表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
41/2690

無くしたヒーロー

 俺は奴に刃を向けた。その黒ローブに顔も覆った奴は明らかに異常。だけど戦う理由も曖昧なままの俺の槍に奴は怯えなど抱かなかった。それよりもむしろ俺にその恐怖は襲いかかる事になる。

 奴は集まりだした軍にアイリの腕を使ってカーテナを振るう。それは反則的な事だ。そしてこちらにも向けられたその力が容赦なく俺の心を追っていく。俺はだから分からないんだ。どうしてここに自分が来たのか。

 だけどそんな時俺の背中にあのクリスタルがあった。あの言葉を刻んだクリスタル「I'd strongly」強くなりたいのその文字が俺の心に突き刺さる。それは弱く情けないままの自分だからだと分かってる。

 けど俺には仮面を無くしたひー炉には強い心は宿らないんだ。

 俺は目の前の奴に槍を向けた。迸る赤いエフェクトは怒気の証。隠すこともせずに俺はそれを向けている。だけど目の前の奴は怯える事も、怒る事も、臆す事もなく、その口元を綻ばせている。

 それがとても不愉快で……奇妙で……気味が悪い。確かに今の俺じゃ、ここでHPを削る事は出来ない。怯えて怖がる要素なんかないかも知れない……だけど、そうじゃないんだ。

 そうじゃない……そういう既存な感覚じゃない。目の前に奴はいるのに――何故だろう、そこに居る事に疑問を感じる。そこら中に何かを感じる。俺は一体何と向かい合ってる? 


「ワタシの」


 不意に響いた声に俺の体が強ばる。力みすぎか……もしかして俺の方が怯えてるんじゃないか? そんな事を思ってしまう。


「何に怯えているの?」

「――――っ!?」


 見透かされてる。その事実に俺の不安が掻き立てられる。その瞬間俺の側でローブが揺らめいた。一切目を離してなかったのに見えなかった。気づかなかった。

 いや、どれも違うかも知れない。例えるなら、初めからここにいた……そんな風に感じた。

 異常・異常・異常……その二文字が頭の中で響きわたる。これまでスオウとセツリ絡みで何回か体験した事が脳裏を掠めた。でもそれはアイツ等専門の筈だろ。

 どうして俺の目の前にそれが現れる? どうして……この異常な奴(?)がアイリを浚う必要がある? それに何より……どうして逃げない? 相変わらず訳が分からない事だらけだ。

 でも、取り合えず目の前に居るんなら言わなきゃいけない事があるな。出てきたんだ返す気あるんだろう。


「俺が怯える? ふざけるなよ。所でソイツ……返せよ」

「うん? あ~あコレ?」


 俺の指の先を追って奴はアイリを翳す。そして再び奴は口元を綻ばせて愉快に笑うんだ。


「あはっはっは、ダメよまだね。まだまだぜんぜ~んだめ。ちょっと待ってなさい」

「まだだと? どう言うことだよ! なんでアイリを浚った? お前の目的は何だ? アイリじゃないのか?」


 奴の真意がわからない。アイリが目的じゃないのか? 

 こいつはアイリを傷つける気はないみたいだしな。だけど目的……こいつが何を待ってるのかは知りたい。それ次第ではやっぱり俺はこの槍を引くことは出来ない。


「コレになんか興味はないわ。だけど……面白そうだったからね。なんだかとっても面白そうだったの貴方達。だからつい手が出ちゃったわ」


 奴は翳すアイリを左右にユラユラ揺らしてひけらかす。面白そう……こいつは俺たちを見てたって事だろうか? 一体どこからだ。

 周りでは重そうな金属の音が響きだしていた。どうやら軍の奴らがここに集まりだしてる。目の前のこいつはそんな事微塵も気にしてない様だけど何でだよ。

 軍の連中は眼中にないって事で、囲まれた位コイツにとっては何でもないのか。だけど俺にとって逃げないで居てくれるのは助かる。

 見えないより、見えてる方が安心するものだから。それに目の前に居るのならどうやったって少しは手がある。いざとなれば強引にでも……


「ふさけてるなお前」

「それでもいいわ。ううん、何でもいいのよ。楽しめればね。ここもうるさくなって来たわ」


 そう言ってようやく奴は周りを気にしだす。でもやっぱりそれは切羽詰まった感じじゃない。本当にただ単にうるさくなって興が削がれるみたいな程度。

 黒いローブをなびかせて奴は言う。


「ねえ、遊びましょうよ。そうしましょう。あの子が来るまでの暇つぶし。うるさい蠅のお掃除しましょ」

「なに言ってんだお前? 遊びだと? この状況わかってるのか。お前に逃げ場なんてないんだよ!」


 既に軍はこの周りを固めている。幾ら異常な奴だからって圧倒的な数の差は乗り越えられないだろう。何を待ってるのか知らないけど貴様はそれまで居られない。

 遊びなんて悠長な事を言ってられる状況じゃないと知れ!


