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命改変プログラム  作者: 上松
第一章 眠り姫
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言葉の力

 私は逃げて逃げて逃げて逃げて一回撒いたけど、次には遂につかまってしまった。それも異常な奴等に。そいつらはガイエンの側近? 奴が率いる部隊『親衛隊』のメンバーだった。

 私が首を絞められて絶対絶命の時現れたのはガイエンの息がそれほどかかって無い黒甲冑の軍の小隊。私は僅かな望みにすがり、言葉という見えない力に活路を見出す。


「はぁはぁはぁ……」


 後ろからは金属音を響かせた足音が迫ってる。少しだけ振り返って確認すると、黒い甲冑に身を包んだアルテミナス軍の姿。

 やっぱりサクヤの相手はきっとガイエンだけがやってるんだ。だから後ろから追いかけてた人達がそのまま私を追いかけてる。

 サクヤは大丈夫かな? 考えないようにしてたけど無理だよ。だってガイエンの攻撃はHPを削る。もしもHPがゼロになったらサクヤはどうなるの? 消えてなんか欲しくない。

 必ずサクヤを救うためにも私はアギトを見つけて、アイリを一刻も早く助けないといけない。待っててねサクヤ。必ず戻るから。

 それにはまずアギト、そして後ろの軍を振り切らなきゃ……きついけどね。だって絶対的な地の利は向こうにある。私はまだこの街に来たばかりで全然わからない。城の中から見たけどそれも景観位だよ。地図がないとどこが行き止まりでどう走るのがいいのかもわからない。

 上から見るのと目線で感じるのでは全然違うんだもん。



「ああ、もう!」


 余計な事は考え得ないでいいや。元々私、直感派だし。向こうでは行動がそもそも出来なかったから一杯考える事をしてたけど、今は走る事が出来るからそっちに集中。

 大丈夫……私はまだまだ走れる。初めて自分で風を感じた時の事を思い出そう。肌を撫でる空気の流れは優しくて、植物の臭いが肺一杯に広がってね。

 その空気が全身に巡って力になる感じがわかるの。ここは植物と言うよりも街の臭いが入ってくる感じだけど。石とそれを伝う光明の臭い。

 それは意志の強さと培った歴史……堅く纏まった思いの香り。私達を追っているのはそんなもの。歴史はまやかしだけどね。


 とにかく今は、アギトを見つけるまでは捕まるわけには行かない。サクヤは私に託してくれたんだ。それに信じてくれた。

 私にも出来る事があるって私も思いたい。だから絶対絶対絶対……捕まらない! 腕の中でぐったりしてるクーも少しだけ喉を鳴らして応援してくれた。

 私はキュッとクーを抱きしめる腕に力を込める。プレイヤーの波をかき分けて私は走ろう。木を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中ってね。

 一人のアドバンテージを使わなきゃ逃げる切れる筈もなく、逃げるだけじゃまたダメなの。私には目的があるから。

 取り合えず目指すは一番目立つ光明の塔にした。

 全然知らないんだし、アギトの行方も分からないから取り合えず目立つ場所だよ。そしてそれまでに後ろの人達を撒く。これも目標。


(よ~し、がんばろう!)


