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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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種を撒きたい 4

「はっはっはっは−−」


石造りの通路を一生懸命走って、クリエはテトラを探す。取り敢えずあいつを見つけない事には誘き出せないからね。クリエの中に居る彼女もそう長く居れないらしいし、ここでやるしかないんだよね。


【クリエ、近くなってきてるのを感じます。少しスピードを緩めて。テトラはきっと近くに居ます】

「わ、わかった」


彼女の声にスピードを緩めて辺りをキョロキョロ見回す。まあ見回すって言っても、通路だからね。そんなだだっ広いわけじゃない。だけどクリエが横に並んで八人くらいは通れる広さはあるかな? ううん、もしかしたらもっと行くかも。そのくらいは広いよ。モブリには中々に辛い大きさだよ。

他の種族にとってどうかはわかんないけどね。でも彼女は近くに居るって言ったけど、見えないんだよね。でもでも普通に前から歩いてこられても困るんだよね。こっちから見えたら、向こうからだってきっと見えるもん。

誘き出す前に捕まる訳にはいかないからね。


【部屋の中はどうですか?】


確かにそれはあり得るかも。てか近くに居て、姿が見えないのなら、そうなのかな〜って思うね。でもでも実は彼女の感覚はもっとキュピーンって感じで鋭いとおもってたんだけどな。結構アバウトで残念だよ。


【そこは期待させてた事を謝りましょう。けど今はこれが精一杯なんです。取り敢えず、聖典に連絡を居れて、外から確認してもらいましょう】

「目の前にクリエが居るのに、わざわざセラを使うの?」


別にそこまでしなくても、クリエだって扉をそっと開くくらい出来るのに。それにいっぱいセラを使うと、後が怖いよね。なんとなく脅されそうって言うか……まあローレ程極悪じゃないし、大丈夫とは思うけど、ローレも怒ると怖いからな。普段から厳しい所もあるし、そこが不安だよ。


【扉を静かに開けれる−−とか、そう言う事じゃないんです。こっちからは開けるまで中の様子が見えないのが問題なんですよ。こっちを丁度見てたらどうするんですか? 幾ら静かに開けてもそれじゃあ意味なんてないんですよ。危険はどうしても付き纏う。

なら危険でないやり方を取るべきです。それに外から事前にテトラが居る事がわかれば、罠を仕掛けれます。幅が広がるんです】

「なるほど」


クリエの分身も少し減っちゃったし、有効に使ってった方がいいんだよね。何回もクリエの魔法は成功するかわかんないもん。そもそもこの分身ってなんだか完璧じゃん。

テトラの力をベースにすると、変な発動の仕方をしてたのに、どうしてこの分身だけこんなに普通なんだろうね? もしかしたら見た目ではわかんない部分がおかしくなってるのかも。けど光を出したらぼたぼたと黒い物を落としてたした、お札は白黒が反転してた。それならこの分身だってわかりやすく変わってったっておかしくないよね?

例えば髪の色とか、肌の色が黒く成ってるとかね。そこら辺ならわかりやすい。でもそれじゃあクリエだって判断されないかも知れないね。まさか、あのワガママっぽい邪神の力が空気を読んだ? う〜んクリエじゃ答えを導き出せそうにないかも。そもそも別にありがたいんだし、考える必要もないかも。

クリエは考えるのをやめて、目の前の状況に集中するよ。近くにテトラが居るのはきっと確実なんだろうし、油断は禁物だよね。取り敢えず自分でドアを開けるのは危険らしいんで、腕に巻きつけたお札に向けて声を掛ける。


「もしもしセラ?」

『何よ? 取り敢えずあんたの分身のおかげで反対側に兵隊共は寄ってるわよ。今の内にテトラを外に誘き出しなさい』

「うん、そうしたいんだよ。だからこっちに来てセラ! 近くにテトラが居るはずなんだけど、部屋の中かも知れないの。外から確認してよ」


クリエは通信相手のセラにそうお願いする。セラはきっと反対側に聖典を行かせてるんだよね。だけど聖典なら速攻こっち側に回ってこれる筈。期待してるよ。


『まったく人使いが荒いガキね。私はスオウみたいにお人好しじゃないのよ。分かってる?』

「それは分かってるけど〜」


お札から聞こえてくる声はちょっとウンザリしてる感じがする。流石にセラばっかり動かしすぎだもんね。でもでも一番自由に動けるのがセラだからどうしてもそうなっちゃうよ。やってくれないのかな?