「ふふ……あははははは! 君の王子様は的外れな事ばっかりね~。だから愛想尽かしちゃったってのに……まだ間に合うとでも思ったのかしら? 

 別に道なんか入らないわ。なければ作れば良いだけだもの……こうやって」

「――――!! お前、まさか!」


 奴の高笑いが夜の空に響いた。そしてタンっと音を立てて俺から離れるとアイリを自分の体と重ねる様に抱いた。そしてアイリの腕を絡めて前に突き出したそれをゆっくりと横に向ける。

 そこに入るのは押し寄せてきた軍……向けられたアイリの腕に握られてるのは『王剣カーテナ』まさかまさかと思うもそれが出来る事を考えずに入られない。奴はフードで隠された顔の中、唯一見える口元を引き上げて笑っている。

 そして何かを呟く様に口が動いた。それはきっと音を発してなかった。音として空気に波を起こしてな……なのに俺には奴が発した言葉がわかった。

 そもそもこの世界は振動なんて物で音を伝えてない。だからそれは起こり得るのかも知れないけど……俺にはそんなシステムの誤差動とは思えない。これはもっと人の感覚的な部分の事だ。

 奴は絡めたアイリの腕を肘部分から上に少し上げた。それはまさに発射態勢。そして――――


【あ~そび~ましょ~】


 奴の言葉が脳内にさんさんと反響していた。頭蓋骨の様々な部分に当たって軌道を変え角度を変え満たしていく。

――――奴の絡み合った腕に従ってアイリの腕が降り卸される。


「やめろーー!!」


 その瞬間、腕の動きと併せて何か大きな物がきっと落ちた。いや、確かに落ちた衝撃があった。同時にあがった幾つもの小さな叫びも幻聴なんかじゃない。

 地面に敷かれてた石は弾け飛んで無惨な形を残すだけ。それこそが何よりの証拠か……その上には潰されたように沈む沢山の黒い甲冑が見える。

 それはカーテナによる力の傷跡。視線を奴に戻すと、腕の先のカーテナから黒い光の尾が垂れていた。


「ふふ……あはははは! 簡単ね、とっても簡単」

「お前……」


 奴の甲高く愉快な声が響いている。本当に楽しくてしょうが無いと言った感じの声に俺は沸々と怒りがこみ上げてきた。なんて事やってんだコイツ!

 俺は握った槍に力を込める。その時だ。


「ほら、ド~ン」


 更に奴はカーテナを横に凪いだ。それによって今度は空に大きく軍の連中は舞う。数なんて物ともしない……あれがカーテナの力。


「うおおおおおお!」


 俺は力強く地面を蹴る。今は良い距離に奴はいる。一足で側に寄り、槍をフードで覆われた顔面へと突き立てる。だけどそれと同時にカーテナが俺に向けられた。

 けれど俺の方が早い! その苛つく笑みを作る顔を拝んでやる。しかし奴の笑みは崩れない。むしろ更に口元は裂ける様に歪んでいる。

 そして何かが持ち上げられる。奴の顔に重なるそれは――


「アイリ!」


 ダメだ! 勢いが尽きすぎて止まれない。どこまで愉快に卑劣な事をする奴なんだ! 槍の切っ先がアイリに迫る。俺はまた……君を傷つけるのか?

