞼から一筋の雫を落とす。そして「……うん、ありがとう」と少し辛そうな笑顔を見せて笑ったよ。僕はそんなサナの顔を見て「もしかして」と思った。
もしかしてサナは、一番両親に悪いと思ってるのかも知れない。自分の事を何よりも優先してくれる両親。その思いはとってもありがたいけど、自分のせいでいろんな物を二人は犠牲にしてるのかも知れない。そんな事をサナなら思ってそうだ。
子供だから無償の愛に溺れてれば良いのに、サナはそんな子じゃない。自分が居なくなれば……そしたら二人が解放されるかも……そんなネガティブな発想ももしかしたら……
激しい日差しが照りつける季節がまたやって来た。蝉がけたたましく無いて、早々とその命を燃やし尽くしてく。そしてもしかしたらこの夏にサナの命も……そんな風に思う日々が続いてると、突如ドアを破る勢いで旦那さんが駆け込んで来た。リンゴをむいてた奥さんも、本を読んでたサナもビックリだよ。
「どうしたんですか?」
「来たんだ! 来たんだよ返信が!!」
「「変身??」」
二人して変なポーズをとる娘と奥さん。仲良いな。だけどその変身じゃないらしい。
「違う! 先進医療機関から最新のフルダイブシステムの被験者にサナが選ばれたと返信が来たんだよ!!」
その瞬間ガタッと椅子を倒して立ち上がる奥さん。「本当?」と声を振るわせて立ちすくんでる。サナは??だけど、二人の興奮に何か良い事があったのかもと僅かながらに期待してそうだ。てか僕からしたらようやくか……だよ。これでやっとこの時の登場人物が全て揃う事になる。
「どういう事なの?」
二人の沸き立ちを疑問に思いつつそう聞いてみるサナ。すると両親は泣きながらにサナを抱きしめてこう言うよ。
「これからサナは世界最先端の医療器具で治療が出来るってことだよ。それを使えばサナも走ったりする事が出来るんだ! 自由に体を動かせる世界に行けるんだよ!!」
その言葉をしばらく理解出来ない様で、惚けたままのサナ。だけど頭が追いついて来ると、「ホントにホント?」と聞いた。そしてそれに両親は「ホントにホントにホントだ!」って返して更にサナが「ホントにホントにホントにホント?」と返して両親がまた「ホントにホントにホントにホントにホントにホントだ!!」って返す。
そして遂に受け入れたのか「うえ~~ん」と泣き出すサナ。それはきっとうれし泣き……だよな。
翌日には当夜さんが初期型リーフィアと共に医療機関の面々と共に挨拶に来た。そして詳しい説明をして、初めてのリーフィア起動と共に、サナは夢の世界へ旅立つ。それからは驚く程にサナの調子は良くなった。
フルダイブシステムは体を治す訳じゃない。だけど十分にサナの心は治って行ってたんだ。それはどんな名医にも難しい事の筈。でもフルダイブシステムならそれが出来た。サナは当夜さんと仲良くなって色々と話を聞いてた。
彼が夢見る未来の姿に、サナはいつだって目を輝かせてたんだ。リーフィア導入以降、サナの調子は戻って体も幾分かマシになって来てた。夏を越えて秋を越えて冬まで越えて……そして事故から二度目の春が来た。
誰がここまで生きれると予想してただろうか。でもここから誤摩化しも効かなくなって来たんだ。思いが体を凌駕するって良く聞くよね。多分今まではその状態だったんだろう。だけどそれはいつまでも続かない。
サナの体が限界のサインを出し始める。もう容易に、フルダイブする事も出来なくなってた。死神の足音はまた再び直ぐそこまで迫って来てた。それでもサナは頑張ったよ。自分が生きれる世界を当夜さんが語ってくれたから、そんな未来に生きたいと願える様に成ってたんだ。
サナは頑張って春を越えて梅雨も越えてまた再びの夏が来た。最後の夏だ。サナは今年一番暑い日に、太陽が一番近くに来たみたいな日に、静かに息を引き取った。享年十二才の彼女の人生は静かに幕を閉じたんだ。
第四百八十八話です。
今回の絵はスオウです。状況は??だけど、本当は分かる様にする筈だったんですよ。でも時間的にね……
本編の方は佳境です。きっとあと一話で、この長かった話も終わると思います。頑張ります!
てな訳で次回は火曜日にあげます。ではでは。