 私は不安を押し隠す様に心で宣言。サクヤが信じてくれた私を私が信じるために。そう思うとちょっとだけワクワクがわいてくる。これは私の、初めての冒険。



 人混みの流れに逆らって俺は走る。やってしまった……そう思うも後悔は先には立たないんだ。自分の今の行動はきっと誰かに迷惑掛けてる。

 具体的には多分城に居た、セツリとサクヤだろう。どんな理由であれ俺はこの国の正規軍を攻撃したんだ。ガイエンなら理由なんて適当に付けて二人を拘束したはずだ。

 だってアイツ、前からエルフ至上主義だからな。考え方が偏り過ぎなんだよ。自分がエルフだからエルフ中心の世界を……エルフの国は自分が王でなくては許せない。


 アイツのLROへの熱の入れ様は異常だ。まあ、ここに来ておかしくならない奴が少ない訳じゃないけど……かく言う俺も始めたばかりの時は入り浸ってた。

 学生だから学校から帰ってきて、また学校に行くまで。昼夜が完全に逆転した生活をやっていて、それを苦に思わせないほどここLROは魅力的だったんだ。

 一部の人にはそう……麻薬的な程に。それか現実逃避か……

 俺はそこに行く事は無かった。それは自分をリアルに向けさせる出来事があったから……LROから遠ざかりたくなる事があったからだ。

 皮肉な事だな。あれがなければ俺もおかしく成っていたのかも知れないと思うとさ。LROにセツリやスオウと違う意味で囚われてしまったんだろうか。

 でも……そのせいで傷つけてしまった人がいる。守れなかった約束がある。今更それを取り戻そうとか、許しを請おうとか思ってる訳じゃない。

 訳じゃない……のに……俺はやってしまったんだ。どうせこれもガイエンの策略かも知れない。もしも違ってたとしてもこの国のみんなはアイリの為に立ち上がってくれるだろう。それだけ愛されてる奴だ。


 だから今更、俺なんて必要ない。こんな負け犬……それなのに足は止まらないんだ。全部壊れてしまった。その筈だ。

 最後まで俺たちを繋いでいてくれた物をアイリは手放した。それで本当に終わって吹っ切れる……と思っていたのに。


「なんでだよ……なんでこんなに苦しいんだボケェェェェ!」


 周りの人達の奇異の視線が刺さる。いきなり大声を出して周りには大迷惑だろう。だけど今の俺にはさ……周りをおもいばかる余裕なんて無かった。

 自分でも……よく分からないんだ。だけど……だから走ってる気もする。


(もう一度……もう一度向かい合えたら・・分かるかな。俺は一体どうしたいのか……それが)


 その時開けた場所に出た。そして頭に降り注ぐのは弱々しく光る光明の塔。既に光明なんていえない光だけど。いつの間にかここに来てしまった。

 俺達の集合場所はいつもここだったから。そう、ついついって奴だ。浚った奴がそんな気を使ってくれる訳も無いのに……何やってんだ俺は。

 俺は周りを見回した。円形状に開けた場所に周りには沢山のクリスタルが石碑として佇んでいる。クリスタルは光明の塔からの光を受けてそれぞれ違う色を醸し出すんだ。

 俺達は決まってそう……あの一番片隅……緑の光を放つクリスタルの前で待ち合わせをしていた。アイリが緑を好きなのもあったし……あのクリスタルに刻まれた言葉が二人で好きだったってのもある。

 まだ始めたばかりで息詰まった時とかによく見てたな。

 俺の足は自然とその方向へ。その場に立つと、なんだか感慨深かった。そして視線はクリスタルへ――――刻まれた言葉はたった一文。


【強くなりたい】


 意味不明だ。こうやって改めてみると本当に意味不明だよ。でも……ここに入る度に思っていた事でもあった。だから俺達は、このクリスタルと同じようにこの言葉を胸に刻む為に見てたんだと思う。

 相手が何を思ってたのかは分からないけど……少なくとも俺はあの頃、アイリの為にそう思っていた……と自分で勘違いしてた。

 何も変わらないクリスタルが静かに俺にその文を突きつけてるみたいだ。強くなりたい……そう願った結果は何だったのだろうか。


「くだらないな」


 俺はだから言っている。別に許されたい訳じゃない。でも、今は沸き上がる衝動で動いてる。矛盾してるけどやっぱりアイリを探そうと思った。

 結局俺もあのリングを捨てられずにいるんだから。

 俺はきびすを返す。ここにアイリが居るわけがない。だからもっと別の場所を……いいや隅々まで探してやろうかと考えた。

 けど、その考えは杞憂に終わった。何故なら振り返った俺が見つけたのはそのアイリの姿だったから。

 ただし黒いローブに身を包んだいかにも怪しい奴に抱えられたアイリだけど……光明の塔を背にしてる奴が逆光で染まる。

 その時俺は確かに見た。口元が綻んで歓喜に満ちた様な笑みを浮かべた奴を。

 これが俺達の間に因縁を付けてきた奴との初めての邂逅。手が届きそうな距離であざ笑う奴に俺は瞬時に武器を向けた。



「うう~ちょっと不味いかも」


 私はなんとか最初の軍の追撃をかわした。だけどどうだろう……あの巨大なクリスタルに近づくに連れて軍の連中をよく見る。おかげでなかなか進めないよ。

 私は戦う事なんか出来ないから、出来ればこのまま隠密行動でアギトを見つけたい所だけど……よく考えたら軍だってアギトを追ってる筈だよね。

 ううん、アイリなのかな目的は? どっちにしてもそれなら鉢合わせは免れない。というか、こうやって軍が多く居る方にアギト、またアイリが居る可能性が高いんだよね。困ったもんだ。


