諦めさせたく無い
「「エイルと! リルレットの! 何故何故LROコーナー!!」」
わーわー! (パチパチパチ)
「さあ、前回もサボられてもう何回目かもわかんなくなって来たコーナーが始まりました!」
「そもそも作者は回数なんて途中で数える気なかったみたいだけどね」
「知ってた。知ってたよリルレット。自然と回数をどうでもよくする為に不定期に休んでやがったんだよアイツ」
「でも実際、回数ってあれ? って成るよね。今回って何回目だっけ? って調べるのが億劫って言うか。そこはわかるかな」
「リルレットがそう言うなら、まあ許してやるよ」
「何故かエイルは偉そうだね。実は自分も何回目かわかんなくなってるんじゃ無いの?」
(ギク!)
「ははは、じゃあ今回の議題に行こうじゃないかリルレット」
(誤魔化した)
「え〜と、今回は早速、感想が来たんで(意外!?)そこに書かれてた質問の一つに答えましょう」
「投稿者は雪夜さんです。ありがとうございます。まずはあれだね。『スキルの設定がわかりにくいんじゃボケエエエエエ!!』って奴だね」
「言っとくけど、そんな乱暴な書かれた方はしてないです。エイルの悪いノリです。気にしないでください。
でも確かにスキルは実は頑張ってスルーして来た所だよね。前にはもっとスキルとか一杯出して欲しいって意見もあったんですけど、メモってないから誰がどんなスキルを使ったかわかんなく成るから大変って感じでした」
「作者の怠慢だね!」
「でも作者的には重要なスキルは覚えてるもん! って言いたいらしいよ。実際誰でも使える共通スキルってもっと出てくるべきだとは思うけど、あれだよね。スオウ君がそこら辺スルーしてるから、描く必要がないって開き直ってるよね」
「うん、確かに……でもそもそも質問の意図はそこじゃ無いよリルレット。スキルとは一体なんなのか? だよ」
「そもそもスキルと魔法の違いとかだよね。ハッキリ言うと、LROの魔法は全てスキルの一部です。スキルの中のカテゴリー違いみたいな感じです」
「スキルの中で技と魔法・あとその他色々って感じで別れてるみたいなものだね。スキルは基本武器や防具やアクセサリーを身につける事で、その装備に宿ってるスキルを使える様になるんだよ」
「それを自分の身に宿す為に私達はモンスターと戦闘して、スキルポイントをためるんです。それが満タンに成ると、その武器に宿ってたスキルが自分の身に宿ります。
そうなると、いままで装備してた物を外しても、そのスキルが使える様になる。まあこれは基本情報ですね。物語序盤にもきっと説明してたかな?」
「そうだねリルレット。ではここからはソーサラーであるエイル様の魔法講座にいこうかな?」
「宜しくお願いします先生」
「うむうむ、まずLROにはMPという概念がないのは作中でも触れられてますな」
「そーですねー」
「ここで質問の一つの答え、スキルを使うにはMPが必要なのか? はそもそもLROにはその概念がないので不必要です。ですが!! ここで『なんて便利な!!』とか思ったら大間違いなのだ!」
「ええーどうしてですか?」
「実はMPはないけど、LROはもんっっっっっっっの凄く精神を擦り減らします。それは今までTVの前でピコピコやってたのとは根本的に違うからです。目の前に凶暴なモンスター、それと対峙する勇気、立ち向かうアクション。全てリアルタイムで体を使ってやってるんですから、疲れない訳ない。
しかもスキルは強力だけど、それだけ激しい動きを必要とするって事は体力を奪われるのです。体力を奪われる事が直接HPに関係するわけじゃないけど、戦闘では大切な事なのだ」
