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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
404/2696

世界の変容の中で

「「エイルと! リルレットの! 何故何故LROコーナー!!」」


 わーーーー!! (パチパチパチパチ)


「はい、では第二回だぞ、この野郎!!」

「え~と、いきなり何でエイルが毒づいてるのか分からないけど、今回は前回で予告した奴やっちゃいますよ」

「ええ!? マジで? てか、毒づきがスルーに近いのにガックリだよリルレット! もっと弄ってよ」

「ええ~弄る要素なんかあるの? どうせキャラ付けで自分は毒づきキャラだったって思いだしただけでしょ?」

「……う、まさにその通りだけど」

「でもねエイル。エイルの毒づき設定って実はスオウ君にだけなんだよ。他の人には全然毒づいてないから、そのキャラはここじゃ不要だと思うな」

「そんな!? じゃあ僕は何を売りにすればいいの? あのムカつく糞ったれが居ないと自分のキャラも立たないなんて最悪だよ!」

「大丈夫だよエイル。エイルは実は貴重なソーサラー枠じゃない。その内きっと出番があるよ。まあここじゃ意味ないけど。でも本編で出れることの方が重要じゃない!! 

 私なんて前衛だよ……もう飽和状態だよ。私をメインパーティーに加える必然性がないよ」

「リ……リルレット……大丈夫だよ! もしかしたら僕達メインに番外編があるかも知れないじゃないか!」

「そんなのあり得ないよ。だって地味だもん。そもそも前回から始まったこの企画の時点で、私達なんて【誰?】状態だよ。反応全くないし。まあそもそもそんな反応なんて無いタイトルなんだけどね」

「そ、それは作者がツイッターもフェイスブックも味気ない宣伝しかしないからだよ! つまらない人生送ってるせいで書くことないんだよ。僕達のせいじゃないよ!」

「でも、ほら考えてみてよエイル。私達だってリアルじゃ普通の学生よ。書くことなんかないよ。そもそも日常を晒すって怖くない? 私は責めれないな。言いたい事があるとすれば、やっぱり外伝お願いします! かな?」

「期待してるじゃん!」

「頑張ってるもん。私達だって頑張ってるもん! 普通の何の変哲もないプレイヤーが一生懸命蚊帳の外で世界の変容に対応していく様も良いかもしれないじゃない」

「まあ……そうかも知れないけど、そういうのってつじつま合わせが大変だよね。もしもやるなら、もう本篇での出番を望んじゃいけないかも」

「ええ!? それじゃあアギト様に会えないって事?」

「リルレットまだアイツの事思ってたの? もう恋人いるよねあれ?」

「別に恋心じゃありませ~~ん。ただの憧れです。まあちょっとは残念だけど、相手がアルテミナスのトップじゃ……って何か忘れてない私達?」

「そうだね。何か忘れてるかも知れない。そんな気がするかも」


 すると何やらどこからともなくゴゴゴゴとプレッシャーが!! なんだろう、仕切りの向こう側からとてつもない力と怒りを感じる。


アイリ「ふふ、私だけ……来たの私だけなのに、放ったらかし……うふふ」


「ヤバい、殺されそうだよリルレット」

「大丈夫よ。カーテナは自国の領土内でしか力を発揮できないわ。あれがなければアイリ様なんて私と何も変わらないわ。それにアイリ様は優しいじゃない。寛大な心で迎えてくれる筈!」

