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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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求めなくちゃいけないもの

リア・レーゼに到着して、僕達は慌ただしく動き回ってるモブリ達を横目に大破してた本殿へと向かう。まあ元から本殿の外周部分にバトルシップは降りた訳だから、もう目と鼻の先なわけだけど、僕は顔バレしてるからね。一応フードで顔を隠して外に出た。

どこまで情報が出回ってるのか知らないけど、一応世界の敵−−的なポジションなわけだしね。プレイヤーだって普通に居るんだし、情報が拡散されても困る。この国にも迷惑を掛ける事になるしね。

だけど改めて見ると……酷い状況だな。立派な木造建築だったのに……今は見る影もない。しかもアルテミナスとは違って、直してもなさそうだしね。どうやら街の方を優先してるみたいだ。ここは関係者以外立ち入り禁止の様になってるし、そういう指示でもローレが出してるのかも。

でもあいつがこれをそのままにしておくとも思えないよな。もしかして世界を取った後に、大々的に改装する気なのかも。それかまだ黒いままの世界樹だし、もういっそ別のところへの移転とか考えてたり……まあわからんな。


「さて取り敢えずここまで来たけど、肝心の本殿はこの有様なんだよね」


いや〜色々ありすぎて忘れてたよ。てか誰か言ってくれれば良かったのに。みんなも忘れてたのかも知れない。


「う〜ん更に上に行ければ良いんだけどね。どうなんだいリルフィン君?」

「ダメだな。どうやら主がここの機能を止めてる様だ。上にはいけん」


無駄足か……そう思った。街中にも図書館とかはあるんだろうけど、ここら辺が一番重要な施設が集まってた筈なんだよな。無事なのは、ローレが時間を止めてた部分だけ。流石にこれじゃあ何も残ってないのと同じだな。どうにか民衆が祈りを捧げる像とかは残ってるけど……それが歴史を語ってくれるわけじゃ無い。

そしてその中からなくなってるテトラの像。まあ今はあの像を媒介に奴をこっちに完全権限させたんだもんな。って待てよ……


「思ったんですけど、テトラに一番対抗できそうなのって、シクラ達しかいないって酷い思い込みだったかも」

「どう言う事だ?」

「いや、だから一番テトラに有効に効きそうなのって、女神なんじゃないか? テトラがここにあった像で顕現したのなら、もしかしたら女神様も同じ事が出来るんじゃないかな〜と。それが出来ればテトラに対抗出来る」


うんうん、我ながら良い考えだ。神の相手は神だろやっぱり。人がやるには荷が重すぎるんだ。次元が違うんだもんな。ヤになるわ〜本当。


「確かに出来ないとは言えないが……出来る要素もないぞ。そもそもその方法を提示したのは聖獣共だ。それを上手く主が使った。俺達は女神を顕現させる術を何も知らない」

「確かにな……」


まともな事を言うじゃないか。すると更にテッケンさんが追い打ちをかけて来た。


「しかもテトラの顕現で世界樹はこの有様だよ。もしも女神様を表そうとするなら、更にこれを反転させないといけないんじゃないかな? テトラは世界樹を弱らせる事でこっちへの道を開いたんだ。それなら女神様がここに現れるには、暗黒大陸の方にあるというもう一つの世界樹を枯らす事をやらないと……」


なるほど……確かにそこまでやらないとお膳立てとしては弱いよね。しかも世界の力の流れを変えるみたいな事をしたからこそ、邪神テトラはこの世界に復活できたわけだし……それを僕達だけでやると言うのは流石に無理すぎるか。

そんな方法も術式も僕達は知らないしな。あれは聖獣だから……さらに言うなればローレだからできた事だ。僕達にはそんな技量がない。そこまで魔法に精通してる奴もいないもんな。シルクちゃんならやって出来なくもなさそうだけど、そもそも世界の力の流れを変えるほどの力をどうするかって問題もやっぱりある。