「動きが鈍ったら攻撃を貰うかも知れないですもんね。そしてHPの減少は、攻撃の威力や、リアルとの繋がりを薄くさせます。それが所謂、レッドゾーンは瀕死状態っていわれる由縁ですね。
普通はレッドゾーンまでいったら、疲れとは違う、体の重さを感じる様になります。スオウ君はどうやら、あの武器の特殊な力でその反対を行ってるみたいですね」
「あいつにはお誂え向きだけど、だからこそ諸刃の剣だよ。まあだけどここではアイツのことは置いといて、今での説明では、魔法は動かないからやっぱり楽じゃんって思われるかもしれない」
「確かにーーー!」
「思い出した様に、いいともみたいな掛け声が来た! コホン、では気を取り直して、それは違うのです!!」
「しんじられなーーーい!」
「それはなんかちがくないリルレット?」
「そうかな?」
「うん、多分」
「じゃ、ええーー!? でいい?」
「うん、まあ……いいかな。えっと魔法は詠唱ってやつが必要です。それが結構シビアで気を使います。基本詠唱が長い奴程、上級魔法です。詠唱の言葉は、ウインドウに表示できるから、そこら辺は親切設計なんだ。
初心者にも安心さ」
「フーフー!」
「……えーと、魔法は詠唱が短い奴なら連続使用が出来たりします。技スキルには待機時間みたいな、一回使うと、使用出来ない時間があるけど、基本魔法にはそれが有りません。
まあ魔法の詠唱時間がそれと同じ様な物ですけどね。質問に技スキルとの併用は可能か? とかの質問が有りましたけど、可能と言えば可能です。そこら辺に制限は有りません」
「だけどそれはとっても難しいんですよね先生」
「そう! ようは詠唱しながらバトルするわけですからね。難易度はメッチャ高いです。でも出来たらいいと、誰もが思う。まあだけどそんなこと関係なく俺たち後衛は、常にどうやったら詠唱を短縮出来るかを摸索してるわけだけどね」
「やっぱり詠唱が短くなると、有利ですからね」
「ああ、メッチャ違うよ。本編でシルクちゃんが使ってる、ストック魔法とか、俺からみたら十分チートだよ。サクヤの高速詠唱もそうだけど……あれは憧れる」
「シルクちゃんって相当凄いのにそこら辺を自覚してないよね。まあそこが可愛いんだけど」
「うんうん、あっ、勿論リルレ −−言えない!」
(いつものエイルだな〜)
「じゃあ後の質問は次回以降って事で、最後にスキルツリーの話をしとこうかな?」
「そうだねリルレット」
「スキルツリーは自分の得てるスキルをセットする箇所の事です。実を言うと、自分の持ってるスキルはいつだって使い放題ってわけじゃなく、基本そのスキルツリーにセットしてるのしか使えません。っていってもいくつもそのツリーは作れるし、セット・リセットは簡単ですけどね」
「スキルにはそのスキルツリーに追加スロットを加える物もあるんだよね」
「そうだね。そしてスキルツリーには無限の組み合わせがあります。それにスキルツリーも成長要素がある。追加スロットで大きくなっていったスキルツリーは自分のお気に入りのスキルで特徴が千差万別になります。
そんなスキルツリーは不思議なスロットを生み出します」
「それが上級者達がまことしやかに言ってる『必殺技』ってやつなんだよね。俺たちにはまだまだ程遠い道のり……」
「「だけど‼」」
「いつか自分だけの必殺技を手に入れようねエイル!」
「勿論だよリルレット!」
「「と、いうわけで今回はここまでです。ではまた〜」」
続く。
ポロポロ……ポロポロ……と涙が落ちてる。煌めく涙が幾つも幾つもとめどなくその瞳から零れて、だけど何故か、クリエはそれを認めたく無いみたいに眉を釣り上げてた。
「どうして……もう良いって言ってるの! クリエの事はもう放って置いて良いの!!」