「どうしようかクー」

「ピー」


 弱々しい声が帰ってきた。いつまでも人の家の庭に身を潜めてる訳にはいかないよね。クーはきっとサクヤが心配な筈だよ。それは私だってそうだし……でも、このまま戻ってもガイエンは倒せない。

 取り合えず今分かってる事は、目指すべき場所は間違って無かったって事くらい。多分この方向……光明の塔の方に軍はどんどん集結してる。

 でも強引に突破……なんて手が使えない私はどうすればいいのかな? クーが万全なら飛んで楽々だったけど、こんな弱ったクーをそんな酷使出来ない。

 それにこれは私の試練でもあるから……自分で道を切り開きたい。でなきゃ私はずっと足手まとい……そんなのイヤなの。

 サクヤは私を逃がしてくれたんじゃない……賭けてくれたんだから。私は震えてる場合じゃないの。息も整ったしそろそろまた動こう。


「行くよクー。私に勇気を分けてね」


 怖い……とっても怖いよ。誰にも頼れない状況がとっても怖い。それに肩にのし掛かる物もある。それは責任という物なのかな? 

 それは今までの私が背負うこと無かったもの。ううん、背負った事はあるかもだけど実感なんか無かった。私はいつだって誰かに寄生して生きてきたから。

 前はお兄ちゃんに……そして今はスオウに。昔はそれでいいと思ってた。だって私は一人じゃ何も出来ないから。

 でもそれはリアルの私。見たくもない向こうの私のこと。ここでも自分がそうだなんてありたくない。だってここの私はベットの上に居るだけしか出来ない私な訳じゃない。

 今の私は両の足で立つことが出来るんだから。今の私は責任だってなんだって自分で背負える筈だから。託された物を繋げる役目が出来る事が恐怖を越える。

 ここで私はやらなきゃどこでだって同じだよ。



 遠くに見える軍の目をかいくぐって私はまた走り出す。白い石を蹴って風を切る。私は実は足が速いらしいんだ。スオウがそう言ってくれたもん。


「一気に行くね」


 私は自分にそう言い聞かせる。何度も止まると追いつかれそうなの。不安や恐怖という黒い物に。やっとで振り切るのにそんな直ぐに追いつかれたらたまった物じゃない。


「どこに行くと?」

「―――っ!!」


 頭に降った冷たい声。影が私に重なる。ぬぐい去った不安や恐怖は新たな試練を私の元に引き連れてきたようだ。早すぎるよ! 