けどここで僕達の議論にさらに一石を投じる奴が出てきた。それは艦長にまで出世した僧兵モブリだ。


「なあ、女神様を顕現させようとか言ってるみたいだけど、そもそもそれは無理だと思うんだ。だって女神様は言い伝えでは既にこの世界にはいないんだよ」

「はぁ? それを言うならテトラだって同じだろ?」

「それは違う。邪神は一つの存在としてこの世界にちゃんと繋がってて、俺達を監視し続けてるって言われてたんだ。だけど、女神様は神の国から見守ってるみたいに言われてる。女神様の存在はこの世界には既にないんだ」

「いない奴は、呼び出せもしないって訳か。だけど顕現とかなら、そんな距離を飛び越えて降ろすくらいできそうな気もするけどな」


そもそも神様なんだからそのくらい出来てもいいよな。てかなんで女神様が見捨ててるんだよ。良くそれでシスカ教の信者達は女神を信じていられるな。見捨てられたとか思わないわけ? 身近な神ならテトラの方が確実じゃないか。あいつ既にここに降りて来てる。

まあ願いを叶えそうにはないけどな。


「女神様は俺達を見捨てて去ったわけじゃ無い。俺達を信じて去ったんだ。そう言われてる。だから愛は残してくれてる。見守ってもきっとくれてる。それだけで十分なんだ。それに時々声を聞かせてもくれてたしな」

「声を? どう言う事だ?」


いないんだろ? するとテッケンさんが教えてくれる。


「スオウ君も良く知ってる彼女の役目の一つなんだよそれが」

「まさか……ローレですか? 星の御子は神の声の代弁者……そう言えば誰かがそんな事を言ってた様な……だけど僕が見たあいつは天気予報くらいしかしてなかった様な」


運が悪かっただけかな? 普段はもっと真面目な事をやってるのかも。


「いや、あれが普段の役目だぞ。寧ろ神の声を届ける方が稀だ」

「というか、その日は決まってて、お祭りみたいになるんだよね。年に二回の神託祭だよ。確か秋と春に行われるんだ。でも今年はどうなんだろうね。このまま世界が変わったら、伝統とか本当にどうなるかわからないよ」


確かにそうだね。テッケンさんもだけどリルフィンも僧兵も不安そうな顔だ。僕は実際全然そのお祭りの事は知らないけど、やっぱりそう言うのがなくなったりするのはさみしいよね。きっとこの世界には他にもそういうのはいっぱいあるだろう。世界が変わるって事は、大切だった事までも変わっていく事なんだろうか?

こればっかりは変わってみないとわかんないよな。ただ意味が変わるだけかも知れない。行事自体は終わらなく続くかも知れない。それか変わった世界では新しい何かがきっとあると捉える事も出来るよな。

それを受け入れられるか、受け入れられないかは人それぞれなんだろう。別に僕達だって、平和になる事を止めたいわけじゃ無い。だけどその平和にはクリエの犠牲が必要だから、僕は素直に受け入れるなんて出来ないだけ。


「そう言えばエアリーロが主の思惑を語ったんだろ? あいつの考えが当たってるなら、それを探る方が良くないか? 女神を降ろすよりもまだ現実的だろ?」

「現実的ね……」


果たしてそう言えるかな? どっこいどっこいだと思うんだよ。女神をこの世界にもう一度降ろす事と、誰もが願いを果たせる手段を探す事。どっちも同じくらいに難しい。それにローレがそれを探してるのは、確信があってじゃないと思う。

あいつはただ自分に満足なんてしないから、理想って奴を常におい続けてる様な奴だから、目的は今の段階で達成出来る……だけども、どうせなら最高の形で出来れば良いな〜って感じだ。

もしもそんな方法があるのなら、実現して見せる……と色々と根回しをしてるのかも知れないけど、それはあくまでもまだ夢だ。出来るかなんて誰にもわからない。


「テッケンさんはどう思いますか? みんなの思惑が全部叶えられる……そんな方法が存在すると思いますか?」

「そうだね〜それはとても難しい事だよ。だけど完全にあり得無いとも言えない。もしかしたらそんな方法があるのかも知れない……でもこの短い時間でそれを探し当てるのは不可能に近いかもだよ。それこそローレ様に何か宛があるのなら別だけどね。