『全く、今日だけはあんたのワガママにとことん付き合ってあげるわよ。今日だけね』

「うん! セラ大好き!」


やっぱりなんだかんだ言ってもセラは優しいね。なんだかセラがどんどん好きになってくかも。シルクお姉ちゃんと違って、普段から優しい雰囲気を出してる訳じゃないけど、ちゃんと向き合えば分かる優しさなんだよ。

向き合うまではわかんないのが難易度が高いけど、一回知れば恐る恐るでも頼っちゃう感じがする。姉御肌だよねセラは。

そんな事を思ってると、少ししてお札から声が聞こえて来た。


『到着したわよ。でもどうやらその通路の部屋にはテトラは居ないわね。本当に近くに居るの?』

(本当に近くに居るの?)


クリエは中の彼女に向かってセラの言葉を繰り返してみる。だってクリエは知らないもん。


【居ます。それは感じるんです】

(でも部屋にも居なくて、通路にだっていないよ)


これで近くに居るとか言われてもちょっと困るかも。


『ちょっとクリエ?』

「ああ、うん居るはずなんだって」


きっとね。彼女が嘘言うはず無いし、居るとは思うけど、でもクリエ達には見えないんだよ。


『居るってだけ言われてもね。来る途中に注視してたけど、やっぱり邪神は見なかったわよ』

「そうなんだ……」


う〜んどう言う事なの? 近くがどこまでを指すかも正直微妙だから、もしかしたら、上の階とか下の階の可能性もあるのかな? 丁度真上や、真下は近いと言えるかもだしね。


『少し待ってて』


そんな言葉を残して、お札の声が途切れる。だけど直ぐに声が戻ってきた。


『居ないわね。上にも下にもいないわ』

「ど、どう言う事なのかな?」

『私が聞きたいわね。こうなったらその情報が本当に正しいのか疑わしいわね』


セラに疑われだした彼女。だけど実際クリエももしかしたら近くにはいないのかもしれないと思い始めっちゃってるよ。だって実際いないんだしね。部屋にも通路にも、そして上下にもいないんじゃ、近くにはいないって事だよ。


【ですがそんな筈は……確かにテトラの気配は感じるんです】

(だけど、実際にはどこにもいないんだよ。感じるのにいないってどう言う事? 魔法で姿でも消してるの?)


もうそれしか考えられない。だけどクリエみたいな子供は、テトラにとったら雑魚だよね。その雑魚を捕まえる為にわざわざ魔法を使うかなっても思う。プライドとか高そうだよあの邪神は。


【魔法ですか。確かにそれはあり得ます。ですがもしも魔法を使ってるのだとしたら、なんだか不味いような気がします。クリエを捕まえる為だけ……なら良いのですが】

(良く無いよね? クリエ的には全然それも良く無いよ!)


それじゃあクリエも囮みたいじゃん。そんなの許してないよ。クリエはやり遂げるんだもん。良い

訳無いよ。


【それもそうですね。ですが実際、クリエを捕まえるだけなら魔法なんて彼の身体能力を鑑みれば必要ありません。でも魔法まで持ち出してるとなると、より確実にクリエを捕まえる為か、それかもっと別の事に気付いてるかです】

(別のことってまさか……)