「放ってなんか置かない。僕はそう言ってるんだ! お前の事を知って、お前に頼られた。自分が頼りないのも、お前の選択だって自分のせいだと思う。
でも勝手にここで終わりになんか…………させない!!」
僕の言葉にクリエはさらに多くの涙を地面に落とす。それはもう本当に大粒で、地面が吸いきれないんじゃないかと思う程だ。その涙の意味は一体……
「なんで……スオウはワガママだよ……」
「お前に言われたくない。それに……もう嫌なんだ。繋いだ筈の手を離されるのは……もう」
脳裏に浮かぶ、セツリの背中。離された手。掴めなかった自分の無力さ。それがここでも……起ころうとしてる。今ここでクリエの思いに甘えるって事は、それを許すって事なんじゃないかって思うんだ。
これ以上、誰かを失望させたくなんかない。
「本当に、仕方ない奴ねあんたは」
「セラ?」
そう言って来るセラはやれやれってな感じだ。いや、まあアホな事を言ってるってのは自分でもわかってる。でも、ここで逃げちゃいけない。それは「きっとそうなんだ」と心が言ってる。だからなんと言われ様と僕は引き下がる気はない。
そう思ってると、セラの奴はロングスカートを翻す。おいおい、大衆の面前でなんて事をやってんだ。際どい所まできっと周りに見えてるぞ。そしてセラは太ももに手を伸ばし何かを掴みだす。いや、もう何かって言うのもおかしいか。それは解放する前の聖典だ。
「お前……」
「しょうがないから乗ってやるわ。ほんとアンタといるとつくづく退屈しないって思うわ」
その姿を小さな鏃から、機械的な聖典の姿に変えて周りに八機展開する。そしてそれに続く様に他のみんなも……
「こ……こうなったらやるしかないですよね。このままクリエちゃんを見捨てる事なんか、できる筈もありませんもん」
「そうだね。あんな小さな子だけに、全てを背負わせてはいけないよ。諦めるなんて事して欲しくない。子供は夢を見てる姿こそ正しい筈だ」
「それを俺達が奪うわけにはいかない……か。確かにこのままじゃ恥ずかしくて、往来を歩く事もできなくなりそうだ」
「じ……自分もできる限りやってやるっすよ! なんにも出来ないかも知れないっすけど、今回は逃げないっす!」
シルクちゃんにテッケンさん、鍛冶屋にノウイ……みんなが一緒に戦ってくれようとしてくれてる。こんな絶望的な状況の中で……それでも僕のワガママに付き合ってくれる。ほんと最高の仲間だよ。
みんなの行動で、周りを取り囲む奴らが警戒を強める様に武器を向ける。いつでも戦闘の火蓋が切って落とされそうな雰囲気。張り詰めた空気の中、クリエの泣き声が空しく響いてる。
「止めて……本当に……ダメだよ。止めてよぉ……」
僕達が何を言っても引かないからか、クリエはただ普通の子供の様に泣いてる。やっぱりあれは、ワザと突き放そうとしてたみたいだな。そんな事をしたって引くわけないのにな。すると緊迫する空気の中で、テトラが場違いな笑いをあげる。
「くっくっははははははは! ほらな言ったとおりだろ? お前の思いは無視された。何故だかわかるか子供? それはお前が奴等を想う事と同じ様に、奴等もまたお前を想ってるからだ。想い合う気持ちは、いつだって同じ方向を向いてるわけじゃない」
テトラの奴がクリエになにかほざいてるな。まあ間違った事はなにも言ってないし、寧ろ良い事を言ってるみたいだけど、そのしたり顔がなんかムカつく。そう思ってると、テトラは視線を僕達に向けるよ。
「まあだが、本当に無謀な選択をした物だ。もう一度よく考えた方がいいぞ。特に周りの奴らはな」
なにか意味深ぶってそう言うテトラ。なんだ? なんでわざわざ僕じゃなく、周りの仲間に振った?