 見たくない衝動が俺の瞳を伏せさせた。それでも俺の槍がアイリを貫く事実は変わらないのに……俺はまた逃げる事しか出来ない。

 何度も何度も……俺は逃げ出してる。だけど伸びきった腕には何も伝わっては来なかった。それはただ空を切っただけだ。

 おそるおそる目を開けて見ると、そこには誰も居ない。


「え?」


 信じられない。あれをかわせるなんて……一体どうやって? てかどこに? いや……そんな事いいか。俺は彼女を傷つけずに済んだんだ。

 力が抜けていく。その事実だけの安心感で俺は満足できそうだ。だけど……やっぱりそんな事は幻想でしか無い。だってそれは、何の問題も解決してないんだからだ。

 そしてやっぱり、その声は響きわたった。


「あははは、あっははははは~! 面白かったよさっきのはね。とっても満足。でも……それで終わり? お姫様はワタシの元にあるのよ?」


 声の方に首を向けるとそこには愉快に回る黒ローブの姿がある。酔ってる訳じゃないだろうけど抱き寄せられてるアイリはなんだか苦しそうだ。

 あれは多分、カーテナの影響……強すぎる力の代償。それは倦怠感を催すHP犠牲。命を削る事でカーテナは国を守る力をくれる。 

 けれどスオウやセツリじゃ無いんだからそれは本当に死ぬ訳じゃない。俺たちと同じように復活できる。ならそれはそんなに大した代償じゃ無いように感じるかも知れない。

 けどそれは大きな間違いなんだ。アイリには失うHP分襲う疲労がある。それが倦怠感だ。それはかなり辛い物の様で彼女曰く、体の節々の痛みにのし掛かる重力過多がその効果らしい。

 自分の体が動かなくなって行く痛みは怖くて、沈んでいく感覚に怯える事と戦うんだ。だからアイリはカーテナを振るう度に顔に苦痛を浮かべる。

 唯一の救いは攻撃の威力を自分で調整出来る事。だからものスゴく少量にHP犠牲を調整する事であの城壁での時みたいに連発だって出来る。

 けど……今は違う。その威力調整を握ってるのがきっとアイリじゃなく奴なんだ。そしてさっきの二撃は明らかにアイリが俺に向けた攻撃とは威力も範囲も違っていた。 


「黙ってたらつまんないわよ。コレ……また使ったら興味示してくれるかな?」


 そう言って再びカーテナが俺の方へ向けられる。その時、アイリの苦しむ顔の隣で口元をつり上げる奴を見ておれは気づいた。

 それは奴は分かってるって事だ。俺の悔しがる顔も、アイリの苦しむ顔もその意味を知っている。


「お前……カーテナを振る度にソイツがどうなるか分かってるだろ?」

「ああ、この子がHPを削って苦しむんでしょう。でもね、私は苦しまないの。ここが大事なのよ。 私は苦しまないでこんなに楽しめるって事がね。

 それってとっても素敵なオモチャでしょ? 君は削って消えていく消しゴムの心配をするの? それと同じよ」


 奴にとってはアイリは遊び道具以外の何でもないって事か。でも消しゴムはオモチャとは言えないだろう。あれは文房具。

 それとアイリもお前のオモチャなんかじゃ決してない。これ以上奴に好き勝手やられたら益々アイリは苦しむ事になる。自分の意志でも何でもなく……カーテナに振り回される事になるんだろう。

 そんな事……許しておけるか? 許せるはずがない。これ以上カーテナを使わせる訳には行かない……だけどどうやって奴を倒せばいいんだ?

 俺が武器を構えて向かっていったら再び奴はカーテナを使うかも知れない。でもだからと言って武器を放り投げて奴に迫った所でその後どうすればいいんだ?

 どうせダメージは受けないんだし、どっちも変わらないのかも知れないけど……俺にはどうしても敵を前に武器を捨てるなんて出来ない。

 これも逃げてるって事なのかも知れない。俺は結局、自分が一番大事なのかも……


「どうしたの? やっぱりこれを使わなきゃ遊べないか」


 その瞬間俺に厚い空気の壁がぶつかった感覚があった。それは奴がもう一度振るったカーテナの力。これでまた、アイリの体には苦痛がのし掛かる。


「ぐあああぁぁぁ!」


 俺は一気に後方へ吹き飛ばされる。そして一つのクリスタルにぶつかり止まった。


「つっうぅーー!!」


 それは黄色い光を放つあのクリスタル。刻まれた一言は【強くなりたい】――それが俺の心に刺さるようだった。



《ねえアギト、一緒に強くなろう。ううん、まだ私が全然だから貴方と一緒なら強くなれる気がするの。ダメかな?》


 そう言って頬を赤らめながらも手を差し伸ばしてくれたアイリ。俺は自分が頼られてるんだと思って……それが嬉しくて安易にその手を握った。


《まあ別にいいけど。俺はアンタを待ってる気はないぜ》

《うん、いいよそれで。ずっと前に居てね。そしたらずっと私が追いかけるよ》


 アイリの笑顔は眩しくて、輝いてた。俺にはそれが出来ると思ってた。疑いもせずに自分にはそれだけの力があると過信してた。だけどそれはそうだったけど……そんな過信はいつか絶対に砕かれる物だったんだ。


【強くなりたい】


 その重さを俺は計り違えてた。


 

 そして今こうして自分の沢山の間違いを突きつけられて俺はまたこの言葉の前に居る。いや、連れてこられた感じだな。今度はこの言葉をちゃんと胸に刻めるのだろうか。その資格があるか?

