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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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風の歌

バサバサと音を立てて頭上に降りて来るエアリーロ。やばい、今攻撃されたら終わるかも。トルネードを消し去る為に集中力も体力も可能な限り消費してしまった。そう思ってると、エアリーロの翼から煌めく風がこちらに流れてくる。

動けない僕はただそれを受け入れるしかない。一体どんな効果が……そう思ってると、染み入る様に風が僕の中に入って吹き抜けて行く。それはまるで大草原を気持ちよく吹き抜けるがごとし爽快感。なんだこれ? 僕の中に大草原はないぞ。


【回復効果はそれ程高くはないですが、アロマセラピーみたいな物ですよ。リラックスしなさい】

「アロマセラピーね」


確かにそんな効果はありそうだ。染み入る風は草原の匂いや、優しい空気までも運んで来てくれてる気がする。気持ち良い。これを毎晩枕元でやってくれたらきっと直ぐに眠りに付けるね。それ位癒される。

しばらくの間、僕はエアリーロの風に身を任せる。するとなんだか結構楽になった気がする。あれだけガタが来てたと思ってた体が息を吹き替えした感じだ。HP的にはそこまで回復してないんだけど……なんだろう不思議な感じ。


【だから言ったでしょう? これの回復効果は高くないと】

「それでも心の方は大分楽になった気がする。精神の回復量が多いって地味に貴重な技じゃないか?」


そんなの聞いたことないぞ。体を動かす事が必要なスキルは当然体力を消費して、魔法的なスキルは精神力を削ってく。それが基本で、でもやっぱり戦闘中は気を抜けない物だし、それが続けば精神力も体力もHPで見える以上に減って行く。

それに体力とHPは大体相対関係だけど、精神力を測る数値はLROにはないからね。どんな魔法もほぼHPを回復させるだけでしかない。でもこの風は違う。明らかに擦り減った心を優しい風が撫でてて癒してくれる……そんな感んじなんだ。

MPの概念がないLROは技も魔法も使い放題に感じるけど、実際はそうじゃないからね。体力や精神力に影響されやすい。だからヒーラーに体力面の回復を、エアリーロに精神面の回復をやってもらえばある意味完璧だ。

まあ実際は、エアリーロも今は実質敵側なんだけど……ここに居るエアリーロはローレが召喚するその契約に沿ってないのかしらないけど、比較的自由にやれるみたいだけど、次に会うエアリーロはきっとローレが召喚をするだろう。

それは間違いなく敵だ。実際悲しいよな。こんなに分かり合えてる気がするのに。心も結構許せてるよ。エアリーロ自体は、僕は信用してるからね。信用出来ないのはバックに居るローレと言う見た目小学生の悪魔だよ。


【私にはわからない感覚ですけどね。精神力など関係なく、私は風と同一です】

「それはお前と言う存在だからだろ。僕は風を一掴みするにも精神力を多大に使うんだよ」


風の精霊と一緒にするな。てか、心がある時点で精神はあるよな? エアリーロだって多少はすり減らしてるだろ。


【人の器と同じに考えて貰っては困りますね。今の私はともかく、召喚されればそこら辺の負担は全て術者である主に行きます。それが召喚と言う魔法の特徴ですから。まあその意味では主には効果があるかもしれませんね】

「負担はあいつにいってんのか。てか、この技の事は知らないのかローレは?」


それは凄く勿体無いことじゃないか? 魔法を多用するプレイヤーは喉から手が出るほどに欲しがる技だと思うぞ。自分の手持ちの技くらい普通確認しておくもんじゃないのか?