「スオウ……貴様はよくやってくれた。だが、これ以上は邪魔でしかない。実際ここに居るのも想定外だしな。まあそこら辺は、どういう意図があったのか、聞くべき奴はお前じゃない。どういうつもりで、殺さなかったんだローレ? 返答しだいでは契約違反になるぞ」
僕に振って来たかと思ったら、最終的にローレか。でも実際確かにそれは聞きたい事ではあった。ローレはあの時、僕を殺せた筈だ。でもわざわざテトラの目を欺いてまで、僕をリアルに返した。どうやったのかは知らないけど、僕がなんとかリアルに戻れたのは、ローレが戦闘不能にしなかった事も大きい筈だ。
あの時、サナも言ってたしな。ローレは僕を殺してなんかいないって。邪神に反逆する事になるだろうし、生かしたら必ず戻ってくる……その可能性をローレが考えなかった訳がない。じゃあどうしてって事になる。
ローレにとって、僕を生かす理由なんて……
「お前はスオウが俺を倒せるとでも思ってたのか?」
「まさか、私に勝てないスオウがあんたに勝てるわけないって思ってたわ」
あっさりと、マジであっさりとそう言い放ちやがった。ローレの奴はマジで一ミリもそんな期待とかしてなかった様だ。
「じゃあなんのつもり俺の言葉を無視した? 信頼が崩れると思わなかったか?」
「ふふふ、信頼なんてそんな……はなから私達にそんな物あり得るのかしら? そんな曖昧なもので私達は繋がってないでしょう。契約という鉄の紡ぎでしかないわ。私達のつながりなんてそれだけよ。あとは利害関係の一致の上で、あんたも私もそれぞれを駒として使ってるだけじゃない。
私的にはあの時はまだ、保険を打つ段階だったってだけ」
保険……僕が生かされたのは、ただそれだけの為って事かよ。いや、まあローレならそれでも納得出来るけどね。あいつならやる。そう断言できる。
「保険か、スオウにどんな保険をお前はかけてたんだ? 勝てないとわかってたのだろう?」
確かにそれは気になるな。保険って一体どんな……興味津々で僕はローレの言葉を待つ。だけどローレの奴は呆気なくこう言いやがった。
「そんなの……あの段階じゃ考えてなかったわね」
ズゴーーーーだよ。勿論この状況ですっ転んだりしないけどもさ、心はそんな感じだった。深い考えなにもないじゃん。まさに気まぐれ……僕はその気まぐれに救われてたわけだな。
「考えてなかったか……それもどこまで本当か疑わしいな。それとも今は俺に勝てなくても、それを覆せる物でも感じてたか? 淡い期待をかけていたと考えてもいいのか?」
期待? まさかそんな訳ないな。それなら考えてない事が嘘の方がよっぽどローレらしいっての。だけどローレの奴は、真実を掴ませない様に飄々とこういうよ。
「まあ、そんな所かしらね。神も一度は期待をかけたプレイヤーなんてそうそういないでしょう。使いがいがあるかな〜って思っても当然でしょ? それにそもそも言い分を言わせてもらえば、あの時は契約前なんだし、ノーカウントよ。
余計な疑いなんて互いの為に成らないわよ」
「貴様がそれを言うか。だが、確かに契約前ではあるな。そう言われれば野暮な事だったかも知れない。お前は一応よくやってくれてる。ここに居る五種族の決定もお前が上手く脅しを掛けてくれたおかげだしな」
「大衆の面前で人聞きの悪いこと言わないでくれる? 私はちゃんと利益とリスクを話して納得してもらっただけ。脅しなんてとんでもない。私は星の御子よ。物騒な事は言わないの」
どの口がそんなふざけた事を語ってる!? きっと五種族の代表達もそう思ってくれたと思う。同じ顔してたし、きっとそうだよね。するとテトラの奴は面白そうに「くっくっ」と笑ってローレに向かってこう言う。
「そうかそうか、ならどうだ? その使える口を使ってスオウを説得してみるか? このままじゃ周りの兵士達に殺されるぞ。なにせ今や世界は邪神である俺についてる。このままだとお前がせっかく目を掛けたヒトシラがいなくなるぞ」
「ふん、あんたって本当に食えない奴ね」
「貴様にだけは言われたくないな女狐」
こうやってみてると、本当にこいつらなんで一緒に居れてるのか不思議だな。嫌な想いをしてでも互いに叶えたい事がある……そういう事なんだよな。でもそれは僕たちだって同じだ。そしてクリエだってそうなんだ。
「ねえスオウ、このままじゃ確実に死ぬわよ。今度は誤魔化しもきっと効かないでしょうし、あの子の事は諦めた方がいいわよ。クリエだってそう言ってるじゃない」
前に進んで来たローレがそんな事を言って来る。コイツのこの端正な顔……ブン殴って良いかな? いや、そう考える前にぶん殴るべきだ! 覚悟を決めてる筈だろ自分! 僕は素早く鞘からセラ・シルフィングをぬ−−その時、束の先端を叩く衝撃と共に、カツンと鍔と鞘のぶつかる音が響く。
「止めとけスオウ」
「アギト!? お前……」
それをやったのはボリュームのある赤髪エルフのアギト。こいつ何時の間に……ってかなんで止めるんだよ! ローレのせいでこんな事になってるんだぞ。全部話した筈だ。リア・レーゼでローレが路線を変更せずに、召喚獣共々聖獣に向かってればこんな状況にはきっとなり得なかった。
僕たちは聖獣を倒し、邪神の復活は叶わずに、クリエだってその願いを諦めずに済んだ筈だ。それなのにそいつは、ただ自分の野望の為に、全てを裏切ってあまつさえ「諦めろ」なんて! 許せる訳がない!!