【私の存在かも知れないですね。だけどまだわかりません。取り敢えず、魔法を使ってるかどうかを確かめないと。聖典の彼女には見破る術はないのでしょうか?】

「聞いてみるよ」


クリエはセラにテトラが魔法で隠れてるんじゃないの? って事を伝えてみた。するとこう言われたよ。


『魔法ね。確かにそれはあり得るかも。まああんたが絶対に近くに居るって事を鵜呑みにすれば−−だけど』

「居るよ、きっと」


うん、多分ね。


「どうにか出来るの?」

『なんだかすっごい私頼みねあんた』

「だ……だってこっちからは扉も開けられないし、見えないんなら尚更だよ」


それってある意味待ち伏せとかしてるとも考えられるよね。下手にこっちから動けないよ。だから必然的に頼りになるのはセラしかないって感じだよ。


『まあそうなんだけど、だけど邪神のステルスを見破る程の力は聖典には……』


うむむむ、やっぱりそうだよね。そんな都合良くはいかないよね。なんでもかんでも出来る訳じゃない。そのくらい分かってたけど、やっぱりちょっとがっくりだよ。そう思ってると、彼女が中からこう言って来る。


【視界を絶ってるだけの魔法なら聖典でもどうにか出来ると思いますけど】

(そうなの?)

【ええ、聖典は操縦者の感応指数を数十倍に強化してる筈ですから。目に見えなくても、その感覚で捉える事は出来るかも知れません】


そうなんだ。でも確かにあんな自分から離れた物を自由自在に操るとか、感覚がバビューンと跳ね上がってないと無理だよね。その跳ね上がった感覚なら、姿を消した奴も見つけられるかもって事なんだ。よしよし、早速セラにその事を報告してみる。


『確かに感覚は研ぎ澄まされてるけど、そんな事が出来るかしらね? 操縦の方に意識が言ってるから普段は気づかなかったけど』

「でもでも、今は一つだけだし、セラには余裕があるんじゃないの?」

『それはそうね。まあやるだけやってみるわ。新しい聖典の活用法に繋がるかもだし』

「うん、お願いセラ」


頼みの綱はセラだけだもん。クリエも一生懸命祈る! 静かになった通路。所々から音は聞こえるけど、そこまで近いって訳でもない。兵隊さん達はまだ反対側でクリエを探してるんだろう。祈ってどの位たったかな? 少ししてから、お札から声が聞こえて来た。


『見つけたわ』

「凄い! 流石セラ」


やったね。祈ってた甲斐があったよ。それで一体どこに?


『あんたの居る場所から見て、三番目の部屋に居るわ。なんだか随分静かにしてるけど、余計に不気味ね。それにきっとあんたの存在に気付いてると思うわ』

「ええ、そうなの?」

『時々ドアの方を見てるし、あれは狙ってるわよ。罠に嵌るのを待つ獣みたいだもの。気をつけなさい。半端なやり方じゃ、食われるわよ』


セラが怖い事を言うから、思わず唾を飲み込んじゃう。でもでも実力差はクリエだってちゃんと分かってるつもりだよ。だってその強さはこの目で見てるもん。だからこそ油断なんてしないよ。


「セラ、ありがとう。ここからはクリエが頑張る番だね!」

『気合いれ過ぎて空回りだけは勘弁−−ってきゃああああ!?』

「せ、セラ!?」


何があったんだろう。行き成りの悲鳴で、そしてそれから幾ら呼びかけても応答がないよ。まさか−−


【テトラの仕業かも知れません。彼なら聖典に気付いてもおかしくない。攻撃手段も、夜であれば幾らでもあります。テトラは全ての闇を背負う者ですから】

「全ての闇……だけどきっとセラなら大丈夫だよ。そう簡単にやられたりしない。だからこっちも動こう!」

【そうですね。囮を使っておびき出しましょう。まずは扉を開けて中へ侵入するのと、それからは定期的に外までのルートに囮を配して行きましょう】

「だ、大丈夫かな? 思ってるのよりも早く捕まったりしたら大変だよ」

【だからこそ、囮を使えるのは中までなんですよ。外からはクリエ自身が走るしかない。きっとテトラは自分一人で捕まえようとするでしょうし、残りの100m位で、私達の運を試しましょう】