【あの方は貴方と違って数種類の技を使いまわさないといけない程に種類が少ないわけじゃないのですよ】

「うぐ……」


確かに僕は未だに数種類のスキルしかなくて、それを必死に使いまわしてるんだけど……一応強がって言っておくと、僕のスキルは少数精鋭なんだ。沢山あったら便利だとは思うけど、実際は使わないスキルなんてあるだろうし、いざって時の対応力の為にある−−って言われればそれまでだけど、そこまで困ってない。

だってイクシードは他のどんなスキルにだって見劣りは絶対にしてないだろ。ほかのは普通だけど、一分に一回の絶対回避はなかなかに使えるよ。イクシードだって、乱舞からイクシードに変わって使い勝手は抜群にアップしたし、そこら辺の大型モンスターくらいなら、イクシードだけで押し切れる爆発力が実際はある……はずだ。

相手がいつも悪いだけ。外側の存在とか聖獣とか神とか……その内宇宙的な何かが出て来そうだな。実際、LROには外世界があってもおかしくないしな。世界樹の傘から見た限り、宇宙はとりあえずあるんだし……その内まさか宇宙開発が進んで、宇宙戦争が始まったりしてもおかしくない。

とりあえずこの世界が平和を築けても、外からの脅威があればゲームとしては成り立つしね。まさか、そこまで考えての設計? −−は、流石に考え過ぎだと思いたいけど、これを作った奴は天才だからな。

そしてLROは何が起きてもおかしくない。あり得ない事があり得ない世界だもんな。てか、なんだか全く別の心配してるな僕。


【あの方は得た召喚獣の特性を活かした技を覚えれる。そして私達はそれぞれ固有の技が存在する。たった数種類の誰かさんとは大違いの多さなのです。それにこれは技と言うか、もともとの特性ですしね。主が知ってなくても当然です。言ってませんし】

「いや、言えよ。−−って、やっぱまだやめとけ。言うのはこのドタバタの後にしてください!」


不味い不味い、こんな特性がエアリーロにあるとわかったら使わない手はない。召喚しまくってもエアリーロの風で回復! ってやられると、あの悪魔の弱点がなくなる。燃費が悪くて体力的にもキツイからニ〜三体くらいしか同時に出さないんだろうけど、この事実を知れば後一・二体は同時に出せるようになるかも知れない。そんなのヤダ。

自分で勝つ目を摘んでるみたいじゃないか。勝つ目があるかどうかも問題なのに、そんな事出来るか! いや、どっち道、エアリーロ次第だけどね。


【ふふ、まあ私は聞かれるまでは言う気はないですよ。ここでそれを知るか知らないかもまた運を引き寄せるかどうかですから。別に主はそれで自分の計画が上手く行かなかったとしても文句は言わないでしょう。

ただ自分が引き寄せられなかった……そう思うだけです】

「そんな殊勝な奴か?」


そうとは思えない。あいつが周りに当たりまくって癇癪を起こしまくるのが脳裏に浮かぶ方が自然だ。あいつらしい。まあ全然僕はあいつの事を知ってるなんて言えないけど、でもあのローレだよ。八つ当たりで召喚獣をつかって辺りを火の海にしてもおかしくないだろ?


【どんなイメージ持ってるのですか? あの方は意外と常識を持ってますよ。それに私が見てきた誰よりも真っ直ぐです。まあ貴方は良い勝負してますけどね。だからこそ私のヒトシラとしての候補になれたのでしょう。

今までそんな人は誰もいませんでしたからね。召喚士の真の力は、全ての召喚獣とそして心を通わせられるヒトシラを揃える事で完成されます。主もそれをわかってるので人材探しはしてたのですよ】

「ふ〜ん、だけどあいつの見た目はともかく、性格でついていけなくなりそうだな」


真っ直ぐって言ったらそうなのかも知れないけど……手段を選ばないもんなアイツ。普段は猫かぶってるのかどうか知らないけど、他人の事を考える奴じゃないだろ。見た目にホイホイついて来た奴らも、数時間後にはへばってそうだよな。


【主は人を使うのも上手いんです。大抵の人は信者になってくれます。まあ主はその時点では素姓は隠してるので誰も星の御子とは気づかないですけど】


信者って……普通に使う言葉じゃないからね。まあローレはそこら辺も上手くやりそうだよ。したたかな女だからな。


【ですが、ヒトシ足り得ると、その目にかなった物はいませんでしたよ。まあ主がどこを基準に選んでるのかは私にもわかり兼ねますが。そもそも私の意思も主の意思も選択に影響があるのかもわかりませんしね】

「難易度高いなそれ。ローレがある程度選べる……とかじゃないのか」

【そうですね。ですが主は何かを感じる事は出来ると考えてるようです。通じ合えるのなら、惹き合う何かがあるだろうと】

「それも大抵アバウトだけどな」


アテになるかそれ?