「お前の気持ちは分かる! けど、状況を考えろ。お前の命はこの世界でも一つだけだ。ここで武器を抜くって事は、俺たち全員を敵に回すって事なんだぞ」
「そんな事はわかってる。だけど僕たちは逃げれないんだ! だから……抜かせろよアギト! 諦めたのは僕たちじゃなく、クリエなんだよ。それも僕達が弱いからだ。僕達の為に……アイツを犠牲になんか出来るか!!」
「それなら俺だって言ってやるよ。こんな所でお前を死なせてたまるか! 今は確実に勝てない……それくらいわかるだろう! 」
アギトの奴はあくまでも僕に武器を抜かせない気か。確かに勝てる見込みなんか0だよ。それは認めてやろう。だけどここで引いてどうなる? 命あっての物種はわかってるし、死に急ぐのは僕だって好きじゃ無い。
死にたくなんかないしな。でも、ここで逃げたら、クリエの奴が……
「ここで逃げたって、全てが終わるわけじゃ無い。チャンスを待つんだよ。そのくらい出来るだろ」
アギトの奴は極力小さな声でそういう。周りに聞こえたらヤバイからな。
「どきなさいエルフの護衛。私達の会話を邪魔しないでくれる? 部外者でしょ?」
「部外者?」
ピクリとアギトの長い耳が動いた。その言葉は聞き捨てならないって感じだ。だけどさすがのアギトも食いかかったりはしない。
「星の御子、これは貴方の身の安全の為の処置ですよ。こいつが暴れまわったら、流石の貴方でも傷くらいは負います。その美しい体に傷が付くのは避けたいでしょう」
「ふ〜ん、脳筋だと思ったけど案外言うわね」
アギトの言葉にローレは不敵な笑みを浮かべてそういう。ただの護衛と思ってたアギトがそうじゃなかったから意外って事か? そのアギトの言葉で少しは待つ気になったのか、ローレはおとなしくなる。
「スオウ、いいか? 今は引け。邪神はどうやらその時を待ってる。その時まではローレに付き合ってるって感じだ。だからチャンスはあるんだよ」
「その時… …」
邪神の願いを叶えるタイミングがあるって事か。でもそれは出来ないんだよ。
「どうしてだ?」
「だってここで逃げたら、クリエを失望させたままになる。あいつが僕達の為に取った誓い……それに甘える事だけは、しちゃいけない気がする」
「だからって、ここで死ぬ気かお前? よく考えろ。頭に血が登ってるだけだ」
なんとか説得を試みようとするアギト。確かに僕は頭に血が登ってるかも知れないな。この状況……だし、ヤケクソに自分でなってるとも言えなくもないかも知れないな。どこかで意固地に僕達はなってるのかも。
それは僕達がアギトとは違って、ここ数日クリエと接したから故なんだろう。だからこそ、僕達の選択をアギトは理解出来ない。それは無理も無いことだ。ついでに言うと、アギトの言ってる事が正しいとはわかってる。
お前は、正しい事を言ってくれてる。本気で言ってくれてるとちゃんとわかってる。流石親友、ありがたいって思うよ。でも、正しい事と大切な事は違うんだ。僕達に取って大切な事は、クリエを諦めさせないって事だ。
あいつが夢見て来た筈の願い。それを僕達が弱いから奪ってしまった。そんなの、僕達は全員許せないんだ!!
