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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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仕方なかった?

今回も早速本編どうぞ!

暗い……言いようの無い暗さが、この豪華な部屋を押しつぶす様に広がってる。会談場から少し離れた建物の一階部分、僕達モブリをおもんばかっての配慮ある部屋割りには感謝出来るけど、やっぱり考えるのはついさっきの戦闘だ。


そして僕も教皇であるノエイン様も後悔とか自分の不甲斐なさ……そんな物に縛られて、一言も発する事が出来ない。僕達二人が放つバッドエナジーでこの部屋はこんな空気なんだ。ノーヴィスとは違い、すべてが大きいこの街。代表の部屋ともなると、それはそれは大きく感じる。

僕達モブリにとっては、実際この部屋だけで十分と感じるレベル。だけどここに居るのは僕達だけだ。たった二人……その虚しさが余計に空気を重くしてる。どうせならほかのモブリも呼んでしまいたい気分だ。だけど僕にはそんな権限は無い。

僕は実際、監視されてる身だ。ノエイン様やミセス・アンダーソン様はそこまで僕を疑ってなんか居ない……だけどこの人たちには立場がある。他の国への事や、民衆に示す物って物がある。スオウ君の仲間で、あの時に一番迷ってた自分をどうもしない訳にはいかない。でもそれでも、僕は優遇されてると思うけど……

そもそもノエイン様もミセス・アンダーソン様もスオウ側だ。心は……だけど。だけど国の代表としての立場でなら、二人ともスオウ君の方にいけない。それは仕方ない事。世界は事前に邪神であるテトラの願いを叶える事に賛同してしまった。


そして代表達のその身に交わされた契約。それが裏切りを許さない。いや、そもそも今のノーヴィスにはそんなのなくっても、選択肢はなかった。単体で邪神を相手どろうなんて、きっとどこの国にだって……最初から……ここに集められた時点で、それぞれの国の方向はもう予め決められていた。

ローレ……様と言う星の御子の見たままに。


「やっぱり私は無力だね。いくら考えても、彼を助ける良い方法が思い浮かばない。このままじゃ、例え生きてたとしても、私達は彼を受け入れる事は出来ない」


そう言ってノエイン様は苦悩する。実際スオウ君は十分だと、そう思っててくれると思うけど、こっちはそうは思えない。彼は危険な状態にある。一人になんか、させちゃいけない存在だ。でも今や彼は世界を敵に回した。

いくらだってやり直しが出来る僕達を助けて、たった一つの有限な命だけの自分を危険に晒す。無謀にも程がある。どうしてあの時……もっと反発しなかったのだろう。なんであの時、もっと我儘になれなかったのだろう。


「ノエイン様……」


自分と同じ小さな姿のその人を見て僕は思う。わかってるんだ。どうして僕が彼を見捨てたのか。それはこの国が、そしてこの国に住まう人達が人質に取られたから。僕一人の我儘で、国が潰される。その事実はとても怖いもので、責任とか負える物でもなかった。

そして邪神はそれが出来る軍勢をまざまざと見せつけてくれた。暗黒大陸の屈強なモンスター。それがあれだけ、一気に攻め込んで来たら、無事で済む国なんてないと思える。


「仕方……なかったんでしょうか」


僕は合わせた手を互いの皮膚に食い込ませる程に力を込めてそう呟く。本当は僕だって、こんな所でじっとしてるなんて嫌だ。少しでも彼に贖罪する為にも、捜索隊に加わりたかった。だけど……それは許されない事だった。僕達スオウ君の仲間がそのなかに入る事は硬く止められたんだ。

考えてみればそれは当然。ついさっきまで一緒に戦って来た仲間の筈だったんだ。他の代表達が僕達を信用出来る筈も無い。彼等は発見してそれからどうするのだろう? そこまでは実は聞いてないんだ。