けどそれを知る事も尋ねる事も僕達には出来無いからね。結局はゼロからやる事しか出来無いから、現実的に考えると無理だよね」


なんだか色々と回ったけど、結局は無理がテッケンさんの結論か。まあ「そんなのあり得無い」じゃなくて「無理」ってのが味噌だね。テッケンさんが言いたいのは、あり得るかも知れないけど、時間的に無理って事だ。確かに今日一日でそれを見つけるのは流石にね……手掛かりになりそうな所もこの有様……まあここにはそれの手掛かりを求めてたわけじゃなく、もっとテトラとかの事を知ろうと思ってた訳だけど……もしかしたら繋がる何かがあったかも知れないのにと思うと悔しいよね。


「お前は主の考えが非現実的だと言う気か?」

「そうじゃないよ。彼女なら僕達よりもより多くの情報を得てるんだろう。だからこそ、色々とやろうとしてるのはわかる。だけどその情報の共有も出来ずに僕達だけでそんな夢物語みたいな方法を探るのは無理があるって言ってるんだよ」


うんうん、テッケンさんの言葉は正しいね。僕達にはその方法へ辿り着くための道筋がまるでない。そこが問題なんだよ。今からじゃそれを探し・集めるだけで終わってしまう。なんてたってLROは広大だ。幾らバトルシップがあるからってそうそう国を軽々と移動できるわけじゃ無い。

そもそもどこに転がってるかもわからない様な情報を片っ端から集めるなんて、人手不足だよ。リルフィンはそのローレの考えが実現出来るのなら、何よりなんだろうけどさ、しかもそれに独自に気がついた感じでアシストでも出来れば鼻高々なのもわかるけど、ちょっと否定されたからって親の仇を見る様な目で責めるなよな。

どっち側だかわからなくなるっての。


「だがそれならどうするんだ? あのシクラ達の協力も断って、実質戦力は俺たちだけだ。今から多少強くなっても邪神に主、そして五種族の連合にどう立ち向かう? 押しつぶされるだけだ」

「だからまずはテトラを無力化の為に女神を〜」

「それはハッキリ不可能と言えるぞ」


ぬぐぐ、黙ってた僧兵が「何度も言ってるだろ?」的な表情でそう言って来やがった。この世界に既にいないんだから降ろす事も出来ないと? だけどそもそも神を降ろすって別世界からって感じじゃないか? それに考える限り、この世界と神の世界は繋がってると考える事だって出来る様な……ああ、そう言えば神を降ろす為の膨大なエネルギーや、世界樹の復活とか……僕達だけじゃ無理な要素が一杯だったんだっけ。

くっそ、諦める事ばっかりじゃないか。やっぱり強くなるしか……


「そう言えばお前はどれくらい腕をあげたんだ? エアリーロに修行をつけて貰ってたのだろう? 」

「修行って言ってもあれは風の扱いを無理やり体に叩き込まれた……みたいな」


あれ? 忘れそうになるけど、目の前のこいつだって召喚獣なんだよな。僕はジッとリルフィンを見つめるよ。何かが出て来そうな……


「な……なんだよ?」


不信がって一歩を下がるリルフィン。こいつこんな人間型だから忘れちゃうけど、本来の姿は白銀蒼々の狼なんだよな。そして召喚獣って事は司る属性があるんだよな?


「おい、お前って何を司る召喚獣なんだ?」


エアリーロやイフリート、それにノームは解りやすい。それぞれ風・火・土だろ。後、時の奴と光も見たな。で、リルフィンってなんだ? フィンリルなんだから闇? それとも月なの? でも月って属性じゃないよな? でもなんだか闇ってイメージが浮かばない。

もっと黒々としてれば闇も良いんだけど、本来のこいつの姿は闇を象徴するというよりも、闇に映える姿をしてるとおもうんだ。だから余計にそう感じるって言うか……んで結局は何なんだ?


