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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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私の出来る事 1

来客を知らせる鈴の音が何度も何度も鳴り響く。その度に入り口まで行ってお客さんに挨拶をして、席へご誘導。だけどそろそろ誘導する席がなくなって来たかも。そんな風に思ってると、注文を呼び掛ける声が聞こえる。


「日鞠ちゃん、良いかな〜?」

「あっ、は〜い。ではお水を直ぐにお持ちしますので、どうぞごゆっくり。ご注文が決まりましたらお呼び下さい」


私は誘導したお客さんにそう告げて一礼した後に、直ぐにさっきの声を掛けた人の元に急ぎます。でも走る事は厳禁。店内で走るなんてはしたないし、ここには皆さんお食事に来てる訳だから、埃を立てるなんてもっての他です。

だから早歩きで向かう。すると横からこんな声が。


「アチュっ! はわっ! えっと、ろっ六番テーブルはっつ、ちょ〜〜〜」


三つの料理を運んでる同じ服を来たウエイトレスの子が物凄く危なっかしく駆け足してた。てか、料理を落とさない様に必死にバランスを保つ為に、走ってるのかな? 変な態勢にいちいちなってるよ。

私は取り敢えず、こっちに突っ込んで来る彼女を冷静にかわして、その交差際に腕の方に危なっかしく載せてるお皿をとってあげる。二つは手で持ってる訳だけど、三つ目四つ目は腕の方に乗せるのがデフォだからね。

それで私は問題ないんだけど、やっぱり慣れてない人は危なっかしい。


「もう大丈夫? クネクネするからバランス取れないんだよ」

「そんな事行っても人には物を掴む手は二本しかないんですよ〜。腕に乗せるとかそんな超人的なスキル持ち合わせてないです〜」

「別に超人スキルなんて物じゃないよ」


泣き言を言う彼女に私は優しく言ってあげる。だってどこのファミレスでもこんなのデフォだよ。ホールに回されたらまず教えられるよ。まあだけど今は色々と後輩の指導をしてる訳にも行かない。私は彼女の背を伸ばして、腕を差し出させる。そしてそこに持ってたお皿をしっかりと固定させる。


「うう……腕がプルプルします。落ちますよ絶対!」

「大丈夫、私の腕の方が細いけど落とした事ないもん」

「嫌味ですかそれは!?」

「ううん、保証だよ」


私はそう言ってにっこり微笑む。


「大丈夫だって、苺ちゃんならやれるよ。因みに六番テーブルは左側だからね。あと、みっともない動きはしない事。埃立てたらダメだからね」

「努力はします」


そう言って苺ちゃんは身長に歩き出す。だけどそれはちょっと遅過ぎた。ソ〜と過ぎるよ。いや、慎重過ぎる。逆に危なっかしい!


「苺ちゃん、普通に歩いても大丈夫だから」

「ムリムリムリムリムリムリムリ。無理だよ絶対。今だって超ギリギリだもん」


彼女は高速で頭を振ってる。案外大丈夫なんだけど、彼女はまだそれがわかる程に経験を積んでないからな〜。しょうがない、少し荒療治で行きますか。私は背後から近づいて、彼女が左側通路に入った所で「えいっ」っと背中を押す。

すると苺ちゃんは「キャーキャーキャー!」って叫びながら絶妙な態勢を取りながら通路を進む。そして丁度六番テーブルの所で踏みとどまってくれた。そして涙目でこっちを見る彼女。悪い事をしたけど、ナイス私って感じだね。

注目を集めちゃってる彼女に私は「そこだよ、そこ」と小声で伝えてあげる。するとようやく気づいてくれたのか、恥ずかし気に彼女はテーブルに料理を置く。お客さんも笑ってくれてるし、まあ良かったよね。

さて、こっちはこっちで仕事をしないと、私は急いで注文を取りに行きます。そしてそれからも何度も何度もベルは音を鳴らし、レジでお金を数えて、お辞儀を繰り返す。何度も何度も苺ちゃんは危なっかしく料理を運んで、時々レジのお金をばら撒いたりもしてたけど、みんな優しいから笑ってそんな彼女を見守ってくれてた。