「すでにかなり放ったらかし状態だけどね」


 二人は友達感覚で仕切りの向こう側へ、するとカーテナで素振りしてるアイリ様の姿があった。


「「「あっ」」」


 アイリ様と目が合う二人。そして優しげにニコリと微笑むアイリ様。その瞬間、二人はゆっくりと土下座した。


「「「お待たせしてすんまっせんでした!!」」


 ――てな訳で【一体どうなの? バランス崩し所持者の事情】は次回にお送り致します。


 やらなきゃ行けない事が沢山だ。出来るかどうかじゃなく、やらなきゃいけない。完敗しててこんな事を言っても説得力なんか無いだろうけど……まだ僕は諦めてなんかない。

 僕の腕の中にはリーフィアがある。僕とLROを繋ぐアイテムだ。そして目の前には僕の担当医の医者に看護婦さん。そして直ぐ横には日鞠も居る。

 朝っぱらからここまで来て……ほんと過保護な奴。まあそうさせてるのは僕なんだよな。僕が心配ばっかりかけるから、日鞠は安心できない。


「スオウ、大丈夫? 眠くない? お腹いっぱいになった? 体調は良い?」


 日鞠のそんな声に、僕は「大丈夫、大丈夫」って返す。だけどそれでもやっぱり不安なんだろう。医者の方をみて確認するよ。


「本当に入って大丈夫なんですか? だって昨日の今日ですよ?」


 日鞠の瞳にはまだ昨日の光景がきっと焼き付いてるんだろう。僕は死に掛けてたからね。他人事みたいに言ってるけど、自分の事なんだよね。

 だけどそれでも……僕はここでもう一度行くことを選択するんだ。それは日鞠も納得してた事の筈だけど?


「それは……そうだけど、やっぱり心配は心配だもん。死に掛けてたんだよ。普通もっと安静にする物だよ」

「確かにな……」


 それはまあそうだね。普通はもっと大事を取るかな? でもいつまでも寝てる訳には行かないよ。LROはこっちとは時間の流れが違うんだ。まあ、時間の流れが違うからって、いつもよりも早く動ける訳じゃないけどね。

 一つの事をやるためには、こっちよりも時間が掛かってる様に思えるかも知れない……でもそれは結果的に焦りとかを生んでリアルよりも事態は早く進むんだ。

 だからこっちでのんびりしてたら、いつの間にか取り返しのつかない事に成ってるかも……秋徒から聞いた話では、ローレの行動はかなり早いらしいんだ。

 世界が対応する前に、先手を奴は打ってるって聞いた。あいつが着々と手を進めてるのに、こっちでゆっくりしてる訳には行かない。

 もう僕達には後がないんだ。邪神は復活、世界樹は枯れて、クリエは再び捕らわれた。手も足も出なかった邪神……イクシード・アウラの要のローレは敵で……実はもう詰んでるんじゃないかと思える状況だ。

 でも、僕は考えを改めた。勝つって事を考えた。僕達にとっての勝利って奴を考えた。世界がどう変容しようと、見失っちゃ行けないことを思い出した。

 だから一刻も早く……僕は向こうに戻りたい。


「本当は安静にしてほしいですよ。ですが、それは無理なお願いでしょう? 医者としてやれる事はやってます。そもそもその機械がどうやって命を奪うのか……私達には理解出来ませんしね。