【ですがそれでアナタを見つけました】

「いや、僕は見つけられた訳じゃないし……寧ろやって来た側だろ」

【それが惹き合ったと言う事ではないですか?】


う〜ん、考えが強引じゃないか? クリエの事がなかったら、星の御子であるローレに会う機会なんかなかったと思うぞ。


【そうでしょうか? 私はどの道会ってたと思います】

「どうしてそんな事が言えるんだよ?」

【だってあの子だけじゃなく、貴方の傍にはシルクがいます。あの子は主にとっては特別なんですよ】

「そう言えばよく目の敵にしてるよな」


ローレははっきりとシルクちゃんの事を嫌いって宣言してるくらいだからな。一体何があったのやら。でもシルクちゃんはそんな事ないし、見てる分にはローレが一方的に恨んでるっぽい。前に唯一私を負かした−−とか言ってたし、きっとそこら辺で一方的に嫌ってるんだろう。


【まあ私も詳しく知ってるわけではないですけど、シルクと主は同時期に芽が出てきたような事を聞いた事があります。優秀なヒーラー同士だったのではないでしょうか?】


ヒーラー? あのローレが? 想像出来ない。それよりもソーサラーの方がよっぽどらしいぞ。ムカつく奴らは灰も残さずに消そうとする方がローレらしいもん。


【主が元はヒーラーなのは想像に難くないと思いますが? ヒーラーは重要ですし、それだけ需要もあります。そして後方で仲間の動きを見ながら、的確に指示を出す事も出来るポジションです。ヒーラーがパーティーを支えてるのですから、ソーサラーよりも仲間の信頼は掴みやすいでしょう。

優秀なヒーラーが一人居るだけで、パーティーの効率は著しく上がるのです。そんな誰からも必要とされるポジションこそ主は好きなはずですよ】

「確かに……言われてみればそうかもな」


ヒーラーは大切って散々言われてるしな。まあヒーラーなかったらパーティーは回らないんだから、必要とされない時なんてないよね。レベル制なら気にしないといけない、近いレベル同士でしか組めないなんてデメリットもLROにはない。

どんなパーティーにだって優秀な奴が入れるメリットがある。同レベル帯を無視出来るんだから、そこら中から優秀なヒーラーはやっぱり惹きて数多なんだろう。それを考えると、確かにローレがヒーラーやってるのは別段おかしくないかも。

あいつは仕切るの好きそうだもんな。まあ仕切るのがって事じゃなく、人を使うのがって感じか。それなら確かにソーサラーよりもヒーラーの方がやりやすいのかもね。


【きっと昔は互いを意識しあって切磋琢磨してたのではないでしょうか】

「切磋琢磨ね……」


なんかその言葉の響きだけなら、とっても美しく聞こえるんだけど……青春みたいなさ。でも自然と思い浮かぶ図は、人気者のシルクちゃんを同程度の実力で僻んでるみたいなローレだな。だから目の敵にしたんだろ?