そしてそんな怒涛の昼時が終わりを告げる午後二時位、苺ちゃんは拭いてるテーブルに突っ伏しちゃう。


「はふ〜、全然今日は楽じゃなかったよ〜」

「そうだね〜、でもたまにはお客さんが一杯来てくれないと、ここ潰れちゃうよ。いくら趣味みたいな店だからって、いつでも暇じゃやりがいもないしね」

「うう〜私はやり甲斐なんてどうでも良いです。ただ楽してお金を稼ぎたいだけだもん」

「あはは……」


全く苺ちゃんは素直だね。てかなんだかその年でやさぐれてるね。一生懸命働くのは案外楽しい物だよ。


「そりゃあ先輩はなんだって出来るから……怒られた事とかなさそうじゃないですか」

「そんな事ないよ。私だって始めのうちはお皿を割ったり、運ぶテーブル間違えたり、注文を取り忘れたりってあったよ」

「本当ですか!?」

「うん」


なんでそんなに驚愕した顔してるの? 私だって普通の人間なんだから失敗しないなんてあり得ないよ。そもそも妙に評価されてるのが、自分でも解せないっていうか……私はただ自分が正しいと思う事を全力でやってるだけだよ。

きっと誰にでも出来る事だと思うんだけどな。スオウとか「お前と一緒にするな」とかよく言うけど、私が頑張ってる事なんて、誰でも出来る事なんだよ。


「だけどそれもほんの三十分程度でしたがね。日鞠さんは一日で完璧にホールもキッチンもマスターしてました」

「たった一日で前も後ろも完璧に!? 」


カウンターから顔を覗かせたマスターが余計な事を言うから、苺ちゃんがまたまた驚いちゃったよ。それに今の苺ちゃんのセリフはおかしい。なんだかイヤラシイよ。前も後ろも完璧に何!? 変な想像をスオウでしちゃう!


「うっ! ……変な事言わないで」


私はお鼻を押さえて後ろを向く。変な想像したから鼻血でそうだよ。


「どうしました?」

「なんでもない。別に完璧って訳じゃないですよマスター。ある程度出来たってだけです。あれでも恐る恐るだったんです」

「そうだったんですか? 余りにも頼り甲斐があり過ぎて気づきませんでしたよ。評判どうりの子だな〜と感心してたんですけどね」


そう言ってマスターは自分で入れたコーヒーを口にもって行ってる。ダンディーなおじ様のマスターにはコーヒーがよく似合う。


「やっぱり私と先輩とじゃ出来が違うんです! 先輩が難なく出来る事を私は出来ないダメな子なんです!」

「いや、苺ちゃんだってやってれば出来る様になるよ。遅いか速いかの違いなんて、努力次第でどうにでもなるものだよ」

「それは努力をしなくても出来る人のセリフですか?」


どういう意味? 私だって努力してるよ。


「先輩は知らないだろうから、教えて差し上げます。これはきっと私が先輩に教えれる唯一の事だと思いますから、よく聞いてくださいね」

「え……何?」


苺ちゃんはそのまん丸い大きな瞳をジト目にして私を見据えてる。そして指を一本ピッと立ててこう言うよ。


「世の中には努力したって結果がついてこない人が大量に居るんです!! 努力した分報われる……そんなのは御伽噺なんですよ!!」


ドド〜ンと宣言する彼女。一瞬時が止まった様に……は感じないかな。そのドヤ顔は取り敢えずやめよう。


「なっ……そん……って、それとこれとは話が違うでしょ。テーブルの位置や接客の基本、料理の迅速な運びは努力した分の結果はちゃんとついて来ます。キッチンの調理だってそうだよ。私はただ単に、家でも良く料理してるからある程度出来ただけ。そこからちゃんと努力して、この店の味が出せる様にはなったけどね。

苺ちゃんはちゃんと努力してる? 私が折角作ったマニュアル読んだ?」


私がそう言って詰め寄ると、苺ちゃんは目を逸らしつつ「半分位は」って答えた。たったの十ページでイラストも多く文字もカラフルに仕上げた唯一無二のこの店のホールマニュアルなのに。それを読んでない?

マスターに頼まれたから、コツコツと作った私の努力の結晶……タイトルに『バカでもわかる』って付けておくべきだったか。流石に苺ちゃんに悪いかなって思って外してたけど、後悔しちゃう。今度は逆に私が苺ちゃんを見据える番だね。

私の視線に耐えられないのか、ずっと外を見続けてる彼女に私は静かな口調で言うよ。


「苺ちゃん、さっきの貴女の言葉は真実だって思う。努力だけじゃ到達出来ない世界は確かにあるよ。でも私が言ってるのはそう言う事じゃない。そこまで高望みなんかしてません。苺ちゃんが今、嘆いてる事は、全部自分で頑張ればすぐにでも越えられる事なんだよ。