 前を見ると更にアイリは辛そうに成っていた。肌には汗が浮かび、息が荒い。HPが黄色く成っている。どうしたら……どうしたらいいんだ!


「君はさぁ~ホントはどうしたいの? コレを助けたいの? そうじゃないの? 君にその気がないんじゃ面白く無いからもう捨てよっかな。

 見てみる? 使い捨ての末路」


 奴はそう言って続けざまにカーテナを振るう。人形みたいにアイリの腕を無造作に振るってだ。そしてその矛先は軍の連中に向いていた。

 百を越えてそうなその数が足蹴にされた様に潰されて行く。響きわたる断末魔の悲鳴が夜の空間にこだまし続ける。

 見る見る内にアイリのHPが減っていく。使い捨て……その言葉の意味を俺は悟った。奴は本気でアイリの全部を絞り出して捨てる気だ。


「やめろ……やめてくれ」


 アイリの苦痛に歪む顔が、滴る汗が、俺に何かを求めてる様な気がする。何か……なんて分かり切ってる事なのに、俺はそれを理解する事を拒否してる。

 まだ逃げる気だコイツ……自分に対してそう思った。さっき奴に言われた「どうしたいの?」その言葉はずっと俺が知りたい事なんだ。俺は一体どうしたいんだ。

 昔に戻りたくないなんて嘘なのか・・・本当はいろんな事全部清算したいんじゃないのか? でも……俺は自分が強くなんか無いと知ったんだ。

 仮面がとれたヒーローはただの人だった。だから迫る物が普通に怖くて、逃げ出したいと思う。だからこれからも逃げていくのか? それでいいのか? 