【そこはわかりかねますが、流石にそこまで器は狭くないと思いますよ。何かがあったのでしょう。二人の間には】


エアリーロそう言ってるけど、なんだか僕の方はそれじゃモヤモヤするんだよね。ローレだけじゃなく、シルクちゃんも何かがあったのなら、態度に出ると思うんだ。だけどシルクちゃんは一生懸命ローレの事を「嫌いじゃない」ってアピールしてるんだ。

それも自然に、シルクちゃんなら当然レベルにだよ。まあだからこそローレの一方的な逆恨みが否定出来ないっていうか……何かが会ったと思いたい気持ちもわかるけど、シルクちゃんの様子を見る限り、そんな大した事ない様な気がするんだよね。

僕は取り敢えず「そうかもね」って言っておいた。


「ってか、なんの話ししてたんだっけ?」

【例えクリエが居なくても、主と貴方は出会ってたという話ですよ。クリエだけじゃなく他にも引き合う要素があったんです。縁ですよ。二人の間にはそれがあったのです。きっと】

「縁ね……」


エアリーロは感慨深く言ってるけど、正直縁なんて考えたくない。そもそもそんな事を言ってると、誰とだって縁がある様になるだろ。全ては後付けだ。知り合いの知り合いに会う事なんか言っとくけど、ほとんど無いからな。


【不満ですか? あんなに主は可愛いではないですか? 男なら喜ぶべきことでしょう?】

「見た目だけならな。でも性格が問題だろ。ちょっとませただけの感じなら、逆に可愛らしさも更ににアップ出来たけど、外見と中身があいつの場合あってないんだ。

外見は子供なのに、やる事はエグいんだよ。弄ばれて来た僕は、既に可愛いなんて思えない」


恐怖の対象だろあれ。


【主が可愛いは正義だと言ってましたよ?】

「…………」


ドヤ顔でそんな事を言ってたら相当痛いぞ。てかどんな会話をしたらそんな言葉が出てくるんだよ。まああいつは自分の外見も上手く使ってる節があるからな。可愛いは正義ってマジで思ってるかも知れない。冗談とかじゃなく。

女の子は可愛い方が生きやすいってのはあるだろうけどね。外見だけで人生変わるよね。それを考えれば、あながち間違っちゃいないかも。


「第一印象は外見って大事だよな……うん」

【まあ主は誤解されやすいですから、しっかりと向き合ってみてください。あの人の行動や言葉をちゃんと考え直せば、色々と違う印象も出てくるかもしれませよ】

「そうなのかな?」


エアリーロは結局ローレ側だから、必死に擁護してる様にしか聞こえないぞ。考え直すって言っても結局、僕達はぶつかるんだ。それは変える事が出来無いと思う。それこそどっちかが目的を諦めないと理解しあった所で、僕達は結局敵同士だ。


【だから考えるのをやめて、主をただ敵として倒しにいきますか? 確かに主の側の私が何を言った所で擁護してる様にしか聞こえないでしょう。ですがスオウ、貴方には主がただ権力や地位に執着した愚者に見えてるのですか?

あの方が唱える世界平和は建前だと思ってますか?】

「それは……」


エアリーロの強い力のこもった声に、僕は考え込む。世界平和ね……そう言えば言われるまで忘れてたよ。だって気にも止めてなかったから。だってあいつの目的ってシスカ教をローレ教に変える事だろ? そして崇めて祀られたいって自身で言ってたぞ。

僕はそれをはっきりと聞いてるから、それ以外は全部建前だと思ってた。世界平和なんてその代表的な物だ。誰もが好きで憧れる……夢見てるそれを提示すれば、自分に支持が集まる。それは結局、ローレ教のメリットになる。

最も手っ取り早く指示を得れる建前だ。勿論それを周りに納得させるだけの材料が必要な訳だけど、誰もが恐れる邪神と組んで、代表たちを垂らし込んだ……偉い奴らが言えば、周りは従いやすくなる。気持ちが向けば後はあいつにとっては簡単だ。

ようはそれだけの為の物だった……んじゃないの?