「俺は基本闇だ。月光を背に闇を駆る。それがフィンリルだからな」

「でもお前が闇だとすると……」


どうしよう……なんだか言いづらいな。だってこれ言うとこいつ怒ると思うんだよね。


「なんだ? 不満でもあるのか?」

「別に不満って物じゃないけど……ほら、確か光の召喚獣居たじゃん? ちっこいの。妖精みたいのがさ。フィア? だっけ」


確かそんな感じだったよな? 一回しか見てないからあやふやだけど。


「ああ、そいつがなんだ? 」


僕がじれったくやってる物だから、リルフィンの奴なんだかイライラして来てるな。しょうがない、ここはハッキリと言ってやろう。気持ちの良い風も吹いてるし、案外怒らないかも知れない。


「だからその光の召喚獣は随分と凄い性能じゃんか。なのになんで対になる筈のリルフィンがかなり残念な力なんだ?」

「残念……だと?」


ヒクヒクと口元が痙攣してる。ヤバイなやっぱり怒ったか。だけどこれは誰もが思う事だと思うんだ。


「ねえ? テッケンさんもそう思いますよね?」

「僕に振るのかい!?」


驚愕するテッケンさん。いや、ほら同意は必要じゃん。僕一人だけの意見なら、個人的見解だけど、二人になれば受け止めれるかも知れない。まあテッケンさんが僕と同じ考えかは知らないけど。リルフィンはどうやらテッケンさんの意見も欲しいらしく、鋭い目で彼を睨んでるよ。


「良いんですよテッケンさん、素直な意見で。それがきっと誰かの為になる事もあります」

「そうだな。あやふやな回答なら頭から飲み込むぞ」

「どうして僕がこんな目に……」


テッケンさんの性格的に、ズバッというのは難しいかもね。だけどそうしたら、狼というイメージ通りに頭から食われる羽目に。災難だね。だけど流石に本来の姿になれない今のリルフィンじゃ、一口じゃきついよな。牙も無いし、まあオオカミが使う脅しとしては良いのかも。


「テッケンさん」

「テッケン」


僕とリルフィンが悩んでる彼に迫る。可哀想だけど、譲れない事だよこれは。


「うう……そもそも何を指してスオウ君はリルフィン君を残念だと言ってるんだい? そこを明確に聞きたいな」


流石テッケンさん、上手く交わして来ましたね。でもそれは予想の範囲です。用意してますよ。


「まあだからそれはフィアと比べてですよ。あいつ超凄い力持ってた……ってテッケンさん達は知らないんですっけ?」

「そうだね。その召喚獣は僕達は見てないよ?」


しまった〜〜。そう言えばあそこに居たのは僕とこのリルフィンとクリエだったか。なるほど、どうりで伝わらないはずだ。すごかったんだよ。具体的にはやりあってはないんだけどね。でも実質、あいつが邪神テトラを復活させた様な物だ。


「僕達はてっきり邪神を復活させたのはローレ様だと思ってたけどね。違ったんだ」

「そうですね。厳密に言えばって感じですけど。でもフィアも召喚獣なんだし、ローレが復活させたと言っても過言じゃないですよ」

「それはそうかもだけど……まあそれはいっか。所でそのフィアの力はどんなのなんだい?」

「フィアの力、それはですね……」


え〜と、そう言えば具体的な事は何も知らないな。言葉がこれ以上出てこないぞ。思い返してみれば、あの時、フィアが何をしてたのか僕は理解してないし。とりあえずあいつが聖獣の代わりに、聖獣を使って神を復活させる術式を構築とかしてたくらいか。

よく考えたら超凄い場面はなかったかも知れない。でも僕の印象にはそれが強く残ってる訳で……それを必死に思い出そう。確か、あの時、そんな印象を植え付けたのは……リルフィンだな。確かそうだった。

こいつがそんな事を言ったんだ。


「リルフィン、フィアの力を具体的に頼む」

「ええ? スオウ君見てるんだよね?」

「見てましたけど、考えたらあいつは邪神復活の儀式をしてただけでした。超凄いって事はリルフィンからきいたんですよ」


そして今更ながら思い出したけど、僕ってあの時、ローレから直接リルフィンとの出会いを聞いてたな。あまりの切迫した状況に記憶が混濁してたよ。でもあの時は姿が変わったとかは言ってなかった。意図的に伏せたのか? なぜに?