 無理に止める事も出来ませんよ。それに彼は逆に行かせないと危ない様に思えます。自分達に内緒で無茶をやられるよりは、まだ私達がちゃんと知ってる分、マシですよ」


 なんだか医者にはすでに問題児扱いされてるな。いや、それも今更だけどさ。それに僕がなんとしてもLROに行こうとするのは分かってるから……ってのも妙に納得できるね。

 下手に反対して知らない所で無茶やられるよりは、自分たちの目が届く範囲の方が色々とやりやすいんだろう。


「それは君も一緒の筈でしょう?」

「それは……そうですけど」


 医者の言葉に日鞠も頷く。そして大きく一つ息を吐く。


「スオウ!」

「なんだ?」


 随分としっかりと口調と力強い瞳だな。真っ直ぐに僕を見つめてる。


「こっちは任せて。綾野さん達の所には私がリーフィアを届けるよ。佐々木さん達が貸し出してくれて良かったね」

「まあ、無茶やってるし、この位はな。でもやっぱり大変そうだったな」


 電話越しだったけど、バタバタしてたのは良くわかったもん。意識が戻らない人が増えてるらしいし、そこら辺が大変なんだろう。

 今の問題が片づいたら、そこら辺も中で探らないとな。流石に放っとける事じゃない。だけど今はそれどころじゃないんだ。


「流石にこのままサービス停止は後味悪いよね」

「全くだ」


 そうなったら……きっと今年の夏は今までで最悪の夏になるだろう。


「そう成らないためにも頑張るんだ。クリエとの約束果たして、それから次はセツリの奴だ!」

「…………そうだね。私も実はセツリちゃんには言いたいことがいっぱいあるから、早く助けて欲しいな」

「言いたいこと?」


 一体日鞠の奴がなにをセツリに言いたいんだ? だけど日鞠の奴は含み笑いをするだけで教えてくれない。


「ふっふ……それはほら、女の子同士でのことだよ」

「ふ~ん」


 なんだか怪しいな。女子同士ね……なんかドロドロしてそうだな。そもそもセツリと日鞠ってなんかあんまり相性良いようには思えないって言うか……まあこいつが誰かと不仲って事は表面上はあり得ないだろうけど。

 でもここでそんな先の事考えてもどうに成らないか。


「まあいいや、それよりも頼むぞ日鞠。本当は秋徒とかでも良いと思うけど……」

「それはどうだろう? 秋徒は二人とほとんど面識ないよ。それは厳しいと思うな。大丈夫、この日鞠ちゃんに任せれば万事オーケーだよ。

 良く知ってるでしょ?」

「それもそうだな」


 確かに良く知ってる。頼りに成る奴だって良く知ってるさ。


「じゃあ、行ってくるよ。日鞠」

「うん?」


 朝日が射し込む中、僕は誓うようにこう言うよ。


「ちゃんと戻ってくるから。必ずさ」

「…………当然だよ。戻ってこなかったら、私が迎えに行くからね」


 日鞠の手が僕の手に重ねられる。染まる頬、艶やかな唇、優しげな瞳……いつも見てて、いつまでも見てた日鞠だ。

 ただ見つめあうだけで、なんだかおかしな雰囲気に成る感じ。ドキドキする鼓動が分かる。だけど落ち着いて僕はその手にもう片方の手を重ねて日鞠に戻す。

 だって今は……ダメだろ。他人がいるしね。


「スオウ……」


 ちょっと残念そうな声をだす日鞠。こいつ狙ってたな。しょうがない奴だから、僕はこういってやるよ。


「また、今度な」

「うん!」


 喜んでそういう日鞠。僕はそんな日鞠の笑顔を瞼に焼き付けて【ダイブ・オン】を唱える。




 病室とは違う臭いが鼻孔を擽る。風も吹けなかった室内だったけど、今は僕の体を優しい風が撫でてるのが分かる。そしてなによりも嬉しいのは……自由に動く手足。地面にしっかりと立ててる事実。

 これだけの事がなんだか嬉しい。健康な時は普通過ぎて気づかないけど、五体満足って素晴らしい事だよね。瞳を開けると、目の前には緑色の大きなクリスタル――いわゆるゲートクリスタルって奴だね。

 今更だけど、このゲートクリスタルも国によって違いがあるのかも。アルテミナスは緑じゃなかった様な? 赤だったかな? まあだけどどうでも良いことか。

 そう思ってると、ゲートクリスタルに映る自分の姿に驚愕。なんかテトラの呪いである模様が首等辺まで来てるぞ? そんな!? ってかまだ掛かってたのかよ。契約破棄したのはあいつの方からだぞ!

 呪いだけ残していくとか、信じられない。すると後ろから聞き覚えのある声がした。


「ちょっと、何やってるのよ。こっち向いて私たちを安心させなさい」


 僕は取りあえず襟までチャックを閉めて呪いが見えないようにする。ちょっとおかしいかな? でも、みんなにこれ以上心配かけるのもどうかと……不自然かも知れないけど、取りあえずこれでいくさ。