【主は本気ですよ。あの方が目指す物で本気でない物などありません。あの方は、誰もが鼻で笑ってしまう様な事を、本気で実現しようとしてる……そんな夢見る乙女なんですよ。誰よりも現実的に、だけれど誰よりも夢を叶える為に足掻いてる。それが私達の選んだ主なんです。

我等召喚獣は、全員そんな主が大好きなんですよ】


随分と気に入られてるんだね。でもあいつが本気だってのはわかる。現実的ってのも確かにそうなのかも知れないな。あいつは確実な方を選んだ。だからこそ、僕達との道に見切りをつけたんだよな。

自分の目指すべき場所へぶっ飛んで行く為に、あいつは厳しい方に賭けた。思惑はきっとあったんだろうけど、普通思うか? 神を抱き込もうとかさ……しかも邪神だぞ。まあローレの場合は星の御子と言う立場と召喚獣がいたから、他のプレイヤーよりも邪神に関する情報を多く持ってたってのもあるんだろう。

何の確証も無しに、あそこから乗り換えってのは無謀だもんな。けどそれでも色々と理解出来無い事はあるんだけどな。


「ローレは元からあんな奴だったのか?」

【貴方が言うあんなと言うのがどんな感じかは知りませんが、主の考えは初めの頃からブレてなどいません。可愛い人なのですよ……本当に。外見だけじゃなく】


本当に気に入りまくってるね。そう言えばリルフィンの奴も、なんだかんだ言いながらローレの事が大好きなんだよな。誰かに好かれる……それはやっぱり良い所があるから……の筈だよね。


【どうですか? 主に興味が湧いて来ましたか?】

「思ったんだけど、なんでそんなに気に入らせようとするんだよ」


なんだかさっきからの妙な持ち上げはそう言う事だろ? やっぱり僕が貴重なヒトシラ候補だからか?


【それも勿論あります。我等の力はヒトシラが居て最大限に強くなるのです。ですから、貴方と主が良好な関係になってくれると、助かります。ですがそれだけでもありません。私も貴方の事は気に入ってるのですから、もっと分かりあって欲しいのです。

付き合いきれないと、匙を投げて欲しくない】


エアリーロの言いたいこと、伝えたい事は理解した。世話にもなってるし、色々と出来る事はやってあげたいけど、でもそれも全部今の状況が落ち着いてから……だと思うんだ。今何をやろうとしても、全ては対立する意見に阻まれる。僕達は今の段階じゃ決して相入れない。

だって邪神はその願いの為にクリエを使う気だ。だけど僕はそれをさせる訳には絶対にいかない。ローレの世界平和は邪神の願いを叶えた先にある。これじゃあどうあっても僕達は歩み寄れないよ。エアリーロの言葉を聞いて更に確信も得た。

僕達はそれぞれ我が強い。引く気なんか誰にもさらさら無いんだ。だからもしも僕がローレの評価を変える機会があるとするなら、それはきっとこの状況以降なんだろうけど……いかんせん、生きているか僕は不安だ。

そしてもしも全てが終わった時に僕が生きてるのなら、それはきっと僕がローレとテトラの目的を阻んだって事になるだろう。その時、結構デカイ恨みを買う様な気がするんだよね。やっぱりローレと良好な関係を築くって相当難しい気がする。

僕は色々と考えてこういうよ。


「肝には銘じておくよ。お前の言葉。だけどどう転ぶかはやっぱりわかんない。今のままじゃ、きっとお前が望む様にはならない気がする」

【そうですね。難しい事はわかってます。ですがそれでも主は諦めてません。だからわざわざ敵である貴方を、ここに送ったのでしょう。敵に送らなくても良い塩を送ってる。それは何かをきっと期待してるのですよ】


確かにこの行為は意味不明だった。あいつはまだ僕に、何かを期待でもしてるって事なのか? レベルアップさせようとしてるのは、自身の野望を阻ませる為……なわけじゃ無いだろうしな。それならデメリットにしかならない事をやる必要なんて全く無いもんな。