ちょっとした疑問が出て来たけど、やれやれって感じでリルフィンがフィアの事を話しだす。


「あいつの力はそれこそ神と同格かもしれない」

「うんうん、そうだろうそうだろう。で、具体的には?」

「潜在能力はきっと神にも劣らない、だがそれ以上は良くしらないな。俺はあいつとは仲が悪いんだ」

「この役立たずが!!」


いや、マジで。逆になんだったら役に立つんだよお前は。どこの情報なら豊富に持ってるんだ? あの時、僕にいった言葉はなんだったんだよ。


「俺をここまで罵倒する奴も貴様が初めてだ。この問題が片付いたら、ガチでやり合う必要がありそうだな」

「買ってやろう。だが、最初にあった頃と同じ様にはいかないぞ」


あの頃は凄みがあったよお前には。だけど今はどうだろう……ローレが出て来て、聖獣が跋扈して、他の召喚獣まで登場すると、次第にあの時の強さが嘘の様になってったな。最初はあれだけぼろ負けしたのに、なぜか今は勝てそうな気すらする。不思議だよ。


「それはどうだかな。それにフィアの奴はこれと言って解りやすい特徴があるわけじゃない。いうなればあいつはなんでも出来る奴だ。その『なんでも』がとてつもなく広い範囲の『なんでも』だと思っとけば、あながち間違いじゃ無いだろう」

「最初からそれを言えよ」


まあ具体的には何もわかんないけどさ、とにかくなんでも出来るって凄いじゃんって事だよ。これでまあ比較は出来るでしょ。


「さあテッケンさん、邪神復活からなんでもこなせるフィアと比べて、このなんにも出来ないリルフィンが残念な召喚獣なのは明白でしょう!?」

「どうしてそこまで強気なんだい? 仲間だよ僕達は」


確かにそうなんだけど、実はさ……ずっと言いたかったんだ。確かに助けられた場面は多々ある。だけど決定的に助かった部分はサン・ジェルクでミセス・アンダーソンを連れて来てくれた時と、その後にリア・レーゼに速攻で運んでくれたくらいじゃん。後はもうなんだかパッとしなくね?

戦闘で僕達以外に勝った事あったか? 思い出せない。


「残念かどうかなんて、たった三人の僕達にはその論争は不毛だよ。誰かを貶めたって、良い事ない。僕達は今は絆を強めないといけないんだ」


おお、なんだか良い事そうな言葉が来た。確かにそれは最もなんだけど……三人だからこそ、不満をぶつけ合うのも大事かと思うんだ。だってどう考えても召喚獣であるからってなんかリルフィンは僕達をちょっと見下してないか?


「そんな事はないよ……ねえ?」

「召喚獣は世界に必要な存在だ。同じ姿の奴が何万と居る存在とは価値が違う」

「ほら、ここは腹の中をぶつけ合うのも大切です。だから僕は言いましょう」


そう言って僕は大きく深呼吸をするよ。そして言葉を吐き出す。


「何が世界に必要だよ!? 価値が違う? 確かに他の召喚獣はそうかもしれないな。だけどお前だけは別格だ! すっげえええ見劣りしてるんだけど!! なんで光の対がこんな吠える事しか出来ないオオカミなんだよ!」


もう僕の戦闘での印象は、吼えてる場面しかないっての。確かにあれは便利だけど、ローレ達には通じないぞ。アドバンテージなくなってるからな。すると流石にリルフィンもカチンと来たのか、一歩を踏み出して叫びだす。


「貴様こそ大層な事を言ってるが子供一人救えてない様だろうが!! 邪神に手も足も出ずになぶられた分際で、良く俺を貶めれるな! この口だけ野郎が! 貴様のせいでどれだけ周囲が迷惑してるか自覚してるのか!? お前を見てても邪神に勝てるなんて万に一つも思えるか!!」