 腕の方は前からだし、隠すことに意味はない。問題は服で覆われてる部分がどこまで侵攻してるかって事だ。


「よっ、セラ。無事だったか?」


 軽い感じでそう言ってみた。あんまり深刻そうせずにね。だけどどうやら、そういうわけには行かないみたいだな。


「それはこっちの台詞よ。アンタ……体大丈夫な訳?」


 セラが僕の全身を眺めるように見てそういう。まあ幾らみても、こっちの姿にリアルは反映されないけど。セラだってそこら辺は分かってるだろうけど、ついついって事だろう。

 すると隣のシルクちゃんがフラフラした足取りで近づいて来て、手を取った。ええ? ちょっとドキっとするよ。


「スオウ君……ちゃんとスオウ君だよね? 生きてるよね?」


 シルクちゃんが涙顔をあげる。ずっと心配してくれてたのかな? シルクちゃんなら……気に病んでてもおかしくはないかも。本当に優しい人だからね。


「大丈夫。ちゃんと僕だよ。それに生きてる。なんとかね」

「ごめんなさい……私が真っ先にやられちゃったから……」


 すると肩のピクも「ピク~~」とテンション低めに泣いた。


「ごめんスオウ君……僕たちは……何も出来なかったよ。本当に済まない」

「自分が不甲斐無いな」

「自分も情けないっす!」


 テッケンさんに鍛冶屋、そしてノウイもこちらに向かって頭を下げる。そんな……みんな気にし過ぎだろ。


「誰かのせいじゃないですよ。僕たちは自分達のベストを尽くした筈です。僕に謝る必要なんてない。けど……僕達は負けた。

 それだけは受け止めます」


 負け……その言葉を出した瞬間、空気がズドーンと重くなった気がした。カンカンカンとそこかしこで聞こえる大工音。そしてワイワイガヤガヤとしてるリア・レーゼの雰囲気の中で僕達だけ異質な空気を放ってる。

 いや、実際は慌ただしいだけで、リア・レーゼの人々もそこまで元気って訳じゃない。そこかしこで空を見上げたり、ため息ついてる人たちも結構いる。

 だけど今は、街の復興に気を向けて誤魔化してるのかも。


「邪神は復活……世界樹は真っ黒になって……私たちは皆さんの期待に応えられなかった。なんだか居たたまれないですね」


 確かにシルクちゃんの言うとおり、なんか居心地悪いかも。皆さん僕達に気づいてないけど……って言うか、よく考えたらリア・レーゼの人々はそんなに知らないか。

 そもそも街に出たっけ? ここは本殿外周のゲートクリスタルな訳だけど、よくよく考えたら、リア・レーゼに来て、直ぐに牢獄行きだったし、それからはこの世界樹周りの建物しか僕は行ってないな。


「これからどうするの? もう……出来る事はないかもだけど……」


 いつにもなく弱気なセラ。


「スオウ君はでも諦めてないんだろう? メールに書いてあったことはどう言うことなんだい?」


 テッケンさんが弱気になってるセラよりも前に来てそういった。こうやってみんなに集合を掛けたのは僕だからね。

 ホント誰もがみんな来てくれるんだから感謝するしかない。仲間だから当たり前……とか言えないよ。だってみんなリアルでの生活だってある筈なのに……こんな僕に付き合ってくれてる。

 休みの僕と違って時間を取るのが大変な人だってきっといると思うんだけど……どうなんだろう。だけどそこは聞かないお約束。心で感謝だけしとくよ。

 僕はみんなを見渡す。いつもよりもテンション低めのみんな……まあ元から騒がしい面子でもないけどね。でも今は明らかに疲れとかが見える感じ。

 あれだけ頑張ったんだもんな。それでも得られた物は何もなかった――とは言わないけど、結果があれじゃテンション上げる方が無理だろう。


「確か大切な事を見失ってた――とか書いてあったっすね。どういう事っすか?」

「それは……いつの間にか最初の目的を忘れてたって事だよ。僕達はクリエの願いを叶える為に動いてた筈じゃん」


 僕がそういうと、なぜかみんなは顔を見合わせてる。えっと……あれ? なんだか予想してた反応と違うな。

 僕の予想では「ああ~!!」てなのを予想してたんだけど、なんか違う。


「まあ確かにあの子の事もあったけど、私達の目的はアンタの呪いの除去だったわよ。その道すがらにクリエが出てきたんでしょ?」

「お前の呪いは邪神から受けた物……邪神復活は色々と不味そうだったし、俺たちが動いた目的はそこら辺もあったぞ」

「でもでも、ちゃんとクリエちゃんの事だって私達考えてましたからね」


 あれ~クリエを優先してたのは僕だけか? シルクちゃんがフォローしてくれたけど、でもなんだか意識の違いがあったみたい?