努力した分報われるは確かにないけど、それを使って良いのは努力をし続けた人だけだよ。逃げる為の言い訳にしないで」

「……先輩は厳しいですね」


ふてくされちゃったかな? かなりテンションに素直な子だから、乗らないと何もやる気がなくなるタイプなのよね苺ちゃんは。だから飴と鞭を使い分けないとね。まあ誰に対してもそうなんだけど。私はそっと彼女の頭に手を置く。そして絶妙な感覚でナデナデしてあげる。

すると彼女の体が小刻みにブルルって震えるよ。よしよし。


「厳しい……かな? これでもかなり苺ちゃんには甘いって私は思ってるよ。苺ちゃんは子猫みたいに可愛いから、ついつい甘くなっちゃうもん。でも、私達は自由気ままに生きて良い猫じゃない。働くって事は責任もあるってことだよ。

お金をもらう以上、その金額分のお仕事はしないとでしょ? そしてその為の努力だって必要だよ。

いつか後輩が入ってくるかもしれないし、その時は苺ちゃんが先輩なんだよ」

「先輩……私が?」

「うん」

「でも、そんな余裕あるかな?」

「うっ……それは……」


痛い所をついてくるね。私は優雅にコーヒーを啜ってるマスターを見てみる。だけどニッコリと微笑みを返すだけで何も言ってくれない。でもあの笑みはきっとこれ以上は無理かなって意味だと受け取った。最近はお客さんも増えて来たけど、ちょっと前まで本当に閑散としてたもん。

まさに近所の人達だけが集まる程度の喫茶店って感じだったもん。でも近頃は何故か人が増えて来たから急遽私以外に雇ったのが……苺ちゃんなわけなのよね。それを考えると、あと一人はキツイかもしれない。そもそもどの程度売り上げてるかわからないしね。

でもメニューの単価から大体予想出来る売り上げは一日数万円行けば良い方……最近はランチ時だけでその程度は行ってる筈で、十万にも届いてる可能性はあるかも。でも元が赤字経営だったのを考えると、ようやく最近余裕が出てきた感じだろうし、やっぱりこれ以上の雇用は無理だね。


「まあそれなら尚更、苺ちゃんには頑張って貰わないと、だよ。一緒に頑張ろう。私がちゃんとサポートしてあげるからね」

「先輩……やっぱり先輩はお聞きしてた感じ通りの人です! 罪作りなんですね」

「ええ? なんの事?」


妙に頬を染めて何を言っちゃってるのかなこの子は。まあ実際、私の周りの女の子達の反応は大体こんな感じなんだけど。何が罪作りなのかよくわからないよ。


「先輩は何でも出来て可愛くて格好良くて、頼り甲斐もあるし何よりも優しい! ちょっと厳しい所も勿論あるけど、そこで見せる凛とした表情と態度に私達はキュンキュンしちゃうんです!」

「私、女だよ」


当然の事を言ってみた。いや、だってなんだか忘れられてそうだし。すると鼻息荒く迫られたよ。


「そーんなの関係ないのですよ!! 先輩はそこら辺の男共よりも魅力があるんです!」

「そうかな? 私は普通にしてるだけだよ」

「ふっ、それがカリスマって奴ですよ先輩。自覚して下さい」


なんでこの子がドヤ顔なのか理解出来ない。私の事なのに、私よりも自慢気だよ。それに自覚してない訳でもないよ。流石に私って何気に凄いのかも……位は思ってるけど、言っちゃうとただそれだけ。私はね、スオウの為に生徒会長やってるんだよ。

スオウって簡単にクラスで孤立しちゃうからね私が率先してそうならない様にしてあげてるの。まあ最近は……というか、結構前から私が原因ってのも分かってる。私が派手に動くのも、最近は効果なくなって来てるよね。中学からは秋徒が居てくれるし、そこまで気にする必要もないわけだけど、でも秋徒一辺倒になるのは私的に面白くないと言うか……あれ? 何時の間にか私は私の為にスオウを傍においてるのかな?