もしも見つけても直ぐには殺さ無い? でも人の代表は生かしてはくれない……そんな気がする。今頼りになるのはアギトと、そしてミセス・アンダーソン様だ。彼女はノエイン様の代わりに捜索隊に参加してくれてる。

もし二人のどちらかが先に見つけれればもしくは……いや、そもそも近くに居るかもわからないんだ。連れ去ったのはあのシクラ達。規格外の力でもう高飛びしてる可能性だって……そもそもなんであいつ等はあの場面で出て来たのかもわからない。

スオウ君は彼女達にとって最大の障害の筈だ。セツリちゃんがリアルを完全に捨てるその障害こそが彼なら、彼の存在なんて消えてしまった方が絶対に良い。手が届かない所に行けば、憧れは消える。それが自分に夢を与えた存在なら、尚更だ。


そんな存在が消えれば、彼女はもっともっと自分の殻に閉じこもり、リアルなんて見なくなってくれるかもしれない。それなのに、シクラ達がとった行動はそんな希望的な見方を自分達で不意にする事だった。スオウ君を助けるって事は、ほんの数パーセントでも危ない橋を渡るって事だ。

どうしてそんな事を? 僕が考えれる範囲でなら、シクラは自分の力に絶対的な自信がありそうだから、問題になんか思ってないとか? あんな破天荒な奴は、実際全然その行動が読めない。そもそも僕はどっちかって言うと女子は苦手なんだ。

あんまり接触なんて無いし、こっちではまだ良いけど、リアルでは悲惨だ。そんな僕が、あの人を手玉に取る事に長けてる女の思考を読むなんて無理がある。だけど考えないわけにはいかない。今の僕に、頭を動かす以外に何が出来るよ。

「仕方ない」本当にそう思うといろんな事が終わってしまう。それは進む事をやめる為の言い訳だ。


(仕方ない……だって国を犠牲になんか出来ない)

(仕方ない……だってあの時、彼はそれを望んだ)

(仕方ない……だって僕一人が残って何ができたんだよ)

(仕方ない……仕方無かった!)


そんな言葉を何度心で繰り返した? 湧いて来るのは、自分への言い訳ばかり。振り払いたいのに、実はそんな事ばかり僕は考えてた。最低だよ僕は。スオウ君の事を後悔しながら、考える事は言い訳ばかり。だけどいくら繰り返し考えたって、何も浮かび上がってこない。

あの時、もしもこうしておけば……そんな「もしも」は全くと言って良いほどにない。考えて考えて……そして絶対に辿り着くのは僕達の敗北。僕達はこのノンセルス1に着いた時から、敗北が約束されてたみたいだ。

僕達は完全に後手だったんだ。僕達が無茶でも、ローレが動く前に、五種族の代表を収集出来てたら……一つの国では絶対に勝てなくとも、それが五つ集まれば変わったかもしれない。だけど実際は、僕達は何もしなかった。そして世界の変容にただ流されて、その間に五種族は邪神側に取り込まれた。不可侵を約束させられた。

その時点で、僕達にはきっと勝ち目はなかった。全部あのローレが全てを制して動いてた。僕達はある意味、うまく使われたのかもしれない。僕達の登場で、邪神の力をまざまざと見せつける事が出来たんだ。

ここから何処かの国が単独で邪神やローレに牙を剥く−−なんてあり得ない。幾ら考えても絶望に繋がるこの連鎖。だけど悲しいかな……本当ならスオウ君はきっと確実にあの場でやられてた。ローレさえも考えてなかったイレギュラーがシクラ達。

仕方なかったと言い訳ばかりの自分とは違って、スオウ君は用意されてた『死』と言う未来を変えるイレギュラーを自ら引き抜いてたのかも知れない。諦めなかった。最後までその死に抗い続けた彼だからこそ、自分が幾ら考えても敗北しか無かった所で、とっておきの札が出て来たとも思えなくもない。