 いや、そういえばみんな最初から言ってたっけ? でもクリエの重要性とかで変わってきてた様な気がしてたんだけど。


「だけど、クリエの願い……僕の呪い、邪神の望み。それは切っても切れない事だっただろ? 僕達はさ、大きく成っていく事態に流されて行ってたんだと思う」

「それは……確かにあるかもな。元老院の事に、ローレの奴の思惑、そして聖獣に邪神……続いてく戦いに俺達は目の前の事しか見えてなかったかも知れない」


 意外な事に鍛冶屋がそんな事を言ってくれた。みんなあの日の事を振り返る様に黙った。


「僕はさ、あの戦いの中で力をずっと求めてた。聖獣を倒せる力。ローレを止められる力。そして邪神を越える力」

「それは間違いじゃないと思います。力がないと何も守れません。クリエちゃんやこの世界を守るには力がいります」


 そんなシルクちゃんの言葉にピクが「クピークピー」と同意するような声を上げる。


「確かにシルクちゃんの言うとおりだよ。何かを守るには、守れるだけの力が必要だ。綺麗事だけ並べたって、何も守れない。

 それに守る為、自分の思いの通すために力を求めてた訳だしね。でもそれじゃ勝てないって分かったのも事実だよ。

 いいや、そもそも僕達が見失ってたのは、自分達にとっての【勝利の条件】だ」

「勝利の条件っすか? それこそ邪神復活の阻止だったはずっすよ」


 ノウイの言葉に続いてセラもこういう。


「そうね、邪神復活は許しちゃいけない事だったのは間違いない。でも……それも最初は聖獣討伐が目的だった筈だけどね。

 けど、あれだけいろんな所を巻き込んだのに、結局これだからね。今更勝利の条件をすげ替えても意味ないと思うけど?」


 やっぱりセラの奴は厳しいな。確かにいろんな所を巻き込んだ。大多数がサン・ジェルクで、そして僕達はここリア・レーゼの人々の思いも背負ってた筈だった。

 それらを無視して、邪神復活は仕方ない……なんて言う気はない。


「なら、どうするのよ?」


 厳しい瞳で見つめてくるセラ。本当に厳しいな。だけど、変に甘やかされるよりは上等だって思えるよ。それにこいつだって自分の責任とかを投げ捨ててる訳じゃない。

 それならそもそもここに来る筈ないしね。僕は実はずっと手を握ってくれてるシルクちゃんの手に、もう一方の手を重ねて言葉を紡ぐ。


「責任はとる。このままローレと邪神を野放しになんかしない。だけどもう僕は見失わない。目指すはクリエの願い。夢見たその望みただ一つだ」

「スオウ君……」

「ちょっ! アンタシルク様に近すぎよ。今直ぐ離れなさい!」


 折角シルクちゃんのポッと赤面する顔を眺めてたのに、邪魔するなよな。超可愛いぞ。


「だけどスオウ君、責任をとるってどうするんだい? そもそもそれじゃあ目的は二つに成ってるような? 邪神を倒す以外に責任なんて僕達にはとれない。

 と、いうか世界は許さないだろう」

「そもそも全ての責任を押しつけられる言われもない――は言えないか。大丈夫ですよ。責任って言ってもそんな大きくとらえないでいいと思います。

 現に邪神は復活したけど、世界はそんなに変わってないんでしょう?」


 そう聞いてる。まあ政治方面はドタバタしてるらしいけど、そんなのは国の上の方の人達の事情だからね。秋徒に聞いた話だとかなり騒々しい事になってて、各国混乱してるらしい。