「アギト……ごめん」
僕はアギトから視線を移してローレを見据える。日光を浴びて居様にキラキラと輝く髪を持つローレ。その余裕を僕は許せない。
「お前……」
「アギト様、わかってくれとは言いません。だけど、知ってるでしょう? そのバカのバカさ加減」
誰が馬鹿だ。セラの奴……
「アギト君、ここで戦うのは愚かな選択だ。それは僕達はみんなわかってる。でも……泣いてるあの子を僕達は、放っとけやしないんだ」
「テツ……」
「次のチャンスはたしかにあるかも知れません。だけど……あの子の心を救うには、いましかないかも知れない。それだけなんです」
「シルク……」
「アギト様、自分がいざと成ったら、この命に変えてもスオウ君を逃がしてみせます。もう誰も止まらないっすよ」
「ノウイ……お前まで」
みんなの言葉でアギトは柄を掴んでた手を離す。僕はそれを確認して、セラ・シルフィングを鞘から抜き去った。解放されたセラ・シルフィングの刀身に目一杯の光があたる。深い藍色の刀身に浮かぶ銀河の様な模様。
周りの兵隊達が一斉に戦闘態勢一歩前だ。気の早い奴らは、魔法の詠唱を始めてる奴らも既にいる。
「どうやら説得は無理みたいね。一戦交えないと気が済まないって感じ。そんなに私が許せない?」
「ああ許せないな。お前もだけど、自分自身もだ」
「ふん、私は別に誰かと争いたいわけじゃないんだけど。でも、あんた達は止まりそうにないわよね? 非効率的な事を進んで選ぶ。その感覚はちょっとわかんないわね。まだチャンスはあるかも知れないっていう所が特に。
今を選ぶ事は、最も愚か……そう思わないわけ?」
「思わない。今じゃなきゃいけないとさえ思う」
「あっそ」
すっげー簡単に流したな。僕は周りに視線を流す。本当に八方塞がり。どうにかして半分位は寝返ったりしないか? とか考えて見るけど、それは無理なんだよな。アギトだって僕を止めようとしたけど、力を貸してくれるわけじゃなかった。
ここに居る代表とその護衛である側近達はきっとテトラと誓いを立ててるから、寝返るなんて事は出来ないんだ。神との契約……それがどういう物か、僕だってしってる。
「どうやら、お前の口でも無理みたいだな。まあわかってた事だ。譲れない時や思いそういう物もある」
「まるで、自分にもそういうのがあるみたいな言い方ね」
「誰にだってそういうのもはある筈だろう? お前にだってな」
テトラとローレ二人が意味深な視線を交わしてる。そして二人してこちらに視線を向けるんだ。
「どうする? 俺はクリエとの契約であいつを殺せないしな」
「待ちなさいよ。説得はたしかに無理っぽいけど、まだ手が無いわけじゃ無いのよ」
そう言ってローレは胸の所に腕を突っ込む。なんだ? 何をする気だこいつ? 僕達が警戒してると、ローレは何か紙みたいな物を取り出した。
「ふふ、スオウ。これな〜〜んだ?」
そう言ってその紙をこっちに向かって投げるローレ。当然まっすぐ飛ぶわけが無いそれは、ヒラヒラと舞いながらも、なんとか僕の足元に落ちる。そしてそれを見た瞬間、僕は吹き出した。
「ぶっ⁉」
ぬああああああああ!! 速攻で地面に落ちた紙を拾い上げて僕はポッケに押し込む。なんて危険な物をこの場で出しやがるんだあの野郎!