でもアレはジョーカーだよ。道化はどっちに転ぶかわからない。一時的にスオウ君は救われた訳だけど、基本敵同士。安否がわからない状況に変わりないんだ。


「テッケンさん、今、こんな事を言うのはおかしいのかも知れませんが、ノーヴィスを守ってくれて、ありがとうございます。仕方なかった……そう単純に思えれば、どれだけ楽でしょうね」

「アレは……スオウ君が言ったからです。僕は最後まで彼に協力する気でした。だから貴方に頭を下げて貰える訳もないんです」


僕はノーヴィスを救ってなんかいない。そしてきっと他のみんなも、それぞれ自分達が故郷を救ったなんて思えてない筈だ。そもそも僕達のせいで危険に晒された様な物だし。あれは取引だった。故郷を取ってスオウ君を見捨てるか、故郷を滅ぼして、スオウ君の味方を続けるか。

信じれない選択だ。国には知り合いがいて、そしてこの一年半を掛けてたくさんの人達がノーヴィスの為に一杯その時間を割いて来た。NPCは国に息づき、そんなNPCと関係を気付いてる冒険者じゃないプレイヤーだって沢山いる。

そんな彼等に僕の選択一つで、不条理な暴力と築いて来た物を奪われる。それは僕だけの問題じゃない。沢山の人に迷惑を掛ける事。でもスオウ君はたった一つの命。ここの死が本当の死になるかも知れない身体。

どっちを選べって言うんだ。いや、僕には選べなかった。


「どうして彼はああいう事が出来るんだろうね。命は……何よりも大切だよ。それも自分のとなるとね」

「ノエイン様……まさか彼がたった一つの命しかないって……」

「ん? 普通命は一つでしょう? だからこそ私達は死に恐怖し、日々に感謝出来る」


そう言う事か、別にこの人はスオウ君がたった一つの命って事をリアルの方で捉えてるわけじゃない。この世界の常識で語ってるだけ。この人もNPCだからね。


「だけど彼は自分が危ない時に自ら危険に飛び込む。その身を晒す。普通は何としてでも引き止めたい所でしょうに……でもそれは卑しい身分の私達だから思う事なのかも知れません」

「卑しい身分なんてそんな……ノエイン様は立派ですよ」


今や立派に教皇してらっしゃる。まだまだノーヴィスの全ての実権を握ったわけじゃ無いだろうけど、ここで教皇の威光を示せば、その地位は盤石になっていくだろう。元老院を影に押し込める事が出来るかも知れない。


「卑しいですよ。偉いとか、立派とか言われたり、大衆から敬われたりすると、友と呼べる者は居なくなります。部下なのか敵対する者なのか……そんな事で人を見てしまう。もしも私がスオウ君の立場だったら、同じ事をやれたのか……自信がありませんね」

「そんな……教皇様はきっと同じ事をしたと思いますよ」


僕は素直にそう言った。この人はそういう優しさや強さを持ってる人だ。ただ今までは自信が無かっただけ。でも今のノエイン様は恐れない様になったと思う。何かを吹っ切った様な……さ。


「確かに私は自分でも変わったと思います。でもそれも彼のおかげですよ。ダメな私の背中を押してくれました。強引だったけど、力強く。そして笑顔で。それは感謝してもしきれない恩だと思ってます。

貴方達は良いですね。互いを思いあって仲間としての絆がとても強く見える。きっと部下とかじゃなく、対等なんでしょうね。だからこそ彼はそんな貴方がたの大切な場所を守ろうと思ったんじゃないでしょうか?