 まあそれもローレの想定通りなんだろう。


「今の所は……だよ。ローレ様はあの時言ってた言葉通りに、邪神と上手く交渉をしたみたいだね。だけど世界に異変は出てきてる。それは掲示板を見ればよくわかる。

 フィールドにも強いモンスターが溢れてる……というか、こちらの世界樹の力が無くなったせいか、モンスターが力を増してるみたいだよ。

 高難易度ダンジョンは色々と大変になってるらしいし、世界中に天変地異は確かに起きてるんだ。これが世界の滅亡の始まりなのか……それとも収まって今の状態が続くのかは、正直わからないけど……プレイヤーもNPCも不安がってるのは確かだよ。何も変わってないなんてとんでもない」


 だからこそ、それだけの責任を取るには邪神を……ってことなんだろうか? 確かに邪神を倒して、世界樹を復活させる事が出来れば、世界は今までの様に廻るのかも知れない。


「テッケンさんの言うことはわかります。周りが不甲斐無い僕達を許せなく成るのもわかる。責任は止められなかった僕達に……でもハッキリ言って、僕は邪神に……いや、テトラに勝てる気しません。今の所は」


 最後に今のところ――ってつけたけど、完全に強がりだから。勘違いしないでね。だって勝てる気しないってただ言うのは癪だったんだ。


「勝てないって、アンタらしくないわね」


 直ぐにそんな事を言ってくるセラ。全くズバズバ来るんだから……もうちょっと察しろよ。結構心を削って言ったんだぞ。


「そんな事言われてもな。実際アイツとやった事あるの僕だけだし、その経験からの結論だよ。あれはまさに神の強さって奴なんだろうと思う。

 それに自分でラスボスって言ってたしさ、今の僕達が勝てる相手じゃないよ。真っ向勝負では。なんたってイクシードの進化系でも無理だった。

 あれならまだ付け入る隙がある分、バランス崩し持ちの相手の方がマシと思える位だ」


 バランス崩しも相当だけど、あれはなんだか格が違うって言うか……次元が違う感じだな。ほら、普通のRPGに時々ある、絶対に勝てない相手って感じ。強制バトルにまで発展するのに、負けないとイベントが進まない奴っているじゃん。

 今のテトラと僕達の関係はそれに近いと思うんだ。そもそもラスボスがここで出てる時点で、なんか補正でも働いてるんじゃねーか? って思う。

 それかむしろ、最後のそのラスボスとしての登場時でないと倒せない制約とか。その時しか戦う予定もなかったから、倒せる条件にシナリオラストの戦闘――って成ってて、寧ろそこがラスボス最大のサービス場面って感じに成ってるのかも。

 あり得なくもないと思う。まあただ単に実力不足なだけかも知れないけどね。


「ラスボスね……確かにそれなら、私達だけで勝のはきついわね。そもそも既に出てる上級難易度の戦闘は少数じゃまず無理だしね。

 じゃあアンタはどうする気なのよ。勝利の条件……納得できるんでしょうね?」


 セラの向ける瞳をみて、僕は頷く。納得……して貰えるかはわかんないけど、やっぱりこれしかないと思うんだ。


「世界はテトラを受け入れてるんだよな?」

「受け入れてるって言うか、それしかないって感じっすね。その選択しか出来ない。邪神の言葉で今は暗黒大陸の凶暴で凶悪なモンスターは攻め込んで来てないっす。

 それにどこも邪神を敵に回したくなんかないっすよ。それをすると邪神は自分たちに牙を向くのは分かりきってる事っすからね。

 ローレ様は邪神と各国を繋ぐ中継役として、その地位を一つの街の代表から、一人で全種族を相手取る事が出来るまでに高めてるっす。

 本当に恐ろしい人っすよ」


 声が震えてるノウイ。ローレは本当に突っ走ってるな。秋徒に聞いてたけど、どうやらアイツの目的は順調に進んでる様だ。


「なあ、どうしてテトラはローレについてるんだろうな?」


 僕がそういうとみんなポカンとした。


「何を言ってるのよ? それはアンタが一番良く知ってるはずでしょう? あの場に居たんだから」


 確かに、それはそうだんだけど……


「そこはさ、本当はとっても重要な部分じゃないかって思うんだ。テトラはなんでローレの言葉に乗った?」

「それは、自分の願いの為だろう。それ以外に何がある」


 鍛冶屋は的確にそういうよ。


「確かにね。でもアイツはこっちに出てこれたから、僕は不要と言った。それって既に自分一人でやれるからじゃないか?