「運次第なんだ」


気が重くなるよ。でも確かに邪神を上手く出し抜けるかなんて元から運しかないよね。クリエは覚悟を決めて動き出すよ。


「わかった、頑張るよクリエは!」

【ええ、その活きです。気持ちで負けてはいけませんからね。先ずは扉の中に侵入する一体に指示を出して、その扉に隠れる二体目。そして後は外への最短距離へ残りの囮を配しましょう。テトラは直ぐに囮だと気づくでしょうが、それでも追いかけない訳はない。

クリエを失うわけには行かないのですから】

「うん」


クリエはそれぞれの囮に指示を伝える。それに伴って囮達はそれぞれの割り当ての場所に行ってくれる。後はきっかけを作る子に扉を開けさせるだけ。きっとあの子は直ぐに捕まる。だけど消えた時には、通路に待機してるもう一体が走り出して、ワザと姿をテトラに見せるの。

するときっとテトラは追いかけてくるから、なるべく頑張って走ってもらう。途中で捕まったとしても、今度は次の子がワザと姿を見せて、第二レース開始だよ。それを小刻みに繰り返して行って、アンカーを務めるのは私こと、オリジナルクリエなのだ。


クリエの待機場所は暗い夜空の下。広場の中心……と言いたいけど、流石にそこは衛兵の人に見つかりそうなので、ちょっと端っこに移動だよ。それにここからの方が慰霊碑には近いしね。推定八十mかな。


【来ますよクリエ】


そんな彼女の声と同時に、開け離れてた扉からクリエの分身が出てくる。するとその瞬間、黒い鉄の棒みたいなのが分身クリエを貫いた。地面に突き刺さったその棒に貫かれた分身クリエは消えていく。

幾ら分身でもこれはひどいよ。クリエはまるで自分が殺されたみたいな気分だ。建物の方を見つめると、黒い髪を靡かせて、テトラがその姿を表してた。なんだろう、黒い霧みたいなのが見える。


「お前が、本物だな」


そう言うと、黒い霧が足元へと集まってく。


【走ってクリエ!!】


その瞬間クリエは背中を向けて走り出す。それはもう最初から全力だよ。余力なんか考えない本気の本気。だけど後ろの方で大きな音が聞こえたと思ったら、すぐ後ろから寒気を覚える声する。


「なんのつもりか知らないが、逃げられると思うなよ」


寒気が全身を凍らせる。殺られるわけないけど「殺られる」って頭が思った。だってテトラへの恐怖はクリエの奥深くに染み付いてるもん。


【左に避けてクリエ!】

「んっ!」


彼女の言葉に勝手に体が動いた。するとテトラの腕がギリギリを掠めて行く。間一髪、なんとか助かった?


【まだ気を緩めないで。前を見て走るの。指示は私が出すわ】

「う……うん!!」


怖くて涙が溢れそうだったけど、なんとか堪えて走り続ける。建物から離れてたアドバンテージは一瞬で消されたけど、まだまだ諦めないもん! クリエは彼女の指示通りに動く。横に飛んだり、跳ねたりして何度も何度も間一髪でテトラの腕をかわし続ける。

ある意味で今はクリエの小ささも役立ってるかも。もうすぐ、もうすぐ慰霊碑がある小さなスペースだよ。


「ちょこまかと面倒な奴だ!!」


そんな声と共に、クリエの足元の闇が膨らんだ。そして一気に弾け飛んでクリエは夜の空に投げ出される。


「あわわわあああああああああああああ!?」


やばいよ。これはヤバイ。だってこれじゃあ避ける事も何も出来ない。ジタバタするだけで精一杯だよ。


「これで鬼ごっこもお終いだな」


そう言って手を伸ばして来るテトラ。クリエにはもうどうする事も出来ないよ。するとその時、お札から声が聞こえる。


『クリエ! 右斜めに上に腕を伸ばしなさい!』

「せ、セラ?」


無事だったんだ。やっぱり落ちてなかった。だけどその言葉の意味は? けど考えるよりも状況は早く動いてた。黒い夜の空の一点から光る一機の聖典が降りて来る。それはテトラの顔を掠めて、一気にこっちに飛んで来た。