自分が本当に危ない時でも、そう思えるのはやっぱりそれだけ互いの絆が強いからではないですか? 本気で思い合える存在と言う事でしょう」

「思い合える……」


そう言われても、何だか僕は素直に喜べない。だって僕達はそんな思い合える仲間を見捨てて自分達の立場とか、そんな物をとったとも言える。あのまま国を見捨ててたら、僕達は全てをなくしたかも知れない。色んな人から罵倒されたり、きっと嫌がらせだって受けただろう。僕達の我儘で国をなくさせると言う事は、全然関わり合いの無い人達まで迷惑を掛けるって事。いろんな所から煙たがられるのはわかってた。

そのせいで自分がどうなるのか……それをあの時、少しでも考えなかったとは言えない。築いて来た物、そして居心地の良いこの場所を失う事……それに恐怖を感じなかったのか−−と言われると、正直僕は恐怖した。

そんな僕が彼と思い合える存在だったのか? ある意味僕は、意地になってたのかも。そんな事を思った自分を彼は笑顔で送り出そうとしてくれた。それにただ従うだけじゃ、僕は自分を嫌いになるから、それこそ「仕方なかった」そんな理由が正当になるまで、粘った。ただそれだけのずる賢いパフォーマンスだったのかも知れない。

勿論あの時はそんな事、思っても無かったけど、ここに来て冷静に考えると僕の行動はそうだったのかなって……そんな風に思える。そしてやっぱり落ち込む。


「僕達はそんな思いあってた筈の仲間を……とも捉える事が出来ますね」

「全ての答えは仕方ない……そんなものに収束して行きますね。私達が彼の味方を出来なかったのは、国を人質に取られて仕方ない。貴方達が彼から離れないといけなかったのは、私達が人質に取られてたから仕方ない。実際、私は感謝の言葉も述べたわけですしね。

別にあれは、貴方を責めたわけじゃ無いですよ。心からそれには感謝してます。今のノーヴィスにあの軍勢を阻む力は無いですから。やっぱりどう考えても、仕方ない……としか言えないですね」

「……そうですね」


簡単に仕方ないって言える。心は簡単じゃないけど、僕達にはそこに直結出来る理由が幾つも用意されてる。まるで僕達の心をそこに持って活かせる為の用意が幾つもある……みたいな。いや、これは考えすぎかな。これは副産物みたいな物だろう。

そこまでローレが気を使った……なんて思えないもん。折角空が青くなったのに、僕達の心は曇ったまま。やるべき事が何もないと、嫌な事ばかり考えるこの習性はダメだなって思うけど、人である限り、考える事を辞めることなんか出来ない。

僕は頭を空っぽに出来る人間じゃ無いんだ。思うんだけど、モブリ達は他の種族に比べてダメージを受けてると思う。其れなりにガヤガヤと音がするエルフや人の方とは違って、このモブリのエリアは異様に静かだ。

みんな疲れてる。それに世界樹の枯れた姿に、邪神の復活。それは他の種族よりも人一倍信仰心の強いモブリには衝撃的な事だ。防げなかった。守れなかったとモブリの兵士達は思ってる。それなのに、今度はその邪神を助けるみたいな……それに子供を犠牲にする事を良しとしないといけない事に協力まで。

自分達が信じてた物は何だったのか……彼等がわからなくなっててもおかしくない。異様に静かなこの場所。街から離れてる宮殿敷地内。聞こえる音は少し遠くからの変なカンカンとする音。そっちの方が実は近くのエルフや人の雑音よりもうるさかったりする。それは一定の感覚でなってて、他にも高音の音や低い音も聞こえてて一種の音楽みたいにも……聞こえなくもないけど、耳に心地いい音じゃないかな。

きっと異様に静かだからこそ、そんな遠くの音までも僕達は拾ってる。すると遠くから少し激しい音が聞こえて来た。一体何をやってるんだろう? 随分楽しそうにやってる所もある物だ。ついさっきあんな事があったのに……僕はソファーから降りて、トコトコと窓に近づく。だけど窓も高い。僕の身長じゃ外を覗く事は出来ない。

するとその時、ノエイン様の懐からピポポなる音が。一体何事かと取り出すと、それはお札らしい。一体どこからの連絡……そう思ってると、お札の文字を一撫でしてノイエン様はお札から映像を映し出す。