 そう思うもアイリの事を考えると動けない。だけどこれも体の良い言い訳だ。 

「やめてほしかったら止めて見せてよ。コレの電池……切れる前にやってみな」

 奴はあらかた片づけた軍から再び俺に向き直った。そして高く掲げられるアイリの腕……その先のカーテナ。そして俺に向かってその腕は振り下ろされる。

 だけど俺は動かない……動けない。クリスタルに背を預けてうなだれるだけだ。俺は結局……いつまで経っても守りきる強さなんて手に入れられないんだ。

 もう直ぐカーテナの攻撃が降り注ぐ。俺はこの場から退場出来る。そう思った……けどカーテナのけた外れな攻撃はいつまで経っても来ない。


「あは……ちょっと面白いかも」


 そのおかしな言葉を確かめる為に俺は顔を上げた。するとそこには苦痛に顔を歪めながらも自身の腕を支えるアイリの姿があった。アイリの視線が俺に向かってる。


「逃げて……」


 そして出てきた信じられない言葉。なんで……どうしてこの状況でアイリはそれを言うんだ。


「逃げなさいよ……このヘタレ!」


 その言葉が出たと同時に奴は大笑いしだした。そして俺はポカンと呆ける。アイリの言葉は最もで俺には呆けるか頷くかしか出来ない事だったんだ。


「あはははは、面白いわアナタ。コレなんて言ってごめんね。でもまだ待って。今度の相手はアナタだけど今はあのヘタレなの。

 面白く無いけど、ここで終わらせて直ぐに遊んであげる」


 そう言って奴はアイリの首筋に吸い付いた? するとアイリの瞼が再び重さを増すように閉じていく。奴は何をやっている? 催眠か? この距離ではよく分からない。

 最後に見えたのは絡まってない腕をこちらに必死に上げようとしてる様子と一粒の涙。そして僅かに動いた口だった。

 どうしてこういう重要な事は分からないんだろう。奴が言ったくだらない言葉は分かったのに、アイリの最後の言葉が分からないなんて……気になってしょうがない。

 やっぱりそれは「逃げて」かも知れないし案外「助けて」だったかも知れない。それかもっと別の何かだったかも知れない。

 結局今の俺にはそれを知る資格が無かったのかも。受け取った筈の言葉を頭が閉め出したのかな。本当にここで逃げ出せば全ては終わるだろう。

 出会いから始まった俺たちの関係は最悪の形でジ・エンドなんだ。物語風に言ったら最後の戦いの前に勇者は逃げ出しましたって感じだ。

 ブーイングも当然だな。そんな物語誰も読まないし、耳も傾けない。それに勇者が逃げたパーティーは勇者を除いたまま最終決戦に望み全滅しましたなんだ。

 俺はそんな勇者にもなれなかったけど……あの時、勇者が最終決戦に加われば勝てたのかな? そんな気持ちが芽生えそうに成っていた。


「じゃあバイバイ。今度はこの子と遊ぶわ」


 そんな言葉の後に今度はちゃんとカーテナは振り下ろされた。俺は殆ど考えず武器を頭上に掲げて両手で支えた。その瞬間凄まじい衝撃が武器から腕、肩を通って内蔵を震えさせ、足を地面にめり込ませる。


「がっ……はっ!」

「へぇ~もういいのよ頑張らなくて。辛いんでしょう。逃げ出したいんでしょう。逃げてもいいって言ってくれたんだから遠慮せずに逝きなさい!」


 奴のつまらなそうな声が届く。興味は俺からアイリに移ったようだ。カーテナに黒い物が巻き付いていてそれは次第にアイリの腕を飲み込んでいく。

 それに伴い、体に掛かる重圧も増していく。俺はどうしてこんなに抵抗してるんだ? さっきまでもういいと、繋がりを終わらせようとしてたのに……アイリに逃げて良いと言われて、だけど逃げたくないと思った。

 自分の心が滅茶苦茶すぎて自分でも分からない。今の俺は心と体が繋がってないんだ。だから今にも切れそうで負けそうだ。力が出詰まって……押さえられてる。

 それが出てくるまでの回路が直結してない感じだ。その時後ろで何かの音が聞こえてきた。ピキ……パキ……とヒビが入る様な音。俺は地面に膝を付く。いよいよここまでか……遅すぎたのか? 

 今更勇者が来たところでゲームオーバーは変わらないのかも知れない。一人じゃ何も出来ないんだ、勇者も人も。変わりはしない目の前の事。

 だけど立ち上がった事に意味は無いのかな。勇気を振り絞る事だけだとしても、そこには何も残らないのかな。俺のそんな考えに応える様に後ろで何かが砕けた様な音がした。

 それはあのクリスタルの砕けた音だった。俺にも破片が降り注ぐ。その中の一つが俺の前に飛んできた。それは丁度掘られた一言の部分。何度も考えたあの一言。

 それを見た瞬間に、だけど俺には違う言葉が流れた。それはさっき聞き取れなかったアイリの言葉。


【もういいよ……忘れて】


 その瞬間、俺は大きく叫んだ。一瞬で沸き上がったそれがきっとずっと悩み続けていた事の答え。


「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は強くなりたい! 降り懸かる重圧を切り裂いて立ち上がる。回路は繋がったんだ。それは余りに簡単すぎた事。当たり前すぎた事だった。

 俺は駆け出す。奴に向かって。答えを見つけた事で迷いは消え槍には力強い輝きが見えた。その輝きが俺の勇気を映してくれているみたいだ。


「俺は助けて見せる! 今度こそ! そして貴様は許さない!」

「はは……あははは! いいわ、さあ来なさい。君をもう一度沈めて上げる! 知りなさい! カーテナ――その国を支える王の力を!」


 小さな剣が黒い輝きに満たされる。けれど俺は真っ向から槍を放った。その瞬間二つの衝撃が光明の塔を傾かせる。

 第四十一話です。

 またまた遅くなりました。ごめんなさい。なんだかもう早く書くのは無理かもと思う今日この頃です。昼か夕方には更新したいんだけど……全然書きあがらないのです。

 複雑になりすぎて自分の頭の中で破裂しそうです。それでもなんとか書き続けて行くと宣言します。諦めたらそこで終わりなんです。セツリも言ってたしスオウも言ってたよ。

 二人が幸せになるかは分からないけど思い描いてる完結まで突っ走ります! その先に屍が待っていようとも! 応援してくださる方々の感想待ってます! ではまた明日か、出来れば今日! 上げる予定の第四十二話でお会いしましょう。

 ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