「かはっ……」

「セツリだな。ガイエン様の邪魔に成る物達はここで排除しておくか」


 首を捕まれてそのまま片手で私は持ち上げられた。信じられない……なんでいきなりこんな事……さっきまでの対応と違いすぎだよ。

 拘束なんて生優しい物じゃない……この人の攻撃で私のHPは削られてる。どう言うことなの? ガイエンと同じ権限がこの人達にもあるのかな。

 そういえば黒甲冑の軍の格好とはちょっと違う。握られた命の向こうで私は必死に視線を動かす。甲冑はそう変わらないけど、面はしてないしそれぞれ武器が違うみたい。

 いままで見てきた軍は顔は分からなかったし、武器も全部同じ支給品みたいなのだったのに……今、私を囲む人達はそうじゃない。

 カン――カン―――カンとその場に響く乾いた音。それは私が必死に抵抗をして目の前の敵に足をぶつけた音だ。勿論堅い鎧で守られたその人に効くはずなんてない。

 だけどこのまま殺されるなんてイヤだ。でも……何が出来るの私に? 武器も無い、スキルも無い私にこの状況の打開策なんて見いだせない。

 私に唯一みんなと変わらずあるのは……言葉を紡げるこの口だけ。それで生き残る事は出来るかな? 分からない……分からないけど……絶対に無理とは言えないよね。

 諦めないで……それは私がスオウに言ったこと。そして彼は私のそんな言葉を胸に刻んで困難を何度も乗り越えてきた。だから私も……諦めないよ。


「なん……で? 拘束……でしょ」

「するさ。貴様が死んで街のゲートクリスタルに戻った所でな。だから今はこの細首を捻るんだ。俺達は何度だって殺せるぞ」


 腐ってる……こんなのただの快楽殺人者じゃない。ゲームだからって死を楽しむなんて。底冷えするような不快感が募る。


「ふざけんな……アンタ達の主はアイリ……でしょう。こんな……ことしたら……」

「アイリ様なんてただの飾り。だがそれももう不要になる。我らの真の主が立つときが来たのだから」


 ガイエンか……こいつらはきっとガイエンに深く繋がった奴らなんだ。我ながらなんて運が悪いんだろうと泣けてくる。

 沢山居る軍の中でなんでこんな最悪なカードを引いてしまうんだろう。きっとガイエン派だけじゃ無いだろうし、まともな人は一杯いるはずなのにだよ。


「首を絞めてるのに生意気にも良く喋るな。うるさい、そろそろ黙れよ」

「かっ……はっ……」


 腕に力が更に込められた。ダメ……これじゃあ言葉も紡げないよ。意識が遠のく……HPが黄色に入ったのが見えた。死という感覚が本当に迫ってる。

 軍の行動に意見する人なんていない……私は本当にここまでなのかな。暴れていた体から徐々に力が抜けていく。まるで魂も一緒に―――

 漠然としていたLROに自分が浸透してる事実がここにある。幾ら言われてもそれまで半信半疑だったこと。それはここでの死が本当の死に繋がるという事だ。

 スオウやサクヤに聞いた私の状態は、だけどポンポン信じれる事じゃなかった。確かめる方法もないし……あの時は「気を付けるね」と言った。

 それが精一杯の理解の証。漠然と思ったその程度……だけどそれは事実なんだろう。だってサクヤやスオウが嘘つく分けないしこんなに怖いわけ無い……戻れなく成る恐怖を体は知ってるみたいなんだ。

 だけどその時、大きな声がその場に響いた。


「何をやってるんですか貴方は!? 命令はアギト様の仲間の方々の拘束の筈で処刑ではないですよ!」


 それは黒甲冑を身に纏った一際大きな姿。エルフにしては横に大きい感じだ。でも太ってる訳じゃなく、筋骨隆々なんだろう。醸し出す雰囲気がそんな感じ。

 その人は小隊長みたいで、横には数人の同じ格好の兵がいる。


「ちっ……こいつらはアイリ様誘拐の容疑者だ。そんな甘い事を言っていいのか?」


 なんて事をこいつは言うんだろう。さっき言っていたのと違うじゃん。どうやらあの一面は隠さなきゃいけない事らしい。それはまだ、アイリは飾りなんかじゃ無いって事じゃないかな。

 そうだよ……まだ間に合う。私はここに現れてくれたこの軍の人達に賭けるしかない。敵であるはずのこの人に。


「ですが……アイリ様は……」

「うるさい! 我らはガイエン様直属の親衛隊だぞ。どちらが上か分かった上で言ってるのか貴様は?」


 その言葉で現れた軍の人達は黙ってしまう。やっぱりこいつらはガイエンの刺客。親衛隊って……こんなのがアイリの側に居るなんて・・なんておぞましいんだろう。

 それはいつも背中を狙われてたのと変わらない状況だよ。そんなのおかしい。軍の人達が本当に国やアイリを思ってるならここで引き下がっちゃいけないよ!

 私はそれを伝えるために再び力を込める。どこに力を込めたか……それは心だよ。体のどこに込めても意味がないから。ただ唯一の例外は口。心を伝えるために必要な道具。私は途切れ途切れでも心を繋ぐ。これしかできないから。


「ちが……う。私……達は……アイリを……浚ってなんか……ない。私達は……アイリを……助けたいの」

「まだ喋れたか。本当にしぶといな。流石は負け犬の仲間だ。しぶとさだけは一級品だな。戯れ言をぬかすな!」


 私の声は届いてる? 目の前のこいつがうるさくて迷惑極まり無い。でも、まだまだ口を止めちゃだめ。伝えなくちゃ、伝わるまで喋らなくちゃ、諦めたら私は終わりだ。


「貴方達は……本当にアギト……がそんな事……すると思うの? 私……なんかより……知ってるんでしょう。それに……こいつらが……アイリの事……どう思ってるか……知ってる? こいつらはね――」