『失礼します、教皇猊下』


あれ? それはなんだか聞いたことある声。そして見たことある顔。そういえば、ずっと忘れてた事が何だかあるような……


「君か、良くスオウ君達を連れて来てくれた……と言いたかったんだけどね。僕達はローレ様に踊らされてたらしい」

『そのようですね。状況は見てました。私達は今、上空にいるんですが、どうした方が良いでしょうか? 流石にあのまま森にとどまってると、捜索隊に見つかりそうだったので……自分達の存在は一応非公式ですから』


そうだ。彼等は僕達をここまで運んで来てくれた僧兵達。そしてその船はバトルシップ。余りにも事態が混沌としちゃってて忘れてたけど、彼等はずっとノンセルス1の外側の森で待機してたんだ。


「良い判断ですよ。見つかるのは不味い。そうですね。まだ見つかってないのなら−−」

「探してください! スオウ君の事を!」


僕は割り込んでそう言った。今ある希望はこれだけだ! バトルシップの機動力なら、大勢の兵士達にも劣らない。むしろさらに広範囲だって探せる筈だ。


『それは良いんですがテッケンさん。でもあんまり高度は落とせませんよ。それに捜索隊の範囲外じゃないと見つかる可能性も高くなります』

「それはわかってる。それに範囲外の方がきっと良いと僕は思ってる。シクラ達が近くをウロウロしてるなんて思えないし……それよりも映像を見れてたんなら、録ってないんですか?」


僕はグイグイと行くよ。何も出来なかった僕は、スオウ君の安否をいち早く確認したい。そしてもしかしたらそれが出来るかも知れない。なら、やらないわけにはいかないじゃないか。このまま悶々と嫌な空気を撒き散らすよりも、こっちの方が余程生産的だ。


『映像は全て録ってあります。遠目ですけど、決闘部分を見ますか?』

「いいえ、そこじゃなくスオウ君達が離脱した時の映像を見せてください」

『了解です。これですかね?』


そう言って表示されたのは、空中に浮かぶ歪な形の魔方陣。ただの円じゃなく、なんだか古代の模様の様な魔方陣だ。街中よりもこの映像の方がはっきりと見えてるのは、この魔方陣と比較的近かったからかも知れない。


「やっぱりこんなタイプの陣は見たことないですね。ですが直後に姿を消してるのを見るに、転移の魔法なのでしょう。どこに転移されたかは分かりませんけど」

「そうですね。それが分かれば良いんですけど……ん?」


転移魔方陣の下に何か見える様な気がする。


「あの、これって拡大とか出来ますか?」

『どーんとこいです!』

「じゃあ、この魔方陣の下の方を拡大して下さい!」

『こうですか?』

「これは……」


魔方陣の下の方には知ってる姿があった。赤と白の袴姿……それはどう見てもサクヤさんだ。彼女がこの陣を作ったって事だろう。


「彼女が術者のようですね。知り合いですか?」

「知り合いです。仲間でした。いや、今でも彼女は僕達の事を仲間だと思ってくれてると思う。だけど、その意思を出す事はもう出来ない……」

「もう出来ない? いや、これ以上立ち入る事でもないでしょう。それよりもどうしますか? これを見る限り、結構大掛かりな術です。これを一人で彼女は作ったのでしょうか? だとすると大した術者ですね」

「彼女には高速詠唱のスキルがありますから」


それを使えば、時間さえあれば一人で大層な魔法を発動出来なくはないと思う。


「どの位まで飛べるか分かりませんか?」

「う〜ん見たことない術式ですからね。ですが規模から考えるに、相当行くでしょう。やはり周辺の捜索は意味をなさないと思います」

「やっぱり転移先を特定するのは無理ですよね……」


何か決定的な情報を見つけたい。それがあれば後はバトルシップの機動力で追えるかも……でもそもそも転移先を見つける事が難しい。この映像からわかる事なんか実際もうないし……するとノエイン様が考え込んでこう言った。


「可能性は低いですが、こういう事も考えられます。基本転送元と転送先には同じ魔方陣が展開されてる筈です。あれだけ目立つ魔方陣ならもしかして誰かに見られてると言う事も考えられるかも知れません」

「なるほど、確かにそれはあり得るかもしれませね」


でも問題はどうやってその情報を集めるか……落ちる事は捜索が終わるまではローレに止められてるし……この世界にはネットはない。コミュニティ同士の会話手段で情報収集といくしかないかな?