「先輩? まさか今更自分の価値に気づいたんですか?」

「自分の価値って……前からみんなに好かれてるのは分かってるよ。でも私が本当に好かれたいのはたった一人だけって言うか……」

「知ってます。私も前にここで見ましたよ。先輩の表情が違うから直ぐにわかりました」

「ええ? 表情が違うってどんな風に?」

「それはもう、なんて言うか微笑ましい位にニコニコしてたし、頬も染めてうっとりしてたって言うか」


ええ〜そうなのかな? そんな顔してた? それって前にスオウが秋徒とここに来た時だよね? 私そんな顔してたのかな? 恥ずかしい。


「でも意外でした」

「何が?」

「先輩の彼氏。案外普通でしたから。確かによく見たら格好良さそうでしたけど、どちらかというと地味系じゃないですか。先輩ならアイドルと付き合ってても違和感ないのに」

「それは買い被り過ぎだよ。私はアイドルなんかに興味ないもん。私はずっと五歳の頃からスオウ一筋だよ」

「それはそれは……道理でファンクラブの方々があの人を目の敵にするわけですね。幼馴染なんですか?」

「うん、あれは運命の出会いだったかな」


私はそう言って、あの頃の思い出に心を浸らせる。まあだけど、あれは人には寄っては良い思い出にはならないかも知れないけど。


「でもあの人のどこにそこまで先輩が惚れ込むのか理解出来ないですけど」

「ふふ、苺ちゃんは自分の恋心を言葉で言い表せるの?」

「そ……それは……」


彼女は両の指をつつき合ってモジモジしてる。可愛らしい仕草だね。もしかして恋してるのかな? 私じゃなければ良いけど。でも実際、私に本気でそんな気持ちを抱いてる人は同性ではいない筈。うん、そう思いたいし、そこまで私は自意識過剰じゃない。


「そういう事だよ。言葉でなんか言い表せない。でも心が言ってる。私はこの十数年間、気持ちがブレた事なんか一度もない」

「……惚れますね」


どうして? キラキラ目を輝かせながらそう言う彼女が理解出来ない。なんでそうなるの? てかそれはスオウに−−って事じゃないよね?


「私があの人に惚れる要素なんか皆無です。でも先輩には本気で惚れそうです。かっこ良い。自分の気持ちを偽らずに宣言出来る。濡れちゃいます」

「女の子がそんな事言っちゃだめだよ!」


濡れちゃうとか、口にする言葉じゃない。心の中だけで思ってて。苺ちゃんはある意味私よりも凄い事言ってるよ。絶対に惚れはしないけどね。後ろでマスターがコーヒー啜りながら笑ってるのは変な想像してるからじゃないよね?

女子高生と女子中学生のウエイトレス姿に興奮してるとかはないと思いたい。まあそう言う人じゃないってわかってるけど。


「先輩は本当に罪作りです。こうやって一緒に今は働ける……それで私は幸せです。クラスのみんなにも自慢出来ちゃうしね。来年は必ず先輩の高校に行きます!」

「うん、まあ私の高校ってわけじゃないけど頑張って」


理事長とかの娘じゃないし、そもそもウチは普通の公立校だからね。普通にやってれば普通に入れるレベルの高校だよ。


「日鞠さん、今日は用事があるとか言ってましたが良いんですが?」


女の子同士で話に花を咲かせてると、マスターがそう言って来た。まあ花を咲かせてるのは苺ちゃんだけって感じだったけど、この子は何時だってニコニコ楽しそうだから良いよね。ついついこの子の調子に乗せられちゃうな。

それで自分のあがりの時間を忘れてたよ。今日はもう勤務時間終わっちゃってるよ。何時の間にか三十分も立ってるじゃない。


「ええ〜もう先輩あがりなんですか? 先輩目当ての客がこなくなっちゃうじゃないですか!」

「なによ私目当ての客って?」


気になるワードだぞ。


「だから私は常にツイッターで先輩の所在を報告してるわけです。勿論ファンクラグの方にも今日は店に先輩が居る事を報告してます。先輩は最近ここが忙しく成ってるって感じてるかも知れませんけど、実はそれは先輩が居る時だけです!」


ええ? そうだったの? でも今は人いなくない?


「お昼時を過ぎましたからね。休憩時間を考慮してもらってます。客でありながら先輩の過労さえも気を使ってるのです」

「それは……なんだか申し訳ないね」


そこまで気を使うお客様も珍しい。じゃあ皆さんあと少ししたらまた来るのかな?