怒気を孕んだ言葉どおしがぶつかり合う。はははは、行ってくれるじゃんか、このオオカミになり損ねた毛むくじゃらが。やっぱり勝てないと思ってたか。しかも万に一つもだと? 酷すぎだろ。万に一くらいの可能性はあるわ!! 僕達は互いに睨み据える。

そして悪口の押収だよ。溜まってた不満と、目の前の絶望がきっとそんな行為に走らせたんだと思いたい。互いにくだらない悪口を僕達は言い合ったんだ。すると流石に周りの僧兵達(このリア・レーゼ常駐)の奴らがガヤガヤと集まって来てた。

何事だ? って感じだろう。僕達は熱くなってたから気にしてなかったけど。流石に不味いとテッケンさんは思ったんだろう。まさにその手で鉄拳制裁を受けた。


「いい加減にしないか!!」


そんな言葉と共に、僕達は鉄拳さんのでっかい拳に地面に叩きつけられた。流石に頭は不味いよテッケンさん。


「血を抜く為だよ。二人とも興奮してるようだからね」

「それはまあ……おっしゃる通りだけど……」


落ち切った僕にはかなり辛いお仕置きだ。そして僕達を止めると、こっち側の僧兵達が、周りの奴らを解散させるように動き出してた。まさか地面に叩きつけたのは、フードが取れないように? 顔を見られたら不味いもんね。僕達はここの僧兵達には認識されてるから。


「全く、やっぱり言い争いなんか不毛だったじゃないか。シコリしか残ってないんじゃないかい?」


テッケンさんが僕達を見てそう言う。確かに周りからみたらそう写ったかも知れないね。不毛な言い争いだったと……だけど案外そうでもないよ。


「いえいえ、結構スッキリしましたよ。ずーと気を遣うよりもこうなった方が楽です」

「ふん、俺は貴様の子供っぽさに飽きれたわ。ガキが」

「ガキだからな僕は。別にそれで良いんだよ。早く大人になろうとするのはずっと前にやめたんだ。でもそれを言うと、リルフィンだって結構ガキだったけどな」


言い返してたしな。大人なら大人の対応を見せろよ。


「ふん、俺は貴様に付き合っただけだ」

「そうはみえなかったけどな。ねえテッケンさん?」

「だから僕に振らないでくれないかい? てか所で、そもそもフィアの事を聞いたりは喧嘩する為の口実だったのかい?」

「はは、まさかそんな訳ないですよ。ただ他の召喚獣と比べるとリルフィンが見劣りするからついつい不満が爆発しただけですよ」

「それはそれで質が悪いね」


う〜んローレの性格が少し移ったかもしれないな。全く迷惑なやつだ。余計な注目と時間を食っちゃったよ。


「それは俺が見劣りする召喚獣だったのがいけないと言う事か?」

「別にそうじゃなく、召喚獣って所が大事なんじゃないかって事だよ。でもこれってもしかして召喚獣自身の力も関係あるのかもって思っただけ」

「それで俺では不安になったと?」

「まあそこは否定しないけど」


グッと拳を握るリルフィン。だけどなんとか耐えた様だ。どう言う事か聞いてくれそうだ。するとテッケンさんが求めてた言葉をくれる。


「何をスオウ君は思いついたんだい?」

「それはですね。ようはリルフィンも召喚獣なんだからヒトシラが居るんじゃないかって事ですよ。そして他の召喚獣もその筈です。召喚獣と心を通わせてその資格を得るのなら、別にローレを通さずとも出来るかもしれません。

だってエアリーロはちゃんとこの世界に居た。それならそれぞれの召喚獣も居る筈です。ヒトシラに候補としてでも成れれば、その力の恩恵は受けれます。それが全ての召喚獣から受けれるのなら…… 対抗出来るかも知れない。どうでしょう?」


ヒトシラ……それは本来は召還士であるローレの為の制度だ。だけどそれを逆手に取れれば、もしかしたらこの途方もない距離を縮めれる……かも知れない。

第四百五十五話です。

これが最後の手段なんでしょうか? ヒトシラ……それは希望になる力なのか?

どうなんでしょう。

てな訳で次回は土曜日にあげます。ではでは。

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