クリエは必死になって聖典の一部に掴みかかる。そしてテトラの腕をかわしてそのまま地上を目指す。激しい風に手が離れちゃいそうだけど、これを離したら大変だからクリエは持てる力の全部をかけて聖典にしがみつく。


「んぎぎぎぎぎ」

「聖典か、しぶとい奴だ!!」


そんな声がすると目の前が真っ暗になった。どうやら黒い霧に包まれちゃったみたい。すると何故かわかんないけど、行き成り聖典から煙が吹き出した。まさか、攻撃されてるの? この霧自体がそんな効果をもってるのかも。


「セラ!」

『やっぱり一機じゃ何も出来ないわね。だけど最後まであんたを送り届けてあげるわよ。任せなさい』

「セラ? 何する気?」


その瞬間、聖典の両翼が伸びて減速した? クリエの体は勢いがそのままだったから前に投げ出されて聖典から手を離してしまった。


『もうそこが目的地だから最後の数瞬だけ時間を稼いであげる』


そういったセラはそのまま減速しながらテトラに接近してく? まさかそのままぶつかる気じゃ?


「こんな事をしてエルフがただで済むと思うなよ!」

『あんたこそ、私達がいつまでもあんたの言い成りになってると思わない事ね!!』


テトラは黒い霧に包まれた聖典を避けようとする。だけど聖典はテトラが避けた先に、上手く機体を傾けて迫って行った。そして二つが衝突。小さな爆発と、炎が夜の空に弾けた。そしてクリエは薄い木々に突っ込んで行く。


「痛い痛い痛い痛い−−ぐっふ!!」


地面に突っ込んだ衝撃は相当でした。早く起き上がらないと……そう思ってると、行き成り背中を抑えられた。乙女の体をなんて乱暴に扱うんだ。邪神サイテーだよ。


「全く、しぶとい奴だったな。だが無駄に終わった。結局あいつは何も出来ずにお前は再び囚われの身だ。それにエルフの反乱は確定的だ。直ぐにでもアルテミナスヘモンスターを送らねばな」

「なあ!」


そんな、セラは一生懸命クリエに協力してくれたんだもん。それなのに悲しい結果になんかしたくないよ。クリエのせいでアルテミナスを攻める口実を与えっちゃた。クリエが捕まりそうだったから、セラは聖典で助けてくれたんだもんね。そんなセラの頑張りを無駄になんかしたくないよ!


【大丈夫。もう目的地にはたどり着いてます。後は私に任せて】


彼女の言葉が頭に響く。そしてクリエの意識を追いやって彼女が前に出て行く。


「そんな事、させませんテトラ!!」

「ふん、なにを−−ん? これは!?」


真っ白な力がクリエから溢れ出して来る。目の前が真っ白になってる。すると彼女がクリエの前に。


【ありがとうクリエ。頑張ってくれて。おかげでなんとか目的は達する事ができました】

「何をしたの? これでクリエは助かるの?」


疑問が口を突いて出てくる。


【いいえ、クリエが助かるかどうかはまだわかりません。言ったでしょう? 私はただ確率を高めに来ただけだと。だけどその確率は今確かに上がった筈です。色んな種も巻いてる。様々な風が明日へ向いて収束してる。

何が残って何が消えるかは、貴方達次第です】

「クリエは出来る事をやれたのかな?」

【ええ、勿論です。小さな体で良く頑張りました。貴方は私の……私達の誇りですね】


撫で撫でされてなんだかこそばゆい。だけど嬉しい。クリエは抱きつきに行くよ。シスターにだって自分から抱きつきにいった事はあんまりないんだけど、でも彼女にはそれをしても良いのかなって感じがするんだ。