 それなのにローレにのっかってる……自分の邪魔をさせたくないのなら、尚更強力なモンスターを暴れさせておけば良いじゃないか」


 それならその間にチャチャッと終わるだろう。こんな時間も掛かって面倒な事に付き合う必要なんてそもそもテトラにはないと思う。

 でも奴はわざわざ交渉なんて物のテーブルについてる。これが事実だ。そこには何かある……って日鞠が言ってた。


「なら、それが必要だったって事じゃないっすか? 各国の協力が実は必要だったとか?」

「そうかな……考えられるけど、アイツは既に金魂水を持ってる。そんな物どうにでも成るはずだ」


 願いを一つだけ叶えるアイテム。でもその効果は実際どれほどなのかわかんない。無条件に何でもいいのか……でもそれは流石にっても思うよな。

 けど、金魂水の後に求めたのがクリエだった。そしてそれで満足してそうだった。僕には今テトラがローレに付き合ってるのは蛇足としか思えない。


「邪神は倒せない……世界は邪神を受け入れつつある。全ては丸く……それこそローレの思惑通りに収まろうとしてるわ。

 それって私達が動けば、その均衡が壊れるって事じゃない?」


 セラは厳しい視線を向けたままそういう。


「確かにそうですね。スオウ君はクリエちゃんを助ける気ですよね? 私もそれには賛成ですけど、セラちゃんが言った事も気になります」


 シルクちゃんは肩のピクを撫でながら僕をみる。慌ただしい音に激しい風の音。小さなモブリがそこら中で動き周ってる。

 僕は後ろの世界樹へと振り返る。


「僕達は世界の為にいつの間にか戦ってた。でも今度は、僕達は世界の敵に成る。収まろうとしてる事態を再び引っかき回そう。

 そうしないとクリエの願いは叶えてやれない」

「アンタ、そんな事したら!」

「だから敵に成るって言っただろ。でもみんなはまだ選べるよ。僕はこのままクリエを見捨てるなんて出来ない。約束したんだ……僕の命を救ってくれた奴と」


 そしてその子の事も……救いたい。このまま収まりの良い場所で終わらせてたまるか。すると僕の言葉を聞いて、みんな大きくため息一つ。


「全く、少しは損得勘定を出来るように成った方が良いわよアンタ。それに何か……まだ私達に隠してない?」


 ギクっとなる僕。なにを見抜いたんだコイツ?


「アンタが他人の為に頑張るのはいつもの事よ。だけど登場人物が増えてるじゃない。誰が命を救ったの? その子とクリエの関係は? 今更隠し事なんか許さないわよ」


 みんなの強い視線が僕に刺さる。別に隠してた訳じゃ……みんなが協力してくれるなら話すつもりだった。でも、今じゃないと駄目みたいだな。

 僕はみんなにサナの事を話す。



「スオウ君……私は……世界を敵に回して見せます!」


 涙をポロポロ垂らしながらそういってくれるシルクちゃん。空の雲が形を変える位の時間を掛けて話して、真っ先にシルクちゃんがそういってくれたよ。

 そしてそんなシルクちゃんに続いて、セラもノウイも鍛冶屋もテッケンさんも頷いてくれる。


「こんな事を聞いたら、協力しない訳には行かないよ!」


 テッケンさんは気持ちよくそういってくれたよ。僕達の気持ちは再び一つにつながった。さあ、行こう。世界を敵に回してでも、小さな子達の願いを叶えに!!

 第四百四話です。

 なんと前書きも詐欺っちゃいましたね。前回の予告は何だったのか!! まあ次回にあるようなので勘弁してください。てか、エイルとリルレットはやり易くていいですね。

 エイルはあんな感じだけどリルレットはそうだったっけ? って感じもしないようなするような。

 でも多分リルレットですよね? 

 てな訳で次回は、金曜日に上げます。ではでは。

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