「予定では三時からおやつ時なので、来てくれる人は居る筈ですけど、先輩があがりなら、もう店は閉めちゃった方がいいかもですね」

「そこまで極端なの? 苺ちゃん目当てで来てる人も居ると思うよ」

「そんな慰めいらないです。私なんて先輩と比較なんか出来ないですよ」


う〜ん苺ちゃんはちょっと自分に自信なさ過ぎだよ。いっちゃうと全然可愛い部類なのに。普段おさげでメガネな私よりもよっぽど可愛いよ。色素が薄い短めの癖っ毛に、チャームポイントの苺のヘアピンが可愛らしいもん。ウエイトレス姿も私よりも似合ってると思うな。


「私は圧倒的に胸が足りないです……」

「私も胸は大きい方じゃないよ?」

「でも形良さそうだし、美乳じゃないですか。私はそもそも膨らんでさえ……」

「こ、これからだよ! まだまだ中三じゃない!」

「これから……ですかね? クラスメイトにはGカップがいるんですけど……」


Gカップってどれだけ発育いいのよ! 最近の子は胸が早くから大きくなる子も確かにいるよね。一体何を食べてるのやら。私もバランス気にして食事してる筈だけど、胸にはなかなかいかない。まあ私は全然気にしてないんだけど。


「でもでも中学生なら胸よりも中学生って拍が大切だよ。きっと苺ちゃんファンはいるよ! だから頑張って」

「う〜ん、期待せずに待っててみます。所で先輩の用事はなんですか? はっ、まさかあの男の事ですか?」


あの男って、スオウはすでに嫌われてるの? なんだか彼は知られる前に嫌われるんだよね。ちゃんと知って貰えれば友達にだってなれると思うのに……みんなスオウを目の敵にし過ぎだよ。でもスオウも歩み寄ろうともしないからね。私との関係を鼻に掛けたりしないけど、寧ろそれが逆に周りの感情をさかなでてるような……


「スオウの頼みだけど、スオウだけの問題じゃない事なんだよね。それに向こうの事で始めて私も手助け出来るから、頑張らないと。私の知り合いの事でもあるし、外せないんだ」

「そうですか。しょんぼりですけど、しょうがないですよね。所で向こうの事ってなんですか?」

「向こうってのはLROだよ。ゲーム、知ってる?」

「ああ、知ってますよ。話題ですよね。クラスの男子とか結構よく話してます。でも先輩をゲームの事で駆り出すなんてちょっと遺憾ですね」


そう言って頬を膨らませる苺ちゃん。ゲームとは言っても、そんな微笑ましいゲームじゃないんだけどな。でもこれは広める訳にはいかない事だもんね。私は苦笑いだけ返して置くよ。


「それじゃあ着替えて私は上がるね。待ち合わせまでに手に入れておかないといけない物があるから急がないと。後どうせ暇なら、苺ちゃんはマニュアル読んで勉強して置いてね」

「うっ、マニュアルは家に置いて……」

「実はここに元データがあるから大丈夫だよ」


この店のマニュアルなんだから当然だよね。それに苺ちゃんの為に作った訳だけど、苺ちゃんだけで終わらせる必要もないもん。ちゃんとコピー出来る様にデータは移して置いたの。


「マスターお願いしますね。苺ちゃんも頑張って。ちゃんと努力してたら、ご褒美あげるからね」

「ご褒美!? 私頑張ります!!」


瞳を輝かせて声を張った彼女。現金な子だね。でもこれでやる気を出してくれたんだからいいかな。私は裏に行って、服を脱ぎ脱ぎ。制服に着替える。学生の身分だから制服が一番しっくりくるよね。決して面倒だったからじゃないよ。最近は学校に行く事も多いから、制服は常備してるのです。


鈴を鳴らして、今度は私が外に出てく。外はサンサンと太陽の光が降り注いで、蝉の鳴き声がまだまだけたたましい。


「アツっ」


空を仰いでそう呟くと、後ろで鈴の音がした。振り向くとそこには苺ちゃんがいた。


「どうしたの?」

「えっと、先輩これをどうぞ。紫外線はお肌の天敵ですよ」


そう言って彼女は日傘を差し出してくれる。開いて見るとそれは苺が一杯のメルヘンな傘だった。うん、彼女は胸よりも自分のセンスが小学生低学年並なのを気にした方がいい。だけど目を輝かせてる彼女にそんな事は言えない。

それに日傘の機能はイラストじゃないしね。


「ありがとう。じゃあいってくるね」

「はい、お気をつけて。今度仕事に来た時はきっと私の仕事ぶりに感心しちゃうかもですよ」

「あはは、楽しみにしとくね」


バイバイと手を振って私は駅を目指す。行く所は決まってる。スオウとの約束があるからね。私はLROにあの人達を誘わないといけない。その為に必要なアイテムを受け取りに行きます。

第四百三十六話です。

今回は本格的に日鞠にスポットが当たったかな? でも掘り下げは全然まだまだです。伝える事がある−−それだけです。

てな訳で次回は水曜日にあげます。ではでは。

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