「スオウ……今のは……」
しまった、アギトの奴には見えてしまったか? 今の紙……というか写真。僕が半裸で全裸なローレに迫ってる写真−−いくらそう見えるだけでも、誰かに知られたくは無い代物。ご丁寧にまだ取ってたとは……そういえば有耶無耶にされてたぜ。
「何その目? 私は使える物は使う主義よ。わかってるでしょ? ほらほらスオウ、大量にばら撒くわよ」
こいつマジで最低だ。最低な手で来やがった。大量にバラまくってどれだけ用意してるんだよ。くっ、だけどこんなので今更……僕は意を決してこう言うよ。
「やるならやれよ。別にどんな誤解受け様が構わない。そんなの全然我慢できる!!」
すると途端につまらない様な顔をするローレ。
「何よそれ。もっと慌てふためいてくれないと、脅しがいがないじゃない。本当にばら撒くわよわよ。明日からLRO中からロリコンって後ろ指さされるわよ」
「どうとでもなれ。気にしなければ良いだけだ。それにそんな噂なんて、直ぐに忘れられる。そもそもそういうの慣れてるしな。ただ最近は、結構充実してたから、必要以上に怯えてただけだ。考えてみれば、そんな物は慣れっこなんだよ僕は」
「ふ〜ん、案外寂しい奴だったって事?」
またもグサッと来る事を……でも別に答えてやらない。勝手に思ってればいいさ。ただ僕はそんな脅しには屈しない。
「無理なら諦めた方がいいぞ。お前にでも手に入れられない物はある。人の心は最たる物だろう。お前の思い通りにはいかないさ」
「あんたはさっきからどっちの味方なのよ。スオウを殺したいの? それとも私に上手くやって欲しいの? どっちよ」
たしかにそれは気になるな。テトラの言動はどっちつかず……というか、別にどっちでもいいって感じだ。どうしたいんだこいつ?
「言ったろ、俺にそいつは殺せない。クリエとの契約があるからな。だが矛盾する事に、スオウにはまだ俺の呪いが残ってる。つまりは何もしなくてもそいつは死ぬ。実際、その呪いは少し変質してるみたいだがな」
テトラは僕を見つめる。そういえばそうだな。僕にはこいつの呪いがまだ生きてるんだ。いろいろとおかしいじゃないか! するとそれを聞いたクリエも同じ様な事を言うよ。
「そんなのダメ! 呪いは解いてよテトラ!」
「別にそれはやぶさかではないが……どうする? 今ここで解放してやろうか? そうすればお前は自由だ。もう何も、俺達に縛られる事はなくなる」
くっそ……こいつはなんでこう、色々と考えさせる様に言いやがる。こいつからしたら、僕がさっさと関係なくなった方が良いだろうに、それを自分から良しとしてない感じだ。本当に本心が見えない。
どこまでも深い闇のようで、でも今までの闇に落ちた奴らの様じゃない。ただその心を、闇に置いて見えなくしてる……そんな感じの奴だ。ここで呪いを解いたら、僕達の繋がりはなくなる……か。僕の呪いが消えるのは、クリエのおかげ……それならいう事は決まってる。
「断る! これがあれば、クリエの契約は不履行だ! なら、消させやしない!」
「スオウのバカ!!」
必死にそう叫ぶクリエ。だけど勝手に言ってろって感じだよ。
「そう言うと思ったさ。不履行なら、俺はお前を殺せるぞ」
「不履行なら、クリエはお前の物じゃない」
僕達は互いに激しい視線をぶつけ合う。テトラの身体から黒い気が立ち昇って来てた。その姿を見て、周りの兵士達が、どよめきを起こす。邪神が暴れるかも知れない。その懸念か。するとそんなやる気満々になってるテトラを見てため息を漏らすローレ。
「待ちなさいよ。まだ早いわ。まだ、私には手がある」
「ほう、脅迫の他に何かあると? それは期待できるんだろうな?」
「あんたが何を期待してるのかなんて知らないけど、そうね……邪神なら好きかも知れないわ」
なんだ? 邪神なら好きかもって不穏な空気プンプンじゃねーか。そう思ってると、ローレは僕を見て、そして周りのみんなに目を向ける。そして不敵な笑みを浮かべて、まずはセラにこう言った。
「ねえセラ。あんたって確かお姫様直属の侍従隊のトップよね? そんな立場のあんたが、私達に対立するって……それはまさか、アルテミナスはそれを容認してるって事かしら?」
「「「「!!!!」」」」
その言葉を聞いた瞬間、僕達は戦慄した。いや、僕達だけじゃない、アイリもアギトもそうだ。まさか……まさかローレの奴は、それぞれの繋がりを楔にしようとしてるのか!?
第四百十二話です。
前書きが長くて大変でした。今回はそれだけかな? でもやっぱり感想は嬉しいんで、こんな感じでやって行きます!
てな訳で、次回は日曜日にあげます。ではでは。