ローレの奴が何を狙ってるか……それが全くわからんな。何に期待してるんだよ。そう思ってると、エアリーロが言葉を続ける。


【主は本当は自分が出来る最高の結果を求めてるのですよ。それをきっとまだ諦めてないんだと思います】


最高の結果? 自分の目的を達成する事がそうじゃ無いのか? まあそれならもう余計な事はしない筈だけど……一番近いしな。


【言ったでしょう? 主は世界平和を本気で叶えようとしてる様な人ですよ。本当は誰もが幸せであっても良いと思ってます】

「誰もが幸せって、そんな都合良い世界なんて……」

【無いですね。幸福があれば不幸がある。幸せしかない世界など、幸せなどない世界と同じです。それは主もわかってますよ。世界平和など虚像でしかあり得ない。でもそれでも主は自分でやれる事はやろうとする。

そして今それは出来ようとしてます。だけどそこには一人の不幸な少女が生まれる。誰もが幸福もあり得ないですが、私達は全く別の場所で全く違う幸せを求めてるわけじゃない。それなら、或いは……と主は考えてるのかも知れません】


煌めく風が照らす空間に、静かに響くエアリーロの声。僕はそれを聞いてそんなバカなって推測を立てる。でもそれを望んでるのなら……ローレの数々のおかしな行動も説明付くかもしれない。まさかあいつは、今以上を求めてるのか?


「あいつは……まさかテトラも自分も、そしてクリエだって望んだままに願いを遂げれる……そんな術を今の段階で探してるって言うのか?」


贅沢過ぎだろ。だけど……それが叶うのならば、これ以上ないと言える解決方かもしれない。だけどそれは、夢物語や、綺麗事と鼻で笑い飛ばされる話だ。


【ですが我等が主は−−】

「−−そんな笑いを逆に笑い飛ばして言いくるめる。そんな奴か」

【そうなんです】


もしも本当にローレがそんな第三の選択に願いを込めてるのだとしたら、僕はあいつの事が少しは好きになりそうだよ。結局の所、本当かどうかはわからない。だけどこれはあいつが確かにくれた有意義な時だ。

最悪の場合は、僕はあいつの計画をぶっ壊すけど、もしも本当にみんなの願いを叶えられる道があるのなら、僕はあいつともう一度組んでもいいかも知れないとは思う。


【まあ全ては私の推論です】

「わかってるよ。でもまっ、面白い。なんかやる気も出て来たし、そろそろ再開するか? てか、試練とやらは終わりなのか?」


休憩がてら話し込んでたけど、どうなんだ? するとエアリーロはどこか遠くを見るように顔をあげてこう言った。


【大体今出来る事はやれた筈です。後は一つだけ、ご褒美をあげましょう。どうやらお迎えも来てるようですしね】

「迎え? いや、褒美ってなんだよ?」


気になる。どっちもね。


【形ある物ではありませんよ。ただ風の言葉を送りましょう。その意味を理解すれば、きっともっと風は貴方を祝福してくれるでしょう】

「風の言葉?」

【ええでは−−『無を持って風と語り、知を持って風を知り、体を持って風を感じ、全に等しく風は歌う。古より新まで風の伝えぬ物はなし』−−です。しっかりと刻み込んでください。風使いたる物はこの言葉と共にあらなければいけません】


すると周りを包んでる風の一部分が開かれる。もう行けとそう言う事か。


「サンキューエアリーロ。しっかり刻んでおく。意味はわかんないけど、取り敢えずな」

【ええ、それで良いのです。それではまた。次はきっと戦いの場でしょうね】

「だろうな」


なんだか気まずい沈黙が流れる。先を考えるとどうもね……だけど僕は嫌な考えを振り払ってこういうよ。


「でも、願いが全部叶う術がまだあるかもしれないからな。それを信じるのも悪くない」

【我等が主ならきっと……】


僕は手を振って開かれた部分から外へ向かう。入ってきた時の苦労は全然ない出口。光を目指して行くと、外には見覚えのある機体が一機あった。流線形の恰好良いフォルムしたバトルシップ。そしていきなりピンク色の小さなドラゴンが僕に突進して来たんだ。

第四百五十話です。

ローレの目指すの物はどこまでも高く大きいって事かな? そこに向かって真っ直ぐなのがローレ。なんだって使います。


てな訳で次回は水曜日にあげます。ではでは。

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