「このクソアマ。それ以上薄汚い口を開くな。貴様等もこんな犯罪者の言葉に惑わされるな! それでも誇り高いエルフの民か!」


 遂に目の前の奴は片手で腰に差してあった武器を抜いた。それは私の言葉が効いた証拠だよ。鉄の輝きが私の胸に狙いを定めている。

 軍の人達の表情はわからない。けど、少しは響いた筈だと信じたい。これだけ危ない奴らなんだよ。危険で怪しい噂の一つや二つは軍の人達の耳にも届いてる筈だよ。

 そんな不信が募れば……私の言葉に信憑性が出てくる。それにこいつは武器も持たない私に武器を向けてる。それでもう十分騎士道精神から外れてるよ。

 私は、視線を動かして軍の人達を見る。その中で一番大きな人の兜の中の瞳とあわせるようにする。見えないけど……きっとそこにある目は合ってる筈だ。


「――――飾りと……言った! アイリを・・貴方達のお姫様を侮辱してるのはこいつらぁ――――」

「きっさまぁぁぁぁぁぁああぁぁぁ!」


 私の精一杯の言葉が奴の叫びにかき消された。迫る鉄が私の胸を貫くのは寸前だ。だけどその時、重い音が地面を蹴った。

 横から飛び出てきた剣が私の胸に刺さる筈だった鉄を弾く。辺りに響く金属同士の甲高い音。誰もがその異様な光景に足を止めだした。

 そして太い腕が奴に入り、私は解放された。


「けはっ――こほっ……はぁはぁ」

「本当か? 本当に奴らは……アイリ様を……侮辱したか!?」


 私の声は届いていたようだ。黒甲冑に身を包んだ男の背がそこにはある。その背は怒りが見て取れる様に震えていた。


「本当です。それにガイエンはアイリを使ってこの国を乗っ取る気です!」

「まさか……ガイエン様。あの噂は本当だったということか……」


 男の嘆きの様な声が伝わってくる。噂……やっぱり黒い物が流れてたんだ。隠しようもなさそうだったもん。アイツの腹黒さ。


「アギト様も……それを知ってるのか?」

「多分……そうだと思うけど……だから追いかけてる。貴方達をケチらしてでも、アイリの側に行こうとしてる」


 それを聞いた男は笑った? 様に見えた。そしてようやく気づいたけど、周りでは親衛隊と男の部下の戦いが始まろうとしてる。


「隊長~やばくないっすかこれ? その子の言うことが嘘だったら俺ら全員きっと追放っすよ~」


 軍の一人から情けない声が聞こえる。吹き出しそうだ。一気にこの黒甲冑に暖かさを感じたよ。その時男の拳を受けて後退していた親衛隊の一人が叫ぶ。


「下っ端共が。貴様等何やってるかわかってるんだろうな! 容疑者の肩入れしてるんだぞ。これは立派な反逆行為、我らには貴様達を粛正する権利がある」


 一斉に親衛隊は武器を抜く。その光景に思わずたじろぐ軍の面々。だけどその時、隊長が兜を脱ぎ去り言い放った。


「怯むな! 臆すな! 目の前の敵を見据えろ! 奴らこそ我らが姫を狙う蛇! この国を手にせんとする逆族だ!

 大儀は我らにある! アイリ様の涙を拭うときは今しかない……賭けてみようじゃないか! 我が国の最初の騎士に!」


 力強い声に促されて英気があがる。私はこの時知った。言葉という計り知れない力とその威力を。

 第四十話です。 

 ごめんです。また今日もこんな遅くになりました。書き始めた時はすらすら行ってたのに途中からウヌヌ……って感じで結局ここまでかかってしまいました。本当ならアギト目線がもう一度入る予定だったんですけど……ごめんなさいそれも持ち越しです。

 本当に、なんとか早く書ければいいんですけど……良い方法があったら教えてください。これからも遅くなる事が多々あるかも知れないですけど完結までは頑張ります。では次の話で。

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