だからクリエは思いっきり甘えるよ。


【本当はもっとずっと一緒に居てあげたいけど、そろそろ限界です。力も一気に使いましたし、私は帰らないと】

「帰るってどこに帰るの?」


悲しいよ。会いに行ける所ならいいんだけど、そうとはとても思えないもん。すると彼女は優しいく微笑んで言ってくれる。


【そうですね。とっても遠い場所です。クリエがずっと眺めてた場所よりも遠いと思います】

「そう……なんだ……」


思ってたけどやっぱり悲しい。どうしてだろう。ちょっとしか一緒にいなかったはずなのに、とってもとっても悲しい。別れたくないって思っちゃう。ポロポロと涙が溢れ出てくるよ。


【泣かないでクリエ。私達は離れても決して切れない絆で結ばれてるわ。硬く強い親子の絆でね。それにきっと選択肢がクリエにもあると思う。クリエならきっとこちら側にこれる。でもそれが幸せかどうかは私にはわからない。

だから自分で選ばなくちゃいけないんです。そして知ってて。私達は貴女がどっちを選んでも喜んであげるって】

「うう……意味が分からないよ」


全然全く、チンプンカンプンだよ。それに親子って……


【そうだね。だけど今は分からなくていいの。きっとその時に成れば自然とわかるから。クリエ、私は遠くてもずっと傍に居る。だってこの世界は全て私達の力で創造したんですもの。全てが私で、全てがテトラ。二人で貴女を包み込んでるの。その事を忘れないでね】


そう言って彼女は光の泡になってく。このままお別れ……クリエはずっと言いたかった事を最後に言ってあげたいって思った。だけど何故か上手く言葉に出来ないの。言葉を発しようとしても掠れた声になっちゃう。


「お−−おか−−お−−おか−−」


本当は言っていいのかまだわかんない。だけどこのまま消えちゃう彼女に最後に掛けて上げたい言葉。始めて震わすその言葉の振動がちょっとクリエは怖いんだ。だから中々上手く言えない。でもずっと言いたかった言葉なの。

クリエは胸の前で両手をギュッて握りしめて彼女を見上げて、大きく息を吸った。


「お−−お−−お母さん!! お母さんって……呼んで良い……の?」

【勿論です】


キラキラとした泡と共に、優しく微笑んでお母さんは消えていった。悲しいけど、少しは満たされた気分がだった。意識が中から外へ戻ると、クリエはテトラに掴まれてる状態だった。だけどなんだかテトラの様子がおかしい?


「んん? え〜と、観念しろよクリエ。お前は絶対に逃がさん」

「そ、それはもう良いけど、エルフの国は滅ぼさないで!」

「はぁ? なんで今アルテミナスが出てくる? 心配するな、大人しくしてる限り、手は出さないさ」


あ、あれ? 忘れてる? お母さんがそうしてくれたのかな? でもそう言えばそんな事を言ってたかもしれない。ありがとうお母さん。これでアルテミスは滅びずに済むよ。クリエは結局捕まっちゃったけど、これでいいんだよね。

明日の為に、クリエは出来る事を精一杯したもん。今日はなんだか気持ちよく眠れそうな気がするな。夢の中でもう一度、お母さんに会えないかな?

第四百四十四話です。

種を撒きたいは今回で終わりです。クリエも今回はいっぱい頑張りました。


そして今回でなんとかいつも通りのスケジュールに戻れたかもです。いや、まあやる気の問題だったんですけどね。少し余裕ができて良かったです。そう言えばお気に入りが700突破して嬉しいです。

まあこれだけ投稿してるのにそれだけ? なのかも知れないけど、自分的には嬉しいです。今は地道に四桁目指してます! どれだけ掛かるかわかんないですけどね。


てな訳で次回は金曜日にあげます。ではでは。

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