だけどこの行動を知られる訳には……どうやって、それを見つければ良いんだろう? てかそもそも人目につく場所にあの転送陣を展開させるかもわからない。でも調べずにはもう納得なんか出来ない。


「バトルシップになら、目撃情報を集めるくらい……」

『そんな機能はないですよ』


ですよね。あっさりと否定された。だけど今はそれしか望みがない。どうにか出来ないだろうか? そう思ってると、扉があいて、華美な衣服に身を包んだモブリが一人入ってきた。


「ご無沙汰してますノエイン様。お話は聞かせて貰いましたわ。お困りの様ですね。それならば、元老院をお使いになれば良いのですよ」

「元老院を?」

「ちょっと待ってくれ、君は一体?」


話を勝手に進めようとしてるけど、誰だ君は? すると彼女は上品にスカートをつまみ、お姫様みたいに頭を下げる。


「申し遅れました。私は元老院の長の孫です。スオウでしたっけ? 彼とはサン・ジェルクであってるんですけどね。それと確か貴方とも」


そう言って彼女が見るのは、映像の向こうの僧兵の彼。ええ? そうなの?


『ええ〜そうだったかな〜?』

「ちょっと、なんであんたが目を反らすのよ!」


どういう事なんだ? なんで彼は否定するの? 良くわかんないけど、元老院を使えってそれは?


「コホン、元老院は使えるコマが多いって事ですよ。沢山の地域にも協力者はいますし、きっと使えると思います」

「確かに……それは出来るのならやりたいけど……彼等はそこまで協力してくれるだろうか?」

「ですから、私が仲立ちしますわ。大丈夫、偉大なノエイン様になら、皆ついて来てくれますよ」


ノエイン様は不安げな瞳をこちらに向ける。だけど僕達は何も出来ないんだ。それに元老院程の秘匿が得意な人たちなら、秘密裏にやる事も得意そうだ。僕はノエイン様に向かって頷くよ。


「よし、では頼めますか?」

「ええ、勿論!」


ニッコリと面白げに微笑む彼女。なんだか頼りになる笑みだ。そして実際、彼女は結構凄かった。元老院をまくし立てて、強引に合意させると、一斉に号令をだして各地の協力者に情報収集を要請。

後は情報が上がって来るのを待つしかない。




それから三時間。中々情報は上がってこない。バトルシップは準備万端なんだけど、指針がないと、飛び立てない。やっぱり人気の無い所にいったのかも知れないな。すると、頭に響くメールの着信音。その内容を見て、僕は大きく安堵する。


「生きてる……スオウ君……良かった」


張り詰めてた糸が切れたみたいにへたり込む。だけど、実際まだ安心は出来ない。それにシルクちゃんがピクを逃がしたいって……でも確かにピクなら。情報は上がってこないし、ピクと共にバトルシップも動かせる。

それなら僕はここからシルクちゃんの為に出来る事を、今度は考えないといけないな。僕達はきっと、みんなが同じ気持ちなんだ。離れ離れになったってきっと……

第四百二十六話です。

あれれ? ですよ。投稿まえはちゃんと一マス分のスペースが空いてるのに、投稿確認画面では無くなる? これってIPADがおかしいのか? それともこのサイトのバグか何か? 判断出来かねますね。今回のはどうなるのかな? ちゃんと投稿できれば良いんだけど… …

とりあえず、次回は日曜日に上げます。ではでは。

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